2020/04/06 グローバル投資家が自社株買いや配当の抑制に理解(会員限定)

グローバル経済が新型コロナウイルス禍に揺れる中、運用資産残高世界3位の米国大手資産運用会社ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)は(2019年)3月31日、同社のCEO名義で「Stewardship Engagement Guidance to Companies in Response to COVID-19」と題するレターを発信した。これは、長期投資家として(as a long-term investor)、上場会社に期待する新型コロナウイルスへの対応を、「エンゲージメント・ガイダンス」という形で示したもの。

レターの中でSSGAのCEOであるタラポレヴァラ氏は、新型コロナウイルスへの対応は企業およびその取締役会にとって喫緊の問題であり、そのため企業と投資家がエンゲージメントする際のテーマも、従業員の健康や顧客基盤の保持、サプライチェーンの安全性といった、より短期的なESGの課題(more immediate ESG issues)にシフトせざるを得ないとしている。同時に、取締役が短期的な財務政策、すなわち投資および支出、自社株買いや配当の抑制を検討することについても理解を示している。

immediate : 「差し迫った」「緊急の」といった意味

一方でタラポレヴァラCEOは、重要なESGの課題は引き続きより大きな“絵”(the bigger picture)の一部であり、かつ企業全体の事業戦略の一部として明確にされるべきと主張している。具体的には以下の3点を重要なポイントとして挙げている。

① 短期的には有効であっても、長期的な財務安全性やビジネスモデルの持続可能性を損なう必要以上のリスク(undue risk)を抱え込んではいけない。
② 新型コロナウイルスが自社の事業やサプライチェーン等に与える短期および中期の潜在的な影響(short- and medium-term potential impact)や経営陣の対応、シナリオ分析を投資家に伝えるべきである。
③ 新型コロナウイルスが自社の長期的な事業戦略(your long-term business strategy)としてのESGの課題への取り組みにどうのような影響を与えるのか明確するべきである。

undue : 「過度な」「必要以上の」「不当な」といった意味

①は、財務上安定性を損なう過度な借入れや、ビジネスの継続性を損なう従業員の解雇、取引先の整理などを安易に進めるべきでないということだろう。②は、対処療法的な対策にとどまることなく、中期的な企業価値創造ストーリーへの影響やそれに対する経営陣の対応の説明を求めている。③は、新型コロナウイルス問題が長期的な事業戦略にどのような変化を与えるのかへの関心を示したものと考えられる。本レターは、新型コロナウイルスという今目の前にある困難に直面している状況であっても中長期的視点を失わないこと、そのために投資家とのエンゲージメントを活用すべきことを、グローバル投資家を代表して求めていると言えよう。

2020/04/03 3月株主総会に学ぶ新型コロナウイルス対策

経済産業省と法務省は(2020年)4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」を公表した。これは、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するうえで望ましい株主総会運営方法の指針と位置付けられる。12月決算企業による3月株主総会が開催され実務が積み重なったことも、今回のリリースの背景にあるものとみられる。

本稿では、今回示されたQ&A全5問について、12月決算企業の3月株主総会の事例を紹介しつつ解説する。・・・

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2020/04/03 3月株主総会に学ぶ新型コロナウイルス対策(会員限定)

経済産業省と法務省は(2020年)4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」を公表した。これは、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するうえで望ましい株主総会運営方法の指針と位置付けられる。12月決算企業による3月株主総会が開催され実務が積み重なったことも、今回のリリースの背景にあるものとみられる。

本稿では、今回示されたQ&A全5問について、12月決算企業の3月株主総会の事例を紹介しつつ解説する。

Q1 株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかけることは可能ですか。 可能です。
感染拡大防止策の一環として、出席を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。
なお、その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます。

株主総会に出席して意思決定に関与することは株主の重要な権利(共益権)であり、これを不当に妨げることは株主総会決議の瑕疵に該当する可能性がある。本Q&Aでは、株主総会への出席を控えるよう呼びかけたとしても、それが①新型コロナウイルスの感染拡大防止のためであり、②事前の議決権行使の方法を案内すれば、決議取り消しの事由にはならないことを示している。

共益権 : その権利を行使した場合、株主全体の利害に影響する権利のことで、その代表的なものが株主総会における議決権である。共益権には、1株でも保有していれば行使できる「単独株主権」(例えば株主総会における議決権や、株主代表訴訟を提起する権利)と、一定割合または一定の株式数を有する株主のみが行使できる「少数株主権」(例えば株主総会で議題を提案する権利:議決権の100分の1または株式数300以上)がある。一方、利益配当請求権や残余財産分配請求権など、その株主個人の利益だけに関する権利を「自益権」という。共益権と自益権は株主の2大権利である。

最も明確に出席を控えるよう株主に要請した例としては、「新型コロナウイルスの感染拡大の状況にご留意いただき、健康状態によらず、本年はご来場を見合わせることをご検討くださいますよう、お願いいたします」とのリリースを3月24日付で出した楽天のケースが挙げられる(2020年3月26日のニュース「コロナ問題長期化で現実味 “出席者ゼロ”でも株主総会は有効に成立するか?」参照)。

一般的な例としては、カゴメが3月16日付のリリースで「ご高齢の方、持病をお持ちの方、妊娠されている方は、ご出席について慎重にご検討ください」としたように、感染および重症化のリスクが高い株主層に対して自制を求めるものが目立った。

Q2 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、会場に入場できる株主の人数を制限することは可能ですか。 可能です。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。
現下の状況においては、その結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能と考えます。

株主総会の規模を縮小したことで会場を訪れた株主が入場できず、その結果、株主としての意思表示ができなかった場合、やはり決議取り消し事由となることが懸念される。これについてもQ&Aは、それが①新型コロナウイルスの感染拡大防止のためであり、②合理的な範囲内であれば、問題なしとしている。②の例としては「自社会議室」が挙げられている。

GMOインターネットは株主総会招集通知にも同封した書面で「株主様同士のお席の間隔を広く取るため、十分な席数が確保できない可能性がございます」と明記している。「十分な席数が確保できない」ことは「入場できない」ことにつながるため、Q&Aにある「入場できる株主の人数を制限する」に同義と考えてよいだろう(ちなみに、同社は定時株主総会も延期している。この点については、2020年3月4日のニュース「新型コロナ対策で富士ソフトがハイブリッド型バーチャル株主総会」参照)。

Q3 Q2に関連し、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能ですか。 可能です。
Q2の場合における会場の規模の縮小や、入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも、可能と考えます。
なお、事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えます。

Q2で株主の入場制限を認めている流れを受けQ3では、事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることも可能としている。ただし、事前登録が必要である旨が一部の株主に伝わらなかった場合、招集通知漏れと同様に株主総会決議の瑕疵になり得る点には留意が必要だ。実務的には、招集通知もしくは同封物に明記しておくことでそのリスクを払拭できよう。

当フォーラムが調査したところ、3月総会において事前登録制を採用した事例は確認できなかった。しかし、会議室など狭い会場を使用することによる総会当日の運営の混乱を防ぐには、事前登録制は有効な手段と言えるため、6月総会では採用事例が出てくることが予想される。

Q4 発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能ですか。 可能です。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。

一部株主による出席を物理的に妨げることは、株主の権利を侵害することに直結しかねないが、Q&Aではこれも新型コロナウイルスの感染拡大防止のためであれば可能としている。当日の運営においては「ウイルスの罹患が疑われる」の判断方法が問われることになろう。

上述したGMOインターネットは株主総会招集通知に同封した書面に「当日は、議場受付前にサーモグラフィにて株主様の体温を計測させていただき、37.5度以上の発熱が確認された場合はご入場の制限等をさせていただきます」と明記している。明確な判断基準を設定した事例と言えよう。

一方、小林製薬は2月27日付のリリースで「ご来場の株主様で体調が優れないように見受けられる方には、運営スタッフがお声がけさせていただく場合があります」として、入場制限・退場依頼の可能性があることを示唆しているものの、このように明確な判断基準がない場合には、当日の運営を難しくする可能性もあろう。

Q5 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能ですか。 可能です。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも、可能と考えます。
具体的には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。

株主が議決権を行使するための判断材料として十分な説明や質疑応答を尽くさなかった場合、説明義務違反として決議取り消し事由となりかねない。そこでQ&Aでは、①新型コロナウイルスの感染拡大防止のためであり、②合理的な措置であれば、株主総会の時間短縮も可能とした。時間短縮の具体的な例として、議事の時間短縮、総会後の交流会中止を挙げている。

東亜合成は3月16日付のリリースにおいて「報告事項等を簡潔に説明させていただく場合がございます」として、議事進行の短縮化について理解を求めている。

コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスは株主総会に関するウェブサイトで「株主さまからのご質問、ご発言を制限させていただく場合がございますので、ご了承くださいますようお願い申しあげます」と、質疑応答を短く切り上げる可能性を示した。

資生堂は3月6日付のリリースで「毎年開催している当社をより深く理解していただくための『活動展示』については、感染予防の観点から中止いたします」とした。株主が総会会場に滞留しないようにするための措置と考えられる。

このように、本Q&Aは株主総会を有効に成立させつつ、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための施策を、行政(特に法務省)の後押しで進めようというものとなっている。会社法上の制限などから株主総会の完全バーチャル化は難しいものの(その理由は(新用語・難解用語)ハイブリッド型バーチャル株主総会 参照)、12月決算企業の3月総会も参考に、“新型コロナ対応”の株主総会に備えたい。

2020/04/02 新型コロナウイルス感染症に言及した記述情報の開示例

新型コロナウイルス感染症の影響により多くの上場企業の先行きに不透明感が漂っている。投資家にとって、投資先企業が具体的にどのような影響を受けるのかは大きな関心事であろう。

既報のとおり、金融庁は2019年1月に開示府令を改正し、2020年3月期の有価証券報告書から(1)経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(以下、経営方針等)、(2)事業等のリスク、(3)経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下、MD&A)といった「記述情報」の記載の充実を求めている(2019年2月22日のニュース「事業等のリスク、取締役会での議論が必須に」や【役員会 Good&Bad発言集】事業等のリスク(2) 参照)。この改正を受け、金融庁は(2020年)3月27日、改正開示府令を踏まえた有価証券報告書の記載内容を審査する際の留意事項をまとめた「令和2年度 法令改正関係審査の留意事項等」を公表したが、そこでは新型コロナウイルス感染症に関する記載については触れられていない。しかし、その影響が重要である場合、記述情報への記載は必須だろう。

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

本稿では、2020年3月期の有価証券報告書を作成するにあたり、2019年12月決算会社の開示例を紹介しながら、(1)経営方針等、(2)事業等のリスク、(3)MD&Aの3つの記述情報に新型コロナウイルス感染症の影響を記載する際の留意点を整理する。・・・

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2020/04/02 新型コロナウイルス感染症に言及した記述情報の開示例(会員限定)

新型コロナウイルス感染症の影響により多くの上場企業の先行きに不透明感が漂っている。投資家にとって、投資先企業が具体的にどのような影響を受けるのかは大きな関心事であろう。

既報のとおり、金融庁は2019年1月に開示府令を改正し、2020年3月期の有価証券報告書から(1)経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(以下、経営方針等)、(2)事業等のリスク、(3)経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下、MD&A)といった「記述情報」の記載の充実を求めている(2019年2月22日のニュース「事業等のリスク、取締役会での議論が必須に」や【役員会 Good&Bad発言集】事業等のリスク(2) 参照)。この改正を受け、金融庁は(2020年)3月27日、改正開示府令を踏まえた有価証券報告書の記載内容を審査する際の留意事項をまとめた「令和2年度 法令改正関係審査の留意事項等」を公表したが、そこでは新型コロナウイルス感染症に関する記載については触れられていない。しかし、その影響が重要である場合、記述情報への記載は必須だろう。

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

本稿では、2020年3月期の有価証券報告書を作成するにあたり、2019年12月決算会社の開示例を紹介しながら、(1)経営方針等、(2)事業等のリスク、(3)MD&Aの3つの記述情報に新型コロナウイルス感染症の影響を記載する際の留意点を整理する。

(1)経営方針等
改正開示府令では、経営環境について、経営者の認識を含め記載することが明確化された。また、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について、その内容・対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載することとされた。

第三号様式(記載上の注意)(10)(※第二号様式(30)から読み替え後 一部省略あり 網掛部分は主な改正部分)
a 当連結会計年度末現在における連結会社(連結財務諸表を作成していない場合には提出会社。以下同様。)の経営方針・経営戦略等の内容を記載すること。記載に当たっては、連結会社の経営環境(例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含め、事業の内容と関連付けて記載すること。また、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容を記載すること。
b 当連結会計年度末現在における連結会社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について、その内容、対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載すること。
c (略)

 
新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた経営方針等の記載上の留意点は下表のとおり。

主な記載内容 留意点
経営方針、経営戦略、経営環境 ・新型コロナウイルス感染症の影響に伴い経営方針、経営戦略が見直された場合には、見直し後の経営方針、経営戦略等を記載することになる。これは、記述情報の開示に関する原則(金融庁 平成31年3月19日)1-1.経営方針・経営戦略等(望ましい開示に向けた取り込み)の(注2)が「単なる中期経営計画の引用ではなく、中期経営計画の進捗状況や中期経営計画策定後の経営環境の変化等も踏まえ、開示時点における経営方針・経営戦略等が適切に開示されるよう留意が必要」としていることからもうかがえる。
・経営環境については、新型コロナウイルス感染症の影響により、事業を展開する市場がどのように変化しているか等について経営者の認識を記載することが必要になる。
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(以下、KPI

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)

新型コロナウイルス感染症の影響によりKPIの目標値を見直した場合には、見直し後のものを記載する。
優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題 ・例えば、新型コロナウイルス感染症の影響により、販売店における衛生管理の徹底、在宅勤務や勤務地の分散化等による従業員等の安全・労働力の確保などが重要な課題となっている場合には、その内容を記載する。
・売上の減少により流動性リスク(債務不履行リスク)が高まる可能性がある場合には、資金の確保などを対処すべき課題として記載する。

2019年12月決算会社の中には、有価証券報告書の「経営方針等」において、新型コロナウイルス感染症に言及している事例が見られる。

・対処すべき課題に、新型コロナウイルス(COVID-19)への対応を記載した事例(ソディック)
(注)下線は筆者による。
<新型コロナウイルス(COVID-19)への対応について>
当社グループは、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大に伴い、お客さま、取引先様、従業員の安全を最優先とし、従業員へ一人ひとりが行うことができる感染予防対策の徹底並びに在宅ワークや時差出勤の活用等を推進し、感染拡大を防ぐ取り組みを行うとともに、終息後、速やかに企業活動を復旧する準備を行っております。また、今般の新型コロナウイルスにおける対応を踏まえ、非常時における対策を強化してまいります。
・経営環境において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響を記載し、KPIの目標値を未定とした事例(ラオックス)
(注)下線は筆者による。
(2)経営環境
 訪日外国人観光客数は、日本政府が掲げる「2020年4,000万人」の目標に向け積極的な施策が講じられてきましたが、昨今発生しました新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響により、不透明な状況にあります。また、訪日外国人旅行消費額についても増加が見込まれるものの、構成比では「買物代」が減少傾向であるのに対して「宿泊費」や「飲食費」の構成比が増加傾向を示すなど消費嗜好や行動様式の変化が生じており、モノ消費から体験型の“コト”消費への流れが今後も継続するものと見込まれます。また短期的には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止策として外出行動やイベント開催の自粛が続いており、消費の減退が見込まれるものの、中長期的には、本格的なグローバル化や競争社会の進行によりさらなる格差社会が到来し、日本人のみならず世界中の人々のライフスタイルや嗜好も変化していくものと見込まれます。

(3)中長期的な会社の経営戦略
      (略)

(4)目標とする経営指標
中期経営計画におきまして、2020年12月期を最終年度として、連結売上高1,800億円、営業利益40億円を達成することを目指してまいりましたが、昨今発生しました新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響で中国からの訪日観光客が激減するなど、当社グループを取り巻く経営環境が急変しております。現時点で、合理的に次期の見通しを算定することができないため、売上高・利益とも未定としております。今後、当該感染症の収束の目途が立ち、業績予想の算定が可能となった時点で速やかに開示いたします。引き続き、収益の確保と拡大に向けた施策を実施して、中長期的に株主価値の最大化を目指してまいります。

(2)事業等のリスク
改正開示府令では、「経営者の視点による、企業固有の重要なリスク情報」の開示が強く求められている。2020年3月期の有価証券報告書から適用される事業等のリスクの記載上の注意は以下のとおり。

第三号様式(記載上の注意)(11)(※第二号様式(31)から読み替え後 網掛部分は主な改正部分)
a 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下において「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう。以下aにおいて同じ。)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること。
b (略)
c (略)

上記記載上の注意を踏まえると、新型コロナウイルス感染症が自社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると経営者が認識しているのであれば、そのことを「事業等のリスク」に記載する必要がある。その場合、一般的なリスクを記載するのではなく、具体的にどのような影響が見込まれるのか、経営者の認識を明らかにする必要がある。記載にあたっての留意点等は下表のとおり(想定している会社は、新型コロナウイルス感染症により特需が発生する以外の会社)。

主な記載内容 留意点
当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期 新型コロナウイルス感染症の影響は既に顕在化していると思われるが、影響の終息が見通せない場合にはその旨を記載する。
当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策 影響の内容と対応策としては、①内部的なもの、②外部的なもの二つに分かれると考えられる。

  影響の内容(例) 対応策(例)
内部的 ・従業員が感染した場合、労働力が確保できず、事業の継続が困難となる
・役員が感染した場合には重要な意思決定が滞る
・在宅勤務等の労働環境整備のためのコストの発生
・在宅勤務や勤務地の分散化といった労働環境の整備
・感染症に関する社内教育、社内マニュアルの整備
・対応部署の設置
・事業継続策の策定
外部的 ・消費活動の停滞に伴う売上の減少
・仕入を確保できない
・上記による資金繰りの悪化
・販売店舗における衛生管理の徹底
・新たな需要の掘り起こし
・新たな仕入先の開拓
・資金繰り確保のため借入枠の確保

2019年12月決算会社で、有価証券報告書の「事業等のリスク」において新型コロナウイルスに言及している事例は下記のとおり。

アサヒグループホールディングス
(15)その他のリスク
新型コロナウィルス感染拡大の影響
 2019年末、中国で初めて確認され、提出日現在100を超える国や地域へ拡大している新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対して、当社グループでは、顧客、取引先及び社員の安全第一を考え、また更なる感染拡大を防ぐために、WHO並びに各国保健行政の指針に従った感染防止策の徹底をはじめとして、感染リスクが高い国や地域への、及びそれらの国や地域からの渡航の原則禁止、工場見学や販売促進企画等の多くのお客様にお集まりいただくイベントの休止や制限、国内でのテレワーク(在宅勤務)の原則化等、対応を実施しております。提出日現在、主要原材料の十分量確保、業務用商品の需要低迷を家庭用商品で補完する等により、事業影響の低減を図っておりますが、今後、事態が長期化又は更なる感染拡大やパンデミックにあたる状況が進行すれば、世界的な景気の悪化及び各種イベントの中止や延期等による酒類・飲料・食品の全体消費量の減少、原材料価格の高騰、又は原材料確保の困難等が生じ、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
日本ペイントホールディングス
③ 新型コロナウイルス等、感染拡大によるリスク
当社グループの従業員に新型コロナウイルス、インフルエンザ、ノロウイルス等の感染が拡大した場合、一時的に操業を停止するなど、当社グループの経営成績、財務状況等に影響を与える可能性があります。当社グループではこれらのリスクに対応するため、予防や拡大防止に対して適切な管理体制を構築しております。
特に今般世界的に感染が拡大した新型コロナウイルスに関しては、1月中に社長を本部長とする新型コロナウイルス感染対策本部を設置し、以後(1)在宅勤務、出張禁止、毎日の検温など、従業員の安全と健康を最優先にした対応の徹底、(2)生産、販売、在庫、物流状況の世界レベルでの把握、(3)感染者が発生した場合のBCP対策、(4)資金管理、(5)中国加油プロジェクトを始めとし、マスクの世界的な融通等様々なプロジェクトを実行し、これら施策を通じ、新型コロナウイルスの影響の極小化を図っております。

(3)MD&A
改正開示府令では、資本の財源及び資金の流動性に関する情報について、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向に対する経営者の認識を含め記載することと、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち重要なものを記載することが求められている。

第三号様式(記載上の注意)(10)(※第二号様式(30)から読み替え後 一部省略あり 網掛部分は主な改正部分)
a 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関して投資者が適正な判断を行うことができるよう、経営成績等の状況の概要を記載した上で、経営者の視点による当該経営成績等の状況に関する分析・検討内容を、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。なお、経営成績等の状況の概要には次の(a)から(d)までに掲げる事項を、経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容には次の(e)から(g)までに掲げる事項を含めて記載すること。
(a) 当連結会計年度(略)における事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとの経営成績の状況並びにキャッシュ・フローの状況(略)と比較して、その概要を記載すること。
(b) 当連結会計年度(略)における生産、受注及び販売の状況について、次に掲げる事項を記載すること。
ⅰ 生産、受注及び販売の実績(前年同期(略)と比較してセグメント情報に関連付けて記載すること。)
  また、生産、受注及び販売の実績に著しい変動があった場合には、その内容
ⅱ 生産能力、主要な原材料価格、主要な製商品の仕入価格・販売価格等に著しい変動があった場合、その他生産、受注、販売等に関して特記すべき事項がある場合には、セグメント情報に関連付けた内容
(c)(d) (略)
(e) 経営成績等の状況に関して、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者の視点による認識及び分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析)を(略)経営方針・経営戦略等の内容のほか、有価証券報告書に記載した他の項目の内容と関連付けて記載すること。また、資本の財源及び資金の流動性に係る情報についても記載すること。なお、経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、当該経営方針・経営戦略等又は当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
(f) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報の記載に当たっては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
(g) 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「第5 経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載すること。ただし、記載すべき事項の全部又は一部を「第5 経理の状況」の注記において記載した場合には、その旨を記載することによって、当該注記において記載した事項の記載を省略することができる。

新型コロナウイルス感染症の影響が重要である場合の記載上の留意点は下表のとおり。

主な記載内容 留意点
経営成績等の概要 前年同期との比較分析により、新型コロナウイルス感染症の影響を明確にする。
生産、受注及び販売の実績 ・新型コロナウイルス感染症の影響により、生産、受注及び販売の実績に著しい変動があった場合には、その内容を記載する。
・新型コロナウイルス感染症の影響により、生産能力、主要な原材料価格、主要な製商品の仕入価格・販売価格等に著しい変動があった場合、その他生産、受注、販売等に関して特記すべき事項がある場合には、セグメント情報に関連付けてその内容を記載する。
事業全体及びセグメントごとの経営成績等の状況に関する経営者の認識及び分析・検討内容、KPI ・新型コロナウイルス感染症が、経営成績等にどのような影響を与えたかを、経営者の視点から説明する。
・KPIがある場合には、KPIの目標値と実績の比較により、新型コロナウイルス感染症の影響を分析する。
・新型コロナウイルス感染症の影響によりKPIの目標値を変更した場合には、その変更の内容を説明する。
資本の財源及び資金の流動性に関する情報 新型コロナウイルス感染症が資金の流動性にどのような影響を与えたか、資金を確保するためにどのような資金調達方法を考えているかを記載する。
会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定 会計上の見積り及び仮定の設定にあたって新型コロナウイルス感染症の影響を反映させるとともに、その内容を記載し、会計方針を補足する。

2019年12月決算の有価証券報告書の「MD&A」において、新型コロナウイルス感染症に言及している事例は以下のとおり。新型コロナウイルスへの感染拡大は12月決算終了後であったため、当連結会計年度の経営成績等のKPIへの影響はなかったと考えられるが、3月決算会社の多くは新型コロナウイルス感染症の影響を記載することが予想される。

・次期KPIの目標値についてコロナウイルス感染拡大の影響を勘案している事例(ポーラ・オルビスホールディングス)
(経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)
当社グループは、2017年からスタートした4ヶ年中期経営計画において、4ヶ年平均の連結売上高成長率3~4%、連結営業利益成長率10%、2020年末時点のROE 12%の達成を目指してまいりました。次期(2020年12月期)の業績見通しにつきましては、COVID-19(新型コロナウィルス)感染拡大に伴うインバウンド需要等への影響を勘案し、売上高217,000百万円(前年同期比1.3%減)、営業利益31,200百万円(前年同期比0.2%増)、経常利益30,700百万円(前年同期比0.2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益20,000百万円(前年同期比1.5%増)を見込んでおります。『経営方針、経営環境及び対処すべき課題等』に記載の重点戦略に取り組み、目標とする経営指標の達成を目指してまいります。

記述情報は財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能とする。また、記述情報が開示されることにより、投資家と企業との建設的な対話が促進され、企業は経営の質を高めることができる。冒頭で述べたとおり新型コロナウイルス感染症の影響は投資家にとって関心の高い事項であり、その記載に当たっては、取締役会や経営会議における議論を反映することが必要になる。当然マイナスの情報も多くなることが予想されるが、当該リスクに対する対応策、経営戦略等を経営者がどのように考えているのかを投資家に対して分かりやすく伝えることにより、長期的には企業価値の向上につなげることが可能なはずだ。

2020/04/01 SSコードの「再改訂版」が確定、パブコメを踏まえた変更点は?

2019年12月12日のニュース「SSコード改訂案が公表、助言会社・企業間のコミュニケーション活発化も」でお伝えしたとおり、金融庁(スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会)は3年に一度実施することとされているスチュワードシップ・コードの改訂案をとりまとめ、昨年(2019年)12月20日から今年1月31日までパブリックコメントに付していたが、3月24日、これを「スチュワードシップ・コード(再改訂版)」(以下、確定版)として確定し、公表した。

パブリックコメントには、日本語で44、英語で23の意見が寄せられ、これらを踏まえて12月20日の当初案から若干の変更が行われている(パブリックコメントに寄せられた意見や回答はこちらを参照)。具体的な変更箇所は下表の4点となっている。・・・

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2020/04/01 SSコードの「再改訂版」が確定、パブコメを踏まえた変更点は?(会員限定)

2019年12月12日のニュース「SSコード改訂案が公表、助言会社・企業間のコミュニケーション活発化も」でお伝えしたとおり、金融庁(スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会)は3年に一度実施することとされているスチュワードシップ・コードの改訂案をとりまとめ、昨年(2019年)12月20日から今年1月31日までパブリックコメントに付していたが、3月24日、これを「スチュワードシップ・コード(再改訂版)」(以下、確定版)として確定し、公表した。

パブリックコメントには、日本語で44、英語で23の意見が寄せられ、これらを踏まえて12月20日の当初案
)から若干の変更が行われている(パブリックコメントに寄せられた意見や回答はこちらを参照)。具体的な変更箇所は下表の4点となっている。

 なお、パブリックコメントに付された12月20日案と、その少し前に公表された12月11日案では若干内容に違いがある(例えば、12月20日案では、指針4-1の脚注15が追加されている)。ここでいう当初案とは12月20日案を指す。
変更箇所 2019/12/20当初案 2020/3/24確定版
脚注9 本コードは、基本的には、基金型・規約型の確定給付企業年金及び厚生年金基金を対象とすることを念頭に置いている。 本コードは、アセットオーナーである企業年金について、基本的には、基金型・規約型の確定給付企業年金及び厚生年金基金を対象とすることを念頭に置いている。
脚注15 機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、自らがどの程度投資先企業の株式を保有しているかについて企業に対して説明することが望ましい。 株式保有の多寡にかかわらず、機関投資家と投資先企業との間で建設的な対話が行われるべきであるが、機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、自らがどの程度投資先企業の株式を保有しているかについて企業に対して説明することが望ましい場合もある
指針7-4 特に、運用機関は、持続的な自らのガバナンス体制・利益相反管理や、自らのスチュワードシップ活動等の改善に向けて、本コードの各原則(指針を含む)の実施状況を定期的に自己評価し、投資先企業との対話を含むスチュワードシップ活動の結果と合わせて公表すべきである。 特に、運用機関は、持続的な自らのガバナンス体制・利益相反管理や、自らのスチュワードシップ活動等の改善に向けて、本コードの各原則(指針を含む)の実施状況を定期的に自己評価し、自己評価の結果を投資先企業との対話を含むスチュワードシップ活動の結果と合わせて公表すべきである。
指針8-3 議決権行使助言会社は、企業の開示情報のみに基づくばかりでなく、必要に応じ、自ら企業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである。 議決権行使助言会社は、企業の開示情報に基づくほか、必要に応じ、自ら企業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである。

それぞれの修正箇所について、修正理由と企業に与える影響を確認しておこう。

脚注9は、アセットオーナーが運用機関に実質的なスチュワードシップ活動を促すことや自ら対話に取り組むことなどを求める指針1-3(下記参照)の冒頭の「アセットオーナー」に付されたものであるが、パブリックコメントで同指針の対象を企業年金等に限定する必要はないとの指摘があったことを受けて、確定版では、より広い主体がアセットオーナーに含まれることが明確となるように修正された。確定版で「アセットオーナーである企業年金について、」という一文が入ったことで、一見すると、むしろ指針1-3の対象を企業年金に限定するかのようにも見えるかもしれないが、指針1-3はあくまで全てのアセットオーナーを対象としており、そのうち「企業年金」については基金型規約型を対象としていることを明確にするのが、「アセットオーナーである企業年金について、」という一文を入れた趣旨である。この点は、金融庁が確定版の3ページ「三 パブリックコメントを踏まえた対応 2」で「本コードの対象を企業年金等に限定するように誤解されかねないとのご指摘」を踏まえた修正だと述べていることからも確認できる。すなわち、この修正は、公的年金はもちろん生損保などもスチュワードシップ責任を有することを再認識するものということになる。

基金型 : 確定給付企業年金(給付額が保障された年金)の1つで、母体企業から自社から独立した法人である基金(企業年金基金)を設立し、その基金が年金資産を管理運用する。
規約型 : 企業が保険会社や信託銀行等と契約を結び運営される確定給付年金のこと。保険会社や信託銀行等は、企業に代わり、給付に必要な保険料(掛け金)を集め、集めた資金を運用し、社員に給付する。

※赤字は今回の改訂による変更部分(以下同)
指針1-3.
アセットオーナーは、最終受益者の視点を意識しつつ、その利益の確保のため、可能な限り自らの規模や能力等に応じ、運用機関による実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関に促すべきである。アセットオーナーが直接、議決権行使を伴う資金の運用を行う場合には、自らの規模や能力等に応じ、自ら投資先企業との対話等のスチュワードシップ活動に取り組むべきである。また、自ら直接的に議決権行使を含むスチュワードシップ活動を行わない場合には、運用機関に、実効的なスチュワードシップ活動を行うよう求めるべきである。

脚注15は、機関投資家(主に運用機関)に対して投資先企業との対話を通じた認識の共有を図ることを求める指針4-1の「投資先企業との間で建設的 に行うこと」に付されたもの。当初案の脚注15は、対話の際、投資家は「保有株式数」についてのみ企業に説明すべることが望ましいとしており、企業からすれば、保有数に応じて投資家と対話するか否か、どの程度認識の共有を図るかを判断すればよいという解釈もあり得るものとなっていた。そこで確定版では、「株式保有の多寡にかかわらず」との一文を入れることで、企業は保有されている株式数によって投資家を選別することなく、対話に応じるべきことが明確にされた。

指針4-1.
機関投資家は、中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、その持続的成長を促すことを目的とした対話を、投資先企業との間で建設的に行うことを通じて、当該企業と認識の共有を図るよう努めるべきである。なお、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえ、当該企業の企業価値が毀損されるおそれがあると考えられる場合には、より十分な説明を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。

指針7-4は、従来から「スチュワードシップ・コードの実施状況に関する自己評価」を公表すべきとしていたが、今回の改訂案では「スチュワードシップ活動の結果」が公表対象に加えられている。さらにパブリックコメントを経た確定版では「自己評価の結果を」という文言が追加され、その公表を念押ししている。続いて今回の改訂案では、スチュワードシップ活動の結果や自己評価の結果は「自らの運用戦略と整合的で、中長期的な企業価値の向上や企業の持続的成長に結び付くものとなるよう意識すべき」としている。これは、「スチュワードシップ活動の結果」を開示すべきとの要請が独り歩きして短期的な株主還元など安易な成果を企業に強いたりしないよう、あくまでも「投資先企業の持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る」というスチュワードシップ・コードの目的(本コードの目的 5. 参照)を踏まえることが重要という趣旨である。

指針7-4.
機関投資家は、本コードの各原則(指針を含む)の実施状況を適宜の時期に省みることにより、本コードが策定を求めている各方針の改善につなげるなど、将来のスチュワードシップ活動がより適切なものとなるよう努めるべきである。特に、運用機関は、持続的な自らのガバナンス体制・利益相反管理や、自らのスチュワードシップ活動等の改善に向けて、本コードの各原則(指針を含む)の実施状況を定期的に自己評価し、自己評価の結果を投資先企業との対話を含むスチュワードシップ活動の結果と合わせて公表すべきである。その際、 これらは自らの運用戦略と整合的で、中長期的な企業価値の向上や企業の持続的成長に結び付くものとなるよう意識すべきである。

今回の改訂で新設された指針8-3は、同じく今回の改訂で新設された機関投資家向けサービス提供者、すなわち議決権行使助言会社の責任に関する原則8を受けたもので、議決権行使助言会社に「自ら企業と積極的に意見交換」することを求めている。当初案では「企業の開示情報のみに基づくばかりでなく」とされていたが、パブリックコメントで企業側が情報開示に消極的になる恐れを指摘する意見が寄せられたため、「企業の開示情報に基づくほか」へと表現が弱められた。これには、株主総会シーズン中、議決権行使助言会社は多忙を極めており、対話の機会を確保することが容易でないことも影響している。まずは必要十分な情報開示を尽くした上で、必要に応じて議決権行使助言会社に対話を求めることが、企業側の望ましいスタンスと言えそうだ。

指針8-3.
議決権行使助言会社は、企業の開示情報に基づくほか、必要に応じ、自ら企業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである。助言の対象となる企業から求められた場合に、当該企業に対して、前提となる情報に齟齬がないか等を確認する機会を与え、当該企業から出された意見も合わせて顧客に提供することも、助言の前提となる情報の正確性や透明性の確保に資すると考えられる。
原則8.
機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。

2020/03/31 【2020年4月の課題】リモートワークの法的問題点

2020年4月の課題

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在宅勤務、テレワーク等のリモートワークに移行する企業が急増しています。

また、新型コロナウイルス問題が収束した後も、今回の経験を活かす形で、リモートワークが広がるのではないかとの見方もあります。

ただ、リモートワークには様々な法的問題が伴います。リモートワークを採用するにあたり、企業としてはどのような法的問題に留意すべきか、検討してみてください。

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2020/03/31 2020年3月度チェックテスト

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【問題1】

いわゆる“リクナビ事件”を契機として個人情報保護法を改正する動きがあるが、実際に改正の影響を受けるのは人材紹介関連事業者に限定される見込みである。


正しい
間違い
【問題2】

新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的として「リアル株主総会」を開催しない上場会社が増えている。


正しい
間違い
【問題3】

サイバーリスク保険では、ランサムウェアにより要求され支払った「身代金」は補償対象外とされている。


正しい
間違い
【問題4】

連結財務諸表の注記の一つであるセグメント情報の開示にあたっては、事業セグメントを集約せずにそのまま報告セグメントとしなければならない。


正しい
間違い
【問題5】

有価証券報告書のMD&Aでは、セグメント情報のくくりを連結財務諸表のセグメント注記の開示単位と一致させなければならない。


正しい
間違い
【問題6】

新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から棚卸を延期や中止にすることは可能であるが、その結果、監査人が除外事項が付いた監査意見を表明したり、場合によっては意見不表明の事態になったりする可能性は否定できない。


正しい
間違い
【問題7】

日本でも女性取締役がいる企業は増えてきており、TOPIX500採用銘柄に限定すれば、女性取締役がいない企業の割合は英国のFTSE350やカナダのトロント証券取引所の上場企業700社に匹敵する水準と言える。


正しい
間違い
【問題8】

国会に提出された著作権法改正法案が可決・施行されると、違法にアップロードされた著作物のリンク情報を集約したいわゆる「まとめサイト」への規制が強化され、リンク提供者、サイト運営者、アプリ提供者、プラットフォーム・サービス提供者それぞれに刑事罰を科すことが可能になる。


正しい
間違い
【問題9】

2022年3月期から有価証券報告書の定性的情報について監査人のチェックが強化されることが予想される。


正しい
間違い
【問題10】

出納担当者は経理担当者を兼ねるべきではない。


正しい
間違い

2020/03/31 2020年3月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
出納担当者が経理担当者を兼ねることを認めると、当該担当者が着服をした場合に着服を隠ぺいするための会計処理を行い発覚を遅らせることが可能になり、発覚が遅れて被害額が拡大する傾向にあります。上場会社の経営陣としては、自社グループ内で経理と財務がしっかりと分離されているか、子会社も含め再点検をしておくべきです。

こちらの記事で再確認!
2020年3月30日 【失敗学第70回】アドベンチャーの事例(会員限定)