高い感染力を持つとされる新型コロナウイルスだが、3月決算会社の決算作業・会計監査手続きが本格化するこのタイミングで、ついに大手監査法人からも感染者が出た。
有限責任あずさ監査法人は(2020年)4月22日、東京事務所勤務の職員が新型コロナウイルスに感染していることを4月21日に確認した旨のリリースを公表した。リリースによると、感染した職員は、同法人の方針に従って、4月以降は1日(水)および13日(月)のクライアント訪問を除き、在宅勤務していたという。こうした注意を払っていたにもかかわらず14日(火)に発熱、自宅療養を経て20日(月)にPCR検査を受けた結果、陽性であることが確認された。これを受け同法人は、「感染者が発生したことを真摯に受け止め、今後とも引き続き、在宅勤務の徹底を含むさらなる感染防止に努める」との対応方針を打ち出している。
同法人の対応方針はもっともと言えるが、気になるのは監査業務への影響だ。政府内や経済界では、これを機に監査業務が滞ることを懸念する声が上がっている。
3月決算会社の有価証券報告書の提出期限は一律に3か月間延期されたが、定時株主の延期については、基準日を後ろにずらすことを避けたい上場会社が二の足を踏んでいることを踏まえ、金融庁に設置された「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」(以下、連絡協議会)からは、計算書類等の報告はなしで当初の予定日に定時株主総会を開催し、その後、計算書類等の報告のためのみの「継続会」を開催することなどが提案された(2020年4月13日のニュース『続報 有報の提出期限さらに延期へ、株主総会延期では「継続会」活用論浮上』、2020年4月14日のニュース「コロナ騒動で“ウルトラC” 監査未了のままの配当決議の留意点」参照)。また、2月決算のディップと3月決算の東芝が剰余金の「配当の基準日」は当初どおりとすることを取締役会で決議する一方、「議決権の基準日」は改めて定め、定時株主総会の開催日を延期している(2020年4月21日のニュース「配当基準日は変えずに議決権基準日を後倒しして総会を延期する企業が出現」参照)。
基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。
継続会 : 会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。
ただ、上記で引用したニュースでもお伝えしたとおり、“継続会方式”では、定時株主総会までに会計監査が完了していない状態で剰余金の配当を決議するというリスクを負わなければならず(仮に配当額が分配可能額を超えてしまった場合、取締役がその差額を補填する義務を負う)、“ディップ・東芝方式”は、定款により剰余金の配当を取締役会に授権している会社しか使えないという問題がある。
授権 : 「配当の決定権限」といった権限を株主総会から取締役会に委譲すること
そのため、3月決算会社の多くが予定どおりに定時株主総会を開催する方向で決算作業を進めているが、このタイミングで、ビッグ4の一角を占め、多くの監査クライアントを抱えるあずさ監査法人で感染者が出たことのインパクトは大きい。監査法人の在宅勤務強化により監査手続きに影響が出ることも否定はできないだろう。また、中小を含む他の監査法人でも感染者が出ることもあり得る。
こうした中、政府内では、計算書類のウェブ開示の可否が検討されている模様だ。現行会社法上、既に「個別計算書類の注記表」及び「連結計算書類(連結注記表含む)」はウェブ開示が認められている(ウェブ開示の対象となる事項・対象とならない事項は、法務省の資料の2ページ参照)ことからすると、今回検討されているのは、個別計算書類(注記表以外。「B/S、P/L、株主資本等変動計算書」を指している)のウェブ開示であると思われる。「株主総会の招集通知は、株主総会の日の2週間前までに株主に対して発送しなければならないこととされているため(会社法299条1項)、個別計算書類を株主総会招集通知と合わせて送る必要がなくなれば、決算作業・監査手続きの期間を2週間ほど余分に確保できる。
ただ、問題は法的な根拠だ。改正会社法では個別計算書類のウェブ開示も認められることになったが、改正会社法の施行は、改正会社法の公布の日である「2019年12月11日」から「1年6か月以内」とされる一方、株主総会資料の電子提供制度など“時間を要する”改正事項については、「2019年12月11日から3年6ヵ月以内に施行」される(2019年10月10日のニュース「改正会社法の施行はいつから?」参照)。施行日は今後公布される政令において定めるとことになっており、今のところ政令は公布されていないが、たとえ直ちに政令を公布して株主総会資料の電子提供制度に関する改正会社法を施行したとしても、施行日が「2019年12月11日から3年6ヵ月以内」に収まっている以上、違法ではない。
※その後の取材で、改正会社法の施行を早めることはないことが判明している。個別計算書類のウェブ開示が行われるとすれば、現行の法務省令の特例を緊急措置として手当することになる模様。ただし、現時点では特例が措置されるかどうかは確定していない。
本件については、4月24日(金)に開催される連絡協議会や27日(月)に開催される経済財政諮問会議で何らかの動きがある模様。両会議体のリリースが注目される。
なお、連絡協議会からは、継続会を開催する場合の株主総会周りのQ&A集が公表される見込み。具体的には、株主総会の手続きや剰余金の配当に関するQ&Aが盛り込まれるものとみられる。
