2020/10/26 KAM導入で高まる会社法監査への任意適用と有報開示早期化へのプレッシャー(会員限定)

周知のとおり上場会社には2021年3月期からKAMが強制適用されるが、KAMは投資家との対話におけるテーマとなることは間違いないだけに、経営陣としては、監査人が自社のKAMとしてどのような項目を選定するのか大いに気になるところだろう。

自社のKAMを予想するうえで参考になるのが、早期適用会社の事例だ。日本公認会計士協会が2020年10月12日に公表した監査基準委員会研究資料第1号「「監査上の主要な検討事項」の早期適用事例分析レポート」(以下、KAM早期適用事例分析レポート)には、KAMを早期適用した48社()のKAMを様々な角度から分析した結果がまとめられており、これからKAMが適用される上場会社にとっては参考になることが多い。KAMの早期適用事例におけるKAMの個数や内容については既に2020年7月2日のニュース「速報 KAMを記載した2020年3月決算企業の社数・属性、KAMの数と内容」でお伝えしているため、本稿ではKAMの個数・内容以外の点についてレポートする。

 KAM早期適用事例分析レポートが対象にした48社は、2020年3月期までにKAMを早期適用した上場会社等(金融商品取引法監査が適用される非上場会社3社を含む)の金融商品取引法監査の適用会社に加えて、株主総会の延期等により2020年7月から9月にかけて有価証券報告書を提出した上場会社である。

金融商品取引法監査が適用される非上場会社 : 1億円以上の発行価額で「50名以上の者を対象にした新たに発行される有価証券の取得の申込の勧誘(有価証券の募集)」や、1億円以上の売出価額で「50名以上の者を対象とした既に発行された有価証券の取得勧誘(有価証券の売出)」を行った会社は、有価証券報告書の提出が義務付けられている。

まず経営陣が理解しておきたいのは、KAMの導入により、会社が公表していない情報が監査報告書に記載される可能性があるということだ。監査基準の改正に過ぎないKAMに投資家の注目が集まっている理由も、これまで会社が明らかにして来なかった“何か”が露わになることを期待しているからに他ならない。これを裏付けるのが、企業会計審議会が2017年に26社の協力を得て実施したKAMの試行結果だ。それによると、会社が公表している情報だけでKAMを記載するのは困難なケースが見受けられたことが報告されている。とりわけ日本の会計基準適用会社ではその傾向が顕著に見られ(KAM早期適用事例分析レポートの7ページの図表6参照)、その理由として、日本の会計基準が求める開示が国際会計基準(IFRS)や米国会計基準と比べて十分でないことが挙げられている。

しかし、財務諸表でも触れていない情報を監査報告書でいきなり開示するというのは、従来の監査報告書の実務ではありえなかった事態であるだけに、監査人としても避けたいのが本音と言える。こうした状況に鑑み、企業会計審議会はKAMに関する監査基準の改訂に際し、「監査人が「監査上の主要な検討事項」を記載するに当たり、企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場合」の対応方法として、下記のとおり経営者に追加の情報開示を促すことなどを推奨していた。

企業会計審議会「監査基準の改訂について」(2018年7月5日公表)より抜粋
二 主な改訂点とその考え方
1 「監査上の主要な検討事項」について
(5) 「監査上の主要な検討事項」と企業による開示との関係
企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は、経営者による開示を代替するものではない。したがって、監査人が「監査上の主要な検討事項」を記載するに当たり、企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である。この際、企業に関する情報の開示に責任を有する経営者には、監査人からの要請に積極的に対応することが期待される。また、取締役の職務の執行を監査する責任を有する監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待される。(後略)

上記KAM早期適用事例分析レポートの7ページの【図表6】によると、日本公認会計士協会が早期適用事例の監査チーム向けにアンケート調査を実施したところ、日本の会計基準適用会社の監査報告書に記載されたKAM合計54個のうち監査チームが「当該会社の監査に固有の状況を記載しようとすると、会社が未公表の情報を記載せざるを得なかった」と回答したKAMは1個に過ぎず、投資家からすれば一見“拍子抜け”の結果となった。このアンケート結果を受け同レポートは、「企業が未公表のセンシティブな情報が開示されたものではなかった」と結論付けている。

逆に言えば、会社が公表していない情報を監査人がKAMに記載するのは異例なことだけに注目を集めるのは間違いない。また、早期適用事例で会社が公表していない情報でKAMに記載されたのが54個のKAMのうち1個に過ぎなかったからといって、「KAM導入により会社が隠していた情報が露わになる」という投資家の期待が完全に裏切られたわけではない。というのも、監査人が経営者に追加の情報開示を促した結果、KAMではなく、財務諸表や定性的情報の記述が充実したことで、結果として会社が公表していない情報をKAMとして記載することを回避できたケースが多かったものと思われるからだ。実際に早期適用事例の監査に従事した監査チームへのインタビューにより、「KAMの記載に未公表情報が含まれていないかどうか細心の注意を払い、慎重に検討した。監査の初期段階から、開示も含めて会社とコミュニケーションを実施したが、KAMの記載に未公表情報が含まれる場合には、会社と有価証券報告書又は適時開示等の開示に関して協議を行い、全て公表情報として開示してもらった。その結果、KAMの記載には未公表情報は含まれていない。」との声も聞かれた(早期適用事例分析レポートの別紙4の86ページ参照)。結果として、KAMの導入により、会社が自ら投資家に開示する情報が充実したとも言える。

ただし、注意したいのはKAMの導入により必ずしも注記情報が充実したとは言い切れない面もあるという点だ。KAM早期適用事例分析レポートの7ページの【図表6】では、「監査対象の財務諸表に記載されている情報に基づき、当該会社の監査に固有の状況を記載できた」と評価されたKAMは28個に過ぎず、「財務諸表に開示のない情報ではあるが、会社が公表している情報を利用して、当該会社の監査に固有の状況を記載できた」と評価されたKAMは22個もあった。後者の「財務諸表に開示のない情報ではあるが、会社が公表している情報」とは有価証券報告書における定性的情報(記述情報=非財務情報)を指している。すなわち、監査人は、財務諸表に記載はないものの定性的情報の充実化により記載された情報を利用することでKAMを記載できたものと考えられる。

記述情報 : 有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」を指す。2019年1月31日に公布・施行された開示府令により、2020年3月期決算企業から記載内容の充実が求められることとなった。

監査報告書の対象が“財務報告”である以上、本来であれば、監査人は会社の財務諸表の注記情報だけを利用し、KAMにおいて当該会社の監査に固有の状況を記載できるのが望ましい。しかし、従来財務諸表の注記で開示して来なかった情報をKAMへの対応を理由に今期から開示すれば継続性が損なわれることもあり、会社側には抵抗感があるのも事実。とりわけ有価証券報告書の財務諸表注記では当期の分だけでなく、比較情報として前期の分もあわせて2期分を表示するため、前期の開示が不足していたかのようにも見えてしまう。また、日本基準における開示実務では注記内容がある程度固まっているため、KAMに完全に対応した注記を記載すると目立ってしまうという問題もある。そこで上記の54個のKAMのうち22個については、継続性がそこまで求められず、かつ、目立ちにくい定性的情報の開示を充実させることにより、有価証券報告書で公表していない情報がKAMに記載されることを回避したものと思われる。その裏では、KAMの記載に至る過程において、経営陣および監査役等と監査人との間で追加的な開示に関する協議が行われ、結果としてKAMの記載に関連する追加的な開示がされていたことが推測される。

KAMを巡るもう一つの問題が、会社法に基づく監査報告書への適用の要否だ。KAMが強制適用されるのは金融商品取引法に基づく監査報告書であり、会社法に基づく監査報告書への強制適用はない。しかし、大半の上場会社が有価証券報告書を株主総会後に提出しているため、株主がKAMを踏まえて株主総会の場で会社と対話しようとすると1年遅れになってしまうという問題がある。この問題を解決するには、会社法の監査報告書にもKAMを任意適用することが考えられる。もっとも、早期適用会社のうち実際に会社法の監査報告書においてKAMを任意で適用したのは1件(三菱UFJフィナンシャル・グループ)だけであった。会社法の監査報告書に任意でKAMを記載するとなった場合、計算書類等または事業報告は有価証券報告書よりも開示の質量ともに薄いだけに、開示を充実させなければ上述した「未公表情報の記載」が論点として浮かび上がることは間違いない。会社法の注記表は1期分のみ(比較情報として前期の注記を記載する必要はない)であることから、開示を充実させることについては有価証券報告書の財務諸表注記よりも会社側の抵抗感は小さいものと思われるが、それでもなお、「適用会社数が少ない」という観点から会社法でのKAM適用に社内で反対の声が聞かれるのであれば、会社法の監査報告書ではKAMを任意適用せずに、有価証券報告書の提出を株主総会前に前倒しするのも一案として考えられる。

どちらを選ぶにせよ、KAMの記載内容について早めに監査人と合意しておき、有価証券報告書のドラフトを例年より早く監査人に提出できるよう開示スケジュールを早期化することが必須となる。あらかじめKAMに対する監査人の意向や投資家の関心をヒアリングしたうえで、早めに意思決定をして早期開示の体制を整備しておくべきと言えよう。

2020/10/23 非上場化において少数株主の反論を封じ込めた事例

利益相反取引などが生じやすいとして親子上場が問題視される中、今後は非上場化する上場子会社が増えることが予想される(親子上場の問題については、2020年10月19日のニュース『パッシブ機関投資家が「親子上場」に関する対話を求めるレター送付』および同記事内で引用されているニュース参照)。・・・

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2020/10/23 非上場化において少数株主の反論を封じ込めた事例(会員限定)

利益相反取引などが生じやすいとして親子上場が問題視される中、今後は非上場化する上場子会社が増えることが予想される(親子上場の問題については、2020年10月19日のニュース『パッシブ機関投資家が「親子上場」に関する対話を求めるレター送付』および同記事内で引用されているニュース参照)。

2004年12月にジャスダック証券取引所(2010年からJASDAQスタンダード市場)に上場した家具メーカーの光製作所の株式は、4つの会社(以下、親会社等)にそれぞれ63.4%、12.2%、12.1%、5.7%ずつ、合計93.4%保有されていた。そして、光製作所の7名の取締役のうち代表取締役をはじめとする6名がいわゆる“創業家取締役”であり、そのうち5名は主要株主である親会社等の取締役を兼任していた。

光製作所は、平成元年(1989年)3月期には273億58百万円あった家具商品部門の売上が平成30年(2018年)3月期には42億86百万円と約6分の1にまで減少するなど事業の縮小傾向が続いていた。こうした中、親会社等は、①短期的な業績変動に過度に捉われることなく、中長期的な視点に立った上で機動的かつ柔軟な意思決定を可能とする経営体制の構築、②上場維持コスト(有価証券報告書等の継続的な情報開示に要する人的負担、株主総会の運営や株主名簿管理人への事務委託に要する金銭的負担)の削減、③当面は借入れによる資金調達によって必要資金を賄うため、エクイティ・ファイナンスの活用による大規模な資金調達の必要性は見込んでおらず、株式上場を維持することの意義を見出しにくい状況にある、などの理由から、光製作所株式を非公開化することについて検討を開始した。

そして、親会社等は光製作所に対し、「株式併合」の実施に向けた協議を申し入れた。親会社等が提案した株式併合は、親会社等をはじめとする主要株主ら以外の株主が保有する株式数が「1株に満たない端数」なる併合比率、具体的には「49,842:1」によるもの(すなわち、49,842株⇒1株になる)。親会社等が提案したこの株式併合は、その後招集された臨時株主総会で可決された。この結果、光製作所の株主数はJASDAQ市場の上場廃止基準(株主数(=1単位以上の株券等を所有する者の数)150人未満)に抵触し、同社は上場廃止となった。

株式併合 : 複数の株式を1株にまとめる(併合)することにより、発行済み株式数を減少させる手法のこと。例えば2:1の割合で株式を併合する場合、1株当たりの理論的な価値(株価)は2倍に調整されることから、株価を上げる要因の1つにもなり得る。ただし、株式併合は少数株主を締め出す結果を招くため、その実施にあたってはその理由を開示するとともに、株主総会の特別決議による承認を得る必要がある。

上場廃止の経緯などをまとめた光製作所のリリースによると、株式併合により同社の株主は上記の4社のみとなる一方、それ以外の株主は1株に満たない端数株式の保有者となり、株主ではなくなる予定となっていた(25ページ~参照)。しかし、実際には、株式併合の結果、株主は上記4社に加え、個人株主(創業者一族ではない模様)が1名残った。本件株式併合に異を唱え、訴訟を提起したのが、この個人株主(以下、原告)だ。

会社法上、取締役会決議を行うにあたり、その決議事項について「特別の利害関係」を有する取締役は、議決に加わることができないことになっている(会社法369条2項)。取締役は会社に対して「忠実義務」を負っているが、取締役会における決議事項についてある取締役が利害関係を持っている場合、当該議決に際してその取締役が適切な判断をしない(すなわち、忠実義務を果たさない)恐れがあるからだ(詳細はケーススタディ「【取締役会等の運営】取締役会に諮りたい案件が出てきた」の「取締役会決議に参加できない取締役も」参照)。上述のとおり、光製作所の取締役7名のうち、代表取締役社長をはじめ6名が創業家取締役であった。そこで、これら6名の創業家取締役は、本株式併合を当社株主総会に付議する議案が上程された取締役会の審議及び決議には参加せず、創業家取締役6名を除いた取締役1名のみの賛同により当該議案は決議された。ただ、「特別の利害関係」について会社法に明確な定義はあるわけではなく、一般的には「取締役が、ある議題について忠実義務を誠実に履行することが定型的に困難と認められる利害関係」とされている。ここでいう「定型的に困難と認められる」とは、取締役個人の立場を優先する(忠実義務を果たさない)可能性が高いことが予測できるケースであり、典型的な例としては取締役との競業取引利益相反取引について取締役会が「承認決議」を行う際の当該取締役は、会社と「特別の利害関係」があることになり、取締役会決議に参加することは認められない。本件では、創業者取締役6名は、会社法上の特別利害関係人に該当しない可能性も否定できなかった。仮に特別利害関係人に該当しない場合、取締役1名のみによる決議では「議決に加わることができる取締役の過半数」という取締役会の定足数(会社法369条1項)を満たさない恐れもあったことから、取締役1名による決議の後、代表取締役社長を除く創業家取締役5名も参加した上で、“再度”本株式併合を株主総会に付議する旨の決議を行った(以上、同社のリリース10ページ参照)。

競業取引 : 会社が営む事業と競合するため、会社と当該取締役との間で利益が衝突する可能性のある営利取引。例えば、取締役が個人的に同業の会社を立ち上げようとしている場合において、その会社が行うこととなる取引
利益相反取引 : 会社の利益を犠牲にして、取締役が自己または第三者の利益を図るおそれがある取引。例えば、代表取締役の資産管理会社が保有する土地を、会社が本社ビル建設用に購入するといった取引
定足数 : 決議を行うために必要な最低限の出席取締役の数。取締役会の定足数はその過半数(定款でこれを上回る割合を定めた場合にあっては、その割合以上)である。

これに対し原告は、光製作所(被告)に対し、「創業家取締役らが特別の利害関係を有しつつ、被告の立場において株式併合に関する株主らとの協議ないし交渉に参加したにもかかわらず、株主総会参考書類に、創業家取締役らが株主らとの協議等に被告の立場において一切参加していないとの虚偽の事実を記載した」とし、さらに創業家取締役を除く1名の取締役についても「平成14年6月に被告の取締役に就任して以来、社長室兼総務部長に就任しており、株式併合の承認等に係る臨時株主総会の招集決議について特別の利害関係を有する者に当たる」と指摘。すなわち、創業家取締役が参加した取締役会決議のみならず、1名の取締役による取締役会決議についても定足数を満たさない(取締役の過半数が出席していない)取締役会において決議された瑕疵のあるものであると主張した。

これに対し裁判所は、被告が、株式併合の実施及び条件等の決定手続における公正性を担保するため、①リーガル・アドバイザーとして弁護士事務所を選任して被告の取締役会の意思決定の方法及び過程等について法的助言を受けつつ株主らとの協議等に臨んでいること、②外部の独立した有識者を構成員とする第三者委員会を設置して、創業家取締役らが株式併合について利害関係を有することを前提に、同委員会に対して意見陳述のみならず株主らとの交渉する権限をも付与し、第三者委員会答申書記載の意見を受けて取締役会において株式併合を株主総会に付議することを決議しているに着目。「被告においては、株式併合に係る意思決定手続の公正性を担保するための措置が取られているというべき」との判断を示している。

また、原告が、創業家取締役でない取締役1名の賛成により臨時株主総会の招集決議が行われたことについて、定足数を満たさない(取締役の過半数が出席していない)取締役会において決議された瑕疵のあるものと主張していることに対しては、「特別の利害関係を有する取締役を除いた残りの取締役会の総数の過半数の者が出席している以上、取締役1名のみを定足数算定の基礎として、特別の利害関係を有しない取締役1名のみにより有効に決議をなし得る」との解釈を示し、この点についても原告の主張を斥け、各株主総会決議の招集手続に瑕疵はないと結論付けている。

光製作所のケースは、親会社等が合計で93.4%の株式を保有していた特殊なケースではあるが、本件判決は、非上場化やその手法について少数株主からの反論を封じるためには、リーガルアドバイス、第三者委員会という「意思決定手続の公正性を担保するための措置」がとられていることが重要であることを示したという点、今後非上場化を考える上場会社にとっては参考になる事例と言えよう。

2020/10/22 「女性役員比率」に対する投資家の本音

今月(2020年10月)20日から再開した金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、東証が新設するプライム市場への上場会社に対して課される「より高い水準」のコーポレートガバナンス・コードが検討されるが、その論点の一つとなる可能性があるのが、女性取締役の選任だ(2020年9月14日のニュース『東証の調査結果から想定される「より高い水準」のガバナンス規制』参照)。東証が(2020年)9月7日に公表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」によると、JPX日経400構成銘柄のうち女性取締役を選任している会社は72%に達している。この実態を踏まえ、・・・

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2020/10/22 「女性役員比率」に対する投資家の本音(会員限定)

今月(2020年10月)20日から再開した金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、東証が新設するプライム市場への上場会社に対して課される「より高い水準」のコーポレートガバナンス・コードが検討されるが、その論点の一つとなる可能性があるのが、女性取締役の選任だ(2020年9月14日のニュース『東証の調査結果から想定される「より高い水準」のガバナンス規制』参照)。東証が(2020年)9月7日に公表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」によると、JPX日経400構成銘柄のうち女性取締役を選任している会社は72%に達している。この実態を踏まえ、改訂コーポレートガバナンス・コードには、プライム市場上場会社は女性取締役を「選任すべき」との文言が入ることも考えられる。

前回のコーポレートガバナンス・コードの改訂(2018年6月1日~適用)では【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】において「ジェンダー」を含む多様性が求められ、また、議決権行使助言会社大手のグラスルイスが、2020年の株主総会から東証1部および2部の上場企業すべてを対象に、「女性役員が1人もいない場合、ジェンダー・ダイバーシティの欠如に責任がある取締役の選任議案に反対助言する」とのポリシーの適用を開始するなど、ただでさえ女性役員の登用を求めるプレッシャーが高まっている中、東証の市場改革を見据え、水面下では女性社外役員(特に女性社外取締役)の人選に多くの上場会社が血眼になっている。

東京商工リサーチのデータによれば、2020年3月期決算の上場会社2,240社における女性役員比率は6.0%と、昨年と比べて1%以上上昇しており、3年前と比較すると、約2倍になっている。もちろん、6%という数字は極めて低く、今後もさらなる上昇が期待されるが、少なくともこの数年上昇傾向にあることは間違いない。

ただ、このデータにおける「役員」は「会社法上の取締役、執行役および監査役など」と定義されている。監査役を除くと、女性役員は、社内取締役(執行役員兼務)、社外取締役、執行役員(非取締役)の3つに分けられ、ここでいう「女性役員」の多くは、社外取締役であると推測される。もちろん、女性社外取締役が増えることは、取締役会のダイバーシティの進展であることには違いないが、上場会社が女性役員を増やすよう求める投資家や政府の要求に応えるための比較的容易な解決策として、社外取締役に女性を増やそうとしていることへの懸念は否定できない。

機関投資家である筆者は、それよりも「社内取締役」や「執行役員」に女性が登用されることの方がさらに重要であると考えている。そのためには、将来の役員候補としての女性管理職の育成という長期的な取り組みが必要になる。企業がこうした取り組みを行っても、実際に女性管理職が社内取締役や執行役員に登用されるのは5年後、10年後ということになり、すぐには結果に結び付かないため、現時点で政府や投資家からの要求に応えることはできない。その場合は、こうした女性役員の長期の育成プランの存在を説明し、投資家等を説得することが期待される。安易に女性社外取締役の選任だけで済まそうとする姿勢には問題がある。

女性社外取締役争奪戦の結果、同じ人物が、複数の上場企業の社外取締役を兼務することが多くなっている。欧州ではこの問題は既に5年以上前から指摘されている(2015年11月4日のニュース「欧州で問題化する“ゴールデン・スカート”現象」参照)。この問題の根底には、女性社外取締役候補の人材プールが小さいことがある。これを拡大するという意味でも、各企業内においては、女性の社内取締役や執行役員の登用を進めることが求められる。彼女達は将来、他社での社外取締役候補となるからだ。

グラスルイスは、女性役員がゼロであったとしても、「企業のダイバーシティに対する方針や取組みに関する開示内容等を慎重に吟味し、ジェンダー・ダイバーシティの欠如に対する明確な方針や取組みに関する十分な説明を示した企業に対しては、例外として、反対助言を行わない場合もある」としている(2020年2月17日のニュース「女性役員がゼロでもグラスルイスの賛成推奨を得るための開示」参照)。上述のとおり、社外役員に女性を増やすことは取締役会のダイバーシティの確保という観点から有益ではあるが、一方で女性管理職割合が極端に低ければ、投資家としては、その会社のジェンダー・ダイバーシティへの取り組みの本気度に疑念を持たざるを得ない。経営陣は、今後は「女性役員割合」だけでなく「女性管理職割合」もさらに注目されることを認識するとともに、社内女性役員の長期育成プランを投資家に説明できるようにしておく必要があろう。

2020/10/21 東証が市場再編に向け第一次制度改正を実施、原案との違いは?

東京証券取引所は2020年10月21日、市場再編に向けての第1ステップである「既存市場を前提にした制度改正」(第一次制度改正)に基づく改正有価証券上場規程(以下、改正規則)を公表した(改正規則の概要はこちら、新旧対照表はこちら)。東証は改正規則の公表に先立ち、2020年7月29日から9月11日までパブリックコメントを募集していた(東証のパブコメについては2020年8月4日のニュース「JASDAQ新規上場会社はCGコードがフル適用に」を参照)。

今回の改正では、既存の上場会社が新市場区分に移行する際の手続きや、新市場区分における上場維持基準の詳細、「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」(いわゆる「上場維持基準計画書」。東証が2020年3月31日に公表した『「新市場区分の概要等について」に関するよくある質問と回答(FAQ)』のQ42を参照)の詳細は明らかになっておらず、これらは“第二次制度改正事項”として2020年中に公表される予定。

第一次制度改正における改正規則とパブコメ案を比べてみると、・・・

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2020/10/21 東証が市場再編に向け第一次制度改正を実施、原案との違いは?(会員限定)

東京証券取引所は2020年10月21日、市場再編に向けての第1ステップである「既存市場を前提にした制度改正」(第一次制度改正)に基づく改正有価証券上場規程(以下、改正規則)を公表した(改正規則の概要はこちら、新旧対照表はこちら)。東証は改正規則の公表に先立ち、2020年7月29日から9月11日までパブリックコメントを募集していた(東証のパブコメについては2020年8月4日のニュース「JASDAQ新規上場会社はCGコードがフル適用に」を参照)。

今回の改正では、既存の上場会社が新市場区分に移行する際の手続きや、新市場区分における上場維持基準の詳細、「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」(いわゆる「上場維持基準計画書」。東証が2020年3月31日に公表した『「新市場区分の概要等について」に関するよくある質問と回答(FAQ)』のQ42を参照)の詳細は明らかになっておらず、これらは“第二次制度改正事項”として2020年中に公表される予定。

第一次制度改正における改正規則とパブコメ案を比べてみると、2020年11月1日以後にマザーズに新規上場申請する会社に対し上場後に求められる「事業計画及び成長可能性に関する事項」の定期開示について、パブコメ案では「少なくとも1事業年度に対して1回以上の頻度」とだけ記載されていたところが、確定版では「事業年度経過後3か月以内に少なくとも1回」と開示のタイミングまで明示されたという違いがあるものの、それ以外はすべてパブコメ案のまま確定している。

東証はパブコメで寄せられたコメントに対する考え方も公表している。下表に見られるとおり、原案の修正を求めるコメントが複数寄せられてはいたものの、原案を覆すには至らなかった。

項 目 コメントの概要 コメントに対する東証の考え方
JASDAQスタンダードの新規上場企業は事業継続年数に関する基準として、新規上場申請日から起算して3年前より前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていることを新たに求める。 新規上場申請日から起算して3年前より前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていることを新たに求めることについて、現在想定している上場申請スケジュールを変更せざるを得なくなる。現行の制度を前提に上場準備を行ってきた会社のために配慮をお願いしたい。 ご意見を踏まえて検討いたしましたが、新たな市場区分における「スタンダード市場(仮称)」のコンセプトに基づいてJASDAQスタンダード及び市場第二部の上場基準を共通化する見直しの趣旨を踏まえ、原案どおり、JASDAQスタンダードへの新規上場の場合についても3年の事業継続年数の要件を求めるものといたします。
時価総額が1,000億円以上の上場会社には債務超過に関する上場廃止基準を適用しない。 債務超過の状態である企業は、時価総額の大きさにかかわらず、上場廃止等とすべきではないか。 ※ 当取引所では、財政状態が悪化している会社に対して早期の経営改善・構造改革を促す観点から債務超過に関する上場廃止基準等を設けております。
※ 本改正は、債務超過の状態であっても、継続的な営業キャッシュフロー創出が見込まれる事業や譲渡可能な事業資産の存在などから相応の市場評価を得ている場合(略)について、上場会社における資本戦略・経営戦略の柔軟性を高める観点から、改善期間の制限を設けないこととするものです。(略)
※ なお、時価総額1,000億円以上という水準は、相応の市場評価を得ている場合として、海外の主要な金融商品取引所の定める水準を参考に設定するものです。
上場会社が、新規上場申請及び上場審査において提出した書類に虚偽の記載があり、本来なら上場審査基準に適合していなかったことが明らかになった場合には、1年以内に新規上場審査に準じた上場適格性の審査に適合しなければ、上場を廃止する。 上場前から粉飾決算を行っていた会社について、新規上場基準を一度も満たしたことがないことが判明した場合には、その時点で上場廃止とすべきではないか。 ※新規上場時の申請書類に虚偽の記載があり、申請の際に提出した宣誓書に重大な違反を行ったと認められる場合は、現行の規則でも、直ちに上場廃止とする旨を定めています。
※ 本改正は、直ちに上場廃止とすべき場合には該当しない場合について、新規上場審査に準じた審査により、上場適格性の有無を速やかに確認したうえで、当該審査に適合しない者を適切に選別して上場廃止とすることにより、上場後に取引所金融商品市場を通じて株式を取得した株主の換金機会の提供及び当該市場を信頼して取引に参加する投資者の保護を実現するとともに、上場審査制度の実効性を確保することを狙いとするものです。

また、パブコメでは、上表のような原案に「反対」の姿勢を示すものだけではなく、下表にあるとおり、改正の趣旨・疑問点を尋ねるものや新たな提案も寄せられている。

番号 コメントの概要 コメントに対する東証の考え方 備考
(当フォーラムが追加)
1.本則市場の新規上場基準等の見直し<ガバナンスに関する形式基準>
1 流通株式比率に関する基準について「ガバナンス」に関する基準ととらえる理由は何か。 かねてより、いわゆる「安定株主」については、長期的な取引関係を基礎とし、保有先の上場会社の経営に株主として関与しない傾向があり、経営に対する規律を弱めることが懸念されています。このような「安定株主」以外の株主による一定の割合以上の株式保有を求めることで、上場会社の経営者と機関投資家との間の建設的な対話の基盤が確保され、上場会社のコーポレート・ガバナンスの実効性を高めることが期待されます。(後略) 流通株式の定義の見直し案は、第二次制度改正事項として、2020年内に公表される予定。
<流動性等の早期の改善に向けた取組及びその進捗状況の開示>
3 新たな上場基準の適用を受けて新規上場等を行った会社が、上場後に株式の流通に係る一定の基準を下回った場合には、その早期の改善に向けた取組及びその進捗状況の開示が求められるが、具体的にどの程度の内容が求められるのか。株式の流通の改善に係る施策の多くが、インサイダー取引規制上の重要事実又は適時開示事項に該当することから、そのような施策を取締役会決議前に公表することについては慎重な対応が求められると考えられる。 ※ 上場会社に対し株式の流動性等の早期の改善を促し、投資者に対して投資判断に必要な情報を適切に提供する観点から、改善に向けた取組の開示においては、具体的な取組の内容及びその実施予定時期について記載を求めることを想定しています。
※ 例えば、株主数、流通株式数又は流通株式比率の改善に関しては、公募、大株主による売出し又は政策保有の解消等に向けた方針及びその実施予定時期の目途について、流通株式時価総額の改善に関しては、これらに加えて経営成績等の改善のための事業上の取組内容及びその実施予定時期について、可能な範囲で開示することが考えられます。
※ なお、これらの計画の策定は、上場会社の事業運営上の重要事項に該当すると想定され、開示に際しては、取締役会又は取締役会から委任された業務執行決定機関による検討及び審議が行われることになるものと想定されます。
東証の有価証券上場規程に新たに追加された「流通株式等の改善に向けた計画の開示」に関する下記の規定を前提としたコメントである。

第408条の3
上場株券等がその事業年度の末日において、次の各号に掲げる市場区分に従い、当該各号に規定する場合のいずれかに該当するときは、上場株券等の発行者である上場会社は、当該事業年度の末日から起算して3か月以内に、その状況を解消するための取組み及びその実施時期について記載した計画を開示しなければならない。

3.マザーズの新規上場基準等の見直し<事業計画の開示>
22 「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示」について、当該開示は上場日に行うとされているが、これをⅠの部、有価証券届出書、目論見書の開示日である上場承認日としてはどうか。投資先行型の会社の新規上場や類似会社が少ない新規性の高い会社の上場等を考えた場合、将来の計画に関する情報開示が限られている中で公開価格の決定がなされていることに弊害や限界があるのではないかと考えている。開示時期は従前どおりとするのであれば、株式を公募又は売出しで購入する投資家と上場後に購入する投資家への情報開示の在り方についてはどのように考えるか。 ※ 一般論として、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす情報については、新規上場に際しての株式の募集及び売出しにあたり、有価証券届出書及び目論見書に記載して、投資者に情報開示することが法令によって求められており、「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示」に含まれる内容のうち、必要な事項については、上場承認日に開示される「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」等にも記載される必要があります。
※ したがって、「事業計画及び成長可能性に関する事項」に記載される情報については、その重要性に応じて上記の有価証券届出書及び目論見書等にも記載されることになると考えられます。
※ マザーズの新規上場会社には、これまでも、有価証券届出書又は目論見書の開示に加えて、「成長可能性に関する事項」をわかりやすくとりまとめ、上場日に開示するよう要請しており、「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示」は、そうした実務の制度化と、上場後における進捗状況等の適切な開示を求めることを意図したものとなっています。※ なお、ご指摘いただいた「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示」の開示時期の変更については、募集又は売出しに係る法令上の取扱いとの整合性の確認を要すると考えられますので、今後の実務動向や開示情報に関する投資者ニーズを踏まえつつ、その必要性を検討させていただきます。
上場承認日に「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示」が行われれば、ブックビルディングにおける価格形成がより適切なものとなることが考えられるため、今後の改正が期待される。

ブックビルディング : 株式の取得の申込みの勧誘時において発行価格に係る仮条件を投資家に提示し、株式に係る投資家の需要状況を把握したうえで発行価格等を決定する方法

23 契約等で事業の収益構造に重要な影響を与える条件が定められている場合にその内容を記載するとあるが、料率などセンシティブな情報を明記することは申請会社として抵抗感もあるのではないか。 ※ 投資者が、新規上場申請者の企業グループにおける事業の収益構造を的確に把握することは、合理的な投資判断を促す観点から重要であると考えられます。
※ そのため、「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示」では、契約等で事業の収益構造に影響を与える条件が定められている場合に、その重要性に応じて当該条件を含めた契約等の内容の記載を求めることを想定しています。
※ 例えば、先行投資型のベンチャー企業においては、事業実績から事業の収益構造を把握することが困難であり、本事項の記載は特に重要な意義を有すると考えられます。
※ そのため、新規上場申請者においては、上場準備段階から、契約相手先との間で上場時の開示を前提とした交渉を行うなど、必要な取組を行うことが期待されます。
上場準備中の会社は、将来マザーズに上場する際に「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示」により契約上の料率等が開示されることになる点について、契約相手から合意を取っておく必要がある。

なお、市場区分の見直しに関する今後のスケジュールは下記のとおり。東証が2020年2月21日に公表した「新市場区分の概要等について」において示したスケジュールから変更はない。
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2020/10/20 ISSポリシー改定、“1/3基準”全面適用確実、政策保有は更なる厳格化も

議決権行使助言会社最大手のISSは10月14日、2021年の株主総会における議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案についてオープンコメントの募集を開始している。コメント募集期間は10月26日までとされており、ISSはオープンコメントの結果を踏まえて年内には改定ポリシーを確定するものとみられる。

今回ISSが検討している改定案のポイントは以下の2点。いずれも「2022年」2月から適用を開始するとしており、企業には1年間の猶予期間が与えられる。・・・

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2020/10/20 ISSポリシー改定、“1/3基準”全面適用確実、政策保有は更なる厳格化も(会員限定)

議決権行使助言会社最大手のISSは10月14日、2021年の株主総会における議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案についてオープンコメントの募集を開始している。コメント募集期間は10月26日までとされており、ISSはオープンコメントの結果を踏まえて年内には改定ポリシーを確定するものとみられる。

今回ISSが検討している改定案のポイントは以下の2点。いずれも「2022年」2月から適用を開始するとしており、企業には1年間の猶予期間が与えられる。

① 「監査役設置会社」において取締役の3分の1以上を社外取締役とすること(以下、3分の1基準)を求める
② いわゆる政策保有株式を過度に保有する会社の経営トップの選任に反対する

まず①は、2019年末から指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社について導入した3分の1基準を監査役設置会社にも適用しようというもの。ISSが監査役設置会社について調査したところによると、2020年6月現在、53.7%が3分の1基準を満たしており、2019年時点の40%から「大きく増加」している。ISSは、これは監査役設置会社における取締役会の役割が経営の「執行」から「監督」へと変化していることを示唆しているとする。すなわち、本改定は、監査役設置会社の取締役会にも「監督機関」としての相応な独立性を要求するためのものと言える。

とはいえ、監査役会設置会社の半数弱が未だに3分の1基準を満たせていない状況で、グローバル機関投資家への影響力が強いISSが、たとえ“猶予期間付き”であっても、3分の1基準を監査役会設置会社に適用することはかなり厳しい措置であることは間違いない。しかし、国内外の機関投資家が3分の1基準を相次いで採用していることに加え、ポリシー改定に先立ち実施(結果公表は9月25日)されたサーベイ(2020年8月3日のニュース「ISS、社外取締役1/3基準の全面適用を検討」参照)で、下表のとおり3分の1基準について投資家の86%、市場関係者の79%と大部分が賛成したことから、ISSとしてもポリシーの改定に踏み切らざるを得なかったものと考えられる。

※サーベイの結果報告書26ページより当フォーラムが作成
賛否 回答者
投資家 市場関係者
3分の1基準に賛成 86% 79%
条件によっては賛成 11% 6%
反対 3% 15%

次に②は、「政策保有株式の保有額が純資産の20%以上の場合」を“過度な保有”として、取締役選任議案のポリシーに追加(経営トップの選任に反対)するものである。ISSが日本企業1,500社を無作為に抽出した独自調査を実施したところ、「純資産20%以上」という基準に該当した企業は7%だったという。本ポリシーの適用が開始される2022年には持ち合い解消がさらに進展すると考えられることから、本ポリシーの実質的な影響度はさほど大きくないと言えそううだ。

逆に言えば、ISSは自らのポリシー改定によるインパクトの大きさを勘案し、あえて緩いハードルを設定した可能性もある。上述のサーベイの結果においては、本改定についても投資家の69%、市場関係者の51%が賛成しているが(下表参照)、判断基準については単に「a significant portion(優位な割合)」とされ、具体的な数値が示されいない。しかし昨年のサーベイでは、「20%」でOKとした投資家は16%、市場関係者は13%に過ぎず、「10%」または「5%」への支持を合計すると、投資家では63%、市場関係者では74%に及んでいる(2019年9月13日のニュース「ISS、2020年版ポリシー策定に向けたオープン・コメントの結果を公表」参照)。この点を踏まえると、オープンコメントの結果によっては、例えば「10%」といったより高いハードルに修正される可能性も否定できない点、留意しておく必要があろう。

なお、グラスルイスは2021年から「純資産の10%」を基準とした同様のポリシーの適用を開始する。

※サーベイの結果報告書27ページより当フォーラムが作成
賛否 回答者
投資家 市場関係者
賛成 69% 51%
条件によっては賛成 19% 24%
反対 12% 24%

また、上述のサーベイ(27ページ「16.Director elections – Japan」参照)では、社外取締役と政策保有株式の他に、取締役選任について資本市場からの関心が高いテーマについても質問をしている。その結果、投資家の63%が「女性の選任」に、59%が「過剰な兼任」には、46%が「長期の在任」に高い(high)問題意識を持っていることが分かった。今後のポリシー改定において反映され得るテーマとして認識しておく必要があるだろう。