2020/05/13 【役員会 Good&Bad発言集】取締役会のコロナ対応

新型コロナウイルスの感染者数増加に伴う緊急事態宣言を受け、東証一部上場企業のA社の取締役会では、定時株主総会でのコロナ対応について議論が紛糾中です(2020年4月の【役員会 Good&Bad発言集】株主総会のコロナ対応 を参照)。株主総会だけでなく取締役会もコロナ対応をしたほうがいいのではないかと提案した取締役の発言をきっかけとする下記の3人の発言のうち、誰の発言がWithコロナの観点からGood発言でしょうか?

Withコロナの観点 : ここでは、新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言の発令に伴う自粛により、日常の行動や経済活動の在り方が大きく変わり、緊急事態宣言終了後も新型コロナウイルスと共生せざるを得ない環境の中で、従来とは異なる新しい価値観やビジネススタイルが普及してきていること指している。

取締役A:「取締役会は株主総会とは違い、顔と顔を突き合わせての議論が重要となるので、電話やWEBによる会議にはなじまない。」

社外取締役B:「昨年の株主総会では、社外取締役の取締役会出席率が低いことが問題視されました。電話会議システムを活用することで、コロナ対応だけでなく、社外取締役の出席率を上げることも可能になります。WEB会議システムを使えば、資料の画面共有やレコーディングも可能です。コロナが収束するまでは、WEB会議システムの利用をぜひとも原則化していただきたい。」

総務担当取締役C:「毎月の定時取締役会の閉会後に、社外取締役から先月の取締役会議事録への押印をいただいています。取締役会をWEB会議システムで開催するとなると、社外取締役の押印をどうするかという問題が生じます。取引先との契約にあたっては電子契約に切り替える先が増えてきたのですが、取締役会議事録となるとさすがに印鑑をもらわないわけにはいきません。」

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2020/05/13 ISS、継続会を選択した企業に対し「棄権」推奨

野村総合研究所
上級研究員 三井千絵

グローバルにサービスを展開する議決権行使助言会社最大手のISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は5月11日、2020年6月1日以降に開催される株主総会を対象にした「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」を公表した。これは、新型コロナウイルス感染症の「2020年版 日本向け議決権行使助言基準」への影響を示したものだが、紙幅の大部分を使って「継続会」を開催した企業への対応が示されている。

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

まずISSは、・・・

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2020/05/13 ISS、継続会を選択した企業に対し「棄権」推奨(会員限定)

野村総合研究所
上級研究員 三井千絵


グローバルにサービスを展開する議決権行使助言会社最大手のISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は5月11日、2020年6月1日以降に開催される株主総会を対象にした「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」を公表した。これは、新型コロナウイルス感染症の「2020年版 日本向け議決権行使助言基準」への影響を示したものだが、紙幅の大部分を使って「継続会」を開催した企業への対応が示されている。

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

まずISSは、決算業務や会計監査人、監査役、監査等委員会、監査委員会の監査業務に遅延が生じ、決算業務や監査業務が期限に間に合わない一部の3月決算企業に対し、規制当局は、「定時株主総会の7月以降への延期と継続会の2つの選択肢を用意した」と総括している。その上でISSは、企業が継続会の開催を選択した場合、「連結計算書類、計算書類、監査報告書に基づき議決権を行使することができない」ことを問題視、「定時株主総会は、事業報告、連結計算書類、計算書類や監査報告書を株主に提供した上で開催するのが本来のあり方」であると述べている。そして「企業が継続会を選択した場合、株主はそれが意味することを注意深く考慮する必要がある」とし、各議案について株主にどのような行動を推奨するかを示している。

ISSは配当(剰余金処分)議案、役員報酬議案、監査人選任議案のいずれについても「棄権」を推奨している。配当議案については、監査が未了で計算書類を確認できない段階で配当議案が決議される場合、結果的に決議された配当が過大であるリスクが懸念されるとし、棄権を推奨するとしている。また、監査人選任議案については、「監査が完了せず監査報告書が提供されない場合、株主は会計監査人の交代の是非を判断することは困難」であることから棄権、報酬議案についても「報酬枠の増加が業績連動報酬の導入や増加を目的としていることが明らかでない」などには棄権を推奨している。

一方、役員選任議案については、継続会を選ぶ会社は監査が完了しないことから、事業報告書も提供されないことが考えられるため、もし役員の独立性を評価する十分な情報がなければ、過去の開示書類に基づきISSで判断する旨の考えを示した上で、過去の開示書類から取得できない今年の取締役会の出席情報が招集通知で提供されない場合は反対を推奨するとしている。

このようにISSは全ての議案について継続会の問題点を指摘しているが、「棄権は『議決権の不行使』とは異なり、行使票は定足数に含められ、また賛成率の計算の分母にも一般には含まれる」旨指摘しているように(6ページ参照)、「反対」ではなく「棄権」という方法を推奨したことは、このような前代未聞の事態の中で株主総会を迎える企業への配慮とも言えそうだ。

定足数 : 決議が有効なものとなるために最低限必要な出席議決権数のこと。この定足数要件を満たさない決議は無効となる。例えば株主総会の普通決議は「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」のが原則とされる。ただし、多くの上場会社は、「“出席した”議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う」といった規定を定款に設けており、極端な例では、株主総会に出席したのが議決権を1個有する株主1人のみでも株主総会決議は成立することになる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

このほかISSは、全ての企業に対しROE基準の適用を猶予する方針を示している。具体的には、ISSが通常用いている「ROEが5%以下を下回りかつ改善が見られない場合は、経営トップである取締役の選任議案に反対する」という基準の適用を、現在の状況下では「ROEが企業の資本生産性の指標として機能しているとは必ずしもいえない」として、一時的に停止するとしている。

ROE基準 : 資本生産性が低く(過去5 期平均の自己資本利益率[ROE]が5%を下回り)かつ改善傾向(過去5 期の平均ROE が5%未満でも、直近の会計年度のROE が5%以上ある場合)にない場合、経営トップ(社長、会長)である取締役の選任議案に反対を推奨するとする基準。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

ISSは今回のリリースの最後の部分の「企業の株式事務担当者の皆様へのお願い」の中で、継続会を選択する企業に対して、「招集通知に事業報告が添付されない場合、株主総会後の取締役会・監査役会の構成を株主が正しく把握することが通常より難しくなる」とした上で、「招集通知に参考情報として株主総会終了後の取締役会・監査役会の構成を掲載すること」も求めている。

今年の定時株主総会をどのような形で開催するか、企業にとって決断までに残された時間は少ないが、検討にあたっては、今回のISSのリリースの内容を十分に考慮にする必要があるだろう。

2020/05/13 【役員会 Good&Bad発言集】取締役会のコロナ対応(会員限定)

<解説>
紙文化、判子文化を脱却する絶好の機会

企業は、新型コロナウイルス感染症拡大を受け、さまざまな改革(以下、コロナ対応)に迫られました。営業はZOOM等のWEB会議システムで商談を進め、人事部も同様にWEB会議システムで採用面談を行うようになりました。多くの企業でテレワークが導入され、朝礼や飲み会までZOOMで行われるようになりました。当然、3密状態が予想される株主総会もコロナ対応一色となりました(2020年5月25日のニュース『経産省 事実上、株主総会「欠席」を要請』や2020年5月21日のニュース『株主総会招集通知 「来ないで」鮮明』。コロナ対応が必要になるのは取締役会も同様です。取締役会の構成員の平均年齢は社内の会議体の中でもっとも高いことから、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化する確率が高い者が多い会議体であるとも言えます。取締役会が新型コロナウイルスのクラスターになった場合、経営陣が一斉に就業不能となってしまうだけでなく、報道等を通じて企業のレピュテーションリスクに大きな影響を与える可能性があります。

取締役会といえども、特別なコロナ対応があるわけではなく、通常の会議体と同様、「三密」を防ぐための仕組み(室内の換気の徹底、座席の間隔の確保など)や感染防止を防ぐための措置(体温測定、事前の手洗いやマスクの装着義務化など)を導入することとなります。

①取締役会の資料配布方法
取締役会の資料を紙で配布する場合、資料作成時に紙にウイルスが付着したり、配布する際に接触が生じたりして、感染が起きる可能性もゼロではありません。取締役会の資料は事前にデータで送付しておき、各自が必要な分だけプリントアウトするようにしましょう。役員にタブレットを貸与し、タブレット上で資料を閲覧するようにすれば、紙の出力をなくすことができます。こういった動きが社内に広がればエコロジカルな施策として、SDGsにつながると言えます。

②陪席者数の削減
取締役会には執行役員や総務部長・経理部長・人事部長などの管理職も陪席者としての参加が認められる場合があります。現場の生の声を伝えるという意味では陪席者の参加にも意味があるのですが、不要不急でない限り陪席者は人数を最低限にとどめる方がよいと言えます。

③開催時間の短縮
取締役会での報告事項・決議事項は可能な限り文書化を進めておいて、役員には事前に目を通しておいてもらい、取締役会では事前に目を通しておいたことを前提とした質疑応答を行えば、取締役会の開催時間を短縮することが可能になります。事前の資料共有により、取締役会ではより深度のある議論が可能になるというメリットもあります。

④取締役会のWEB会議化
取締役会の参加者には、電話またはWEB会議システムによる参加を広く認めるようにすべきです。とくに社外役員や遠隔地の工場長を兼務している取締役は、原則としてWEB会議システムによる参加とすることで、移動の負担や交通費の負担を減らすことができるとともに、移動時間をより生産的な時間に充てることが可能になります。社内役員であっても同じ部屋に集まる必然性はなく、違う部屋からWEB会議システムに参加すれば、3密回避に役立ちます。また、WEB会議システムで画面を共有することでたくさんある資料のうちどこが議論の対象になっているかが一目瞭然となりますし、レコーディング機能を使えば、動画データは議事録起こしのデータとしての利用が可能になるだけでなく、非取締役の執行役員に議論の内容を共有することもできますし、将来の取締役候補者に取締役会の進め方を知ってもらうことも可能になります。

⑤書面決議
取締役会の決議事項について、実際に会合を開くのではなく、書面で回付して決議を得る方法(書面決議制度)を導入すれば、取締役会の開催頻度を減らすことが可能になります。

書面決議制度 : 実際に取締役会を開催しなくても、書面やメール等により取締役全員が議案に同意することで、取締役会での決議がなされたことになる制度(会社法370条)

⑥取締役会決議事項を絞る
取締役が取締役会での決議事項が多いと考えている企業では、取締役会規程や職務権限規程を改正し、取締役会決議を必要とするレベルを、「重要な業務執行」に該当しない範囲で引き上げる(たとえば借り入れにあたり取締役会決議が必要な金額基準を「1億円以上」としていた企業で、規程を変更し「10億円以上」に引き上げる)ことで、取締役会の頻度や開催時間を削減することが可能になります(「重要な業務執行」については、ケーススタディ「【取締役会等の運営】取締役会に諮りたい案件が出てきた」の『取締役への委任が許されない「重要な業務執行」』を参照)。その際、情報の共有範囲の縮小に伴うガバナンスの低下を防ぐため、それまで取締役会決議が必要とされていた事項については報告事項に切り替えるべきです。

⑦電子署名
取締役会の議事録は、いまだに紙で作成し、出席者の判子を押印している会社が大半の状況です。すなわち、取締役会事務局や総務部長等が議事録案をワードで作成し、メール等で出席者に配布して、コメントや加筆訂正をしてもらい、最終的に全員が合意した内容で印刷して綴じ込み、全員の判子をもらうというのが、一般的な流れとなっています。この流れでは、常に社内にいるわけではない社外取締役から、来社の都度、取締役会の議事録に判子をもらう必要が生じます。判子を持参してもらう手間を防ぐには、レターパック等で原本を回付するという解決策もあるのですが、これを機に取締役会議事録を電磁的記録をもって作成し、電子署名を導入するのも一案です(2020年6月10日のニュース「取締役会議事録への電子署名普及に向け立ちはだかる壁」を参照)。

こういった施策を実施することで、新型コロナウイルス感染症の感染防止対策になるだけでなく、紙文化や判子文化から脱却する良い機会になり、テレワークの推進に資すると言えます。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

社外取締役B:「昨年の株主総会では、社外取締役の取締役会出席率が低いことが問題視されました。電話会議システムを活用することで、コロナ対応だけでなく、社外取締役の出席率を上げることも可能になります。WEB会議システムを使えば、資料の画面共有やレコーディングも可能です。コロナが収束するまでは、WEB会議システムの利用をぜひとも原則化していただきたい。」
コメント:取締役会に電話会議システムやWEB会議システムといった遠隔会議システムを導入することによる恩恵にもっともあずかるのは、普段は社内にいない社外役員です。社外役員は会議時間と同じくらい(場合によってはそれ以上)を取締役会の出席のための移動時間に費やすことになるため、ざっくりと半日は拘束されることになります。そのため、会議の時間は空いていても移動時間も含めると前後の予定と調整することができずに、やむなく取締役会に欠席せざるを得ないという状況が生じることもありました。コロナ以前であっても、そういった場合には遠隔会議システムで対応するケースは多々見受けられましたが、社外取締役側としては遠隔会議システムの利用を申請しにくい雰囲気がある会社も少なくないのが実態でした。Withコロナにおいては取締役会において遠隔会議システムを積極的に利用することで、社外取締役の出席率が向上することが期待されます。「昨年の株主総会では、社外取締役の取締役会出席率が低いことが問題視された」のであればなおさら出席率向上の施策は必須となります。また、WEB会議システムの「資料の画面共有やレコーディング機能」といったメリットの指摘もGoodです。

BAD発言はこちら
取締役A:
「取締役会は株主総会とは違い、顔と顔を突き合わせての議論が重要となるので、電話やWEBによる会議にはなじまない。」
コメント:電話やWEBを用いた遠隔会議システムを取締役会に導入する場合、そのシステムを通じて相互の音声が明瞭に聞き取ることができることが前提になります。そうであればお互いの音声は確実に聞き取ることができ、議論ができないことにはなりません。ただ、電話会議ではお互いの表情が読み取れないという欠点があるのは事実です。そこで、PCのビデオカメラを利用したWEB会議システムを用いることで、互いの表情をそれぞれが読み取りながら会議を進めることが可能になります。コロナ以前は「顔と顔を突き合わせる」ということに価値が見出されていましたが、Withコロナ時代においては「顔と顔を突き合わせる」ことと「コロナへの感染リスク」をはかりにかける必要が生じるようになったと言えます。取締役Aの発言はコロナ以前の価値観による発言と言え、Badです。
総務担当取締役C:
「毎月の定時取締役会の閉会後に、社外取締役から先月の取締役会議事録への押印をいただいています。取締役会をWEB会議システムで開催するとなると、社外取締役の押印をどうするかという問題が生じます。取引先との契約にあたっては電子契約に切り替える先が増えてきたのですが、取締役会議事録となるとさすがに印鑑をもらわないわけにはいきません。」
コメント:取締役会議事録でも電子署名を導入することは可能です。電子署名の導入により、「取締役会議事録を回付して全員の判子をもらう」という実務から解放されます。「さすがに印鑑をもらわないわけにはいかない」という理由は判子に重きを置くコロナ以前の価値判断に基づくものであり、Withコロナ時代においてはBad発言と言わざるを得ません。

2020/05/12 決算・監査期間を約2週間確保、計算書類全てのWEB開示を時限的に容認

コロナ禍により企業の決算作業・監査手続きに遅れが生じている中、政府は本日5月12日、会社法施行規則および会社計算規則(以下、省令)の一部を改正し、WEB開示の対象となる事業報告及び計算書類の範囲を拡大することを決定した。具体的には、・・・

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2020/05/12 決算・監査期間を約2週間確保、計算書類全てのWEB開示を時限的に容認(会員限定)

コロナ禍により企業の決算作業・監査手続きに遅れが生じている中、政府は本日5月12日、会社法施行規則および会社計算規則(以下、省令)の一部を改正し、WEB開示の対象となる事業報告および計算書類の範囲を拡大することを決定した。具体的には、(1)事業報告の記載事項のうち「当該事業年度における事業の経過及びその成果」(会社法施行規則120条1項4号)および「対処すべき課題」(同項8号)、(2)貸借対照表および損益計算書が、WEB開示の対象とされる。今回の改正はあくまで「時限措置」であり、今週末を予定する()本省令改正の施行日から「6か月以内」に招集手続を開始する株主総会に提出する事業報告および計算書類が対象となる。経済財政諮問会議でも、民間議員から計算書類を全てWEB開示する案が浮上しており(2020年4月23日のニュース「大手監査法人でついにコロナ感染者 計算書類のウェブ開示案も浮上」参照)、本改正はこの提言を受けた格好となる。

WEB開示 : 株主総会参考書類、事業報告、計算書類関係書類の一部を、WEBで一定期間(株主総会招集通知を発出時から、株主総会の日から3か月が経過する日までの間)開示することで、書面・電磁的方法による株主への提供を不要とする制度。

 その後の追加取材により、「2020年5月15日(金)」が施行日として確定したことが判明している。

現行会社法上、連結・単体の計算書類のうち「個別注記表」「株主資本等変動計算書」「連結計算書類」はWEB開示の対象とされているが(現行会社法上、WEB開示の対象となる事項・対象とならない事項は、法務省の資料の2ページ参照)、個別計算書類(注記表以外のB/S、P/L、株主資本等変動計算書)は対象外とされている。今般の改正は“時限措置”とはいえ、株主総会に提出する「全ての計算書類」および「事業報告の上記2点」のWEB開示が可能とされることになる。

株主総会招集通知の送付とともに書面により計算書類等を株主の手元に届けるためには、印刷・封入・送付作業に概ね2週間程度の期間を要する。今回、計算書類等全体がWEB開示の対象となったことで、計算書類等の印刷・封入・送付に要していた2週間程度を会社法決算・監査の期間に充てることが可能となった(今般の改正を経てもなお、招集通知の印刷・封入・送付は必要である)。

コロナ禍で決算・監査スケジュールが遅れている企業は、本改正を踏まえ、株主総会を含めた会社法決算・監査スケジュールを再検討するべきだろう。

ただし、WEB開示の対象となるのは、貸借対照表および損益計算書に表示すべき事項については、会計監査報告に無限定適正意見が付されていることなどの一定の条件を満たす場合のみとなる。

無限定適正意見 : 財務諸表は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従っていると認められる場合に監査法人が示す意見のこと。

なお、WEB開示を行うためには定款の定めが必要になるが、既にWEB開示を行っている企業は定款変更手続きは不要である。

2020/05/11 【2020年5月の課題】の変更のお知らせ

会員の皆様にとって定時株主総会への対応が喫緊の課題となっていることを踏まえ、当初掲載を予定しておりました【2020年5月の課題】を「リモートワーク導入に伴い検討すべき点(法的問題以外)と対処法」から「2002年12月決算企業に学ぶ6月株主総会」に変更させていただきます。「リモートワーク導入に伴い検討すべき点(法的問題以外)と対処法」は【2020年6月の課題】とさせていただく予定です。

2020/05/11 決算発表の現状とコロナ禍における各社の株主総会対応の検討状況

コロナ禍により企業の決算作業・監査手続きが遅延している。この現状を踏まえ東証は、適時開示上の決算や四半期決算を「事業年度の末日から45日以内などの期間にとらわれず」確定次第公表すれば足りるとする「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」を示し、これを受け多くの上場企業が決算発表を延期している。東証の集計によると、4月30日時点で260社程度が45日を超えて決算発表・四半期決算発表を行うとし、決算発表日を未定としている企業も160社にのぼる。決算発表日を未定とした企業の中には、日立製作所や東芝といった大手企業も多数含まれている。コロナ禍での決算発表の延期は今や資本市場では「当然のこと」として受け止められている。したがって、経営陣は必要があれば躊躇なく決算の延期を決断すべきであり、それが投資家等から問題視されることもない。

こうした決算作業・監査手続きの遅延を受け開示府令が改正され、金商法上の有価証券報告書・四半期報告書の提出期限が最大3か月間(3月決算企業の場合)延期されたところだ(金融庁「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」参照)。具体的には、3月期決算企業については「2020年3月期の有価証券報告書」と「2021年3月期第1四半期の四半期報告書」の提出期限が2020年9月30日まで延長され、12月決算企業については「2020年12月期の第1・第2四半期の四半期報告書」の提出期限が2020年9月30日まで延長されることになった(2020年4月13日のニュース「続報 有報の提出期限さらに延期へ、株主総会延期では「継続会」活用論浮上」参照)。

適時開示と金商法開示について上述のような取扱いがなされる一方、定時株主総会開催のあり方についても、関係省庁等の間で様々な検討が行われている。本稿ではこれらを整理しつつ、各社の検討状況をお伝えする。・・・

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2020/05/11 決算発表の現状とコロナ禍における各社の株主総会対応の検討状況(会員限定)

コロナ禍により企業の決算作業・監査手続きが遅延している。この現状を踏まえ東証は、適時開示上の決算や四半期決算を「事業年度の末日から45日以内などの期間にとらわれず」確定次第公表すれば足りるとする「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」を示し、これを受け多くの上場企業が決算発表を延期している。東証の集計によると、4月30日時点で260社程度が45日を超えて決算発表・四半期決算発表を行うとし、決算発表日を未定としている企業も160社にのぼる。決算発表日を未定とした企業の中には、日立製作所や東芝といった大手企業も多数含まれている。コロナ禍での決算発表の延期は今や資本市場では「当然のこと」として受け止められている。したがって、経営陣は必要があれば躊躇なく決算の延期を決断すべきであり、それが投資家等から問題視されることもない。

こうした決算作業・監査手続きの遅延を受け開示府令が改正され、金商法上の有価証券報告書・四半期報告書の提出期限が最大3か月間(3月決算企業の場合)延期されたところだ(金融庁「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」参照)。具体的には、3月期決算企業については「2020年3月期の有価証券報告書」と「2021年3月期第1四半期の四半期報告書」の提出期限が2020年9月30日まで延長され、12月決算企業については「2020年12月期の第1・第2四半期の四半期報告書」の提出期限が2020年9月30日まで延長されることになった(2020年4月13日のニュース「続報 有報の提出期限さらに延期へ、株主総会延期では「継続会」活用論浮上」参照)。

適時開示と金商法開示について上述のような取扱いがなされる一方、定時株主総会開催のあり方についても、関係省庁等の間で様々な検討が行われている。本稿ではこれらを整理しつつ、各社の検討状況をお伝えする。

株主総会対応の基本的な方向性
定時株主総会を巡る最大の論点は、「6月中下旬の株主総会スケジュールを一律に延期すべきか」どうかという点だ。日本公認会計士協会は、監査期間の確保のため、株主総会のスケジュールを後ろ倒しにすべきと主張しているが(日本公認会計士協会「第4回新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会での日本公認会計士協会説明資料」参照)、企業側は、各社によって決算作業・監査手続の進捗状況が異なることから、個社ごとに株主総会スケジュールを検討したいと考えている。

こうした中、経済産業大臣からは、「企業決算・監査及び株主総会の対応について」と題する談話が示された(「経済産業大臣談話(企業決算・監査及び株主総会への対応について)」参照)。この談話では、企業に対し「企業の決算や株主総会運営の業務に携わる方々の健康や安全にも十分配慮を頂く必要がある」「企業においては、6月末に開催されることが予定されている株主総会につき、その延期や継続会の開催も含め、例年とは異なるスケジュールや方法とすることをご検討いただきたい」との要望が示されている。つまり、政府は企業に対して、株主総会の一律の延期を求めているのではなく、関係者の健康や安全を確保するという大前提の下で、各社ごとにコロナ禍の株主総会対応(スケジュールや方法)を検討するよう求めているということだ。

そして、政府等から示されたコロナ禍における株主総会対応の選択肢は以下のとおりである。各社においては、決算作業・監査手続の進捗状況を踏まえ、自社の対応を検討する必要がある。

株主総会対応の選択肢
(1)基準日の変更

基準日を変更するケースについては、法務省が指針を示している(法務省「定時株主総会の開催について」参照)。会社法上、基準日における株主が行使することができる権利は、当該基準日から3か月以内に行使するものに限られる(会社法124条2項)。そして、定款で議決権行使の基準日や配当基準日を定めている場合、それを変更するには、新たに設定された基準日の2週間前までに公告を行うことで足りるとされている(会社法124条3項)。したがって、議決権行使や配当の基準日を「3月31日」と定めている企業は、公告を行うことで、基準日を3月31日より後の日程に変更することができるとともに、通常であれば基準日から3か月以内に開催される株主総会の日程も遅らせることができる。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

ただし、ここでネックになるのが、(議決権行使よりも)配当の基準日の変更だ。機関投資家は、基準日が3月31日に設定されている企業の株式を保有する場合、その予想配当額を未収収益(未収配当金)として計上するのが常であり、新たに設定された基準日前に株式を売却していれば配当金が得られなくなるという事態が生じる。したがって、多くの企業が、配当基準日を変更することはできるだけ避けたいと考えている。
 
東証の調査(4月30日時点)によると、基準日の変更を決定した企業は9社あるが、同時に配当基準日も変更した企業は3社にとどまる。残りの6社は取締役会で配当決議を行う企業か(取締役会による配当の決議については、2020年4月21日のニュース「配当基準日は変えずに議決権基準日を後倒しして総会を延期する企業が出現」参照)、今期は無配を予定している企業である。逆に言うと、取締役会で配当決議を行う企業や無配を予定している企業は、(議決権行使の)基準日変更により株主総会を延期する手法を比較的採用しやすいということだ。

(2)継続会
継続会(会社法317条)を開催する手法については、金融庁・法務省・経済産業省が指針を公表しているが(金融庁・法務省・経済産業省「継続会(会社法317条)について」参照)、同指針はコロナ禍の株主総会実務に相当配慮するとともに、かなり踏み込んだ内容となっている。

継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。

同指針は要するに、当初予定していた通りの日程(以下、当初日程)で株主総会を開催して役員の選任などを行い、継続会で計算書類等の報告を行うことを提案するもの。当初日程から継続会までの期間は「3か月を超えない」ことが目安とされており、計算書類等の確定まで相当の猶予期間を得ることができる。しかも、継続会の開催日時・場所が決定していない場合、これら事項の決定は議長に一任できるとされている。
 
また、当初日程で株主総会を開催する場合の役員の選任などにおいては、確定した計算書類等がなくても、既に報告されている四半期報告等を活用し、株主に対して必要な説明を行うことで問題ないとされた。さらに特筆すべき点として、当初日程での配当決議は「2019年3月期」の確定した計算書類に基づいて算出された分配可能額の範囲で行うことができることが示された。

東証の調査(4月30日時点)によると、継続会の開催を検討している企業は85社に上るとされる。配当を行う予定ことを予定しており、かつ、取締役会に剰余金の配当を授権することを定款で定めていないため上記(1)の基準日を変更する方法を採用しづらい企業が積極的に継続会の開催を検討している模様だ。

授権 : 「配当の決定権限」といった権限を株主総会から取締役会に委譲すること

企業からは「継続会は物理的に2度株主総会を開催する必要があり、採用がしづらい」との声も聞かれるが、下記(3)でも述べるとおり、今期の株主総会は、例えば会社の会議室で原則的に株主の入場を遠慮してもらう形で開催することも可能との見解が示されるなど、継続会を開催するハードルは相当程度低くなっている。計算書類等の確定までに時間を要する企業は継続会の開催を視野に入れるべきだろう。

(3)株主総会の実務対応
上記(1)(2)では、株主総会を延期・延長する際の取扱いを示したが、これに加え、株主総会実務を所掌する役員が必ず目を通しておかなければならないのが、経済産業省・法務省から公表されているコロナ禍の「株主総会運営に関するQ&A」だ。

同Q&Aでは、例えば「自社会議室を活用するなど、例年より規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも可能」「設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能」「株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられる」など、株主総会開催のハードルを下げることにつながる見解が具体例とともに示されている。

また、こうした政府の見解をベースに、経団連はコロナ禍の株主総会招集通知のモデルを公表した(経団連「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデルのお知らせ」参照)。具体的には、事前の議決権行使を促しつつ株主総会への株主の来場を一定程度制限する場合の招集通知モデル(モデルA)と、原則として株主の来場を遠慮してもらう場合の招集通知モデル(モデルB)が示されている。各社の意向に沿ったモデルを積極的に活用したいところだ。

2020/05/09 【2020年4月の課題】リモートワークの法的問題点(会員限定)

解答者:TMI総合法律事務所 本木 啓三郎 弁護士

「リモートワーク」とは?

リモートワークとは、情報通信技術の活用により、所属するオフィスに縛られずに仕事を行う勤務形態をいい、具体的には、①自宅で勤務する形態(在宅勤務)、②自宅・職場以外の場所で勤務する形態(サテライトオフィス勤務)、③移動中や顧客先など不特定の場所で勤務する形態(モバイルワーク)などがあります。

リモートワーク(特に在宅勤務)には、①今般の新型コロナウイルス禍のような非常事態や災害が発生した場合でも事業を継続しやすいというメリットがあるほか、②育児・介護の要請等による離職防止、③遠隔地の優秀な人材の雇用、④オフィス費用・通勤費等の経費削減、といったメリットが指摘されています。また、テレワークを「新規で導入」あるいは「継続して活用」する事業主であることなど一定の支給要件を満たした場合には、「働き方改革推進支援助成金(テレワーク)」の支給を受けることも可能です(「新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース」はこちら)。

他方で、リモートワークには、労働時間の管理や秘密情報の保持などにおける法的課題も指摘されているため、本稿では、リモートワークを実施する際に留意すべき法的問題点を整理して解説します。

導入時における留意点

(1) リモートワークの対象範囲を限定してよいか

<ポイント>
リモートワークの対象範囲の限定は原則として任意に行うことが可能ですが、雇用形態単位で限定する場合には慎重な検討が必要です。

<解説>
リモートワークの対象範囲は、原則として、使用者が任意に定めることが可能です。業務によってはリモートワークに馴染まないものもあるからです。例えば、物理的な作業を要する業務(製造業務、紙媒体を扱う業務等)や対面が前提となる業務(販売業務等)については、直ちにリモートワークの対象とすることは困難であると考えられます。

このように業務単位・部署単位でリモートワークの対象範囲を限定することは問題ありませんが、雇用形態単位で限定することには注意が必要です。これは、2020年4月1日に改正されたいわゆるパート有期法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)により、短時間・有期雇用労働者の待遇について、通常の労働者(正社員等)との間で不合理と認められる差異を設けてはならないとされたためです(同法8条)。したがって、リモートワークの対象範囲を正社員に限定する場合には、そのような限定(待遇上の差異)の合理性が認められるのかについて慎重な検討が必要となります。

また、当然のことながら、差別的取扱いや不利益取扱いが禁止されている「国籍・信条・社会的身分・性別」等により対象範囲を限定することも控える必要があります(労働基準法3条、男女雇用機会均等法6条等)。

(2) リモートワークを導入する場合の手続は?

<ポイント>
通常の企業においては、原則としてリモートワークの導入にあたって必須となる手続はありませんが、リモートワーク特有のルールを定めた規則を制定しておくことが望ましいと考えられます。

<解説>
a 従業員からの同意取得の要否

雇用契約書(労働条件通知書)では、従業員の「就業場所」を定めることが義務付けられています(労働基準法施行規則5条3項、同1項1号の3)。当該就業場所について、雇用契約上の指揮命令権に基づき、使用者が当然にその変更を命じることができるかについては学説上争いがありますが、多くの企業では、就業規則において、従業員に就業場所の変更(配置転換)を命じることができる旨の条項を設けており、少なくともこのような条項が存在する場合には、使用者は原則として配置転換を命じることが可能です。

この点に関し、配置転換命令(配転命令)については、従業員に通常受忍し得る限度を超える不利益を生じさせる場合には、権利の濫用として無効になるものと解されていますが(労働契約法3条5項参照)、とりわけ新型コロナウイルスへの感染防止のため外出抑制の必要性が高い現状においては、自宅などオフィス外での勤務が極めて困難な事情を抱えている従業員を除いては、原則として一方的にリモートワークを指示することも可能であると考えられます。

以上のとおり従業員からの同意取得は必須ではありませんが、上記のような事情(オフィス外での勤務が極めて困難な事情)の存否の確認を兼ねて従業員から同意を取得する方が望ましいことは間違いありません。また、就業場所を限定する合意(転勤しない合意)をしている従業員については、個別に同意を取得することが必要となります。

b 労使協定(三六協定 等)の再締結の要否
労働基準法等に基づき締結する労使協定(三六協定等)は、「事業場」ごとにその労働者代表との間で締結する必要があるところ、リモートワークに移行した場合には、従業員の就業場所がオフィスではなくなるため、各従業員の就業場所ごとに労使協定を締結する必要があるようにも思えます。

三六協定 : 「時間外労働・休日労働に関する労使協定」のこと。労働基準法第36条に基づく協定であるため「三六協定」と通称される。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

もっとも、「事業場」とは、原則として場所的観念によって決定すべきではあるものの、場所的に分散していても、「規模が著しく小さく、組織的関連ないし事務能力等を勘案して一の事業という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱う」ものと解されています(昭和22年9月13日発基17号)。

したがって、「一の事業という程度の独立性がない」在宅勤務などであれば、従業員ごとに就業場所が異なっていても、就業場所ごとに労使協定を再締結することは不要であり、各従業員が所属するオフィスにおける既存の労使協定を適用することが可能であると考えられます。

c その他の手続の要否
a、bで解説したとおり、就業規則において配置転換を命じることができる旨の条項が設けられている場合には、原則として、その他にリモートワークの導入にあたって必須となる手続はありません。

もっとも、後述するように、労働時間の管理や情報セキュリティ、費用負担などに関してリモートワーク特有の問題点も存在するため、リモートワークに関する規則を制定していない場合には、これを定めておくことが望ましいでしょう。

また、労働組合との間で労働協約 (労働組合法14条)を締結している場合には、労働協約において組合員の労働条件の変更や配置転換等に関する手続を定めているケースもありますので、自社の労働協約の内容を確認しておく必要があります。

労働協約 : 賃金、労働時間などの労働条件や、団体交渉、組合活動などの労使関係のルールについて、労働組合と使用者が書面で取り交わした約束事(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

(3) 一時的・試験的な措置としてリモートワークを導入する場合の手続きは?

<ポイント>
一時的・試験的な措置としてリモートワークを導入する場合には、あらかじめその旨を従業員に明確に説明しておくとともに、リモートワークに関する規則を定め、その旨を明記しておく必要があります。

<解説>
企業によっては、リモートワークを「恒久的な制度」としてではなく、あくまで今般の新型コロナウイルスの感染拡大や政府の緊急事態宣言を受けた「一時的な措置」として導入する(している)ところも少なくないと思われます。また、リモートワークの実効性等を検証するという観点から試験的に導入するケースもあり得ます。このような場合には、あらかじめリモートワーク制度の「終了」を視野に入れた対応を行っておく必要があります。

というのも、従業員の判断によりリモートワークを選択できる制度を導入した場合、これを一方的に中止することは「労働条件の不利益変更」に該当するからです(労働契約法10条参照)。また、会社の判断によりリモートワークを命じた場合であっても、リモートワークを解除すること(再びオフィス勤務を命じること)については、前述((2)aの二段落目参照)した配転命令の権利濫用の問題が生じます。

そのため、一時的・試験的な措置としてリモートワークを導入する場合には、各従業員に対してあらかじめその旨及び対象期間を明確に説明しておくこと必要があります。また、リモートワークに関する規則を新たに作成する場合には、当該規則の附則等において、一時的な措置である旨及び対象期間を明記しておくことが重要です。

このように一時的な措置であることがあらかじめ明示されている場合には、対象期間満了に伴ってリモートワークが終了したとしても、直ちに労働条件の不利益変更等に該当することにはならないと考えられます。

運用時における留意点

(1) 労働時間の管理はどのように行うべきか

<ポイント>
リモートワークの場合であっても、オフィスワークの場合と同様に、原則として労働時間を把握・算定する必要があります。リモートワークの場合、勤務状況の確認に困難が伴いますが、ツールの活用やルールの整備により、適正な把握が可能となります。

<解説>
a 労働時間の把握算定に関する一般的な規律

企業(使用者)は、一部の従業員を除き、全ての従業員の労働時間を把握・算定する義務を負っており(労働基準法108条、労働安全衛生法66条の8の3)、リモートワークの対象となる従業員についても労働時間を把握・算定する必要があります。

そして、労働時間の把握・算定は、原則として使用者の現認によるか、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎とするべきであり、自己申告等による場合には、①対象となる従業員に対しては労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことについて、管理者に対しては、適正な申告の運用等について十分な説明を行うこと、②自己申告により把握した時間と入退場記録・端末の使用時間等から把握した時間の間の乖離状況等について、必要に応じ実態調査及び所要の補正を行うこと、③適正な自己申告を阻害する措置(労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等)を設けないこと、などが求められています(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」5ページ~参照)。

b リモートワーク特有の問題点
オフィスワークと異なり、リモートワークの場合には、管理者が勤務状況を現認することができないため、記録どおりに勤務を開始・終了しているか、勤務時間中に離席・私用外出等(いわゆる中抜け)を行っていないかの確認には困難が伴うという問題点があります。

とはいえ、勤務状況を適正に把握することは、前述した「従業員の労働時間の把握・算定」という義務を履践するという観点のみならず、従業員の適正な評価を行うという観点からも重要となります。具体的には、以下のような措置を講じることが、適正な勤務状況を把握する上で有益です。

措置 具体例 備考
ツールの活用 勤怠管理システム 始終業時刻が(手入力でなく、例えばパソコンを起動・シャットダウンした際に)自動で打刻される勤怠管理システムを活用することにより、始終業時刻の不実申告を抑止することが期待できます。
在席管理ツール 一定時間端末の反応がない場合に通知するツールや、端末画面の共有・監視を行うツールを活用することにより、無許可の中抜けを抑止することが期待できます。
スケジュール管理ツール 業務スケジュール等を共有するとともに、別途業務報告等も行わせることにより、就業状況を確認することが期待できます。
Web会議システム 映像及び音声が同時的かつ双方向で共有されることにより、就業状況を確認することが期待できます。
ルールの整備 始終業時等の報告 始終業時や業務中断時におけるメール・電話による報告を徹底することで、始終業時刻を正確に把握することが期待できます。
常時対応義務 業務時間中のメールやチャット、電話等に常時対応するように指示することで、就業状況を確認することが期待できます。
残業承認制 時間外労働・休日労働を行う場合の手続を明確化しておくことで、無秩序な時間外労働等を抑止することが期待できます。

c 事業場外労働に関するみなし労働時間制の適用の可否
リモートワークを行う場合、事業場外で勤務することになるため、事業場外労働に関するみなし労働時間制(労働基準法38条の2、以下「事業場外みなし労働時間制」)を適用することも考えられます。もっとも、事業場外みなし労働時間制を適用するためには「労働時間を算定し難い」ことが要件となるため、リモートワークにおいては、以下の要件を満たす必要があると解されています(平成20年7月28日基発0728002号 等)。

事業場外労働に関するみなし労働時間制 : 労働者が事業場外で業務(の全部又は一部)に従事するため、使用者の指揮監督が及ばず、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことを認める制度。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

① 情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
② 業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

しかしながら、オフィスワークをリモートワークに切り替える場合には、少なくともこれまでの部署・チームで業務を遂行する運用から具体的な業務上の指示を行わない運用に改めること(②の要件を満たすこと)は困難を伴うものと考えられます。また、従業員の長時間労働を抑制して健康を確保する観点からも、できる限り労働時間を把握する方向で検討することが望ましいでしょう。

(2) 情報流出を防ぐためにどのような措置を講じるべきか

<ポイント>
リモートワークへの移行に際し、企業の最大の懸念の一つがこの情報流出でしょう。
情報セキュリティを確保するためには、①技術的観点・②組織的観点・③人的観点からそれぞれ対策を講じる必要がありますが、法的には、リモートワークの運用ルール及び秘密保持に関する規則を整備することに加え、従業員から誓約書を取得することが重要となります。
また、これらの措置を講じるにあたっては、従業員のプライバシーへの配慮も求められます。

<解説>
a 情報セキュリティにおける基本的な考え方

リモートワークを行う場合には、企業が管理するオフィスの外でノートパソコン等の端末が使用されることになる上、インターネット上でデータがやり取りされる(できる)ことになります。そのため、第三者による情報の窃取(マルウェアへの感染、端末の紛失・盗難、不正アクセス等)や従業員自身による情報の漏洩(データのメール添付、記録媒体への保存・持出し、印刷した上での持出し等)などにより、企業の重要な情報が流出するリスクが格段に高まります。

マルウェア : ユーザーのデバイスに不利益をもたらす悪意のあるプログラムやソフトウェアを総称。英語のマリシャス(malicious=悪意のある)とソフトウェアの2つの単語による造語である。マルウェアの一つであるスパイウェアは、気付かないうちにPCにインストールされ、ユーザーの個人情報やアクセス履歴などを収集するものであり、リモートワークでは特に対策が必要になる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

このようなリスクを避けるためには、以下の観点からそれぞれ対策を講じる必要があります。

観点 具体的な対策例
①技術的観点 フィルタリングなどによる外部サイトへのアクセス制限・ウイルス対策ソフトのインストール・未承認のアプリケーション等のインストールの制限
VPN・暗号化などによる通信回線のセキュリティの確保
・ノートパソコンの紛失・盗難時におけるリモート操作によるデータ消去機能の確保又はシンクライアント(データ処理・格納等をサーバ側に集中する方法)の導入
・従業員による端末や電子メール利用のモニタリング
・電子メールの添付ファイルの暗号化処理
・社内システム・データベースへのアクセス制限(利用者認証の設定)
・外部記録媒体・印刷機能の使用制限
②組織的観点 ・管理責任者の選任・管理責任者による利用状況の監督
・リモートワークに関するセキュリティポリシー(対策基準・実施内容)の策定
・事故発生時における報告・連絡・相談体制の整備
・貸与端末等の台帳管理
・端末等のパスワードの定期変更の義務付け
③人的観点 ・定期的な研修その他の教育
・リモートワークに関する規則の整備や、従業員からの秘密保持等に関する誓約書の取得

フィルタリング : ソフトウェア等によりウェブサイトを一定の基準により評価し、情報配信を許可するか遮断するかを判断する機能のこと。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
VPN : Virtual Private Networkの略で、「仮想専用線」と訳される。インターネットというパブリックなネットワーク上に「仮想的な専用線」を設けることにより、セキュリティ上の安全な経路を使ってデータをやり取りすることができる仕組み。これにより、データの盗難や改ざんといった脅威から情報を守ることができる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

以下では、これらのうち特に法的に留意すべき点を中心に解説します。

b リモートワーク・秘密保持等に関する規則・誓約書に盛り込むべき事項
従業員は、雇用契約上の付随義務として秘密保持義務を負うものと解されており、また、多くの企業では、就業規則において、一般的な秘密保持義務に関する規定を設けています。そのため、仮に従業員自身による情報の漏洩行為が明確に確認されれば、当該義務違反について従業員の責任(懲戒処分や債務不履行に基づく損害賠償責任等)を追及することが可能です。

もっとも、情報漏洩により生じた損害の全部を従業員に負担させることは法的にも従業員の資力的にも困難なケースが多いこと、データが一旦流出するとその回収は極めて困難であること、そもそも漏洩行為そのものが明確に確認(立証)できるケースは限られていることからすれば、事後的な対処では不十分であり、事前予防措置を十分に講じておくことが肝要です。

その観点からは、就業規則や誓約書においては、一般的な秘密保持義務を規定するだけでは足りず、①上表で挙げた技術的・組織的な措置を遵守すべき旨や、②指定された場所(自宅等)以外の場所における就業の禁止、③システム上保護された端末以外の媒体(紙資料、USBメモリ等の記録媒体など)による情報のオフィス外への持出しの禁止といった規律を定めておくことが望ましいといえます。

c 従業員のプライバシーへの配慮
上表で挙げた技術的措置のように、従業員が使用する端末や電子メールの内容をモニタリングすることや、端末のGPS機能等を用いて所在地を把握することは、情報セキュリティの観点からは有益である一方、従業員の私的なやり取りや行動履歴まで監視の対象となり得るため、従業員のプライバシー権(私生活上の事柄をみだりに公開されない権利又は利益)の侵害という問題が生じるおそれがあります。

この点に関し、部下が社内ネットワークシステムを用いて送受信していたメールを上司が本人に秘して監視した行為の適法性が争われた事件で裁判所は、社内ネットワークを利用する以上プライバシー保護の範囲は限定される旨を指摘しつつも、監視の目的・手段・態様等と従業員側の不利益を比較衡量して、社会通念上相当な範囲を逸脱した場合には、プライバシー権侵害に基づく損害賠償の対象になると判示しています。具体的には、職務上監視すべき責任者以外の者が監視した場合や、必要性がないのに好奇心で監視した場合などが例示されています(東京地判平成13年12月3日労判826号76頁)。

以上からすれば、会社が所有・管理する端末・システムであるからといって無制限に監視することは控えるべきであり、監視する範囲(所在地確認は就業時間中に限定する等)や監視担当者を限定し、情報セキュリティ確保の観点から必要最小限の範囲で監視を行うべきといえます。また、上記の事件では、監視を行うこと自体が本人に告知されていなかったことから紛争に発展しましたが、従業員の端末等を監視することがある旨をあらかじめ規則等において明示しておくことにより、紛争の発生や損害賠償責任を問われるリスクを抑止することが期待できます。

(3) リモートワークにより生じる費用はどのように負担すべきか

<ポイント>
リモートワークにより生じる費用の一部を従業員に負担させることも可能ですが、その場合には費用負担の範囲や限度額等を就業規則において定めることが必要となります。

<解説>
オフィスワークの場合と異なり、リモートワークの場合には、一定の費用(通信費、光熱費、情報通信機器費用等)を従業員が一次的に支出しなければならないケースが生じます。

これらの費用の一部を従業員に負担させることは直ちに認められないものではなく、また、現実的にも業務と私用の区分が困難な費用(通信費、光熱費等)については従業員に負担させざるを得ないケースも多いと思われますが、従業員に負担させる場合には、費用負担の範囲及び限度額、精算方法等について就業規則で定めておく必要があります(労働基準法89条5号)。

また、新たに従業員に負担を求める場合には、労働条件の不利益変更(労働契約法10条)に該当し得ますので、不利益変更の有効性が争われるといった事態にならないようにするためには、上記の内容について、労使間で協議した上で、適切に定めておくことが望ましいといえます。特に、企業の判断で一方的にリモートワークを行わせる場合には、従業員の負担を軽減するために、一定の補填(手当の支給)を行うことも検討に値するものと考えられます。

雇用契約上も、従業員は就業場所において労務を提供する義務を負うのみであり、従事業務に要する費用を負担する義務を当然に負うものではないため、就業規則において特段定めを設けない限り、上記の費用は企業側が負担することになるものと考えられます。

(4) リモートワークを命じた場合、通勤手当は支給しなくてもよいか

<ポイント>
リモートワークを行う場合の通勤手当の支給の要否は、就業規則等における支給条件・金額の定め方によって異なります。

<解説>
(3)で解説した通信費や光熱費等の費用と異なり、通勤費(通勤手当)は、従業員が就業場所において労務を提供するために必要となる費用であり、労務提供の義務を負う従業員が負担することが原則となります。もっとも、一般的には、企業・従業員双方に税務上のメリットが存在することから、就業規則又は雇用契約において、一定の範囲内で通勤手当を支給する旨の定めを設けている企業が多くなっています。

このように、通勤手当は必ずしも実費支給が原則とはいえず、企業(使用者)は、就業規則等において支給条件及び金額が定められている場合にのみ、その範囲内で通勤手当を支給する義務を負うことになりますので、リモートワークを命じた場合における通勤手当の支給の要否は、専ら就業規則等における定め方によって判断されることになります。

たとえば、「通勤に要する実費を支給する」という定めであれば、リモートワークにより通勤費用が発生していない限り通勤手当の支給は不要と考えられますが、「一律に1か月分の定期券代相当額を支給する」という定めであれば、支給条件を満たす限り通勤手当を支給する必要があるものと考えられます。

以上のとおり、オフィスワークとリモートワークでは労働条件が異なることも想定されるため、費用負担と併せて、リモートワークを実施する場合の待遇を就業規則等で定めておくことが望ましいでしょう。

(5) 安全衛生の確保はどのように行うべきか

<ポイント>
リモートワークを行う従業員に対して、事務所衛生基準規則及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に定める基準を満たす作業環境を整えるように指示・周知することが望ましいものと考えられます。

<解説>
従業員が事務作業に従事する事務所については、事務所衛生基準規則に定める容積・照度・換気・温湿度等に関する基準を満たす必要があります(労働安全衛生法27条1項、事務所衛生基準規則)。また、情報機器作業を行わせるにあたっては、厚生労働省が策定した「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日基発0712第3号)に定める情報機器・関連什器・作業時間等に関する基準を満たすことが望ましいものとされています。

これらの基準については、自宅を就業場所とする場合であっても同様に適用されるものと考えられますので、リモートワークを行う従業員には、当該基準を満たす環境を整えるように指示することが望ましいものと考えられます。

なお、各基準の詳細については事務所衛生基準規則及び上記ガイドラインをご参照ください。