解答者:TMI総合法律事務所 本木 啓三郎 弁護士
「リモートワーク」とは?
リモートワークとは、情報通信技術の活用により、所属するオフィスに縛られずに仕事を行う勤務形態をいい、具体的には、①自宅で勤務する形態(在宅勤務)、②自宅・職場以外の場所で勤務する形態(サテライトオフィス勤務)、③移動中や顧客先など不特定の場所で勤務する形態(モバイルワーク)などがあります。
リモートワーク(特に在宅勤務)には、①今般の新型コロナウイルス禍のような非常事態や災害が発生した場合でも事業を継続しやすいというメリットがあるほか、②育児・介護の要請等による離職防止、③遠隔地の優秀な人材の雇用、④オフィス費用・通勤費等の経費削減、といったメリットが指摘されています。また、テレワークを「新規で導入」あるいは「継続して活用」する事業主であることなど一定の支給要件を満たした場合には、「働き方改革推進支援助成金(テレワーク)」の支給を受けることも可能です(「新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース」はこちら)。
他方で、リモートワークには、労働時間の管理や秘密情報の保持などにおける法的課題も指摘されているため、本稿では、リモートワークを実施する際に留意すべき法的問題点を整理して解説します。
導入時における留意点
(1) リモートワークの対象範囲を限定してよいか
<ポイント>
リモートワークの対象範囲の限定は原則として任意に行うことが可能ですが、雇用形態単位で限定する場合には慎重な検討が必要です。
<解説>
リモートワークの対象範囲は、原則として、使用者が任意に定めることが可能です。業務によってはリモートワークに馴染まないものもあるからです。例えば、物理的な作業を要する業務(製造業務、紙媒体を扱う業務等)や対面が前提となる業務(販売業務等)については、直ちにリモートワークの対象とすることは困難であると考えられます。
このように業務単位・部署単位でリモートワークの対象範囲を限定することは問題ありませんが、雇用形態単位で限定することには注意が必要です。これは、2020年4月1日に改正されたいわゆるパート有期法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)により、短時間・有期雇用労働者の待遇について、通常の労働者(正社員等)との間で不合理と認められる差異を設けてはならないとされたためです(同法8条)。したがって、リモートワークの対象範囲を正社員に限定する場合には、そのような限定(待遇上の差異)の合理性が認められるのかについて慎重な検討が必要となります。
また、当然のことながら、差別的取扱いや不利益取扱いが禁止されている「国籍・信条・社会的身分・性別」等により対象範囲を限定することも控える必要があります(労働基準法3条、男女雇用機会均等法6条等)。
(2) リモートワークを導入する場合の手続は?
<ポイント>
通常の企業においては、原則としてリモートワークの導入にあたって必須となる手続はありませんが、リモートワーク特有のルールを定めた規則を制定しておくことが望ましいと考えられます。
<解説>
a 従業員からの同意取得の要否
雇用契約書(労働条件通知書)では、従業員の「就業場所」を定めることが義務付けられています(労働基準法施行規則5条3項、同1項1号の3)。当該就業場所について、雇用契約上の指揮命令権に基づき、使用者が当然にその変更を命じることができるかについては学説上争いがありますが、多くの企業では、就業規則において、従業員に就業場所の変更(配置転換)を命じることができる旨の条項を設けており、少なくともこのような条項が存在する場合には、使用者は原則として配置転換を命じることが可能です。
この点に関し、配置転換命令(配転命令)については、従業員に通常受忍し得る限度を超える不利益を生じさせる場合には、権利の濫用として無効になるものと解されていますが(労働契約法3条5項参照)、とりわけ新型コロナウイルスへの感染防止のため外出抑制の必要性が高い現状においては、自宅などオフィス外での勤務が極めて困難な事情を抱えている従業員を除いては、原則として一方的にリモートワークを指示することも可能であると考えられます。
以上のとおり従業員からの同意取得は必須ではありませんが、上記のような事情(オフィス外での勤務が極めて困難な事情)の存否の確認を兼ねて従業員から同意を取得する方が望ましいことは間違いありません。また、就業場所を限定する合意(転勤しない合意)をしている従業員については、個別に同意を取得することが必要となります。
b 労使協定(三六協定 等)の再締結の要否
労働基準法等に基づき締結する労使協定(三六協定等)は、「事業場」ごとにその労働者代表との間で締結する必要があるところ、リモートワークに移行した場合には、従業員の就業場所がオフィスではなくなるため、各従業員の就業場所ごとに労使協定を締結する必要があるようにも思えます。
三六協定 : 「時間外労働・休日労働に関する労使協定」のこと。労働基準法第36条に基づく協定であるため「三六協定」と通称される。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
もっとも、「事業場」とは、原則として場所的観念によって決定すべきではあるものの、場所的に分散していても、「規模が著しく小さく、組織的関連ないし事務能力等を勘案して一の事業という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱う」ものと解されています(昭和22年9月13日発基17号)。
したがって、「一の事業という程度の独立性がない」在宅勤務などであれば、従業員ごとに就業場所が異なっていても、就業場所ごとに労使協定を再締結することは不要であり、各従業員が所属するオフィスにおける既存の労使協定を適用することが可能であると考えられます。
c その他の手続の要否
a、bで解説したとおり、就業規則において配置転換を命じることができる旨の条項が設けられている場合には、原則として、その他にリモートワークの導入にあたって必須となる手続はありません。
もっとも、後述するように、労働時間の管理や情報セキュリティ、費用負担などに関してリモートワーク特有の問題点も存在するため、リモートワークに関する規則を制定していない場合には、これを定めておくことが望ましいでしょう。
また、労働組合との間で労働協約 (労働組合法14条)を締結している場合には、労働協約において組合員の労働条件の変更や配置転換等に関する手続を定めているケースもありますので、自社の労働協約の内容を確認しておく必要があります。
労働協約 : 賃金、労働時間などの労働条件や、団体交渉、組合活動などの労使関係のルールについて、労働組合と使用者が書面で取り交わした約束事(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
(3) 一時的・試験的な措置としてリモートワークを導入する場合の手続きは?
<ポイント>
一時的・試験的な措置としてリモートワークを導入する場合には、あらかじめその旨を従業員に明確に説明しておくとともに、リモートワークに関する規則を定め、その旨を明記しておく必要があります。
<解説>
企業によっては、リモートワークを「恒久的な制度」としてではなく、あくまで今般の新型コロナウイルスの感染拡大や政府の緊急事態宣言を受けた「一時的な措置」として導入する(している)ところも少なくないと思われます。また、リモートワークの実効性等を検証するという観点から試験的に導入するケースもあり得ます。このような場合には、あらかじめリモートワーク制度の「終了」を視野に入れた対応を行っておく必要があります。
というのも、従業員の判断によりリモートワークを選択できる制度を導入した場合、これを一方的に中止することは「労働条件の不利益変更」に該当するからです(労働契約法10条参照)。また、会社の判断によりリモートワークを命じた場合であっても、リモートワークを解除すること(再びオフィス勤務を命じること)については、前述((2)aの二段落目参照)した配転命令の権利濫用の問題が生じます。
そのため、一時的・試験的な措置としてリモートワークを導入する場合には、各従業員に対してあらかじめその旨及び対象期間を明確に説明しておくこと必要があります。また、リモートワークに関する規則を新たに作成する場合には、当該規則の附則等において、一時的な措置である旨及び対象期間を明記しておくことが重要です。
このように一時的な措置であることがあらかじめ明示されている場合には、対象期間満了に伴ってリモートワークが終了したとしても、直ちに労働条件の不利益変更等に該当することにはならないと考えられます。
運用時における留意点
(1) 労働時間の管理はどのように行うべきか
<ポイント>
リモートワークの場合であっても、オフィスワークの場合と同様に、原則として労働時間を把握・算定する必要があります。リモートワークの場合、勤務状況の確認に困難が伴いますが、ツールの活用やルールの整備により、適正な把握が可能となります。
<解説>
a 労働時間の把握算定に関する一般的な規律
企業(使用者)は、一部の従業員を除き、全ての従業員の労働時間を把握・算定する義務を負っており(労働基準法108条、労働安全衛生法66条の8の3)、リモートワークの対象となる従業員についても労働時間を把握・算定する必要があります。
そして、労働時間の把握・算定は、原則として使用者の現認によるか、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎とするべきであり、自己申告等による場合には、①対象となる従業員に対しては労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことについて、管理者に対しては、適正な申告の運用等について十分な説明を行うこと、②自己申告により把握した時間と入退場記録・端末の使用時間等から把握した時間の間の乖離状況等について、必要に応じ実態調査及び所要の補正を行うこと、③適正な自己申告を阻害する措置(労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等)を設けないこと、などが求められています(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」5ページ~参照)。
b リモートワーク特有の問題点
オフィスワークと異なり、リモートワークの場合には、管理者が勤務状況を現認することができないため、記録どおりに勤務を開始・終了しているか、勤務時間中に離席・私用外出等(いわゆる中抜け)を行っていないかの確認には困難が伴うという問題点があります。
とはいえ、勤務状況を適正に把握することは、前述した「従業員の労働時間の把握・算定」という義務を履践するという観点のみならず、従業員の適正な評価を行うという観点からも重要となります。具体的には、以下のような措置を講じることが、適正な勤務状況を把握する上で有益です。
| 措置 |
具体例 |
備考 |
| ツールの活用
|
勤怠管理システム |
始終業時刻が(手入力でなく、例えばパソコンを起動・シャットダウンした際に)自動で打刻される勤怠管理システムを活用することにより、始終業時刻の不実申告を抑止することが期待できます。 |
| 在席管理ツール |
一定時間端末の反応がない場合に通知するツールや、端末画面の共有・監視を行うツールを活用することにより、無許可の中抜けを抑止することが期待できます。 |
| スケジュール管理ツール |
業務スケジュール等を共有するとともに、別途業務報告等も行わせることにより、就業状況を確認することが期待できます。 |
| Web会議システム |
映像及び音声が同時的かつ双方向で共有されることにより、就業状況を確認することが期待できます。 |
| ルールの整備
|
始終業時等の報告 |
始終業時や業務中断時におけるメール・電話による報告を徹底することで、始終業時刻を正確に把握することが期待できます。 |
| 常時対応義務 |
業務時間中のメールやチャット、電話等に常時対応するように指示することで、就業状況を確認することが期待できます。 |
| 残業承認制 |
時間外労働・休日労働を行う場合の手続を明確化しておくことで、無秩序な時間外労働等を抑止することが期待できます。 |
c 事業場外労働に関するみなし労働時間制の適用の可否
リモートワークを行う場合、事業場外で勤務することになるため、事業場外労働に関するみなし労働時間制(労働基準法38条の2、以下「事業場外みなし労働時間制」)を適用することも考えられます。もっとも、事業場外みなし労働時間制を適用するためには「労働時間を算定し難い」ことが要件となるため、リモートワークにおいては、以下の要件を満たす必要があると解されています(平成20年7月28日基発0728002号 等)。
事業場外労働に関するみなし労働時間制 : 労働者が事業場外で業務(の全部又は一部)に従事するため、使用者の指揮監督が及ばず、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことを認める制度。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
① 情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
② 業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
しかしながら、オフィスワークをリモートワークに切り替える場合には、少なくともこれまでの部署・チームで業務を遂行する運用から具体的な業務上の指示を行わない運用に改めること(②の要件を満たすこと)は困難を伴うものと考えられます。また、従業員の長時間労働を抑制して健康を確保する観点からも、できる限り労働時間を把握する方向で検討することが望ましいでしょう。
(2) 情報流出を防ぐためにどのような措置を講じるべきか
<ポイント>
リモートワークへの移行に際し、企業の最大の懸念の一つがこの情報流出でしょう。
情報セキュリティを確保するためには、①技術的観点・②組織的観点・③人的観点からそれぞれ対策を講じる必要がありますが、法的には、リモートワークの運用ルール及び秘密保持に関する規則を整備することに加え、従業員から誓約書を取得することが重要となります。
また、これらの措置を講じるにあたっては、従業員のプライバシーへの配慮も求められます。
<解説>
a 情報セキュリティにおける基本的な考え方
リモートワークを行う場合には、企業が管理するオフィスの外でノートパソコン等の端末が使用されることになる上、インターネット上でデータがやり取りされる(できる)ことになります。そのため、第三者による情報の窃取(マルウェアへの感染、端末の紛失・盗難、不正アクセス等)や従業員自身による情報の漏洩(データのメール添付、記録媒体への保存・持出し、印刷した上での持出し等)などにより、企業の重要な情報が流出するリスクが格段に高まります。
マルウェア : ユーザーのデバイスに不利益をもたらす悪意のあるプログラムやソフトウェアを総称。英語のマリシャス(malicious=悪意のある)とソフトウェアの2つの単語による造語である。マルウェアの一つであるスパイウェアは、気付かないうちにPCにインストールされ、ユーザーの個人情報やアクセス履歴などを収集するものであり、リモートワークでは特に対策が必要になる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
このようなリスクを避けるためには、以下の観点からそれぞれ対策を講じる必要があります。
| 観点 |
具体的な対策例 |
| ①技術的観点 |
・フィルタリングなどによる外部サイトへのアクセス制限・ウイルス対策ソフトのインストール・未承認のアプリケーション等のインストールの制限
・VPN・暗号化などによる通信回線のセキュリティの確保
・ノートパソコンの紛失・盗難時におけるリモート操作によるデータ消去機能の確保又はシンクライアント(データ処理・格納等をサーバ側に集中する方法)の導入
・従業員による端末や電子メール利用のモニタリング
・電子メールの添付ファイルの暗号化処理
・社内システム・データベースへのアクセス制限(利用者認証の設定)
・外部記録媒体・印刷機能の使用制限 |
| ②組織的観点 |
・管理責任者の選任・管理責任者による利用状況の監督
・リモートワークに関するセキュリティポリシー(対策基準・実施内容)の策定
・事故発生時における報告・連絡・相談体制の整備
・貸与端末等の台帳管理
・端末等のパスワードの定期変更の義務付け |
| ③人的観点 |
・定期的な研修その他の教育
・リモートワークに関する規則の整備や、従業員からの秘密保持等に関する誓約書の取得 |
フィルタリング : ソフトウェア等によりウェブサイトを一定の基準により評価し、情報配信を許可するか遮断するかを判断する機能のこと。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
VPN : Virtual Private Networkの略で、「仮想専用線」と訳される。インターネットというパブリックなネットワーク上に「仮想的な専用線」を設けることにより、セキュリティ上の安全な経路を使ってデータをやり取りすることができる仕組み。これにより、データの盗難や改ざんといった脅威から情報を守ることができる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
以下では、これらのうち特に法的に留意すべき点を中心に解説します。
b リモートワーク・秘密保持等に関する規則・誓約書に盛り込むべき事項
従業員は、雇用契約上の付随義務として秘密保持義務を負うものと解されており、また、多くの企業では、就業規則において、一般的な秘密保持義務に関する規定を設けています。そのため、仮に従業員自身による情報の漏洩行為が明確に確認されれば、当該義務違反について従業員の責任(懲戒処分や債務不履行に基づく損害賠償責任等)を追及することが可能です。
もっとも、情報漏洩により生じた損害の全部を従業員に負担させることは法的にも従業員の資力的にも困難なケースが多いこと、データが一旦流出するとその回収は極めて困難であること、そもそも漏洩行為そのものが明確に確認(立証)できるケースは限られていることからすれば、事後的な対処では不十分であり、事前予防措置を十分に講じておくことが肝要です。
その観点からは、就業規則や誓約書においては、一般的な秘密保持義務を規定するだけでは足りず、①上表で挙げた技術的・組織的な措置を遵守すべき旨や、②指定された場所(自宅等)以外の場所における就業の禁止、③システム上保護された端末以外の媒体(紙資料、USBメモリ等の記録媒体など)による情報のオフィス外への持出しの禁止といった規律を定めておくことが望ましいといえます。
c 従業員のプライバシーへの配慮
上表で挙げた技術的措置のように、従業員が使用する端末や電子メールの内容をモニタリングすることや、端末のGPS機能等を用いて所在地を把握することは、情報セキュリティの観点からは有益である一方、従業員の私的なやり取りや行動履歴まで監視の対象となり得るため、従業員のプライバシー権(私生活上の事柄をみだりに公開されない権利又は利益)の侵害という問題が生じるおそれがあります。
この点に関し、部下が社内ネットワークシステムを用いて送受信していたメールを上司が本人に秘して監視した行為の適法性が争われた事件で裁判所は、社内ネットワークを利用する以上プライバシー保護の範囲は限定される旨を指摘しつつも、監視の目的・手段・態様等と従業員側の不利益を比較衡量して、社会通念上相当な範囲を逸脱した場合には、プライバシー権侵害に基づく損害賠償の対象になると判示しています。具体的には、職務上監視すべき責任者以外の者が監視した場合や、必要性がないのに好奇心で監視した場合などが例示されています(東京地判平成13年12月3日労判826号76頁)。
以上からすれば、会社が所有・管理する端末・システムであるからといって無制限に監視することは控えるべきであり、監視する範囲(所在地確認は就業時間中に限定する等)や監視担当者を限定し、情報セキュリティ確保の観点から必要最小限の範囲で監視を行うべきといえます。また、上記の事件では、監視を行うこと自体が本人に告知されていなかったことから紛争に発展しましたが、従業員の端末等を監視することがある旨をあらかじめ規則等において明示しておくことにより、紛争の発生や損害賠償責任を問われるリスクを抑止することが期待できます。
(3) リモートワークにより生じる費用はどのように負担すべきか
<ポイント>
リモートワークにより生じる費用の一部を従業員に負担させることも可能ですが、その場合には費用負担の範囲や限度額等を就業規則において定めることが必要となります。
<解説>
オフィスワークの場合と異なり、リモートワークの場合には、一定の費用(通信費、光熱費、情報通信機器費用等)を従業員が一次的に支出しなければならないケースが生じます。
これらの費用の一部を従業員に負担させることは直ちに認められないものではなく、また、現実的にも業務と私用の区分が困難な費用(通信費、光熱費等)については従業員に負担させざるを得ないケースも多いと思われますが、従業員に負担させる場合には、費用負担の範囲及び限度額、精算方法等について就業規則で定めておく必要があります(労働基準法89条5号)。
また、新たに従業員に負担を求める場合には、労働条件の不利益変更(労働契約法10条)に該当し得ますので、不利益変更の有効性が争われるといった事態にならないようにするためには、上記の内容について、労使間で協議した上で、適切に定めておくことが望ましいといえます。特に、企業の判断で一方的にリモートワークを行わせる場合には、従業員の負担を軽減するために、一定の補填(手当の支給)を行うことも検討に値するものと考えられます。
雇用契約上も、従業員は就業場所において労務を提供する義務を負うのみであり、従事業務に要する費用を負担する義務を当然に負うものではないため、就業規則において特段定めを設けない限り、上記の費用は企業側が負担することになるものと考えられます。
(4) リモートワークを命じた場合、通勤手当は支給しなくてもよいか
<ポイント>
リモートワークを行う場合の通勤手当の支給の要否は、就業規則等における支給条件・金額の定め方によって異なります。
<解説>
(3)で解説した通信費や光熱費等の費用と異なり、通勤費(通勤手当)は、従業員が就業場所において労務を提供するために必要となる費用であり、労務提供の義務を負う従業員が負担することが原則となります。もっとも、一般的には、企業・従業員双方に税務上のメリットが存在することから、就業規則又は雇用契約において、一定の範囲内で通勤手当を支給する旨の定めを設けている企業が多くなっています。
このように、通勤手当は必ずしも実費支給が原則とはいえず、企業(使用者)は、就業規則等において支給条件及び金額が定められている場合にのみ、その範囲内で通勤手当を支給する義務を負うことになりますので、リモートワークを命じた場合における通勤手当の支給の要否は、専ら就業規則等における定め方によって判断されることになります。
たとえば、「通勤に要する実費を支給する」という定めであれば、リモートワークにより通勤費用が発生していない限り通勤手当の支給は不要と考えられますが、「一律に1か月分の定期券代相当額を支給する」という定めであれば、支給条件を満たす限り通勤手当を支給する必要があるものと考えられます。
以上のとおり、オフィスワークとリモートワークでは労働条件が異なることも想定されるため、費用負担と併せて、リモートワークを実施する場合の待遇を就業規則等で定めておくことが望ましいでしょう。
(5) 安全衛生の確保はどのように行うべきか
<解説>
従業員が事務作業に従事する事務所については、事務所衛生基準規則に定める容積・照度・換気・温湿度等に関する基準を満たす必要があります(労働安全衛生法27条1項、事務所衛生基準規則)。また、情報機器作業を行わせるにあたっては、厚生労働省が策定した「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日基発0712第3号)に定める情報機器・関連什器・作業時間等に関する基準を満たすことが望ましいものとされています。
これらの基準については、自宅を就業場所とする場合であっても同様に適用されるものと考えられますので、リモートワークを行う従業員には、当該基準を満たす環境を整えるように指示することが望ましいものと考えられます。
なお、各基準の詳細については事務所衛生基準規則及び上記ガイドラインをご参照ください。