(2019年)9月1日、令和元年改正会社法(令和元年法律第70号。以下「改正法」という)の施行に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正案が公表され、パブリックコメントに付されたところだ(意見提出期日は9月30日)。パブリックコメントに際して、改正法は2021年(令和3年)3月1日から施行する予定であることが明らかにされている(改正法の全体像は2019年1月16日のニュース「会社法制(企業統治等関係)部会、会社法見直し要綱案を確定」、【WEBセミナー】~上場会社に求められる対応と優先順位~ 「会社法(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」のポイント 参照)。また、株主総会資料の電子提供制度の創設等に関する改正規定は2022年度(令和4年度中)の施行を予定している。
改正会社法施行規則(以下「改正規則」という)の内容が明らかになるとともに、改正法の施行日が2021年(令和3年)3月1日(予定)とされたことから、2021年6月株主総会から対応が必要になる事項が明らかになった。本稿では、来年の株主総会の株主総会参考書類、事業報告の作成に際して対応が求められる記載事項の変更点を解説する。
まず株主総会参考書類については、役員選任議案、役員報酬議案で下記のような記載事項が追加等されるとともに、新たに改正法で導入される株式交付について、「株式交付」計画承認議案の記載事項が明らかにされている。
株式交付 : 株式を交付する会社(これを株式交付親会社という)が他の株式会社を子会社(これを株式交付子会社という)とするため、株式交付子会社の株主(譲渡人)から株式を譲り受け、譲渡人に対して株式交付親会社の株式を交付する組織再編の手法のこと。株式交付とは、分かり易く言えば「自社の株式を対価に、“100%子会社でない子会社”を創る手法」のこと。自社株を対価として子会社を創る手法というと「株式交換」が思い浮かぶところだが、株式交換とはあくまで「100%子会社」を創るための手法であるのに対し、株式交付は100%子会社とすることまでは考えていない場合(例えば議決権の3分の2を取得したい場合)にも使えるという点で、株式交換とは異なる。
【役員選任議案の変更点】
役員選任議案の変更点は下表のとおり。改正法で規定が新設された「補償契約」(詳細は2019年5月29日のニュース「会社補償契約のメリット」参照)や「役員等賠償責任保険契約(D&O保険契約)」についての記載、社外取締役候補者に期待される役割についての記載が新たに求められるとともに、親会社等との関係に関する記載について「記載すべき期間」が伸長される一方、「社外取締役を置くことが相当でない理由」の記載は社外取締役の設置義務化に伴い不要となる。
補償契約 : 株式会社の役員が第三者から損害賠償責任を追及された場合に、会社が損害賠償額や争訟費用を補償することを約する契約のこと。
※1 施行日後に締結される補償契約、D&O保険契約について適用(改正規則附則2条6項)
※2 施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る定時株主総会より前に開催される株主総会の株主総会参考書類の記載については、旧規定が適用される(同条7項)
※3 ※2の株主総会参考書類の記載に係る社外役員および社外取締役候補者には旧規定が適用される(同条8項)
※4 ※1~※3のほか、施行日前に招集の手続が開始された株主総会に係る株主総会参考書類の記載については旧規定が適用される(同条9項)。
| 記載項目 |
概要 |
| 「補償契約」、「役員等賠償責任保険契約(D&O保険契約)」の内容の概要の新設(改正規則74条1項5号、6号等)※1、※4 |
役員候補者との間で補償契約(改正法430条の2)、候補者を被保険者とするD&O保険契約(改正法430条の3)を締結しているときは、それらの契約の内容の概要を記載しなければならない。
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| 役員候補者と親会社等の関係に関する記載事項の拡充(改正規則74条3項3号、4項7号ロ、ハ等)※2、※3、※4 |
記載事項である「役員候補者が過去5年間において親会社等の業務執行者であったこと等を知っている場合」における「過去5年間」を「過去10年間」に伸長する。 |
| 社外取締役候補者に期待される役割の新設(改正規則74条4項3号等)※4 |
社外取締役候補者については、社外取締役候補者に期待される役割を記載しなければならない。 |
| 社外取締役を置くことが相当でない理由の削除(改正規則74条の2の削除)※2、※3、※4 |
社外取締役の設置義務付けに伴い、社外取締役を置くことが相当でない理由の記載は不要とする。 |
【役員報酬議案の変更点】
改正法では、取締役または執行役の報酬等として株式、新株予約権、またはこれらと引き換えるための払込みに充てる金銭を付与する場合に、定款または株主総会で定めるべき事項を規定している。定款または株主総会で定めるべき事項の詳細が改正規則で明らかにされた。取締役報酬議案で記載する必要がある事項は下表のとおり。
| 取締役の報酬等の分類 |
定款または株主総会で定めるべき事項 |
| 取締役の報酬等のうち会社の募集株式について定めるべき事項
募集株式 : 株式会社が、募集に応じて株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式のこと。新株の発行や自己株式の処分のことを、「募集株式の発行等」という。
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・募集株式の数の上限(改正法361条1項3号)
・一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨および当該一定の事由の概要(改正規則98条の2第1号)
・一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨および当該一定の事由の概要(同条2号)
・その他、取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(同条3号) |
| 取締役の報酬等のうち会社の募集新株予約権について定めるべき事項
募集新株予約権 : 株式会社の募集に応じて新株予約権の引き受けの申し込みをした者に対して割り当てる当該新株予約権のこと。
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・募集新株予約権の数の上限(改正法361条1項4号)
・会社法236条1項1号から4号までに掲げる事項(改正規則98条の3第1号)
・一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨および当該一定の資格の内容の概要(同条2号)
・その他の募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要(同条3号)
・会社法236条1項6号に掲げる事項(同条4号)
・会社法236条1項7号に掲げる事項の内容の概要(同条5号)
・取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(同条6号)
会社法236条1項1号から4号 : 新株予約権の内容として以下のものを指す。「新株予約権の目的である株式の数又はその数の算定方法」「新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」「金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額」「新株予約権を行使することができる期間」
会社法236条1項6号:新株予約権の内容として以下のものを指す。「譲渡による新株予約権の取得について株式会社の承認を要することとするときは、その旨」
会社法236条1項7号:当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項「イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨及びその事由」
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| 取締役の報酬等のうち新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭について定めるべき事項 |
・取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限(改正法361条1項5号ロ)
・会社法236条1項1号から4号までに掲げる事項(改正規則98条の4第2項1号)
・一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨および当該一定の資格の内容の概要(同項2号)
・その他、募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要(同項3号)
・会社法236条1項6号に掲げる事項(同項4号)
・会社法236条1項7号に掲げる事項の内容の概要(同項5号)
・取締役に対して当該募集新株引受権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件または取締役に対して当該新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(同項6号)
会社法236条1項1号から4号 : 株式会社が新株予約権を発行するときは、次に掲げる事項を当該新株予約権の内容としなければならない。「一 当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法」「二 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」「三 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額」「四 当該新株予約権を行使することができる期間」
会社法236条1項6号 : 六 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
会社法236条1項7号 : 七 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項「イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨及びその事由」「ロ 当該株式会社が別に定める日が到来することをもってイの事由とするときは、その旨」「ハ イの事由が生じた日にイの新株予約権の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する新株予約権の一部の決定の方法」「ニ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式を交付するときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその算定方法」「以下(ホ、へ、ト、チ)省略」
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また、現行法上、不確定額報酬(会社法361条1項2号)、非金銭報酬(同項3号)については、株主総会で決議を求める際に「相当とする理由」を説明しなければならないとされ、当該理由は株主総会参考書類にも記載しなくてはならない(会社法施行規則73条1項2号)。改正法では、確定額報酬(会社法361条1項1号)についても「相当とする理由」の説明が求められる(改正法361条4項)ので、報酬枠改定議案や退職慰労金支給議案を付議する際には留意が必要だ。
【株式交付計画承認議案】
改正法で創設される株式交付については、株式交付計画の承認に関する議案の記載事項が次のとおり定められている(改正規則91条の2)。
・当該株式交付を行う理由
・株式交付計画の内容の概要
・当該株式会社が株式交付親会社である場合において、会社法298条1項の決定をした日における改正規則213条の2各号(5号、6号を除く)に掲げる事項があるときは、当該事項の内容の概要
会社法298条1項 : 取締役(株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。「一 株主総会の日時及び場所」「二 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項」「三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨」「四 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨」
次に事業報告については、親会社との間の重要な財務および事業の方針に関する契約等の内容の概要、補償契約の内容の概要、役員等賠償責任保険契約(D&O保険契約)の内容の概要、報酬等として付与された株式や新株予約権等に関する事項、社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要について新たな規定が設けられるとともに、会社役員の報酬等に関する記載事項の拡充、社外取締役を置くことが相当でない理由が削除されている。
※1 補償契約、D&O保険契約に係る記載は、施行日後に締結された補償契約およびD&O保険契約について適用する(改正附則2条10項)
※2 ※1のほか、施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る事業報告の記載については、旧規定が適用される(改正附則2条11項前半部分)
※3 ※1のほか、施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る事業報告における改正前の会社法施行規則124条2項の理由の記載については、旧規定が適用される(改正附則2条11項後半部分)
※4 ※2の事業報告の記載に係る社外役員については、改正規則2条3項5号の規定にかかわらず、なお従前の例による(改正附則12項)
| 記載項目 |
概要 |
| 親会社との間の重要な財務および事業の方針に関する契約等の内容の概要が重要な親会社の状況に含まれることを明示(改正規則120条1項7号)※2、※4 |
親会社との間に会社の重要な財務および事業の方針に関する契約等が存在するときは、その内容の概要を記載しなければならない。 |
| 「補償契約」、「役員等賠償責任保険契約(D&O保険契約)」の内容の概要の新設(改正規則119条2号の2、121条3号の2から3号の4まで、121条の2等)※1、※2、※4 |
・会社役員または会計監査人(以下「会社役員」)との間で補償契約を締結しているときは、当該会社役員等の氏名、当該補償契約の内容の概要、会社が補償契約に基づき防御費用を補償した場合において当該会社役員等に法令違反が認められたことを知ったときはその旨、損失を補償したときはその旨および補償した金額を記載しなければならない。
・会社が保険者との間でD&O保険契約を締結しているときは、当該保険者の氏名または名称、被保険者の範囲、当該D&O保険契約の内容の概要を記載しなければならない。
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| 会社役員の報酬等に関する記載事項の拡充(改正規則121条4号イ、ロ、5号の2から6号の3まで)※2、※4 |
・報酬等について、業績連動報酬等または非金銭報酬等がある場合には、業績連動報酬、非金銭報酬等、それら以外の報酬等に区分して総額等を記載しなければならない。
・業績連動報酬等がある場合には、当該業績連動報酬等の額または数の算定の基礎として選定した業績指標の内容、当該業績指標を選定した理由、当該業績連動報酬等の額または算定方法、算定に用いた上記業績指標の数値を記載しなければならない。
・非金銭報酬等がある場合には、当該非金銭報酬等の内容を記載しなければならない。
・会社役員の報酬等に係る定款または株主総会の決議による定めについて、当該定めを設けた日または株主総会決議の日、当該定めの内容の概要、当該定めに係る会社役員の員数を記載しなければならない。
・取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を定めているときは、当該方針の決定方法、内容の概要、当該事業年度の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会(指名委員会等設置会社は報酬委員会)が判断した理由を記載しなければならない。
・各役員の報酬等の額または算定方法に係る決定方針(上記を除く)を定めているときは、当該方針の決定方法およびその方針の内容の概要を記載しなければならない(監査役会設置会社(公開会社かつ大会社である有報提出会社)、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社でない会社は記載を省略することができる)
・取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が、当該事業年度の取締役の個人別の報酬等の内容の全部または一部を決定したときはその旨、当該委任を受けた者の氏名ならびに当該内容を決定した日における地位および担当、委任された権限の内容、当該権限を委任した理由、当該権限が適切に行使されるようにする措置を講じた場合にあってはその内容を記載しなければならない(指名委員会等設置会社は記載不要)
公開会社 : (定款で)株式に譲渡制限を付していない会社のこと(会社法2条5号)。発行する株式のうち1株でも譲渡制限を付していなければ、公開会社となる。したがって、上場会社はすべて公開会社である。
大会社 : 負債200億円以上または資本金5億円以上の株式会社
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| 報酬等として付与された株式や新株予約権等に関する事項の新設等(改正規則122条1項2号、123条1号)※2、※4 |
・当該事業年度中に報酬等として交付された株式があるときは、次に掲げる者の区分ごとの株式の数および株式を有する者の人数を記載しなければならない
イ 取締役(監査等委員である取締役および社外役員を除き、執行役を含む)
ロ 社外取締役(監査等委員である取締役を除き、社外役員に限る)
ハ 監査等委員である取締役
ニ 取締役(執行役を含む)以外の会社役員
・事業報告に記載する報酬等として交付された新株予約権等につき、会社役員に対して職務執行の対価として募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付した場合において、当該金銭の払込みと引換えに新株予約権を交付したときにおける当該新株予約権を含む旨を明確化
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| 社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要の新設(改正規則124条4号ホ)※2、※4 |
社外取締役であるときは、当該社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要を記載しなければならない |
| 社外取締役を置くことが相当でない理由の削除(会社法施行規則124条2項、3項の削除)※2、※3、※4 |
社外取締役の設置義務付けに伴い、社外取締役を置くことが相当でない理由の記載は不要 |
なお、改正法では、監査役会設置会社(公開会社かつ大会社である有報提出会社)および監査等委員会設置会社に取締役の報酬等の決定方針を決定することが義務付けられる。取締役の報酬等の決定方針として取締役会で決定すべき事項は改正規則98条の5に定められているため、対象となる会社は施行日(2021年3月1日)までに取締役会で取締役の報酬等の決定方針を決定しなければならないことにも留意したい。すでに任意に取締役の報酬等の決定方針を定めていて、改正規則98条の5に定める各事項がカバーされているという場合には、重ねての決議は不要である。