2021/03/17 「スキル・マトリックス」作成の現状と留意点

一橋大学大学院 経営管理研究科 准教授
金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー
円谷 昭一

東京証券取引所が市場区分の見直しを進めている。具体的には、現行の市場第1部・市場第2部・マザーズ市場・JASDAQ市場を、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場へと再編し、2022年4月4日に新市場へと移行する。このうちプライム市場上場会社に対しては「より高いガバナンス水準」を備えることが求められている。そして、プライム市場上場会社に適用することを念頭に、コーポレートガバナンス・コードの改訂も現在進められている。現時点ではコーポレートガバナンス・コードの改訂案はまだ公表されていないが、社外取締役に関する改訂項目を切り出す形で、昨年12月18日にはコード本体の改訂案の公表に先行して金融庁から『「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5)-コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保』(以下、意見書)が公表されている。意見書の中には以下のような記載があることから、「スキル・マトリックス」への注目が高まっている。

『上場企業は、取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、その上で、いわゆる「スキル・マトリックス」をはじめ経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを公表するべきである』

円谷研究室の調査では、現在135社の日本企業がスキル・マトリックスを任意で作成・開示していることが確認されている。開示媒体は招集通知または統合報告書のいずれかとなっている。以下、これら135社のスキル・マトリックスの特徴を明らかにする。

円谷研究室は、135社のうちデータの集計に必要な情報を完全には入手することができなかった7社を除外し、128社のスキル・マトリックスを調査した。まず、社内取締役・社外取締役ともにスキルを開示している企業が・・・

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2021/03/17 「スキル・マトリックス」作成の現状と留意点(会員限定)

一橋大学大学院 経営管理研究科 准教授
金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー
円谷 昭一

東京証券取引所が市場区分の見直しを進めている。具体的には、現行の市場第1部・市場第2部・マザーズ市場・JASDAQ市場を、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場へと再編し、2022年4月4日に新市場へと移行する。このうちプライム市場上場会社に対しては「より高いガバナンス水準」を備えることが求められている。そして、プライム市場上場会社に適用することを念頭に、コーポレートガバナンス・コードの改訂も現在進められている。現時点ではコーポレートガバナンス・コードの改訂案はまだ公表されていないが、社外取締役に関する改訂項目を切り出す形で、昨年12月18日にはコード本体の改訂案の公表に先行して金融庁から『「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5)-コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保』(以下、意見書)が公表されている。意見書の中には以下のような記載があることから、「スキル・マトリックス」への注目が高まっている。

『上場企業は、取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、その上で、いわゆる「スキル・マトリックス」をはじめ経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを公表するべきである』

円谷研究室の調査では、現在135社の日本企業がスキル・マトリックスを任意で作成・開示していることが確認されている。開示媒体は招集通知または統合報告書のいずれかとなっている。以下、これら135社のスキル・マトリックスの特徴を明らかにする。

円谷研究室は、135社のうちデータの集計に必要な情報を完全には入手することができなかった7社を除外し、128社のスキル・マトリックスを調査した。まず、社内取締役・社外取締役ともにスキルを開示している企業が95社(このうち3社は、社内取締役のうち非執行の社内取締役のみ開示している)、社内取締役のみ開示している企業が2社、社外取締役のみ開示している企業が31社あった。128社のスキル項目数は、もっとも少ない企業で3項目、もっとも多い企業で16項目、平均では6.8項目(中央値は7項目)となっている。設定されているスキル項目数の構成比を示したのが図表1である。

図表1 日本企業のスキル項目数の構成比(n=128)
55154a

出所:円谷研究室

次に、保有するスキルが個別に記載されていた計1,066名の取締役の保有スキル数を属性別にまとめたのが図表2である。

図表2 取締役の保有スキル数
55154c

出所:円谷研究室

図表2のとおり、全取締役1,066名の平均保有スキル数は3.0となっている。

取締役の属性別では、社内取締役の保有スキル数が3.4であるのに対し、社外取締役は2.8とやや少ない。同様の調査を米国企業についても実施したところ、米国企業の社内取締役の保有スキル数は3.0、社外取締役は3.3、全体では3.1であった。上記のとおり日本企業では社外取締役よりも社内取締役の保有スキル数が多いという米国企業とは逆の結果となったが、これは、日本企業は「製造」「販売」「営業」「品質管理」「ロジスティックス」などといった業務に関するスキル項目を設定していることが多く、学識経験者や弁護士、会計士など企業実務の経験がない社外取締役の保有スキル数が相対的に少ない傾向があるためである。

男女別では男性取締役の3.1に対して、女性取締役は2.6であった。女性取締役は社外取締役である場合が多く、企業実務の経験がない人物も含まれているために保有スキル数が相対的に少なくなっている。

「スキル・マトリックス」という言葉が改訂コーポレートガバナンス・コードの中に盛り込まれるかどうかは分からないが、少なくとも取締役の経験やスキルについての開示を促す方向で改訂がなされることはほぼ間違いない。これを受け、日本企業でも今後、スキル・マトリックスの作成・開示を検討する企業が一層増えると思われる。すでに任意開示している企業の特徴からは、以下のような作成上の留意点が浮き彫りとなる。

【留意点①】そのスキルを求める理由の記載がない
スキル・マトリックスを任意開示している日本企業の多くは招集通知を開示媒体としているが、一般的には、「取締役候補者の専門性とスキル」、「社外取締役の多様性」といったようなタイトルで、取締役候補者の個別紹介のすぐ後に参考情報として記載されている。しかしながら、そもそも何故そのスキルが自社にとって必要なのか、何故そのスキルを自社で発揮してもらいたいのか、理由が書かれていない。たとえば、「M&Aを積極的に行っているのでM&A経験が豊富な取締役を重視している」、「海外展開を積極化させているので社外取締役には海外での経営経験を活かしてもらいたい」といったように、取締役に何を期待するのかを明らかにすることがまずは必要である。その上で、その求めるスキルをスキル・マトリックスの項目に設定し、各取締役が当該スキルを持っているかどうかを記載する必要があるが、残念ながら現状では自社で発揮してもらいたい取締役の経験・スキルはほとんど記載されていない。

米国企業において複数社で取締役に就任している人物を対象に、各社の開示書類に記載されているその人物のスキルの重複度を測定した調査があるが、それによると、重複度は62.4%であった。つまり、同一人物であっても企業によってその人物に発揮して欲しいスキルは異なる場合があるため、各社におけるスキルの記載が完全に一致するわけではない。このことは、スキル・マトリックスが単にその人物の履歴書を開示しているわけではないことを意味している。上記金融庁の意見書でも、取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、その上で、スキル・マトリックス等を用いた各取締役が有するスキル等の組み合わせの説明が求められている。

【留意点②】スキルの広がりだけを重視しない
スキル・ダイバシティについての誤解が一部であると思われる。取締役会が様々なスキルを‟広く薄く”持つ必要はない。換言するならば、スキル・マトリックスを作成する際にはいくつもの多様なスキル項目を設定し、各取締役の保有スキルを散らす形で全スキル項目にまんべんなく「〇(有り)」を付ける必要はない。米国企業を対象にした実証研究でも、取締役のスキルが分散している企業より、その企業にとっての「コモン・スキル」を持つ取締役が十分に確保されている方が企業価値(トービンQ)は高まると報告されている。つまり、各取締役が共通して保有しているコモン・スキルがあった方が取締役間のコミュニケーションがより円滑になされると解釈できる。逆に、自分以外の取締役が持っていないユニーク・スキルを持った取締役ばかりであると議論のまとまりを欠いてしまう可能性がある。

トービンQ : ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者であるジェームズ・トービンが提唱した投資理論において用いられている指標。「企業価値(株価総額+債務総額)/資本の再取得価格(保有する資本を全て買い換えるために必要な費用の総額)」により計算される。トービンQが1より小さい場合、企業価値は資本価値よりも小さい(資本が過大)ことを意味するため、企業は投資を控えるべきであることを示唆し、1より大きければ資本を使って財を再生産する方が大きな価値を生み出すことを示唆する。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

これは日本企業の実際の例であるが、ある年からM&Aコンサルタントを社外取締役に迎え、その年からスキル・マトリックスに「M&A」という項目を新設した。なぜ「M&A」という項目が必要になったのかの説明はなく、うがった見方をするならば、スキル・マトリックスに付く「〇(有り)」を増やすために意図的にスキル項目を決めているのではないかと思われても仕方がないであろう。スキル・ダイバシティと聞くと、どうしても‟広く薄く”というイメージを抱きがちだが、それは「コモン・スキルに過度に偏重しない」ということを意味するに過ぎない。過度に画一的でもなく、過度に多様でもなく、自社にとって望ましいと思われるバランスでスキル・ダイバシティを達成する必要がある(図表3)。

図表3 バランスのよいスキル・ダイバシティの概念図
55154b

出所:筆者作成

詳しくは拙稿「取締役ダイバシティの主要国比較~スキル・マトリックスを中心に~」(資本市場 2012年3月号)を参照してもらいたいが(4月以降、筆者のHPにPDFを掲載する予定である)、日本企業は「経営経験」「国際性」のスキル保有率では欧米企業とそれほど変わらない一方、「財務・会計」スキルの保有率が劣っている。よって、経営経験や国際性といったコモン・スキルを重視していく姿勢は崩すことなく、今後は財務・会計スキルを自社で発揮してもらえる人材を取締役として迎えることによる多様性の確保が求められている。そのためには、すでに述べたように自社で発揮してもらいたいスキル、自社にとって重要なコモン・スキルを特定することから検討を始めるべきであろう。

2021/03/16 「ハラスメント」の分岐点

昨年(2020年)6月(中小企業は2022年4月)からいわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行され、事業主はパワハラ防止のための雇用管理上の措置(相談体制の整備など)を講じなければならないとされるなど、「ハラスメント」に対する包囲網は狭まる一方となっている。なかには、ハラスメントの“加害者”となることを恐れるあまり社内の人間関係が希薄化する、上司が部下を指導しにくくなるといった弊害を指摘する声も聞かれる。もちろん、だからといってハラスメントが正当化されるわけではないが、ハラスメントという問題の難しさは、それが・・・

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2021/03/16 「ハラスメント」の分岐点(会員限定)

昨年(2020年)6月(中小企業は2022年4月)からいわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行され、事業主はパワハラ防止のための雇用管理上の措置(相談体制の整備など)を講じなければならないとされるなど、「ハラスメント」に対する包囲網は狭まる一方となっている。なかには、ハラスメントの“加害者”となることを恐れるあまり社内の人間関係が希薄化する、上司が部下を指導しにくくなるといった弊害を指摘する声も聞かれる。もちろん、だからといってハラスメントが正当化されるわけではないが、ハラスメントという問題の難しさは、それが「受け手」の捉え方に依存する部分が大きいということにある。

ハラスメントは一般的に「嫌がらせ」と訳されるが、日本語で「嫌がらせ」という場合、嫌がらせに該当するかどうかについて客観的な評価が入るのに対し、「ハラスメント」は基本的に被害者側の主観的な概念といえる。すなわち、ハラスメントに該当するかどうかは、「その言動の受け手がどう感じたか」に大きく左右されることになる。

過去の裁判を見ても、例えばセクハラについては、「労働者の内心の不快感」を判断要素にした判決(最高裁平成27年2月26日判決、同平成30年11月6日判決など)が複数あり、判例としてほぼ確立されている。パワハラ等、セクハラ以外のハラスメントでは、現に生じた損害の重大さ(例:身体的な暴力を振るわれた、メンタルヘルスを害された、退職を余儀なくされたなど)を判断要素にした裁判例が多くみられるが(ハラスメントを認めたものとして大阪高裁平成31年1月31日判決など、認めなかったものとして東京地裁令和元年10月29日判決など)、訴訟にまで発展してしまった背景には、やはり「受け手」の不快感があったことに違いはない。

逆に言うと、一見ハラスメントに該当しそうな言動であっても、その受け手が不快に感じていなければハラスメントには当たらないことになる。例えば容姿等を揶揄するような言動があったとしても、それを言われた本人が有形・無形の損害を何ら被っていない以上、第三者が民事訴訟を起こすことはできない。また、名誉毀損罪(刑法230条)も侮辱罪(同231条)も親告罪(同232条)であるため、刑事訴訟にもならない。

親告罪 : 被害者による訴えがなければ刑事訴追ができない犯罪類型

もっとも、受け手が不快感を表明していないことをもって「不快に感じていない」と断定するのは危険だ。例えばその言動を発した側が上司など優越的な立場にある者であれば、受け手が「声を出しにくい」という状況に置かれていることは想像に難くないからである。また、周囲が見るに堪えない・聞くに堪えない言動により職場環境が乱れているようであれば、受け手自身がどう感じていようと、経営陣にはそれを是正する責務があると言えよう。

2021/03/15 【特集】改訂コーポレートガバナンス・コードにおける取締役会の機能発揮への取組み(3・会員限定)

2.実効的な取締役会構成の実現に向けたスキル・バランスの検証
(1)スキル・マトリックスの活用

スキル・マトリックスとは、各取締役の有するスキル、経験等の組合せを一覧表にまとめたものである(図表6参照)。スキル・マトリックスを作成することにより、各企業の事業戦略に照らして、取締役会にはどのようなスキルや経験等の資質を持った人材が必要なのか(足りないのか)や、今後の体制整備について客観的に分析することに役立つ。

図表6 スキル・マトリックス
出所:筆者作成
氏名 役職 独立性 スキルA スキルB 経験A 経験B ・・・
取締役A CEO、社長            
取締役B 会長            
取締役C 副社長            
取締役D CFO            
取締役E 社外取締役            
取締役F 社外取締役            
・・・ ・・・            

取締役会における社外取締役の比率を高める際には、どのような人材を入れるかにより取締役会の全体像が大きく変わるため、事業戦略に適合したスキルや経験等のバランスを検討することが重要となる。社外取締役のみならず社内取締役も含め、取締役会全体のスキル、経験、バックグラウンド等のバランスを考慮することが求められる。

(2)スキル・マトリックスの有用性
上記のようなスキル・マトリックス作成の有用性を踏まえ、意見書では、プライム市場上場会社に対してスキル・マトリックスの作成と公表を求めている。

スキル・マトリックスは、企業のみならず、投資家・株主にとっても役に立つ。

企業の視点からは、スキル・マトリックスを作成することにより、社内的には、取締役会の体制や人選(特に社外取締役)を検討するプロセスにおいて、自社の取締役会に必要なスキル・バランスを定量的、実質的に分析することに役立つ。また、対外的にも、取引先関係者等の機関投資家等が定める独立性基準に形式的に抵触する人材を社外取締役に選任する場合であっても、自社としてその人材を社外取締役に選任する必要性や、その人材が貢献できる分野などを説明するうえで有用なツールとなろう。このように、スキル・マトリックスは、取締役会の実効性の評価、サクセションプランなど、コーポレート・ガバナンス上の重要な課題の検討にも役立つツールである。

投資家の視点からは、スキル・マトリックスが公表されることにより、会社が認識する取締役会に必要なスキル・経験等を判断できるとともに、経営に対する姿勢および必要な経営体制について理解することにも役立つ。また、取締役会のスキル・バランスを評価できることから、株主総会における取締役選任議案に対する議決権行使の際に、各取締役(候補者)の資質、スキル、会社への貢献を判断するうえで参考とすることができる。

3.独立社外取締役のさらなる活用
(1)背景

本来、社外取締役には、専門性や知見に基づき、取締役会の議論をモニタリングする機能が主な役割として期待されている。そのため、社外取締役の選任にあたってはスキル・バランスを考慮することが重要であり、特に事業に関連する分野の専門的知見、他の企業経営の経験などが有用であると考えられている。他方では、社外取締役を本質的な経営への貢献に活用することなく、単にコーポレートガバナンス・コードが求める形式的要件を満たすことに重きをおいて選任するケースがあったことも否定できない。

しかし、取締役会における社外取締役の比率が高まるとともに、コーポレートガバナンス・コードの改訂によりプライム市場においては原則として3分の1、場合によっては過半数が社外取締役となる可能性があるなか、会社としては、報酬に見合った実効的な働きを期待して、社外取締役をより有効に活用することが合理的であると考えられる。社外取締役の比率が低い場合には、形式的要件を満たすためだけの人物でも問題は小さいが、取締役会における社外取締役の比率の高まりに伴い、その機能に着目し、会社にとって有用な活用方法を検討することが求められよう。

(2)指名委員会、報酬委員会
① 指名委員会、報酬委員会の現状

東証1部上場企業における指名委員会、報酬委員会の設置割合はそれぞれ60%程度となっている(図表7、図表8)。指名委員会、報酬委員会には、指名委員会等設置会社による法定のものと、監査役会設置会社および監査等委員会設置会社による任意のものがある。指名委員会等設置会社数は過去10年以上にわたってほとんど変わっていないため、法定の指名委員会・報酬委員会の数の変動も少ない。これに対して、任意で設置される指名委員会・報酬委員会の数は、2015年のコーポレートガバナンス・コード策定以降は大きく増加している。

図表7
55055a
出所:金融庁「第20回フォローアップ会議でのご意見(概要)」フォローアップ会議(第21回)資料1(2020年11月18日)

図表8
55055b
出所:金融庁「第20回フォローアップ会議でのご意見(概要)」フォローアップ会議(第21回)資料1(2020年11月18日)

② 指名委員会、報酬委員会に関するコード改訂の方向性
指名委員会および報酬委員会は、コーポレート・ガバナンスにおいて重要な指名・報酬問題への対応に必要不可欠なモニタリング機能として、海外では設置が義務付けられている場合が少なくない。各国のコーポレートガバナンス・コード等においては、指名委員会や報酬委員会の構成や機能についても定められていることが多く、例えば指名委員や報酬委員の過半数は社外取締役であることや、委員長は社外取締役であることを求めるなど、経営陣からの独立性を確保することを念頭に置いている。

これに対して、現行の我が国のコーポレートガバナンス・コードは、「上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には…(略)…独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討にあたり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである」(補充原則4-10①)と定めている。指名委員会や報酬委員会は、指名・報酬の決定プロセスにおいて独立社外取締役の関与や助言を得るための手段、としているようにも読み取れる。そのため、監査役会設置会社および監査等委員会設置会社の(法定ではない)任意の指名委員会や報酬委員会については、コーポレートガバナンス・コードにおいて必ずしも強い設置要請が働いていない面がある。しかしながら、変化の激しい環境下で中長期的な企業価値の向上を目指す観点からは、取締役会のモニタリング機能の強化が必須であることから、すべての上場企業に指名委員会および報酬委員会が設置されることが期待される。

また、現行補充原則4-10①の「独立社外取締役を主要な構成員とする」という表現は、独立性の要請についてはあいまいであると考えられる。指名委員会や報酬委員会が取締役会のモニタリング機能を果たすためには、経営陣から独立して運営されることが必要不可欠である。そのため、指名委員会および報酬委員会の構成については、独立社外取締役を過半数とすることや、委員長を独立社外取締役が務めるなど、独立性と客観性を担保できる仕組みにすることが求められる。取締役会事務局等は、コーポレートガバナンス・コード策定者の意図を汲み、より実効的な取締役会となるよう実務上の取組みを進める必要がある。

(3)筆頭独立社外取締役
筆頭独立社外取締役は、海外企業においては“Lead Director”と呼ばれている。複数の社外取締役が存在する場合に、社外取締役をチームとして取りまとめ、経営陣等の執行サイド、監査役、社内部門等との連携を円滑にするために選任される。社外取締役のリーダーとして位置づけられる。

海外企業においては、取締役会議長が非業務執行取締役である場合が多く、その多くは社外出身者である。このような場合には、取締役会議長に就任している社外出身の非業務執行取締役が、取締役を束ねるリーダー的存在となっている。逆に、CEOが取締役会議長を兼務している場合には、取締役会の独立性を確保する観点から、筆頭独立社外取締役の果たす役割の重要性は一層高まる。我が国においては、多くの企業において、取締役会議長はCEOが兼務している。最近では、前CEO等の社内出身の非業務執行取締役が就任するケースや、社外取締役が就任するケースも散見されるが、このような事例はきわめて例外的である。他方で、社外取締役の人数の増加に伴い、社外取締役と企業側の連携は企業からの情報提供や意見交換を通じて強化されているものの、社外取締役同士の横の連携には課題が少なくない。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、対面での意見交換の機会が減少した現在、オンラインでの取締役会の場だけでは十分な相互認識が困難であるため、社外取締役同士が連携を高めるための活動に意識的に取り組むことが求められるようになっている。

社外取締役の連携を高める手段として、社内取締役、経営陣を除いた、社外取締役のみで構成されるエグゼクティブ・セッションと呼ばれる会議、社外取締役と監査役で開催される懇談会などがあり、取締役会のモニタリング機能を向上させるうえで、その重要性が増している。その場合に、チームとしての社外取締役のリーダーとして、筆頭独立社外取締役が機能する。また、機関投資家や株主との対話の重要性が高まるなかで、コーポレート・ガバナンスやサステナビリティなどの課題について、機関投資家等から社外取締役との対話を要望されることも想定される。筆頭独立社外取締役が選任されている場合には、まず筆頭独立社外取締役に相談し、内容に応じて最適な社外取締役が面談を行うなどの対応も可能となろう。このように、社外取締役が複数名選任されている場合には、筆頭独立社外取締役の有用性は高いと考えられる。

(4)取締役会議長と取締役会の運営
取締役会の運営においては、アジェンダセッティングや議事進行の観点から、取締役会議長の果たす役割が重要である。欧米では、取締役会議長の役割が明確にされていることが多い。

コーポレート・ガバナンス上は、取締役会のモニタリング機能とマネジメントの意思決定機能の要である取締役会議長は、会社の経営を率いるCEOとは異なる役割を有しており、また、両者の役割は明確に区別される。英国コーポレートガバナンス・コードは、CEOと取締役会議長(Chair of the Board)の職務を分離し、同一人物が両方の役職を兼務するべきではないと定める。これに対して、米国においては、多くの上場会社において、CEOが取締役議長を兼務し、強いリーダーシップの下で会社の経営を行っている。

我が国では、伝統的に会長(英訳ではChair」という肩書を当てる場合が多い)という役職があるが、これは通常、CEOが退任した後に就く役職であり、取締役会議長とは別の概念である。コーポレート・ガバナンス改革が進展し、取締役会における社外取締役の存在感が高まり、取締役会の実効的な運営が重要となるなかで、取締役会議長とCEOとは、別個の職務としてその役割の違いを明確に認識する段階に入っている。

近年は我が国においても、非業務執行取締役や社外取締役が取締役会議長に就任する会社もみられるが、依然として多くの会社では、CEOが取締役会の議事進行を担当している。取締役会議長の役割は、取締役会がモニタリングとマネジメントのどちらの機能に重点を置くかにより異なると考えられる。とくに、取締役会の議題の選定(アジェンダ・セッティング)については、取締役会議長をCEOが担う場合と、非業務執行取締役や社外取締役が担う場合とで異なってくると考えられる。

現行のコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会議長について特段の言及はない。今後、社外取締役が増加し、取締役会のモニタリング機能が強化されるなかでは、取締役会の運営のあり方についても再考が必要である。取締役会議長とCEOそれぞれの職務と責任についても検討することが求められよう。

第4章 おわりに

企業活動を巡る社会経済構造が急激に変化するなか、企業は柔軟性を保ちつつ、安定した経営基盤を有することが重要となっている。コーポレート・ガバナンスの改訂議論も、しなやかで強靭な組織と企業行動を可能とすることを目指している。

ポストコロナ時代を見越して、従業員、顧客、地域社会等のステークホルダーとのかかわりあい方も変化するなかで、企業にはステークホルダーとの協働および共存を意識した経営が期待される。
また、環境や社会等のサステナビリティに関する課題解決に貢献するためには、企業経営自体がサステナブルであることが前提となる。中長期かつ持続的な企業価値の向上の実現に向け、その観点からのさらなる取組みも求められている。

<参考文献>
1. 金融庁・金融審議会市場ワーキング・グループ「市場構造専門グループ報告書」(2019年12月27日)
2. 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議 意見書(5)『コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保』」(2020年12月18日)
3. 金融庁「第20回フォローアップ会議でのご意見(概要)」スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第21回)(2020年11月18日)
4. 東京証券取引所「新市場区分の概要等について」(2020年2月21日)
5. 東京証券取引所「市場区分の見直しにおけるコーポレート・ガバナンスに関する議論の状況について」金融庁・スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第21回)(2020年11月18日)
6. 東京証券取引所「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項)」(2020年12月25日)

2021/03/15 【特集】改訂コーポレートガバナンス・コードにおける取締役会の機能発揮への取組み(2・会員限定)

2.新市場区分とコーポレートガバナンス・コード
(1)プライム市場

新市場区分におけるプライム市場のコンセプトは、「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額・流動性を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業」が上場し、そのような企業に投資する機関投資家や一般投資家のための市場とされている(金融庁金融審議会市場ワーキング・グループ「市場構造専門グループ報告書」(2019年12月27日)、東京証券取引所「新市場区分の概要等について」(2020年2月21日)、同「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項)」(2020年12月25日)参照。以下同)。すなわち、プライム市場は日本を代表するグローバルな市場であり、プライム市場に上場する企業は、日本を代表するグローバル企業であることを意味する。また、プライム市場に投資する投資家も、そのような市場であることを認識して投資を行うことが想定されている。

したがって、プライム市場上場企業に対しては、コーポレート・ガバナンスについても、他の市場よりもより高い水準が求められ、それに合わせたコーポレートガバナンス・コードの改訂、コンプライ・オア・エクスプレインの実効性の向上が求められる。現在進められているコーポレートガバナンス・コードの改訂作業でも、取締役会の実効性向上、株主との対話、サステナビリティへの取組みなどについては、国内外の機関投資家比率が高く、国際的競争力を有する企業が多いというプライム市場を前提とした同コードの高度化について活発に議論が行われている。

(2)スタンダード市場
スタンダード市場のコンセプトは、「公開された市場における投資対象として一定の時価総額・流動性を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業」が上場し、そのような企業に投資する機関投資家や一般投資家のための市場とされている。したがって、コーポレート・ガバナンスについても、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上という観点からの取組みが求められる。

現状、コーポレートガバナンス・コードは、現在の市場区分における本則市場(市場第一部・二部)上場企業に全面適用されるという制度設計に基づいて、市場第二部上場企業には同コードが全面適用されている。一方、ジャスダック(スタンダード)市場上場企業には、負担軽減という観点と、ジャスダック(グロース)市場と整合性を取りつつ本則市場にのみ全面適用を義務付けるという制度設計に基づいて、マザーズ市場上場企業とともに、5つの基本原則のみが適用されている(図表2参照)。

しかし、新市場区分におけるスタンダード市場は、現行の市場第二部とジャスダック(スタンダード)市場とが実質的に統合されるものであることから、これに合わせて、コーポレートガバナンス・コードも現行の市場第二部と同様に全面適用される予定である(図表3)。そのため、ジャスダック市場からスタンダード市場に移行する企業においては、全面適用に向けた対応が急務となっている。とくに、社外取締役の選任を含む取締役会の体制整備、全面適用を前提としたコーポレート・ガバナンス報告書の開示への対応については時間がかかり、負担も大きいと考えられるだけに、より早期に着手することが望まれる。

(3)グロース市場
新市場区分におけるグロース市場のコンセプトは、「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業」が上場し、そのような企業に投資する機関投資家や一般投資家のための市場とされている。

グロース市場には、現行のマザーズ市場およびジャスダック(グロース)市場上場企業の移行が想定されている。グロース市場上場企業には高い成長性が期待される一方で、同市場にはコーポレート・ガバナンス体制が構築途上にある企業も上場すると考えられる。コーポレートガバナンス・コードの内容は高度であり、国内外の機関投資家の存在、国際的競争力という観点が重視されていることを考えると、その全面適用はこうした企業にとっては大きな負担となる。英国のロンドン市場においても、新興企業向け市場であるAIM市場上場企業については、コーポレートガバナンス・コードの適用範囲が異なる。このような背景から、グロース市場上場企業に対しては、現在のマザーズ市場、ジャスダック(スタンダード市場)と同様に、基本原則だけが適用されることとなる(図表2および図表3参照)。

図表 2 現行の市場区分におけるコーポレートガバナンス・コードの適用
出所:筆者作成
市場区分 基本原則 原則 補充原則
東証一部市場
東証二部市場
マザーズ市場 × ×
ジャスダック市場 × ×
図表 3:新市場区分におけるコーポレートガバナンス・コードの適用
出所:筆者作成
新市場区分 基本原則 原則 補充原則 プライム市場向け特則
プライム市場
スタンダード市場 ×
マザーズ市場 × × ×
グロース市場 × × ×
備考 改訂の可能性は低い 改訂の可能性 改訂の可能性 現行コードをより高度化したもの。
新設が予想される

第3章 新時代における取締役会の機能発揮

1.国際的競争力を高めるための取締役会の体制強化
(1)フォローアップ会議「意見書」の公表

コーポレートガバナンス・コードの見直し議論は、金融庁により運営されている「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)において進められている。これまでフォローアップ会議は、コーポレート・ガバナンスの課題に対するさらなる取組み、課題を踏まえたコーポレートガバナンス・コード改訂の方向性を「意見書」という形で取りまとめ、公表してきた。2020年12月には、「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」と題する意見書(5)を公表した(以下、意見書)。

この意見書では、今春に予定されるコーポレートガバナンス・コード改訂の論点について、フォローアップ会議の考え方と改訂の方向性が提言されている。

(2)ポストコロナ時代に向けた問題提起
意見書では、新型コロナウイルス感染症の拡大により、企業を取り巻く環境が急激に変化し、不確実性が高まっているなかで、ポストコロナ時代を見据えた成長を実現するための取組みが模索されている。具体的には、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等のステークホルダーとの間で企業の変革のビジョンを共有するとともに、迅速・果断な意思決定を行うことの重要性が指摘されている。経済社会構造や産業構造が不連続に変化するなかで、新たな環境下においても持続的な成長を達成するためには、企業にはさまざまな経験、スキル、バックグラウンド等を有するボードメンバーの多様な視点や価値観に対する受容性が必要とされよう。このような背景から、取締役会における独立社外取締役の活用、各取締役の経験やスキルのダイバーシティ(多様性)の確保とともに、企業全体でのダイバーシティの向上、そのための人材育成と社内環境の整備が重要となる。

意見書においては、このような前提を踏まえて、取締役会の機能発揮と企業の中核人材のダイバーシティの確保について、コーポレートガバナンス・コード改訂の方向性が示されている。

(3)社外取締役の選任
① 社外取締役の選任状況

投資活動がグローバル化し、海外機関投資家の比率が高まるとともに、大企業を中心に海外での事業展開が急速に進展し、海外事業からの収益への依存度も高まっている。このため、日本に本拠地を置く企業においても、コーポレート・ガバナンス体制のグローバル化が課題となっている。そこで取締役会の機能発揮については、特にプライム市場の国際的競争力確保の観点からコーポレートガバナンス・コードの改訂が議論されている。

世界的には、取締役会における社外取締役(国により、非業務執行取締役と呼ばれる場合もある)の比率として「過半数以上」を求める国も少なくない。機関投資家による投資先企業に対する議決権行使においては、各国のコーポレートガバナンス・コードに基づき、独立社外取締役が過半数であることを原則とし、これを満たさない場合には反対票を投じるという判断を下す場合もある。しかし、幸いなことに、我が国の事情に通じた機関投資家は、監査役制度から発展した取締役会など我が国特有のコーポレート・ガバナンス体制を考慮し、他国の市場とは異なる議決権行使基準を策定している場合も多い。海外機関投資家においても、独立社外取締役が3分の1以上という議決権行使基準を設けているところもある。これは日本企業向けに特別に緩和した基準であると考えられるが、それでも日本企業にとっては現行コーポレートガバナンス・コードが定める基準(独立社外取締役2人以上)を超える厳格な基準であるといえよう。

我が国の上場企業においても、コーポレートガバナンス・コードが求める水準を超える社外取締役を選任しているところも少なくない。取締役会における社外取締役の比率が「3分の1超」の東証一部上場企業は43.7%、「3分の1以上」は65.5%に上る。これに対して、社外取締役が半数(50%)以上は13.2%、過半数(50%超)は7.9%にとどまる(図表4参照)。すでに東証一部上場企業の多くが、社外取締役「3分の1」を意識した取締役会体制の整備を終えていると言える。

図表4 コーポレートガバナンス・コードを意識した社外取締役の選任状況
出所:日本投資環境研究所
対象:東証一部上場企業(3月期決算)
社外取締役の比率 該当する会社(比率)
2名以上 97.8%
3分の1以上 65.5%
3分の1超 43.7%
半数(50%)以上 13.2%
過半数(50%超) 7.9%

② 意見書における社外取締役の選任に関する提言
意見書では、機関投資家の議決権行使動向、企業の実務対応の状況を踏まえて、さらなる社外取締役の活用を求める提言を行っている。

上述のとおり、プライム市場は国際的競争力を有する我が国を代表する企業が上場する市場という位置づけであり、同市場の上場企業の経営陣には複雑かつ不連続な経営環境の変化にも対応できるよう、迅速・果断な意思決定の強化が求められる。それを支える仕組みとして、取締役会においては、モニタリング機能を一層強固なものとし、株主の付託に応えつつ、中長期での持続的な企業価値の向上を支援する体制づくりが求められる。このような観点から、プライム市場については、コーポレートガバナンス・コードの基準を現行よりも高め、独立社外取締役を3分の1以上選任することを求める。さらに、それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業は、独立社外取締役の過半数の選任を検討することを促す。

これは、図表4で示したとおり、東証一部上場企業(3月期決算)においては、現状でも取締役会の3分の1以上が社外取締役である会社が3分の2程度に上ることを踏まえ、現在のコードの基準をさらに一歩前進させるものである(図表5参照)。

図表5 取締役会の体制に関するコーポレートガバナンス・コード改訂の方向性
出所:コーポレートガバナンス・コード、フォローアップ会議「意見書」等より筆者作成
  現コード 2021年コード改訂(予想される方向性) 現コード 2021年コード改訂(予想される方向性)
対象市場 東証一部・二部市場 スタンダード市場 プライム市場 東証一部・二部市場 スタンダード市場 プライム市場
標準 2名以上の独立社外取締役 2名以上の独立社外取締役 3分の1以上の独立社外取締役
より高い水準 経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える場合には、3分の1の独立社外取締役 経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える場合には、3分の1の独立社外取締役 経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える場合には、過半数の独立社外取締役
備考   現コードの内容が標準形として維持される可能性がある 世界標準のコーポレート・ガバナンス体制を目指す

2.実効的な取締役会構成の実現に向けたスキル・バランスの検証(会員限定)

2021/03/15 【特集】改訂コーポレートガバナンス・コードにおける取締役会の機能発揮への取組み

金融庁「フォローアップ会議」メンバー
SBI大学院大学 准教授
日本投資環境研究所 主任研究員
上田亮子

 

第1章 はじめに

2020年に始まった新型コロナウイス感染症の世界的なパンデミックにより社会経済構造が変わるなかで、コーポレート・ガバナンスの在り方も変容している。企業経営は、急激な環境変化にも耐性のある柔軟で中長期的に持続可能な企業価値の向上につながるべきものであることが再認識された。しかし、そのために取締役会の監督と執行機能を強化し、株主とともにステークホルダーにも配慮できる経営を行うというコーポレート・ガバナンスの本質は変わらない。

現在、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、2022年4月に実施される東京証券取引所の市場区分の見直しを踏まえ、市場の特質に合わせたコーポレートガバナンス・コードの改訂議論が進められている。本稿では、コーポレートガバナンス・コード改訂議論の柱の一つである取締役会の機能発揮について考察したい。

第2章 東京証券取引所の市場区分の見直し

1.市場区分の見直し
東京証券取引所の市場区分は、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を支え、国内外の多様な投資家から高い支持を得られる魅力的な株式市場を提供する観点から見直しが行われている。2022年4月4日に新市場区分への移行を完了する予定である。

具体的には、現在の東京証券取引所の市場第一部・市場第二部・マザーズ・ジャスダック(スタンダード・グロース)という市場区分が、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの区分に再編される。これに合わせて、新市場の目的やコンセプト、対象等を踏まえ、コーポレートガバナンス・コードについても見直しを行うこととされた。

図表 1 市場区分の変更を巡る動向
出所:東京証券取引所資料等
時期 見直し事項 概要
2020年3月 制度要綱の公表(現行制度の一部改正) および意見募集手続きの実施 ・新規上場・市場変更基準等の改正
2020年7月 現行制度の改正 ・本改正後に上場申請する新規上場会社は、新市場区分の上場基準に近い枠組みで上場
2020年12月 制度要綱の公表(新市場区分の制度)および意見募集手続の実施 ・新市場区分の上場基準の詳細
・既上場会社の移行プロセスの詳細
2021年春 コーポレートガバナンス・コードの改訂 ・プライム市場上場会社を念頭に、より高い水準のガバナンスが求められる想定
・フォローアップ会議での議論を踏まえて改訂
2021年6月 移行基準日 ・6月末日を基準日として、新市場区分の上場維持基準に適合しているか否かを確認(7月末を目途に東証から通知)
2021年9月~12月 上場会社による市場選択手続 ・新市場区分の上場基準と改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた選択
・新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書の内容を開示(公衆縦覧)
2022年4月4日 一斉移行日 ・新市場区分への移行完了

2.新市場区分とコーポレートガバナンス・コード

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2021/03/12 ブラックロック、指名委員会等設置会社に独立社外役員比率1/2求める

世界最大級の運用機関であるBlackRock Incの日本法人であるブラックロック・ジャパンは(2021年)2月26日、「日本株式議決権行使ガイドラインの改定について」を公表した。取締役会構成における独立社外役員比率の厳格化が既に2021年1月から運用開始されているほかは、同日付で運用が開始されている(改定後のガイドラインは「議決権行使に関するガイドライン(日本株式)」参照)。

主要な変更点は以下の7項目となっている。・・・

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2021/03/12 ブラックロック、指名委員会等設置会社に独立社外役員比率1/2求める(会員限定)

世界最大級の運用機関であるBlackRock Incの日本法人であるブラックロック・ジャパンは(2021年)2月26日、「日本株式議決権行使ガイドラインの改定について」を公表した。取締役会構成における独立社外役員比率の厳格化が既に2021年1月から運用開始されているほかは、同日付で運用が開始されている(改定後のガイドラインは「議決権行使に関するガイドライン(日本株式)」参照)。

主要な変更点は以下の7項目となっている。

① 取締役会構成における独立社外役員比率の厳格化(2021年1月から運用)
監査役設置会社と監査等委員会設置会社は3分の1、指名委員会等設置会社は半数
② 気候変動に関連する基準の厳格化および追加
気候変動関連のリスクが高い企業に、十分な情報開示の取り組みや改善姿勢を要求
③ ジェンダー・ダイバーシティに関連する基準の導入
一定規模を有する企業(TOPIX100)に対して、女性の取締役か監査役の選任を要求
④ 取締役選任議案におけるROE基準の厳格化
ROEが低下傾向かつ直近が3%未満、またはROEが過去3年間連続して3%未満
⑤ 役員報酬における業績基準の厳格化
従来基準(3期連続赤字・無配)からROE基準(上記④)に変更
⑥ 株主提案に対する当社の対応方針の明確化
株主提案の履行が長期的価値創造に寄与すると考えられるかを評価
⑦ その他
より明確な記載にするため、基準に係わる文言等を加筆・修正

TOPIX100 : 東京証券取引所が東証一部上場銘柄の中でも時価総額および流動性の高い大型株100銘柄を選定し、算定・公表している株価指数。構成銘柄は、その時々の市場実勢をより適切に反映させるため、原則として年に1回(10月)見直しが行われている(上場廃止等があれば臨時に見直しが行われている)。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)

いずれの基準改定も、同社の運用資産規模を考えれば、上場企業に対する影響は大きいものとなろう。

もっとも、③ジェンダー・ダイバーシティーに関する基準は既に議決権行使助言会社大手のグラスルイスが導入済み(2019年よりTOPIX100選定会社、2020年より東証一・二部上場会社を対象。2019年12月11日のニュース「グラスルイスが2020年版ガイドライン公表、ISSが見送った政策保有株式のポリシー導入」の2段落目参照)、同最大手のISSも2020年に実施したグローバル・サーベイで63の機関投資家が女性取締役の重要性を”high”としたことを公表しており(2020年10月20日のニュース「ISSポリシー改定、“1/3基準”全面適用確実、政策保有は更なる厳格化も」の最終段落参照)、近い将来の導入が予想される。

また、④ROE基準の厳格化については既にISSが5%を基準値としており(2020・2021年はコロナ禍の影響を踏まえ適用停止中。2020年5月20日のニュース「ROE基準の適用猶予、機関投資家の間でも広がる兆し」参照)、相対的なインパクトは小さいと考えられる。

同じく①取締役会構成における独立社外役員比率の厳格化についても、ISSが2022年から監査役設置会社および監査等委員会設置会社に対して「3分の1」基準の運用を開始することを発表済みであるなど、目新しいものではない。一方で、指名委員会等設置会社に対する「半数」基準は、少なくとも日本に運用拠点を設置している大手運用機関にはこれまでなかったものと見られる。機関設計を限定したものではあるが、いよいよ取締役会の独立性についてもグローバル・スタンダードが要求され始めたと言えるだろう。

もっとも、東証のコーポレート・ガバナンス情報サービスで、東証一部上場の指名委員会等設置会社(3月12日現在)を確認すると、社外取締役が半数未満の企業は66社中、下記の8社に過ぎなかった(ただし、独立性を勘案すればさらに増える可能性はある)。上述のとおり、ブラックロック・ジャパンとしては、(機関設計を問わず)将来の取締役会の独立性の厳格化を視野に、基準改定に踏み切ったということだろう。なお、(選任議案の)反対対象となるのは「有責性のある取締役」とされており、具体的にはガイドラインで明示はされていないが、指名委員長を指すものと考えられる。

<社外取締役が半数未満だった指名委員会等設置会社(東証一部)>
J.フロント リテイリング:6/13
三菱ケミカルホールディングス:5/12
日本オラクル:3/8
コニカミノルタ:5/12
日立建機:4/10
NTN:5/11
三菱電機:5/12
福井銀行:3/9

ところで、3分の1基準が適用される監査役設置会社は、「プライム市場上場企業」「買収防衛策導入済みもしくは導入予定の企業」「支配力を有する大株主が存在する企業」に限定されている。このうち1つ目の条件については、2021年春にも実施される予定のコーポレートガバナンス・コードの改訂において、プライム市場の上場企業は独立社外取締役を3分の1以上選任すべきとする変更が原則4-8に加えられることを見越したものと言える(現行は2名以上)。

金融庁に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」第21回(2020年11月18日)会合に提出されたの資料「市場区分の見直しにおけるコーポレート・ガバナンスに関する議論の状況について」によると、2020年において独立社外取締役を3分の1選任している企業は、東証1部で58.7%、JPX日経400銘柄で74.2%に達する。逆に言えば東証一部上場企業の約4割、JPX日経400銘柄の約4分の1は「3分の1」に達しておらず、またその多くは監査役会設置会社が占めていると見られる。これらの企業がプライム市場に移行した場合、ブラックロック・ジャパンの基準に抵触することになる。なお、監査等委員会設置会社については、上場市場にかかわらず3分の1基準が適用される。

JPX日経400銘柄 : JPX日経インデックス400の略。東京証券取引所および日本経済新聞社が東証の市場第一部等に上場している株式のうち代表的な銘柄として選定した400銘柄。業績が低迷している企業を除いたうえで規模が大きい企業が選定されるため、東京証券取引所の代表的銘柄とも言える。

ブラックロック・ジャパンは「形式的な議決権行使とならないように、上記基準の適用にあたっては、企業のコーポレート・ガバナンスの充実を図るための取り組み(指名委員会及びそれに準ずる委員会の状況等)についても十分に勘案し、実質的な議決権行使判断を実施します」としており、基準に抵触するからといって一律に反対行使することはなさそうである。形式的には基準に抵触している企業においては、開示および対話の重要が増すことになろう。

2021/03/11 株式報酬の付与が「関連当事者取引注記」の対象となるケース

周知のとおり、取締役や主要株主、親会社など会社と関係の深い個人や法人は「関連当事者」と呼ばれ、「会社と関連当事者との取引」は有価証券報告書等で開示(これを「関連当事者取引注記」という)しなければならない。関連当事者は会社への影響力が強いだけに、両者の間の取引は必ずしも対等な関係の下で行われるとは限らず、場合によっては会社の利益を損なう取引が行われることもあり得るからだ。逆に言うと、必要な関連当事者取引注記が漏れるということは、単なる開示ルール違反にとどまらず、・・・

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