2020/09/14 東証の調査結果から想定される「より高い水準」のガバナンス規制

東証は(2020年)9月7日、「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」を公表したが、この調査結果から想定されるのが、来春に実施される予定のコーポレートガバナンス・コードの改訂によりプライム市場上場会社に対して課される可能性がある「より高い水準」のガバナンス規制だ。

この調査結果は、8月14日時点におけるコーポレートガバナンス報告書の記載に基づき集計されたもので、ここでいう「独立社外取締役」とは上場会社が「独立役員」として東証に届けを出している社外取締役を指し、また「指名委員会・報酬委員会」には監査役設置会社および監査等委員会設置会社における任意の委員会が含まれている。

独立役員 : 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役。東証は企業に対し、独立役員を独立役員届出書により届け出ることを求めている。

周知のとおり、コーポレーガバナンス・コード原則4-8では、独立社外取締役の選任について下記の“ハードル”を設けている。前半(2名以上)が“最低限”のコンプライ、後半(3分の1)がもう一段上のコンプライを求めていると言えよう。

独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与する様に役割•責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社を取り巻く環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。

独立社外取締役を「2名以上」選任している東証一部上場会社は98.5%に達しており、ほぼ全社が最低限のラインを確保している。ちなみに、「ゼロ」も3社あった。東証のリリースでは社名は明らかにされていないが、・・・

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2020/09/14 東証の調査結果から想定される「より高い水準」のガバナンス規制(会員限定)

東証は(2020年)9月7日、「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」を公表したが、この調査結果から想定されるのが、来春に実施される予定のコーポレートガバナンス・コードの改訂によりプライム市場上場会社に対して課される可能性がある「より高い水準」のガバナンス規制だ。

この調査結果は、8月14日時点におけるコーポレートガバナンス報告書の記載に基づき集計されたもので、ここでいう「独立社外取締役」とは上場会社が「独立役員」として東証に届けを出している社外取締役を指し、また「指名委員会・報酬委員会」には監査役設置会社および監査等委員会設置会社における任意の委員会が含まれている。

独立役員 : 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役。東証は企業に対し、独立役員を独立役員届出書により届け出ることを求めている。

周知のとおり、コーポレーガバナンス・コード原則4-8では、独立社外取締役の選任について下記の“ハードル”を設けている。前半(2名以上)が“最低限”のコンプライ、後半(3分の1)がもう一段上のコンプライを求めていると言えよう。

独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与する様に役割•責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社を取り巻く環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。

独立社外取締役を「2名以上」選任している東証一部上場会社は98.5%に達しており、ほぼ全社が最低限のラインを確保している。ちなみに、「ゼロ」も3社あった。東証のリリースでは社名は明らかにされていないが、東証コーポレートガバナンス情報サービスで検索すると、サイボウズ、クボテック、ランドビジネスの3社であると推測される。

独立社外取締役を「3分の1以上」選任している東証一部上場会社は58.7%で、半数を超え6割に迫っている。JPX日経400採用銘柄に限ると74.2%とほぼ4分の3に達しており、時価総額の大きい上場会社の大部分が“一段上“のハードルをクリアしていることが分かった。ただし、JPX日経400採用銘柄でも「過半数」が独立社外取締役という企業は9.6%にとどまっており、ほとんどが英米企業の水準には達していない。

JPX日経400 : JPX日経インデックス400の略。東京証券取引所および日本経済新聞社が東証の市場第一部等に上場している株式のうち代表的な銘柄として選定した400銘柄。業績が低迷している企業を除いたうえで規模が大きい企業が選定されるため、東京証券取引所の代表的銘柄とも言える。

一方、任意の指名・報酬委員会について、コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①では下記の取り組みが期待されている。委員会を設置することのみならず、「独立性(独立社外取締役を主要な構成員とすること)」を求めている点がポイントと言える。

上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

東証一部上場会社における指名委員会の設置(指名委員会等設置会社の法定委員会を含む。以下同)割合は58.0%、報酬委員会については61.0%と半数を上回っている。これをJPX日経400採用銘柄に限って見てみると、それぞれ82.6%および84.6%となっており、大部分の会社で設置済みとなっている。少なくとも「設置する」ということについては、時価総額が大きい上場会社ではミニマム・スタンダードになっていると言えよう。

各委員会の独立性確保の取り組みも相当に進展している。東証一部上場会社の任意委員会のうち「過半数が社外取締役で構成されているもの」の割合は、指名委員会で68.1%、報酬委員会で67.7%といずれも3分の2を超えている。また、委員長が社外取締役であるものは指名委員会で52.9%、報酬委員会で53.4%と過半数に上っている。「委員会を設置するならば独立社外取締役を中心に」ということはコンセンサスになりつつあると見てよいだろう。

以上の調査結果を踏まえると、現在東証で進められている市場区分の見直しに関する議論に伴うガバナンス規制の論点を推測することができる。来春に実施される予定のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、プライム市場上場会社に対し「より高い水準」のガバナンス規制が課される方向となっている(2019年12月25日のニュース「CGコードの一部が強制適用の可能性、ジャスダック企業にもフル適用へ」参照)。確定的な内容については金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」における議論などを待たなければならないが、今回の東証の調査によって判明した実態を前提にすれば、例えば下記のような線引きを想定することもできる。

  プライム市場 スタンダード市場
原則4-8 独立社外取締役を3分の1以上選任すべき 独立社外取締役を2人以上選任すべき
補充原則4-10① 独立性の高い(任意の)指名・報酬委員会を設置すべき (任意の)指名・報酬委員会を設置すべき

このほか今回の東証の調査では、JPX400採用銘柄について、女性および外国籍の取締役の選任状況も集計している(コーポレートガバナンス・コード原則4-11参照)。それによると、女性取締役を選任している会社は72%に達しているのに対して、外国籍の取締役は20%にとどまっている。72%という数字は、上述した市場区分の見直しに伴うコーポレートガバナンス・コードの見直し議論において、少なくとも女性取締役についてはプライム市場上場会社は「選任すべき」とされる可能性がある水準とも言えそうだ。

2020/09/11 経済界が投資家との対話に本腰

かつて日本の経済界は投資家との対話には消極的だったと言えるが、この流れはここ数年で大きく変わりつつある。そのきっかけの一つとなったのは、・・・

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2020/09/11 経済界が投資家との対話に本腰(会員限定)

かつて日本の経済界は投資家との対話には消極的だったと言えるが、この流れはここ数年で大きく変わりつつある。そのきっかけの一つとなったのは、経団連の会長に中西宏明・日立製作所会長が就任(2018年5月31日~)したことだろう。中西会長就任後の2018年6月には事務局に投資家との対話を推進する「ソーシャル・コミュニケーション本部」が新設されるなど、経済界は投資家とのリレーション構築に向け大きく舵を切っている。

そして、この流れは今後益々加速することになりそうだ。経団連が(2020年)9月8日にリリースした「企業と投資家による建設的対話の促進に向けて」(以下、提言)には、その“本気度”が随所に表れている。

提言は5つの柱からなる。

1つ目が「情報開示」のあり方だ。提言では、投資家に「どのような情報が有効か」を発信するよう求めている。これは、近年企業による情報開示が質・量ともに充実してきているにもかかわらず、投資家からは依然としてさらなる充実を求める声があることを踏まえたもの。特にESG関連の情報についてはテーマが広範であり、かつ評価基準も定まっていないため、企業からは開示すべき情報の内容、範囲、質等に関する悩みの声が聞かれる。こうした中、提言では、「情報開示と対話は相互補完の関係にある」とし、「対話によって、投資家が企業の情報開示に求める事項を明確化していくプロセスも重要」としている。

ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

2つ目が「質の高い対話」の好循環である。現状、多くの機関機関投資家が、対話を行った内容について企業からのフィードバックがないことに不満を抱いている。投資家としては、せっかく企業と対話しても、対話の結果、企業がどのような対応をとったのかを把握できなければ、その対話は単なる「投資家による一時的、一方的な意見表明」と化す恐れがある。そこで提言では、企業に対し、対話の結果に基づく自社の行動の変化等を積極的に投資家にフィードバックするよう呼び掛けている。また、それを実現するため、経営陣による対話への直接的な関与をより一層強めることや、対話の内容を取締役会に報告といった体制づくりが重要だとしている。

一方、投資家に対しても、対話の結果が長期投資や議決権行使議決権行使においてどのような判断をつながったのかを企業に積極的にフィードバックすることで、企業との間でさらなる対話を促すことが重要だとしている。

さらに提言では、対話を行ううえでは「実質株主」を把握する必要があることから、これを可能にするための制度づくりについて検討を進めることが望ましいとしている。2018年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの補充原則5-1③には、「上場会社は、必要に応じ、自らの株主構造の把握に努めるべきであり、株主も、こうした把握作業にできる限り協力することが望ましい」と規定されている。同原則の存在もあり、現在でも一部の企業は株主名簿に記載のない実質株主を把握するためにコストをかけて「株主判明調査」を実施しているが、提言では「コストを負担することなく」実質株主の名称、保有株式数等を把握することができれば、これまで以上に対話の進展が期待できるとしている。

実質株主 : 株主名簿の背後に存在する運用・議決権行使権限を持つ株主。

3つ目が、「議決権行使助言会社の適切な機能発揮」だ。議決権行使助言会社について企業からは、①議決権行使助言基準策定のプロセスが不透明かつ検討体制が不十分、②助言基準の運用が画一的・形式的で、企業と異なる認識に基づいた不適切な助言がなされていることがある、③助言基準に示されていない内容について、合理的理由に欠ける助言がなされていることがある、といった指摘とともに、その結果として、不十分な情報に基づく助言に従って議決権が行使されることへの懸念がある。こうした中、提言では、今年(2020年)3月に改訂されたスチュワードシップ・コード(原則8 関係参照)に沿った形で、議決権行使助言会社に対し、機関投資家に代わって企業と積極的に意見交換を行えるような人的・組織的体制を整備することや助言プロセスの透明化を求めている。

4つ目は、「デジタル技術の活用」である。提言では、投資家が議案の検討により長い時間を確保できるよう、企業に対し、株主総会や投資家との対話にオンラインを活用することを求めている。対話にオンラインを活用することにより、株主総会直前のみならず、機関投資家の議決権行使基準改訂や企業の統合報告書公表といった様々な機会をとらえ、年間を通じて継続的に対話を実施することが対話の実効性を高め、それに基づいた議決権行使を可能にするとしている。この提言の背景には、企業と投資家の対話が株主総会開催日の前に集中しているため投資家が株主総会議案を精査することが難しく、これが結果として投資家による議決権行使助言会社の硬直的な活用拡大につながっているとの指摘がある。

5つ目が「より長期の視点に基づく対話」であり、企業に対し、長期的視点から経営戦略を投資家に説明することを求めている。また、その情報開示や評価手法に関する国際的な枠組み作りや基準作りに日本が積極的に参加していくことの必要性も訴えている。

経団連は、今回の提言の内容を9月15日に開催される幹事会の議決を経て政府関係方面に建議するとともに、機関投資家や企業にも賛同を呼び掛ける。政府が(2020年)7月17日に閣議決定した成長戦略実行計画フォローアップに「2022年4月の市場構造改革実施に向け、2021年中に改訂が予定されている『コーポレートガバナンス・コード』において一段高い水準のガバナンスを求めることとする」との一文が盛り込まれ(42ページ「ⅵ)コーポレート・ガバナンス改革の推進」参照 )、さらに、コロナ禍を受け、企業には新しい価値観や事業環境を見据えた経営戦略の策定が迫られており、投資家との対話においても、それを長期的な目線で説明する必要性が高まっている。当初は手探りで始まった企業と投資家の対話も、次のステップに進む時期に来ていると言えそうだ。

2020/09/10 (新用語・難解用語)サステナビリティ・トランスフォーメーション

コロナ禍が日本のデジタル化の遅れを白日の下に晒して以降、「デジタル・トランスフォーメーション(略称:DX)」という言葉を見聞きする機会が一段と増えた感がある。「デジタル・トランスフォーメーション」と「デジタル化」と同一視する向きもあるが、両者は異なる。簡単に言えば、デジタル化とはデジタルツールを導入して業務の効率化を図るといった“ミクロ”的なものであるのに対し、デジタル・トランスフォーメーションとは、デジタル化によってビジネスモデルや組織を変革することや、さらには人々の生活スタイルを変えるなど「デジタル化による社会変革」までを指すこともある。

このデジタル・トランスフォーメーション同様、「社会」への影響を視野に入れた新たな概念として登場したのが・・・

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2020/09/10 (新用語・難解用語)サステナビリティ・トランスフォーメーション(会員限定)

コロナ禍が日本のデジタル化の遅れを白日の下に晒して以降、「デジタル・トランスフォーメーション(略称:DX)」という言葉を見聞きする機会が一段と増えた感がある。「デジタル・トランスフォーメーション」と「デジタル化」と同一視する向きもあるが、両者は異なる。簡単に言えば、デジタル化とはデジタルツールを導入して業務の効率化を図るといった“ミクロ”的なものであるのに対し、デジタル・トランスフォーメーションとは、デジタル化によってビジネスモデルや組織を変革することや、さらには人々の生活スタイルを変えるなど「デジタル化による社会変革」までを指すこともある。

このデジタル・トランスフォーメーション同様、「社会」への影響を視野に入れた新たな概念として登場したのが「サステナビリティ(※持続可能性)・トランスフォーメーション」という言葉だ。経済産業省が昨年(2019年)11月に設置した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」(以下、実質化検討会)は(2020年)8月28日、報告書「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ 〜サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて〜」(以下、中間取りまとめ)を公表、ここで「サステナビリティ・トランスフォーメーション」という言葉が登場している。

実質化検討会は、「伊藤レポート」(2014年)、「伊藤レポート2.0価値協創ガイダンス」(2017年)の流れを汲んで経済産業省に設立された会議体で、「企業や投資家が様々な環境変化に直面する中で対話を通じて価値を協創していくに当たっての課題や対応策」を検討している。

「サステナビリティ・トランスフォーメーション」という新語(造語)において「トランスフォーメーション」という言葉が使われている理由は、それが「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を“同期化”させることを意図しているためだと思われる。この点は、上述のとおりデジタル・トランスフォーメーションが「デジタル化による社会変革」まで指す場合があることと重なる。

中間取りまとめによると、特に近年、新型コロナウイルス感染症の拡大や気候変動の影響、グローバルサプライチェーンにおける企業経営を取り巻く環境の不確実性が一段と増す中では、「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化させた上で、企業と投資家の対話において双方が前提としている時間軸を長期に引き延ばすことが重要であり、こうした経営の在り方や対話の在り方を「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶとしている。

中間取りまとめは3章から構成されているが、簡潔にまとめれば以下の流れとなっている。

・第1章:新型コロナウイルス感染症の拡大や気候変動などにより企業経営を取り巻く環境として不確実性が高まる中、企業には中長期の稼ぐ力と持続可能性を高めるための無形資産への投資(この点は伊藤レポート2.0の大きなテーマでもある)が求められているが、日本企業は将来の変化に対する取り組みが十分とは言えず、情報開示や対話においても質のバラツキがある
                 ⇩
・第2章:特にサステナビリティに関する情報を巡って、企業と投資家の間に認識のギャップがあることを問題視
                 ⇩
・第3章:企業と投資家のギャップを埋める対話のあり方として、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を推進すべき

このうち特に興味深いのが第2章だ。企業と投資家の間で特に認識ギャップが大きいテーマとして、「事業ポートフォリオ経営」「イノベーション」「ESG/SDGs」への取り組みを挙げ、それぞれについて企業と投資家の“本音”とも言える意見が紹介されている(下表参照)。

ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、気候変動対策やジェンダーの平等など17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

  企業の意見 投資家の意見
事業ポートフォリオ経営 ・リスク低減の多角化が投資家に理解されない
・シナジーが評価されない
・新規事業が評価されない
・評価できるシナジーの説明が伴っていない
・複数の事業による新たな価値が発信されていない
イノベーション ・利益が未実現だとして評価されない
・不確実性の高い新規事業の必要性が理解されない
・説明されて成長性が分からない以上は仕方がない
・事業の見通しが説明できなければ評価できない
ESG/SDGsの取り組み ・どう企業価値につながるか分からず取り組めない
・足下の利益に結びつかないと評価されない
・社内の一部が消極的
・ESGは収益獲得するための前提条件である
・投資判断にインテグレート(統合)できていない
・ガバナンスが最重要

このような企業と投資家の意見の食い違いを踏まえ、中間取りまとめでは、「事業ポートフォリオ経営では多角化を一つのビジネスモデルとして説明すること」「イノベーションでは事業創出の仕組みやガバナンスを評価すること」「ESG/SDGsでは中長期的なリスクを把握するのみならず、中長期的な新市場創出・獲得につながるオポチュニティ(機会)を把握すること」などが提言されている。

第3章では、企業と投資家のギャップを埋める対話のあり方として、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を推進すべきであり、そのための要素として「対話の原則」「対話の内容」「対話の手法」「対話後のアクション」の4つが挙げられている。SXの4要素のポイントを抽出したのが下表だ。

対話の原則 対話の内容 対話の手法 対話後のアクション
・中長期的な企業価値創造に貢献する
・対話の当事者双方が一定の満足をする
・回を追うごとに対話内容が改善する
・価値創造ストーリーが語られる
・アジェンダがマテリアリティ (重要性)に基づく
・無形資産が長期の時間軸で語られる
・レジリエンス(強靭化)の高さが確認される
・重点的に対話すべき投資家を特定する
・適切な対話の対応者を設定する
・情報開示を実効的なものとし、対話では具体的なアジェンダに集中する
・気付きを戦略などに反映させる
・回を追うごとに取組/施策が進化する

中間とりまとめは文字通り中間時点での報告であり、多くの議論は「意見」として示されている。今後さらに議論を深めることで、最終的には「提言」として取りまとめられることになる。

また、中間とりまとめでは、上述のとおり企業と投資家の対話において双方が前提としている時間軸を長期に引き延ばす経営の在り方や対話の在り方であるサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が実効性あるものとなる前提として、「質の高い価値創造ストーリー」が伴っている必要があるとし、このストーリー策定における「価値協創ガイダンス」の有効性が再三再四にわたって強調されている。サステナビリティ・トランスフォーメーションなるものがどれほど定着するかは未知数だが、価値創造ストーリーが投資家との対話のコンテンツとなることは確かなだけに、経営陣としては、今回の「中間とりまとめ」を、今後の投資家との対話に備え自社の価値創造ストーリーを再確認する機会としたいところだ。

2020/09/10 【2020年8月の課題】自社の株主総会における各議案の賛成率レビュー(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創

株主が株主総会で会社提案議案に対して「反対」する場合、当然のことながらそれには何らかの理由があります。特に機関投資家の多くは、各社独自の議決権行使ガイドラインを策定し、これに基づいた行使判断を行っていますので尚更です。機関投資家の場合、反対行使の多くは、総会に付議された議案に対する総合的な判断の結果というよりも、議案の内容や会社の状況のうち何らかの事項が規定に抵触したことによる結果だと言えます。

本稿では、企業にとって重要性が高い議案として剰余金処分、定款変更、役員選任(取締役・監査役)、役員報酬(報酬額、業績連動型報酬、ストックオプション、賞与など)を取り上げ、主な反対行使の理由を紹介します。

●剰余金処分議案
(想定される主な反対理由)
・自己資本比率が高く、配当性向が低い
・本年の株主総会で「継続会」を選択したことによりISSが棄権推奨を行った

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

配当の水準が妥当であるか否かについては、まずは配当性向(あるいは総還元性向等)を判断基準としている投資家が多くなっています。さらに内部留保の必要性の観点からROEや自己資本比率を勘案することも多いようです。そのため、自己資本比率が高いなど内部留保の必要性が低いにもかかわらず配当性向等が低い企業では、剰余金処分議案への賛成率が低位にとどまる傾向が確認できます。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

ただし、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、内部留保のあり方が見直されています。これに伴い、一部の機関投資家は、従来であれば反対したであろう配当水準であっても、本年は賛成に回ったと見られるケースが確認されています。6月総会における剰余金処分議案の平均賛成率が上昇したのは、この「機関投資家の柔軟な行使判断」の影響が大きいと考えられます。

一方で、議決権行使助言会社ISSは、本年の総会で継続会方式を選択した企業の剰余金処分議案については、「棄権」を推奨しました。決算が確定していない以上、配当水準の妥当性を判断できないというのがのその理由です。しかし、議案の賛成率は、文字通り賛成行使の割合を示すものですので、賛成率への影響という意味では、棄権は「反対」と同じ効果を持ちます。結果として、継続会方式を選択した企業で、剰余金処分議案への賛成率が前年比で大きく低下した事例が確認されています。

●定款変更議案
(反対の多い定款変更の内容)
・剰余金の配当等を取締役会決議により決定する旨の変更
・取締役任期の長期化(1年→2年)
・取締役員数の増加
・発行可能株式総数の増加

株式会社における「定款」は、商号や事業目的、本店所在地といった事項から配当や株主総会に関する規定、さらには取締役や監査役、会計監査人に関する規定など幅広い内容を含んでいます。企業が定款の内容を変更する場合、その変更が複数の規定にわたる場合であっても、一つの「定款一部変更の件」という議案して総会に上程されるのが一般的です。投資家はその変更内容のうち一つでも自社の基準に抵触するものがあれば、定款変更議案全体に反対することとなります。

投資家の反対を集めやすい定款変更の内容の一つが、配当支払い決議を株主総会で行っている企業がこれを取締役会に変更(授権)するものです(会社法459条1項4号)。コロナ禍の中で開催された今年の総会では、取締役会に剰余金の配当を授権することを定款で定めている企業で、剰余金の配当の基準日は当初どおりとすることを「取締役会」で決議し、議決権の基準日を改めて定めることにより定時株主総会を延期するところがありましたが(2020年4月21日のニュース「配当基準日は変えずに議決権基準日を後倒しして総会を延期する企業が出現」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)、「剰余金の配当を取締役会に授権すれば株主の権利が縮小する」との観点から、当該定款変更議案に反対する投資家は多いと考えられます。

授権 : 「配当の決定権限」といった権限を株主総会から取締役会に委譲すること。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

さらに、取締役の任期を伸ばす(1年→2年)、員数を増やすといった議案も、コーポレートガバナンスの後退と受け止められ反対されるケースが多いようです。また、株式の希薄化につながりかねない発行可能株式総数を増加させるための定款変更議案についても賛成率が低位にとどまる事例が確認されています。

希薄化 : 「1株当たりの価値」が下がること。希薄化は発行済株式数の増加により起こる。どれくらい希薄化したかを示す「希薄化率」とは発行済株式数の増加率のことであり、「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存株主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、例えばある大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が10%未満」であることを挙げている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

●役員選任議案
(想定される主な反対理由)
・社外役員候補者の独立性の否認
・取締役会に占める独立役員の人数の割合が小さい
・業績基準(ROE基準)への抵触
・不祥事など

ROE基準 : 投資家が経営トップの選任議案などに賛成する条件として、一定以上のROE(Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本))を求めること。ちなみにISSでは、資本生産性が低く(過去5 期平均の自己資本利益率[ROE]が5%を下回り)かつ改善傾向(過去5 期の平均ROE が5%未満でも、直近の会計年度のROE が5%以上ある場合)にない場合、経営トップ(社長、会長)である取締役の選任議案に反対を推奨するとしている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

取締役や監査役候補者の選任議案に対する主な反対理由としては、社外役員候補者の独立性の否認が挙げられます。独立性があるかどうかの判断基準は投資家によって異なるものの、国内機関投資家の多くが東証より提出が求めれる独立役員届書の有無を確認しており、大株主や取引先出身者など独立役員届出書が提出されていない候補者の選任議案に対して反対行使がなされる事例が確認されています。また、ISSは本年より政策保有先出身者の独立性を否認するとの基準の適用を開始しています。

近年厳格化が進んでいるのが取締役会構成基準です。例えば三菱UFJ信託銀行や三井住友トラスト・アセットマネジメントは、本年より原則として全ての企業に対して「取締役総数の1/3」の社外取締役の選任を求め、これを満たさない場合には取締役選任議案に反対するとの基準の適用を開始しました(なお、三井住友トラスト・アセットマネジメントの取締役会構成基準には、業績基準を満たしている場合は反対しないとの経過措置あり)。したがって、社外取締役の人数が取締役総数の1/3を満たしていない企業においては、機関投資家の取締役会構成基準厳格化により、会長・社長等以外も含めた取締役候補者の賛成率が低下したケースも確認されています。

この点ISSは、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社に対しては1/3の社外取締役の選任を求めている一方、監査役設置会社については「1/3」という水準までは求めていません(2名未満の場合は会長・社長の選任議案に反対)。ただし、海外機関投資家の中には、独自のガイドラインに基づき、機関設計にかかわらず日本企業に対して1/3の独立取締役の選任を求めるところも増えてきています。ここでポイントとなるのは、海外投資家が選任を求めるのは単なる社外取締役ではなく、「独立性のある」社外取締役であることが一般的だという点です。そして、この独立性の有無の判断についてはISSのレポートの内容を参考にする投資家が多いようです。したがって、社外取締役の人数としては1/3基準を満たしてしているということで国内機関投資家からの反対は少ない場合でも、ISSが認める独立取締役人数が1/3基準を満たしていないため、海外機関投資家からは反対票が入るという例も見られます。

さらに、取締役選任議案への反対要因としては業績基準があります。具体的な指標としてはROEが用いられることがほとんどです。最も有名なものとしてはISSのROE基準(過去5年間の平均ROEが5%未満で直近も5%を下回る場合、会長・社長の選任に反対推奨する)が挙げられます。国内機関投資家のROE基準は投資家によって異なりますが、ISSとの比較では、①過去3年のROEを見て判断することが多い、②絶対値による基準(「5%未満」など)よりも上場企業あるいはセクター内での相対的な基準(「東証一部上場企業の中でROEが下位1/3内」など)を用いることが多い、③反対の対象を会長や社長に限らない(「3年以上在任の取締役」など)ことが多いといった特徴がみられます。

ただし、本年の総会についてISSは、コロナウイルス感染症が拡大している状況を考慮し、ROE基準の適用を停止しました。また、国内機関投資家においても業績基準を緩和するなどの動きも見られました(2020年5月20日のニュース「ROE基準の適用猶予、機関投資家の間でも広がる兆し」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。この結果、例年であればISSや機関投資家のROE基準に抵触していたはずの企業のでも取締役候補者の賛成率が向上した例もあり、これが平均賛成率上昇の主因であったと考えられます。

●役員報酬関連議案
(想定される主な反対理由)
・業績低迷下での報酬増額
・希薄化の大きい株式報酬やストックオプションの付与
・業績連動報酬の社外取締役や監査役への付与
・報酬制度に関する情報開示が限定的であるなど

役員報酬関連議案については、企業の業績を理由とした反対行使が多く確認されています。例えば、赤字決算の下で報酬枠を増加させる、あるいは役員賞与を支払うといった議案です。業績についてはROEを用いた一定の水準を設定する投資家も多いようです。

また本年は、継続会方式を選択した企業が、先行する総会において、監査等委員会設置会社へ移行する定款変更議案と役員選任議案とともに役員報酬枠の設定議案も上程したところ、株主から多くの反対行使がなされたとの事例もありました。決算が確定していない段階においては、役員報酬の妥当性を見極められないと判断した投資家が多かったことが想定されます。

金銭報酬の額自体が大きすぎるとして賛成率が低位にとどまる事例は少ない一方、株式報酬やストックオプションについては、その希薄化率が大きいとして反対票を集めるケースが散見されます。希薄化の閾値は様々ですが、「5%〜10%」の間に設定されていることが多いようです。ただし、企業のステージに応じて異なる数値を用いる投資家も確認されています。

報酬の支給対象者も反対理由となりえます。特に社外取締役や監査役に対して賞与を支給する、あるいは業績連動型報酬の対象とする議案については、「社外取締役や監査役は業務執行から独立した立場であるべき」と考える投資家などから反対行使がなされるケースがあります。また、業績連動を謳ってはいるものの、その具体的な業績条件が明らかでないことなどを問題視する投資家も確認されています。

●反対理由の分析の必要性
コーポレートガバナンス・コード補充原則1-1①は、「相当数の反対票が投じられた」場合には「反対の理由や反対票が多くなった原因の分析」を行うべきであるとしています。機関投資家との対話においても、特に役員選任議案の賛成率やその原因に対する認識、今後の対応方針について問われることが増えてきているようです。

機関投資家による反対行使の理由は多岐に渡り、その分析は簡単ではありません。一方、スチュワードシップ・コードの再改訂により、「投資先企業との建設的な対話に資する観点から重要と判断される議案」について賛否の理由を公表すべきとの記述が追加(スチュワードシップ・コード5-3)されたことで、機関投資家による議決権行使結果の開示において反対理由を公表する事例も増えてきています。賛成率が80%を下回るなど低位である、あるいは前年比で低下が見られる議案がある場合は、主要機関投資家の個別開示の内容や議決権行使ガイドラインなども参照しつつ、その反対理由の分析を行うべきであると言えるでしょう。

2020/09/09 大戸屋HD株式のTOB成立、コロワイドは社外取締役を痛烈に批判

コロワイドは株式公開買付け(TOB)により大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋HD)の株式を47%取得したことを公表した(2020年9月9日のリリースはこちら。TOBの経緯については2020年7月21日のニュース「企業理念vs破格条件のTOB、注目される株主の選択」を参照)。コロワイドが買い付けた大戸屋HD株式の数は買付予定数の上限いっぱいとなる。今後、コロワイドは大戸屋HDに対して臨時株主総会の開催を請求し、役員の交代を迫る(リリースはこちら)。

ここまでの経緯を振り返ってみて改めて考えさせられるのが、TOBを仕掛けられた会社の社外取締役に求められる職責だ。・・・

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2020/09/09 大戸屋HD株式のTOB成立、コロワイドは社外取締役を痛烈に批判(会員限定)

コロワイドは株式公開買付け(TOB)により大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋HD)の株式を47%取得したことを公表した(2020年9月9日のリリースはこちら。TOBの経緯については2020年7月21日のニュース「企業理念vs破格条件のTOB、注目される株主の選択」を参照)。コロワイドが買い付けた大戸屋HD株式の数は買付予定数の上限いっぱいとなる。今後、コロワイドは大戸屋HDに対して臨時株主総会の開催を請求し、役員の交代を迫る(リリースはこちら)。

ここまでの経緯を振り返ってみて改めて考えさせられるのが、TOBを仕掛けられた会社の社外取締役に求められる職責だ。大戸屋HDには5名の独立社外取締役がおり、全員がコロワイドのTOBに反対していた(大戸屋HDが2020年7月20日に開示した意見表明報告書を参照)。これに対しコロワイドは2020年7月27日、大戸屋HDの独立社外取締役に向けて「大戸屋ホールディングス独立社外取締役に対する書状」を送付し、「独立社外取締役として求められる職責を果たして全うしているかという点について、株主としての立場において重大な懸念を有している」と、独立社外取締役の姿勢を痛烈に批判していた。

コロワイドが、大戸屋HDの独立社外取締役が職責を果たしているかどうかについて懸念を表明したのは次の5点だ。それぞれに対する大戸屋HDの反論(2020年8月5日のリリース「株式会社コロワイドによる当社独立社外取締役宛の書面への当社見解について」を参照)と対比すれば下表のとおり。

コロワイドの指摘 大戸屋HDの反論
経営陣の賛同を得ないTOBにおいて、TOBに賛同するか否かを検討するため、独立取締役のみによる協議の場や社外取締役により構成される委員会を設定する実務は定着しているにもかかわらず、大戸屋HDの独立社外役員は当該職責を果たしていないのではないか。 コロワイドが本公開買付けの目的や本公開買付け後の経営方針等として掲げている目的や施策は、本公開買付けに先立ってコロワイドが行った、2020年6月25日に開催された当社定時株主総会に係る株主提案に際して掲げていたものと実質的に同一である。本株主提案においては、当社の社外役員のみでの協議・検討も行われている。
大戸屋HDの取締役会は金融商品取引法27条の10の2項1号に定められている公開買付者への質問権を行使していない。TOBに賛同すべきかどうかを判断するために必要となる情報を収集していないにもかかわらず、反対意見表明を行ったのは、取締役としての善管注意義務に反している。

金融商品取引法27条の10の2項1号に定められている公開買付者への質問権 : 公開買付けに係る株券等の発行者は、意見表明報告書に、当該公開買付けに関する意見のほか、公開買付者に対する質問を記載することができる。意見表明報告書に質問が記載されている場合、公開買付者は当該質問に対する回答を対質問回答報告書に記載して内閣総理大臣に提出しなければならない。

当社は、コロワイドとの間で、本株主提案に至るまで、複数回に亘り協議(当社社外役員とコロワイドの代表取締役との協議のほか、当社社外役員の要請により行われた両社の社外役員間の協議を含む)やメール・書簡のやりとりを行い、本株主提案に先立ち、必要な情報を収集しており、当社の法務アドバイザーおよび財務アドバイザーからの助言も受けており、コロワイドの批判は当たらない。
2020年7月20日開催の大戸屋HDの取締役会で独立取締役が、執行から独立した立場でどのような役割を担い、具体的な意見を述べたのかについて開示されていない。独立社外取締役は、単に執行部側の主張を漫然と追認しただけなのではないか。 当社は、本TOBに対する反対の意見表明を決議するに至るまで複数回の取締役会を開催しており、各独立社外取締役は、いずれも、独立した立場からの意見を述べており、当社独立社外取締役が漫然と当社経営陣の主張を追認した事実は一切ない。
公開買付価格の妥当性・十分性について実質的な議論をしていないのではないか。 当社は、当社の財務アドバイザーおよび法務アドバイザーの助言も踏まえ、本公開買付けが成立した場合、少数株主となる当社株主の皆様が、当社の企業価値・ブランド価値が毀損するリスクに晒されることになり、当社株主の皆様が、このようなリスクを回避するために本公開買付けへの応募を余儀なくさせられる点で、本公開買付けは強圧的なものであると言わざるを得ないと判断している。
外部の第三者から株式価値算定書を取得していないのではないか。もし株式価値算定書を取得していれば、株主への情報提供のために当該算定書を開示すべきであるし、取得していないのであれば、公開買付価格の妥当性・十分性について実質的な議論をしていないことになる。いずれにしろ、株主利益配慮義務を尽くしたとは言えない。 -(株式価値算定書を取得していないことは認めつつ、公開買付価格の妥当性・十分性についての反論はなし)

上表で最も気になるのは、コロワイドからの「外部の第三者から株式価値算定書を取得していないのではないか」という質問(上表の一番下)に対し、大戸屋HDが反論していない点だろう。これは、コロワイドの指摘のとおり、大戸屋HDが株式価値算定書を取得していないからに他ならない。

もし大戸屋HD経営陣が「TOBの価格が安すぎる」と判断するのであれば、よりプレミアムを加算した株式価値算定書を入手しなければならないはずだ。しかし、コロワイドが実施したTOBの価格は2020年7月8日の大戸屋HD株式の終値2,113円に対して45.81%ものプレミアムがついた相当高い水準であることは明白であり、仮に大戸屋HD側が「TOB価格よりもさらにプレミアムを加算した株式価値算定書」を公表したところで、これまでの株価低迷の責任を問われるだけの“藪蛇”に終わる可能性が高い。また、大戸屋HDにはホワイトナイトがいるわけではないため、TOBの価格についてコロワイドと競う理由もない。以上から、大戸屋HDは「TOBの価格」についてはコロワイドに反論できず、価格以外の観点(ブランド価値の毀損や強圧性など)を持ち出すしかなかったというのが真相だろう(大戸屋HDの本TOBに関する主張・反論は2020年7月21日のニュース「企業理念vs破格条件のTOB、注目される株主の選択」を参照)。

ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。

コロワイドは、大戸屋HDの独立社外取締役が、一般株主の利益を代表するという本来の職責を全うできず、取締役の善管注意義務に違反すると評価されるような場合は、「貴社の一株主として、厳正な対応を採ることを検討させて頂かざるを得なくなります」と、損害賠償請求等を示唆している。本件は、大戸屋HDにとどまらず世の中の社外取締役に、社外取締役とは決して“お客様”ではなく、常にこのようなリスクを負いながら(独立社外取締役として)期待される職責を遂行することを迫られているということを改めて認識させたと言えそうだ。

2020/09/08 コロナ前後の地価変動がもたらす弊害

コロナ禍の中で緊急措置として導入したリモートワークの“恒久化”とともに、オフィスの縮小を検討している企業は少なくない。こうした中、オフィスビルの空室率の上昇が懸念されているが、この流れを加速させる可能性があるのが、・・・

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