経済産業省と法務省は(2020年)4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」を公表した。これは、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するうえで望ましい株主総会運営方法の指針と位置付けられる。12月決算企業による3月株主総会が開催され実務が積み重なったことも、今回のリリースの背景にあるものとみられる。
本稿では、今回示されたQ&A全5問について、12月決算企業の3月株主総会の事例を紹介しつつ解説する。
| Q1 |
株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかけることは可能ですか。 |
可能です。
感染拡大防止策の一環として、出席を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。
なお、その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます。
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株主総会に出席して意思決定に関与することは株主の重要な権利(共益権)であり、これを不当に妨げることは株主総会決議の瑕疵に該当する可能性がある。本Q&Aでは、株主総会への出席を控えるよう呼びかけたとしても、それが①新型コロナウイルスの感染拡大防止のためであり、②事前の議決権行使の方法を案内すれば、決議取り消しの事由にはならないことを示している。
共益権 : その権利を行使した場合、株主全体の利害に影響する権利のことで、その代表的なものが株主総会における議決権である。共益権には、1株でも保有していれば行使できる「単独株主権」(例えば株主総会における議決権や、株主代表訴訟を提起する権利)と、一定割合または一定の株式数を有する株主のみが行使できる「少数株主権」(例えば株主総会で議題を提案する権利:議決権の100分の1または株式数300以上)がある。一方、利益配当請求権や残余財産分配請求権など、その株主個人の利益だけに関する権利を「自益権」という。共益権と自益権は株主の2大権利である。
最も明確に出席を控えるよう株主に要請した例としては、「新型コロナウイルスの感染拡大の状況にご留意いただき、健康状態によらず、本年はご来場を見合わせることをご検討くださいますよう、お願いいたします」とのリリースを3月24日付で出した楽天のケースが挙げられる(2020年3月26日のニュース「コロナ問題長期化で現実味 “出席者ゼロ”でも株主総会は有効に成立するか?」参照)。
一般的な例としては、カゴメが3月16日付のリリースで「ご高齢の方、持病をお持ちの方、妊娠されている方は、ご出席について慎重にご検討ください」としたように、感染および重症化のリスクが高い株主層に対して自制を求めるものが目立った。
| Q2 |
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、会場に入場できる株主の人数を制限することは可能ですか。 |
可能です。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。
現下の状況においては、その結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能と考えます。
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株主総会の規模を縮小したことで会場を訪れた株主が入場できず、その結果、株主としての意思表示ができなかった場合、やはり決議取り消し事由となることが懸念される。これについてもQ&Aは、それが①新型コロナウイルスの感染拡大防止のためであり、②合理的な範囲内であれば、問題なしとしている。②の例としては「自社会議室」が挙げられている。
GMOインターネットは株主総会招集通知にも同封した書面で「株主様同士のお席の間隔を広く取るため、十分な席数が確保できない可能性がございます」と明記している。「十分な席数が確保できない」ことは「入場できない」ことにつながるため、Q&Aにある「入場できる株主の人数を制限する」に同義と考えてよいだろう(ちなみに、同社は定時株主総会も延期している。この点については、2020年3月4日のニュース「新型コロナ対策で富士ソフトがハイブリッド型バーチャル株主総会」参照)。
| Q3 |
Q2に関連し、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能ですか。 |
可能です。
Q2の場合における会場の規模の縮小や、入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも、可能と考えます。
なお、事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えます。
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Q2で株主の入場制限を認めている流れを受けQ3では、事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることも可能としている。ただし、事前登録が必要である旨が一部の株主に伝わらなかった場合、招集通知漏れと同様に株主総会決議の瑕疵になり得る点には留意が必要だ。実務的には、招集通知もしくは同封物に明記しておくことでそのリスクを払拭できよう。
当フォーラムが調査したところ、3月総会において事前登録制を採用した事例は確認できなかった。しかし、会議室など狭い会場を使用することによる総会当日の運営の混乱を防ぐには、事前登録制は有効な手段と言えるため、6月総会では採用事例が出てくることが予想される。
| Q4 |
発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能ですか。 |
可能です。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。
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一部株主による出席を物理的に妨げることは、株主の権利を侵害することに直結しかねないが、Q&Aではこれも新型コロナウイルスの感染拡大防止のためであれば可能としている。当日の運営においては「ウイルスの罹患が疑われる」の判断方法が問われることになろう。
上述したGMOインターネットは株主総会招集通知に同封した書面に「当日は、議場受付前にサーモグラフィにて株主様の体温を計測させていただき、37.5度以上の発熱が確認された場合はご入場の制限等をさせていただきます」と明記している。明確な判断基準を設定した事例と言えよう。
一方、小林製薬は2月27日付のリリースで「ご来場の株主様で体調が優れないように見受けられる方には、運営スタッフがお声がけさせていただく場合があります」として、入場制限・退場依頼の可能性があることを示唆しているものの、このように明確な判断基準がない場合には、当日の運営を難しくする可能性もあろう。
| Q5 |
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能ですか。 |
可能です。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも、可能と考えます。
具体的には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。
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株主が議決権を行使するための判断材料として十分な説明や質疑応答を尽くさなかった場合、説明義務違反として決議取り消し事由となりかねない。そこでQ&Aでは、①新型コロナウイルスの感染拡大防止のためであり、②合理的な措置であれば、株主総会の時間短縮も可能とした。時間短縮の具体的な例として、議事の時間短縮、総会後の交流会中止を挙げている。
東亜合成は3月16日付のリリースにおいて「報告事項等を簡潔に説明させていただく場合がございます」として、議事進行の短縮化について理解を求めている。
コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスは株主総会に関するウェブサイトで「株主さまからのご質問、ご発言を制限させていただく場合がございますので、ご了承くださいますようお願い申しあげます」と、質疑応答を短く切り上げる可能性を示した。
資生堂は3月6日付のリリースで「毎年開催している当社をより深く理解していただくための『活動展示』については、感染予防の観点から中止いたします」とした。株主が総会会場に滞留しないようにするための措置と考えられる。
このように、本Q&Aは株主総会を有効に成立させつつ、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための施策を、行政(特に法務省)の後押しで進めようというものとなっている。会社法上の制限などから株主総会の完全バーチャル化は難しいものの(その理由は(新用語・難解用語)ハイブリッド型バーチャル株主総会 参照)、12月決算企業の3月総会も参考に、“新型コロナ対応”の株主総会に備えたい。