2020/04/10 コロナ影響下の会計上の見積りにおける「一定の仮定」と開示(会員限定)

財務諸表を作成するにあたっては様々な「見積り」が必要になる。繰延税金資産の回収可能性の判断(繰延税金資産については(新用語・難解用語)資産負債法 参照)、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りはその代表例と言える。新型コロナウイルスの感染拡大は経済・企業活動に広範な影響を与えており、また、今後の広がり方や終息時期を予測することは困難な状況にある。このため、会計上の見積り、特に将来損益や将来キャッシュ・フローを予測することも極めて困難となっている。

減損会計 : 固定資産について、将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ損失を計上すること。

こうした中、企業会計基準委員会(ASBJ)は(2020年)4月10日、会計上の見積りを行う上での留意点を公表した。留意すべきポイントは下記の2点。

留意点
(1) 「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある。
(2) 仮定の置き方
・外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合
→可能な限り用いることが望ましい。
・外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができない場合
→新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や終息時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる。

会計上の見積りを行ううえでの新型コロナウイルス感染症の影響については、参考になる前例がないことはもちろん、今後の広がり方や終息時期についても統一的な見解がないため、「外部の情報源に基づく客観性のある情報」を入手できないことが多いと考えられる。したがって、企業は自ら「一定の仮定」を置いて会計上の見積りを行わざるを得ない。

では、「一定の仮定」とは具体的にどのようなものだろうか。必須となるのが「終息次期」の仮定だ。例えば以下のような5つの仮定が考えられる。

①中国の武漢市の封鎖は約2か月半で解除されたことから、我が国も2020年の第1四半期末(3月末決算企業の場合、2020年6月末)までには終息する。
②高温多湿となる2020年度の第2四半期(3月末決算企業の場合)までには終息する。
③ワクチンが開発されるまで1年以上かかるとされていることから、少なくとも2020年度は現在の状況が続く。
④ワクチンが開発されていない現状を鑑みると2年くらいはこの状態が続く。
⑤5年程度はこの状態が続く。

仮に企業が②の仮定を採用した場合には、2020年度の国内売上を下表のように見積り、損益を予測することが考えられる。

  1Q 2Q 3Q 4Q 2021年度以降
売上高 前年同期の40% 前年同期の50% 前年同期の120% 前年同期の130% 当初計画通り

上表で、第3四半期、第4四半期が前年実績を上回っているのは、第1四半期、第2四半期の反動を見込んでいるため。また、第4四半期は、もともと比較される前年(2020年)の第4四半期の売上実績が新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいたことも考慮している。企業は、前年同期比をどのような考えに基づき導き出したかについて、当然ながら会計監査人に説明する必要がある。

直近の売上が減少していたとしても、商流の変更や、別の商品を開発する等、新型コロナウイルスの感染が終息していない状況下でも売上回復が見込まれるものがあれば、その内容を見積りに含めることが考えられる。また、営業費用の見積りにあたっては、新型コロナ感染症への対応コストを含める必要があろう。

企業が最善を尽くして見積った金額について、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「一定の仮定」が明らかに不合理である場合を除き、「誤謬」にはあたらない(よって事後的に有価証券報告書や四半期報告書の訂正が必要になることはない)。ただし、会計上の見積りは四半期ごとにアップデートする必要があるため、状況の変化に伴い会計上の見積りが変更したことにより生じた当初見積金額との差額、または実績が確定した場合の当初見積金額との差額は、その変更のあった期、または実績が確定した期において損益として認識することになる。

誤謬 : 原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、またはこれを誤用したことにより生じた「財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り」「事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り」「会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り」のこと。誤謬に該当すれば修正再表示(当期および比較情報として表示する前期の財務諸表に誤謬の訂正を反映させる)を行うとともに、過去の有価証券報告書等の訂正が必要になる。

新型コロナウイルス感染症の影響に関する「一定の仮定」の置き方は企業間で異なることが予想されるが、現行開示ルールでは、当該会計上の見積りに用いた仮定に「重要性」がある場合には、「追加情報」として開示が求められる(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則15条など)。ただし、2020年3月期から早期適用することが可能とされている「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(2019年11月13日のニュース「重要会計基準改正解説第一弾 見積会計基準案が公表、MD&A、KAMへの影響」参照)によれば、新型コロナウイルス感染症の影響の会計上の見積りは「追加情報」ではなく、「重要な会計上の見積り」の中で開示することになろう。

追加情報 : 利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項がある場合に行う注記のこと

また、2020年4月2日のニュース「新型コロナウイルス感染症に言及した記述情報の開示例」でもお伝えしたとおり、2020年3月期の有価証券報告書から、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(MD&A)において「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」の開示が必要になる。新型コロナウイルス感染症の影響が重要であれば、「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」ではこれを踏まえた記載が求められる。なお、記載すべき事項の全部または一部を「第5 経理の状況」の注記において記載した場合には、その旨を記載することによって、当該注記において記載した事項の記載を省略することができる。したがって、(追加情報)等で「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」の内容が注記されていればMD&Aから参照することが可能となる(下図参照)。

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

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2020/04/09 ESG情報の開示をこれから開始する企業にとっての“指南書”が公表

新型コロナウイルスという“目の前”にある困難により株式市場が混乱に陥っている。しかし、投資家は長期的な事業戦略としてのESGへの関心を失ったわけではない(2020年4月6日のニュース「グローバル投資家が自社株買いや配当の抑制に理解」参照)。上場企業においても、長期投資を呼び込むうえでのESGの重要性は理解が進んでおり、これからESG情報の開示を始めようというところも多いだろう。こうした企業を念頭に作成されたのが、・・・

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2020/04/09 ESG情報の開示をこれから開始する企業にとっての“指南書”が公表(会員限定)

新型コロナウイルスという“目の前”にある困難により株式市場が混乱に陥っている。しかし、投資家は長期的な事業戦略としてのESGへの関心を失ったわけではない(2020年4月6日のニュース「グローバル投資家が自社株買いや配当の抑制に理解」参照)。上場企業においても、長期投資を呼び込むうえでのESGの重要性は理解が進んでおり、これからESG情報の開示を始めようというところも多いだろう。こうした企業を念頭に作成されたのが、日本取引所グループと東京証券取引所が(2019年)3月31日に公表した「ESG情報開示実践ハンドブック」(以下、ハンドブック)だ。これは、ESG情報の開示にあたり検討すべきポイントを整理したもので、上場企業各社が自社に適した形でESG上の課題に取り組み、投資家をはじめとするステークホルダーと対話をすることで、中長期的な企業価値向上を目指す際の参考にしてもらうことを目的としている。

ハンドブックでは、ESG情報の開示に至るまでのプロセスを以下の4つのステップに分け、それぞれについて具体的な内容を解説している。

Step1:ESG課題とESG投資
Step2:企業の戦略とESG課題の関係
Step3:監督と執行
Step4:情報開示とエンゲージメント

① まずStep1の「ESG課題とESG投資」では、「ESGとは何か」ということを改めて整理しており、日本におけるESG投資が2016年~2018年の2年間で3倍以上になったこと、投資家は企業のESG情報開示は不十分と考えていること、ESG情報の開示はコーポレートガバナンス・コード 基本原則3の「考え方」の中で求められていることなどを確認的に示している。

② Step2の「企業の戦略とESG課題の関係」は、自社にとって重要なESG上の課題(マテリアリティ)を検討することを求めるもので、ESG上の課題は「リスク」と「機会」の両面で捉えるべきであること、自社独自の企業価値を踏まえてマテリアリティを特定すべきであること、そのマテリアリティを事業戦略や全社戦略に組み込むべきであることなどを強調している。

全社戦略 : 複数の事業を抱える企業が、事業ポートフォリオや、各事業へのリソース配分、どの事業領域を主戦場とするかなどを決定すること。

Step3の「監督と執行」では、ESGに関する取り組みを進めるための社内体制を示すとともに、ESGの課題は「取締役会」で議論すること、取締役会がESGへの取り組みをモニタリングすること、適切な指標(例えばEであれば「温室効果ガスの排出量」、Sであれば「従業員の男女割合」)、Gであれば「取締役会のダイバーシティや独立性」)を設定し、それらのPDCAサイクルを回すこと、などが推奨されている。

PDCAサイクル : lan→Do→Check→Actionのサイクルを繰り返しながら、目標を実現する手法。サイクル内に、軌道を修正したり、場合によっては目標を変更したりする仕組みを内包しており、状況変化に応じて迅速に対応することが可能である。

Step4の「情報開示とエンゲージメント」は、ESGへの取り組みを投資に資する情報として開示する際のポイントを挙げたもので、SASBによるSASBスタンダード(投資家向け)、IIRCによる国際統合フレームワーク(投資家向け)、GRIによるGRIスタンダード(投資家を含むマルチ・ステークホルダー向け)など様々な情報開示の枠組みがあること、既存の情報開示の枠組みを活用する場合には、誰に向けた情報開示なのかを踏まえてその中から適切なものを選択すべきであること、投資家との双方向の対話が自社の取り組みの改善につながる“気付き”を得る機会になることなどが述べられている。

SASB : Sustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会)の略称で、2011年に米国サンフランシスコを拠点に設立された非営利団体。企業の情報開示の質向上に寄与し、中長期視点の投資家の意思決定に貢献することを目的に、将来的な財務インパクトが高いと想定されるESG要素に関する開示基準を設定している。2018年11月、11セクター77業種について情報開示に関するスタンダードを作成し、公表した。
IIRC : International Integrated Reporting Council(国際統合報告評議会)の略称で、財務資本の提供者が利用可能な情報の改善、効率的に伝達するアプローチ確立等を目指し、英国で設立された、規制者、投資家、企業、基準設定主体、会計専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織である。IIRCは2013年、統合報告書の作成についての考え方をまとめた「国際統合報告フレームワーク (The International <IR> Framework)」を公表。それ以降、日本をはじめ、世界で統合報告化が進んでいる。なお、2020年2月に、フレームワークの改定を検討していることが発表された。
GRI : Global Reporting Initiativeの略称で、1997年、米国の非営利組織などが中心となり、サステナビリティ報告書への理解促進と、その作成を支援することを目的に設立された(現在の本拠はオランダ)。GRIは2000年に「GRIガイドライン」を公表し何度か改定を重ねたが、サステナビリティ報告書の普及が進んだ状況を踏まえ、2016年にガイドラインから格上げして「GRIスタンダード」を公表した。GRIスタンダードは、その序文では「GRIスタンダードが推進するサステナビリティ報告とは、報告組織が経済、環境、社会に与えるインパクト、すなわち持続可能な発展という目標へのプラス、マイナス両方の寄与について、公に報告を行うことをいう」と述べており、ESG課題等の組織への影響だけでなく、組織が社会や環境等に与える影響についての報告も重視している。

上記の4つのステップのうち、取締役などの役員にとって特に重要なのは、Step3の「監督と執行」だろう。ハンドブックの「3-1 意思決定プロセスに組み込む」の「ガバナンス」では、「一番重要なのは(中略)、意思決定機関であり監督機関である取締役会で、社外取締役を含めてESG課題の認識や評価が行われることである」としている。ESG担当部署に任せきりにするのではなく、その活動について適切な報告プロセスが担保され、かつ取締役会が適切にモニタリングすることが必要であり、その結果、ESG上の課題が取締役会における戦略などの議論に反映されることが求められる。

ハンドブックはその事例として、「国内製造業H社のマネジメント構造」を紹介している。同社では執行会議とサステナビリティ推進委員会がESGへの取り組みについて「年度計画→重要課題の実行・推進→進捗モニタリング→年度成果」というPDCAサイクルを回している。また、PDCAサイクルにおける「Check」の一環として、「ステークホルダーエンゲージメント」による評価を活用している。そして、取締役会はこれらの活動について執行部門から報告を受けることで、監視・監督機能を果たしている。

もっとも、ハンドブックを見ただけでは、取締役会で何を議論するべきなのか(単に報告を受けているだけでいいのか)、具体的なイメージがいま一つ掴みにくいかもしれない。そこで、日本取引所グループがハンドブックに先立ち2019年6月に公表した「ESG情報の報告に関する企業向けモデルガイダンス」(以下、モデルガイダンス)も併せて活用したい。そもそもハンドブックはモデルガイダンスを実践する際の参考になることを目的に作成されたものだからだ。

モデルガイダンスでは以下の点について、取締役会における決定方法を公表することを推奨している。
・各ステークホルダーの重要性
・どのESG要素を選択したのか及びその選択方法
・こうした判断を行うにあたり考慮した時間軸

要するに、取締役会は、自社にとって各ステークホルダーが「なぜ」重要なのか、それを踏まえると「どの」ESG要素が重要なのか、そのESGの取り組みは「いつ」実施されるべきかといった、まさにマテリアリティに関する議論を尽くしたうえで、ESG担当部署のアクティビティをモニタリングすべきということになる。モデルガイダンスが推奨するように議論の内容を実際に公表するかはさておき、取締役会のメンバーとしてESGに関与する際には、モデルガイダンスとハンドブックは一読しておきたいところだ。

2020/04/08 コロナ対応で招集通知の発送が遅れた場合の「エクスプレイン」の要否

昨日(2020年4月7日)、東京都・大阪府など7都府県に緊急事態宣言が発令された。新型コロナウイルス感染症対策本部は事業者に対し「出勤者の4割減少」「テレワークの活用」「感染防止のための取組(手洗い、咳エチケット、事業場の換気励行、発熱等の症状が見られる従業員の出勤自粛、出張による従業員の移動を減らすためのテレビ会議の活用等)」などを求めており、既に各社は役職員の安全確保のためテレワーク、スプリットチーム制(複数班による交替勤務)の導入、一部社員への自宅待機命令など対応に追われている。この慌ただしい状況の中、3月決算会社の決算・開示作業はまさにこれから佳境に入る。このタイミングでの緊急事態宣言は、決算作業や監査の遅れにつながることも考えられよう。・・・

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2020/04/08 コロナ対応で招集通知の発送が遅れた場合の「エクスプレイン」の要否(会員限定)

昨日(2020年4月7日)、東京都・大阪府など7都府県に緊急事態宣言が発令された。新型コロナウイルス感染症対策本部は事業者に対し「出勤者の4割減少」「テレワークの活用」「感染防止のための取組(手洗い、咳エチケット、事業場の換気励行、発熱等の症状が見られる従業員の出勤自粛、出張による従業員の移動を減らすためのテレビ会議の活用等)」などを求めており、既に各社は役職員の安全確保のためテレワーク、スプリットチーム制(複数班による交替勤務)の導入、一部社員への自宅待機命令など対応に追われている。この慌ただしい状況の中、3月決算会社の決算・開示作業はまさにこれから佳境に入る。このタイミングでの緊急事態宣言は、決算作業や監査の遅れにつながることも考えられよう。

決算作業や監査が遅れれば定時株主総会(以下、株主総会)の開催も延期せざるを得なくなる(2020年4月7日のニュース「速報 有価証券報告書の提出期限延期へ  悩ましい株主総会の延期」参照)。東京証券取引所が2020年4月7日に公表した「2020年3月期上場会社の定時株主総会の動向(速報版)について」(以下、株主総会動向速報版)によると、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ株主総会の開催日を7月以降に延期するか否かを検討している3月決算の東証上場会社は今のところ5.6%にとどまっているが(上記ニュース下部の「*1」参照)、この数字は今後の各社の決算作業の進捗に伴い増える可能性が高い。

ただ、株主総会の開催を遅らせたところで、開催時点で新型コロナウイルス感染症が完全に終息していないというシナリオも十分にあり得る。その場合、各社は株主総会における感染拡大防止のための対応策を講じせざるを得ない。3月決算の東証上場会社(2020年4月6日までに回答のあった726社(全3月期決算会社の31%)。以下同)が検討している対応策を、東証が実施したアンケート結果に基づき多い順に並べると次表のとおり(株主総会動向速報版の2ページ参照)。

定時株主総会における新型コロナウイルス感染症
拡大防止のための実務対応策
検討している会社の比率
出席株主に対するマスク着用の要請、役職員のマスク着用 53.8%
会場における消毒液の設置 49.7%
座席間隔の確保・レイアウトの工夫 31.2%
書面やWebによる事前の議決権行使の推奨 28.1%
出席株主の体調確認 19.1%
所要時間の短縮 19.1%
お土産の配布の中止 18.6%
株主総会と並行して実施するイベント等の中止 8.0%
会場の変更・別会場の確保 7.5%
動画の事後配信 6.5%
動画のライブ配信 2.5%

このうち「会場の変更・別会場の確保」は例年なら時期的に困難だが、新型コロナウイルスの影響で各種イベントが軒並み中止となる中、今年は可能かもしれない。それ以外の対応策も実施がさほど困難ではないものが並んでいる。上表の一番下の「動画のライブ配信」はバーチャル株主総会(ただし、現行会社法では、株主総会の招集に際しては株主総会の「場所」を定めなければならないとされているため、正確には「ハイブリッド型バーチャル株主総会」を開催することになる。以下同)には必須となるが、これも技術的には十分可能。東証上場会社の大半がこれらの実務対応策のほぼすべてを実施することになりそうだ。

バーチャル株主総会 : リアル株主総会を開催せず、取締役・監査役等と株主のすべてがインターネット等の手段を用いて株主総会に参加する株主総会のこと

また、株主総会動向速報版の2ページには、ハイブリッド型バーチャル株主総会の開催を検討している東証上場会社の割合も紹介されている(ハイブリッド型バーチャル株主総会については「2020年3月4日のニュース新型コロナ対策で富士ソフトがハイブリッド型バーチャル株主総会」も参照)。これによると、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の開催を検討している企業は1.4%、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の開催を検討している企業は5.6%ある。今後は、株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性を確保することが求められるハイブリッド出席型バーチャル株主総会よりも相対的に実施が容易なハイブリッド参加型バーチャル株主総会の開催を検討する企業が増えることが予想される。

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会 : リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、文字通り株主総会に会社法上の「出席(※)」をすることができる株主総会〔※株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境にあること(相澤 哲、葉玉 匡美、郡谷 大輔 『論点解説 新・会社法 千問の道標』 株式会社商事法務(2006.6))〕
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会 : リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への会社法上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて、株主総会の審議等を確認・傍聴することができる株主総会

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の開催にあたっては、定時株主総会の招集通知にインターネット上のバーチャル株主総会へのアクセス方法等を記載しなければならないことから、招集通知の記載内容やレイアウトが前期のものとは変わってくる。これに決算や監査の遅れが加わると、招集通知の発送が前期よりも遅くなる可能性は十分にある。そのような(本則市場)上場会社は、招集通知の発送の遅れにより、「招集通知に記載する情報の正確性を担保しつつその早期発送に努めるべき」とするコーポレートガバナンス・コード補充原則1-2②をコンプライできず、エクスプレインせざるを得なくなることを危惧するかもしれない。しかし、この点について東京証券取引所は、「新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、招集通知の記載内容の確定が遅れたことなどによって、例年と比較して発送の時期が遅れることがあっても、それ自体をもってコーポレートガバナンス・コードの趣旨に反するものではないと考えられる」(株主総会動向速報版の1ページ目下部参照)としている。新型コロナウイルス感染症の影響で招集通知の発送が遅れただけであれば、補充原則1-2②は「コンプライ」としてよいと言えよう。

2020/04/07 速報 有価証券報告書の提出期限延期へ  悩ましい株主総会の延期

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令に伴い、有価証券報告書の提出期限が延期される可能性が高まった。その根拠となるのは・・・

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2020/04/07 速報 有価証券報告書の提出期限延期へ  悩ましい株主総会の延期(会員限定)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令に伴い、有価証券報告書の提出期限が延期される可能性が高まった。その根拠となるのは新型インフルエンザ等対策特別措置法57条および特定非常災害特別措置法4条だ。

新型インフルエンザ等対策特別措置法第57条(新型インフルエンザ等の患者等の権利利益の保全等)では、新型インフルエンザ等緊急事態にあたっては特定非常災害特別措置法4条(期限内に履行されなかった義務に係る免責に関する措置)が準用されることになっている。特定非常災害特別措置法第4条は下記のとおり。要するに、「法令に履行期限が定められている義務」を履行できず、「行政上の責任」が問われる場合、政府は「4か月を超えない範囲内」でその履行期限を延期できるとしている。

第4条 特定非常災害発生日以後に法令に規定されている履行期限が到来する義務(以下「特定義務」という。)であって、特定非常災害により当該履行期限が到来するまでに履行されなかったものについて、その不履行に係る行政上及び刑事上の責任(過料に係るものを含む。以下単に「責任」という。)が問われることを猶予する必要があるときは、政令で、特定非常災害発生日から起算して四月を超えない範囲内において特定義務の不履行についての免責に係る期限(以下「免責期限」という。)を定めることができる。
    以下略

有価証券報告書は、金融商品取引法第24条により「当該事業年度経過後三月以内」に内閣総理大臣への提出が義務付けられており、提出しなかった場合には、「直前事業年度における監査報酬額」に相当する額の課徴金という「行政上の責任」を問われることになる(同法172条の3)。したがって、有価証券報告書の提出義務は、新型インフルエンザ等対策特別措置法57条および特定非常災害特別措置法4条の適用対象となる。

ここで気になるのは「4か月間」の起算日だ。上記条文では「特定非常災害発生日」とされているが、特定非常災害特別措置法第4条を準用している新型インフル等対策特別措置法57条ではこの「特定非常災害発生日」を「特定新型インフルエンザ等緊急事態発生日」に読み替えることになるため、緊急事態宣言の発令日(すなわち本日)が起算日となる。延長期間が最大の「4か月」とされた場合、有価証券報告書の提出期限は8月7日ということになるが、月の途中に提出期限が訪れることには違和感もあることから、場合によっては「7月末」とされる可能性もある。

また、緊急事態宣言の対象区域は7都府県(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)となっているが、政令は対象地域を限定していないため、政令が出れば全国一律で有価証券報告書の提出期限が延期される。名古屋圏には有力上場企業が集中しているが、これらの企業を含め、全国にあるすべての上場企業等の有価証券報告書の提出期限が延期される。

一方、定時株主総会は、会社法上「毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と規定されているに過ぎず(会社法296条1項)、「法令に規定されている履行期限」がないため、新型インフルエンザ等対策特別措置法57条および特定非常災害特別措置法4条の適用対象とはならない。法務省は(2019年)2月28日、定時株主総会の開催延期に関する法的見解をまとめたリリースを出しているが(2020年3月4日のニュース「新型コロナ対策で富士ソフトがハイブリッド型バーチャル株主総会」参照)、有価証券報告書の提出期限のように、開催日を“一律”に延期することはできない。

ただ、有価証券報告書の提出期限が延期されても、定時株主総会の開催日が延期されなければ、必然的に会社法上の計算書類は定時株主総会までに作成しなければならないため、決算作業や監査手続きも従来通りのスケジュールでこなさなければならない。これでは、有価証券報告書の提出期限が延期された意味も半減してしまうだろう。

この点を踏まえれば、定時株主総会の開催日を延期する企業が出て来る可能性はある(*1)が、企業にとって悩ましいのは、定時株主の開催日を延期するためには「基準日」も後ろに動かさなければならないという点だ。現状、ほとんどの上場企業が決算日を基準日としている(決算日と異なる基準日を定める企業については2017年5月25日のニュース「株主総会を2か月後倒しの企業現る―決算日と異なる基準日を初めて設定」参照)。3月決算企業であれば「3月31日」ということになるが、4月になり、議決権行使や配当を受ける権利が確定したとの理解の下、既に株式を売却したという株主も少なくないだろう(*2)。こうした株主の扱いをどうするのか、企業は難しい判断を迫られることになろう。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

*1 東京証券取引所が実施した調査によると、東京証券取引所に上場している3月決算会社のうち、7月以降に定時株主総会を開催することが確定している会社は現時点ではゼロであるものの、今般のコロナウイルス感染症の影響を踏まえ、総会の開催を7月以降に延期するか否かを検討していると回答した会社は5.6%あり(東京証券取引所が2020年4月7日に公表した「2020年3月期上場会社の定時株主総会の動向(速報版)について」を参照)、今後の動向が注目される。
*2 東京証券取引所は2020年3月24日に「2020年3月期末の配当その他の権利落ちについて」を公表し、投資家に対して「仮に3月期決算の上場会社が今期事業年度終了後3か月以内に定時株主総会を開催できないこととなり、配当金その他の権利の基準日を事業年度末日から変更することとなった場合、3月30日以降変更後の権利付最終日において当該銘柄を保有していない場合は、配当その他の権利が付与されない」旨注意を呼び掛けている。

2020/04/07 【役員会 Good&Bad発言集】株主総会のコロナ対応

新型コロナウイルスの感染者数増加に伴う緊急事態宣言を受け、東証一部上場企業のA社の取締役会では、定時株主総会でのコロナ対応について議論が紛糾中です。株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかける旨提案した取締役の発言をきっかけとする下記の3人の発言のうち、誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「年に1回しかお会いできない方々に対して「来るな」と言うのは心苦しいし、そもそも株主には定時株主総会に出席して発言する権利があり、その権利を取り上げるに等しいので、そのような呼びかけはすべきではない。第一、会場に出席する株主がゼロ人だったら、株主総会が不存在になってしまう。」

取締役B:「去年の株主総会で使った会場は換気がエアコンのみでしたね。今年もあの会場を使う予定ですか。換気が容易なわが社の大会議室に会場を変更してはどうでしょう。入場できる株主の人数を制限する必要がありますが。」

取締役C:「いっそのことリアル株主総会を開催せず、インターネット上でバーチャル株主総会を開催してはどうですか?」

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2020/04/07 【役員会 Good&Bad発言集】株主総会のコロナ対応(会員限定)

<解説>
株主の議決権行使に配慮しつつも、株主の健康に配慮

すでにニュースで取り上げたとおり、経済産業省と法務省は(2020年)4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」を公表しました(株主総会運営に係るQ&Aの詳細は2020年4月3日のニュース「3月株主総会に学ぶ新型コロナウイルス対策」を参照)。これは、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するうえで望ましい株主総会運営方法の指針と位置付けられるものです。株主総会運営に係るQ&Aをもとに、株主総会における新型コロナウイルスの感染拡大防止策をまとめてみました。

感染拡大防止策 留意点等
株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかける 来場を控えるよう呼びかける際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい。
会場に入場できる株主の人数を制限する 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能。
株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させる 事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮が必要。
会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催する 結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことが必要。
発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ったり退場を命じたりする 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも、可能。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮する 株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられる。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のためには、株主総会において、株主の議決権行使に配慮しつつも、株主の健康に配慮した措置が求められていると言えます。

コロナ対応の新潮流、ハイブリッド型バーチャル株主総会

オフィスの現場では新型コロナウイルスの感染対策のために、一気にテレワークが進みました。そこで総会もインターネット上で開催できないか、気になるところです。もっとも、リアル株主総会を開催せずに、取締役・監査役等と株主のすべてがインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するバーチャル株主総会(以下、バーチャルオンリー型株主総会)は会社法の解釈上、開催が難しいとされています((新用語・難解用語)ハイブリッド型バーチャル株主総会を参照)。そこで注目されているのが、ハイブリッド型バーチャル株主総会です。ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催を前提として開催するバーチャル株主総会のことです。グリーや富士ソフトが実施し、注目を集めました(2019年11月6日のニュース「グリー、バーチャル株主総会で株主からメッセージを受け付け」や2020年3月4日のニュース「新型コロナ対策で富士ソフトがハイブリッド型バーチャル株主総会」)。今3月決算の株主総会シーズンには、自社の会議室など小さな会場でリアル株主総会を開催しつつ、株主をバーチャル株主総会に誘導する上場企業が増えるかもしれません。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役B:「去年の株主総会で使った会場は換気がエアコンのみでしたね。今年もあの会場を使う予定ですか。換気が容易なわが社の大会議室に会場を変更してはどうでしょう。入場できる株主の人数を制限する必要がありますが。」
コメント:経済産業省と法務省が2020年4月2日に公表した「株主総会運営に係るQ&A」によると、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも可能とされています。自社の株主総会が新型コロナウイルスのクラスターになるリスクを考えると、会場の「換気」について提案を行うBの発言はGoodです。

BAD発言はこちら
取締役A:
「年に1回しかお会いできない方々に対して「来るな」と言うのは心苦しいし、そもそも株主には定時株主総会に出席して発言する権利があり、その権利を取り上げるに等しいので、そのような呼びかけはすべきではない。第一、会場に出席する株主がゼロ人だったら、株主総会が不存在になってしまう。」
コメント:経済産業省と法務省が2020年4月2日に公表した「株主総会運営に係るQ&A」によると、リアル株主総会の会場を設定しつつ、「感染拡大防止策の一環として、株主に来場を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置」と考えられると記載されています。なお、その際には、「併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい」とされています。また、「現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます」とも記載されています。結果としてリアル株主総会の会場に出席する株主がゼロ人であったとしても、株主総会が不存在になるわけではないので、Aの発言はBad発言です。
取締役C:
「いっそのことリアル株主総会を開催せず、インターネット上でバーチャル株主総会を開催してはどうですか?」
コメント:リアル株主総会を開催せずに、取締役・監査役等と株主のすべてがインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するバーチャル株主総会(以下、バーチャルオンリー型株主総会)は会社法の解釈上、開催が難しいとされているので、Cの発言はBad発言です。

2020/04/06 グローバル投資家が自社株買いや配当の抑制に理解

グローバル経済が新型コロナウイルス禍に揺れる中、運用資産残高世界3位の米国大手資産運用会社ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)は(2019年)3月31日、同社のCEO名義で「Stewardship Engagement Guidance to Companies in Response to COVID-19」と題するレターを発信した。これは、長期投資家として(as a long-term investor)、上場会社に期待する新型コロナウイルスへの対応を、「エンゲージメント・ガイダンス」という形で示したもの。

レターの中でSSGAのCEOであるタラポレヴァラ氏は、・・・

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