<解説>
内部監査部門の計画の理解に必要となるJ-SOXの評価範囲に関する知識
社内では内部監査による監査と監査役(監査等委員)による監査の2つの監査が併存していますが、お互いの監査の実効性を高めるために、両部門の連携が不可欠になります。連携の前提として内部監査部門と監査役がそれぞれの監査計画の調整を行う必要が生じますが、日本監査役協会のアンケート調査結果によると、内部監査部門が監査役と監査計画等について何らかの形で調整を行っている上場会社は84%(2019年)にのぼっています(こちらを参照)。
内部監査部門はJ-SOX対応も監査の柱としていることから、当然のことながらJ-SOXについても対象や範囲が監査計画に織り込まれることになります。そこで監査役としては内部監査部門との監査計画の調整にあたり、J-SOXの対象範囲についての基本を理解しておかなければ、内部監査部門の監査計画の内容を正しく理解することもできず、連携も不十分なものとなりかねません。また、管理担当取締役としても自社グループのJ-SOX対応がどのようになっているのかを理解しておく必要があるのは当然のこととなります。代表取締役等の経営者も内部監査計画を承認するにあたっては、J-SOXの評価範囲を正しく理解しておかなければなりません。そこで、本稿では経営者や監査役が内部監査部門の監査計画を正しく理解できるために必要となるJ-SOXの評価範囲の知識について解説いたします(J-SOXの制度については【役員会 Good&Bad発言集】J-SOX対応の現況を参照してください)。
J-SOXのルールを定める「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」では、財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準のⅡ2(2)において、次のように定められています。
| 経営者は、全社的な内部統制の評価を行い、その評価結果を踏まえて、業務プロセスの評価の範囲を決定する。 なお、全社的な内部統制については、以下の「業務プロセスに係る評価の範囲の決定」において記述する手順により評価の範囲を決定する対象には含まれず、原則として、全ての事業拠点について全社的な観点で評価することに留意する。 ただし、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点に係るものについて、その重要性を勘案して、評価対象としないことを妨げるものではない。 (注1)「財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点」の判断については、例えば、売上高で全体の95%に入らないような連結子会社は僅少なものとして、評価の対象からはずすといった取扱いが考えられるが、その判断は、経営者において、必要に応じて監査人と協議して行われるべきものであり、特定の比率を機械的に適用すべきものではないことに留意する。 (注2)「財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点」の判断については、例えば、売上高の一定比率といった基準を全ての連結子会社に適用するのではなく、各連結子会社の事業の内容等に応じ、異なる基準を適用する方法も考えられる。 〔業務プロセスに係る評価の範囲の決定〕 主として経理部門が担当する決算・財務報告に係る業務プロセスのうち、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、全社的な内部統制に準じて、全ての事業拠点について全社的な観点で評価することに留意する。 (注)全社的な観点で評価することが適切と考えられる決算・財務報告プロセスには、例えば、以下のような手続が含まれる。 ・総勘定元帳から財務諸表を作成する手続 ・連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続 ・財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続 ただし、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点に係るものについて、その重要性を勘案して、評価対象としないことを妨げるものではない。 上記以外の業務プロセスについては、以下の手順で評価範囲を決定する。 ① 重要な事業拠点の選定 企業が複数の事業拠点を有する場合には、評価対象とする事業拠点を売上高等の重要性により決定する。例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とする。 (注1)事業拠点は、必ずしも地理的な概念にとらわれるものではなく、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店のほか、事業部等として識別されることがある。 また、事業拠点を選定する指標として、基本的には、売上高が用いられるが、企業の置かれた環境や事業の特性によって、異なる指標や追加的な指標を用いることがあり、例えば、銀行等の場合には、経常収益という指標を用いることが考えられる。 (注2)一定割合をどう考えるかについては、企業により事業又は業務の特性等が異なることから、一律に示すことは困難であると考えられるが、全社的な内部統制の評価が良好であれば、例えば、連結ベースの売上高等の一定割合を概ね2/3程度とし、これに以下②で記述する、重要性の大きい個別の業務プロセスの評価対象への追加を適切に行うことが考えられる。なお、連結ベースの売上高に対する一定割合ではなく、内部取引の連結消去前の売上高等に対する一定割合とする方法も考えられる。 この一定割合については、当該事業拠点が前年度に重要な事業拠点として評価範囲に入っており、イ)前年度の当該拠点に係る内部統制の評価結果が有効であること、ロ)当該拠点の内部統制の整備状況に重要な変更がないこと、ハ)重要な事業拠点の中でも、グループ内での中核会社でないなど特に重要な事業拠点でないことを確認できた場合には、当該事業拠点を本年度の評価対象としないことができると考えられる。その場合、結果として、売上高等の概ね2/3を相当程度下回ることがあり得る。 (注3)関連会社については、連結ベースの売上高に関連会社の売上高が含まれておらず、当該関連会社の売上高等をそのまま一定割合の算出に当てはめることはできないことから、別途、各関連会社が有する財務諸表に対する影響の重要性を勘案して評価対象を決定する。 |
ここで重要になるのは「事業拠点」という概念です。注1に「事業拠点は、必ずしも地理的な概念にとらわれるものではなく、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店のほか、事業部等として識別されることがある。」とあるように、「地理的な概念にとらわれるものではない」という点には留意が必要です。この点について、日本公認会計士協会の監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」には、次のような記述があります。
| 事業拠点は、企業集団を構成する会社単位で捉えることが多いと考えられるが、必ずしも地理的な概念や法的な組織区分にこだわる必要はなく、経営者が企業集団の経営管理(権限委譲の状況や事業上のリスク、プロセスや経営管理手法の同質性等を含む。)の実態に応じて事業拠点を識別しているかどうかを検討する必要がある。 例えば、企業集団が事業部制により運営されており、事業部ごとに特色ある事業と管理体制がとられている場合は、各事業部で管理している子会社を含めて各事業部を事業拠点として捉えた方が適切な場合もある。また、各都道府県や地域ごとに販売会社を設立している場合は、販売会社をまとめて一つの事業拠点として捉えた方が適切な場合もある。 |
経営者や管理担当取締役、監査役としては、内部監査部門がどのようなくくりで事業拠点を識別したうえで内部監査計画を立案しているのかをヒアリングする必要があります。
また、上で紹介した財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準には、「95%」と「概ね2/3程度」という2つの数値基準が示されている点も見逃せません。これらの数値基準はあくまで「参考値」に過ぎませんが、実務上はある程度の縛りを持った値として機能しているのも事実です。そこで経営者や管理担当取締役、監査役は、内部監査部門が計画している評価範囲のカバレッジを確認して、「参考値」を大きく下回る値を内部監査計画で設定している場合はその理由について尋ねておくことが必要になると言えます。
これに関して、金融庁総務企画局がまとめた「内部統制報告制度に関するQ&A」のQ3には次のようなQ&Aが記載されています。
| (問3)【全社的な内部統制の評価範囲】 「全社的な内部統制については、原則として、すべての事業拠点について評価する。ただし、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点に係るものについて、その重要性を勘案して、評価対象としないことを妨げるものではない。」(実施基準Ⅱ2(2))とあるが、「僅少である事業拠点」は、具体的には、どのように判断すると考えられるか。例えば、売上高で 95%に入らないような連結子会社は僅少としてはずして良いか。 (答) 財務報告に対する当該事業拠点の影響の重要性を勘案して、経営者において、必要に応じて監査人と協議して、判断されるべきものであり、その判断基準について、一概に言うことは適切でないと考えるが、例えば、売上高で全体の 95%に入らないような連結子会社は僅少なものとしてはずすといった取扱いは一般的なものであると承知している。なお、決算・財務報告プロセスのうち全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについても同様の取扱いが考えられる。 |
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
監査役C:「J-SOXはそういうものだと割り切って、子会社はむしろ業務監査で対応すべきではないでしょうか。」
(コメント:J-SOXはリスクアプローチに基づき重要性の低いところへの監査リソースの配分を避ける仕組みを採用しています。内部監査の仕事はJ-SOX監査だけではありません。J-SOX監査が“今風”にシステマティックに行われるのに対し、業務監査は泥臭く古風な側面があることから、業務監査の重要性が見過ごされがちになっていますが、業務監査にはJ-SOXが漏らした事項を拾い上げるという役割もあります。NK社では子会社を重要な拠点に含めないというJ-SOXの対応方針になっており、そのこと自体が合理性を欠くものでなければ(「95%」と「概ね2/3程度」という2つの数値基準をクリアしている場合)、そこから漏れた子会社を業務監査でカバーしていくという考え方は、J-SOXの限界や業務監査の重要性を理解したうえでのGood発言です。)
「なぜ、内部監査の計画でJ-SOXの全社統制に係る監査は親会社のみを評価範囲としていて、子会社が1社も入っていないのですか。いくら重要性が低いからと言って、子会社の全社統制を一切チェックしないのは手抜きと思われても致し方ないかと思います。」
(コメント: J-SOXの全社統制の評価範囲について売上を基準に判定する場合、親会社の売上高が連結売上高の95%を超えていれば、子会社を全社統制の評価範囲に加えなくてもルール上は問題ありません。監査役Aの発言はJ-SOXへの理解が乏しいBad発言です。)
「全社統制だけでなくJ-SOXの業務プロセスに係る監査でも子会社は評価範囲に含まれていませんね。連結経営の観点からいかがなものかと考えます。」
(コメント:業務プロセスには3分の2基準が適用されるので、親会社の業務プロセスだけが選定されるということは十分に考えられる事態です。J-SOXの評価範囲は連結経営とは何ら関係がないことから、Bad発言と言わざるを得ません。)
