2020/02/26 2019年におけるスキル・マトリックス開示の傾向

現在、次期株主総会招集通知でスキル・マトリックスを開示することを検討している上場企業は少なくないだろう。2018年に5社程度にすぎなかったスキル・マトリックスの開示事例は、2019年には20社を超え、さらに2020年には相当数の企業で開示が進むものと予想される(スキル・マトリックス開示については、2020年1月17日のニュース「役員のスキル・マトリックスを株主提案への対抗策に利用」および同ニュースで引用されているニュース参照)。

スキル・マトリックス : 取締役のスキル・能力の開示手法。縦軸に各取締役の氏名、横軸にスキル・能力を分野別に並べ、各取締役がスキル・能力を有する分野に丸印をつけるといった形式をとることが多いため、「スキル・マトリックス(あるいはマトリクス)」と呼ばれる。

2019年の開示事例を当フォーラムが確認したところ、・・・

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2020/02/26 2019年におけるスキル・マトリックス開示の傾向(会員限定)

現在、次期株主総会招集通知でスキル・マトリックスを開示することを検討している上場企業は少なくないだろう。2018年に5社程度にすぎなかったスキル・マトリックスの開示事例は、2019年には20社を超え、さらに2020年には相当数の企業で開示が進むものと予想される(スキル・マトリックス開示については、2020年1月17日のニュース「役員のスキル・マトリックスを株主提案への対抗策に利用」および同ニュースで引用されているニュース参照)。

スキル・マトリックス : 取締役のスキル・能力の開示手法。縦軸に各取締役の氏名、横軸にスキル・能力を分野別に並べ、各取締役がスキル・能力を有する分野に丸印をつけるといった形式をとることが多いため、「スキル・マトリックス(あるいはマトリクス)」と呼ばれる。

2019年の開示事例を当フォーラムが確認したところ、7割方の企業のスキル・マトリックスは社内・社外を含めた全取締役を対象としていた。社外取締役のみのスキル・マトリックスを作成している事例は指名委員会等設置会社に多い(りそなホールディングス、エーザイ、日本取引所グループなど)。また、監査役会設置会社のスキル・マトリックスの中には、取締役のみならず監査役も含まれているケースも少数ながら見受けられる(太陽誘電、ヤマハ発動機など)。

スキル・マトリックスの項目には、取締役会の監督機能に資する専門性(法務/コンプライアンス、財務会計/ファイナンスなど)、業務執行機能に資する専門性(研究開発/テクノロジー、営業/マーケティング、人事労務/人材開発など)、両方に求められる専門性(企業経営/戦略策定、国際性/海外経験など)が用いられている。さらに近年の重要テーマとしてESG(環境、社会、ガバナンス)を項目に加える事例も少なからずある。

下表はスキル・マトリックスの項目をカテゴライズしたうえで、2019年の開示事例における使用割合を分析したものである。監督機能に資する代表的な専門性である「財務会計/ファイナンス」「企業経営/「戦略策定」「法務/コンプラインス」は9割以上の企業で使用されており、スキル・マトリックスを作成するうえでは必須項目になっていると言えよう。これに「国際性/海外経験」「研究開発/テクノロジー」に関する項目を加えたものが、フォーマットとしては“ミニマム・スタンダード”と言えそうだ。
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興味深い事例として、神戸製鋼所を挙げておきたい。同社の取締役会は社外取締役が全11人中3人にとどまっていることから、スキル・マトリックスにおいては業務執行の観点を加え、社内取締役を含む取締役会全体の資質・専門性を説明している。その中には「素材系事業」「機械系事業」「電力事業」と同社のセグメントに準じた項目があり、少なくとも取締役会の構成上、同社がどのセグメントを重要視しているかを推測することが可能となっている。

実際に3事業のうち「〇」が最も多く付いているのは素材系事業であり(社内取締役8人のうち5人が該当)、スキル・マトリックス上は同事業が最も重要と扱われていることになる。同社のスキル・マトリックスからは、それが実際に同社の事業ポートフォリオ戦略と整合しているのか、また、その戦略は同社に対する資本市場の期待に沿ったものと言えるのか、議論が喚起される可能性もある。スキル・マトリックスには、投資家とのエンゲージメントを活性化される効果も期待できそうだ。

2020/02/25 CG報告書の記載要領改訂、“利益相反関係”踏まえた悩ましい記載求める

近年、親子上場問題に注目が集まっているが(下記のコンテンツ参照)、こうした中、東証は今月(2019年2月)5日、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載要領を改訂している。

2019年5月7日のニュース「グループ・ガバナンス実務指針案、上場子会社の扱いに“特段の配慮”
2019年6月18日のニュース「子会社上場を維持するかどうかの判断基準
2019年6月25日のニュース「上場子会社の役員人事
2019年7月30日 【役員会 Good&Bad発言集】上場子会社の独立社外取締役の選任議案
2019年8月21日のニュース「上場子会社を持つ親会社のジレンマ
2019年10月15日のニュース「ISS、上場子会社に社外取締役比率「3分の1」基準導入へ
2019年10月25日のニュース「上場子会社のガバナンス確保に向けた方針の開示始まる
【WEBセミナー】グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針への企業の対応
2019年12月6日のニュース「東証、上場子会社のガバナンス強化の姿勢鮮明

主な改訂箇所は・・・

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2020/02/25 CG報告書の記載要領改訂、“利益相反関係”踏まえた悩ましい記載求める(会員限定)

近年、親子上場問題に注目が集まっているが(下記のコンテンツ参照)、こうした中、東証は今月(2019年2月)5日、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載要領を改訂している。

2019年5月7日のニュース「グループ・ガバナンス実務指針案、上場子会社の扱いに“特段の配慮”
2019年6月18日のニュース「子会社上場を維持するかどうかの判断基準
2019年6月25日のニュース「上場子会社の役員人事
2019年7月30日 【役員会 Good&Bad発言集】上場子会社の独立社外取締役の選任議案
2019年8月21日のニュース「上場子会社を持つ親会社のジレンマ
2019年10月15日のニュース「ISS、上場子会社に社外取締役比率「3分の1」基準導入へ
2019年10月25日のニュース「上場子会社のガバナンス確保に向けた方針の開示始まる
【WEBセミナー】グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針への企業の対応
2019年12月6日のニュース「東証、上場子会社のガバナンス強化の姿勢鮮明

主な改訂箇所は「Ⅰ コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成、企業属性その他の基本情報」の「5.その他コーポレート・ガバナンスに重要な影響を与えうる特別な事情」で、親子上場問題に対応したものとなっている。

改訂前の記載要領は、下記のとおり同項目について、①上場子会社、②上場子会社の親会社の両方に対し、「独立性確保に関する考え方・施策等」を記載することを求めていた。

親会社や上場子会社を有する場合においてはその事実及び当該関係を踏まえたコーポレート・ガバナンスに対する考え方(方針)について記載してください。例えば、当該会社が、①親会社を有している場合には当該親会社からの独立性確保に関する考え方・施策等について、②上場子会社を有している場合には当該子会社の独立性に関する考え方・施策等について、記載することが望まれます。

東証は今回の改訂で、上場子会社と上場子会社の親会社それぞれに対し、新たに記載すべき事項を要求している。上場子会社について、下記のとおり従来から記載を求めてきた「当該親会社からの独立性確保に関する考え方・施策等」に加え、「親会社におけるグループ経営に関する考え方及び方針」と「関連した契約を締結している場合はその内容」を追加で記載しなければならなくなった。これら新たな記載事項には「グループ経営」の視点が求められており、記載にあたっては親会社による主体的な関与が必要となろう。

親会社(非上場会社を含みます。)を有する場合においては、少数株主保護の観点から必要な当該親会社からの独立性確保に関する考え方・施策等について記載してください。また、当該親会社におけるグループ経営に関する考え方及び方針や、それらに関連した契約を締結している場合はその内容を、併せて記載することが望まれます。

一方、上場子会社の親会社に対しては、下記のとおり、今回新たに「グループ経営に関する考え方及び方針」及びこれらを踏まえた「上場子会社を有する意義」と「上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策」を記載することとされた。また、「グループ経営に関する考え方及び方針に関連した契約を締結している場合はその内容」を記載することも求められている。

上場子会社を有する場合においては、グループ経営に関する考え方及び方針を記載するとともに、それらを踏まえた上場子会社を有する意義及び上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策を記載してください。なお、上場子会社との間で、グループ経営に関する考え方及び方針として記載されるべき内容に関連した契約(その他の名称で行われる合意を含む。)を締結している場合は、その内容を併せて記載することが望まれます。

上記のうち「上場子会社を有する意義」と「上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策」には、「上場子会社を複数有する場合においては、上場子会社を有する意義等を上場子会社ごとに記載してください」との注釈が付けられている。子会社ごとの箇条書きや一覧表による開示方法などを検討する必要があろう。また、これらの記載項目には、それぞれ以下の注釈も付されている。

上場子会社を有する意義 グループとしての企業価値の最大化の観点を踏まえて記載してください。
上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策 上場子会社におけるガバナンス体制の構築及び運用に対する親会社としての関与の方針並びに少数株主保護の観点から必要な上場子会社における独立性確保のための方策等を記載してください。

「上場子会社を有する意義」ではグループ企業価値すなわち親会社の利益を最大化する観点を要求する一方、「上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策」については少数株主の利益を保護する観点を重視している。親子上場における利益相反関係を色濃く反映しており、上場子会社の親会社としては整合的な説明に苦慮することが予想される。これらの開示内容を検討させることは、当該子会社が上場する意義を再確認することを求めているとも言えそうだ。

2020/02/25 再告知:<上場会社役員ガバナンスフォーラム会員は参加無料に!>日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)特別セミナー「第17回 JCGR コーポレートガバナンス調査 報告会」

先般も告知させていただいた日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)による「第17回 コーポレートガバナンス調査(調査対象165社)の報告会」の参加費を、JCGRのご厚意により無料としていただきましたので、再度告知いたします。
詳細も再掲させていただきますので、奮ってご参加いただければ幸いです。

【開催日時】
2020年3月2日(月)、15:00~17:00
(講演60分、コーヒーブレーク10分、Q&A セッション50分)
【開催場所】
日本外国人特派員協会(東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビル5階)
マルチパーパスルーム
※地下鉄直結・地下のレストランROTI前のエレベータが便利です。
アクセスはこちら

詳細はこちら

お申し込みは、お名前、会社名等、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員である旨を記載の上、日本コーポレートガバナンス研究所 藤島 様 fujishima@jcgr.org にメールをお送りください。

どうぞよろしくお願い致します。

2020/02/21 経営経験のある社外取締役、同業種or異業種出身のどちらがベターか

自社の社外取締役に経営経験者(元社長等)を求める上場企業は多い。経済産業省がとりまとめたCGSガイドライン(コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針)でも、「社外取締役のうち1 名は、経営経験を有する社外取締役を選任することを検討すべき」としている(67ページ「3. ステップ 3 :役割・機能に合致する資質・背景を検討する」の下の囲み参照)。

取締役会のダイバーシティが重視される昨今だが、・・・

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2020/02/21 経営経験のある社外取締役、同業種or異業種出身のどちらがベターか(会員限定)

自社の社外取締役に経営経験者(元社長等)を求める上場企業は多い。経済産業省がとりまとめたCGSガイドライン(コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針)でも、「社外取締役のうち1名は、経営経験を有する社外取締役を選任することを検討すべき」としている(67ページ「3. ステップ 3 :役割・機能に合致する資質・背景を検討する」の下の囲み参照)。

取締役会のダイバーシティが重視される昨今だが、思い通りに行かないことや予期しない事態への対応が日常的に求められる企業経営は、理屈を超えた世界でもある。こうした中、取締役会に、実際に修羅場をくぐった経験があり、現実的なアドバイスができる経営経験のある社外取締役がいれば、経営陣にとってもこれほど心強いことはないはずだ。また、リスクを伴う重要な経営判断をするにあたり、これまで経営者としてリスクを取って挑戦を繰り返してきた経験を持つ社外取締役の発言が経営陣の背中を押すこともあろう。

このように、社外取締役に経営経験者を入れることのメリットに異論は少ないと思われるが、その人選において企業の悩みの一つとなっているのが、同業種あるいは異業種のいずれから選任すべきかという点だ。当然ながら同業種出身者の方が自社の事業内容にも詳しく、専門性もある。ただ、業界団体の要職を務めた経験を持つある元経営トップは、同業他社からの社外取締役就任要請は断ってきたという。業界団体のことが気にかかって取締役会における発言に自らブレーキをかけかねず、独立性の観点から問題があるとの判断からだ。

社外役員の独立性に対する投資家側の判断基準は厳格化傾向にあるとはいえ(2020年1月20日のニュース『「借入額僅少」「主幹事証券退任から15年超」でも独立性なし』参照)、例えばISSの独立性基準(ISSの独立性基準については2020年版 日本向け議決権行使助言基準7ページ参照)では、仮に同業種出身者であっても、自社のOBでなければ同基準には抵触しないものと考えられるが、候補者本人が独立性の観点から就任を辞退するというのであれば、企業としても諦めざるを得ないだろう。また、なかには古巣への遠慮から同業他社の社外取締役就任に躊躇する元経営者もいるものと思われる。

もっとも、必ずしも同業他社の元経営者が社外取締役としてベストとは限らない。業界のことを「知りすぎている」がゆえの弊害というものもあろう。例えば事業ポートフォリオの大胆な組み換えが重要な経営課題になっている場合、長らく同業他社で経営トップを務めていた社外取締役が、かつて業界の稼ぎ頭だった事業を切り離すという発想を持ちにくいという可能性は否定できない(事業ポートフォリオについては2020年2月6日のニュース『多角化経営に求められる「事業ポートフォリオ開示」の充実』参照)。この点、異業種出身者の方が、過去のしがらみにとらわれることなく、純粋に外部の視点をもって発想できるということもあろう。

「業界に通じた人に社外取締役になってもらいたい」という考えにも合理性はあるが、特に大胆な経営判断を下さなければならない時期に直面している企業では「異業種出身の経営経験者」を選択する余地は大きいと言えそうだ。

2020/02/20 急増する「自社株式に対するESG投資はどれくらいか」という問いへの答え

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

 
上場企業にとって、国内外の機関投資家による自社株式の保有状況等は当然気になるところだが、自社の株主について把握しておくべき情報はそれだけにとどまらない。

まず是非把握しておきたいのが、・・・

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2020/02/20 急増する「自社株式に対するESG投資はどれくらいか」という問いへの答え(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

 
上場企業にとって、国内外の機関投資家による自社株式の保有状況等は当然気になるところだが、自社の株主について把握しておくべき情報はそれだけにとどまらない。

まず是非把握しておきたいのが、自社に投資する機関投資家の「投資スタイル」だ。銘柄選別型のアクティブ運用なのか、指数連動型のパッシブ運用なのか、同じアクティブ運用でも、企業の成長性に着目するグロース投資家による保有が多いのか、株価の割安性を重視するバリュー投資家による保有が多いのかなどである。

アクティブ運用 : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法(以下、アクティブ運用)をとる投資家のこと。アクティブ運用はパッシブ運用の対極の概念であり、運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、そのような運用手法を採用する投資家をパッシブ投資家という。ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

また、株主総会付議議案への反対行使が想定される投資家による保有の多寡も確認しておくべきだろう。特に、いわゆるアクティビストによる保有の有無は把握しておきたいところだ。

さらに最近は、「ESG投資による自社株式の保有はどの程度か、また、増えているのか減っているのかについて知りたい」という要望が増えている。ただ、実はその分析は簡単ではない。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

もちろん、いわゆるESGファンドと呼ばれる公募投信への組入れ状況などを集計することは可能である。また、年金資金による保有についても、例えば近年ESG投資に力を入れるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などは、ESG指数連動型パッシブ運用について、その指数や運用資産額などを開示しているため(ESGを巡る最近のGPIFの動きについては2019年7月11日のニュース「GPIFによるESG活動の行方」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)、指数組成会社が公開する銘柄別の組入れ比率などを用いれば、株式数を算出することも可能である。しかし、これらだけではESG投資による自社株式の保有状況の把握としては不十分である。

公募投信 : 不特定多数の投資家から広く資金を集めて運用を行う投資信託(ファンド)のこと。50名以上の投資家に対して募集をするファンドはすべて公募投信に該当することになる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

サステナブル投資を日本で普及させる活動に取り組む日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が2020年2月7日に公表したアンケート調査結果によると、ESG投資の手法別の投資残高の大きさは、①エンゲージメント、②議決権行使、③ESGインテグレーションの順となっている。「エンゲージメント」や「議決権行使」は基本的に“投資後”の行動であり、純粋な投資手法としては「ESGインテグレーション」が主流であるといえよう。
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エンゲージメント エンゲージメント方針に基づき、株主として企業と建設的な対話を行う。
議決権行使 議決権行使を行う。(ESGに関する議決権行使に限らない)
ESGインテグレーション 通常の運用プロセスにESG要因を体系的に組み込んだ投資。
ネガティブ・スクリーニング 倫理的・社会的・環境的な価値観に基づいて、特定の業種・企業を投資対象としない。
国際規範に基づくスクリーニング 国際機関(OECD、ILO、UNICEF等)の国際規範に基づいた投資。
ポジティブ・スクリーニング ESGのスクリーニングを使用して選別されたセクターや企業に投資する。
サステナビリティ・デーマ型投資 再生可能エネルギー、環境技術、農業、女性活躍、SDGs等のサステナビリティテーマに着目した投資。

ESGインテグレーションとは、従来の投資判断プロセスの中にESGの要素を“組み込む”投資手法である。したがって、ESGインテグレーションでは、例えば、投資を検討している企業の成長性を予測する際にSDGsへの取り組み状況を売上成長率に反映する、あるいはガバナンスに懸念のある企業の適正株価を割り引くといったことがあり得る。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、気候変動対策やジェンダーの平等など17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

このため、特にESGインテグレーションの手法で保有されている株式については、ESG投資の対象となっているのか、あるいはそれ以外の投資の対象なのかを一義的に区分することは困難であり、また、投資判断プロセスの中でESGの要素がどのように寄与したのかについても外部から窺い知ることは不可能に近い。結論として、ESG投資の進展に伴い、ある意味ではESG投資と従来の投資の境目がなくなってきているともいえそうだ。

 

 

2020/02/19 (新用語・難解用語)バックキャスティング(会員限定)

まず将来の理想像を定め、それを実現するために今何をすべきかを考えること。現在の状況から将来を予想するフォアキャスティングと対比される手法で、計画策定方法の一つである。フォアキャスティングが「現在」を起点に将来の帰結を考えるのに対し、「将来」を起点に逆算して現在を考えるバックキャスティングは、フォアキャスティングと思考の「起点」および「方向」に違いがあると言える。バックキャスティングに基づき立案された計画の実効性を高めるには、将来の理想像だけでなく、短期目標や中期目標をKPIとともに設定するとよい。これによりPDCAサイクルを回すことが可能となり、モチベーションも維持しやすくなる。

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
PDCAサイクル : Plan→Do→Check→Actionのサイクルを繰り返しながら、目標を実現する手法。サイクル内に、軌道を修正したり、場合によっては目標を変更したりする仕組みを内包しているため、状況変化に迅速に対応することもできる。

バックキャスティングという思考法はSDGs(持続可能な開発目標)の隆盛とともに注目されるようになった。なぜなら、そもそもSDGsは、「現状をベースとして実現可能性を踏まえた積み上げを行うのではなく、あるべき将来像から逆算して現状からの計画を策定する」という点において「バックキャスティング」の考え方に基づいているからだ(環境庁の中央環境審議会 総合政策部会が2017年8月に公表した「第五次環境基本計画 中間取りまとめ」12ページを参照)。フォアキャスティングの思考法に拠ると、将来を現在の延長線上に置くため変革が起きにくいが、バックキャスティングの思考法に拠れば、将来の理想像を実現するために、否が応でも変革を促されることになる。すなわち、SDGsに取り組む企業は、現状の自社のリソースや置かれた環境を制約条件として、国連が掲げるSDGsの17の目標のうちどれに貢献できるのかを選定するのではなく、まず自社の将来ビジョンを明確にしたうえで、そこから逆算して実現したい目標を選定し、KPIを段階的に設定することが必要となってくる。

SDGs(持続可能な開発目標) : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、気候変動対策やジェンダーの平等など17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

企業がバックキャスティングに拠ってSDGsに取り組んでいるかどうかは、機関投資家も気にかけている。その背景には、SDGsへの取り組みが上場企業において“流行”し、なかには上辺だけのいわゆる「SDGsウォッシュ」も散見されるようになってきたということがある。機関投資家が対話により企業のSDGsへの取り組みの真剣さを見極めるうえで、「バックキャスティング思考に基づいているか」「KPIを設定しているか」といった質問は非常に有効であり、まともな答えが返ってこないようであれば「SDGsウォッシュ」であると判断する可能性は高い。SDGsに関する将来ビジョンもなく、KPIも設定していない上場企業がいくら「SDGsに取り組んでいます」と熱く語ったところで、“ウォッシュ”の誹り(そしり)を免れないだろう。逆に、自社の将来ビジョンを明確に設定できており、当該ビジョンからバックキャスティング思考に基づき今すべきことがKPIとして明示され、当該ビジョンに至るまでのストーリーに腹落ち感があれば、誰もウォッシュとは思わないだろう。

SDGsウォッシュ : SDGsに取り組んでいるように見せかけたり、誇張した表現を用いてアピールしたりするだけで、実態が伴っていない企業を揶揄した表現。自社の環境問題への取り組みを誇張してアピールする企業を揶揄した「グリーンウォッシュ」から転じた言葉。

また、バックキャスティングはSDGsにしか役に立たないわけではない。例えば長期的な経営戦略の策定やESG経営にも有効だ。まず将来ビジョンを明確化し、その実現に向けてKPIを刻んでいくバックキャスティングは長期的な経営戦略の策定やサステナビリティ(持続性)を重視するESG経営にも馴染むと言える。

ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

実際、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2020年2月7日に公表した「国内株式運用機関が選ぶ『優れた統合報告書』と『改善度の高い統合報告書』」を見ると、高評価を受けた複数の企業で、その理由に「バックキャスト」という点が挙げられている。例えば5つの機関投資家から「改善度の高い統合報告書」を作成しているとの評価を受けた不二製油グループ本社は、「ESG経営が浸透し、実践されていることを理解。バックキャスト志向であり、社会課題解決に向けた真摯な姿勢は高く評価」されたことが選定理由の一つとされている。また、4つの機関投資家から「優れた統合報告書」を作成しているとの評価を受けたMS&ADインシュアランスグループホールディングスの選定理由には「社長メッセージがその後の構成に結びついている。目指す姿も明確でバックキャスト志向であり、納得感が高い。」とある。

自社の経営戦略やSDGsへの取り組みが投資家に十分な説得力をもって伝わっていないと感じている上場企業にとって、バックキャスティングの手法を用いてこれらを見直してみることは有意義な試みとなろう。