2020/03/30 【失敗学第70回】アドベンチャーの事例(会員限定)

概要

アドベンチャー(マザーズ)の子会社ギャラリーレア(ブランド品のバッグの買取りや販売を行う店舗「GALLERY RARE」のほか、「TIMEZONE」の名称で時計専門店を展開)において、女性経理課員が約2億5千万円の会社資金を着服していた。

経緯

アドベンチャーが2020年3月13日に調査委員会の調査報告書を公表するまでの経緯は次のとおり。

2016年
5月:X氏(女性)がギャラリーレアに入社し、経営管理部経理課に配属。
10⽉25⽇:X氏が着服を開始。

2018年
11⽉30⽇:アドベンチャーがギャラリーレアの株式の約8割を取得し、同社を子会社化する。

2020年
1月14日:ギャラリーレアにおいて、同社の社員が経費精算に関する銀行口座の支払履歴を確認していたところ、同社の銀行口座からX氏個人名義の銀行口座へ振り込みが行われていることに気付く。
1月15日:ギャラリーレアで極秘裏に調査を行った結果、同社の銀行口座からX氏個人の銀行口座への振り込みの履歴が多数見つかる。また、X氏による経理関係資料の改竄も発覚する。
1月16日:X氏がギャラリーレアに出社した直後に、X氏の上司らがX氏を問い質したところ、X氏が自らの不正行為の事実を認める。その後、上司らはX氏とともにX氏の居住しているマンションへ向かい、着服した資金で購入したと想定されるブランド品、保有している通帳、クレジットカードなど証拠となるもの⼀式をX氏同意の元で提出させる。その間、社内ではデータ保全のためにX氏が使用していた業務PCのパスワードを変更し、X氏がデータにアクセスできないようにする。
1月22日:ギャラリーレアは社内調査報告書をまとめ、アドベンチャーに提出。
1月23日:アドベンチャーは外部の有識者らによる調査委員会を設置(リリースはこちら)。
3月13日:アドベンチャーは調査委員会の調査報告書を公表。

内容・原因・改善策

アドベンチャーが公表した2020年3月13日付の調査委員会の調査報告書によると、本件不正行為の原因、再発防止策は次のとおりとされている。

子会社経理部員による着服
内容 アドベンチャーの子会社であるギャラリーレアの経理課X氏が会社資金を着服し、主にブランド品の購入、旅行、飲食、美容整形および借金の返済に使っていた。主な手口は下記の2つ。

(Zシステムを通じた着服)
ギャラリーレアでは、ウェブを通じて海外向けにも中古ブランドバックなどを販売している。そして海外の顧客が支払った商品購入代金はいったんZシステム(海外のカード会社が構築したシステムで、商品の売り手と買い手の入出金を仲介する機能を持つ)の口座に入金され、そこから売り手の口座やギャラリーレアの口座に振替を行うこととなる。ギャラリーレアでZシステムの操作を担当していた経理課X氏は、会社に無断でZシステムの口座から自分の銀行口座へ振込処理を行っていた。

(総合振込を通じた着服)
X氏は経費精算システムから総合振込用のFBデータ(ファームバンキング用のデータ)をエクスポートしたあとに、会社に無断でX氏の口座と振込金額をFBデータに追加する加工を施し、当該加工後のFBデータを加工の事実を知らない総務課振込担当者に渡して、振込みを実行させた。

原因 (動機)
X氏の嗜好
・X氏は昔からブランド品が好きであったところ、ギャラリーレアへ入社してブランド品との距離がより近くなったことで、その欲望を止めることができなくなった。欲しいブランド品を購入するためには多額のお金が必要であった。
・X氏は海外旅行も好きであったが、過去に蓄えていた貯金が無くなってきたことで海外旅行を我慢せざるをえなかった。着服をきっかけとして横領した金で頻繁に香港やシンガポール、韓国などに海外旅行へ行くようになり、飛行機やホテルも高級なクラスを利用するようになった。
・X氏は入社当初より派手な格好をしており、周りの社員に対して「ブランド品は恋人からもらったものである」と説明していた。

(機会)
Zシステムの欠陥
Zシステムの仕組み上、会社名義以外の口座を振込先口座として登録することが可能であった。
社内におけるZシステムのブラックボックス化
ギャラリーレアでは、Zシステムの仕組みをX氏以外誰一人として理解していなかった。X氏の上席者はZシステムの管理画面に表示されている残高がすでにギャラリーレアの管理下にあるということを理解しておらず、Zシステムの管理画面を確認することもなかった。同社ではZシステムの残高を売掛金として会計処理していたこともあり、X氏が作成するZ口座の残高(売掛金)がX氏の着服により膨れ上がっていても、「これから回収が必要になる金額」が増えた程度の認識であった。
マニュアルの不存在
ギャラリーレアにおいて、Zシステムの仕組みを理解するためにマニュアルを作成しようという動きがあったが、X氏が拒んだ。
監査法人の残高監査の不実施
ギャラリーレアはアドベンチャーが買収する前から上場準備をしていたことから、アドベンチャーの監査法人とは別の監査法人がギャラリーレアに対して金融商品取引法監査に準じた監査を行っていた。その監査法人がZ社に残高監査を実施すればZ口座の残高が実際は帳簿額よりも過少であることが発覚したはずであるが、監査法人はZ社が海外のカード会社であり、売上高の占める比率も少ないことからリスクは高くないと判断し、残⾼確認書の発送を行っていなかった。
他部門によるチェックの不存在
・総合振込の結果である「総合振込精査表」は総務課が出力して紙面で保管している。この内容を総務課担当者が逐一証憑と照合すれば、経理X氏の横領はすぐに判明したはずである。しかし、既に各部署からの申請に基づき総務課および経理課において精算内容のチェックが済んでいることから、総務課担当者は支払い時にあらためて証憑と照合し直すことはしていなかった。
・総務課担当者は、総合振込精査表の件数および総額をチェックしていた。しかし、「総合振込精査表の件数および総額のチェック」に用いられるデータ(あるべき件数、総額)は、そもそもX氏が加工したデータ(各部署から申請された「件数、金額」にX氏への横領分を加味したデータ)であり、そのチェック方法では着服が発覚するはずもなかった。X氏は総務課担当者のチェックの限界を熟知したうえで不正行為を続けていた。ただ偶発的に発覚するリスクはあったため、X氏としては「総合振込精査表」の1ページ目に自身への振込みが表示されないように振込順を工夫していた(2ページ目以降であれば目に留まりにくいため)。
上司の不十分なチェック
ギャラリーレアでは、X氏が起票した仕訳を会計システム上、上司が承認する統制が適切に運用されていなかった。また、X氏が作成する決算関係書類について、根拠証憑と計上残高の照合を上司が承認する統制も適切に運用されていなかった。
財務と会計の未分離
X氏は、ギャラリーレアの預金口座から着服を行っている際は、監査法人が金融機関に残高確認を行い、帳簿残高と金融機関の回答額が異なることで不正が発覚することを恐れ、店舗の現金残高や他社への預け金残高を増加させる架空の仕訳や架空の広告宣伝費といった実際の支払いを伴わない費用に関する架空の仕訳を起票して隠蔽を行っていた。また、店舗の現金残⾼を増加させたことを隠蔽するため、店舗の日計表を偽装し、店舗責任者のサインを真似て記載したり、他社への預け金残高を増加させたことを隠蔽するため、虚偽の違算明細を作成し、監査法人に説明を行ったりしていた。
X氏への信頼
X氏は、ギャラリーレアの役職員を問わず、経費精算等に当たり証憑との整合を求めるなど、厳しい姿勢で臨む経理担当者であるとの評価を受けていた。そのためギャラリーレアの役職員らはX氏が保有するブランド品について「恋人からもらっている」との説明を信じこそすれ、同社から着服したお金で買っているのではないかなどと不正を疑う者は誰一人いなかった。また、X氏はある時期を境に急に派手になったのではなく、入社当時から派手な格好をしていたため、変化を契機として不正を疑われることもなかった。
社員を信頼する組織風土
ギャラリーレアには社員を信頼し任せるという組織風土があり、不正への備えが弱かった。
不十分な内部監査室監査・監査役監査
内部監査室は、現金等を扱う店舗や本社の他の事業部門でのリスクが高いことを踏まえ、店舗等での監査を重点的に行っていたため、総合振込のシステムやZシステムにおける不正リスクについて思いが至らず、経理に対する内部監査が十分に行われていなかった。また、アドベンチャーの監査役は、ギャラリーレアが子会社になったことを踏まえインサイダー取引等の情報管理や、不正のリスクが比較的大きいと考えられた稟議書や会議費・交際費の精算関係を重点的に監査するなどしていたが、総合振込やZシステムでの運用状況についての監査は実施しておらず、内部監査同様、監査役による監査においても、経理に対する監査は重視されてはいなかった。
脆弱な子会社管理体制
アドベンチャーの経営陣は、ギャラリーレアが上場に向け監査法人の監査を受けていたことから、他の子会社とは異なり管理の必要性をさほど認識していなかった。

再発防止策 業務フローの整備・運用
・総合振込を始めとする各業務フローにおいて各支払内容および金額について証憑との突合せを徹底する。
・経理課内および他部門でのダブルチェック体制を整備するとともに、⼀定期間経過後の担当者の人事異動やそれが難しい場合の担当者の⼀部業務の変更、担当者が夏休みなどの業務を停止している間に他者に業務を引き継ぐなどの相互の牽制機能を強化する。
・預金残高や売掛金残⾼等の決算関係数値および担当者が入力した仕訳について、上司が 証憑と照合して承認する体制を構築する。
組織の不正リスク及びコンプライアンスに対する意識等の改善
・トップがコンプライアンス・リスク管理を重視する姿勢を鮮明にする。
・取締役会において不正リスクに関する議題を意識的かつ定期的に取り上げ、役職員の不正リスクに対する意識や感度が鈍磨しないようにする。
・コンプライアンス委員会においてコンプライアンス・リスク管理の意識を高めるための役職員の教育、研修の計画を立て、これらを実施し、定期的に取締役会に報告する。
・本件不正行為を踏まえ、コンプライアンス委員会において、潜在的な不正行為のリスクを洗い出し、そのリスクが顕在化した場合の会社経営に与える影響度合いを検証し、リスクの度合いに応じて優先的に対策を講じ、取締役会に報告する。
・内部通報制度の趣旨、内部通報制度に該当し得る事例について周知、徹底を図り、内部通報制度の周知等の方法や通報の有無等を含め、コンプライアンス委員会および取締役会に定期的に報告する。
監査の強化
従来重点を置いていた店舗監査に加え、本社業務の監査を強化する。具体的には、証憑のチェックを行っていない慣行が許容されていたことに鑑み、支払いの際に証憑との突合せをきちんと行っているかという観点からの監査を充実させる。また、X氏の業務のブラックボックス化を許してしまった組織体制を検証し、このような業務の固定化を回避し、ブラックボックスを許容しないよう、内部監査室と監査役が連携し、内部牽制機能強化のための対策が講じられているかどうかチェックし、改善指導を行う。
⼦会社管理体制の強化
関係会社管理規程に基づき、経営管理部や内部監査室において、グループ会社の内部監査担当者等から内部統制上の問題等の情報を入手し、グループ会社に対し改善指導を行ったり、その指導の内容を他のグループ会社に横展開できるような情報共有体制を構築するなどの管理体制を強化する。
<この失敗から学ぶべきこと>

またもや経理と財務の未分離を原因とする横領が発覚しました(【失敗学第65回】パートナーエージェントの事例 を参照)。経理と財務の担当を分離しなければ、着服の事実に気付きにくくなり、発覚が遅れて被害額が拡大する傾向にあります。上場会社の経営陣としては、自社グループ内で経理と財務がしっかりと分離されているか、子会社も含め再点検をしておくべきです。

本件において総務課担当者が総合振込精査表の件数および総額のチェックに使っていた「あるべき件数、総額」のデータは、そもそもX氏が加工したデータでした。照合にあたっては、加工されていないオリジナルのデータと照合する仕組みにすべきです。上場会社の経営陣としては、内部統制の整備状況を確認する際に、「この担当者は何と何を照合していて、そのチェック方法は不正に対して有効なのかどうか」を再確認しておくべきです。

本調査委員会報告書には「X氏が身に着けているブランド品等がその給与に見合わないものである」ことを社内の役職員の誰もが認識していたとあります。また、調査委員会のヒアリングにおいて、「冷静に考えれば、経理を長年やっていて、服装が派手で、どうして気づかなかったのか。」と述べる者もいたそうです(調査報告書27ページ)。給与に見合わない高級車への買い替え、ギャンブル癖、ブランド品好き、派手な交際活動など着服を疑うきっかけは様々ですが、監査役や内部監査担当者は健全な懐疑心をもって職務を遂行する必要があります。

2020/03/27 有報の「その他の記載内容」について監査人との見解相違を防ぐ方法

既報のとおり、金融庁に設置された企業会計審議会・監査部会は、2022年3月期から有価証券報告書(以下、有報)の財務諸表以外の非財務情報や事業報告の内容(以下、その他の記載内容)について、従来の監査報告書に独立した区分を設けたうえで、会計監査人(以下、監査人)に対し「その他の記載内容」を特定するとともにそれに関する監査人の責任や作業の結果の記載を求めるべく監査基準を改正する方向となっている(2019年11月18日のニュース『有報「その他の記載内容」への監査人の関与強化策導入の影響』、【2020年1月の課題】「その他の記載内容」のチェックポイントと企業に求められる対応 参照)。こうした中、企業会計審議会監査部会が2020年3月23日に公表した「監査基準の改訂について(公開草案)」で、その具体的な内容が明らかになった。・・・

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2020/03/27 有報の「その他の記載内容」について監査人との見解相違を防ぐ方法(会員限定)

既報のとおり、金融庁に設置された企業会計審議会・監査部会は、2022年3月期から有価証券報告書(以下、有報)の財務諸表以外の非財務情報や事業報告の内容(以下、その他の記載内容)について、従来の監査報告書に独立した区分を設けたうえで、会計監査人(以下、監査人)に対し「その他の記載内容」を特定するとともにそれに関する監査人の責任や作業の結果の記載を求めるべく監査基準を改正する方向となっている(2019年11月18日のニュース『有報「その他の記載内容」への監査人の関与強化策導入の影響』、【2020年1月の課題】「その他の記載内容」のチェックポイントと企業に求められる対応 参照)。こうした中、企業会計審議会監査部会が2020年3月23日に公表した「監査基準の改訂について(公開草案)」で、その具体的な内容が明らかになった。

監査報告書 : 経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて監査人の監査意見を述べた報告書のこと。

本公開草案では、監査基準の第四 報告基準に「八 その他の記載内容」が新設され、監査人は「その他の記載内容」を通読し、その他の記載内容と財務諸表または監査人が監査の過程で得た知識との間に「重要な相違」があるかどうか検討しなければならないこと、および財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない内容についても「重要な誤りの兆候」に注意を払わなければならないことが明記されている(八の1参照)。

そして、監査人が「重要な相違」や「重要な誤り」に気付いた場合には、経営者や監査役等と協議を行うなど、追加の手続きの実施が求められることになる(「監査基準の改訂について(公開草案)」の(2) 「その他の記載内容」に対する手続 を参照)。仮に「その他の記載内容」に重要な誤りがあれば、経営者は「その他の記載内容」を修正するのは当然として、監査役等も、「その他の記載内容」に重要な相違または重要な誤りがある場合には、経営者に対して修正するよう積極的に促すことが求められる。

監査役等 : 監査役、監査役会、監査等委員会または監査委員会

問題は、経営者と監査人との間に見解の相違が生じた場合だ。「重要な誤り」であれば経営者も認めざるを得ないだろうが、例えば有報のリスク情報(【事業等のリスク】)において、経営者としては「記載すべきリスク」とは考えていないリスクを監査人が「記載すべき」と判断することは十分あり得る。この場合、経営者と監査人は協議をすることになるが、協議を経ても経営者が記載に応じないのであれば、監査人としては、リスク情報に「重要な誤り」(記載が必要なリスクがあるにもかかわらず記載されていないという誤り)がある以上、監査報告書にその旨およびその内容を記載せざるを得ない。これは、財務諸表に対する不適正意見に相当するほどのインパクトがある(不適正意見については(新用語・難解用語)意見不表明 参照)。「経営者が虚偽記載のある有報(事業報告)を開示した」との監査人の判断結果は、監査報告書を通じて投資家の知るところとなる。その結果株価が大幅に下落すれば、経営者や監査役等が株主代表訴訟を提起されるリスクは否定できない。

こうした事態を避けるためには、企業は監査人と、財務諸表だけでなく「その他の記載内容」についてもこれまで以上にディスカッションする必要がある。それには、有報のドラフトを監査人に提出する日を従来よりも早めることが望ましい。ギリギリのスケジュールで提出しているようでは、ディスカッションの時間を十分に確保できないからだ。

例えば「その他の記載内容」のうち【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】のような決算が締まらなくてもドラフトを作成できる項目は、決算日よりも前に原稿を作っておくべきだろう。また、見解の相違が生じるのは主に定性的情報であるため、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】のように決算数値が必要となる項目であっても、定量的な数値を空欄にした定性的な情報(例えば「経営者の視点による当該経営成績等の状況に関する分析・検討内容」「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」のうち決算数値以外の記述など)のみのドラフトを事前に作成しておき、監査人に提出するのも一案だ。こういった工夫は、監査人とのディスカッションのための時間確保だけでなく、有報開示の早期化にもつながるだけに、積極的に取り組みたい。

2020/03/26 コロナ問題長期化で現実味 “出席者ゼロ”でも株主総会は有効に成立するか?

新型コロナウイルス感染症問題の長期化で3月決算企業の定時株主総会にも影響が及ぶ可能性が高まってきた。ここ数日で多くの12月決算企業の定時株主総会が開催されているが、新型コロナウイルス対策を打ち出す企業が目に付く。

例えば、・・・

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2020/03/26 コロナ問題長期化で現実味 “出席者ゼロ”でも株主総会は有効に成立するか?(会員限定)

新型コロナウイルス感染症問題の長期化で3月決算企業の定時株主総会にも影響が及ぶ可能性が高まってきた。ここ数日で多くの12月決算企業の定時株主総会が開催されているが、新型コロナウイルス対策を打ち出す企業が目に付く。

例えば、キヤノンは3月27日に定時株主を開催するが、3月5日には株主に向けて「当社第119 期定時株主総会における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた対応について」と題するリリースを出している。ポイントは下記のとおり。

・受付で検温し、発熱があると認められる場合は入場を拒否
・検温に時間がかかるため、早めの来場を呼び掛け
・体調不良と見受けられる株主には同社運営スタッフが声掛け
・会場内でのマスクの常時着用と、受付での手のアルコール消毒への協力要請
・隣と1席空けての着席を要請する場合がある
・同社運営スタッフはマスク着用で応対
・高齢者や基礎疾患のある株主には出席見合わせと、書面・インターネットによる議決権行使を要請
・株主総会当日、風邪のような症状があったり体調がすぐれない場合は出席見合わせを要請

キヤノンの対応を標準的なものとすると、これよりかなり踏み込んだ対応方針を示したのが、同じく3 月27日に定時株主総会を開催する楽天だ。同社は新型コロナウィルス感染症への対応方針を状況の変化に応じて更新しているが、直近の3月24日に出した3回目のリリースでは、「健康状態によらず」来場を見合わせ、議決権行使には書面またはインターネット等を活用するよう呼び掛けている。3月12日の最初のリリースでは、キヤノンと同様、高齢者や基礎疾患のある株主、妊娠のほか、「ご心配やご不安のある方」に対し出席を見合わせるよう呼び掛けるにとどまっていたが、2回目のリリースから「健康状態によらず」との文言が加わった。さらに3回目のリリースに盛り込んだ「感染防止のため開催時間を短縮する観点から、議場における報告事項(監査報告を含む)および議案の具体的な説明を省略する」という方針は画期的と言える。

株主総会の時間が短縮され、しかも「来場を見合わせて欲しい」と言われると、株主としてはなかなか出席しづらいであろう。結果として、楽天の今年の定時株主総会は出席者がゼロもしくはそれに近い状態となる可能性もある。

そうなると気になるのが、株主総会の有効性だ。現行会社法では、株主総会の招集に際してはその「場所」を定めなければならない(会社法298条1項1号)とされているため、物理的に存在する会場で開催する「リアル株主総会」の開催を伴わないバーチャル株主総会の開催は会社法の解釈上困難とされている。経済産業省などがハイブリッド型バーチャル株主総会を提唱しているのもこのためだ(ハイブリッド型バーチャル株主総会については2020年3月4日のニュース「新型コロナ対策で富士ソフトがハイブリッド型バーチャル株主総会」も参照)。

しかし結論から言えば、仮に楽天の株主総会の出席者がゼロであったとしても、株主総会は有効に成立することになる。その理由としてまず、通常の株主総会では書面による議決権行使制度を使って相当数の議決権行使書面が返送されてきているはずであり、それだけでも株主総会開催の定足数が満たされ、かつ、議案への賛成票が確保できているのが一般的であることが挙げられる。特に楽天の場合は、三木谷会長兼社長自身の持株比率が12.29%(2019年12月31日現在。以下同)に上るほか、筆頭株主である資産管理会社の合同会社クリムゾングループが15.78%、妻の晴子氏が9.24%を保有しており、両者は委任状の提出により「会場出席」となっているものと思われることから、何の問題もなく株主総会は有効に成立する状況にあるはずだ。

書面による議決権行使制度 : 株主による議決権行使を促すための制度として認められているもので、議決権行使書面に必要な事項を記載して会社に提出することにより、議決権を行使することができ、株主総会に出席した株主の議決権の数に算入される(会社法311条1項、2項)。書面による議決権の行使は、株主総会日直前の営業時間の終了時が期限となる(会社法施行規則69条)。
定足数 : 決議が有効なものとなるために最低限必要な出席議決権数のこと。この定足数要件を満たさない決議は無効となる。例えば株主総会の普通決議は「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」のが原則とされる。ただし、多くの上場会社は、「“出席した”議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う」といった規定を定款に設けており、極端な例では、株主総会に出席したのが議決権を1個有する株主1人のみでも株主総会決議は成立することになる。

これから定時株主総会を迎える3月決算企業も、今後の状況次第では、“楽天方式”を検討する余地は十分にあろう。













2020/03/25 「リスク」と「チャンス」が併存 著作権法改正の企業への影響

著作権法改正案が(2019年)3月10日に閣議決定され、国会に提出されたが、本改正案が企業にどのような影響を与えるのか、不透明な部分が少なくない。本改正案には、インターネット上に違法にアップロードされた“海賊版”を違法にダウンロードすることを禁止する改正のほか、著作物を円滑に利用できるようにする改正も含まれている。本稿では、著作権法改正法案のうち、企業に影響がありそうな項目を中心に解説する。・・・

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2020/03/25 「リスク」と「チャンス」が併存 著作権法改正の企業への影響(会員限定)

著作権法改正案が(2019年)3月10日に閣議決定され、国会に提出されたが、本改正案が企業にどのような影響を与えるのか、不透明な部分が少なくない。本改正案には、インターネット上に違法にアップロードされた“海賊版”を違法にダウンロードすることを禁止する改正のほか、著作物を円滑に利用できるようにする改正も含まれている。本稿では、著作権法改正法案のうち、企業に影響がありそうな項目を中心に解説する。

◆海賊版対策
今回の著作権法改正では、いわゆる「漫画村」などの海賊版サイトにより正規のコンテンツホルダーの権利が著しく害されていることから、「リーチサイト規制」「ダウンロード違法化」という2つの規制が設けられる。前者の「リーチサイト規制」については、一般の企業の従業員が対象になることは想定しづらい一方、「ダウンロード違法化」の方は、違法著作物を利用する手前の「ダウンロード」を行った時点での規制であり、違法と知りながら有用と思われるインターネット上の著作物を収集する行為は“カジュアル”に行われているといっても過言ではない。

漫画村 : 海賊版の漫画ビューアー(コンピュータ上のデータやファイルなどの対象物を表示・閲覧するためのソフトウェア等)サイト。2016年1月に開設され、2018年4月に閉鎖した。約3,000億円分の出版物がタダ読みされ、漫画家・出版社の収入・売上が20%減少したとの試算もある。
リーチサイト : 違法にアップロードされた著作物のリンク情報を集約したいわゆる「まとめサイト」のこと。

以下、それぞれの規制の内容を見てみよう。

(1)リーチサイト規制
リーチサイトとは、違法にアップロードされた著作物のリンク情報を集約したいわゆる「まとめサイト」のこと。規制対象は、「公衆を侵害コンテンツに殊更に誘導するものと認められるウェブ・アプリ」「主として公衆による侵害コンテンツの利用のために用いられるものと認められるウェブ・アプリ」である。

リンク提供者に対しては民事措置が可能であるほか、刑事罰(3年以下の懲役・300万円以下の罰金(併科も可))が科される。サイト運営者・アプリ提供者にはより厳格な刑事罰(5年以下の懲役・500万円以下の罰金(併科も可))が科される。ただし、いずれも親告罪となる。

親告罪 : 被害者による訴えがなければ刑事訴追ができない犯罪類型

なお、自ら直接的にサイト運営・アプリ提供を行っていない「プラットフォーム・サービス提供者」(ヤフーやGoogle等)は規制の対象としないことが明確化された。

(2)ダウンロード違法化
これは、違法にアップロードされた著作物と知りながらダウンロードすることを「厳格な要件」の下で違法とする規制である。

現行法でも、違法にアップロードされたことを知りながら「音楽・映像」をダウンロードすることは違法とされているが、今回、「音楽・映像」以外の著作物(漫画・書籍・論文等)も新たに規制対象とする。

もっとも、インターネットには違法にアップロードされた著作物が溢れており、これらをダウンロードすることを一律に規制すれば、国民生活に多大な影響をもたらしかねないため、規制対象とするにあたっては厳格な要件が課されることになった。例えば、「漫画の1コマ~数コマなどの軽微な著作物」や「二次創作物やいわゆるパロディ」は対象外とされた。また、違法にアップロードされていることを「知りながら」ダウンロードされる場合が対象となり、たとえ重過失があっても、「知らなければ」対象外となる。

二次創作物 : 原作となる創作物に登場するキャラクター等を利用し、二次的に創作されたもの。具体例としては、原作とは異なる独自のストーリーの小説、漫画、フィギュア、ポスター、カードなどが挙げられる。

上記の要件に当てはまる著作物の違法ダウンロードに対しては民事措置が可能となる。一方、刑事罰は正規版が「有償で」提供されている場合、かつ、違法ダウンロードを「継続的に又は反復して行う場合」に限定され、これらの要件に当てはまれば、「2年以下の懲役・200万円以下の罰金(併科も可)」が科される。

◆著作物の利用円滑化
上記の「リーチサイト規制」や「ダウンロード違法化」に比べあまりクローズアップされていないが、今回の著作権法改正には、「規制」のみならず、著作物の利用を円滑にするための改正も含まれる。具体的には以下のとおり。

(1)著作物のライセンスを受ける権利の対抗制度の導入
今回の改正では、著作者から許諾を受けて著作物を利用する権利(ライセンスを受ける権利)を、たとえ著作権が他者に譲渡された場合であっても、著作権の譲受人に対して対抗すること(利用の継続を求めること)ができる仕組みが導入された。特許法では既に同様の仕組みが設けられている。

これにより、ライセンシー(著作権を利用することについて許諾を受けた側)は、ライセンサー(著作権を保有する側)の事業売却のリスクから保護されることになる。著作物のライセンスを受けてビジネスを展開する事業者にとっては、事業の安定に資する改正と言える。

(2)「写り込み」に係る権利制限規定の対象範囲の拡大
著作権法では、著作者の権利を「著作権」として保護する一方で、著作権の利用を円滑にするために、一定の場合に著作権を制限している(これを「権利制限」という)。
 
この「権利制限」の1つとして、著作権法では、「写真撮影・録画・録音」を行った際に写り込んだ著作物(いわゆる「写り込み」)をその対象としてきたが、今回の改正では、スクリーンショット(いわゆる「スクショ」)やインターネット生配信等を行う際の映り込み等、「広く複製を伴わない伝達行為全般」を権利制限の対象に含める。デジタル技術の進展に著作権法を合わせた格好だ。

これにより、デジタル技術を使った様々なビジネスにおいて、著作物の写り込みによる“意図せざる著作権法違反”のリスクから相当程度解放されることになる。一方で、当然のことながら、経済的利益を得るためにあえて著作物を入れ込む等の濫用的な利用は禁じられている点には留意する必要がある。

企業としては、今回の著作権法改正を、従業員に同法に触れる行為をしないよう十分な啓発を図る機会にするとともに(特に「ダウンロード違法化」)、著作権を活用したビジネスを推進するチャンス(特に「著作物のライセンスを受ける権利の対抗制度の導入」)としたいところだ。

2020/03/24 気候関連情報の開示を求める株主提案が「定款変更議案」であった理由

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

NPO法人の気候ネットワーク(以下、気候ネット)は3月16日、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)に対して株主提案を行ったことを公表した。気候ネットはみずほFGと直接面談を重ねてきたものの、十分な成果が得られなかったため株主提案に踏み切ったと説明しており、みずほFGの株主に対し提案への賛同を求めている。

具体的な株主提案の内容は・・・

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2020/03/24 気候関連情報の開示を求める株主提案が「定款変更議案」であった理由(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

NPO法人の気候ネットワーク(以下、気候ネット)は3月16日、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)に対して株主提案を行ったことを公表した。気候ネットはみずほFGと直接面談を重ねてきたものの、十分な成果が得られなかったため株主提案に踏み切ったと説明しており、みずほFGの株主に対し提案への賛同を求めている。

具体的な株主提案の内容は以下(気候ネットのリリースから抜粋)のとおり。

議案:
定款一部変更の件(パリ協定の目標に沿った投資のための経営戦略を記載した計画の開示)
提案内容:
「当会社がパリ協定及び気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同していることに留意し、パリ協定の目標に沿った投資を行うための指標および目標を含む経営戦略を記載した計画を年次報告書にて開示する」という条項を定款に規定する。

パリ協定 : 2015年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み。パリ協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類をも含めた開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

本件は、環境(気候変動)をテーマとした株主提案である点や、エスカレーションとしての株主提案(対話での進捗が芳しくなく、株主提案に踏み切った)であるという点も注目されるが、それとともに、なぜ気候変動に関する提案が「定款変更議案」だったのか、気になるところだ。

エスカレーション : 段階的な上位へのアプローチを意味する。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

会社法上、取締役会設置会社が株主総会で決議できる議案は、会社法及び定款に規定されている事項に限定されており、業務執行については取締役会の決定に委ねられていると解される。本件で株主が企業に求めているのは「気候変動に関する経営戦略の開示」だが、この要求内容は「業務執行」の範疇にあると考えられることから、「経営戦略の開示を求める」議案を株主総会の決議事項とすることは難しい。すなわち、これを「定款に規定すること」を求める議案としたのは、株主総会の決議事項とするためだったというわけだ。

本稿執筆時点でみずほFGは本株主提案への考え方を明らかにしていないが、情報開示を求める提案に対して真正面から反対することは難しいと考えられる。一方、情報開示を進めるにしても、それを定款に記載し、取締役会の判断に拘束力を持たせるべきか否かについては議論の余地があるところだろう。したがって、例えば「気候変動に関する情報開示は進めていくものの、これを定款記載事項とすることは適切でない」などの反論もあり得る。

株主側においても、機関投資家を中心に、企業が気候変動情報の開示を進めること自体には賛同する者が多いと推測される一方、定款に記載すべきかと問われると必ずしもその必要はないと考える者も一定数存在することが想定される。そう考えると、本株主提案議案可決のハードル(定款変更議案は2/3以上の賛成が必要)は高いと考えられる。

もっとも、提案者は、定款に記載するかどうかという「形式」の整備よりも、「実質」として開示が進むことを望んでいるものとみられる。したがって、仮に議案が可決に至らなかったとしても、一定程度の賛同を得ることができれば、企業としてもその意向を無視することは難しくなり、結果として開示が進むという展開はあり得る。その意味で本株主提案は、「定款変更議案」という形式を備えつつも、同時に“株主の意向を確認するためのアンケート調査”のような性質を持っているとも言えそうだ。

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