2020/06/11 データが示すリモートワークの有用性 (会員限定)

緊急事態宣言が解除され国内における新たな感染者数も減少傾向にある一方、ブラジルをはじめとする南米で感染拡大が続くともとに、米国でも第二波への警戒感が高まっているといったニュースも頻繁に耳に入って来る。ワクチンが完成するまでは事実上の“自粛”が続く可能性が高い。

こうした中、多くの企業がリモートワーク(テレワーク 以下同)を継続しているが、週何回かは出社を求めたり、緊急事態宣言が解除後ほどなくしてリモートワークをとりやめ、オフィスワークに戻したところもある。業種・職種によってはリモートワークに馴染まないものもあるとはいえ、多くの従業員が本音では「リモートワークを継続して欲しい」と考えていることを経営陣は認識しておく必要がある。リモートワーク制度の有無が、近年ますます重要な経営課題となっている人材採用にも影響を及ぼすことは、「令和元年版 労働経済の分析」(いわゆる労働経済白書。以下「白書」)でもデータの裏付けとともに指摘されている。

白書に盛り込まれた「ワーク・ライフ・バランス推進のための取組と充足率の関係について」の調査結果によると、ワーク・ライフ・バランスを推進するための取組ごとに「実施企業のうち求人募集の充足率が上昇した企業の割合と、未実施企業のうち求人募集の充足率が上昇した企業の割合の差」が最も大きかったのがテレワークだ。調査時点はコロナ禍前であり、テレワーク(リモートワーク)を導入している企業の絶対数こそ少なかったとはいえ、2位の「残業させず、有給休暇取得を促す上司が評価されるような仕組みを導入する」を大きく引き離しトップに立っている。白書はこの結果を、「テレワーク等の柔軟な働き方への取組が労働市場からの人材確保のためにも有用である可能性が示唆される」と分析している。

50940a

もう一つ、テレワークに関する注目すべきデータが、「テレワークと働きやすさの関係について」の調査結果だ。この調査結果について白書は、テレワーク制度の有る企業と無い企業を比べると、テレワーク制度が未導入の企業では「働きにくい」と感じている者の割合が高いのに対し(下記中央の図)、テレワーク制度が導入されている企業では、テレワークを利用している者と利用していない者の間で「働きやすさ」に大きな違いは見られない(同右図)と分析している。要するに、従業員等にとっては、自分がテレワークを利用しているかどうかではなく、自社がテレワークを「制度」として導入されているかどうか(いざとなれば利用できるか)が重要ということになる。

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従業員等が働きやすさを感じるかどうかは当然ながら定着率にも影響する。近年はIT業界におけるエンジニアの争奪戦が激しさを増しているが、ある東証一部上場企業のトップは「同業の××社の人事労務制度があまりにも先進的なので、採用でも負けているし、ウチからも人が流れている」とこぼす。採用活動、採用後の定着率の向上の両方への貢献度が高いリモートワークは、“コロナ後”も恒久的な制度として残すことを検討したい。

2020/06/10 取締役会議事録への電子署名普及に向け立ちはだかる壁

いまだ多くの上場企業では取締役会議事録に取締役・監査役が署名または記名押印するという実務が行われているが、一部新聞等でも報じられたとおり、クラウド電子署名(詳細は後述)も取締役会議事録の成立要件として有効ということが明確化されたところだ。法務省を動かしたのがコロナ禍であることは間違いないが、同省はあくまで現行会社法の解釈上、クラウド電子署名が認められるとの考えを示している。

署名 : 本人が自筆すること
記名 : 印刷、ゴム印、代筆などにより記載すること

会社法上、取締役議事録が「書面」をもって作成されている場合には、取締役会に出席した取締役及び監査役はこれに「署名し又は記名押印」しなければならないが(会社法第369条3項)、取締役議事録が「電磁的記録」をもって作成されている場合には、「署名又は記名押印に代わる措置として電子署名をする」こととさされている(同条4項、同法施行規則225条1項6号、2項)。・・・

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2020/06/10 取締役会議事録への電子署名普及に向け立ちはだかる壁 (会員限定)

いまだ多くの上場企業では取締役会議事録に取締役・監査役が署名または記名押印するという実務が行われているが、一部新聞等でも報じられたとおり、クラウド電子署名(詳細は後述)も取締役会議事録の成立要件として有効ということが明確化されたところだ。法務省を動かしたのがコロナ禍であることは間違いないが、同省はあくまで現行会社法の解釈上、クラウド電子署名が認められるとの考えを示している。

署名 : 本人が自筆すること
記名 : 印刷、ゴム印、代筆などにより記載すること

会社法上、取締役議事録が「書面」をもって作成されている場合には、取締役会に出席した取締役及び監査役はこれに「署名し又は記名押印」しなければならないが(会社法第369条3項)、取締役議事録が「電磁的記録」をもって作成されている場合には、「署名又は記名押印に代わる措置として電子署名をする」こととさされている(同条4項、同法施行規則225条1項6号、2項)。

法務省は、ここでいう電子署名とは、「取締役会に出席した取締役・監査役が取締役会議事録の内容を確認し、その内容が正確であり、異議がないと判断したことを示すものであれば足りる」との解釈を示したうえで、「リモート署名」や「(電子署名の)サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」といったクラウド電子署名についても、「取締役会に出席した取締役・監査役がそのように判断したことを示すものであり、取締役・監査役の意思に基づいて行われたものであれば、署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものであると考えられる」としている。

リモート署名 : 電子署名のサービス提供事業者のサーバに利用者の署名鍵を設置・保管しておき,電子署名の際には利用者が自らサーバにログインし、署名鍵を使って当該事業者のサーバ上で電子署名を行うもの

ただ、クラウド電子署名を含む取締役会議事録への電子署名が普及するためには、まだクリアしなければならない壁がある。

一つは、クラウド電子署名された取締役会議事録を登記所が受理するかどうかは別問題だということだ。実際、現在は法務省のアプリによる電子署名しか受け付けてくれない。

もう一つは、役員の改選などに伴い登記所に提出する取締役会議事録の“謄本・抄本問題”だ。ここでいう謄本とは取締役議事録全体、抄本とは取締役議事録の中から特定の部分だけを抜粋したものを指す。現状、登記所は原則として謄本のみしか受け付けてくれない。これに対し企業側には、「登記事項とは関係のない議事が含まれた取締役会議事録を提出すれば機密情報が漏洩するのではないか」との懸念がある。東京法務局では、取締役・監査役の署名または記名押印のある議事録については、一旦は謄本と抄本の両方の提出を求め、両者の記述に相違がないことを確認したうえで謄本を返却するという運用が行われているが、電子署名の取締役会議事録についてはそのような運用をしてくれないようだ。この問題はクラウド電子署名のみならず、あらゆるタイプの電子署名が普及するうえでの障害になっている。

こうした中、法務省は上記二つの問題を解決すべく、“前向き”に検討中の模様。この二つの問題がクリアになった暁には、クラウド電子署名を含む電子署名が一気に普及する可能性があろう。

2020/06/09 コロナ後初となる有報の「リスク情報」 先進企業はどう書いた?

既報のとおり、開示府令の改正より2020年3月決算企業から有価証券報告書(以下、有報)におけるリスク情報の記載内容の充実が図られている(【役員会 Good&Bad発言集】事業等のリスク(1)および事業等のリスク(2)、2020年2月18日のニュース「投資家にとって魅力ある有価証券報告書作成のポイント」参照)。改正前後の開示府令は下表のとおり(赤字が改正箇所。有価証券届出書を有価証券報告書として読み替え)。

有価証券報告書の【事業等のリスク】に記載すべき内容に関する開示府令
(第二号様式記載上の注意(31)a)の改正
改正前 改正後
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること。 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること。

2020年3月期の有報から【事業等のリスク】において新たに記載することが求められることとなった事項は下記の3つである。

・当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期
・当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容
・当該リスクへの対応策

また、「経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること」も新たに求められている。

改正開示府令が適用される2020年3月期以降の有報を作成するにあたり参考にしたいのが、・・・

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2020/06/09 コロナ後初となる有報の「リスク情報」 先進企業はどう書いた?(会員限定)

既報のとおり、開示府令の改正より2020年3月決算企業から有価証券報告書(以下、有報)におけるリスク情報の記載内容の充実が図られている(【役員会 Good&Bad発言集】事業等のリスク(1)および事業等のリスク(2)、2020年2月18日のニュース「投資家にとって魅力ある有価証券報告書作成のポイント」参照)。改正前後の開示府令は下表のとおり(赤字が改正箇所。有価証券届出書を有価証券報告書として読み替え)。

有価証券報告書の【事業等のリスク】に記載すべき内容に関する開示府令
(第二号様式記載上の注意(31)a)の改正
改正前 改正後
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること。 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること。

2020年3月期の有報から【事業等のリスク】において新たに記載することが求められることとなった事項は下記の3つである。

・当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期
・当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容
・当該リスクへの対応策

また、「経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること」も新たに求められている。

改正開示府令が適用される2020年3月期以降の有報を作成するにあたり参考にしたいのが、Jフロントリテイリングの2020年2月期の有報のリスク情報だ(原文はこちらを参照)。2月決算である同社の2020年2月期の有報には改正開示府令は適用されないものの、明らかに改正の趣旨に沿った開示内容となっているため、改正開示府令が適用される有報の作成においても十分“好事例”と言えるものであり、専門家の評価も高い。

同社はまず、リスクを「環境変化の中で組織の収益や損失に影響を与える不確実性」と定義している。そして、リスクにはプラス面(機会)とマイナス面(脅威)の両面があり、適切に対応することで企業の持続的な成長を実現できるとの考えを示したうえで、下図を用いて同社グループにおけるリスク管理体制を説明している。同社グループのリスク管理において中心的な役割を果たしているのが「リスクマネジメント委員会」だ。

■Jフロントリテイリンググループにおけるリスク管理体制
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リスクマネジメント委員会の具体的な活動内容は下図のとおり。

■Jフロントリテイリンググループにおけるリスクマネジメント委員会の具体的な活動
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同社グループでは、リスクマネジメント委員会が外部環境分析をもとにリスク(不確実性)を識別・評価し、優先的に対応すべきリスクの絞り込みを行ったうえで、「JFRグループリスク一覧表」を作成し、これをグループ全体で共有している。また、極めて重要度の高いリスクを「企業リスク」と位置付け、リスクマネジメント委員会が対応方針を審議・決定し、「グループ戦略」に反映しているという。

百貨店業界を直撃したコロナ禍は、同社グループにとって「企業リスク」であることは言うまでもない。同社はリスク情報の“前振り”としての「総論」で、コロナ禍について次のように記載している(当フォーラムが要約)。

・新型コロナウイルス感染症が「ブラックスワン(予測不能で起きたときの衝撃が大きい事象)」として発現したことで、当社グループは、存続が危ぶまれるほど重大な危機に直面している。
・現段階で新型コロナウイルス感染症が収束するまでに要する期間は見通せず、その間多くの顧客との繋がりが断たれていることへの強い危機感。
・新型コロナウイルス感染症は、あらゆる側面で大きな転機になる。人々の消費に対する価値観や消費行動の変容、リモートワークの広まり、中国を始めとする特定地域への過度な依存からの脱却、人の流れの変化といった様々な環境変化から、多数の顧客を店舗に集客し、対面で販売するという従来の実店舗型小売業は、あり方の見直しを問われる。
・このような状況をニューノーマル(新常態)として捉え、企業存続に向け、新型コロナウイルス感染症収束までの期間や影響などの違いによる複数のシナリオをもとに、従来の常識に捕らわれず、将来も顧客との繋がりが維持できる取り組みに着手している。

百貨店業界は、2019年8月における米国のバーニーズ・ニューヨークの破産申請に象徴されるように、Eコマースの進展とともに凋落傾向にあったところ、これにコロナ禍が追い打ちをかけ、直近の2020年5月には同じく米国のJ.C.ペニーが破産申請に追い込まれるなど厳しい環境に置かれている。総論からはJフロントリテイリング経営陣の強い危機感が伝わってくる。

迫力のある前振りに続き、「感染症」を筆頭に13の項目がリスク情報として開示されている。ここでのポイントは、それぞれのリスクについて「リスクの発現度合い・影響度・変化」「マイナス面・プラス面」「対応策」の3つがセットで記載されているということだ。まさに改正開示府令の「リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載する」という要請に応えるものと言えよう。同社グループが掲げるリスクは下表のとおり(当フォーラムがマイナス面を赤字に、プラス面を青字に加工している)。

■Jフロントリテイリンググループにおけるリスク情報
リスク項目 リスクの発現度合い・影響度・変化 マイナス面(赤字)・プラス面(青字) 対応策
①感染症 しばらく影を潜めていた感染症のリスクは、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行として顕在化し、多くの人命が失われています。さらに、人やモノの流れの分断により実体経済が過去最大の打撃を受けるとともに、金融市場も混乱するなど、未曾有の危機に直面しています。感染症は、地球温暖化や生態系の変化との関連が示唆されており、持続可能な環境を取り戻さない限り、今後も頻度、影響度ともに引き続き増大し続けると見込まれます。B to Cが事業の中核である当社グループにおいて、その影響は極めて大きく、事業の存続を左右するほどのインパクトをもっています。 感染症は、最も事態が深刻な場合、当社グループが有する顧客・従業員の人命損失につながります。また、今回の新型コロナウイルス感染症のように収束が遅れた場合には、長期間に渡り人やモノの流れが分断し、店舗の営業休止や営業時間短縮を余儀なくされるだけでなく、グループ各社の事業活動や従業員の働き方についても、平時からの抜本的な見直しが必要となります。さらに、長期間の外出自粛は、将来に渡り、消費者の価値観や消費行動を変容させる可能性があります。 当社グループでは、新型コロナウイルス感染症拡大において、顧客や従業員の安全確保のため、営業休止や、営業時間の変更にいち早く取り組んでいます。これは、平時より、災害や感染症の発生に備えて、顧客や従業員の安全確保に向け、被害を極小化するための体制を整えていることが背景にあります。店舗閉鎖については、営業再開に向けた取引先企業との緊密な連携体制の構築や、代替のサプライチェーンの確保に努めています。また、消費者の価値観や消費行動の変容に備え、顧客との接点の持ち方など、ビジネスモデルの変革にも着手しています。
②災害 地球温暖化がもたらす気候変動の影響による台風・豪雨や、地震などの自然災害は、頻度、損害の規模ともに数年前から急速に増大しています。また、火災・停電などの事故も、顧客や従業員の人命を危機にさらし、事業の基盤であるインフラを脅かすという点で、当社グループの事業活動全体に、非常に大きな影響があります。 自然災害は、最も事態が深刻な場合、当社グループが有する顧客・従業員の人命損傷につながります。また、電気・ガス・交通機関などインフラの寸断により事業活動が停止を余儀なくされ、復旧が長引くと、店舗の集客力が低下するなどの影響も生じます。火災・停電などの事故は、人命損傷や事業活動の一時停止につながる可能性があり、施設の改修などに多額の費用が生じます。 当社グループでは、自然災害や火災・事故の発生に備え、平時より、老朽化したインフラへの投資、施設の定期的な点検、防災教育などを行っています。また緊急時に備え、具体的な行動レベルまで落とし込まれた事業継続計画を常備し、模擬訓練を行うとともに、災害備蓄品の整備などを進めています。システム停止への備えとしては、データのクラウドへの移行、決済を中心とする重要データを処理するバックアップセンターの設置などにより、店舗の営業に差支えが生じないよう努めています。
③テクノロジーの進化 5Gの商用開始、ビッグデータの利活用の拡大、AIの解析精度向上など、テクノロジーの世界は目覚ましいスピードで進化しています。この進化により、業界の垣根を破壊するディスラプターが相次いで登場し、消費者のライフスタイルや消費行動も大きく変化しつつあります。新型コロナウイルス感染症の長期に渡る流行は、この流れを加速させると思われ、今後数年の間に小売りをはじめとする当社グループの既存事業にますます大きな影響を与えると想定されます。

ディスラプター : 既存のビジネスの破壊者

IT専門人財の不足や組織体制の未整備により、テクノロジーを活用することができなければ、マーケティングの高度化や生産性の向上が遅れます。加えて、新型コロナウイルス感染症のように外出自粛が長引く事態が発生した場合には、消費行動がオンラインショッピングにシフトするなど、既存事業の競争力が低下します。一方で、ビッグデータやAIを利活用できれば、新たな顧客サービスの提供や業務変革が可能となります。 当社グループでは、複数の事業の顧客データを統合したデータベースを構築し、スマートフォンアプリを通した顧客との新たなコミュニケーション、マーケティング、販売の高度化に着手しています。今後はそれをさらに推進するとともに、リニューアルした「渋谷PARCO」で展開しているXR(VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)の総称)技術など最新テクノロジーを活用した、新たな顧客体験の提供にも力を入れ、リアル店舗の魅力を高めていきます。業務変革については、定型業務へのRPA導入、テレワーク、Web会議の拡大など、順次、生産性向上につながる取り組みを推進しています。
④シェアリングエコノミーの進展 消費者の所有から利用へのシフトは、欧州に端を発したサーキュラーエコノミーという大きなうねりを受け、緩やかに、しかしながら、確実に進んでいます。日本においても、新型コロナウイルス感染症を機に、環境への配慮から、使い捨て文化への見直しが進むと思われます。今後、ますます大きくなるシェアリングエコノミーの波は、当社グループの中核である小売事業に、中期的に非常に大きな影響を与えると想定されます。 新興企業によるシェアリング市場の領域拡大や、C to C(企業を介さない消費者同士のモノやサービスなどの取引)の台頭は、従来の購買行動に加え、購買を前提としない多様な消費行動の拡大を促進します。一方で、消費者の変化を機会と捉え、当社グループ自らがシェアリングを切り口とした事業への参入を図ったり、既存事業において3R(リユース、リデュース、リサイクル)を進め循環型社会の実現を目指すことで、新たな需要を創造することが可能となります。 複数の事業を展開する当社グループは、優良な顧客基盤、購買情報をはじめとするビッグデータを有しており、これらを活用して、マルチサービスリテイラー(既存の小売業の枠を超え、サービスも含め顧客の幅広いニーズに対応することを目指す)戦略を推進しています。シェアリングについても複数の新規事業の創出を検討しており、所有から利用へとシフトする顧客ニーズに柔軟に対応しようと取り組んでいます。また、パルコ事業において、クラウドファンディングの取り組みを強化し、地域活性化につながるサービスの創出を支援しています。加えて、小売店舗では、不要な衣料品の回収およびリサイクルや、フードロス削減を推進し、循環型社会に貢献しています。
⑤ESGの重要性向上 ガバナンス・環境・社会の3つの課題への対応は、今や必須のものとして、その重要性も急速に増しており、ESGの取り組みにより企業がステークホルダーから峻別される時代となっています。新型コロナウイルス感染症を機に、持続可能な社会への取り組みが進展すると見込まれており、ESGは、中長期的に当社グループの企業価値やレピュテーション、資金調達に非常に大きな影響を与えると想定されます。 ESGの取り組みは、今まで以上に社会的価値と経済価値を両立するCSV(共通価値の創造)の実現度合いで評価されるようになっています。ESGの推進には長い期間やコストがかかるため、CSVが思うように実現できなければ、ステークホルダーから評価されない可能性があります。一方で、消費者の持続可能な社会への関心の高まりに訴求する新たな商品やサービスを提供できれば、売上やレピュテーションが向上し、資金調達面でもプラスの効果をもたらします。 当社グループでは、設定した5つのマテリアリティ(※)をもとに、CSVの実現に向け、様々な取り組みを推進しています。E(環境)については、全社で再生可能エネルギーへの切り替えを精力的に進め、不要な衣料品の引き取りや環境に配慮した包装資材への変更、フードロス削減など、顧客及び地球への負担の低減に努めています。E(環境)S(社会)両方に関連する取り組みとしては、当社グループの姿勢を示した「お取引先様行動原則」「JFR行動原則」を制定し、取引先企業への説明会、社内サイトでの従業員への周知を行い、ステークホルダーとともに、環境や人権に配慮した営業活動や店舗を核とした地域社会への貢献を推進しています。これらの取り組みを支えるコーポレートガバナンスについては、指名委員会等設置会社として、複数の独立社外取締役を選任して経営監督機能を強化し、透明性の高い経営を実現しています。これら一連の取り組みは、「サステナビリティレポート」に集約し、社外に開示するとともに、社内浸透の強化を図っています。

※「低炭素社会への貢献」「サプライチェーン全体のマネジメント」「地域社会との共生」「ダイバーシティの推進」「ワークライフバランスの実現」

⑥既存事業の成熟から衰退への移行 当社グループの中核事業である小売事業を中心とする既存事業の成熟は、デジタル化による消費者のライフスタイルや消費行動の変化により、そのスピードが加速しています。テクノロジーの進化、新型コロナウイルス感染症の長期化により、ここ数年でさらに既存事業の成熟から衰退への移行が進むと見込んでおり、小売事業をはじめ当社グループ全体の業績に非常に大きな影響を与えると想定されます。 新型コロナウイルス感染症で加速する消費者のライフスタイルや消費行動の変化への対応が遅れると、既存事業のビジネスモデルの陳腐化から、顧客離れを招きます。一方で、ECでは得られない実店舗ならではの購買や接客体験を見直す機運が高まりつつあることを踏まえ、当社グループが有する都心の実店舗の変革を加速することにより、既存顧客の満足度が向上するとともに、新規顧客の獲得による持続的な成長が望めます。 当社グループでは、順次、既存店舗のリニューアルを進めており、11月には、「大丸心斎橋店本館」「渋谷PARCO」をリニューアルオープンしました。「大丸心斎橋店本館」では、収益分析をもとに、従来の売仕契約と定期借家契約の最適化を図った新たなビジネスモデル(革新的ハイブリッド型ビジネスモデル)に取り組んでいます。「渋谷PARCO」では、EC併設のオムニチャネル型売場、バーチャル(仮想)展示など、最新テクノロジーを活用した新たな店舗づくりに挑戦しています。今後も商圏や顧客の特性を踏まえ、既存店舗のビジネスモデルの変革に取り組むとともに、当社グループの金融事業と連携し、キャッシュレス決済など消費行動の変化にも対応していく予定です。
⑦取引先の転換 当社グループの中核事業である小売事業では、テクノロジーの進展を背景に、従来の優良取引先企業のECシフト、実店舗からの撤退が進んでいます。また、少子高齢化に伴う国内市場の縮小を背景に、倒産・廃業も増加しています。新型コロナウイルス感染症の発生による営業休止を受け、買取・売仕など従来の百貨店型取引形態である取引先企業の業績は大幅に悪化しています。加えて、業績が悪化した定期借家契約の取引先企業からは賃料の減額要請を受けています。このような状況から、撤退や倒産・廃業の波は、今後数年の間に急速に増大し、小売事業の業績に非常に大きな影響を与えると想定されます。 優良取引先企業の撤退・倒産・廃業は、当社グループの小売店舗の品揃え、魅力の低下につながります。一方で、これを取引先政策転換の契機と捉え、顧客データの分析などにより既存取引先企業の営業施策を支援したり、新たな取引先企業の開拓による品揃えの向上につなげることができれば、既存事業の持続的な成長が可能となります。 当社グループでは、既存取引先と共同で、最新テクノロジーを活用した次世代型店舗や、物販とサービスの複合店の開発を進めています。また、消費行動の変化を踏まえ、ライフスタイル全般において新規事業の創造を行っている企業を新たな重点取引先企業と位置づけ、開拓を強化しています。さらに、社会との共生を切り口とした施設・サービスの導入や、店舗を核とした周辺エリアの活性化に寄与するイベントの開催を行い、幅広い顧客層の集客に努めています。
⑧資金調達 当社グループは、出店・改装などの設備投資、M&Aなどに要する資金を、金融機関からの借入に加え、社債、コマーシャル・ペーパーなど金融市場から、直接調達しています。新型コロナウイルス感染症の影響から、多数の企業が財務の安定性を確保するために、従来とは次元の異なる規模で資金調達を実施しようとしています。その結果、金融市場は急激に不安定さが増しています。このような環境下において、当社グループにおいても、的確な資金調達により、事業の安定性、継続性を担保することが当面の最重要課題であり、ひいては将来の成長に非常に大きな影響を与えると想定されます。 金融機関による貸付枠や信用供与枠などの条件変更や当社グループの信用格付の大幅な引き下げ、あるいは、投資家の投資意欲の減退や市場環境の悪化が生じた場合、適時に適切な条件で必要な資金を調達できない可能性があります。一方で、効率的・効果的な資金調達ができると、積極的な事業投資により、当社グループの持続的な成長が可能となります。 当社グループでは、事業年度毎に資金調達方針を定め、間接金融と直接金融、並びに短期調達と長期調達の適正なポートフォリオの構築に取り組んでいます。また、適切な金利水準による資金調達を実施するために、市場動向の把握や最適な調達手段の選択を行い、支払利息の削減につなげています。急激な金融市場の変動への備えとしては、日頃から金融機関、格付機関、債券投資家と良好な関係を築き、金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパーの発行を計画的に行うとともに、コミットメントラインなどの資金調達枠を十分に確保することにより、不透明な調達環境下でも、適切に資金調達ができる体制を整えています。さらに、ESGを重視した経営を行うことで、効率的・効果的な資金調達に努めています。

コミットメントライン : 金融機関が、企業に対して一定の期間に限り維持する一定の融資枠のこと。

特に、新型コロナウイルス感染症の影響拡大に対しては、資金確保が最重要課題であるとの認識の下、リスクシナリオを設定し、その対応を迅速かつ的確に実践していきます。

⑨為替の変動 新型コロナウイルス感染症の全世界的な流行を機に、安定していた為替相場は、急速に変動幅が大きくなっています。為替の変動は、当社グループの中核事業である小売事業におけるインバウンド売上、並びに一部事業での原材料や商品調達を左右し、当社グループの収益性に大きな影響を与えます。 円高が進行した場合、中国をはじめとする訪日客数が減少し消費意欲も減退する一方、一部事業での原材料や商品の仕入れコストが低下します。逆に円安が進行した場合、訪日客数が増加し高額消費が活発化する一方、一部事業での原材料や商品の仕入れコストが増加します。 当社グループでは、為替の変動に備え、インバウンドについては商圏拡大という発想で、中国依存からの脱却(幅広いアジア圏のマーケット開拓)や、外国人富裕層の固定客化を推進し、円高による外国人マーケットの落ち込みを低減しています。また、原材料や商品の調達の一部については、実需に基づく為替予約取引の活用や、海外の商品調達先を分散するなどの対策を講じています。
⑩株式相場の変動 米中貿易戦争の長期化に加え、新型コロナウイルス感染症が世界経済に大打撃を与えており、将来に対する見通しが立たない環境下において、株式相場は乱高下しています。株式相場の急激な変動は、株式を保有する当社グループの中核事業である百貨店顧客および当社グループの財務状況に大きな影響を与えます。 株式相場が下落すると、百貨店顧客の名目的な資産減少から消費マインドの低下を招きます。また、当社グループも株式を保有していることから、親会社の所有者に帰属する持分、年金資産が減少します。一方で、株式相場が上昇すると、百貨店顧客の高額消費が活発となり、業績の向上につながるとともに、親会社の所有者に帰属する持分、年金資産が増加します。 当社グループでは、株価下落時でも急激に顧客の消費が落ち込まないよう、常日頃から、テクノロジーを活用したコミュニケーションツールや手厚い人的サービスなど、顧客特性に応じた方法で顧客との絆を強め、需要を喚起する対策を講じています。また、自己株式の取得による株価の維持、資産全体に占める株式の割合を適正に保つことにより、財務の安定化を図っています。さらに、当社グループが保有する国内企業の株式などの有価証券については、保有合理性のあるもの以外を削減することにより、株式相場の変動による資産価値の変動を低減しています。
⑪減損 事業活動上、当社グループが保有または賃借している、店舗用土地・建物を始めとする事業用固定資産は、財政状態計算書に計上しています。競合などの環境変化による事業用固定資産の収益性の低下や、地価の下落などの不確実性は常に大きく、これらに直面した場合、減損を認識しなければなりません。新型コロナウイルス感染症の影響が長引いた場合、店舗収益の悪化や、事業用固定資産の市場価格の大幅な下落により減損リスクが高まっていくと認識しており、当社グループの財務状況に非常に大きな影響を与えると想定されます。 減損損失の計上は、当社グループの財務状況の悪化ばかりでなく、顧客や地域社会をはじめとするステークホルダーからの評価の低下、ひいては、当社グループのブランド力低下につながります。一方で、収益性と資産価値の整合が取れ、事業の評価が適正化されることにより、将来の事業ポートフォリオの検討、変革へ結びつけることができます。 当社グループでは、減損すると影響が大きい一定金額以上の投資案件について、投資計画検討委員会において、損益計画の妥当性、投資回収の実現性を審査しています。具体的には、案件特有のリスクを反映したプランを含む複数のプランを検証し、投資判断に誤りが生じないよう努めています。また、不測の事態を避けるため、再生計画検討委員会において、減損の生じる可能性について定期的に検証し、再生計画に基づき、業績の回復に努めています。
⑫情報管理 テクノロジーの進化と並行して、サイバー攻撃の手法は、数年前から急速に高度化しています。また、スマートフォンの進化と利用拡大により、顧客情報を狙った不正アクセスなども急増しており、扱う情報量に比例して情報管理のリスクは高まっています。リスクが発現した場合、当社の信頼性や企業イメージへの大きな影響が想定されます。 当社グループが有する多数の顧客情報および営業機密、並びに他企業から受け取る機密情報が、不正または過失により外部に流出した場合、当社グループの社会的な信用が失墜するとともに、損害賠償など多額の費用負担が発生します。 当社グループでは、基本方針・基本規程・ガイドラインなどからなる「JFRグループ情報セキュリティポリシー」を制定し、ハード・ソフト両面からセキュリティ強化に取り組んでいます。サイバー攻撃の高度化、多発に備えて、本年度は、情報システムセキュリティ強化や、全従業員対象の訓練や教育の増強など、専門部署によるグループ各社への支援をより一層強化しています。知的財産については、専門部署による管理を徹底し、財産の保護に努めています。
⑬法規制及び法改正 マルチサービスリテイラー戦略に基づき複数の事業を展開する当社グループは、常に様々な法規制・法改正に注意を払い、適切に対応することが求められています。特に近年は、当社グループの各事業活動で制限や対応の義務が生じうる働き方改革、個人情報関連などでの法改正が増えており、引き続き当社グループの事業の安定運営、信用に大きな影響を与えると想定されます。 法規制により事業活動が制限を受ける場合、ビジネスの転換や縮小を招きます。また、法規制・法改正への対応には、常に新たなコストが発生します。さらに、当社グループが十分に注意を払っているにも関わらず法違反が生じた場合、処罰を受けるとともに、企業の信用低下につながります。 当社グループでは、第一に担当部署が中心となり、適宜外部の専門家を活用しながら、専門部署がサポートすることで、法を遵守しています。法改正に関する動向については、専門部署が網羅的に情報収集を行い、当社グループと関わりの深いものについては、経営層並びに各事業会社へ情報を共有しています。また、経営層および全従業員を対象としたコンプライアンス研修や内部通報制度の強化により、コンプライアンス風土の醸成や、法違反の未然防止に努めています。

同社は①②のリスクを「ハザードリスク」、③~⑦を「戦略リスク」、⑧~⑪のリスクを「ファイナンスリスク」、⑫・⑬のリスクを「オペレーションリスク」にカテゴライズしている。そして、リスクの質が特に大きく変わる⑦と⑧の間に<コロナショックが与える金融への影響>という説明文を入れ、「コロナショック」が「金融危機」へと変異拡大することでファイナンスリスクが高まるシナリオが示されており、読み手への配慮を感じさせる。また、有報の【事業等のリスク】はリスクを列挙して終わるのが通常だが、同社はさらに「主要リスク一覧」として下表を掲載している。ここでは簡素な表現とビジュアルを用いられており、直感的なリスクの把握が可能となっている。こうした読み手への配慮は3月決算企業も是非参考にしたいところだ。

■ハザードリスク
50893a

■戦略リスク
50893b

■ファイナンスリスク
50893c

■オペレーションリスク
50893d

2020/06/09 【2020年5月の課題】2019年12月決算企業に学ぶ6月株主総会(会員限定)

招集通知発送、12月決算企業は平時通り、3月決算企業は相当数が法定期限ギリギリに

2019年12月決算企業(以下、12月決算企業)の定時株主総会(以下、株主総会)を俯瞰するため、代表的な12月決算企業としてTOPIX100採用企業12社をサンプルとし、適宜それ以外の企業の事例も参照しつつ、今月の課題について考察を進めていきます。本稿で主に取り上げるTOPIX100の12社は以下のとおりです(証券コード順)。

国際石油開発帝石
アサヒグループホールディングス
キリンホールディングス
日本たばこ産業
花王
中外製薬
大塚ホールディングス
資生堂
ブリヂストン
クボタ
キヤノン
ユニ・チャーム

まず、株主総会前の情報開示から見ていきましょう。

株主総会に関する情報開示の中心が株主総会招集通知(以下、招集通知)であることは言うまでもありません。近年、招集通知は開示・発送の早期化が進んでいますが、12月決算の上記サンプル12社の招集通知のWEB開示日は平均で株主総会開催日の4.2週間前、発送日は同じく3.2週間前と、例年(東証「2019年3月期上場会社の定時株主総会の傾向について」の「2.招集通知の早期発送・早期ウェブ開示」参照)と遜色のない水準となっています。なお、最も開示が早かったのは花王の33日前、最も発送が早かったのは中外製薬の31日前でした。

一方、2020年3月決算企業(以下、3月決算企業)においては、招集通知の発送が法定期限(株主総会の日の2週間前まで=株主総会開催日の15日前まで)ギリギリとなる企業が相当数に上ることになりそうです。ただ、12月決算企業よりも3月決算企業の方がコロナ禍の影響を大きく受けていることは周知の事実であり、機関投資家も3月決算企業の決算や監査における苦境は十分に認識しているため、招集通知の開示・発送時期が問題視されることはないでしょう。

ISSの「棄権推奨」で、例年以上に任意開示が重要に

重要なのは招集通知の中身です。議決権行使助言会社最大手のISSは、2020年6月1日以降に開催される株主総会を対象にした「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」の中で、今年の株主総会ではROE基準を停止するとの方針を示しています。これは、業績悪化がコロナ禍という特殊要因によることを考慮したものであり、今年はISSによる反対助言そのものが全体的に減少することが予想されます。その分、ROE基準以外の基準(例えば社外役員の独立性、不祥事の影響など)は運用が厳格化されるリスクは否定できません。企業は、例年であれば賛成されていた議案についても充実した情報開示(任意開示を含む)を心掛ける必要があります。

ROE基準 : 資本生産性が低く(過去5 期平均の自己資本利益率[ROE]が5%を下回り)かつ改善傾向(過去5 期の平均ROE が5%未満でも、直近の会計年度のROE が5%以上ある場合)にない場合、経営トップ(社長、会長)である取締役の選任議案に反対を推奨するとする基準。

特に、決算作業・監査手続きの遅れにより定款で定めた定時株主総会の開催時期までに計算書類等の作成が間に合わず、定時株主総会後に計算書類の報告・承認のための継続会を開催する企業には一層の情報開示が求められることになります。継続会の開催する企業は100社を超える見通しとなっていますが、継続会を開催する場合、計算書類の報告を伴わない株主総会資料で剰余金処分(配当)議案や取締役選任議案、役員報酬議案などを株主に諮ることになります。これに対しISSは、継続会における多くの議案について棄権票を投じることを推奨する旨の方針を上記「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」の中で明らかにしています。棄権票は賛成率の計算上「分母」に含まれることから、反対票に等しい影響がありますが、ISSは必ずしもすべての議案について一律に「棄権」を推奨すると言っているわけではありません。例えば役員報酬議案については「報酬枠の増加が業績連動報酬の導入や増加を目的としていることが明らかでない」場合などには棄権、役員選任議案については「役員の独立性を評価する十分な情報がなければ、過去の開示書類に基づきISSで判断する旨の考えを示した上で、過去の開示書類から取得できない今年の取締役会の出席情報が招集通知で提供されない場合は反対を推奨する」としています。ISSのこれらの方針を見ても、継続会を開催する企業には、招集通知の参考資料において任意開示を充実させることが求められます。例えば剰余金処分議案については決算の概要、役員選任議案については取締役会への出席率や独立性に関する情報など、投資家サイドが議案を精査するのに必要な情報を添えることが有益であると考えられます。上述のとおり機関投資家も企業の決算や監査における苦境は十分に認識しているため、適切な判断材料が与えられれば、むやみに否定的な議決権行使にこだわることはないでしょう。

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

株主が会場に来た場合の対応は?招集通知の書き漏れは後日リリースでカバー

3月決算企業の多くが、株主総会の会場を従来のコンベンション・ホールやホテルの宴会場などから自社会議室に変更するなど、積極的な株主総会の規模縮小を図っています。それでも、緊急事態宣言が解除された今、株主総会の会場に株主がやって来ることは十分に考えられます。

3月決算企業よりもコロナ禍の影響が小さい12月決算のサンプル企業12社の中で、招集通知にコロナ対応を記載したのはアサヒグループホールディングス(会場に消毒液を設置している)と花王(株主にマスク着用を求める)にとどまっています。このため、株主総会当日の運営について12月決算企業から学ぶことは少ないように見えますが、12月決算企業は「株主が会場に来る」ことを前提に株主総会当日を迎えただけに、3月決算企業にとっても「株主が会場に来てしまった場合の対応」としては参考になる部分があります。12社のうち7社は招集通知発送後にコロナ対応に関するリリースを出していますが、その中でも、株主が会場に来た場合を前提に「本会場に入れない可能性」を示したユニ・チャームや、「議事を短時間で進行する」とした日本たばこ産業、質問を「事前受付制」としたクボタの運営手法は3月決算企業にとっても参考になります。招集通知に書き漏れたことは、招集通知発送後でも積極的にリリースを出すべきでしょう。

〇本会場に入れない可能性(ユニ・チャーム
株主様にご着席いただく座席間隔を広めにとらせていただきます。これに伴い、ご到着が遅くなられた場合は、別室からテレビモニターを通じてのご参加となる場合もございます。
〇議事を短時間で進行(日本たばこ産業
株主総会の議事は、円滑かつ効率的に執り行うことで、例年よりも短時間で行う予定でおりますので、ご理解ならびにご協力をお願いいたします。
〇質問は事前受付制(クボタ
円滑な議事進行のため、ご質問は、事前受付制とさせていただきます。質問をご希望される株主様は、当日9時~10時に「質問希望者受付」へお越しください。

当日の株主総会で質疑応答を行う場合には、当然コロナ禍に関連した質問が出ることを想定しなければなりません。仮に質問自体は例えば「事業」や「経営戦略」に関するものでも、コロナ禍を踏まえて回答するべきケースも多いはずです。サンプルした企業の株主総会で出たコロナ禍に関する質問、回答は下記のとおりです。

〇コロナ問題に関する質問(キリンホールディングス
新型コロナウイルスが業績に与える短期的、中長期的な影響を教えてほしい。
〇コロナ問題を踏まえた回答(国際石油開発帝石
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い世界経済の停滞等によりエネルギー需要の減少が見込まれること、また、OPEC プラスにおいて協調減産合意が決裂したこと等により、油価が急落している。これらの状況がどの程度の期間継続するか現時点で見通すことが難しい状況(以下略)
株主総会のオンデマンド配信は8社 YouTube使用は2社

3月決算企業の中には、株主総会の開催規模を縮小することと併せて株主総会の模様をライブもしくはオンデマンドで配信することを検討している企業も多いでしょう。12月決算のサンプル企業では、12社のうち8社がオンデマンド配信を行っています。各社が使っている配信媒体を見ると、3社がイー・アソシエイツの「カンパニー・ホットライン」、3社はリンクコーポレイトコミュニケーションズの「IRウェブキャスティング」、残り2社はYouTubeを利用しています。また、アサヒグループホールディングと中外製薬は、「質疑応答」も含めた全編を公開しています。

株主総会にインターネットを活用する場合、議決権行使や質疑応答まで可能なものとするか(出席型・ハイブリッド型バーチャル株主総会)、ライブ配信を視聴するだけとするか(参加型ハイブリッド型バーチャル株主総会)、株主に限らず広く一般に配信するか、総会終了後もオンデマンドで視聴できるようにするか、など論点は多岐にわたります。オンデマンドであればコンテンツに質疑応答を含めるかも、株主のプライバシーの保護上、問題となります。株主・投資家としては対応が手厚くコンテンツが充実しているに越したことはありませんが、企業には費用対効果やリスク管理の観点から慎重な検討が求められるところです。

出席型 : リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会のこと。質問については、あらかじめ用意されたフォームに質問内容を書き込んだ上で会社に送信する形をとる必要があり、議長の株主総会の当日それを取り上げるか、あるいは後日、回答できなかった質問の概要を公開する方法が選択できることとされており(経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」21ページ【質問】参照)、また、動議の提出はできないこととされている(同22ページ一番上の〇参照)。
参加型 : 会場で開催されるリアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会のこと。会場型の株主総会(リアル株主総会)に出席していないため、会社法上、株主総会において出席した株主により行うことが認められている質問(法314条)や動議(法304条等)を行うことはできない(経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」9ページ③参照)。

キリンホールディングスの株主総会では、取締役選任に関する株主提案に35%の賛成票

近年の株主総会では株主提案の議案が増加していますが、12月決算のサンプル企業で株主提案を受けたのはキリンホールディングスのみにとどまりました。具体的には、英国ファンドのフランチャイズ・パートナーズが4つの議案(自己株式の取得、譲渡制限付株式の報酬額改定、取締役報酬額の改定、取締役2名の選任)を提起したものの、いずれも反対多数で否決されています(株主提案議案のいずれにも反対するとした同社取締役会意見はこちら)。もっとも、このうち取締役2名の選任議案は35.62%と20%、譲渡制限付株式の報酬改定議案は21.01%と相応の賛成率となっており(同社株主総会の議決権行使結果はこちら)、3分の1強を占める外国人投資家の多くが賛成したことがうかがわれます。また、ISSは株主提案による社外取締役1名の選任議案に賛成した模様です。

近年の株主提案の中でも特に目に付くのが、アクティビスト・ファンドが代表などの関係者を社外取締役として企業に送り込もうとする動きです。川崎汽船がシンガポールのエフィッシモ・キャピタル・マネージメント、オリンパスが米国のバリューアクト・キャピタルからの要求に応じたケースは有名ですが、直近では、東証一部に上場するプラスチック製品メーカーの天馬(3月決算)が、米国のダルトン・インベストメンツグループから取締役を受け入れるとの同社取締役意見を5月27日付でリリースしています。

また、上述のとおり、キリンホールディングスの事例では、役員報酬に関する株主提案(譲渡制限付株式の報酬額改定)も21.01%という賛成率を獲得しています。昨年の武田薬品の株主総会で、クローバック条項の導入を求める株主提案が52%と過半数を獲得(ただし、定款変更議案であるため特別決議の要件を満たせず否決)したことと併せて考えると、役員報酬に対する投資家の関心度が高まっていることが再確認できます。企業は、経営環境の変化や事業戦略と平仄を合わせながら、株主目線の評価指標を用いたインセンティブ性の高い報酬制度を構築するべく、継続的に議論を重ねる必要があります。

特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。

「コロナ前後の成長性の変化」は投資家にとって大きなチャンス

2013年以来のアベノミクスによるコーポレートガバナンスの“枠組み”作りは相当程度進み、グローバル投資家をはじめとする機関投資家はもう一段高いレベルの「目に見えるガバナンス改革」を日本企業に求めています。こうした中で、アクティビストに対する機関投資家の期待は小さくなく、その関係者が企業に入り込む後押しをすることは十分に考えられます。企業としては、メインストリームの投資家である株主とエンゲージメントを重ねることで支持を確保しつつ、必要なガバナンス改革への取り組み(社外取締役の構成比率アップ、ジェンダーや国際性の伴った社外取締役の選任など)を先んじて進めることが、“アクティビスト・リスク”を低減するうえで重要と言えるでしょう。

そして今、機関投資家の最大の関心事となっているのはコロナ禍の影響であることは間違いありません。目先の業績に対する影響以上に投資家が注目しているのは、「コロナ後」の世界において従来のビジネスモデルが通用するのか、また、そこで新たな事業機会を得られるのか、ということです。コロナ前後で成長性が大きく変わるのであれば、それは「売り」にせよ「買い」にせよ大きな投資チャンスとなります。今回の事態が自社の中長期的な企業価値にどのようなインパクトを与えるのか、経営陣には検証と議論が強く求められます。

2020/06/08 コロナ禍において投資家が企業に期待する開示

いまだ収束したとは言えないどころか“第二波”到来への警戒感も高まっている新型コロナウイルス感染症により、多くの企業が不確実な経営環境に置かれている。投資家の立場に立てば、今こそ経営者の視点から投資判断に資すると考えられる情報の十分な開示が求められていると言えよう。こうした中、金融庁は(2020年)5月29日、有価証券報告書の記述情報(非財務情報)における新型コロナウイルス感染症の影響について投資家等が期待する好開示のポイントをQ&A形式でまとめた「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A」を公表した。

記述情報(非財務情報) : 有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」を指す。2019年1月31日に公布・施行された開示府令により、2020年3月期決算企業から記載内容の充実が求められることとなった。

同Q&Aは、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】といった記述情報の中心をなす部分のほか、【コーポレート・ガバナンスの状況等】における【監査の状況】【役員報酬】【株式の保有状況】も対象にしている。それだけ、投資家が有価証券報告書の記述情報の多くの部分で新型コロナウイルス感染症の影響が記載されることを期待しているということだ。

金融庁は当該Q&Aについて、「新型コロナウイルス感染症の影響について、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すことを目的として作成されており、新たな開示事項を加えるものではない」としているが、有価証券報告書を提出する際に合わせて提出が求められる「調査票」(「2.有価証券報告書レビューの実施について」の中のエクセル参照)では各開示項目ごとに新型コロナウイルス感染症の影響について検討したかを記載することが求められていることから、特に3月以降に決算を迎える企業の経営者は有価証券報告書提出前に記載漏れがないか、十分注意する必要がある。

当該Q&Aに基づき、当フォーラムが「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示のポイント」と「投資家が期待する開示事例」をまとめたのが下表だ。・・・

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2020/06/08 コロナ禍において投資家が企業に期待する開示(会員限定)

いまだ収束したとは言えないどころか“第二波”到来への警戒感も高まっている新型コロナウイルス感染症により、多くの企業が不確実な経営環境に置かれている。投資家の立場に立てば、今こそ経営者の視点から投資判断に資すると考えられる情報の十分な開示が求められていると言えよう。こうした中、金融庁は(2020年)5月29日、有価証券報告書の記述情報(非財務情報)における新型コロナウイルス感染症の影響について投資家等が期待する好開示のポイントをQ&A形式でまとめた「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A」を公表した。

記述情報(非財務情報) : 有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」を指す。2019年1月31日に公布・施行された開示府令により、2020年3月期決算企業から記載内容の充実が求められることとなった。

同Q&Aは、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】といった記述情報の中心をなす部分のほか、【コーポレート・ガバナンスの状況等】における【監査の状況】【役員報酬】【株式の保有状況】も対象にしている。それだけ、投資家が有価証券報告書の記述情報の多くの部分で新型コロナウイルス感染症の影響が記載されることを期待しているということだ。

金融庁は当該Q&Aについて、「新型コロナウイルス感染症の影響について、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すことを目的として作成されており、新たな開示事項を加えるものではない」としているが、有価証券報告書を提出する際に合わせて提出が求められる「調査票(エクセルが開きます)」(「2.有価証券報告書レビューの実施について」の中のエクセル参照)では各開示項目ごとに新型コロナウイルス感染症の影響について検討したかを記載することが求められていることから、特に3月以降に決算を迎える企業の経営者は有価証券報告書提出前に記載漏れがないか、十分注意する必要がある。

当該Q&Aに基づき、当フォーラムが「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示のポイント」と「投資家が期待する開示事例」をまとめたのが下表だ。

(注)調査票(エクセルが開きます)に記載あり
有価証券報告書の項目 新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示のポイント 投資家が期待する開示の例
【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】 経営方針・経営戦略等や経営環境の記載にあたっては、新型コロナウイルス感染症の影響も含めて、具体的に記載しているか。(注) ・経営者が新たに認識した自社の弱みや課題、機会やリスク等も踏まえ、事業やセグメントごとに具体的に記載。
・今後の経営環境にどのような変化をもたらすと考え、経営戦略等、KPIをどのように見直したか、具体的に記載。
・新型コロナウイルス感染症の影響は僅少であり、当該感染症の影響に関する記載は不要だと判断した場合にはその旨と、記載不要と判断するに至った議論の背景等を具体的に記載。
【事業等のリスク】 新型コロナウイルス感染症の影響も含めて、具体的に記載しているか。(注) ・企業の現在の状況や経営成績等に与える影響(従業員の働き方やサプライチェーンへの影響といった、事業活動に与える影響や対応策を含む)を具体的に記載。
・コロナ禍が事業活動に与える影響に関する定量的な情報や当該定量的な情報を算定する際に基礎とした用いた仮定について、取締役会や経営会議等における議論の内容を記載(記載できない場合には、その旨を記載した上で、その後、記載できるようになった時点で四半期報告書や臨時報告書、適時開示等において情報提供する)。
特別な会議体や管理体制を置いている場合は、例えば、当該会議体等の意思決定権者、構成員、権限、位置づけや議論の内容、活動状況等、その具体的な内容を記載。
【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(MD&A ・経営成績等の状況の記載にあたっては、新型コロナウイルス感染症の影響も含めて、具体的に記載しているか。(注)
会計上の見積り等の記載にあたっては、新型コロナウイルス感染症の影響も含めて、具体的に記載しているか。(注)
・影響がどこで(事業セグメントや地域セグメント、サプライチェーンの各段階等)、どのように生じているかを具体的に記載。
・影響を一過性と考えているのか、それとも長期にわたり影響を与える可能性があると考えているのか等について、経営者の視点による分析の内容を具体的に記載。
・新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた資金繰り等について、経営者が検討したこと(新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた成長投資、手許資金、株主還元等への資金の配分のあり方についての考え)もしくは対応事項(コミットメントラインの設定状況、予定されている資金支出、短期及び長期の新たな資金調達の必要性、財務制限条項抵触リスクへの対処方法など)を具体的に記載。
・会計上の見積り等について、「第5 経理の状況」に記載した会計方針や追加情報を補足する情報を分かりやすく記載。
【監査の状況】 新型コロナウイルス感染症の拡大により、監査役等の活動に制限がある場合、その内容及び適切な監査業務遂行のための対応策を記載しているか。 ・新型コロナウイルス感染症の影響により、計算書類や事業報告に対する監査において従前どおりの手続きが行えない等、計画していた監査役等の活動のうち実施困難となったものがあれば、その内容を記載するとともに代替的な対応を記載。
・会計監査人が監査業務を例年どおり遂行することが困難となる中、適正な監査の確保に向けて、監査役等が、会計監査人とどのような協議を行い、どのように対応をしたか、および同種の事態が今後生じた場合の対応について、具体的に記載。
【役員報酬】 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、役員報酬の算定方法を変更する場合、その内容を具体的に記載しているか。 役員報酬の算定方法を変更する場合(従業員の雇用維持や健康・安全の確保などの指標を新たに含めるといったKPIの変更を含む)は、算定方法の変更に至った背景や理由について、例えば、取締役会・報酬委員会でどのような議論が行われたか等を記載。
【株式の保有状況】 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、株価の低迷により評価損が生じた場合、「保有効果」を追加で説明しているか。 株価の大幅な変動により評価額に大きな変動が生じているなど、リスクが顕在化した場合には、顕在化したリスクを、保有効果を検証する中でどのように検討しているか、売却方針などを具体的に記載。

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)
特別な会議体や管理体制 : 例えば、リスクマネジメント委員会の中に「コロナ対策チーム」を立ち上げたり、社長を本部長とする「緊急対策本部」を新たに立ち上げたりすることが考えられる。
MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。
会計上の見積り : 繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと。
コミットメントライン : 金融機関が、企業に対して一定の期間に限り維持する一定の融資枠のこと。
財務制限条項 : 借入期間内における作為(実行することを要求される行為)・不作為(やってはならない行為)について借手が誓約する、借入契約(金銭消費貸借契約)における特約条項。借入れの際に締結する財務制限条項の多くは「一定の自己資本比率の維持」「一定の純資産額の維持」等の財務的な遵守事項であることが多いので、「財務制限条項」と呼ばれる。英語ではコベナンツ(「誓約」を意味する)という。

新型コロナウイルスの影響は誰にもわからない中で、例えば【事業等のリスク】にその内容を記載した後に事情が変わってしまった場合、虚偽記載に問われるのではないか、との懸念を抱く経営者もあろう。この点についてQ&A10では、「提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされていた場合、提出後に事情が変化したことをもって、虚偽記載の責任を問われるものではないと考えられます。」としている。むしろ、「一方、提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて敢えて記載をしなかった場合、虚偽記載に該当することがあり得ると考えられます。」としている点、注意が必要だ。「書かない」よりも「一般的に合理的と考えられる範囲で書く」方がリスクは低いということだ。

また、【経理の状況】においては、既報のとおり、企業会計基準委員会(ASBJ)が「追加情報」に新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等についてどのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかを具体的に記載するよう求めているため(2020年5月14日のニュース『有報作成に影響も ASBJが「コロナ収束時期の仮定」の開示を強く要請』参照)、MD&Aにおける重要な会計上の見積りと追加情報における仮定の記載とが矛盾しないよう留意が必要だ。

有価証券報告書を例年どおり6月中に提出する予定の3月決算企業は、ようやく有価証券報告書のドラフトができた段階といったところかもしれないが、経営陣は、金融庁が本Q&Aをこのタイミングで出してきた趣旨を十分理解し、有価証券報告書の記載をもう一度に見直す必要があろう。

2020/06/05 事業再編研究会が近く指針公表、コロナ禍受け“キャッシュ”意識

経済産業省に設置された「事業再編研究会」(以下、研究会)は、ノンコア事業の切り出し促進を目的とした「事業再編に関する実務指針(通称:事業再編ガイドライン)」(以下、ガイドライン)を近日中に公表する(これまでの経緯については2020年4月24日のニュース『事業再編に関する実務指針案公表 子会社上場を「切出し」の重要手法と位置付け』参照)。5月22日には、ガイドライン公表前最後となる第6回研究会が開催され、前回の研究会で示された「案」からの変更点などが議論された。

ノンコア事業 : 必ずしも事業そのものの収益力や成長性が低いというわけではないが、自社グループにとって競争優位性を有する分野でない等の理由で、自社グループ内にあっては十分なリソースが投入されにくいために、相対的に成長可能性が低くなっている事業のこと。

今年1月31日に第1回研究会が開催されてから4か月余り、この間にコロナ問題が表面化した。いまだ収束しないコロナ禍の中、これまで投資家の批判の対象となってきた「内部留保」の重要性を痛感している経営者も多いだろう。また、「ノンコア事業の切り出し」という本ガイドライン策定の目的とは逆行する「リスク分散のための多角化」を是とする声も上がる中、ガイドラインがこの点についてどのように整理するのか注目されるところだが、第6回研究会では「キャッシュ創出力は競争優位性に基づく事業ポートフォリオの構築により強化される」とし、あくまで「成長戦略を描けない多角化」は正当化しないとのスタンスを維持することが確認されている(第6回研究会に提出された資料「前回からの主な変更点」の冒頭③参照)。

また、ガイドライン公表時には併せて「事業再編研究会報告書」も示されるが、そこでは・・・

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2020/06/05 事業再編研究会が近く指針公表、コロナ禍受け“キャッシュ”意識(会員限定)

経済産業省に設置された「事業再編研究会」(以下、研究会)は、ノンコア事業の切り出し促進を目的とした「事業再編に関する実務指針(通称:事業再編ガイドライン)」(以下、ガイドライン)を近日中に公表する(これまでの経緯については2020年4月24日のニュース『事業再編に関する実務指針案公表 子会社上場を「切出し」の重要手法と位置付け』参照)。5月22日には、ガイドライン公表前最後となる第6回研究会が開催され、前回の研究会で示された「案」からの変更点などが議論された。

ノンコア事業 : 必ずしも事業そのものの収益力や成長性が低いというわけではないが、自社グループにとって競争優位性を有する分野でない等の理由で、自社グループ内にあっては十分なリソースが投入されにくいために、相対的に成長可能性が低くなっている事業のこと。

今年1月31日に第1回研究会が開催されてから4か月余り、この間にコロナ問題が表面化した。いまだ収束しないコロナ禍の中、これまで投資家の批判の対象となってきた「内部留保」の重要性を痛感している経営者も多いだろう。また、「ノンコア事業の切り出し」という本ガイドライン策定の目的とは逆行する「リスク分散のための多角化」を是とする声も上がる中、ガイドラインがこの点についてどのように整理するのか注目されるところだが、第6回研究会では「キャッシュ創出力は競争優位性に基づく事業ポートフォリオの構築により強化される」とし、あくまで「成長戦略を描けない多角化」は正当化しないとのスタンスを維持することが確認されている(第6回研究会に提出された資料「前回からの主な変更点」の冒頭③参照)。

また、ガイドライン公表時には併せて「事業再編研究会報告書」も示されるが、そこでは「ステップスピンオフ」「スプリットオフ」「自社株対価M&A」と呼ばれるM&Aの手法を使いやすくするための提案が「今後の検討課題」として盛り込まれる。これらの手法のいずれにおいてもキーワードはとなるのが“キャッシュ”だ。それぞれにについて順に説明しよう。

(1)ステップスピンオフ

「スピンオフ」とは、社内の事業部門やグループの一部を分離し、独立した別の会社や組織とする手法のことだが、「ステップスピンオフ」もスピンオフの一類型に位置付けられる。

下図のとおり、いずれも自社(親会社)の株主に対し「子会社の株式」を現物配当することにより、子会社を自社から切り離す(自社の子会社でなくする)という点では変わらない。両者が異なるのは、切り離す子会社が「上場しているかどうか」である(未上場上場子会社の株式を自社(親会社)の株主に現物配当することによるスピンオフを実施したコシダカホールディングスの事例は2019年10月11日のニュース『本邦初の「現物配当による子会社上場」実現に向けた三つの障壁』参照)。
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出典:第6回研究会に提出された「今後の検討課題」(案)2ページ

単なるスピンオフだと、親会社は自社の株主に子会社株式を全て配当してしまうため、子会社株式をキャッシュ化する機会がない。そこで、子会社を上場(IPO)させて子会社株式の一部を売却し、キャッシュに変えるという“ステップ”を踏んた後、スピンオフを実施しようというのがステップスピンオフである。

ただ、この場合に問題となるのが税金だ。具体的には、親会社には「子会社株式を自社の株主に譲渡したことに伴う譲渡益(現物配当した株式の資本金等の額-当該株式の取得原価)」への課税が生じ、自社の株主には「みなし配当課税(現物配当出資した株式の譲渡対価-資本金等の額)」が生じることになる。「100%子会社」をスピンオフする場合には、平成29年度税制改正により創設された「スピンオフ税制」により、一定の要件を満たせば上記の課税は行われないことになっている(スピンオフ税制については2019年10月11日のニュース『本邦初の「現物配当による子会社上場」実現に向けた三つの障壁』の一番上の表の下の段落参照)。しかし、子会社をIPOさせ、子会社株式の一部を売却してからスピンオフするステップスピンオフでは、スピンオフ時点ではもはや100%子会社ではなくなっていることから、スピンオフ税制は適用されない。

みなし配当課税 : 会社法上の配当には当たらないが、経済的実態が利益の配当と変わらないことから、税務上は「配当」とみなされるもの。

そこで研究会は、株式保有割合が100%未満の子会社をスピンオフする場合にもスピンオフ税制を適用するよう求める。

(2)スプリットオフ
スプリットオフもスピンオフと同様、自社(親会社)の株主に対し「子会社の株式」を交付することにより子会社を自社から切り離す(自社の子会社でなくする)という点、両者は変わらない。スプリットオフがスピンオフと異なるのは、スピンオフでは親会社株主に対し子会社株式が「現物配当」として交付されるのに対し、スプリットオフでは「親会社の株式の償還対価」として交付されるということだ。これは親会社から見れば、子会社株式を対価とした「自社株買い」ということになる。要するに、スプリットオフとは「キャッシュの流出を伴わない株主還元策+スピンオフ」とも言える(「今後の検討課題」2ページの脚注2および3ページの脚注3参照)。

ただ、やはりこのスプリットオフにおいても、ステップスピンオフ同様に「税金」の問題が生じる。そこで研究会は、ステップスピンオフと同じく親会社に対する「子会社株式を親会社(自社)の株主に譲渡したことに伴い生じる譲渡益」への課税、親会社株主に対する「みなし配当課税」、さらには「親会社株式の償還(税務上は「株式の譲渡」となる)に伴い生じる譲渡益」への課税を行わないよう求める(同2ページの一番下「そのほか」〜参照)。

みなし配当課税 : 会社法上の配当には当たらないが、経済的実態が利益の配当と変わらないことから、税務上は「配当」とみなされるもの。

また、スプリットオフでは、親会社の株主は「子会社株式を対価とした親会社株式の償還」に応じるか否かを選択することができる。このため、償還に応じる株主が少なければ、子会社株式が親会社の手元に残ることになる。そこで研究会では、子会社株式が親会社の手元に残ったケースを念頭に、さらにスピンオフを行うことで子会社の完全な切出し離しを完了できるよう、上述した「株式保有割合が100%未満の子会社」をスピンオフする場合もスピンオフ税制の対象とするよう求めている(3ページの脚注4参照)

(3)自社株対価M&A
自社株対価M&Aとは、文字通り自社の株式を対価とするM&Aであり、買収資金が不要(被買収会社の株主に対し、キャッシュを支払う代わりに自社株を交付する)というメリットがある(上場会社を対象にした自社株対価M&Aが自社株対価TOBである)。自社株対価M&Aには会社法上の規制(有利発行規制現物出資規制など)と税金の問題(被買収会社の株主に生じる(被買収会社株式の譲渡に伴う)譲渡益課税)があるが、このうち会社法上の問題については、2021年6月にも施行される改正会社法で「株式交付」制度が創設されることで解消した(詳細は2019年9月11日のニュース「自社株活用したM&Aを後押しも 株式交付が会社法上の制度となる意義」参照)。

有利発行規制 : 有利発行とは、例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行すること。有利発行が行われると、既存株主の持分は希薄化するため、会社法では株主総会の特別決議(2/3以上の賛成)を求めている(会社法199条2項、3項、200条2項、201条1項、309条2項5号)。
現物出資規制 : 株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めるもの(会社法207条)。仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。

そこで研究会では、被買収会社の株主に対する譲渡益課税を行わないよう求める。

以上のとおり、研究会は「今後の検討課題」で主に税制上の措置を求めている。具体的な議論は令和3年度税制改正(2020年12月中旬頃に概要が決定されるもの)で行われることになろう。コロナ禍によって「キャッシュ」の重要性が再認識される中、企業にキャッシュを残すことを意識したこれらの要望が実現する可能性は十分にある。特に自社株対価M&Aに関する税制措置については、昨年度の税制改正でも議論されたものの、株式交付制度が盛り込まれた改正会社法の施行までまだ時間があるとの理由で見送られた経緯がある。コロナ禍に加え、改正会社法の施行が近付く中、実現の可能性が最も高いのは自社株対価M&Aだろう。来年の今頃には、コロナ禍で体力を失った上場会社が自社株対価M&Aにより買収されるといったニュースが聞かれるかもしれない。