<解説>
2020年3月期の有報から開示が拡充
周知のとおり、投資家の適切な投資判断と投資家と企業との建設的な対話を促していくことを目的として、有価証券報告書における記述情報の充実が図られました。まず第一弾として2019年3月期の有価証券報告書から、政策保有株式の保有方針や保有の合理性の検証方法の開示が新たに加わり、個別開示の対象銘柄数が拡大(30銘柄から60銘柄)されるとともに、役員報酬に関して報酬プログラムの説明やプログラムに基づく報酬実績等に関する開示の拡充が行われました。そしていよいよ2020年3月期からは有価証券報告書の記述情報の充実の第二弾として、経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載が求められるとともに、事業等のリスクについて、リスクが顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明が求められる等の開示拡充策が実施されます。本稿ではその第2弾の対策のうち「リスク情報」の開示の拡充を取り上げます。
有価証券報告書で「リスク情報」が開示されるのは【事業等のリスク】のところです。この【事業等のリスク】に記載すべき内容に関する開示府令の改正内容は次のとおりです(赤字が改正箇所。有価証券届出書を有価証券報告書として読み替え)。
有価証券報告書の【事業等のリスク】に記載すべき内容に関する開示府令
(第二号様式記載上の注意(31)a)の改正
| 改正前 |
改正後 |
| 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること。 |
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること。 |
2020年3月期から【事業等のリスク】に関して新たに記載することが求められるようになったのは下記の3つです。
・当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期
・当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容
・当該リスクへの対応策
また、経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載することも新たに求められています。
もっとも、日本企業は今まで記述情報を分かりやすく充実して記載することをしてこなかっただけに、いきなり開示項目が拡充され、「経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載」することを求められ、いったい何をどの程度記載すれば良いのか戸惑う向きも見受けられました。そのため、金融庁は開示の拡充と並行してそういった企業に対する支援策を取りまとめる必要が生じました。
記述情報の開示の基本スタンス
そこで金融庁が2019年3月19日に公表したのが「記述情報の開示に関する原則」です。記述情報の開示に関する原則には、原則2-1に下記のような定めがあります。
記述情報の開示に共通する事項
【取締役会や経営会議の議論の適切な反映】
2-1. 記述情報は、投資家が経営者の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められる。 |
記述情報の中でもリスク情報は経営判断と密接に関係しています。そのため、リスク情報の開示にあたっては、経営に係る決定が行われる取締役会や経営会議における議論を適切に反映することが重要となってきます。なお、取締役会でのリスクの検討の必要性については、2019年2月22日のニュース「事業等のリスク、取締役会での議論が必須に」や【役員会 Good&Bad発言集】事業等のリスク(1)を参照してください。
記述情報の開示に関する原則の各論2には事業等のリスクの「望ましい開示に向けた取組み」として下記の記載があります。
① 事業等のリスクの開示においては、一般的なリスクの羅列ではなく、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載することが求められる。その際、取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性(マテリアリティ)をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待される。
② リスクの記載の順序については、時々の経営環境に応じ、経営方針・経営戦略等との関連性の程度等を踏まえ、取締役会や経営会議における重要度の判断を反映することが望ましい。
(注) リスクを把握し、管理する体制・枠組みを構築している企業においては、当該体制・枠組みにおけるリスク管理の過程において、各リスクの重要度が議論されることも多いと考えられる。このような場合には、当該体制・枠組みについても記載することが望ましい。
③ また、リスクの区分については、リスク管理上用いている区分(例えば、市場リスク、品質リスク、コンプライアンスリスクなど)に応じた記載をすることも考えられる。 |
これを要約すると、リスク情報に関して行う下記の取り組みが「望ましい開示に向けた取組み」ということになります。
・リスクの重要性(マテリアリティ)をどのように判断しているかを説明する
・リスクの記載の順序は重要度の判断に応じて並び替えを行う
・リスク管理委員会などの体制・枠組みを記載する
潜在的なリスクにどこまで対応?
リスク情報の開示にあたっては、上記の「望ましい開示に向けた取組み」に加えて、金融庁が記述情報の開示に関する原則と同じ日に公表した「記述情報の開示の好事例集」(以下、好事例集)も参考にしたいところです。好事例集には、記述情報の開示には不慣れな企業にとって参考になる好事例が数多く掲載されているからです。なお、リスク情報の開示にあたっての注意点と好事例については、2020年2月18日のニュース「投資家にとって魅力ある有価証券報告書作成のポイント」で詳説しているのでここでは説明を割愛します。
さらに、金融庁が2019年1月31日に公表した『「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方』(以下、「金融庁の考え方」)や2020年3月6日に公表した『「記述情報の開示の充実に向けた研修会」における説明資料(*)』(以下、「研修会説明資料」)も見逃すことはできません。前者にはパブコメの内容とそれに対する金融庁の考え方が掲載されており、後者には研修会参加予定企業から事前に募集していた質問とそれに対する金融庁のコメントが記載されているので、開示拡充に向けての実務的な課題とそれに対する金融庁の考え方を知ることができるからです。
* 2019年2月には「記述情報の開示の充実に向けた研修会」で配布するはずだった資料。なお、同研修会は新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から中止となっています。
以下、「金融庁の考え方」と「研修会説明資料」のうち【事業等のリスク】に関するQ&Aのうち主要なものをまとめておきます(表中の「留意点」は当フォーラムが注意事項等を追加したものです)。
| 金融庁の考え方No.10 |
Q:第二号様式記載上の注意(31)aについて、具体的に記載する場合の例示として、「当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど」とされているが、例示の事項を漏れなく記載することが求められているのではなく、投資者が各社固有のリスク情報やそれに対する対応策の状況を理解することにつながる情報を、各企業が工夫して記載すれば良いという理解でよいか。
A:ご理解のとおりです。第二号様式記載上の注意(31)aは「経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて」記載することを求めており、リスク項目を羅列するのではなく、主要なリスクを記載することを明確化しております。リスク情報の記載に当たっては、DWG報告にもあるように、リスクの発生可能性や企業への潜在的影響の大きさの観点から、企業の成長、業績、財政状態、将来の見込みについて重要であると経営陣が考えるものに限定するとともに、企業に固有でない一般的なリスクを記載する場合は、具体的にどのような影響が当該企業に見込まれるのか明らかにすることが求められます。 |
| 留意点 |
例えば「新型コロナウィルスの感染拡大」のような「企業に固有でない一般的なリスク」を記載する場合は、それが具体的にどのような影響を自社にもたらすことが見込まれるのか(たとえば「中国からの原材料の輸入が滞り、製造量が落ち込み、売上が減少」(メーカー)、「宴会の自粛により利用者が減少し売上が落ち込む」(飲食)など)を明らかにする必要がある。 |
| 金融庁の考え方No.11 |
Q:第二号様式記載上の注意(31)aの「顕在化する可能性の程度や時期」は何を根拠として記載することを想定しているのか。
A:事業等のリスクは、翌期以降の事業運営に影響を及ぼし得るリスクのうち、経営者の視点から重要と考えるものを説明するものです。また、取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性をどのように判断しているかについて、投資者が理解できるような説明をすることが期待されるものですので、「顕在化する可能性の程度や時期」については、経営者として判断した根拠が記載されることが望ましいものと考えられます。なお、「事業等のリスク」の開示については、平成31年3月19日に公表した「記述情報の開示に関する原則」においても同様の考え方を示しております。 |
| 留意点 |
・経営者として「当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期」を判断しなければならない。
・各種引当金はリスクに備えて計上するものであり、かつ、その計上は発生の可能性が高いものに限定されている以上、引当金の設定対象となるリスクについても、記載の必要性の有無を検討すべきである。とくに引当金の計算は経理部門、リスク情報の取りまとめは法務部門といった具合に所管が異なる場合、引当金の設定対象となるリスクをリスク情報に記載することの検討を忘れる可能性が高いので要注意である。 |
| 金融庁の考え方No.12 |
Q:第二号様式記載上の注意(31)aの「影響の内容」とは、定量的な記載を想定しているのか。
A:「影響の内容」については、定量的な記載に限られるものではありませんが、リスクの性質に応じて、投資者に分かりやすく具体的に記載することが必要と考えられます。 |
| 留意点 |
リスクの性質に応じて、定量的な影響を算定可能なものとそうでないものとに分ける。定量的な影響が算定可能なものであっても、投資家をミスリードしないよう当該定量数値(具体的な数量や金額)が楽観的過ぎず、かつ、悲観的過ぎないように注意しなければならない。 |
| 金融庁の考え方No.15 |
Q:「特定の取引先・製品・技術等への依存」に関する経営成績等の状況に与える影響の内容として、依存度について定量数値を用いず定性的な表現に留まるケースがあるが、定量数値を記載することを明記してはどうか。依存度について記載すべき数値基準を示してはどうか。
A:特定の取引先・製品・技術等へどの程度依存しているかについては、可能な限り定量的に説明することが期待されます。なお、企業により状況も異なるため、数値基準を設定することは難しいと考えられます。 |
| 留意点 |
特定の販売地(たとえば「北米市場」)への依存度はセグメント注記で開示していることが多く、定量数値の記載が比較的容易である。特定の製品への依存度(いわゆる“一本足打法”のリスク)、特定の得意先企業への依存度、特定の原料調達国への依存度も算定は容易と言える。 |
| 研修会説明資料Q3 |
Q:潜在的なリスク(景気変動、自然災害、気候変動、サイバー攻撃等の中長期的に顕在化するリスク)について、どの程度記載する必要があるか。また、潜在的な事業等のリスクの定量的な影響額や対処方法について、どのように記載すればよいか。
A:
・潜在的なリスクをどの程度記載するかは、投資家の投資判断にとって重要であるか否かという観点から判断するべきと考えられ、経営者の視点による経営上の重要性も考慮した多角的な検討を行うことが重要と考えられます。
・リスクの重要性は、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性を考慮して判断することが望ましいと考えられ、その判断の過程について、投資家が理解できるような説明をすることが期待されます。なお、重要な情報は過不足なく提供される必要があります。
・例えば、① 事業上、晒されている様々なリスクの中から、影響度と発生可能性を考慮し、取締役会や経営会議等において議論すべきリスクを選定するプロセスを記載し、② 選定プロセスを経て抽出された事業等のリスクを「重要なリスク」として記載する方法が考えられます。
・「影響の内容」については、定量的な記載に限られるものではありませんが、リスクの性質に応じて、投資者に分かりやすく具体的に記載することが必要と考えられます。
・リスクへの対応策については、実施の確度が高いものを記載するものと考えられますが、実施を検討しているに過ぎないもの等を記載する場合には、その旨を記載し、投資者に誤解を与えないような記載が求められます。
・なお、事業等のリスクの開示にあたっては、一般的なリスクの羅列ではなく、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載することが求められます。
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| 留意点 |
・「重要なリスク」を開示するにあたっては、「何をもって重要」としたのかを説明できるようにしておくことが望ましい。例えば、リスク管理委員会を設置している企業では、リスク管理委員会が「事業上、晒されている様々なリスクの中から、影響度と発生可能性を考慮し、取締役会や経営会議等において議論すべきリスク」の選定の前さばきをし、そのプロセスを開示するのも一案である。
・「リスクへの対応策」は、投資家を安心させるために、つい背伸びして記載しがちであるが、やっていないことをさもやっているように書くのは虚偽記載にほかならない。記述情報の虚偽記載も課徴金の対象になる行為なので、厳に慎むべきである(2020年2月5日のニュース「有報のCG状況の虚偽記載に初の課徴金、上場会社が今とるべき対策」や【失敗学第69回】日本フォームサービスの事例を参照)。
・通常は想定しえないようなリスクが顕在化したとしても、当該リスクの不掲載について虚偽記載を問われることはない。もっとも、合理的な経営者であれば通常は認識するであろうリスクを認識できておらず対策を怠ったため当該リスクが顕在化し会社に損失が発生してしまうと、経営者は「虚偽記載の責任」ではなく「経営責任」を問われることになる。
|
| 研修会説明資料Q4 |
Q:将来情報やリスクへの対応策の記載内容について、その後、実際の結果が当初の記載内容と異なる場合、この事実をもって虚偽記載となり得るのか。
A:
(前略)事業等のリスクの記載が虚偽記載に該当するかどうかは個別に判断すべきと考えられますが、提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされていた場合、提出後に事情が変化したことをもって、虚偽記載の責任を問われるものではないと考えられます。一方、提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて敢えて記載をしなかった場合、虚偽記載に該当することがあり得ると考えられます。
|
| 留意点 |
・【事業等のリスク】のリスク記載が明らかに同業他社に比して不十分であれば、「この会社の経営者は、この程度のリスクしか認識できていないのか」と失望されることは間違いない。経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは【事業等のリスク】に必ず記載するようにしたい。 |
| 研修会説明資料Q5 |
Q:事業等のリスクの開示において、リスクの区分に応じて記載する場合、どのような区分が望ましいか。
各リスクの重要性に応じた区分のほか、リスクの性質に応じた区分も認められるのか。
各リスクの重要性に応じた区分にあたって、重要性の順位等を具体的に記載する必要はあるか。
A:
・リスクの記載の順序については、時々の経営環境に応じ、経営方針・経営戦略等との関連性の程度等を踏まえ、取締役会や経営会議における重要度の判断を反映することが望ましいと考えられます。
・リスクの区分については、リスク管理上用いている区分(例えば、市場リスク、品質リスク、コンプライアンスリスクなど)に応じた記載をすることも考えられます。
・リスクの重要度の判断に基づく記載順序は、例えば、特に重要なリスク、重要なリスクといった区分方法も考えられます。 |
| 留意点 |
リスク項目を単に羅列するだけでも問題視されなかったのは前期まで。ただリスクを羅列するだけでは「経営者がどのリスクに重きを置いているのか」が投資家に伝わらない。重要なリスクの中でもさらに重みづけ(マテリアリティ)があるはずであり、2020年3月期からはその重みが分かるよう開示するのが望ましい。 |
| 研修会説明資料Q6 |
Q:当初、経営者が重要と認識し有価証券報告書に記載していた事業等のリスクについて、その後、経営環境等の変化によって、当該リスクの重要性が低下した場合、主要なリスクと分けて記載することは可能か。もしくは、有価証券報告書への記載を省略する場合、記載を省略するに至った経緯を記載する必要があるか。
A:
・比較を容易にする観点からも前年との変化が分かるように記載することが望ましいと考えられます。
・主要なリスクと区分して記載する方法や、有価証券報告書への記載を省略する場合には省略するに至った経緯を記載することも投資家にとって有用であると考えられます。 |
| 留意点 |
2020年3月期の有価証券報告書の【事業等のリスク】から新基準で開示することになるため、前事業年度に開示したリスク情報の一部が陳腐化する可能性もある。その結果、記載しないことになったリスクについて、単に削除するのではなく、「省略するに至った経緯」を開示するようにしたい。 |
| 研修会説明資料Q7 |
Q:ESGやTCFDに関連するリスクについて、事業等のリスクに開示することは可能か。その場合の留意点は何かあるか。
A:
・ESGやTCFDに関連するリスクについて、取締役会や経営会議等において議論している場合、事業等のリスクに当該内容を記載することは可能です。
・また、「リスク」だけでなく、「機会」もあわせて議論している場合は、「機会」も含めて記載することも可能です。
・他の事業等のリスクと同様、自社の戦略やビジネスモデルと関係させて記載するなど、具体的にわかりやすく記載することが重要です。 |
| 留意点 |
・TCFDについては2020年1月15日のニュース「機関投資家がTCFDを重視せざるを得ない事情」を参照。 |
ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
TCFD: 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクの情報開示を進める気候変動リスクに関する開示フレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類をも含む開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。
【事業等のリスク】【事業等のリスク】が開示府令に則った記載になっているかどうかは、今後実施が予定されている令和2年度の有価証券報告書レビューにおいても、法令改正関係審査としてレビュー対象になることは間違いありません。また、今後は、外部監査人が有価証券報告書の記述情報について関与を強化し、記載内容について何らかのエビデンスを求めてくる可能性もあります(2019年11月18日のニュース『有報「その他の記載内容」への監査人の関与強化策導入の影響』を参照)。くれぐれも【事業等のリスク】等記述情報が虚偽記載にならないよう「金融庁の考え方」や「研修会説明資料」を熟読して、少なくとも開示府令が求める最低限のレベルの開示は実現できるよう、早めに取り組みを開始すべきです。
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
社外取締役C:「いえ、私たちもリスク情報については多大な関心を寄せているので、本件については日を改めてでもしっかりと議論しておきたいです。その前段階としてリスク管理委員会でリスクの順位付けのドラフトを作っていただくことはやぶさかではありません。」
(コメント:記述情報の開示に関する原則2-1には「記述情報は、投資家が経営者の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められる。」とあり、取締役Cの発言は当該原則を踏まえたGood発言です。また、すべてのリスクを取締役会で議論していくのも費用対効果に欠けます。リスク管理委員会でリスクの順位付けのドラフトを作成してもらえるのであれば、それをたたき台にして取締役会で議論を進めることで効率化も図ることができます。取締役Cの発言は、原則を踏まえつつ効率化にも目配りできた発言と評価できます)
取締役A:
「いまだ顕在化していないリスクは重要なリスクとは言えないので【事業等のリスク】に記載すべきリスクではないと考えます。」
(コメント:「顕在化」をどのような意味で用いているのかは明確ではないのですが、そもそも【事業等のリスク】には「リスクが顕在化する可能性の程度や時期」が開示対象とされている以上「潜在リスク」を開示するのは当然のことと言え、Aの発言はBad発言です。)
取締役B:
「このようなことは開示部門のスタッフが考えて記載すればよい話であり、せっかく社外取締役の方々が参加していただく取締役会で貴重な時間を使って検討すべきテーマではないのではないでしょうか。今日はただでさえ承認事項が多いですし。」
(コメント:「有報の記述情報は開示部門のスタッフが考える」という発想は旧来型の発想に基づく発言であり、Bad発言です。ボードメンバーとしては、有価証券報告書の記述情報に経営者が深くコミットしなければならない時代になったということを理解しておかなければなりません。)