2021/01/27 【失敗学第80回】グローム・ホールディングスの事例(会員限定)

概要

グローム・ホールディングス(JASDAQ)の元連結子会社において、仮装取引や会計上の誤謬を理由とした粉飾決算が発覚し、過年度の連結決算のやり直しが必要となった。

経緯

グローム・ホールディングスが2020年4月22日に公表した「調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。

2011年
9月:グローム・ホールディングスが、岐阜県本巣市に商業施設(当時の名称は「リオワールド」といい、その後施設名が「LCワールド本巣」に変更された)の所有および運営を主な事業とする会社であるロジコムリアルエステート社の株式を取得して連結子会社化する。
11月:ロジコムリアルエステートは、解体工事業者からLCワールド本巣解体工事の見積書(以下、当初見積り)を入手し、当該見積りに基づき、2012年3月期に資産除去債務約2億1000万円を計上した。

2014年
12月:ロジコムリアルエステートは、2011年11月に見積りを取得した業者と同じ解体工事業者から、LCワールド本巣のうち一部建物について解体工事の再見積りを入手したところ6840万円となっており、当初見積りでは当該建物の解体工事見積額は1928万円であったことから、資産除去債務について割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じていたことになり、本来であれば資産除去債務の計上額を見直す必要があったものの、見直しをしていなかった。

2015年3月期から2016年3月期にかけて
ロジコムリアルエステートの取締役A氏およびB氏は、a社の要望を受けてa社の関係会社であるb社に資金を還流させてほしい旨を要望されたことから、実体を伴わない架空取引により、a社から2億1050万円を受け取り、そのうち94%をb社に還流させた。また、ロジコムリアルエステートはf社から実体を伴わない架空取引により委託料3000万円を計上した。

2016年
4月2日:ロジコムリアルエステートは取締役A氏およびB氏を解任(詳細な理由は開示資料からは明らかではない)。その後、A氏およびB氏は、ロジコムリアルエステート等を相手に損害賠償請求訴訟を提起した(2020年2月21日に、ロジコムリアルエステート側の勝訴が確定)。
6月30日:グローム・ホールディングスは、ダヴィンチ・ホールディングスとの資本・業務提携により同社の持分法適用関連会社となるにあたり、ロジコムリアルエステートの株式を、ダヴィンチ・ホールディングスの100%子会社であるリータ社に譲渡した(その結果、ロジコムリアルエステートはグローム・ホールディングスの持分法適用会社であるダヴィンチ・ホールディングスの100%孫会社となった)。

2020年
2月4日:グローム・ホールディングスは、当社元子会社における不適切な取引行為が判明したとして社内調査委員会を設置したことをリリース
4月22日:グローム・ホールディングスは、「調査報告書受領のお知らせ」をリリースしたうえで、過年度の有価証券報告書および四半期報告書の訂正報告書を財務局に提出するとともに過年度の決算短信等の訂正をリリースした。
6月16日:証券取引等監視委員会は、内閣総理大臣および金融庁長官に対して、グローム・ホールディングスに4395万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行う。
9月11日:グローム・ホールディングスは、金融庁による課徴金納付命令に従い4395万円を国庫に納付することを公表する。

内容・原因・改善策

グローム・ホールディングスが2020年4月22日に公表した「調査報告書受領のお知らせ」によると、グローム・ホールディングスの元連結子会社のロジコムリアルエステートにおいて生じた主な会計不正(下記がすべてではない)の内容ならびに原因および当該不正を受けて策定した改善策は次のとおりとされている。

a社およびb社案件
内容 ロジコムリアルエステートは、a社の要望を受けてa社の関係会社であるb社に資金を還流させてほしい旨を要望されたことから、実態を伴わない架空取引により、a社から2億1050万円を受け取り、そのうち94%をb社に還流させた。
原因 <不正の原因>
子会社経営者による不正

「a社およびb社案件」はロジコムリアルエステートの取締役(A氏およびB氏)がa社よりa社の関係会社であるb社に資金を還流させてほしい旨を要望されたことから主導した取引であり、そもそも内部牽制が効かないものであった。

<決算訂正が遅れた理由>
グローム・ホールディングス内部における連携不足

ロジコムリアルエステートが、A氏およびB氏との訴訟の中で、架空取引の事実、即ちロジコムリアルエステートにおける会計処理の適切性に関する疑義を主張していたにもかかわらず、当該事実が親会社のグローム・ホールディングス経理部門等に情報共有されていなかった(グローム・ホールディングスでは当該主張が事実であれば決算の訂正が必要になることが認識されていなかった)。

改善策 1 グループ会社管理体制の強化(2020年9月末まで)
(1) グローム・ホールディングスの関係会社管理規程の内容を各子会社に周知する。
(2) 各子会社の事業内容や事業規模に照らして、報告基準に関する運用細則を定め、事業内容・リスクに応じた情報収集体制を構築する。
(3) 子会社の各業務分野に応じてグローム・ホールディングスの情報収集体制を構築し、情報収集の各主管部署は管理・監督のモニタリング状況を踏まえて、適宜必要な業務の見直しを行い、グループ会社管理を強化していく。
2 グローム・ホールディングス内における情報共有体制の強化(2021年3月末まで)
グローム・ホールディングスの関係会社管理規程に定められた連携推進部署は、それぞれ子会社から吸い上げた情報を社内に適切に共有・展開するための仕組みを整備し、運用を開始する。
3 会計コンプライアンス遵守の意識の再確認(2021年3月末まで)
(1) グローム・ホールディングスの財務・経理部門が中心となり、グローム・ホールディングス及び各子会社の全役職員に対して、会計コンプライアンスに係る法令、会計基準等についての社内研修・教育等を実施し、
・各子会社の役職員らに対して、上場会社の子会社として、会計コンプライアンス意識の徹底を図る。
・グローム・ホールディングスの関係役職員に対して、親会社として、各子会社の事業実態を把握し、自社グループとして問題をとらえるべく、コンプライアンス遵守の意識の徹底を図る。
(2) 新たな事象に対する会計基準等の適用を検討したり、過去の会計処理等の適否をあらためて検証したりするような場合には、財務・経理部門は会計監査人や外部の各種専門家に対して、適時適切に相談を行う。
資産除去債務の見積り変更による修正漏れ
内容 ロジコムリアルエステートは、2011年に解体業者から入手した解体費用見積額につき資産除去債務を計上していた。2014年に同じ解体業者から一部建物の解体費用につき見積りを取りなおしたところ6840万円となっており、当初見積りでは当該建物の解体費用は1928万円と見積もっていたことから、資産除去債務について割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じていたことになり、資産除去債務の計上額を見直す必要があったものの、見直しをしていなかった。
原因 適切な会計処理についての関係者の意識の不足・欠如
解体費用の見積りの取り直しと資産除去債務の計上額の見直しが紐づいていることが関係者で共有されていなかった。
改善策 上記参照
<この失敗から学ぶべきこと>

グローム・ホールディングスでは、連結子会社の役員が主導した架空の取引に気付かずに、過年度の決算訂正を余儀なくされました。連結子会社は親会社ほどガバナンスや内部統制のレベルが高くないことから、それだけ会計不正も起きやすいと言えます。親会社の取締役は子会社のガバナンス・内部統制の構築に向けて尽力しなければなりません。

グローム・ホールディングスの訴訟担当部門では、子会社がA氏およびB氏との訴訟の中で架空取引の事実を主張していたことは当然ながら認識していたものの、そのことが会計処理の適切性に関する疑義と連動していることに意識が及ばず、当該情報を親会社のグローム・ホールディングス経理部門に共有していませんでした。グローム・ホールディングスの訴訟担当部門と経理部門の連携ができていれば、より早いタイミングでの決算訂正ができていたはずです。訴訟担当部門と経理部門の連携が不足していると経理部門が会計処理を誤りかねないので留意が必要です。

解体費用の見積りの取り直しにより資産除去債務の金額の修正が必要になる可能性があることは、親会社の経理部でなければ見落としがちな論点です。親会社の経理部は連結パッケージで子会社に対して「資産除去債務の見積りの前提となった事象に変更がないかどうか(解体費用の見積りの取り直しの有無など)」を質問しておくのも一案と言えそうです。

2021/01/26 KAMとされた事項を追加開示する場合のベストプラクティス

いよいよKAM(監査上の主要な検討事項)の監査報告書への記載が2021年3月期決算の(金融商品取引法(以下、金商法)に基づく)監査から義務化される。周知のとおり、KAMとは「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、会計監査人(以下、監査人)が職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項」を指す。それだけに、監査人がKAMとして記載した事項が、企業が作成する財務諸表の注記事項などとして記載されていないという状況は、決して望ましいものとは言えない。したがって、このような場合、経営陣は「KAM」とされた事項を追加開示することを検討すべきだろう。追加開示の場所は財務諸表の注記に限定する必要はない。有価証券報告書の「事業等のリスク」や「MD&A」など記述情報(非財務情報)における開示など、金商法上の開示ルール(開示府令)の範囲内で(KAMは金商法に基づく監査において記載するものであるため)、財務諸表の注記にこだわらず情報開示を検討するべきだろう。

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。
記述情報(非財務情報) : 有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」を指す。2019年1月31日に公布・施行された開示府令により、2020年3月期決算企業から記載内容の充実が求められることとなった。

もちろん、KAMの目的はあくまで監査人が実施した監査の透明性を向上させることにあり、企業が公表(開示)していない情報を監査報告書で投資家等に提供することを目的としているわけではない。また、企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、KAMの記載が企業による開示を代替するものではない。とはいえ、監査人が監査報告書にKAMとして記載した事項が有価証券報告書のどこにも記載されていなければ、投資家の目には「監査人と監査役または経営陣の間のコミュニケーションが十分とられていない」と映るだろう。

2020年7月2日のニュース「速報 KAMを記載した2020年3月決算企業の社数・属性、KAMの数と内容」でお伝えしたとおり、2020年3月期においてKAMを早期適用した企業は44社存在する。そのうちの1社が・・・

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2021/01/26 KAMとされた事項を追加開示する場合のベストプラクティス(会員限定)

いよいよKAM(監査上の主要な検討事項)の監査報告書への記載が2021年3月期決算の(金融商品取引法(以下、金商法)に基づく)監査から義務化される。周知のとおり、KAMとは「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、会計監査人(以下、監査人)が職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項」を指す。それだけに、監査人がKAMとして記載した事項が、企業が作成する財務諸表の注記事項などとして記載されていないという状況は、決して望ましいものとは言えない。したがって、このような場合、経営陣は「KAM」とされた事項を追加開示することを検討すべきだろう。追加開示の場所は財務諸表の注記に限定する必要はない。有価証券報告書の「事業等のリスク」や「MD&A」など記述情報(非財務情報)における開示など、金商法上の開示ルール(開示府令)の範囲内で(KAMは金商法に基づく監査において記載するものであるため)、財務諸表の注記にこだわらず情報開示を検討するべきだろう。

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。
記述情報(非財務情報) : 有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」を指す。2019年1月31日に公布・施行された開示府令により、2020年3月期決算企業から記載内容の充実が求められることとなった。

もちろん、KAMの目的はあくまで監査人が実施した監査の透明性を向上させることにあり、企業が公表(開示)していない情報を監査報告書で投資家等に提供することを目的としているわけではない。また、企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、KAMの記載が企業による開示を代替するものではない。とはいえ、監査人が監査報告書にKAMとして記載した事項が有価証券報告書のどこにも記載されていなければ、投資家の目には「監査人と監査役または経営陣の間のコミュニケーションが十分とられていない」と映るだろう。

2020年7月2日のニュース「速報 KAMを記載した2020年3月決算企業の社数・属性、KAMの数と内容」でお伝えしたとおり、2020年3月期においてKAMを早期適用した企業は44社存在する。そのうちの1社が住友商事だ。住友商事のKAMは以下の3点であった。

① マダガスカルニッケル事業を営む持分法適用会社が保有する固定資産の評価
② 欧米州青果事業における無形資産の評価
③ 鋼管事業における無形資産の減損損失の測定

これらのKAMはいずれも減損会計に関するもの。住友商事の連結財務諸表注記を見ると、これらのKAMに関する事項はKAM導入前の2019年3月期においても注記されており、KAM導入を契機に追加的な注記が行われたわけではない。ただし、同社の有価証券報告書の【事業等のリスク】を見ると、2019年3月期に記載のなかった上記①②のKAMに関する事項が2020年3月期においては記載されていた(③は2019年3月期の【事業等のリスク】においても記載されている)。

減損会計 : 固定資産について、将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ損失を計上すること。

住友商事がこのような対応をとったのは、KAMとして記載される事項は投資家の注目を集めるため、財務諸表注記だけではなく記述情報でも併せて説明するべきと考えたからだろう。追加開示に至るまでには、監査人、監査役、経営陣が十分にコミュニケーションをとったことが想定される。同社の事例は、追加開示が行われたケースにおけるベストプラクティスと言えそうだ。

【事業等のリスク】
2020年3月期 2019年3月期
②大型案件に係るリスク
(a)アンバトビー
当社は、2005年、マダガスカル共和国にて、ニッケル採掘から精錬までを一貫して手掛ける同事業に参画しました。当社の100%子会社であるSummitAmbatovyMineralResourcesInvestmentB.V.(本社:オランダ本国アムステルダム)を通じて、マダガスカルにおけるニッケル採掘事業会社であるAmbatovyMineralsS.A.及びニッケル精錬事業会社であるDynatecMadagascarS.A.(本社:マダガスカル共和国アンタナナリボ、以下両社を称して「プロジェクト会社」)に各47.7%の出資を行い、SherrittInternationalCorporation(本社:カナダオンタリオ州、出資比率12%)、KoreaResourcesCorporation(本社:韓国江原道、出資比率40.3%)と共に事業を行っています。

当社はプロジェクト会社への投資に対して持分法を適用しております。プロジェクト会社の有形固定資産に減損の兆候が認められ、かつ、減損テストの結果、回収可能価額が有形固定資産の帳簿価額を下回った場合には、当社において持分相当額を持分法投資損失として認識します。プロジェクト会社における有形固定資産の回収可能価額は、使用価値と処分コスト控除後の公正価値のいずれか高い方が採用され、その見積りには、プロジェクト会社の生産状況、将来の資源価格(主にニッケル及びコバルト等の長期予想価格)、可採埋蔵量、割引率、新型コロナウイルス感染拡大による操業停止の期間といった重要な仮定が使用されており、これらの仮定の変動により当社の業績に重要な影響を与えるリスクがあります。

当連結会計年度においては、コバルトの長期予想価格の見通しの下落、プロジェクト会社における設備トラブルに起因する不安定な操業状況および新型コロナウイルス感染拡大による操業への影響を踏まえ有形固定資産の減損の兆候を認識し、減損テストを実施しております。その結果、処分コスト控除後の公正価値がプロジェクト会社における有形固定資産の帳簿価額を上回ったことから、減損損失を認識しておりません。なお、操業停止期間に関しては、回復時期が見通せない状況ではあるものの、半年を超えない範囲で操業停止が継続すると仮定を置いた上で生産計画の見直しを行っております。

当連結会計年度末におけるプロジェクト会社に対する持分法投資の帳簿価額は約634億円となります。

(b)Fyffes
当社は、2017年、アイルランド青果物生産・卸売企業Fyffes社の全株式を約900億円で取得しております。Fyffes社は欧州、米国、カナダ、中南米などにおいて、バナナ、パイナップル、メロンおよびマッシュルームを中心に青果物の生産や流通、販売を幅広く手掛けています。なお、当社の取得価額には超過収益力が含まれており、当連結会計年度においては、のれん及びその他無形資産の帳簿価額は約728億円となっております。

Fyffes社ののれん及びその他の無形資産については、使用価値に基づき算定される回収可能価額が帳簿価額を下回った場合に、減損損失が認識されます。使用価値算定においては、販売数量・マージン・割引率等が重要な仮定として使用されており、これら仮定の変動により当社の業績に重要な影響を与えるリスクがあります。

記載なし(投資等に係るリスクの記載はあるものの、2020年3月期の②(a)(b)のような個別具体的なリスクの記載はない)

2021/01/25 4月1日より中途採用比率公表義務付け、CGコード改訂とは別に進むハード・ロー化

金融庁のスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下、フォローアップ会議)が今春の施行を目指して進めているコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂に関連して注目を集めているのが、今回の改訂議論の対象となっている項目の“ハード・ロー化”だ。

例えば英文開示についてフォローアップ会議のメンバーからは、・・・

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2021/01/25 4月1日より中途採用比率公表義務付け、CGコード改訂とは別に進むハード・ロー化(会員限定)

金融庁のスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下、フォローアップ会議)が今春の施行を目指して進めているコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂に関連して注目を集めているのが、今回の改訂議論の対象となっている項目の“ハード・ロー化”だ。

例えば英文開示についてフォローアップ会議のメンバーからは、「プライム市場は国際的な競争力を持つことが目的なので、その上場会社には英文開示を上場規則で義務付けるべき」と、CGコード(ソフト・ロー)ではなくルール(ハード・ロー)による規律付けが望ましいとの意見が出されている(2020年12月14日のニュース「英文開示を上場規則で義務付けるべきとの意見も」参照)。

これに対し、フォローアップ会議が昨年(2020年)12月18日に公表した「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議 意見書(5))」(以下、本意見書)のテーマとなった「取締役会の機能発揮」と「多様性の確保」については、上場規則などハード・ローによる義務付けは行われず、CGコードというソフト・ローに基づく企業の自発的な取り組みが求められることになる。これは、本意見書の「はじめに」の部分に、原案にはなかった「コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みの下」とのくだりが追加されたことが示している(2020年12月18日のニュース「改訂CGコードの一部内容が確定 時価総額大きければ過半数の社外取締役も 」参照)。

ただ、注意しなければならないのは、CGコードに盛り込まれた事項が、CGコードとは別にハード・ローで規制を受ける場合もあるということだ。例えば本意見書には、「多様性の確保」について、「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況の公表を求めるべきである」との一文が盛り込まれたが、このうち女性の管理職登用については、2020年6月1日施行された女性活躍推進法により、「常時雇用する労働者が301人以上の事業主」は、下記の項目のうち“いずれか1つ”を公表することが求められている(厚生労働省のウェブサイト 参照)。

・採用した労働者に占める女性労働者の割合
・男女別の採用における競争倍率
・労働者に占める女性労働者の割合
・係長級にある者に占める女性労働者の割合
・管理職に占める女性労働者の割合
・役員に占める女性の割合

・男女別の職種又は雇用形態の転換の実績
・男女別の再雇用又は中途採用の実績

現時点では「管理職に占める女性労働者の割合」や「役員に占める女性の割合」を公表対象から外すこともできるが、政府が「2020年代の可能な限り早期」のうちに指導的地位に女性が占める割合を30%にするとの目標を掲げていることからすると(第5次男女共同参画基本計画「第1部 基本的な方針」13ページ一番下の行〜参照)、今後「管理職に占める女性労働者の割合」や「役員に占める女性の割合」の公表が義務付けられることも否定できない。

「中途採用者」についても、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の改正により、常時301人以上の労働者を雇用する事業主は、今年(2021年)4月1日から、中途採用者の比率を公表しなければならない(厚生労働省「中途採用に関する情報公表について(労働施策総合推進法関係)」資料8-1参照)。現状、大企業ほど中途採用者の比率が低くなっているが、大企業を中心に残る新卒一括採用中心の採用制度の見直しを迫る政府が、管理職への登用率など中途採用者に関するデータの公表を強化する可能性はある。

海外に目を向けると、米証券取引所 Nasdaqでは昨年12月 1 日、同取引所に上場する企業は取締役のうち最低 1 名の女性と、人種的マイノリティ(黒人、ヒスパニック、アジア人、ネイティブアメリカン等)あるいは性的マイノリティの登用を義務付ける規則案をSEC(米証券取引委員会)に提出しており、Nasdaq上場企業にはSECが規則案を承認してから 1 年以内に取締役登用状況の開示が義務化され、要件を満たせない理由を説明できない企業は上場廃止に追い込まれる方向となっている。Nasdaq上場企業の約 9 割は既に最低 1 名の女性取締役を登用しているが、マイノリティを取締役に登用する企業は全体の約 4 分の 1 にすぎない。Nasdaq上場企業の間で“マイノリティ争奪戦”が起こることも考えられよう。

また、女性取締役の登用が進んでいないことが長年にわたり問題視されてきたドイツ(2021年11月に公表された調査結果によると、国内上位30社の取締役の女性比率は、米国が28.6%、英国が24.5%であるのに対し、ドイツは12.8%)では大企業の女性取締役登用の義務化を定めた法案が年明け早々閣議決定されている。同法案は、従業員数が2,000人以上の上場企業で取締役が4名以上いる企業に対し、少なくとも1名を女性取締役とすることを義務付けることとし、2022年1月から適用される方向だ。さらに同法案では、従業員数500人以上の企業に対し、取締役会の女性比率目標を設定していないか、正当な理由を開示せずに女性比率目標を「ゼロ」とする企業に対し、最大で1,000万ユーロの罰金を科すとしている。

上述のとおり、日本政府は現政権誕生前から女性、中途採用者の登用を推進してきたが、さらに菅政権は「女性、外国人、中途採用者の登用促進」を政策の柱に据え(2020年12月3日のニュース「見えて来たCGコード改訂の“柱” 」参照)、海外でもダイバーシティを法令等で義務付ける動きが出て来ている。ダイバーシティの実現には時間を要する。上場企業としては、将来的なハード・ロー化の可能性も念頭に、取締役会、そしてその人材プールとなる管理職のダイバーシティを進めておく必要がある。

2021/01/22 “ツール”は出揃うも、事業報告と有報の一体開示に企業が踏み切れない理由

既報のとおり、政府が中心となって現在、類似している部分が多い「事業報告および計算書類(以下、事業報告等)」(会社法)と「有価証券報告書」(金融商品取引法)の2つの開示資料を統合()するための道筋をつけるべく、2014年から下表の各種施策を打ち出している(2018年1月15日のニュース「事業報告等と有価証券報告書、一体化に向け前進」、2018年1月22日のニュース「有報と事業報告等の一体開示に向け経営陣が検討すべきこと」参照)。

有報と事業報告等の一体開示に向けたこれまでの取り組み
時期 主体 取り組みの内容
2014年6月 政府 日本再興戦略2014 32ページ
→企業が一体的な開示をするうえでの実務上の対応等を検討する旨を明記
2016年4月 金融庁・金融審議会 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(金融庁)7ページ
→事業報告等と有価証券報告書の開示内容の共通化や一体化を容易にすること等を提言
2017年12月 内閣官房・金融庁・法務省・経済産業省 「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」
→両書類間の類似・関連する項目について可能な範囲で共通化を図ることとして、具体的に15項目を特定し、公表
2018年3月 財務会計基準機構 「有価証券報告書の開示に関する事項 -『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組-
→上記2017年12月に公表された15項目を踏まえ、記載の共通化のポイント・記載事例を公表
金融庁、法務省 「「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」を踏まえた取組について」
→財務会計基準機構が作成した「共通化のポイント」及び「記載事例」の内容は、関係法令の解釈上、問題ないものと考えられる旨公表
2018年12月 内閣官房・金融庁・法務省・経済産業省 「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組の支援について」
→一体書類(有価証券報告書兼事業報告書)の記載例等の公表
 統合の方法として経済産業省が想定しているのは「一体開示」と「一体的開示」の2つである。「一体開示」とは会社法(事業報告等)と金融商品取引法(有価証券報告書)の要請を満たす一つの書類(有価証券報告書兼事業報告書)を作成して、株主総会前に開示することを指している。一方、 「一体的開示」とは「一体開示」に限らず、事業報告等と有価証券報告書の記載内容を可能な範囲で共通化し、別々の書類として作成・開示する場合等を包含するより広い概念とされている。

上記のとおり政府が一体開示を進める方針を固めてから既に6年半が経過しているにもかかわらず、現時点で一体開示を行っている上場企業は「ゼロ」である。その理由として、ある上場企業の開示担当者は、・・・

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2021/01/22 “ツール”は出揃うも、事業報告と有報の一体開示に企業が踏み切れない理由(会員限定)

既報のとおり、政府および会計基準の設定主体である企業会計基準委員会の運営母体「財務会計基準機構」(FASF)は現在、類似している部分が多い「事業報告および計算書類(以下、事業報告等)」(会社法)と「有価証券報告書」(金融商品取引法)の2つの開示資料を統合()するための道筋をつけるべく、2014年から下表の各種施策を打ち出している(2018年1月15日のニュース「事業報告等と有価証券報告書、一体化に向け前進」、2018年1月22日のニュース「有報と事業報告等の一体開示に向け経営陣が検討すべきこと」参照)。

有報と事業報告等の一体開示に向けたこれまでの取り組み
時期 主体 取り組みの内容
2014年6月 政府 日本再興戦略2014 32ページ
→企業が一体的な開示をするうえでの実務上の対応等を検討する旨を明記
2016年4月 金融庁・金融審議会 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(金融庁)7ページ
→事業報告等と有価証券報告書の開示内容の共通化や一体化を容易にすること等を提言
2017年12月 内閣官房・金融庁・法務省・経済産業省 「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」
→両書類間の類似・関連する項目について可能な範囲で共通化を図ることとして、具体的に15項目を特定し、公表
2018年3月 財務会計基準機構 「有価証券報告書の開示に関する事項 -『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組-
→上記2017年12月に公表された15項目を踏まえ、記載の共通化のポイント・記載事例を公表
金融庁、法務省 「「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」を踏まえた取組について」
→財務会計基準機構が作成した「共通化のポイント」及び「記載事例」の内容は、関係法令の解釈上、問題ないものと考えられる旨公表
2018年12月 内閣官房・金融庁・法務省・経済産業省 「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組の支援について」
→一体書類(有価証券報告書兼事業報告書)の記載例等の公表
 統合の方法として経済産業省が想定しているのは「一体開示」と「一体的開示」の2つである。「一体開示」とは会社法(事業報告等)と金融商品取引法(有価証券報告書)の要請を満たす一つの書類(有価証券報告書兼事業報告書)を作成して、株主総会前に開示することを指している。一方、 「一体的開示」とは「一体開示」に限らず、事業報告等と有価証券報告書の記載内容を可能な範囲で共通化し、別々の書類として作成・開示する場合等を包含するより広い概念とされている。

上記のとおり政府が一体開示を進める方針を固めてから既に6年半が経過しているにもかかわらず、現時点で一体開示を行っている上場企業は「ゼロ」である。その理由として、ある上場企業の開示担当者は、①横並び意識、②一体“的”開示の進行の2つを指摘している。

①の「横並び意識」は、日本の開示ルールがあまりにも細かすぎることに起因している。上場企業に求められる開示(財務報告)のルールは法令等で要件が事細かに定められており、“最低でも”それらのルールを遵守するのが開示部門の仕事となっている。このようにルールがあまりに細かすぎることから、開示担当者は他社事例を参考にしながら財務会計基準機構や宝印刷などの開示コンサルティング会社が作成した開示ひな形を埋めるので精いっぱいとなっている。こうした余裕のなさの中からいつしか「ひな形どおりに作成すれば十分であり、あえて他社と異なる開示をして目立ちたくない」というマインドが醸成されてきたと言える。このような仕事のやり方に慣れてしまった開示担当者が、あえて他社がやっていない一体開示に積極的に取り組むインセンティブを持つのは困難であろう。また、②の「一体的開示の進行」については、上記の政府の取り組みにより事業報告等と有価証券報告書の開示内容の共通化が相当程度図られたことで、実務的には一体“的”開示が進んでおり()、開示部門の負荷が以前よりは軽減されたことを意味している。要は、「一体開示には至っていないが、一体的開示は進んでいる」ということだ。

 全株懇の調査結果によると、2017年12月に公表された内閣官房・金融庁・法務省・経済産業省による「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」を踏まえて、4社に1社が事業報告等と有価証券報告書の一体的開示(共通化)を実施している(2020年度全株懇調査報告書の37ページを参照)。

こうした状況の中、経済産業省は2021年1月18日、事業報告と有価証券報告書の一体開示に向けて「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示FAQ(制度編)」(以下、本FAQ)を公表した。これは、経経産業省が開示書類作成者や開示を取り巻く関係者(監査法人等)との意見交換を行った結果、一体開示・一体的開示について問合せの多かった項目をFAQとして取りまとめたもの。本FAQでは、一体的開示と一体開示に共通する内容、一体開示に固有の内容を分類したうえで、メリットや課題などが取りまとめられている。

もっとも、以上の取り組みは財務諸表を作成する企業側に向けたものに過ぎない。一体開示が実際に機能するためには、財務諸表を作成する側に加えて監査する側に対しても“ツール”が提供される必要がある。この点を踏まえ日本公認会計士協会は2021年1月18日、監査・保証実務委員会研究報告「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」公開草案(以下、本公開草案)を公表した。本公開草案では、一体開示において監査対象である「会社法に基づく事業報告等」と「金商法に基づく有価証券報告書」が1つになっている以上、表明される監査意見も当該一体書類に対して1つの意見となる案が示されている。本公開草案では具体的な監査報告書の文案も示されており、例えば一体書類に対する監査の際の根拠法令については「金融商品取引法第193条の2第1項に基づく監査証明及び会社法第444条第4項の規定に基づく監査を行った」旨を記載するとしている。これにより、一体開示に向けて財務諸表作成側と監査側のツールが一通りそろったことになる。

もっとも、今回FAQや監査報告書案が公表されても、これらにより上場企業の横並び意識が変わり一体開示に踏み切るところが出てくるのかどうかは未知数と言える。とりわけ、東証が上場企業に株主総会資料の定時株主総会3週間前のウェブ開示を求めるようになった(2020年12月21日のニュース「東証、株主総会資料の3週間前ウェブ開示を上場企業の努力義務に」を参照)ことで、一体開示に向けての時間的なハードルが上がったことは一体開示の普及への足かせとなろう。一体開示をするのであれば定時株主総会の3週間前に有価証券報告書兼事業報告書の作成を終えていなければならず、実務的にハードルが高いからだ。コロナ対応で定時株主総会の後ろ倒し開催(定時株主総会の議決権の基準日を変更するなどして期末日から3か月以上経過してから定時株主総会を開催すること。2020年6月18日のニュース「基準日変更企業が増加 6月17日現在の決算発表・株主総会動向」を参照)が増えた昨年(2020年)に引き続き、2021年以降も定時株主総会の後ろ倒し開催が一般化でもしない限り、上場企業の間で一体開示が普及する可能性は残念ながら低い。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

残された方法としては、コーポレートガバナンス・コードなどで上場企業に一体開示を促すか、あるいは法令改正により一体開示を強制させるしか方法は残されていないと言えそうだ。

2021/01/21 解雇に瀕する子会社の従業員の雇用に対する責任

マクロ経済に大きなダメージを与えているコロナ禍だが、周知のとおり、業界によってその影響度は異なる。外食産業や旅行業を筆頭に業績の低迷にあえぐ業界もあれば、IT、ゲーム、食品の小売・宅配等々、テレワークの普及や巣ごもり需要によってむしろ“活況”を呈している業界もある。これは企業グループにも言える。複数の子会社を抱える企業グループでは、コロナによるダメージを受けている子会社と受けていない子会社が両方存在するケースもあろう。仮にダメージを受けている子会社の従業員をリストラしたり、あるいは当該子会社自体を解散したりするような事態となった場合、親会社には当該子会社の従業員の雇用について何か責任が発生するのだろうか。

原則論から言えば、・・・

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2021/01/21 解雇に瀕する子会社の従業員の雇用に対する責任(会員限定)

マクロ経済に大きなダメージを与えているコロナ禍だが、周知のとおり、業界によってその影響度は異なる。外食産業や旅行業を筆頭に業績の低迷にあえぐ業界もあれば、IT、ゲーム、食品の小売・宅配等々、テレワークの普及や巣ごもり需要によってむしろ“活況”を呈している業界もある。これは企業グループにも言える。複数の子会社を抱える企業グループでは、コロナによるダメージを受けている子会社と受けていない子会社が両方存在するケースもあろう。仮にダメージを受けている子会社の従業員をリストラしたり、あるいは当該子会社自体を解散したりするような事態となった場合、親会社には当該子会社の従業員の雇用について何か責任が発生するのだろうか。

原則論から言えば、子会社と親会社は別人格である以上、親会社が子会社の従業員の雇用について責任を負うことはない。ただし、「整理解雇の4要素」(下記参照)と「法人格否認の法理」の2つの観点から問題となることもあり得ない話ではない。

法人格否認の法理 : 法人格を違法な目的で利用しているような「法人格の濫用」や、「法人格が形骸化」して中身がない場合に法人格を否認して、その背後にいる者への責任追及を可能にする法的考え方のこと。

まず、会社の解散に伴う従業員の解雇も「整理解雇」に該当するという点を確認しておきたい(昭和57年11月16日神戸地裁判決、平成26年7月17日奈良地裁判決など)。そして、リストラや解散等により従業員を解雇するためには、「整理解雇の4要素」(①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の妥当性、④労働者側との協議)によってその正当性(「不当解雇」に該当するか否か)が判断されることになる。通常、これらの要素のうち親会社に関係する可能性があるのは、②の「解雇回避努力」だ。具体的には、親会社は、解雇されそうになっている子会社の従業員を親会社や他のグループ会社に転籍させることができないかなどを検討する必要がある。もちろん、引き受ける余地がないこともあろう。しかし、「検討」すらしていないとなると、「解雇回避努力を尽くしていない」と判断される恐れがある。

整理解雇 : 経営上の事情(経営不振、事業の縮小など)により従業員を解雇すること。

また、リストラや解散等に追い込まれた子会社が、(1)別法人であることが形骸化している場合や、(2)違法・不当な目的のために法人格を濫用されている場合には、その法人格を否認されることもあり得る(参考:昭和44年2月27日最高裁判決)。(1)は、背後の実体たる親会社が子会社を現実的・統一的に支配しうる地位にある場合が該当する。具体例として、実質的に親会社の一部門に過ぎないとして子会社の法人格が否認され、親会社に雇用契約が承継されるとの判断が下された裁判例(昭和50年7月23日徳島地裁判決など)がある。(2)の典型例としては、労働組合を嫌忌して子会社Aを解散させ従業員を解雇した親会社に対し、裁判所が当該解雇を「不当労働行為」と判断したうえで、親会社が新規に設立した子会社Bでの雇用を命じた事案(平成元年10月26日大阪高裁判決)が挙げられる。

結論として、子会社従業員の大規模なリストラをしたり子会社自体を解散したりするかどうかは親会社の経営上の判断によるとしても、子会社の従業員を“自動的に”解雇できるわけではないということだ。子会社の従業員の雇用を維持するべく他のグループ会社への転籍を模索するなど、最大限の努力を払うのが親会社の責務と言えよう。