2020/08/24 3月決算企業の第1四半期で赤字続出、巨額の欠損金発生も

3月決算の上場企業各社の第1四半期(2020年4~6月)の決算発表が一巡したが、・・・

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2020/08/24 3月決算企業の第1四半期で赤字続出、巨額の欠損金発生も(会員限定)

3月決算の上場企業各社の第1四半期(2020年4~6月)の決算発表が一巡したが、外出、出張の自粛やリモートワークの普及により需要の相当部分が吹き飛んだ形となった飲食、航空、鉄道業界をはじめ、大幅な減益や赤字に陥る企業が続出、新型コロナウイルス感染症の影響が鮮明となっている。いまだ収束が見通せない中、通期決算は危機的なものとなる恐れがある。

こうした中、企業側から政府に対し、法人税の計算上、赤字(欠損金)を翌年度以降に繰り越して、翌年度以降の黒字と相殺することを認める「欠損金の繰越控除制度」の緩和を求める声が日増しに高まっている。来年度(2021年度=令和3年度)の法人税制は12月中頃に政府・与党がとりまとめる令和3年度税制改正大綱でその内容が確定するが、企業側は欠損金の繰越控除制度の緩和を令和3年度税制改正大綱に盛り込むよう求める構えを見せている。

税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

企業側が求めているのは、まず欠損金を繰り越せる期間の延長だ。現行制度では、欠損金は発生年度の翌年から最大9年間(2018年度以後に発生した欠損金については10年間)繰り越して黒字と相殺できることになっているが、企業側はこの繰越期間をさらに延長するように求めている。コロナ禍に巨額の欠損金が生じる可能性があるうえに、巨額の欠損金と相殺できるだけの黒字を生み出せるようになるまでの期間も見通しが立たないことから、控除可能期間をできるだけ長く確保しておきたいというのが企業側の言い分だ。ただ、政府内では、「現行の10年でも繰越欠損金を消化できない企業というのは、コロナの問題以前に、単に構造的に不採算なだけではないか」といった冷めた声も聞かれる。

もう一つは、資本金1億円超の企業(=法人税法上の大法人)に対して課されている繰越控除できる金額の制限の緩和である。現行制度では、資本金1億円超の企業が欠損金と相殺できる金額は、当期所得の50%までに制限されている。そこで企業側は、この制限を2021年度(令和3年度)以降の一定期間、撤廃するか、大幅に緩和(=控除率の引上げ)することを求めている。ただし、仮にこの制限を10%緩和しただけでも、国の税収は1,000億円規模で減るとされる。コロナ禍で国が巨額の財政出動を余儀なくされる中、数千億円の減税を実施するには、それに見合う財源が必要になる。端的に言えば、企業側は同規模の減税措置を“差し出す”ということだ。具体的には、2020年度末に適用期限が到来する賃上げ・投資促進税制が候補に挙がっている(すなわち、適用期限を延長せず、そのまま廃止とする)。コロナ禍の中、賃上げや設備投資どころではない企業も多い中、同税制の「廃止」はあながちあり得ない話ではないだろう。

賃上げ・投資促進税制 : 国内設備投資や人材投資、持続的な賃上げを促す観点から、十分な賃上げや設備投資を行った企業について賃上げ金額の一定割合の税額控除を認める制度。2021年3月31日をもって適用期限が到来するため、令和3年度税制改正議論では、適用期限を延長するかどうかが焦点となる。

コロナ禍の影響をモロに受け、巨額の赤字(欠損金)の発生が見込まれる企業は、これから12月中頃まで続く令和3年度税制改正議論の行方に要注目だ。

2020/08/21 【失敗学第75回】ジャパンディスプレイの事例(会員限定)

概要

中小型液晶パネル国内最大手のジャパンディスプレイ(東証第一部 以下、JDI)において、在庫の過大計上、計上すべき費用計上の先送り、在庫評価損および減損損失の回避等の粉飾決算が行われていた。

経緯

JDI が2020年7月28日に東京証券取引所に対して改善報告書を提出するまでの経緯は次のとおり。

2013年
10月~12月:本件不適切会計処理の一部が開始される。

2014年
3月19日:JDI が同社株式を東京証券取引所市場第一部へ新規上場させる。新規上場にあたり、JDIは株式会社東京証券取引所に提出する書類がすべて真実である旨の宣誓書を提出していたが、新規上場申請書類に虚偽の財務諸表を記載していた(本件不適切会計処理の一部を指示または承認していた執行役員CFOが上場準備担当役員を担っていた)。

2019年
11月21日:JDIは元従業員(元経理・経営管理統括部長。以下、元従業員A)による取引実態のない会社への不正送金および収入印紙の不正取得の事実が昨年(2018年)に判明したこと、当該従業員を懲戒解雇し刑事告訴したことを公表(リリースはこちら)。被害総額は約578百万円であった。
11 月 26 日:JDIは、元従業員Aから、以前に経営陣の指示を受けて不適切な会計処理に従事していた旨の通知を受領する(リリースはこちら)。
11月27日:元従業員Aが東京都新宿区のホテルの部屋で倒れているのを発見される。その後、11月30日に死亡。自殺を図ったものと思われる。
12月2日:JDIは、元従業員Aの主張する過年度決算における不適切な会計処理に関する疑義について調査を行うため、社内の執行役員を含む特別調査委員会を設置する(リリースはこちら)。
12月24日:JDIは、同社から独立した中立・公正な社外委員のみで構成される第三者委員会を設置して、不適切な会計処理の調査主体を特別調査委員会から第三者委員会に移行させる(リリースはこちら)。

2020年
4月13日:JDIは、第三者調査委員会の調査報告書(要約版)を公表する。
7月10日:東京証券取引所は、JDI に対して改善報告書および上場契約違約金6,240万円を徴求する(リリースはこちら)。
7月28日:JDIは、東京証券取引所に対して改善報告書を提出する。

内容・原因・改善策

JDIが2020年7月28日に東京証券取引所に提出した改善報告書によると、粉飾決算の内容およびそれらの原因ならびに再発防止策は次のとおりとされている。

粉飾決算
内容 JDI の第三者委員会の調査の結果判明した粉飾決算の概要は以下の通りである。
・100億円規模の架空在庫の計上
・滞留、過剰在庫について実態と異なる販売見込み等を使用し計上回避
・本来費用計上すべき消耗品を貯蔵品に振り替えることによる利益操作
・本来計上すべき費用や損失の先送りや資産化することによる利益操作
・海外販売代理店への買戻し条件付での販売による売上計上
・製品保証に関する費用の先送り
・海外受託製造会社および海外製造子会社における損失の引当金未計上および先送り
・固定資産の減損損失の回避
・本来費用処理すべきものを固定資産の取得価額に算入することによる利益確保
・関係会社に対して四半期毎に支出した研究開発費用を出資に振り替えることで損失回避
・営業費用を営業外費用への振替えによる営業利益の過大計上
また、以下の事項については第三者委員会の調査の結果、不正ではなく誤謬と認定された。
・治具の資産計上
・社内規則に反した登録免許税および不動産取得税の固定資産取得価額算入
・IT業務委託費の固定資産へ計上
・本来製造費用とすべき減価償却費を営業外費用へ誤計上
・費用の建設仮勘定への計上
原因 大株主からの業績に対するプレッシャー
JDIでは、業績不振が継続しており、大株主からの業績に対するプレッシャーを背景として、元CEOら経営陣から社内へ強いプレッシャーがあった。元従業員A、歴代の執行役員CFO、常務執行役員は、そのようなプレッシャーを受けるとともに、少しでも利益を計上したいという経営陣の思いを忖度して、粉飾決算を実行・加担していた。

会計処理および情報開示の透明性に対する認識が不十分であった
元従業員Aおよびその上長であるCFOは、本来適切な会計処理が行われるよう経理部門を指揮監督すべき立場にありながら、適切な会計処理を行うという意識が低かった。そのため、プレッシャーや忖度により、会計処理をゆがめてまで、経営陣が社外に発表またはステークホルダーに約束した営業利益を達成することや社内の経費削減目標を達成することを優先してしまった。

大株主の不透明な形での影響により自律的な意思決定が阻害されていた
JDIでは、設立後一定期間、官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)が同社の意思決定に対して不透明な方法で影響を与えるガバナンス体制となっていたため、会社の自主的な意思決定が阻害され、そのことが粉飾決算の原因を生じさせた要因の1つになっていた。具体的には、(i) INCJが直接派遣した取締役は1または2名であったものの、その他の社外取締役もINCJが実質的に招聘しており、取締役の過半数は実質的にINCJが派遣・招聘した取締役であった、(ii) INCJが設立時に派遣した取締役は、実質的に同社の代表として取引先との交渉を自ら行う等、執行に深く関与していたにもかかわらず、執行役員には就任せず外形上は社外取締役にとどまり、業務執行に対する責任を負っていなかった、(iii)人材開発委員会および財務委員会という任意の機関が設置され、その決議方法が全会一致とされていたため、INCJから派遣された取締役(両委員会の委員を兼任)が反対すれば、重要な人事および財務事項について取締役会に上程することができなかった、(iv)取締役会・経営会議等の重要会議体にINCJの従業員がオブザーバーとして参加していた等であった。

ガバナンス体制が不十分であった
コーポレートガバナンス・コードは、取締役会の役割・責務として、①独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと、②適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきこと、および、③経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきことを挙げているが(原則4-3)、JDIでは、設立後一定期間、大株主が派遣した社外取締役の発言力が強かったことおよび同社の取締役の過半数が実質的に当該大株主によって派遣・招聘された取締役であったこと等から、①および③の役割・責務を十分に果たせていなかった。

システム化の不足
会計業務において手作業の工程が多く介在し、かつ、当該工程について担当者以外の者によるチェックがなされていなかったため、手作業の工程において滞留・過剰在庫を判定する際に先行3か月の需要予測の数値の改ざんや計算間違い等が行われ得る状況となっていた。

棚卸の方法
本来、工場での棚卸は、期末日に実地棚卸によって棚卸資産の実在性を確認すべきであるものの、JDIでは受注の増加等を理由に、一部の工場は月末以外の日に抜き取り検査により一部の棚卸資産を確認していた。そのため、貸借対照表に計上された月末時点での棚卸資産明細と実地棚卸当日に確認した棚卸資産とを突合する調整が必要となり、確認作業が煩雑となった結果、在庫に関してシステム上の数値を意図的に水増しする不適切な処理が行われていることを発見するのが困難となっていた。

ノーチェックでの伝票取消し
JDIでは、複数の不適切会計処理において一度計上した伝票を取り消す手法が用いられていたが、伝票取消しにあたっては取消しの理由等についての担当者以外の者による検証がまったくなされていなかった。

ルールの不明確と不透明な運用
JDIでは、会計処理に係る社内ルールが明確ではなかった。そのため、固定資産の立上費用において取得価額に含める費用の範囲が毎回異なり、その範囲が拡大していったり、IT開発費用の固定資産化の範囲がJDIの損益にとって都合がよくなるようルールの運用が変えられていたりと、不透明な運用が行われていた。

上位者による監督の不十分
JDIでは、経理上の判断や解釈の過程において、経理業務の責任者であるCFOによる専門的な視点での確認や承認を経ることがルールとして明確に求められていなかった。また、長期間にわたって資金調達を行う必要があった同社ではCFOの選定基準として財務面の経験・知見が特に重視されていたこともあって、歴代のCFOの中には経理実務における経験や正しい会計処理についての知見が不足していた者もあり、会計処理に関する元従業員の説明が正しいか否かを十分に判断できないこともあった。そのことも、元従業員が恣意的な判断や誤った解釈を行うことを許容する一因となっていた。

経理部内の相互監督の不十分であり元従業員へ権限が集中していた
JDIが設立された際に本社機能の従業員については旧個社3社(ソニー、東芝、日立製作所)からの転籍者が少なかったことや業績不振や不適切な会計処理に関与させられることへの不安・不満から退職した従業員も少なからずいたこと等から、経理部の人員は恒常的に不足していた。また、元従業員Aの会計経理実務に関する知識・経験・スキルは社内でも随一であり、規範意識の高い他の経理担当者が不適切な会計処理に耐え切れずに退職したこともあり、経理実務に関して元従業員Aに意見できる経理部員はいなかった。上位者による監督や経理部内の相互監督が十分に機能しなかった結果、元従業員Aに本社経理の権限が集中し、元従業員Aでなければ分からない経理実務が積み重なっていったことも、元従業員Aによる不適切な会計処理を防止・発見できなかった原因となった。

監査役監査が奏功しなかったこと
JDIの監査役監査は、事業を通しての不正リスクの予防・発見を重視していたため、工場および販売会社への往査や事業部門に対する監査を重点的に行い、経理部門を含めた本社管理部門に対する監査については、個別の部門監査よりも、リスク管理や在庫管理といったテーマ監査(会計監査については、工場や海外子会社経理部門へのヒアリング、在庫の実在性の確認等)を中心に行っていた。また、本社経理部門に対する個別監査を行っていたものの、被監査部門である経理部門の自己評価に基づくものであるなど不十分なものであったため、経理部門による不正に対する監査が十分ではなかった。そのため、経理部による長期間の粉飾決算を防止・発見できなかった。

内部監査が本社機能に及んでいなかったこと
JDIでは、2012年の発足以来2013年までの間、内部監査室が本社各部門の業務監査を実施していたが、当該監査の結果、本社部門のリスクは低いと判断し、製造拠点および海外販売子会社に対する監査を重視するようになった。そのため、2014年以降本件不適切会計処理が発覚するまでの間、内部監査室は、本部門に対して、一部の経費の使途を確認する監査を実施していたものの、不正会計処理のリスクを重視した経理部に対する監査は行っていなかった。また、会計の知見を十分に有する人員が内部監査室にいなかったため、J-SOX対応については経理部の一次統制に依拠していた。そのため、経理部門を含む本社機能に対する監視監督が十分ではなく、その結果、長期間にわたって不適切な会計処理が行われていたことを防止・発見できなかった。

内部通報制度が十分機能していなかったこと
JDIでは、長期間にわたって不適切な会計処理が行われる過程で、経理部員を中心とする多数の従業員が不適切な会計処理に関与し、当該会計処理が不適切なものであると認識していた従業員も複数いたものの、それらの従業員から内部通報が行われることはなかった。粉飾決算の発覚後、第三者委員会が経理部門の複数の従業員から内部通報を行わなかった理由について聞取り調査を行ったところ、「通報の受信者が明示されておらず、誰が通報内容や通報者を知ることになるのか分からないため、不安で通報できなかった」「会計上の知見がない相手に相談しても理解してもらえないと思った」「当時のCFOと元従業員との関係が深かったので、通報しても有耶無耶にされると思った」等の回答があった。つまり、内部通報制度が従業員にとって安心して利用できる制度になっていなかった。
また、2018年に従業員の1人が当時の会長兼CEOに対して人事上の不満を訴える通報を行い、そこには不適切な会計処理が行われている疑いがある旨の内容も含まれていたが、当該通報は、当初人事上の問題として扱われ、法務部や内部監査室に共有されず、また、取締役会に報告されることもないまま、限られた執行役員のみで処理された。その後、当該CEOが会計処理の問題として外部の法律事務所に調査を依頼したものの、元従業員Aから十分な協力が得られなかったこと等から、当該法律事務所による調査は結論が出ないまま中断され、結局、十分な調査が行われないまま会計処理に問題はなかったと結論づけられた。
このように内部通報制度が従業員にとって安心して利用できる制度になっていないことや従業員による通報を真摯に取り上げず、極めて限られた幹部のみで秘密裏に処理したことが、不適切な会計処理の発見を遅らせた一因となった。

再発防止策 1)ガバナンス向上委員会の開催
2)会計処理と情報開示に対する意識の変革
3)教育・研修を通じた会計に係る知識・コンプライアンス意識の強化
4)指名委員会等設置会社への移行
5)大株主との関係の透明性の確立・維持
6)経理統制の改善
7)監査委員会による監査
8)内部監査体制の強化
9)内部通報制度の改善
<この失敗から学ぶべきこと>

JDIはソニー、東芝、日立製作所の中小型液晶ディスプレイ事業が経産省主導のもと再編により統合された国策会社です。多額の税金が投入された“日の丸液晶メーカー”であっただけに、そこで露呈した粉飾決算は、元従業員Aの自殺とあいまってセンセーショナルに報道されることになりました。血税投入会社での粉飾決算とあって、第三者委員会による調査にはINCJからの業績プレッシャーの実態解明を期待する声もあったのですが、公表された第三者委員会の調査報告書は、INCJからの業績プレッシャーについての記述は6行しかなく、実態を解明するには至ってないとして第三者委員会報告書格付け委員会から酷評を受けることになりました。そのことへの反省があったのでしょうか、JDIが東京証券取引所に提出した改善報告書では、INCJからの不透明な形での影響によりJDIの自律的な意思決定が阻害されていたことについて、ある程度紙幅を割いて説明しています。しかし、ボリューム的にはそれほど詳細なものではない(1ページ未満)のが、残念なところです。

改善報告書では、INCJが設立時に派遣した取締役は、実質的にJDIの代表として取引先との交渉を自ら行う等、執行に深く関与していたにもかかわらず、執行役員には就任せず外形上は社外取締役にとどまり、業務執行に対する責任を負っていなかったという問題点が明らかにされました。

再生ファンドの支援を得る場合に、ファンドから役員の派遣を受けることは、よく聞く話ですが、上場を維持したまま再生ファンドからの出資を受け入れるのであれば、再生ファンドによる不透明な影響力の行使により自律的な意思決定が阻害されて企業価値が損なわれたり、業績プレッシャーが強化され粉飾決算を招いたりしていないか、目を見張らせる必要があると言えます。

2020/08/20 相次ぐ違法配当を防ぐために上場会社が点検すべき「チェック体制」(会員限定)

上場会社で違法配当が相次いでいる。まず、2020年7月14日にはシンニッタン(東証一部)が、前期末の配当金(2020年6月26日開催の定時株主総会において決議し、実施した剰余金の配当)と前期の自己株式取得(2020年2月20日に実施)が同社の財源規制により算定された分配可能額)を超えていたことを公表し、その翌日(2020年7月15日)には、リソー教育(東証一部)が2020年2月期第4四半期に実施した配当が分配可能額を超えたものであったことを公表している。

財源規制により算定された分配可能額 : 配当や自社株を青天井で取得できるようにしてしまうと、会社財産が制限なく流出し、会社の債権者の利益を害することになりかねない。そこで会社法では、配当や自社株買いに際して、会社の剰余金を基礎に計算された「分配可能額」が取得額の上限となる旨を定めている。分配可能額は、前期末の剰余金残高から今期の配当支払額や自己株式取得額等を加減算して算定される。

 分配可能額の具体的な算定についてはケーススタディ「配当をしたい」の「難解な分配可能額の計算」を参照)。

シンニッタン、リソー教育の両社とも、株主には支払済みの配当金等の返還は求めないとしつつ、原因の解明と再発防止策の検討を目的として外部の弁護士をメンバーに含む調査委員会を立ち上げ、調査を実施している。

実は、こういった上場会社の違法配当の事例は、下記のとおりほぼ毎年のように報告されている。

2018年4月17日 アルメディオ(東証二部)が前期末の配当金が分配可能額を超えていたことを公表( 2018年6月7日のニュース「違法配当を未然に防ぐことができなかった上場会社の内部統制」を参照)
2018年8月1日 多摩川ホールディング(JASDAQ)が前期末の配当金が分配可能額を超えていたことを公表
2019年7月18日 PCIホールディングス(東証一部)が当期の自己株式取得と中間配当金が分配可能額を超えていたことを公表
2019年7月26日 テイツー(JASDAQ)が当期の自己株式取得が分配可能額を超えていたことを公表

違法配当が発覚した上場会社には比較的中小規模のところが目に付くものの、HOYA(東証一部)のような大手でも起こっており(【失敗学第26回】HOYAの事例を参照)、規模を問わずどの上場会社で起きてもおかしくない「法令違反」と言える。上場会社の役員としては、“前車の轍”を踏まないためにも、先日(2020年8月12日)公表された下記のシンニッタンの調査委員会による調査結果やHOYAの改善策などを踏まえ、自社において違法配当が生じないためのチェック体制が構築できているかどうか、改めて点検しておきたい。

シンニッタンの調査委員会による調査結果
違法配当の原因 (1) 役職員の認識不足
同社の取締役を含む役職員が財源規制を正確に理解していなかった。
(2) 財務部におけるチェック体制の不備
財務部において予め担当者が分配可能額を計算し、上位者が確認、承認するなどのチェック体制が敷かれていなかった。
(3) 外部の専門家の活用不足
本件自己株式取得は金額的に重要な取引であったが、外部の弁護士などに相談することはなかった。
再発防止策 (1) 役職員に対する研修の実施
取締役や管理職に対し、会社法や金融商品取引法等の基本的な法令についての研修を実施する。これにより、財源規制を含めて、正確な法令の理解に努める。
(2) 財務部におけるチェック体制の構築
分配可能額を算定するためのチェックシートを作成したうえで、財務部において、担当者が算定を行い、上位者が確認、承認するなど、複数人による有効な牽制体制を構築する。
(3) 外部専門家の利用
当社にとって重要性の高い取引や異例な取引については、積極的に外部専門家に相談したうえで、その結果を稟議書や取締役会資料に添付することとする。

2020/08/19 (新用語・難解用語)TNFD

気候変動は新たな感染症を生む要因になり得るとも言われている。気候変動による森林破壊などにより、これまでほとんど人間と接触することがなかった動物が生息地を失って人間や家畜のいるエリアに移動し、新たな病原体を持ち込む可能性があるという。コロナ禍は、自然破壊やそれに伴う生物への影響、ひいては、それらが人類に及ぼす脅威について改めて考えさせるきっかけとなろう。

こうした中、・・・

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2020/08/19 (新用語・難解用語)TNFD(会員限定)

気候変動は新たな感染症を生む要因になり得るとも言われている。気候変動による森林破壊などにより、これまでほとんど人間と接触することがなかった動物が生息地を失って人間や家畜のいるエリアに移動し、新たな病原体を持ち込む可能性があるという。コロナ禍は、自然破壊やそれに伴う生物への影響、ひいては、それらが人類に及ぼす脅威について改めて考えさせるきっかけとなろう。

こうした中、企業が自然破壊や生物多様性の損失によって被る財務リスク、企業活動による自然や生物多様性への影響などについて情報開示するための枠組みを策定するため、国連の関連組織などが中心となって設置されることになったのが「TNFD(Task Force for Nature-related Financial Disclosures=自然関連財務情報開示タスクフォース」だ。TNFDはTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース)をモデルとしており(TCFDについては、2020年1月15日のニュース「機関投資家がTCFDを重視せざるを得ない事情」参照)、情報開示の枠組みを策定することによって、自然保護と生物多様性保全に向けた投資、融資を促進すること目的としている。

「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムで2019年1月に構想されたTNFDだが、先月(2020年7月)下旬には国連総会の補助機関である国連開発計画が「2021年5月」の正式な発足を目指し作業部会を設けることを公表している。TNFDの設立は、この国連開発計画のほか、国連環境計画・金融イニシアティブ、世界自然保護基金(WWF)、英環境NGOのGlobal Canopyが中心となって進められるが、作業部会には、世界銀行、仏BNP パリバ銀行、英スタンダード・チャータード銀行など10の金融機関と、英国政府、スイス政府なども関与し、英国政府は資金も提供する。TNFDは2021年中に情報開示の枠組みの策定を終え、2022年にはその試験的利用を開始することを計画しているという。

国連総会 : 基本的に全ての国際連合加盟国が参加する国際連合機関の一つ。

金融安定理事会(FSB)が設置した組織であるTCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクの情報開示を進める気候変動リスクに関する開示フレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。TCFD をモデルとするTNFDも今後TCFDと同様の道を歩み、企業の開示、そして機関投資家のESG投資にも影響を及ぼすようになることも予想される。

金融安定理事会(FSB) : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織。
ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

もっとも、同じく自然災害をテーマとするTCFDとTNFDの違いがどこにあるのか、現時点では企業はもちろん、機関投資家にとっても明確ではない。この点、TNFDのウェブサイト(FAQの「Are the TNFD and TCFD the same project?」参照)では、TCFDが気候関連の財務リスクに焦点を当てており、プラスチックごみによる海洋汚染や土壌汚染等、気候以外の自然関連の大きなリスクは網羅していないため、TNFDの設置が必要であると説明されている。

国連開発計画のエコシステム・生物多様性部門のヘッドを務めるミドリ・パクストン氏は、「自然を保護し、社会と経済へのリスクを回避するため、自然を破壊する活動から、自然を守る活動へと資金の流れを変える必要がある。自然関連財務情報の開示は、その実現に重要である」とコメントしている。近い将来、グローバルスタンダードとなったTNFDに基づき企業が自然関連財務情報の開示を求められるようになる日が来る可能性は十分にあろう。

2020/08/18 コロナ禍で改めて認識されたリアル株主総会の重要性

2020年の定時株主総会(以下、株主総会)は、「いかに株主を出席させないか」に企業が腐心するという異例のものとなったが、こうした中で注目を集めたのが、ハイブリッド型バーチャル株主総会だ。今年の株主総会シーズンでもハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した企業は一定数あったものの、一方で、「十分な準備ができない」として開催を見送った企業も多かった(2020年7月30日のニュース「ZOOMでハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した企業も」参照)。

もっとも、今後ハイブリッド型バーチャル株主総会が広まるかどうかは必ずしも「準備」の問題だけとは言えなそうだ。・・・

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2020/08/18 コロナ禍で改めて認識されたリアル株主総会の重要性(会員限定)

2020年の定時株主総会(以下、株主総会)は、「いかに株主を出席させないか」に企業が腐心するという異例のものとなったが、こうした中で注目を集めたのが、ハイブリッド型バーチャル株主総会だ。今年の株主総会シーズンでもハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した企業は一定数あったものの、一方で、「十分な準備ができない」として開催を見送った企業も多かった(2020年7月30日のニュース「ZOOMでハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した企業も」参照)。

もっとも、今後ハイブリッド型バーチャル株主総会が広まるかどうかは必ずしも「準備」の問題だけとは言えなそうだ。ハイブリッド型バーチャル株主総会に対しては、投資家のみならず企業側からも否定的な意見も聞かれる。

例えばガバナンス先進国である英国では既に2009年の法改正で、定款変更を要件に、株主が株主総会に「電子的手段」で参加し、発言、投票することが可能になっているが、FTSE350構成企業のうちバーチャル株主総会を実施できるよう定款を変更した企業は1/3程度に過ぎず、しかも定款を変更した企業の中でも、今年の株主総会を「ハイブリッド型」で開催した企業はわずか6社、「バーチャルオンリー型」はさらに少ない3社にとどまった。ちなみに、英国政府はコロナ禍を踏まえ、9月末までの時限措置として、定款を変更していない企業でもバーチャル株主総会を開催することを可能にする新法を6月末に制定していたにもかかわらず、である。

FTSE350 : ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位100銘柄で構成される株価指数である「FTSE100」と、FTSE100に次ぎ時価総額が大きい250銘柄で構成される「FTSE250」の両指数の銘柄で構成される株価指数
ハイブリッド型 : リアル株主総会を開催し、一部の出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会
バーチャルオンリー型 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会

英国企業の株主総会シーズンは4、5月だが、今年は運悪くコロナ禍によるロックダウンの時期と重なってしまった。ロックダウンでは「3人以上の集会」が原則禁止され、仕事に不可欠な場合は「最小限の人数に留める」ことを条件に例外が認められた。これを受け、多くの英国企業は、定足数を満たすのに必要な人員のみが株主総会会場に出席し、株主は、オンラインの議決権行使プラットフォームなどを利用して事前に委任状を提出したり、メールで事前に質問を送付する以外は株主総会に関与できない状態となった。株主総会では役員のプレゼンテーションは省略され、取締役会議長が事前に株主からメールで送られた質問の一部を会場で読み上げ、役員がこれに回答する模様を収めた動画を後日、ウェブサイトで公開するといった対応にとどまった。

定足数 : 決議が有効なものとなるために最低限必要な出席議決権数のこと。この定足数要件を満たさない決議は無効となる。例えば株主総会の普通決議は「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」のが原則とされる。ただし、多くの上場会社は、「“出席した”議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う」といった規定を定款に設けており、極端な例では、株主総会に出席したのが議決権を1個有する株主1人のみでも株主総会決議は成立することになる。

多くの企業がこのような株主総会を経験し、今後はバーチャル株主総会が一般化する流れが強まると思いきや、今のところそうはなっていない。大手機関投資家からは、「株主は、投資先企業の経営陣と直に対面し、公の場で質問できる機会が必要」との声が聞かれる。投資家には、「バーチャル株主総会では、株主が企業経営陣の説明責任を十分に問うことができない」との懸念がある。

また、企業の幹部からも、「事態が正常化したら、今回のような方法で株主総会を開催することはないだろう。今年は、株主が取締役の説明責任を問う機会が失われて残念だった」との発言がメディア等で伝えられている。

英国では「behind closed doors」(非公開)と形容された今年の株主総会は、「株主と企業の対話の場」としてのリアル株主総会の重要性を、投資家、企業の双方に改めて認識させたとも言えそうだ。