2020/08/18 コロナ禍で改めて認識されたリアル株主総会の重要性

2020年の定時株主総会(以下、株主総会)は、「いかに株主を出席させないか」に企業が腐心するという異例のものとなったが、こうした中で注目を集めたのが、ハイブリッド型バーチャル株主総会だ。今年の株主総会シーズンでもハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した企業は一定数あったものの、一方で、「十分な準備ができない」として開催を見送った企業も多かった(2020年7月30日のニュース「ZOOMでハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した企業も」参照)。

もっとも、今後ハイブリッド型バーチャル株主総会が広まるかどうかは必ずしも「準備」の問題だけとは言えなそうだ。・・・

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2020/08/18 コロナ禍で改めて認識されたリアル株主総会の重要性(会員限定)

2020年の定時株主総会(以下、株主総会)は、「いかに株主を出席させないか」に企業が腐心するという異例のものとなったが、こうした中で注目を集めたのが、ハイブリッド型バーチャル株主総会だ。今年の株主総会シーズンでもハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した企業は一定数あったものの、一方で、「十分な準備ができない」として開催を見送った企業も多かった(2020年7月30日のニュース「ZOOMでハイブリッド型バーチャル株主総会を開催した企業も」参照)。

もっとも、今後ハイブリッド型バーチャル株主総会が広まるかどうかは必ずしも「準備」の問題だけとは言えなそうだ。ハイブリッド型バーチャル株主総会に対しては、投資家のみならず企業側からも否定的な意見も聞かれる。

例えばガバナンス先進国である英国では既に2009年の法改正で、定款変更を要件に、株主が株主総会に「電子的手段」で参加し、発言、投票することが可能になっているが、FTSE350構成企業のうちバーチャル株主総会を実施できるよう定款を変更した企業は1/3程度に過ぎず、しかも定款を変更した企業の中でも、今年の株主総会を「ハイブリッド型」で開催した企業はわずか6社、「バーチャルオンリー型」はさらに少ない3社にとどまった。ちなみに、英国政府はコロナ禍を踏まえ、9月末までの時限措置として、定款を変更していない企業でもバーチャル株主総会を開催することを可能にする新法を6月末に制定していたにもかかわらず、である。

FTSE350 : ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位100銘柄で構成される株価指数である「FTSE100」と、FTSE100に次ぎ時価総額が大きい250銘柄で構成される「FTSE250」の両指数の銘柄で構成される株価指数
ハイブリッド型 : リアル株主総会を開催し、一部の出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会
バーチャルオンリー型 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会

英国企業の株主総会シーズンは4、5月だが、今年は運悪くコロナ禍によるロックダウンの時期と重なってしまった。ロックダウンでは「3人以上の集会」が原則禁止され、仕事に不可欠な場合は「最小限の人数に留める」ことを条件に例外が認められた。これを受け、多くの英国企業は、定足数を満たすのに必要な人員のみが株主総会会場に出席し、株主は、オンラインの議決権行使プラットフォームなどを利用して事前に委任状を提出したり、メールで事前に質問を送付する以外は株主総会に関与できない状態となった。株主総会では役員のプレゼンテーションは省略され、取締役会議長が事前に株主からメールで送られた質問の一部を会場で読み上げ、役員がこれに回答する模様を収めた動画を後日、ウェブサイトで公開するといった対応にとどまった。

定足数 : 決議が有効なものとなるために最低限必要な出席議決権数のこと。この定足数要件を満たさない決議は無効となる。例えば株主総会の普通決議は「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」のが原則とされる。ただし、多くの上場会社は、「“出席した”議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う」といった規定を定款に設けており、極端な例では、株主総会に出席したのが議決権を1個有する株主1人のみでも株主総会決議は成立することになる。

多くの企業がこのような株主総会を経験し、今後はバーチャル株主総会が一般化する流れが強まると思いきや、今のところそうはなっていない。大手機関投資家からは、「株主は、投資先企業の経営陣と直に対面し、公の場で質問できる機会が必要」との声が聞かれる。投資家には、「バーチャル株主総会では、株主が企業経営陣の説明責任を十分に問うことができない」との懸念がある。

また、企業の幹部からも、「事態が正常化したら、今回のような方法で株主総会を開催することはないだろう。今年は、株主が取締役の説明責任を問う機会が失われて残念だった」との発言がメディア等で伝えられている。

英国では「behind closed doors」(非公開)と形容された今年の株主総会は、「株主と企業の対話の場」としてのリアル株主総会の重要性を、投資家、企業の双方に改めて認識させたとも言えそうだ。

2020/08/17 コロナ禍で問題化 「やらなかった残業」分の残業代の支払いの要否

コロナ禍による急激な経済活動の縮小に伴い、多くの会社で労働時間(特に残業時間)が以前より短くなっている。(2020年)8月7日に厚生労働省が公表した「令和2年6月分 毎月勤労統計調査(速報)」 によれば、全産業を通じた所定外労働時間は、前年同月比でマイナス23.9%の大幅減となった(第2表「月間実労働時間及び出勤日数」参照)。

コロナ禍が原因とはいえ、働き方改革が叫ばれる中、労働時間が短くなるのは労使双方にとって望ましいことのようにも見える。しかし、「残業が減る」ということは「収入が減る」ということでもあり、これに不満を抱く従業員がいることも経営陣は認識しておく必要がある。特に、・・・

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2020/08/17 コロナ禍で問題化 「やらなかった残業」分の残業代の支払いの要否(会員限定)

コロナ禍による急激な経済活動の縮小に伴い、多くの会社で労働時間(特に残業時間)が以前より短くなっている。(2020年)8月7日に厚生労働省が公表した「令和2年6月分 毎月勤労統計調査(速報)」 によれば、全産業を通じた所定外労働時間は、前年同月比でマイナス23.9%の大幅減となった(第2表「月間実労働時間及び出勤日数」参照)。

コロナ禍が原因とはいえ、働き方改革が叫ばれる中、労働時間が短くなるのは労使双方にとって望ましいことのようにも見える。しかし、「残業が減る」ということは「収入が減る」ということでもあり、これに不満を抱く従業員がいることも経営陣は認識しておく必要がある。特に、会社が一方的に残業を減らす場合は尚更だ。そもそも残業は会社が命じるものであって、残業させるもさせないも会社が決めることであるため、会社が一方的に残業を減らすこと自体は法的には問題はないが、従業員には残業が減る経緯等について丁寧に説明しておく必要があろう。

一方、「やらなかった残業」について残業代を支払わないことが問題となる場合もあるので注意したい。その典型例が、「月〇時間の残業があるものとして月額〇万円を支払う」といった「固定残業代」(「定額残業代」「みなし残業代」とも呼ばれる)を支給する旨の労働契約を締結しているケースだ。契約で「残業時間の多寡にかかわらず一定額の残業代を支払う」ことを約束している以上、残業を減らしても固定残業代を減額することはできない。

また、労使ともに「残業するのが当然」という意識がある職場では、たとえ労働契約(雇用契約書や就業規則等)に明文規定が存在しなくても、そのような“労使慣行”があったものとみなされる可能性は否定できない(民法92条)。仮にそうなれば、会社(債権者)は残業を減らすこと(債務の免除)はできても、賃金支払い(反対給付の履行)を拒むことはできない(民法536条2項)。

これらのケースにおいて「働かなかった分」の残業代を支払わないこととするには、現状に即した内容で労働契約を締結し直すしかない。後々のトラブルを避けるためには、新たな労働条件での雇用契約書を、該当者全員と個別に交わすべきだろう。労働契約法10条は、就業規則の変更により会社が“一方的に”労働条件を変更することを認めてはいるものの、労働契約法上、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」のが原則であり(同法9条)、変更する場合には、それが「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものである」必要がある(同法10条)。このため、万が一訴訟に発展した場合に裁判所がどう判断するか分からないというリスクが残るなど、就業規則を変更する方法の採用はハードルが高い。また、いずれにせよ従業員に対して丁寧に説明しなければならないことに変わりはないため、会社の規模にもよるものの、基本的には個別同意を得ることを第一に考え、就業規則の変更は「個別同意した労働条件の再確認」または「一部の者が同意しない場合の最後の手段」くらいに認識しておくべきだろう。

2020/08/12 【新任役員向けトレーニングプログラム】政策保有株式と資本コスト

概略

機関投資家が企業に持合い株式の売却を迫る一方、企業側では、株式持合いによって取引先との関係が維持・強化されるとの声は未だに小さくありません。また、研究者の間でも、持合い株式への評価は一律ではありません。そこで一橋大学商学研究科の円谷昭一先生は、持合い株式の効果が最終的に会計数値にどのように反映されるのかを「実証的」に分析し、2020年6月には「政策保有株式の実証分析」(日本経済新聞出版刊)を上梓されています。
本セミナーでは、まず「①財務資本の活用と開示」において、資本コストの考え方や資本コストの活用と開示例について説明したのち、「②『政策保有株式の実証分析』の概要」において、「持合い株式を巡る制度改正や理論的な背景を整理した上で、ある企業が持合い売却した前後で会計数値が変化しているかどうかを検証することなどを通じて株式持合いの経済的効果を明らかにします。
また、政策保有株式縮減後の株主構成のイメージについても解説していただきます。

【講師】一橋大学大学院・商学研究科 准教授、日本IR協議会・客員研究員 円谷 昭一
【講義時間】1時間25分50秒
【目次】
①財務資本の活用と開示
1 昨今の制度改正とその背景
2 資本コストとEVA
3 資本コストの活用と開示例
4 資本市場とどう向き合うか?
②『政策保有株式の実証分析』の概要
1 戦前の持株会社構造と戦後の株式放出
2 終戦後の株式安定化の必要性
3 持合いの中心となった六大企業集団
4 企業集団形成で銀行が大きな役割を果たす
5 高度経済成長の終了と持合いの変質
6 バブル崩壊と企業集団の融解
7 株式持合いに関する実証研究
8 検証方法と結果
9 時系列分析の結果
10 「持合い=低利益率」の解釈
11 持合い株式の状況
12 どのような企業がどのような銘柄を売却しているか?
13 日本製鉄の2020年3月期の株式売却の事例
14 相互保有株式が残ってきている
15 安定株主と持合い株式の関係
16 安定株主の実態調査
17 今後の論点

講義資料 ①財務資本の活用と開示.pdf
②『政策保有株式の実証分析』の概要.pdf
講義

①財務資本の活用と開示
51816a

②『政策保有株式の実証分析』の概要
51816b

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2020/08/12 政策保有株式と資本コスト

概略

機関投資家が企業に持合い株式の売却を迫る一方、企業側では、株式持合いによって取引先との関係が維持・強化されるとの声は未だに小さくありません。また、研究者の間でも、持合い株式への評価は一律ではありません。そこで一橋大学商学研究科の円谷昭一先生は、持合い株式の効果が最終的に会計数値にどのように反映されるのかを「実証的」に分析し、2020年6月には「政策保有株式の実証分析」(日本経済新聞出版刊)を上梓されています。
本セミナーでは、まず「①財務資本の活用と開示」において、資本コストの考え方や資本コストの活用と開示例について説明したのち、「②『政策保有株式の実証分析』の概要」において、「持合い株式を巡る制度改正や理論的な背景を整理した上で、ある企業が持合い売却した前後で会計数値が変化しているかどうかを検証することなどを通じて株式持合いの経済的効果を明らかにします。
また、政策保有株式縮減後の株主構成のイメージについても解説していただきます。

【講師】一橋大学大学院・商学研究科 准教授、日本IR協議会・客員研究員 円谷 昭一
【講義時間】1時間25分50秒
【目次】
①財務資本の活用と開示
1 昨今の制度改正とその背景
2 資本コストとEVA
3 資本コストの活用と開示例
4 資本市場とどう向き合うか?
②『政策保有株式の実証分析』の概要
1 戦前の持株会社構造と戦後の株式放出
2 終戦後の株式安定化の必要性
3 持合いの中心となった六大企業集団
4 企業集団形成で銀行が大きな役割を果たす
5 高度経済成長の終了と持合いの変質
6 バブル崩壊と企業集団の融解
7 株式持合いに関する実証研究
8 検証方法と結果
9 時系列分析の結果
10 「持合い=低利益率」の解釈
11 持合い株式の状況
12 どのような企業がどのような銘柄を売却しているか?
13 日本製鉄の2020年3月期の株式売却の事例
14 相互保有株式が残ってきている
15 安定株主と持合い株式の関係
16 安定株主の実態調査
17 今後の論点

講義資料 ①財務資本の活用と開示.pdf
②『政策保有株式の実証分析』の概要.pdf
講義

①財務資本の活用と開示

②『政策保有株式の実証分析』の概要

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2020/08/10 【2020年7月の課題】「コロナ後」のIRおよびSR(会員限定)

解答者:日本シェアホルダーサービス株式会社
チーフコンサルタント 藤島 裕三 様

「コロナ前夜」までの機関投資家の関心事~ESG投資と言えば「気候変動問題」~

企業が投資家に向けた情報発信のあり方を検討する際、近年特に重要になっているテーマが、ESGをはじめとする「非財務情報」です。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

業績(実績および見通し)などの「財務情報」は適時・適切かつ公正に発信することが当然であり、コロナ前後といった外部環境に左右されるものではありません。一方、戦略や事業リスク、経営体制といった非財務情報には、その時々の外部環境が反映されるべきであり、投資家も当然にそれを期待します。そこで本稿では、グローバルかつメインストリーム(主流)の機関投資家におけるESGへの問題意識と、それを踏まえ、コロナ禍又はコロナ後において企業はどのような情報開示を行うべきかを考察します。

まずは機関投資家の“ESG観”を確認しておきましょう。経済産業省が2019年12月に公表した「ESG投資に関する運用機関向けアンケート調査」には、日本に拠点がある国内外の主な運用機関投資家63社が選んだ「ESGについて投資判断で考慮すべき要素」が示されています。下のグラフは、中期(3~5年)投資と長期(5~30年程度)投資それぞれについて選ばれた要素の割合を平均したものです。

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(出所)6ページ「ESGについて投資判断で考慮すべき要素」に基づき作成

上のグラフからは、圧倒的に「E(環境)」の課題である「気候変動」に関心が集まっていることが分かります。2番目には「S(社会)」の課題である「健康・安全・労働環境」がランクインしているものの、気候変動の半分ほどの割合にとどまっています。この結果から分かるように、少なくともコロナ以前の資本市場においては、「ESG投資≒気候変動に着目した銘柄選別」であったと言ってよいでしょう。

上記経済産業省の調査は日本国内で活動している運用機関のみを対象としていますが、さらにグローバルな観点から機関投資家のESG観を確認すると、異なる傾向が見えてきます。コンサルティング会社のMorrow Sodaliが米欧を中心とする41の機関投資家を対象として今年(2020年)1月に実施した「INSTITUTIONAL INVESTOR SURVEY (機関投資家調査)2020」を確認してみましょう。下のグラフでは、「過去1年間で投資判断に最も重大な影響を与えたESG関連のリスクや機会は何か(WHICH TOPIC HAD THE MOST SIGNIFICANT IMPACT?)」との設問に対する選択肢のうち、「最も重要(Most important)」あるいは「重要(Important)」に選ばれたものの割合を合計し、多い順に並べています。

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(出所)Morrow Sodali「INSTITUTIONAL INVESTOR SURVEY 2020」8ぺージに基づき作成

やはり「E」の課題である気候変動(Climate change)が一番多くなっていますが、「S」の課題である人的資源管理(Human capital management)やサプライチェーン管理(Supply chain management)なども50%以上の機関投資家が投資判断に「Important」以上の影響があったと回答しています。「Most important」に限定すると50%以上は気候変動のみ(86%)となっていますが、上記経済産業省の調査と比較しても、グローバル投資家の間では「S」の課題に対する相対的な関心度の高さが表れていると言えるのではないでしょうか。

ところで、上記経済産業省の調査では、「G(ガバナンス)」の課題は、最上位の「社外取締役・監査役」でも全体の4番目にとどまるなど相対的に順位が低くなっています。この調査はあくまで「投資判断で考慮」する要素に関するものであって、議決権行使においては「E」「S」よりも「G」の課題の方がより重視されるものと考えられます。すなわち、「E」「S」の課題は主にIR(株主を含む広く「投資家全般」に対する広報)、「G」の課題は主にSR(株主向け広報)でテーマになると言えます。

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

「コロナ後」に求められるIRのスタンス~人的資本と新たな成長性がポイント~

では、「コロナ後」にはどのようなIRのスタンスが求められるのか、検討してみましょう。

英国FRC(Financial Reporting Council:財務報告評議会)は今年3月に他の2団体と共同で、コロナ影響下においても資本市場の機能を守るための一連の施策を発表しました(年次報告書を提出する期限の2か月延長、決算や監査を適切に進めるためのガイダンスなど)。その中でFRCは、機関投資家がコロナ問題に関して企業に求める5つの情報を下表のとおり示しています。

(出所)FRCのウェブサイトより引用のうえ翻訳
Resources Action The future
1 2 3 4 5
How much cash does the company have? What cash and liquidity could the company obtain in the shortterm? What can the company do to manage expenditure in the short-term? What other actions can the company take to ensure its viability? How is the company protecting its key assets and value drivers?
会社にはどれくらいの現金がありますか? 短期的にどのような現金と流動性を得ることができますか? 短期的に支出を管理するために会社は何ができますか? 存続可能性を確保するために、会社は他にどのような行動を取ることができますか? 会社はどのようにして重要な資産と価値の推進要因を保護していますか?

上表の1と2はコロナ環境下で「すぐに破綻するような財務状況(Resources)ではないか」を、3と4は「いずれ破綻しないよう必要な施策(Action)は打っているか」を確認するものと言えます。特に米国企業などでは行き過ぎた株主還元で資本が過小だったり、グローバル化を進め過ぎてリスクが極大化していたりするケースが散見され、コロナ禍という異常時に事業存続が危ぶまれたことを踏まえれば、これらの情報の確認が求められるのも理解できるところです。これらはいずれも企業の「緊急対応」を確認するものとも言えるでしょう。

一方で5は、「The future」という言葉が示すように、「コロナ後」を見据えた新たな戦略を問うもので、機関投資家の投資判断に直結する重要なテーマと考えられます。FRCはこれについて以下の5つの例を示しています。

1. 短期から長期への移行期間に発生する売上と費用に関する説得力を伴ったシナリオ(plausible scenarios)
2. 重要資産(key assets)や長期的な価値向上ドライバー(人的資本、ブランド、ライセンスなど)に対する短期的な決定が及ぼす影響
3. 従業員を支援する(support for employees)取り組み
4. サービス提供が滞っている(services are delayed)顧客との取引を継続させる手立て
5. ビジネスモデルや戦略を短期と中期で適合(adapt)させる方策

上記1.は、既存ビジネスがコロナ前後でどう変わるのか、以前と同じ事業機会や競争力を期待できるのかを確認するものです。2.はR&DやM&Aなど経営資源に関する計画に変更はないかを確認するとともに、むしろコロナ禍をチャンスと捉えて積極的な施策に打って出るべきだと提起しているものとも考えられます。3.はコロナ禍を機会に人的資本の重要性、ESGのうち「S」の課題に目を向けるよう求めています。4.からは、特にグローバルなサプライチェーンを維持できるのかどうかが問われていることが読みとれます。そして5.は、コロナ後の新たな事業機会を取り込んで成長することを企業に期待していると言えるでしょう。

R&D : 研究・開発業務、あるいは研究・開発部門のこと。Research&Developmentの略。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

これらの観点はまさに投資判断に資するものであり、企業はIRの場面で問われると認識するべきです。事業リスクとしてビジネスの継続性と人的資本の確保、そして機会として新たな成長性の可能性と積極的な施策(M&Aなど)を説明することが、コロナ後のIRミーティングでは望ましいと言えます。

「コロナ後」に求められるSRのスタンス~財務資本に関するガバナンスが重要~

次に、コロナ後のSRにおいて、企業にはどのようなスタンスが求められるでしょうか。グローバル機関投資家の業界団体であるICGN(International Corporate Governance Network:国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)は今年4月、「Covid-19蔓延下でのガバナンスの優先課題」と題するレターを公表しました。これは日本の6月株主総会シーズンを前に「ガバナンスの優先事項についての見解を共有」するため、企業経営者に宛てたもので、まさに議決権行使を意識したSR向けの意思表明と言えます。下記は同レターが「企業にとってのガバナンスの優先順位」として挙げた事項のポイントです。

企業にとってのガバナンスの優先順位」のポイントを要約
  主な内容
1.社会的責任 ✓正社員・派遣社員など従業員を公平に扱う
✓社会保障が脆弱・存在しない国においては、可能な場合には人員削減を避ける
✓女性労働者に対して配慮する
2.役員報酬 ✓従業員全体への施策(人員削減、給与・賞与の削減など)を反映する
✓上級役員と通常の職員を公平に処置する
3.配当 ✓利害関係者に財務不安定性の影響が及ぶなら、配当の減額や停止が必要となる
✓配当支払いの重要性を過小評価しない
✓財務安定性を保てるならば配当は継続する
4.資本調達 希薄化は最小限に抑える
✓投資家はある程度の希薄化は許容する

希薄化 : 「1株当たりの価値」が下がること。希薄化は発行済株式数の増加により起こる。どれくらい希薄化したかを示す「希薄化率」とは発行済株式数の増加率のことであり、「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存株主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、例えばある大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が10%未満」であることを挙げている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

5.年次総会
取締役選挙
✓バーチャル総会での質問に適切に対応する
✓危機対応のため取締役在任期間の延長を投資家は許容するかもしれない
6.企業報告 ✓各国で企業報告の期限が延長されている
✓Covid-19対策を年次報告書で公表することで、持続的な価値創造への回復力を示す

ここで特に重要なのは、ICGNは「人員削減をするな」とは決して言っておらず、また「配当は重要である」と念押ししていることです。1.において「可能な場合は人員削減を避ける」としており、避けられない場合は「公平」「配慮」を求めているに過ぎません。また「財務安定性を保てるならば配当は継続」すべきとし、経営破綻のリスクがなければ「減額」や「停止」は必要ないことを示しています。

もちろん当レターの1.従業員への配慮、2.公平な役員報酬、3.慎重な配当スタンスは「S」の課題である人的資源にフォーカスしており、グローバル機関投資家がSRにおいてこれらの情報を強く求めていることは明らかです。しかし、より注目しているのは事業継続性であり、その結果もたらされる株主還元の安定性なのです。議決権行使においては「G」の課題が最も重視されると言ってもよいでしょう。

本レターが公表された際、主要マスコミでは「従業員などに配慮して株主還元を控えるべき」という論調の報道が目に付きましたが、企業はこれを鵜呑みにせず、財務資本を重視するスタンスでSRに臨むことが求められています。

2020/08/07 コロナ禍・コロナ後のESG投資で注目される領域

ESGが環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの領域の総称であることは周知の通りだが、いまだ新型コロナウイルス感染症が収束していない現在、そして“コロナ後”においては、このうち・・・

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2020/08/07 コロナ禍・コロナ後のESG投資で注目される領域(会員限定)

ESGが環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの領域の総称であることは周知の通りだが、いまだ新型コロナウイルス感染症が収束していない現在、そして“コロナ後”においては、このうち社会(Social)に対する投資家の注目度が高まるとの見方が強まっている。そのきっかけとなったのが、急成長するファストファッション企業で起きた“事件”だ。

ESGに優れた企業に投資するESG投資において、これまで「S」は、気候変動で関心が高まる「E」、不祥事、社外取締役、ダイバーシティ(多様性)、役員報酬等々、切り口の多い「G」の陰に隠れがちだったと言える。しかし、新型コロナウイルス感染症は人々の健康のみならず、雇用をも脅かし、社会全体を大きな混乱に陥れた。従業員の健康維持や雇用確保等は企業経営に直結するテーマであり、これらだけでも十分に投資家が「S」への関心を高める要因となり得るが、これに追い打ちをかけるようなタイミングで発生したのが上述の事件だ。具体的には、急成長中の英国ファストファッションブランド「Boohoo」の下請工場において、労働者が新型コロナウイルスに感染しているにもかかわらず労働を強制していたことが発覚した。

Boohooの下請工場のあるレスター市は人口35万人の英国の中規模都市で、南アジアや東欧からの移民労働者が多く、従業員10人以下の小規模な服飾工場が約1,500も集積する英国最大の服飾産業都市だが、同市で生産される衣料品の75~80%はBoohooから発注されていると言われる。この事件の背景に、Boohooが同市の服飾産業に与える影響の大きさがあったことは間違いない。服飾産業の労働者の労働環境改善を訴える英国のキャンペーン団体「Labour Behind the Label(LBL)=ラベルの裏にある労働」が6月末に公表した報告書によると、下請工場は、街がロックダウンされた後も、消毒液の備え付けやソーシャルディスタンスの確保などの感染防止対策を怠ったまま、通常以上のペースで稼働していた。さらに、新型コロナウイルスに感染した労働者は、工場の監督者から「法定疾病手当は受給できない。働けないなら解雇する」と宣告されていたという。

コロナ禍においてもBoohooが生産のスピードを緩めなかった理由は、同社のビジネスモデルの特性にある。10代後半~20代前半の若い女性をターゲットにオンライン販売に特化する同社は、新作の衣料品を少量ずつ生産して“試験的に”販売し、売れた商品のみ素早く増産して売ることで、流行の変化に機敏に対応しつつ、不人気商品の在庫を抱えないという戦略をとり、グループ全体の営業利益を、2012年度から2019年度までの間で17倍に急伸させた。このビジネスモデルを支えるため、同社の下請工場は短期間での納品を迫られてきた。

今回の件が明るみに出た後、Boohooの第6位の株主だった機関投資家Aberdeen Standard Investments(ASI)が保有していた同社株の大半を売却したことで、同社の株価は7月中旬までに6月末時点の半額に下落した。現在、Boohooは自らサプライチェーンの労働環境等に関する調査を行っており、その1回目の報告書が9月15日までに公表される予定となっている。その内容次第では、大手機関投資家によるさらなる投資引き揚げが予想される。

もっとも、本件はBoohoo側だけに問題があるとは言えないだろう。当然ながら、ESG投資に積極的な大手機関投資家がなぜBoohooにこれだけの投資を行ってきたのかということへの疑問がわく。上述とおり既にBoohoo株式の大半を売却したASIは、同社株式を3つの「ESGファンド」で保有していた。しかもそのうちの一つは、「優れた雇用慣行を実践する企業」に投資するファンドだった。ASI以外にも、Legal & General Invest Management(LGIM)やDWS 、Man Groupなどの大手機関投資家が販売する20の「ESGファンド」がBoohoo株を所有していることが新聞報道等で明らかになっている。下請け会社に超短期間での納品を求め、さらに生命を脅かしかねない新型コロナウイルスへの感染リスクさえ無視した労働を迫る企業を「ESGファンド」に組み込んでいたこと、特にASIが同社を「優れた雇用慣行を実践する企業」と位置付けていたことは、ESGファンドそのものへの信頼感を揺るがすとともに、機関投資家の投資判断にも疑問が投げかけられることになりかねない。

また、投資家がESGファンドを組成する際に重要な判断材料としている「ESG格付」の信頼も揺らいでいる。Boohoo株が多くのESGファンドに組み込まれていた最大の理由は、ESGの格付け会社がBoohooを高く評価していたということにある。例えば大手格付会社のMSCIは、今回の一件が発覚する直前、Boohooに対し、「AA」という上から2番目に良いESGスコアを付けていた。Boohooに対しこのような高い評価が付いた原因として挙げられるのが、通常、ESG格付は企業自身が開示する情報に依拠しているということだ。裏を返せば、企業からの情報開示が少なければESG格付のディスカウント要因となり(2017年5月11日のニュース「日本企業のESG対応、過小評価も」参照)、さらに言えば、企業はESG格付を高めるうえで自社に都合の良い情報のみを開示することさえも容易に出来てしまう。また、ESGの一部の領域で非常に高い評価が与えられた場合、その他の領域の評価が低くても平均スコアは高く出るという数字のマジックもある。

ファストファッションのサプライチェーンにおける労働者の人権侵害問題はかねてから指摘されていた。それにもかかわらず、多くの大手機関投資家がBoohoo株をESGファンドに組み込んでいたという事実は、結局、大手機関投資家といえども、投資判断に際しては格付け会社のESG格付に依存し、独自の分析・調査を行っていなかったということを白日の下に晒したと言える。今回のBoohooの件は、機関投資家に反省を促すとともに、これを機に機関投資家が投資先の「S」要素への関心を高めるきっかけとなるだろう。特にコロナ禍においては、自社の従業員やサプライチェーンの労働者の健康維持、労働環境、雇用維持などに注目が集まる可能性が高い。経営陣は、従業員の感染防止策、リモートワークの導入状況など、自社の取り組みを再点検しておく必要があろう。

2020/08/06 社外取締役にもサクセッション・プラン

経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会は7月31日、「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」(以下、指針)を公表している。この指針は、ガバナンス改革を、例えば“社外取締役の数合わせ”といった「形式」を整える段階から、「実質」的に機能させる段階へと深化させるためには、その中核として社外取締役が本来の役割を発揮することが重要との問題意識に基づき取りまとめたもの。具体的には、社外取締役を対象としたアンケートおよびインタビューを実施し、ベストプラクティスを示している。

まず指針は以下の「社外取締役の5つの心得」を示している。これらは既に・・・

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