2025/10/02 牧野フライス製作所事件決定への批判(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

2025年6月9日のニュース「同意なき買収に対する“時間稼ぎ”」で触れたとおり、東京地裁は、ニデックの同意なきTOBに対し牧野フライス製作所の取締役会が導入した「時間を確保するための対抗措置」を認めるという、牧野フライスにとって有利な決定を下した。しかし、この決定に対しては学者など専門家から多くの批判の声が上がっており、賛成意見の方が少ないのが現状だ。現時点では以下のような批判がある。

●同意なき買収に直面した取締役会が確保しようとする「時間」は、①株主が買収に応じるかどうかを判断するための時間、②取締役会が買収に対する意見を形成・公表するための時間、③取締役会が代替案(他の買収提案など)を探索等するための時間――に分類できるが、このうち③の時間を確保することについては、より良い(より高い価格で買ってもらえるなど)買収提案が出てくるのであれば株主にとって利益となる一方、取締役会が濫用的な使い方をすることが懸念される。具体的には、時間をかけることで当初の買収提案が成立しにくくなる(あるいは撤回される可能性が高くなる)ため、取締役会は「もっと良い提案が出て来るかもしれない」と言いながら、気に入らない買収提案を潰すために時間を使うことも可能になる。

●ニデックの買収提案よりも有利な競合提案が出て来た場合、当該競合提案自体によって牧野フライスの株主が享受し得る利益は拡大されるとはいえ、ニデックがTOBを撤回する可能性が考慮されていない。ニデックがTOBを撤回したとしても、競合提案が実現するとは限らない(条件が合わず、途中で撤回されるなど)。仮に実現しなかった場合、ニデックによるTOBもなくなり、競合提案も成立しないという最悪のケースに至ることもあり得る。その結果として、 株主はニデックのTOBが成立していれば確実に得られていた利益(売却益)を失うことになるうえに、競合提案も実現しなければ株価が大きく下がる可能性がある。

●どの程度の時間稼ぎなら「合理的」と言えるか判断できないため、不確実性を嫌う買収者は最初から同意なきTOBを仕掛けなくなる。

●経済産業省が2023年8月に公表した「企業買収における行動指針」は、TOB期間の上限と同じ期間(原則60日営業日)の買収の実行停止を求めることには「一定の合理性がある」としつつ、これを超える場合には「個々の事案に応じて十分に検討・説明がなされるべきである」としているが、濫用の懸念や望ましい買収の抑制を防ぐ観点から、取締役会から積極的な正当化事由が示されない限り、これを超える時間の確保は認められないものとする方が望ましい。

●対抗措置が認められるのは、競合提案がなされるとの蓋然性が生じ、または高まっていると言える場合(①競合提案の確保を目指して事業計画を新たに策定し、証券会社等を通じて競合提案候補者を探索したこと、②その結果、競合提案候補者から競合提案を検討するとの意向を表明する書面の提出を受けたこと、③その後も、資産査定(デューデリジェンス)を実施するなど競合提案を検討中の競合提案候補者が現存し、会社も当該候補者に対して速やかに最終的な競合提案を行うよう交渉していること)に限られるが、それで十分ということではない。たとえニデックのTOBが撤回されたとしても競合提案が実現する見込みはあるのか、実現するとしたら、買収価格はニデックのTOB価格と同水準なのか、あるいはそれを上回るのか、仮に上回るとすればどの程度上回るのか。競合提案により株主にとってどれだけ条件が改善するのかを慎重に検討すべき。

●ニデックによるTOBでは、「全部買付け」「買収対象会社の総議決権の過半数に相当する株式の応募があること」を成立要件としたうえで、TOB成立時にはTOB価格と同額でTOBに応募しなかった株主のスクイーズアウトを実施することを予告し、かつ、TOB成立に必要な応募が得られた場合にはその旨を公表した上で、追加応募期間を設けている。このような株主が「強圧性」を受けない状況で買収への賛否を表明できるように配慮した「オール・オア・ナッシング」型のTOBでは、株主自身がTOBに応募するかどうかを判断することで買収の成否が決まるため、対抗措置は不要である。


強圧性 : 企業価値の減少が予想されるTOB(公開買付け)において、一般株主が経済的に損をする可能性があるにもかかわらず、TOBに応募するインセンティブが生じる状況を指す。TOBを巡る課題の一つとなっており、金融庁・金融審議会の「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」では、強圧性のおそれを解消・低減させる措置として、全部買付義務の閾値(現行は3分の2)を引き下げる措置などが議論されたが、反対意見もあり、提言までには至っていない。
オール・オア・ナッシング : 一定の応募条件が満たされた場合にのみTOBが成立するという方式。

いずれももっともな指摘と言える。これらの批判の背景には、同意なき買収は、①経営資源の効率的配分を促進するとともに、②会社経営に対する規律効果を有するという考え方がある。経済産業省も同様の考え方を持っている。「企業買収における行動指針」では、「買収によるシナジーの実現や、非効率な経営の改善などは、企業価値を本源的価値に近付け、又は本源的価値を高めるための、経営にとっての一つの重要な手段」であり、「買収の可能性があることは、現在の経営陣に対する規律として機能する」と指摘するとともに(2.2.1)、そもそも「オール・オア・ナッシングのTOBを用いる場合には、対抗措置の必要性は一般的には乏しいと考えられ、対抗措置の発動は抑制的に考えることが、望ましい買収を阻害しないためには有益である」と指摘している(別紙3の2(1)c)。

商事裁判の世界では、裁判所の依拠した考え方が何らかの意味で明らかに誤りであることは珍しくなく、これを学者が修正し、その後、裁判所の考え方が変わることが多い。牧野フライス製作所事件決定の判断枠組みが、学者からの批判を踏まえ、今後の裁判で修正されるか否かはわからないが、これだけ批判が多いこと踏まえると、その可能性は否定できないだろう。

もっとも、取締役会が行うことは何も変わらない。平時より、投資家から調達した資本を有効活用し、価値を向上させ、それを株価に反映させる努力をすることが最も有効な「対抗措置」であり、たとえ有事に「時間稼ぎ」をして裁判に勝ったとしても、後味の悪い結果となる。

2025/10/01 JCGR(日本コーポレートガバナンス研究所)が2025年度JCGIndex調査を実施中です。

上場会社役員ガバナンスフォーラムと協力関係にあるJCGRが、東京証券取引所プライム上場会社を対象に、個別企業のコーポレートガバナンスの状態を調査しインデックス化する「JCGIndex調査」を、本年度も実施しております。

ご回答いただいた各社には、企業ご自身のJCGIndexをご報告いたします。また、ご回答結果を取りまとめたフィードバック資料(全体版)が、回答各社に無料で配布される予定です。

質問票はウェブサイト(下記)よりDLいただけます。記入いただいた質問票は survey@jcgr.org にファイル添付にてお送りください。

締切は当初10/10となっておりましたが、今般10/31までの延長がリリースされました。自社コーポレートガバナンスの現在地を確認するためにも、奮っての参加を是非ご検討ください。

詳細はこちら

2025/10/01 【2025年10月の課題】2025年6月株主総会 議決権行使結果の個別開示を踏まえた機関投資家の動向

2025年10月の課題

本年6月総会に係る主要機関投資家の議決権行使結果の個別開示を踏まえ、以下の2つの観点から機関投資家の動向について検討してみてください。

①会社提案議案(特に取締役選任議案)に対する機関投資家の行使判断
②株主提案議案(特にアクティビスト提案議案)に対する機関投資家の行使判断

【主要機関投資家の議決権行使結果の個別開示】
アセットマネジメントOne
アモーヴァ・アセットマネジメント(旧日興アセットマネジメント)
大和アセットマネジメント 
野村アセットマネジメント
ブラックロック・ジャパン 
三井住友DSアセットマネジメント
三井住友トラスト・アセットマネジメント
三菱UFJアセットマネジメント
三菱UFJ信託銀行 
りそなアセットマネジメント

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2025/09/30 2025年9月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
「ステマ規制に関する確約計画の認定」と「ステマ規制違反の認定」は明確に異なります。確約計画の申請・認定は、直ちに「クロ」と断定されることを回避した形で(いわば「クロ」でも「シロ」でもない「グレー」として)自主的に是正を進める方法であり、一方、「ステマ規制違反の認定」は「クロ」と断定されることになるという違いがあります。

こちらの記事で再確認!
2025年9月26日 味の素によるステマ告示への対応、RIZAPや大正製薬との違い(会員限定)

2025/09/30 2025年9月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
「ステマ規制に関する確約計画の認定」と「ステマ規制違反の認定」は明確に異なります。確約計画の申請・認定は、直ちに「クロ」と断定されることを回避した形で(いわば「クロ」でも「シロ」でもない「グレー」として)自主的に是正を進める方法であり、一方、「ステマ規制違反の認定」は「クロ」と断定されることになるという違いがあります。

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2025年9月26日 味の素によるステマ告示への対応、RIZAPや大正製薬との違い(会員限定)

2025/09/30 2025年9月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
買収時のデュー・デリジェンスが不十分であれば、リスクの洗い出しと価格への反映も不十分になり、結果として高値掴みになりかねません。

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2025年9月22日 【失敗学第135回】コレックホールディングスの事例(会員限定)

2025/09/30 2025年9月度チェックテスト第9問解答画面(正解)

正解です。
買収時のデュー・デリジェンスが不十分であれば、リスクの洗い出しと価格への反映も不十分になり、結果として高値掴みになりかねません。

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2025年9月22日 【失敗学第135回】コレックホールディングスの事例(会員限定)

2025/09/30 2025年9月度チェックテスト第8問解答画面(不正解)

不正解です。
有価証券報告書は、虚偽記載に対して金融商品取引法上の厳しい罰則が設けられていることから、その信頼性は法的に強く担保されています。一方で、企業側には「法令遵守のための書類」「最小限の情報を開示すればよい」といった固定観念が根強く、将来の見通しや独自の戦略といった不確実性を含む情報の開示には依然として慎重な姿勢が見られます。もっとも、有価証券報告書に不確実性を伴う情報を記載することが禁止されているわけではありません。実際、カゴメや大和ハウス工業の有価証券報告書のように、不確実性を含む情報を工夫して織り交ぜて開示する事例も存在します。そのような開示こそが、投資家のニーズに応え、企業の透明性や信頼性を高めることにつながるといえるでしょう。

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2025年9月17日 有価証券報告書の“統合報告書化”は進むか(会員限定)

2025/09/30 2025年9月度チェックテスト第8問解答画面(正解)

正解です。
有価証券報告書は、虚偽記載に対して金融商品取引法上の厳しい罰則が設けられていることから、その信頼性は法的に強く担保されています。一方で、企業側には「法令遵守のための書類」「最小限の情報を開示すればよい」といった固定観念が根強く、将来の見通しや独自の戦略といった不確実性を含む情報の開示には依然として慎重な姿勢が見られます。もっとも、有価証券報告書に不確実性を伴う情報を記載することが禁止されているわけではありません。実際、カゴメや大和ハウス工業の有価証券報告書のように、不確実性を含む情報を工夫して織り交ぜて開示する事例も存在します。そのような開示こそが、投資家のニーズに応え、企業の透明性や信頼性を高めることにつながるといえるでしょう。

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2025年9月17日 有価証券報告書の“統合報告書化”は進むか(会員限定)

2025/09/30 2025年9月度チェックテスト第7問解答画面(不正解)

不正解です。
問題文のとおり、日本では、新規上場(IPO)社数が上場廃止社数を上回っていますが、米国では上場廃止社数がIPO社数を上回っています。欧州も同様です。

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2025年9月16日 上場市場の機能とM&Aの“究極の”役割(会員限定)