概要
アドベンチャー(マザーズ)の子会社ギャラリーレア(ブランド品のバッグの買取りや販売を行う店舗「GALLERY RARE」のほか、「TIMEZONE」の名称で時計専門店を展開)において、女性経理課員が約2億5千万円の会社資金を着服していた。
経緯
アドベンチャーが2020年3月13日に調査委員会の調査報告書を公表するまでの経緯は次のとおり。
2016年
5月:X氏(女性)がギャラリーレアに入社し、経営管理部経理課に配属。
10⽉25⽇:X氏が着服を開始。
2018年
11⽉30⽇:アドベンチャーがギャラリーレアの株式の約8割を取得し、同社を子会社化する。
2020年
1月14日:ギャラリーレアにおいて、同社の社員が経費精算に関する銀行口座の支払履歴を確認していたところ、同社の銀行口座からX氏個人名義の銀行口座へ振り込みが行われていることに気付く。
1月15日:ギャラリーレアで極秘裏に調査を行った結果、同社の銀行口座からX氏個人の銀行口座への振り込みの履歴が多数見つかる。また、X氏による経理関係資料の改竄も発覚する。
1月16日:X氏がギャラリーレアに出社した直後に、X氏の上司らがX氏を問い質したところ、X氏が自らの不正行為の事実を認める。その後、上司らはX氏とともにX氏の居住しているマンションへ向かい、着服した資金で購入したと想定されるブランド品、保有している通帳、クレジットカードなど証拠となるもの⼀式をX氏同意の元で提出させる。その間、社内ではデータ保全のためにX氏が使用していた業務PCのパスワードを変更し、X氏がデータにアクセスできないようにする。
1月22日:ギャラリーレアは社内調査報告書をまとめ、アドベンチャーに提出。
1月23日:アドベンチャーは外部の有識者らによる調査委員会を設置(リリースはこちら)。
3月13日:アドベンチャーは調査委員会の調査報告書を公表。
内容・原因・改善策
アドベンチャーが公表した2020年3月13日付の調査委員会の調査報告書によると、本件不正行為の原因、再発防止策は次のとおりとされている。
| 内容 | アドベンチャーの子会社であるギャラリーレアの経理課X氏が会社資金を着服し、主にブランド品の購入、旅行、飲食、美容整形および借金の返済に使っていた。主な手口は下記の2つ。
(Zシステムを通じた着服) (総合振込を通じた着服) |
| 原因 | (動機) X氏の嗜好 ・X氏は昔からブランド品が好きであったところ、ギャラリーレアへ入社してブランド品との距離がより近くなったことで、その欲望を止めることができなくなった。欲しいブランド品を購入するためには多額のお金が必要であった。 ・X氏は海外旅行も好きであったが、過去に蓄えていた貯金が無くなってきたことで海外旅行を我慢せざるをえなかった。着服をきっかけとして横領した金で頻繁に香港やシンガポール、韓国などに海外旅行へ行くようになり、飛行機やホテルも高級なクラスを利用するようになった。 ・X氏は入社当初より派手な格好をしており、周りの社員に対して「ブランド品は恋人からもらったものである」と説明していた。 (機会) |
| 再発防止策 | 業務フローの整備・運用 ・総合振込を始めとする各業務フローにおいて各支払内容および金額について証憑との突合せを徹底する。 ・経理課内および他部門でのダブルチェック体制を整備するとともに、⼀定期間経過後の担当者の人事異動やそれが難しい場合の担当者の⼀部業務の変更、担当者が夏休みなどの業務を停止している間に他者に業務を引き継ぐなどの相互の牽制機能を強化する。 ・預金残高や売掛金残⾼等の決算関係数値および担当者が入力した仕訳について、上司が 証憑と照合して承認する体制を構築する。 組織の不正リスク及びコンプライアンスに対する意識等の改善 ・トップがコンプライアンス・リスク管理を重視する姿勢を鮮明にする。 ・取締役会において不正リスクに関する議題を意識的かつ定期的に取り上げ、役職員の不正リスクに対する意識や感度が鈍磨しないようにする。 ・コンプライアンス委員会においてコンプライアンス・リスク管理の意識を高めるための役職員の教育、研修の計画を立て、これらを実施し、定期的に取締役会に報告する。 ・本件不正行為を踏まえ、コンプライアンス委員会において、潜在的な不正行為のリスクを洗い出し、そのリスクが顕在化した場合の会社経営に与える影響度合いを検証し、リスクの度合いに応じて優先的に対策を講じ、取締役会に報告する。 ・内部通報制度の趣旨、内部通報制度に該当し得る事例について周知、徹底を図り、内部通報制度の周知等の方法や通報の有無等を含め、コンプライアンス委員会および取締役会に定期的に報告する。 監査の強化 従来重点を置いていた店舗監査に加え、本社業務の監査を強化する。具体的には、証憑のチェックを行っていない慣行が許容されていたことに鑑み、支払いの際に証憑との突合せをきちんと行っているかという観点からの監査を充実させる。また、X氏の業務のブラックボックス化を許してしまった組織体制を検証し、このような業務の固定化を回避し、ブラックボックスを許容しないよう、内部監査室と監査役が連携し、内部牽制機能強化のための対策が講じられているかどうかチェックし、改善指導を行う。 ⼦会社管理体制の強化 関係会社管理規程に基づき、経営管理部や内部監査室において、グループ会社の内部監査担当者等から内部統制上の問題等の情報を入手し、グループ会社に対し改善指導を行ったり、その指導の内容を他のグループ会社に横展開できるような情報共有体制を構築するなどの管理体制を強化する。 |
<この失敗から学ぶべきこと>
またもや経理と財務の未分離を原因とする横領が発覚しました(【失敗学第65回】パートナーエージェントの事例 を参照)。経理と財務の担当を分離しなければ、着服の事実に気付きにくくなり、発覚が遅れて被害額が拡大する傾向にあります。上場会社の経営陣としては、自社グループ内で経理と財務がしっかりと分離されているか、子会社も含め再点検をしておくべきです。
本件において総務課担当者が総合振込精査表の件数および総額のチェックに使っていた「あるべき件数、総額」のデータは、そもそもX氏が加工したデータでした。照合にあたっては、加工されていないオリジナルのデータと照合する仕組みにすべきです。上場会社の経営陣としては、内部統制の整備状況を確認する際に、「この担当者は何と何を照合していて、そのチェック方法は不正に対して有効なのかどうか」を再確認しておくべきです。
本調査委員会報告書には「X氏が身に着けているブランド品等がその給与に見合わないものである」ことを社内の役職員の誰もが認識していたとあります。また、調査委員会のヒアリングにおいて、「冷静に考えれば、経理を長年やっていて、服装が派手で、どうして気づかなかったのか。」と述べる者もいたそうです(調査報告書27ページ)。給与に見合わない高級車への買い替え、ギャンブル癖、ブランド品好き、派手な交際活動など着服を疑うきっかけは様々ですが、監査役や内部監査担当者は健全な懐疑心をもって職務を遂行する必要があります。
