近年、取締役等への退職慰労金支給議案について機関投資家の賛成を得るのはますます厳しくなっているが(2020年9月24日のニュース『議決権行使結果の個別開示で判明、「平均反対率」が最も高い運用機関は?』参照)、当フォーラムがTOPIX100採用企業の2019年度版有価証券報告書(以下、有報)における役員報酬に関する記載を分析したところ、取締役等の退任時に何らかの退職時報酬を計上した企業は4社にとどまることが判明した。下表は4社の退職時報酬の概要である。
| 会社名 |
機関設計 |
報酬内容 |
対象 |
人数 |
金額 |
| SMC |
監査役会設置会社 |
退職慰労金 |
社内取締役 |
9人 |
3千5百万円 |
| 三菱商事 |
監査役会設置会社 |
積立型退任時報酬 |
社内取締役 |
9人 |
9千7百万円 |
| 三菱電機 |
指名委員会等設置会社 |
退任慰労金 |
社内取締役 |
3人 |
4千6百万円 |
| 執行役 |
21人 |
2億7千3百万円 |
| 社外取締役 |
6人 |
1千3百万円 |
| ソニー |
指名委員会等設置会社 |
株式退職金 |
社外取締役 |
3人 |
1億1千1百万円 |
積立型退任時報酬 : 毎年基本報酬の一定割合の金額を積み立て、役員の退任時に累計額を算出し、取締役会で支給額を決定の上、支給するもの。
近年批判を浴びて来た典型的な退職慰労金を支給したのがSMCだ。一般に退職慰労金は在任期間に応じて金額が高くなるように設計されており、また、金額決定プロセスが不透明であることが多い。役員報酬に適切なインセンティブ性を求める観点から、同種議案に対しては機関投資家が積極的に反対行使しており、これを受けて同制度の打切りが進展している(なお、打切り支給議案に対しても、制度自体に対する批判票なのか、機関投資家による反対行使が目立つ)。
打切り支給 : 退職金制度の変更や役員への昇格、定年延長による雇用形態の変更などに伴い、「在職中」に退職金を支払うこと。
上記の流れを受けて、SMCは本年6月の株主総会で、2名の退任取締役に対する退職慰労金の贈呈議案と共に、制度廃止に伴う打切り支給の議案を上程した。もっとも、前者の賛成率は84.3%、後者は88.1%を確保しており、過半数を外国人投資家が占める同社の株主構成を勘案すると、相当に“健闘”した数字とも言える。これは、同社が株主総会招集通知(以下、招集通知)において退任者2名に対する合計支給金額の上限を6億5千8百万円、打切り支給対象者6名に対する打切り支給の合計額を2億6千1百万円と開示したことが、「一定の透明性を確保している」と評価されたのだろう。
一方、三菱商事の積立型退任時報酬は、昨年6月の株主総会に関する招集通知において、「職務執行の対価として、毎年基本報酬の一定割合の金額を積み立て、役員の退任時に累計額を算出し、支給額を取締役会で決定の上、支給」するものと説明されている。すなわち毎年の基本報酬の一部を後払いにしたものであり、いわゆる退職慰労金とは別のものと理解できる。積立型退任時報酬は株主総会において賞与を除く全報酬の枠の中で承認されており、当該承認以降は取締役会決議によって支給することが可能となっている。
三菱電機の退任慰労金は、有報で「報酬月額及び在任年数等に基づき」金額が決まると説明されており、一見するとSMCの退職慰労金と変わらない。ただし、同社は指名委員会等設置会社であるため、株主総会の決議を経ることなく報酬委員会で退職慰労金の支給を決定することができる。同社の報酬委員会は会社法に従って過半数が社外取締役で構成されているのみならず、委員長も社外取締役が務めるなど独立性が高いことから、退任慰労金についても株主から一定の理解を得られる可能性があろう。
ソニーの株式退職金は、有報で退任者に対する金額だけを計上しているとおり、直近年度における該当者は社外取締役のみだったが、その対象には社内取締役および執行役も含まれる。ソニーも三菱電機と同じく指名委員会等設置会社であるため、株主総会の決議を経ることなく報酬委員会が株式退職金の支給を決定できる。さらに、有報で支給額について「在任年度ごとに報酬委員会にて定められるポイントを上級役員に付与し、退任時にその累積数に当社普通株式の株価を乗じて算出される金額」と説明しているとおり、ソニーの株式退職金は株式を活用したインセンティブ報酬の側面も備えていることから、株主の支持を得やすいと評価できる。
後払いの報酬制度そのものは、適切に設計・運用すれば「長期的なインセンティブ報酬」として機能することも十分に考えられる。問題となるのは決定プロセスの不透明性であり、退職時報酬を一律に“悪”とみなす必要はないだろう(2017年9月13日のニュース「“退任後給付スキーム”に復活の余地」参照)。上記の各社事例はいずれも株主の理解を得るための工夫の跡が見えるものと言えそうだ。