ジェイ・ユーラス・アイアール株式会社
マネージャー 水嶋 創
上場企業各社にとって株主総会後の大きな関心事となるのが、各議案に対する賛成率です。特に「低賛成率議案」には世間の注目が集まりやすいこともあり、役員や株主総会担当者の多くは、同業他社と比較して賛成率が高かったのか、あるいは低かったのかという点を気にかけているようです。
もっとも、一般的に会社提案議案に反対することが多いのは機関投資家であり、機関投資家による保有が多い企業ほど賛成率が低くなる傾向があります。したがって、議案の賛成率を他社と比較することは必ずしも有益であるとは言えません。むしろ重要なのは、「前年の自社の株主総会」と比較した賛成率の変化を見ることです。前年から株主構成に大きな変化がないにもかかわらず賛成率が相当程度下がった場合には、自社に対する株主の評価の低下を意味している可能性があります。例えば前年に比べて業績が悪化したということであれば原因も明確ですが、業績が変わらない場合、株主の求める水準が厳しくなったということもあり得るので注意が必要です。
本稿では、自社の株主総会における議案の賛成率を分析していただく一助となるよう、本年の株主総会で把握された低賛成率議案について、議案の種類ごとに低賛成率の背景等を分析します。併せてどのような株主提案の賛成率が高くなる傾向があるのかも紹介します。こちらは自社が株主提案の対象となった場合のリスクシナリオとしてご活用ください。
剰余金処分議案
(賛成率が低位となる主なケース)
・配当性向や総還元性向が低く、ROEも低い
・キャッシュリッチ企業であるにもかかわらず、配当性向/総還元性向が高水準でない
・計算書類の監査が未了である
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総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
一般的に剰余金処分議案の賛成率が低位となることは稀であり、90%を切ることも珍しいと言えます。低賛成率となる背景の一つが、海外機関投資家の行使判断に大きな影響を与える議決権行使助言会社ISSのスタンスです。ただ、同社の配当議案に関する基準は「配当性向が15%から100%の場合、通常は賛成を推奨する」という内容であり、日本企業がこれに抵触することはあまりありません。
国内機関投資家の求める水準はこれよりも高く、配当性向あるいは総還元性向「30%以上」が主流となっています。ただ、特に東証のPBR改善要請以降、各社とも株主還元の強化を進めており、この水準を下回るケースは少なくなっています。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
もっとも、自己資本比率が高く、多額の現預金等も保有するなど、いわゆるキャッシュリッチ企業に対しては、さらに高い還元水準が求められることがある点には注意が必要です。特にインフレが進行する中での現金保有に対しては、株主から厳しい目が向けられるケースが増えているようです。また、現金だけでなく政策保有を含む有価証券の保有額が大きい場合にも「キャッシュリッチ」とみなされることがあります。
なお、配当水準如何にかかわらず、計算書類の監査が未了という状況下での剰余金処分議案に対しては、国内外の機関投資家から多くの反対行使がなされています。本年も決算手続きの遅れにより株主総会で計算書類の内容報告ができない事態となった企業の剰余金処分議案への賛成率が、前年から大きく低下した事例が確認されています。
定款変更議案
(反対の多かった定款変更の内容)
・剰余金の配当等を取締役会決議により決定する旨の変更
・バーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする旨の定款変更
・取締役の員数(人数の上限)を変更する旨の定款変更 |
バーチャルオンリー型株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
機関投資家をはじめとする株主からの反対により賛成率が低位となった定款変更議案としては、剰余金の配当等の決議を株主総会で行っている企業がこれを取締役会で決議(取締役会に授権)できるようにする旨の定款変更や、バーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする旨の定款変更が挙げられます。両方ともISSが原則反対推奨のスタンスをとっていることもあり、主に海外機関投資家からの反対が多かったものと推測されます。
また、取締役の員数(人数の上限)の変更について株主から反対を受けるケースもあります。機関投資家は基本的にコンパクトな取締役会規模を望んでいます。こうした中、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行に伴い取締役の員数を「30名」とする旨の規程を含む定款変更議案の賛成率が93%に留まった事例などがあります。
一方、員数を13名から11名に減少させる定款変更の賛成率が83%という低位となった事例も確認されています。この事例では、株主総会後の取締役の人数が11名となる見込みであるところ、これと同数の員数とすることは株主による取締役の追加選任を妨げる可能性があるという点が問題視されたものと考えられます。
取締役選任議案
(想定される主な反対理由)
・業績基準(ROE)への抵触
・政策保有株式が過大である
・女性取締役が少ない
・社外取締役の独立性に疑義がある
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特定の大株主からの反対を受けた場合を除き、取締役選任議案の賛成率が低位となる要因として最も多いのは、業績基準への抵触であると考えられます。特にISSのROE基準(過去5期平均5%未満かつ直近5%未満)に抵触する場合には、多くの海外機関投資家から反対を受けることが想定されます。
一方、国内機関投資家は、ROE基準として「プライム市場上場企業の下位1/3」や「同一業種内の下位25%」といった相対的な基準を設定していることがあります。したがって、例えば業績が好調な業種に属する企業は、求められるROEのハードルが高くなることもあります。さらに、「ROE5%」など絶対的な基準を設定している機関投資家においても、徐々に基準の厳格化の傾向が見られることには注意が必要です。
政策保有株式については、純資産比でおおむね20%を目安として「過大」に当たるか否かが判断されている現状に大きな変化はないようです。ただし、「20%以上ではあるが、縮減が進捗しているため反対を控える」といった定性的な判断は厳しくなりつつあります。また、保有目的を政策保有から純投資に変更することにも厳しい目が向けられています。
ジェンダー基準については、女性取締役の選任が進んでいることもあり、女性取締役が少ないということが低賛成率の主要因になる事例はあまり見られなくなっています。ただし、従来「1名以上」であった基準を「10%以上」や「2名以上」に引き上げることを表明する機関投資家も出てきています。ジェンダー基準は、「2030年に30%以上」という政府の方針に沿って厳格化が進むことが見込まれます。
社外取締役の独立性の欠如を理由とした反対行使も全体的にはやや減少傾向にあるようです。ただし、社外取締役の独立性に対する機関投資家の判断基準は非常に似通っていることから、例えば在任期間が「12年」に達した場合には、多くの機関投資家から一斉に反対行使を受ける可能性がある点には注意が必要です。
株主提案
(賛成率が高くなることが多い株主提案の例)
・剰余金の配当等の決定機関の変更を求める提案
・取締役報酬の個別開示を求める提案
・顧問・相談役の廃止を求める議案
・取締役任期の短縮を求める提案 |
本年6月の株主総会で可決された株主提案議案としては、剰余金の配当や自己株式の取得の決定機関を取締役会と定めている企業に対し、株主総会でも決議可能とするよう求めたものが挙げられます。いわゆるアクティビストからの提案であったことや、特別決議となる定款変更議案であるにもかかわらず73%という高い賛成率で可決したことなどから大きな注目を集めました。同時に付議された自己株式の取得を求める株主提案は否決されており、企業の還元方針に対しては株主から一定の理解を得られた一方で、当該定款変更議案に対してはほとんどの機関投資家が賛成行使したものと推測されます。
特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。例えば定款変更、事業譲渡、株式の募集、取締役会の途中解任などにはこの特別決議が必要である。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
例年、取締役報酬の個別開示を求める提案に対しては機関投資家を中心に多くの賛成が集まり、賛成率が高くなる事例が確認されています。特に報酬委員会が設置されていない場合や委員会の独立性が不十分な場合に、賛成率が高くなる傾向があるようです。また、顧問・相談役の廃止を求める提案や取締役の任期を2年から1年に短縮するよう求める提案は、機関投資家を中心とした株主から賛成を集めることが多くなっています。
株主提案の内容は多岐にわたることから、事前の備えが難しいことは事実です。とはいえ、上記で挙げたような議案は、仮に提案された場合に賛成率が高くなり、株主構成によっては可決のおそれもあります。自社の株式がアクティビストによって一定程度保有されているというような場合には、これらを念頭に置きつつ、問題が発生してから対応するのではなく事前に対策を講じるプロアクティブな対応が求められます。