2020/05/20 ROE基準の適用猶予、機関投資家の間でも広がる兆し(会員限定)

既報の通り、議決権行使助言会社最大手のISSは5月11日、「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」と題するリリースを公表したところだ。主な内容は、①ROE基準の適用猶予、②継続会への対応の2点であり、これらの対応方針は6月1日以降に開催される株主総会において適用される(2020年5月13日のニュース『ISS、継続会を選択した企業に対し「棄権」推奨』参照)。2020年5月13日のニュースでは②の継続会を中心に解説したが、本稿では①ROE 基準の適用猶予について、その意味および影響を検討する。

ROE基準 : 資本生産性が低く(過去5期平均の自己資本利益率(ROE)が5%を下回り)かつ改善傾向(過去5期の平均ROEが5%未満でも、直近の会計年度のROEが5%以上ある場合)にない場合、経営トップ(社長、会長)である取締役の選任議案に反対を推奨するとする基準
継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

ISSの2020年版の助言基準では、「資本生産性が低く(過去5期平均の自己資本利益率[ROE]が 5%を下回り)かつ改善傾向にない場合、経営トップである取締役の選任議案に反対助言する」とされているが、今回、この助言基準を6月1日以降は適用しない(反対助言しない)ことが明示された(下記参照)。これは、コロナ禍の影響がなければ直近期のROEが「改善傾向」、すなわち5%以上を確保できていたのかどうか、適切に判別できないことによる措置と考えられる。

改善傾向 : 過去5期の平均ROEが5%未満でも、直近の会計年度のROEが5%以上ある場合を指す。

ISSは通常であれば、資本生産性が低く(過去5期平均の自己資本利益率[ROE]が5%を下回り)かつ改善傾向にない場合、経営トップである取締役に反対を推奨します。

しかしながら、新型コロナウイルス感染症が企業業績に与える多大な影響を考慮すると、現時点においてROEが企業の資本生産性の指標として機能しているとは必ずしもいえません。そのため、ISSはROE基準の適用を一時的に停止します。

目下、コロナ禍の影響で大幅減益や赤字転落を発表する2020年3月決算企業が相次いでおり、平時におけるISSのROE基準に抵触するケースは少なくないだろう。しかし、ISSは今回のROE 基準の適用猶予措置について一切の「限定」を付けていないことから、基本的には業種や個別企業の事情(2020年3月期決算におけるコロナ禍の影響が小さいなど)によって判断を変えることなく、一律にROE基準の適用を停止する(抵触しても反対助言しない)ものと考えられる。

今後注目されるのは、ISSの動きを受けて、国内外の機関投資家が同様の基準猶予に動くかどうかだ。現状では未だ多くの投資家はスタンスを決めかねているものと推察されるが、一部では具体的な動きが出てきている。

昨日(2020年5月19日)のニュース「コロナ禍における機関投資家の目線」でも触れたとおり、グローバルな機関投資家の団体であるICGN(国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)は、4月23日付のリリース「Covid-19蔓延下でのガバナンスの優先課題」において、以下の点を強調している(1ページの中程参照)。

・財務の健全性と支払能力を維持するための短期的な流動性を確保しつつ、従業員の安全と福利を優先する
・従業員、利害関係者、資本の提供者の利害を念頭に、包括的かつ公平なアプローチで資本配分を決定する

このようなスタンスからは、殊更に高ROEを要求することは考えにくい。ICGNに加盟しているグローバル機関投資家は、ISSのようなアプローチを採用する可能性は十分にあろう。

国内の機関投資家に目を転じると、三井住友DSアセットマネジメントが5月7日に「新型コロナウイルスの影響を踏まえた当面の国内株式議決権行使の方針について」と題するリリースを公表、下記のとおりROEなど基準にこだわらず弾力的な議決権行使を行うとのスタンスを明らかにしている。ちなみに、同社の平時の議決権行使判断基準では、「ROEが国内上場企業平均水準を過去3年に一度も上回っていない場合」には取締役の選任議案に原則反対することとされている(合理的な理由がある場合は賛成)。

ROE・剰余金処分(配当)・業績等における基準の数値にこだわらず、手元流動性の状況や企業活動等の実態を踏まえて弾力的な議決権行使を行う

ただし本リリースでは、「ビジネスモデルや財務状況等を踏まえ、新型コロナウイルスの影響が軽微であることが明白」な場合には、上記考慮の対象から除外するとしている点、要注意だ。

もっとも、「影響が軽微」であることが「明白」であることを、限られた期間内で精緻に分析することは難しいと考えられる。仮に「新型コロナウイルスの影響が軽微であることが明白」と判断された企業であっても、実際にはコロナ禍の影響が小さくなければ、投資家の理解を得られるよう積極的に対話することは有効だろう。

2020/05/20 社外役員データベースへの登録方法について

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2020/05/19 コロナ禍における機関投資家の目線

グローバルな機関投資家の業界団体であるICGN(国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)は4月23日、「Covid-19蔓延下でのガバナンスの優先課題」と題するレターを公表したが、本レターの趣旨について誤解が広がっている。

本レターは、新型コロナウイルスの感染拡大防止を進めるため経済活動が制約される中、「ガバナンスの優先事項についての見解を共有すべく」、ICGNが企業経営者に宛てたものだが、本レターについての報道等では専ら、「従業員などに配慮して株主還元を控えるべき」といった論調がみられる。しかし、実際に本レターが主張していることはそう単純ではなく、あくまで「慎重かつ多面的にバランスの取れた経営判断」を期待する内容となっている。ICGNが「優先課題」として企業に求めるのが以下の6つだ。それぞれのポイントについて解説しよう。・・・

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継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

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2020/05/19 コロナ禍における機関投資家の目線(会員限定)

グローバルな機関投資家の業界団体であるICGN(国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)は4月23日、「Covid-19蔓延下でのガバナンスの優先課題」と題するレターを公表したが、本レターの趣旨について誤解が広がっている。

本レターは、新型コロナウイルスの感染拡大防止を進めるため経済活動が制約される中、「ガバナンスの優先事項についての見解を共有すべく」、ICGNが企業経営者に宛てたものだが、本レターについての報道等では専ら、「従業員などに配慮して株主還元を控えるべき」といった論調がみられる。しかし、実際に本レターが主張していることはそう単純ではなく、あくまで「慎重かつ多面的にバランスの取れた経営判断」を期待する内容となっている。ICGNが「優先課題」として企業に求めるのが以下の6つだ。それぞれのポイントについて解説しよう。

1.社会的責任
ここでは、企業の雇用に対する責任を取り上げているが、頭ごなしに雇用確保(レイオフの回避など)を否定するのではなく、「正社員も派遣社員も含め従業員を公平に扱うべき」と主張した上で、「可能な場合には、特に社会保障が脆弱、又は存在しない国において、人員削減を避けるべき」としている。これは見方を変えれば、企業にとっては事業を継続すること(ゴーイングコンサーン)が最優先事項であり、そのために避けられない雇用調整まで否定する趣旨ではないと捉えるべきだろう。その際には、離職労働者には有給の疾病休暇が医療給付とともに提供されること、男性と比較してパートタイムや低所得のポジションに就いており、多くの場合、人員削減の筆頭と考えられている女性労働者に対する配慮を推奨している。

2.役員報酬
ボーナス支給よりも「企業の長期的な財務健全性を維持すること」が優先されなければならないということと、上級役員・管理職・通常の職員の間における公平性を確保することを訴えている。役員報酬の方針については「従業員全体への施策」を反映したものでなければならないとしており、当該施策の例として、人員削減、一時解雇、賃金削減を挙げている。要するに、人員削減等を実施するのであれば、それを考慮して役員報酬の方針を決定すべきということであり、逆に言えば、ここでも「雇用確保」が絶対視されているわけではない。やむを得ない場合には人員削減もあり得ることが示唆されている。

3.配当
多くの報道が取り上げているテーマがこの「配当」だ。報道の大部分でも見られるように、本レターでは「従業員、納入業者及びその他の利害関係者に影響が及ぶ場合」には、配当の支払いに慎重な姿勢(減額または停止)が必要であるとしているが、その一方で、企業の配当支払いは年金生活者や貯蓄者の生活を支えていることを指摘、「企業が長期的な財務の安定性を損なうことなく配当を支払うことができれば、そうし続けるべきである」と明言している。株主還元を控えることが許容されるのは、あくまでも企業のゴーイングコンサーンが脅かされるような事態においてであると理解するべきだろう。

4.資本調達
企業が大幅な希薄化を伴う大規模な資本調達を実施することは、株主である機関投資家にとっては株主価値を毀損する行為となりかねない。しかしICGNは、新型コロナウイルス問題による業績悪化で事業の継続が危ぶまれる場合には資本の追加調達は必要であると考えており、そのことを示す事例として、新株発行に伴う希薄化の基準を10%から20%に引き上げた英国投資家を紹介している。同様の動きが多くの投資家に広がる可能性があろう。

希薄化 : 希薄化とは「1株当たりの価値」が下がることであり、発行済株式数の増加により起こる。どれくらい希薄化したかを示す「希薄化率」とは発行済株式数の増加率のことであり、「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存株主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が5%未満」等、一定の水準を設けている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。

5.年次総会および取締役選挙
新型コロナウイルスへの感染防止のためのバーチャル株主総会の開催に伴い、ICGNは企業と投資家の対話に支障が生じることを懸念しており、企業には投資家からの質問に適切に対応するよう求めている。またICGNは、「能力の高い取締役」が現下の危機に対応する上で必要であるとするとともに、場合によっては「取締役の在任期間の小幅な延長」も妥当であるとの認識を示している。機関投資家は、社外取締役の在任期間が10年など長期におよぶ場合、再任に否定的だが、現任者が引き続き取締役会のメンバーであることが事業継続に必要であるとの説明ができれば許容される可能性があろう。

6.企業報告
「持続可能な価値創造を補完するものとしての回復力を示すこと」を企業の新たな優先課題として、新型コロナウイルス感染症問題への対処方法を年次報告書(我が国でいえば有価証券報告書)で示すことを推奨している。本項目の冒頭でICGNが、各国の規制当局が財務報告の期限延長を認める動きがあることに言及していることを踏まえると、十分な検討時間をかけて上記「持続可能な価値創造を補完するものとしての回復力」を説明することが期待されていると言える。

また、本レターでは、下記のとおり6つの事項について、投資家にとっての優先順位を示している。これらは企業から見えば、中長期的なコーポレート・ガバナンス上の論点を示していると言えるため、目を通しておきたい。

1.長期的な視点:時価評価や配当支払いの引き下げを許容するのは危機の期間内
2.気候変動:新型コロナウイルス問題と並ぶ重要問題であって同時に管理されるべき問題である
3.資本配分:利害関係者の利益と資本提供者のニーズを考慮した資本政策を期待
4.空売り:空売りや高頻度売買(HFT=ハイ・フリークエンシー・トレーディング)は市場の信頼を損なう可能性がある行為
5.包括的なモニタリング:企業は目先の対応によって、コーポレート・ガバナンス基準を大きく逸脱すべきでない
6.持続可能性:ESG重要な利害関係者の問題を投資判断や対話において優先し続けるべき

空売り : 保有していない株式(証券会社などから借りてきたもの)を売って(空売り)株価を下げ、それを見た他の投資家が売りに追随することで株価が下落し切ったところで買い戻し、買い戻した株式を借手に返却するというように(この場合、売却により得た金額よりも買戻しに要する金額の方が低いため、「売却額-返却額」の利益が発生)、株価の下落から利益を獲得する運用手法
ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
重要な利害関係者 : 金銭的な利害関係をもつ株主などの投資家や顧客のみならず、従業員・債権者・取引先・地域社会を含む。

 

 

 

 

2020/05/18 継続会ではなく「臨時株主総会」を開催する企業が出現

既報のとおり、2020年3月決算の上場企業のうち600社近くが期限通り決算発表ができなかったことから、今後は継続会(会社法317条)の開催を選択する企業の増加が予想されるが(2020年5月18日のニュース「2020年3月決算企業の定時株主総会、継続会開催企業が増加も」参照)、こうした中、継続会ではなく「臨時株主総会」を選択した企業が出てきた。・・・

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継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

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2020/05/18 継続会ではなく「臨時株主総会」を開催する企業が出現(会員限定)

既報のとおり、2020年3月決算の上場企業のうち600社近くが期限通り決算発表ができなかったことから、今後は継続会(会社法317条)の開催を選択する企業の増加が予想されるが(2020年5月18日のニュース「2020年3月決算企業の定時株主総会、継続会開催企業が増加も」参照)、こうした中、継続会ではなく「臨時株主総会」を選択した企業が出てきた。

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

東証一部に上場するダイセル社は、5月12日付で「第154期定時株主総会の開催等に関するお知らせ」をリリースし、定時株主総会に加え、「臨時株主総会」の開催を告知している。このうち定時株主総会については「6月19日(金曜日)午前 10 時」と開催日時が明記されているが、臨時株主総会については「後日開催」とし、開催日時および場所等が確定次第お知らせする旨記載するにとどまっている。

定時株主総会、臨時株主総会それぞれの議案は下記のとおり。

<定時株主総会の議案>
第 1号議案  剰余金の処分の件
第 2号議案  取締役10名選任の件
第 3号議案  監査役 2 名選任の件
<臨時株主総会における議案>
第154期(2019年4月1日から2020年3月31日まで)事業報告の内容、連結計算書類の内容ならびに会計監査人および監査役会の連結計算書類監査結果報告の件」および「第154期(2019年4月1日から2020年3月31日まで)計算書類の内容報告の件

ダイセル社は、臨時株主総会を開催することとなった経緯について、新型コロナウイルス感染症に起因する「連結決算業務および会計監査に遅れ」を挙げている。

ここで疑問が生じるのは、同社がなぜ「継続会」ではなく「臨時株主総会」を選んだのかという点だ。臨時株主総会を開催するには改めて基準日を設定しなければならず、また、招集通知も発送する必要がある。一方、継続会はあくまで定時株主総会と“一体”であるため、基準日の設定も招集通知の送付も必要ない。企業にとっては、臨時株主総会よりも継続会の方が開催に伴う負担は小さい。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

同社は5月12日に出した本リリースにおいて「現時点において、決算関連手続きが完了していない」ことを明らかにしており、同社の決算作業・監査手続が例年より遅れることは間違いないものの、金融庁・法務省・経済産業省が公表した指針「継続会(会社法317条)について」では、定時株主総会から継続会までの期間は「3か月を超えない」ことが目安とされており、計算書類等の確定までは相当の猶予期間がある(2020年5月11日のニュース「決算発表の現状とコロナ禍における各社の株主総会対応の検討状況」の「(2)継続会」参照)。定時株主総会から3か月経っても同社の決算作業・監査手続が完了しないということは通常は考えにくい。

となると、同社は定時株主総会から計算書類等の報告まで「2週間以上」の期間が空くのを嫌い、臨時株主総会を選択した可能性がありそうだ。「定時株主総会の開催日」と「継続会の開催日」の間隔を巡る解釈の一つとして、「株主総会の招集通知は、株主総会の日の2週間前までに株主に対して発送しなければならないこととされており(会社法299条1項)、仮に間隔が2週間以上空くのであれば、改めて招集通知を出すことができるのだから、継続会ではなく臨時株主総会として開催すべき」というものがある。最近では、ホシザキ社が2018年12月決算について、2019年3月27日の定時株主総会の後に予定していた継続会の開催を中止し、同年5月30日に臨時株主総会を開催した例もあるが(以上、2020年4月13日のニュース『続報 有報の提出期限さらに延期へ、株主総会延期では「継続会」活用論浮上』5、6段落目参照)、本ケースにおいても定時株主総会と臨時株主総会の間は2か月程度しか空いていない(もっとも、ホシザキ社による継続会の中止および臨時株主総会の開催という選択は、コロナ禍発生前の当時は正しかったと言い得る)。

政府から定時株主総会から継続会までの期間が「3か月」を超えないことという目安が示されている中でのダイセル社の臨時株主総会開催という選択はかなり保守的なものであり、後に続く企業出て来る可能性は低いと言えそうだ。

2020/05/15 2020年3月決算企業の定時株主総会、継続会開催企業が増加も

コロナ禍で2020年3月決算企業の定時株主総会が例年通り開催できないことが懸念される中、継続会(会社法317条)を開催する企業が増加しそうな情勢だ(定時株主総会の開催方法の選択肢については2020年5月11日のニュース「決算発表の現状とコロナ禍における各社の株主総会対応の検討状況」、2020年5月12日のニュース「決算・監査期間を約2週間確保、計算書類全てのWEB開示を時限的に容認」参照)。

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

継続会の開催については4月28日、金融庁・法務省・経済産業省から「継続会(会社法317条)について」と題する指針が公表されているが、これは要するに、当初予定していたとおりの日程で株主総会を開催して役員の選任などを行い、継続会で計算書類等の報告を行うことを提案するもの。信託協会が5月14日に公表した「新型コロナウイルス感染症の影響による株主総会対応について」によると、5月1日~5月12日においてみずほ信託銀行、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行が2020年3月決算企業2,390社を対象に調査を行ったところ、このうち132社(5.52%)が継続会の開催を検討しているという。

ただ、当フォーラムの取材によると、本来であれば遅くとも決算期末後45日以内(2020年は5月15日)とされている決算発表(決算短信の公表)の開示時期を守ることができた2020年3月決算企業は・・・

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2020/05/15 2020年3月決算企業の定時株主総会、継続会開催企業が増加も(会員限定)

コロナ禍で2020年3月決算企業の定時株主総会が例年通り開催できないことが懸念される中、継続会(会社法317条)を開催する企業が増加しそうな情勢だ(定時株主総会の開催方法の選択肢については2020年5月11日のニュース「決算発表の現状とコロナ禍における各社の株主総会対応の検討状況」、2020年5月12日のニュース「決算・監査期間を約2週間確保、計算書類全てのWEB開示を時限的に容認」参照)。

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

継続会の開催については4月28日、金融庁・法務省・経済産業省から「継続会(会社法317条)について」と題する指針が公表されているが、これは要するに、当初予定していたとおりの日程で株主総会を開催して役員の選任などを行い、継続会で計算書類等の報告を行うことを提案するもの。信託協会が5月14日に公表した「新型コロナウイルス感染症の影響による株主総会対応について」によると、5月1日~5月12日においてみずほ信託銀行、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行が2020年3月決算企業2,390社を対象に調査を行ったところ、このうち132社(5.52%)が継続会の開催を検討しているという。

ただ、当フォーラムの取材によると、本来であれば遅くとも決算期末後45日以内(2020年は5月15日)とされている決算の開示(決算短信の公表)時期を守ることができた2020年3月決算企業は1,756社(調査対象2,338社の75.1%)にとどまっており、582社(24.9%)が5月15日までに決算発表できず、さらにこのうち128社(5.5%)は決算発表日を「未定」としている。この数字からすると、最終的には継続会を開催することとなる企業は、信託協会の調査で「検討中」と回答した132社よりも増えることが予想される。

5月14日時点で既に継続会の開催を公表している3月決算企業は以下の7社となっている。いずれも6月末に定時株主総会を開催し、取締役の選任等とともに剰余金の配当決議を行い、7月以降(日時未定)に継続会を開催するとしている。また、2月決算企業では、エヌリンクス(東証二部)が5月末に定時株主総会、6月以降に継続会を開催するとしている。

アネスト岩田、バイオラックス、芦森工業、日本農薬、ADEKA、ナカノフドー建設(以上、東証一部)、NKKスイッチズ(JASDAQ)

一方、基準日を変更し、定時株主総会の開催を延期することとしている2020年3月決算企業は、当フォーラムの取材によると下記の25社となっている(5月14日時点)。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

スカパーJASTホールディングス、ブロードメディア、サンデンホールディングス、サンリツ、JDI、日本板硝子、オリンパス、レオパレス21、三城ホールディングス、、プレステージ、インターナショナル、凸版印刷、フォーバル、日立製作所、日立建機、日本電波工業、東洋エンジニアリング、アーレスティ(以上、東証一部)、東芝、音通、昭和ホールディングス、フォーバルテレコム、相模ゴム工業、玉井造船(以上、東証二部)、ナンシン、リプロセル(以上、JASDAQ)

2月決算企業では、ディップ(東証一部)、ワイズテーブルコーポレーション(東証二部)、サマンサタバサジャパンリミテッド(マザーズ)が基準日を変更し、定時株主総会の開催を延期している。もっとも、基準日を変更した企業でも、剰余金の配当基準日を変更した企業はサンリツ、オリンパス、ナンシンの3社(いずれも無配ではない)にとどまり、大部分は議決権行使の基準日のみを変更している。なお、取締役会に剰余金の配当を授権することを定款で定めていれば、剰余金の配当基準日のみを変更することが可能になる(この点については、2020年4月21日のニュース「配当基準日は変えずに議決権基準日を後倒しして総会を延期する企業が出現」参照)。

授権 : 「配当の決定権限」といった権限を株主総会から取締役会に委譲すること。

東証が5月1日に公表した「2020年3月期の定時株主総会の動向」によると、2020年3月決算企業の定時株主総会の集中日は6月26日(金)となる(集中割合は前年より2.3ポイント高い33.2%)。決算作業・監査手続の遅れを背景に、できるだけ開催日を遅らせる傾向がみられる。なお、JASDAQに上場する3月決算の「ぱど」は、定時株主総会の日程を6月18日から30日に変更しているが、6月中の開催となるため基準日の変更はない。

2020/05/14 有報作成に影響も ASBJが「コロナ収束時期の仮定」の開示を強く要請

本日(2020年5月14日)にも新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言の一部解除が見込まれる中、上場企業は、会計上の見積りに関する情報開示の充実を求められることになりそうだ。

会計上の見積り: 繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと

現行の開示ルールでは、会計上の見積りに用いた仮定に「重要性」がある場合には、「追加情報」として開示が求められることになっている(2020年4月10日のニュース『コロナ影響下の会計上の見積りにおける「一定の仮定」と開示』参照)。コロナ禍におけるこのルールの運用について企業会計基準委員会(ASBJ)は、2020年4月9日に開催された第429回の委員会において下記のような見解を示していた(同日の議事概要より抜粋)。

追加情報 : 利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項がある場合に行う注記のこと

最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられる

5月11日に開催された第432回委員会でも再び新型コロナウイルス感染症の影響に関する「一定の仮定」がテーマとなったが、「重要性がある場合」に企業に求められる対応について明らかなトーンの変化が見られる。具体的には下記の部分だ・・・

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2020/05/14 有報作成に影響も ASBJが「コロナ収束時期の仮定」の開示を強く要請(会員限定)

本日(2020年5月14日)にも新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言の一部解除が見込まれる中、上場企業は、会計上の見積りに関する情報開示の充実を求められることになりそうだ。

会計上の見積り: 繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと

現行の開示ルールでは、会計上の見積りに用いた仮定に「重要性」がある場合には、「追加情報」として開示が求められることになっている(2020年4月10日のニュース『コロナ影響下の会計上の見積りにおける「一定の仮定」と開示』参照)。コロナ禍におけるこのルールの運用について企業会計基準委員会(ASBJ)は、2020年4月9日に開催された第429回委員会において下記のような見解を示していた(同日の議事概要より抜粋)。

追加情報 : 利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項がある場合に行う注記のこと

最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられる

5月11日に開催された第432回委員会でも再び新型コロナウイルス感染症の影響に関する「一定の仮定」がテーマとなったが、「重要性がある場合」に企業に求められる対応について明らかなトーンの変化が見られる。具体的には下記の部分だ(同日の議事概要より抜粋)。

当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる

ASBJの言い回しを比較すると、4月9日の議事概要では、「重要性がある場合」に企業に求められる対応として、「追加情報としての開示が求められるものと考えられる」とされていたところ、5月11日の議事概要ではこれが「開示を行うことが強く望まれる」に変更されており、一定の仮定に関する最初の議事概要が公表されてから1か月を経て、要請の度合いが強まっている。

ASBJが追加情報開示の要請を強めた背景には、「これまでに公表された 2020年3月期の開示情報を踏まえると、新型コロナウイルス感染症の影響が大きいと考えられる業種においても、今後の法定開示書類において追加情報の開示が十分に行われないのではないか」(上記5月11日の議事概要より引用)との意見がASBJに寄せられたということがある。要するに、新型コロナウイルス感染症の影響が大きいと考えられる業種においても決算短信での開示()が不十分と思われる企業が多かったとの指摘にASBJが危機感を抱き、有価証券報告書の作成作業が本格化する前に上場企業に対して釘を刺しておこうということだろう。

 もともと決算短信の添付資料では連結財務諸表の注記事項としての「追加情報」の開示は求められてはいないが、今般のコロナ禍を受け、証券取引所は上場企業に対し、業績予想の開示にあたり前提条件や業績修正の理由の記載を充実することを求めている(東京証券取引所の「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」を参照)。

ASBJの意向を受け、今後は監査法人も有価証券報告書の連結財務諸表注記における「追加情報」の開示の充実を企業に迫ってくることが予想される。ホテル、飲食、旅行、航空、鉄道、バス、タクシー、自動車メーカー、スポーツジム、レジャー産業、チケットサービス、アパレルなど新型コロナウイルス感染症の影響が大きいと考えられる業種に属する企業やそれらの企業との取引依存度が高い企業は、追加情報の開示の要否や追加情報を開示する場合の内容について、いま一度検討しておくべきだろう。