2020/06/25 株主の求めによる臨時株主総会は開催すべき?(会員限定)

2020年3月決算会社の定時株主総会が最も集中するのは6月26日(金)であり、747社(全体の32.8%)が開催を予定している。今年は決算作業・監査手続の遅れから基準日を変更し、臨時株主総会を開催する企業も4社ある(2020年6月18日のニュース「基準日変更企業が増加 6月17日現在の決算発表・株主総会動向」参照)。一般に臨時株主総会というと、緊急的な定款変更や増資、合併といった重大な決定事項が発生した場合に文字通り“臨時的に”開催されるものだが、株主側から臨時株主総会の開催を求められることもある。その中には、取締役の交代など、会社側にとってはあまり「嬉しくない」株主提案を議事とするもの少なくない。果たして、このような場合でも、会社側は株主からの臨時株主総会の求めに応じる必要はあるのだろうか。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

こうした中、この論点について争われた裁判の判決が昨年(2019年)12月16日に東京地裁で下されているので紹介したい。

本裁判は、経営権の争いのある上場会社が舞台となったもの。株主は、現社長の解任と新たな取締役の選任を求め、2018年11月19日、会社に対し臨時株主総会の招集を請求し(会社法297条1項)、名古屋地裁に同社の株主総会の招集を許可する決定を求める申立てを行った。

会社法297条(株主による招集の請求)
1項 総株主の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。

この申立てを受け同社は「2019年3月19日」までに臨時株主総会を開催することを取締役会で決議して株主に確約し、その旨のリリースも出したが、開催期限直前の同年3月4日の取締役会で、一転して臨時株主総会の開催を中止する旨を決議した。同社は臨時株主総会中止の理由として、臨時株主総会の招集請求をした原告株主らに“株価操縦”の疑いがあることを挙げた。しかし、その後名古屋地裁は2019年3月6日に臨時株主総会の招集を許可することを決定、結局同社の臨時株主総会は同年4月28日に開催されている。

このように紆余曲折を経て同社の臨時株主総会は開催されたものの、原告株主は、同社(役員ら)を相手取り訴訟を提起した。訴訟を提起した理由の一つが、同社役員らは、株主総会招集請求を受けて臨時株主総会の開催を取締役会で決議し、確約したことにより、「臨時株主総会を開催する任務又は義務」を負ったにもかかわらず、その後の取締役会で臨時株主総会の開催を中止する旨の決議に賛成したことによって原告らの「株主総会招集請求権」(会社法297条1項)を違法に侵害したというものだ。また、原告株主らは、一旦開催を確約した臨時株主総会を取締役会決議により中止する行為は、取締役としての任務懈怠又は共同不法行為に該当するとも主張した。

これに対し被告である同社(役員ら)は、「株式会社は、少数株主から株主総会招集請求を受けたとしても、これに応ずる絶対的な義務はなく、経営判断に基づいて招集の要否を選択することが許されている」としたうえで、「会社として招集を不要と判断した以上、被告らが中止決議に賛成したことが取締役としての任務懈怠又は共同不法行為を構成するものではない」と反論した。

裁判所は、最終的に臨時株主総会が開催された以上、原告株主らが主張する「株主総会招集請求権」の侵害があったということはできないとし、この点については原告株主の主張を斥けたものの、その一方で注目されるのが、裁判所が示した下記の見解だ。

他方で、裁判所は、被告らが合意に基づき臨時株主総会の開催を覆す内容の中止決議に賛成したことは臨時株主総会を開催する債務の不履行を招いたという意味において、取締役としての任務懈怠又は共同不法行為を構成する可能性があるとみる余地もある。

裁判所による上記見解は、臨時株主総会の開催という株主の求めに応じなかった場合、取締役は任務懈怠又は共同不法行為に問われるリスクがあることを示している。

また、原告株主は、同社が臨時株主総会中止の理由として原告株主に“株価操縦”の疑いがあることを挙げこれをIRで公表したことについて、原告株主の名誉及び信用を違法に侵害したと主張していたが、裁判所は取締役による名誉毀損、共同不法行為を認め、各原告株主に対し30万円の損害賠償金の支払いを命じている。本裁判は形の上では会社側(役員ら)の勝訴となったとはいえ、上記の裁判所の見解や30万円の損害賠償金の支払いが命じられたことからすると、会社側(役員ら)の“落ち度”も相当程度認定されたとの見方もできる。

“モノ言う株主”の増加に伴い、今後会社が様々な株主提案を受けるケースは増えることが予想されるが、会社としてはまず真摯な対応が求められることを示す事案と言うそうだ。

2020/06/24 【失敗学第73回】アルファクス・フード・システムの事例(会員限定)

概要

外食産業向けシステムの開発・販売を手掛けるアルファクス・フード・システム(JASDAQ)において、ボイラー工事案件に係る売上の早期計上、保有不動産に係る減損損失未計上など多数の不適切な会計処理が行われており、それにより2018年9月期の当期純利益を黒字(実際は赤字)と偽っていた。

経緯

アルファクス・フード・システムが2020年3月16日に特別調査委員会の調査報告書を公表し、東京証券取引所から2020年5月29日に改善報告書を徴求されるまでの経緯は次のとおり。

2020年
1月10日:アルファクス・フード・システムは、監査人の監査法人大手門会計事務所より、「十分な監査体制を維持するための人員を確保することが困難である」として、監査契約を解除される(監査法人大手門会計事務所は日本フォームサービスの事件に関連して、公認会計士・監査審査会が「監査法人の運営が著しく不当なものと認められる」として金融庁に処分勧告をしていた。日本フォームサービスの事件については【失敗学第69回】日本フォームサービスの事例 を参照)。アルファクス・フード・システムは一時会計監査人として東光監査法人を選任。
1月14日:アルファクス・フード・システムは、ボイラー関連取引に関する売上計上時期の適切性等について外部からの指摘を受ける。
1月28日:アルファクス・フード・システムの一時会計監査人である東光監査法人は、過年度の決算に関して検討すべき事項について相互理解に至らなかったとして、一時会計監査人を辞任する。
2月4日:アルファクス・フード・システムは、監査法人アリアを一時会計監査人に選任する。
2月7日:アルファクス・フード・システムは、特別調査委員会の設置および2020年9月期第1四半期の決算発表を延期することを公表(リリースはこちらを参照)
3月16日:アルファクス・フード・システムは、特別調査委員会の調査報告書を公表。
5月29日:東京証券取引所はアルファクス・フード・システムに対し改善報告書を徴求。

内容・原因・改善策

アルファクス・フード・システムが2020年3月16日に公表した同日付の特別調査委員会の調査報告書によると、本件不適切会計の内容及びそれらの原因および再発防止策は次のとおりとされている。

ボイラー関連取引に関する売上の早期計上
内容 アルファクス・フード・システムは2018年9月30日に、A社に対するボイラー工事のコンサルティングとして75,000千円の売上を計上した(対応する売上原価は15,450千円)。代金もA社から回収済みであった。しかし、実際には2018年10月以降もアルファクス・フード・システムの関与を続いており(役務提供の未完了)、本件ボイラー工事自体も未完成であった(完成は2020年3月末以降と目されている)。2018年9月30日時点では役務提供は完了しておらず、契約書も交わされていないことから売上の先行計上を肯定する積極的な証拠が存在せず、2018年9月期の75,000千円の売上は不適切とされた。
販売先への資金提供を売掛金とする処理
内容 2019年9月30日にA社に対して合計48,600千円の振込を行い、同日にA社グループ3社から48,600千円の入金を受けた。この取引についてアルファクス・フード・システムは、前者(48,600千円の振込)を売掛金の返金、後者(48,600千円の入金)を現金売上として会計処理を行っていた。実際は前者はA社に対する短期貸付による資金提供として会計処理を行うべきであった。
役務提供が未了であるにもかかわらず納品だけでシステム売上を計上
内容 売上(主にシステム売上)の一部に関し、調査日現在まで長期間回収されていないものが確認された。アルファクス・フード・システムは受領書をもって売上を全額計上しているが、同社が負うのは納品義務だけでなく、その後のシステム稼働など役務提供義務も負っており、それらが未提供であることから、売掛金が長期未回収となっていた。
アレンジメントフィーの会計処理
内容 2016年12月に締結されたシンジケートローンに関するフィーを前払費用として処理して借入期間(最長2023年12月末まで)に応じて期間案分していたが、アレンジメントフィーのように借入契約成立時に銀行の役務提供が完了する費用については、即時に費用処理すべきであった。
賞与引当金の計上不足
内容 アルファクス・フード・システムの2019年9月期末の賞与引当金計上額は20,299千円であり、2019年12月の実際支給額61,363千円と乖離していることが確認された。実際支給額から推定される賞与引当金と比べると23,000千円の引当不足が生じていた。アルファクス・フード・システムでは決算短信発表後に引当不足に気付いたものの、会計監査人に対してはこの差額全額が2019年10月以降の業務に対する特別賞与であるかのような虚偽の説明を行い、決算短信の修正を回避していた。
遊休固定資産の減損処理の判定誤り
内容 アルファクス・フード・システムでは、集配信技術センターが2019年9月末以降に遊休状態となることが見込まれていたにも関わらず、2019年9月末時点では稼働していたことから、減損の兆候に該当しないと判断していた。その結果、11,060千円の減損損失の計上漏れが生じた。
開発中止ソフトウェアの費用処理
内容 開発が中止になった個別受注案件のコスト14,074千円がソフトウェア仮勘定に計上されたままになっていた。
ソフトウェア仮勘定からソフトウェアへの振替漏れ
内容 ソフトウェア仮勘定の処理に関して明確な振替基準が無いため、恣意的な運用が行われており、ソフトウェア仮勘定からソフトウェア勘定への振替を検討したが見送ったものがあった。
注記情報の不備等
内容 会計処理の修正以外に、有価証券報告書等における開示の不備および社内での検討不足もしくは各種記録の保管不備があった。
主な項目は以下のとおり。
① 子会社評価(投資損失引当金)検討プロセスの確立
② 連結判定及び関連当事者取引の注記の修正
③ 資産除去債務の検討及び注記文言の再検討
④ セグメント情報
⑤ 兼務の状況注記の整合性
⑥ 事業系統図への子会社の記載
⑦ 設備の状況の固定資産の検証
⑧ 研究開発活動の記載(研究開発費金額の記載)
⑨ 金融商品の時価等に関する注記
上記の不適切会計の原因と再発防止策
原因 代表取締役社長ら経営陣の会計処理ルールの不理解
代表取締役社長ら経営陣は、適切な会計処理を行うことの重要性に対する認識が十分でなく、かつ、会計処理に関するルールを理解していなかった。そのため経営陣が誤った判断と指示をしてしまい、数々の不適切な会計処理が実施された。

取締役・取締役会による代表取締役社⻑の職務執行に対する監視監督機能の不全
社内取締役は、取締役の責務(他の取締役の職務執行を監視監督し、内部統制システムを整備構築する)に対する理解が不十分であった。そのため、代表取締役社長の強いリーダーシップに服し、代表取締役社長の職務執行に対し、異を唱えることなくこれを是認しており、代表取締役を監視監督するという意識が希薄であった。
また、取締役会は毎月開催されているものの、今回の不適切な会計処理の大部分は、取締役会における議案や報告事項として上程されていなかった。このため、社外取締役を中心とする議論を介した監視監督機能を発揮するには至らなかった。なお、取締役会に上程される議案や報告事項について、説明資料が準備されておらず、口頭での説明で済ますことがあった。また、説明資料がある場合でも、配布されるのは取締役会の前日であるのが通常であり、当日になってから直前に配布されることもあった。

不十分な監査役監査
監査役は、会計監査人との情報交換により、会計監査人から、期中は期末に向けての会計上の課題を、期末は監査終了後の次年度の会計上の課題を提示されていながら、当該課題処理の経過につき独自に監査することや、代表取締役社長ら経営陣に対する質問や取締役会における問題提起を行っていなかった。

内部監査の形骸化
内部監査室の担当者の変更が毎年行われ、しかも、内部監査記録の保管や引き継ぎが行われておらず、その上、担当者に選任された者も兼任であったため、内部監査室内部に、有効に内部監査が機能するだけの知見や経験が蓄積されていなかった。
内部監査室は、大まかなスケジュールを定めるのみで内部監査計画を作成することもなく、監査役及び会計監査人との連携も十分には行っていなかった。
内部監査室の行う内部監査業務は、内部統制報告制度における内部統制の整備及び運用状況の評価手続の実施が主となっており、それ以外の経営管理全般を対象にした内部監査は実施されておらず、さらに、その内部統制の整備及び運用状況の評価手続に係る作業もチェック表をつぶすという形式的作業に終始してしまっており、リスクを意識した実効性ある内部監査は行われなかった。
かかる内部監査の形骸化のため、業務プロセスを逸脱した処理の存在や重要な取引の契約書の欠如といった不適切な会計処理につながる兆候がありながら、それらを検出するには至らなかった。

管理部の脆弱性
適切な会計処理及び財務報告を行う上で、組織上、実務的に重要な役割を果たすべき管理部の責任者は、上場会社に求められる管理レベルに対する認識が不十分であり、その結果、管理部の脆弱性を放置し、改善のための是正を積極的に図ることがなかった。
管理部の責任者は、管理部固有の業務のうち、人事・総務系の業務に注力し、会計・決算業務については下位の者に委ねる一方、管理部の業務ではない営業サポートを行っていた。このため、部門内でのチェックや部門間の相互牽制を期待できない状態にあった。

情報伝達、情報共有の不足
アルファクス・フード・システムでは、代表取締役社長が取引先と交渉を行い、会計処理や財務報告に重要な影響を及ぼす情報を把握しているにも関わらず、社内の関係者に適時に必要な情報を伝達せず、代表取締役社長の想いによる指示に基づき、不適切な会計処理が実行された。
経営陣と下位者との間の情報伝達(縦の情報伝達)や、部門内・部門間の情報伝達(横の情報伝達)に関して、決して風通しの良い組織風土とは言えず、そのため会計処理の誤りが発生しやすく、またそれが発見されにくい状況にあった。

新事業参入時の準備不足
アルファクス・フード・システムは、2017年以降、新たにホテル事業や本件ボイラー工事事業に参入した。その際に、これら新規事業に対応するリスクの評価、内部統制の構築、会計処理や業務プロセスに関する社内規程の整備等を行うべきであったにも関わらず、それを怠ったまま新規事業が進められた。

規程やルールの曖昧さや不備に起因する恣意的会計処理の発生
管理部において、会計処理のルールとなる経理規程等が長年にわたり更新されず放置され、条項の定めはあっても、曖昧であったり、不備がある等の理由から、恣意的な会計処理や場当たり的対応を許す結果になっていた。
また、会計処理を行う上で、作成すべき管理書類(評価損検討過程、減損検討過程、ソフトウェアの会計処理検討過程、資産除去債務計算過程等)の作成が徹底されておらず、不適切な会計処理が発生する原因となっていた。

再発防止策 代表取締役社長ら経営陣の会計処理ルールに対する理解の向上
・経営陣に対して、経営受託者としての役員の責務と適切な会計処理を行うことの重要性を認識させるための研修(より広義にはコンプライアンス研修)および会計処理ルールに関する研修を行う。
・代表取締役社長ら経営陣に対し、的確な会計的助言を行いうる会計基準及び財務報告基準についての知見を有する管理職の登用も検討すべきである。
・公益財団法人財務会計基準機構(FASF)に加入する(現在は未加入)。


取締役・取締役会による代表取締役社⻑の職務執⾏に対する監視監督機能の強化

・社外取締役および社外監査役による活発な議論を可能とするために、重要な議案や報告事項を必ず取締役会に上程し、検討に必要となる十分な情報を提供するとともに、検討のための十分な時間的余裕を与える。
・特に、重要な会計処理、内部統制及び財務報告上の懸案の処理については、代表取締役社長らの一部と会計監査人のみでの協議と判断に委ねることを排し、会計監査人の定期的な取締役会への出席をルール化し、取締役会でのオープンな協議と判断に委ねるべきである。

監査役監査の深度化
・監査役監査の深度化のために、監査計画策定段階で、会計監査人および内部監査室と協議を行い、重要な会計上、内部統制上のリスクや課題を共有化した上で、リスク等に応じた効率的で深度ある計画的監査を行う。
・会計年度を通じて、会計監査人および内部監査室との間で、共有した会計上、内部統制上のリスクや課題について、相互の監査の進捗状況についての情報交換、意見交換を行い、監査の過程で生じた懸念や疑義について重点的に監査を行うとともに、取締役会における問題提起など牽制機能の発揮に努める必要がある。
・期末監査段階においては、代表取締役社長ら経営陣と会計監査人との間での調整、協議の過程には必ず参加し、監査役が知らないままに、重要な会計処理の方針や処理内容が決定されることがないように留意する必要がある。

内部監査の強化
・会社の業務に関する十分な知見と経験を有し、かつ、他部門から独立した者を内部監査の責任者とする。
・内部監査の担当者には、内部監査に関する教育研修の機会を付与するとともに、一定期間継続して内部監査に専任させる等の人事措置を取る。
・監査実施面では、監査役および会計監査人と協議を行い、重要な会計上、内部統制上のリスクや課題を共有化した上で内部監査計画を策定し、監査役及び会計監査人と連携しつつ計画的に監査を行う。
・内部監査の結果については、代表取締役社長に加え、取締役会にも報告する。
・従来、内部監査室が行ってきた内部統制報告制度のための内部統制の整備及び運用状況の評価手続に係るチェック表については、新規事業等に対応する等内部統制リスクの網羅的検証が可能なものとなっているかどうか、抜本的に見直す。

管理部の強化
・管理部の責任者には、事業部門から分離、独立した人材を配置する。
・適切な会計処理および財務報告業務の遂行に必要な専門知識、経験を有する人材を管理部に複数配置する。社内で人材を確保することが難しい場合には、外部のリソースを活用する。

情報伝達、情報共有の不足の解消
・代表取締役社長ら経営陣は必要な情報が正確に関係者に正しく伝えられる体制を確保する。
・従業員から経営陣に対して情報を伝達する体制を確保する。
・担当者交代時におけるノウハウや情報の分断については、各人の業務をマニュアル化して業務の属人性を排除し、担当者が交代しても円滑に業務遂行が行われる体制を構築することで、担当者交代に起因する会計処理の誤りの発生を防止する。
・各担当者の保有する情報を相互に比較・照合するようにする。各人が保有する情報の可視化とそれを有効活用するためのデザイン化を行う。

新規事業参入時の事業スキーム等の検討
・重要な新規事業に参入する際は、新規事業の遂行を特定者に委ねたままにせず、取締役会において、事業内容及び事業スキーム、事業リスク、内部統制構築、社内規程の整備、法令違反の有無の確認、顧客ないし関係事業者との間の契約内容、会計基準、会計処理等について、必要に応じ、外部専門家の助言も得て、協議、承認を行う必要がある。
・新規事業については、その事業内容、事業スキーム等を正確に会計監査人に説明し、会計処理の方針について、予め協議し了解を得ておくことが重要である。

基準や規程、ルールの不備ないし曖昧さの排除と遵守の徹底
・販売プロセスにおける客観的かつ検証可能な会計処理基準の設定を行い、恣意的処理を許さない収益計上体制を確立する。売上計上時期については、商材や取引の性質、実態、契約に応じた細やかな基準を定める(会計処理基準の設定の際には、今後適用される「収益認識に関する会計基準」も視野に入れる)。売上計上にあたっては根拠となる契約書、注文書、注文請書、納品書、検収書等の作成ないし取得を徹底する。なお、納品(インストール)してもシステム導入作業が終わらない案件に備えて、契約内容の明確化、厳格な検収ルールを導入する。
・在庫評価、債権評価、減損計上、引当金計上等の見積り項目やソフトウェア仮勘定の本勘定振替等においては、恣意的運用を許さないルールの精緻化と検証の仕組みを設ける。見積り項目は、その評価シートの整備を行い、見積もりの客観性を担保する必要がある。
・会計処理基準やルールが遵守されているか否かを、内部監査および監査役監査においてモニタリングする。

内部通報制度の改善
・通報窓口を中立性・公正性のある法律事務所等外部に設置するなど内部通報制度の仕組みおよび運用方法を改善する。

再発防止策の着実な実行を担保するための経営監視体制の構築
・当分の間、取締役会の諮問機関として、外部有識者によって構成された経営監視委員会(仮称)を設置し、再発防止策の具体化と進捗管理について、取締役会に対して指導、助言、監視、監督等を行う。

<この失敗から学ぶべきこと>

アルファクス・フード・システムの不適切会計の発覚のきっかけは「外部」からの情報提供でした。日本フォームサービスも「外部」からの情報提供が不正の発覚のきっかけとなっており(【失敗学第69回】日本フォームサービスの事例 を参照)、両社とも監査法人大手門会計事務所が会計監査を担っていたことから、同監査法人に対する検査となんらかの関係があるのか、気になるところです。

アルファクス・フード・システムでは、実に多種多様な不適切会計が行われていました。とくに期末日の不正が目立っています(「ボイラー関連取引に関する売上の早期計上」や「販売先への資金提供を売掛金とする処理」)。期末日間近には強引な売上計上が行わる可能性が高いため、内部監査や監査役監査においても重点的にチェックすべきです。

アルファクス・フード・システムでは、決算短信公表後に賞与引当金の計上不足に気付いたものの、会計監査人に虚偽の説明をすることで、決算短信で公表した決算数値を訂正せずに、そのまま会社法監査・金商法監査も乗り切っています。決算短信を取締役会の承認事項とすると、「取締役会で決議したものを動かすわけにはいかない」という意識が働きがちと言えます。代表取締役や経理担当取締役は、決算短信に間違いが見つかれば取締役会での承認にかかわらず遠慮なく訂正するよう経理部に指示しておく必要があります。

2020/06/23 CGコードの遵守状況に影響も 改正公益通報者保護法改正のポイント

世間がコロナ禍に揺れる中、(2020年)6月8日、粛々と改正公益通報者保護法(以下、改正法)が成立した。今回の改正は同法の全体像を変えるものではないものの、「公益通報者の保護」が強化されることにより、結果として企業に大きな影響を与える改正項目が含まれている。改正法は公布の日(2020年6月12日)から2年以内に施行されることになっており、企業はそれまでに改正法への対応を図る必要がある。コーポレートガバナンス・コードには内部通報に関する下記の原則があり、公益通報者の保護の強化やその前提となる内部通報体制の整備義務が盛り込まれた改正法への対応状況が、これらのコードを「コンプライ」していると言えるかどうかも左右する可能性があろう。

【原則2-5.内部通報】
上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。
補充原則2-5①
上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。

本稿では、改正法のうち企業が押さえておくべきポイントを解説する。・・・

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2020/06/23 CGコードの遵守状況に影響も 改正公益通報者保護法改正のポイント(会員限定)

世間がコロナ禍に揺れる中、(2020年)6月8日、粛々と改正公益通報者保護法(以下、改正法)が成立した。今回の改正は同法の全体像を変えるものではないものの、「公益通報者の保護」が強化されることにより、結果として企業に大きな影響を与える改正項目が含まれている。改正法は公布の日(2020年6月12日)から2年以内に施行されることになっており、企業はそれまでに改正法への対応を図る必要がある。コーポレートガバナンス・コードには内部通報に関する下記の原則があり、公益通報者の保護の強化やその前提となる内部通報体制の整備義務が盛り込まれた改正法への対応状況が、これらのコードを「コンプライ」していると言えるかどうかも左右する可能性があろう。

【原則2-5.内部通報】
上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。
補充原則2-5①
上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。

本稿では、改正法のうち企業が押さえておくべきポイントを解説する。

まず、現行公益通報者保護法(以下、現行法)をおさらいしておこう。現行法では、①通報者を「労働者」、②通報対象を「一定の法律に違反する犯罪行為または最終的に刑罰につながる行為」としたうえで、③通報者の解雇を無効とし、不利益な取扱い(降格、給与での差別等)も禁止している。通報先は、「事業者内部(以下、内部通報)」「行政機関(通報された事実について勧告・命令できる所管の行政機関)」「その他(報道機関等)」の3つとなっている。
 
今回の改正は、「内部通報制度の整備」として(1)内部通報体制整備義務、(2)「公益通報対応義務従事者」への守秘義務を課すほか、「外部通報制度の整備」として(3)行政機関への通報要件の緩和、(4)報道機関等への通報要件の緩和、「通報者の保護の充実」として(5)通報者の対象拡大など、が実施される。以下、順に解説する。

◆内部通報制度の整備
(1)内部通報体制整備義務

改正法では、事業者に対し、内部通報に適切に対処するため、「公益通報対応業務従事者」(内部通報を所掌する役員や内部通報を担当する部署の社員等が想定される。詳細は今後明らかにされる「指針」で示される見込み)を定めて調査・是正業務にあたらせるといった体制の整備を求めるとともに(300名以下の事業者は努力義務)、体制整備の実効性を確保するため、事業者に対し報告徴収・助言・指導・勧告等を行い、事業者が勧告に従わない場合には事業者名を公表できるとされた。

報告徴収 : 事業者に対して報告を求めること

内部通報体制の運用としては、①内部通報受付窓口(公益通報対応業務従事者)を設置して内部通報を受け付ける、②内部通報窓口を組織内で周知する、③通報者の特定が可能な情報の共有を必要最小限の範囲にとどめる、④公益通報をしたことを理由に解雇その他不利益な取扱いを禁止する、の4つが求められる方向であり、具体的には今後明らかにされる「指針」により示される。

企業としてはまず「公益通報対応業務従事者」を任命したうえで、指針を踏まえて内部規定を策定し、運用していくことが求められる。

(2)公益通報対応義務従事者への守秘義務
改正法は、公益通報対応業務従事者に対し、正当な理由(後述)なく「業務上知りえた事項であって通報者を特定させる内容」を漏らしてはならないとする守秘義務を課すとともに、違反した場合には30万円以下の罰金を科すこととした。

ただ、公益通報対応業務従事者に守秘義務を課すことは、通報者保護の観点からは一見合理的なように見えるものの、これにより公益通報対応業務従事者が必要な調査の実施を躊躇するようになれば、事業者において自浄作用を働かせ是正措置を促すという内部通報制度の目的が達成できなくなる恐れがある。こうした中、公益通報対応業務従事者に守秘義務を課すことには慎重な意見もあったが、最終的には通報者保護の方に重きが置かれ、守秘義務が導入されることになった。

なお、守秘義務が免除される「正当な理由」としては、「通報者の同意がある場合」「業務上、コンプライアンス担当者間で共有する必要がある場合」「調査・是正業務にあたり必要となる場合」などが想定されており、今後、逐条解説やガイドラインにより明確化される予定だ。

◆外部通報制度の整備(通報の要件の緩和)
(3)行政機関への通報要件の緩和

まず、行政機関への通報が可能となる要件が緩和された。現行法では「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信じるに足る相当の事実がある場合」のみ行政機関への通報が可能だったが、改正法では、通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると「思料」しているのみであっても、行政機関への通報が認められることになった。ただし、報告にあたっては、通報者の氏名や通報対象事実の内容、それが生じていると思料する理由、適切な処置がとられるべきと思料する理由などを記載した「書面」を提出することが求められることから、実際には行政機関への通報が大きく増える可能性は低いだろう。

(4)報道機関等への通報要件の緩和
現行法では、報道機関等への通報は、生命・身体に対する危害が及ぶ場合のみ認められているが、改正法では、これに、①法律違反を放置することにより消費者など個人の財産への回復不可能な損害(例えば、欠陥住宅や自動車のリコールにより消費者の財産を著しく棄損する場合などが該当することとなる模様)を与える場合、②事業者が通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らす可能性が高い場合、が追加されている。
 
①は放っておけば企業ブランドにも多大な悪影響を及ぼす可能性があることから、企業にとっては納得感のある内容と言えよう。②は今般の法改正により違法となる内容である(上記(2)参照)。

◆通報者の保護の充実
(5)通報者の対象拡大等

改正法では、通報者として保護される対象に、退職者(退職後1年以内)と役員(会社法等の法律が求める範囲で調査・是正措置を講じることを前提とする)を追加した。また、保護される通報として、行政罰の対象行為(過料の対象とされる行為)が追加されている。

さらに、通報者の保護の内容として、公益通報により損害を受けたことを理由に通報者に対して損害賠償を請求することはできないことが明確化されている。

2020/06/22 四半期、通期の決算短信は取締役会で承認すべきか

今年の株主総会では、コロナ禍による決算作業の遅れにより、計算書類の承認を継続会に持ち越す、あるいは株主総会そのものを延期する企業が相次いでいるが、今回のような不測の事態に備えるためには、社内の決算の承認手続もできる限り簡素化したいと考える上場企業も少なくないだろう。・・・

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

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2020/06/22 四半期、通期の決算短信は取締役会で承認すべきか(会員限定)

今年の株主総会では、コロナ禍による決算作業の遅れにより、計算書類の承認を継続会に持ち越す、あるいは株主総会そのものを延期する企業が相次いでいるが、今回のような不測の事態に備えるためには、社内の決算の承認手続もできる限り簡素化したいと考える上場企業も少なくないだろう。

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

日本監査役協会が上場企業(指名委員会等設置会社以外)1,473社を対象にした調査(2018年)によると、決算短信を取締役会の「決議事項」として付議している企業は84.7%に達しており、「報告事項」として付議している企業は11.7%、「付議していない」企業は3.5%にとどまっている(役員等の構成の変化などに関する第19回インターネット・アンケート集計結果 51ページ 問11-2決算短信の取締役会付議状況参照)。一方、上場している指名委員会等設置会社37社を対象にした調査(2018年)では、決算短信を取締役会の「決議事項」として付議している企業は54.1%、「報告事項」として付議している企業は37.8%、「付議していない」企業は8.1%だった(役員等の構成の変化などに関する第19回インターネット・アンケート集計結果(指名委員会等設置会社版) 33ページ 問8-2決算短信の取締役会付議状況参照)。

このように、指名委員会等設置会社で決算短信を「取締役会」の決議事項としている企業の割合が少なくなっているのは、指名委員会等設置会社では、業務執行に関する実質的な意思決定機関が経営会議や執行役会であるためだろう。そのように考えると、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社においては、業務執行に関する実質的な意思決定機関である取締役会が引き続き決算短信を「決議」するのが王道であり、一方、指名委員会等設置会社では、経営会議や執行役会での決議を進めるということも選択肢となり得る。

実際、指名委員会等設置会社では、少なくとも四半期決算については取締役会の決議事項としていない企業が少なくない。例えば下記の指名委員会等設置会社は取締役会で審議を行わず、経営会議や執行役会で審議・承認し、取締役会に対しては「報告」にとどめている。

<指名委員会等設置会社における四半期決算の手続例>
日立製作所:経営会議で審議し、取締役会に報告
日立物流:執行役会で審議し、取締役会に報告
日立金属:執行役会長が承認し、取締役会に報告

ただし、四半期決算については取締役会に対し「報告」にとどめていても、通期決算については取締役会の「承認」を受けているところも目に付く。当フォーラムが上記3社のコーポレートガバナンス報告書を確認したところ、日立製作所では、通期決算(決算短信=適時開示)は経営会議の審議事項となっているものの取締役会で承認し、日立物流では執行役会で審議したうえで、やはり取締役会で承認している。

日立金属では四半期と同じく、通期決算(適時開示)も執行役会長が承認し、取締役会に報告するというプロセスとなっているものの、“本流”は、四半期決算は取締役会の承認事項とせず、通期決算は取締役会の承認事項とするというパターンと言えそうだ。

2020/06/19 “お家騒動”で双方が異なるスキル・マトリックスを示す事態に

大塚家具や大戸屋ホールディングスなど、ワンマン経営者の退場により社内の力学に地殻変動が起き、いわゆる“お家騒動”に発展するケースは少なくない。当フォーラムの「役員と会社の失敗学」(以下、失敗学)でも取り上げた・・・

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2020/06/19 “お家騒動”で双方が異なるスキル・マトリックスを示す事態に(会員限定)

大塚家具や大戸屋ホールディングスなど、ワンマン経営者の退場により社内の力学に地殻変動が起き、いわゆる“お家騒動”に発展するケースは少なくない。当フォーラムの「役員と会社の失敗学」(以下、失敗学)でも取り上げたプラスチックの総合メーカー天馬(東証一部)でも、第三者委員会の調査報告書を機に“お家騒動”が明るみになった。

天馬では、海外子会社の役職員が税務局職員に対して追徴税額の減額と引き換えに現金を渡していた事件(以下、海外贈賄事件)が発覚し、2020年4月2日に第三者委員会の調査報告書が公表されるに至った(第三者委員会の調査報告書が公表されるまでの経緯は【失敗学第71回】天馬の事例 を参照)。調査報告書では、司名誉会長(当時)による経営介入の排除を柱の一つとする再発防止策が掲げられ、司名誉会長は2020年4月23日付で解任された(解任のリリースはこちらを参照)。調査報告書によると、同社では取締役会メンバーが名誉会長派と会長・社長派に分かれており、下記のとおり相互不信の状況にあった。

第三者委員会の調査報告書の71ページを参照
2019年4月下旬、司名誉会長は金田会長に対し、藤野社長を社長から降ろすべきだとの意向を伝えた。金田会長と金田常務がこれに強く反発し、結局は藤野社長の続投が決まったものの、金田会長らは司名誉会長らに対して強い警戒感を抱くようになり、取締役会メンバー間の相互不信が醸成された。

こうした中、解任された司名誉会長(以下、元名誉会長)は「天馬のガバナンス向上を考える株主の会」(以下、株主の会)を立ち上げ、反撃に出る。株主の会はまず、2020年6月28日開催予定の天馬の定時株主総会に、天馬の現取締役を完全に刷新する株主提案を行った(2020年5月20日の元名誉会長の株主に対する「ご通知」を参照)。もっとも、株主の会が提案した取締役候補者のうち、川村修治氏および渕上敬亮氏は天馬取締役会に対し、「本株主提案に先立って提案株主からは何らの事前説明もされておらず、仮に本定時株主総会において自らが取締役に選任されたとしても、就任を承諾しない」と通知している。本人の承諾がないまま取締役候補者として議案が上程されることは極めて稀であり、この点は株主提案の方が「分が悪い」と言わざるを得ない。これに対して株主の会は「両氏にもしがらみがありますし、今はそのようにしか言えないことは十分理解」できるとしたうえで、「株主提案が通って、実際に取締役に選任された場合には、取締役として、私たちと一緒に天馬の再生に力を尽くしてくれるものと信じています」としている(株主の会が2020年6月8日に公表した「天馬株式会社(コード:7958、東証一部)の 株主提案の取締役候補者からのお知らせ」の2ページ目より引用)。

一方、会社側は2020年5月27日に金田代表取締役会長および藤野代表取締役社長の両名が本定時株主総会の終結の時をもって退任し、2名再任・6名新任という内容の取締役選任議案を提案した。

これを受け株主の会は、株主提案と会社提案のそれぞれの役員候補者のスキル・マトリックスを作成し、比較している。作成したのはあくまで株主の会であるため割り引いて見る必要があるが、会社提案の役員候補者のスキルは「製造/技術」が0名であるのに対して「財務/会計」が4名(◎3名、○1名)と“偏り”があることは否めない。

スキル・マトリックス : 取締役のスキル・能力の開示手法。縦軸に各取締役の氏名、横軸にスキル・能力を分野別に並べ、各取締役がスキル・能力を有する分野に丸印をつけるといった形式をとることが多いため、「スキル・マトリックス(あるいはマトリクス)」と呼ばれる。

■株主提案の役員候補者のスキルマトリックス(表外のコメントも含めてすべて株主の会作成)
tenma1

■会社提案の役員候補者のスキルマトリックス(表外のコメントも含めてすべて株主の会作成)
tenma2
これに対し会社側もスキル・マトリックスを作成しているが(下図参照)、株主の会が作成したものとは見え方が大きく異なる。具体的には、「製造/技術」を「開発・技術革新」に置き換え、「人事/労務」をなくし「IR」を新設するなど切り口を変えることで、少なくとも外観上は株主の会が主張する「スキルの偏り」は見えない。

■会社提案の役員候補者のスキルマトリックス(会社作成)
tenma3

作成にあたってのガイドラインも存在しないスキル・マトリックスは“印象操作”が容易であることを示す事例と言えよう。もっとも、スキル・マトリックスの切り口を変えたところで、会社提案の役員候補者の中に、会社の売上の8割を占める工業品合成樹脂製品関連事業の出身者が含まれていないことに変わりはない。この点は、海外贈賄事件関係者3名が含まれていることとともに、株主の会が問題視しているところだ(2020年6月8日の「天馬株式会社の株主提案の取締役候補者からのお知らせ」の2ページ目を参照)。

海外贈賄事件に関係した役員候補者に対する機関投資家の目は厳しい。ISS とグラスルイスはともに、会社提案の取締役候補者3名(金田宏常務取締役、須藤隆志取締役、与謝野明氏)について、いずれも海外贈賄事件(【失敗学第71回】天馬の事例 を参照)に関与した可能性があるとして、取締役選任議案につき「反対推奨」 する方針(株主の会の「ISS レポートにおける舘野氏と春山氏の賛成推奨への変更及び本年6月16日付けで発行された議決権行使助言会社グラスルイスによるレポートについて」および「本年 6 月 12 日付けで発行された議決権行使助言会社 ISS によるレポートについて」を参照)。また、ISSは、春山幸雄氏および舘野一治氏についても、当初は贈賄事件に関与した可能性があるとして取締役への選任に反対推奨するとしていたものの、株主の会の指摘を受け、2020年6月16日付けで「反対推奨」から「賛成推奨」に方針を転換している。その結果、ISSは、株主提案のうち、現時点で取締役への就任承諾が得られている6名の取締役全員について「賛成推奨」をすることとなった(取締役に就任することについて本人の承諾が得られていない川村修治氏および渕上敬亮氏には「賛成推奨」していない)。なお、グラスルイスは柳澤成之氏、筒野信之進氏および江河知寿氏については、「取締役に選任する者の人数を3名に抑えないと、社外取締役の取締役会全体に占める割合が低下してしまうため、経験等に鑑みて」反対推奨している(株主の会の「ISSレポートにおける舘野氏と春山氏の賛成推奨への変更及び本年6月16日付けで発行された議決権行使助言会社グラスルイスによるレポートについて」を参照。なお、株主の会はグラスルイスのレポートには事実誤認があると主張している(「本年6月16日付けで発行された議決権行使助言会社 グラスルイスのレポートにおける事実誤認の疑義について」を参照))。株主の会による以上の開示内容をまとめると、監査等委員たる取締役候補者を除く取締役候補者に対するISSとグラスルイスの方針は次のとおり(「不明」は株主の会の資料では開示されていない箇所)。

提案元 候補者 ISS グラスルイス
株主の会 春山幸雄 賛成 賛成
舘野一治 賛成 賛成
柳澤成之 賛成 社外取締役比率低下を防ぐため反対
坂井一郎 賛成 賛成
川村修治 本人の就任承諾がないため反対 本人の就任承諾がないため反対
筒野信之進 賛成 社外取締役比率低下を防ぐため反対
江河知寿 賛成 社外取締役比率低下を防ぐため反対
渕上敬亮 本人の就任承諾がないため反対 本人の就任承諾がないため反対
会社 金田宏 反対 反対
須藤隆志 反対 反対
廣野裕彦 不明 賛成
与謝野明 反対 反対
永井勇一 不明 賛成
林史郎 不明 賛成
倉橋博文 不明 賛成
松山昌司 不明 賛成

元名誉会長は、冒頭の第三者委員会の記述について、下記のとおり「認定や表現が不十分」とし、第三者委員会の調査報告書を改革のよりどころとする会社側に対し、その信頼性に疑問を投げかけている。

私が藤野社長を社長から降ろすべきだとの意向を伝えたのは事実ですが、同報告書には、なぜ私が社長から降ろすべきだと伝えたのか、その理由が記されていません。藤野社長の行動に、悩み苦しんでいる社員が私に助けを求めにきて、何度か諭しても直りませんでした。それゆえ、社長として不適切なため、社長から降ろすべきであると、天馬を愛する創業者の一人として金田会長に伝えたのです。この点が記されていないため、私の申入れが、あたかも不当な人事介入であったかのような印象を与えています。

天馬のお家騒動は、取締役・執行役員間のみならず、同社のガバナンスを支える監査等委員会にも分断を生んだ。同社の監査等委員会は3名の監査等委員で構成されているところ、そのうち北野監査等委員および片岡監査等委員は、2020年4月23日の取締役会で名誉会長(当時)の解任決議に反対していることから、“元名誉会長派”と言える。元名誉会長派である2名の監査等委員は、2020年5月27日に開催された監査等委員会で「金田宏氏、須藤隆志氏、与謝野明氏の3名は取締役選任候補者として不適切である」旨決議し、当該意見(会社法342条の2第4項を根拠とする。下記参照)を招集通知に記載することを会社に求めたため、天馬の定時株主総会の招集通知には、取締役選任候補者3名の選任に反対する旨の監査等委員の意見が記載されている。

会社法342条の2第4項
監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の選任若しくは解任又は辞任について監査等委員会の意見を述べることができる。

これに対して、もう1名の監査等委員である藤本監査等委員(会長・社長派)は、当該監査等委員会は事前説明がないまま当日に緊急で招集・開催され、わずか10分程度で北野監査等委員および片岡監査等委員の賛成により決議されたとして、「過半数での採決を強行した」「取締役メンバー間の相互不信をより助長するものであって、決して正しいものではなく、残念に思っています」との意見を表明している。

定時株主総会を前に、両陣営の非難合戦は激しさを増している。天馬が2020年6月12日にリリースした「取締役候補者等に関するQ&A」では、片岡監査等委員の社外取締役としての独立性に疑義を述べている。

Q 片岡監査等委員は、当社の創業家又は創業家が代表取締役を務める会社等の税理士業務を受託している旨の開示情報に接したのですが、同氏の独立社外取締役としての独立性に抵触しないのでしょうか。
A 当社取締役会においては、社外取締役の候補者選定にあたり、会社法および東京証券取引所などの独立性に関する要件に加え、当社の経営に対し中立かつ客観的な視点から助言し監督できる高い専門性と多様な事業等の知識や経験を重視しています。
ご指摘の税理士業務に関しては、現在、片岡監査等委員に対して事実関係を確認中ですので、開示すべき事項が判明次第、追って開示させていただきます。

一方の株主の会も負けてはいない。2020年6月5日に公表した「会社提案に係る取締役候補者についての意見」では、林史郎氏について、「天馬の主要株主であるダルトンのグループ会社の業務執行者であり、林氏が取締役に選任された場合には、天馬の一般株主との間で利益相反の問題が生じる可能性」を指摘するとともに、松山昌司氏については、「現在既に、上場会社4社の役員を含む10社の役員を兼任しており、グループ全体のガバナンス体制・内部統制体制の整備・再構築という重大な課題を抱える天馬の社外取締役として必要な時間を十分に確保できず、社外取締役として求められる役割を全うできないおそれがある」「松山氏が取締役に選任された場合、本業である監査法人及び公認会計士事務所以外に、上場会社5社の役員を含む11社の役員を兼任することとなりますが、これだけ多くの会社の役員を兼任している者を社外取締役に迎えている上場会社はそもそも稀であり、そのような人物が、ガバナンス及び内部統制上数多くの課題を抱えている天馬の社外取締役にふさわしいとは考えられません」としている。

審判の日となる定時株主総会開催は2020年6月28日。どのような結果になるにせよ、同社の株主構成からして、来年以降も同じ騒動が繰り返される可能性がある。株主提案には同社の現職の執行役員が8人も含まれており、投資家から下記の質問が出ているのは当然と言える(天馬が2020年6月12日にリリースした「取締役候補者等に関するQ&A」の3(4)を参照)。投資家にとっては、一刻も早い騒動の収束が望まれるところだ。

本株主提案の候補者が現職の当社執行役員であることに鑑み、仮に本定時株主総会によって会社提案の取締役(監査等委員を除く。)候補者が選任された場合、今後の当社グループの事業に重大な支障が生じるのではないでしょうか。

2020/06/18 基準日変更企業が増加 6月17日現在の決算発表・株主総会動向

異例づくめの2020年3月決算企業の決算発表、株主総会の開催時期・方式の最新動向が判明した。・・・

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