まず将来の理想像を定め、それを実現するために今何をすべきかを考えること。現在の状況から将来を予想するフォアキャスティングと対比される手法で、計画策定方法の一つである。フォアキャスティングが「現在」を起点に将来の帰結を考えるのに対し、「将来」を起点に逆算して現在を考えるバックキャスティングは、フォアキャスティングと思考の「起点」および「方向」に違いがあると言える。・・・
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まず将来の理想像を定め、それを実現するために今何をすべきかを考えること。現在の状況から将来を予想するフォアキャスティングと対比される手法で、計画策定方法の一つである。フォアキャスティングが「現在」を起点に将来の帰結を考えるのに対し、「将来」を起点に逆算して現在を考えるバックキャスティングは、フォアキャスティングと思考の「起点」および「方向」に違いがあると言える。・・・
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ウイリス・タワーズワトソンが昨年(2019年)12月12日に開催したセミナー
企業目線で考えるコーポレートガバナンスの実務
~実効的な取締役会・委員会の運用において社外取締役が果たすべき役割とは~
の講演録を、同社のご厚意により、当フォーラム会員の皆様にご提供します。
講演録には、同社コンサルタントによる社外取締役の取締役会における期待役割、取締役会評価や指名・報酬委員会においての関与の仕方等に関する解説のほか、クボタ、バンダイナムコホールディングス、JSRで社外取締役を務める元協和発酵工業代表取締役社長の松田 譲 様、CGSガイドラインの策定など、ここ数年間、日本企業のコーポレートガバナンス改革に取り組む経済産業省 経済産業政策局産業組織課長の坂本 里和 様によるパネルディスカッション「社外取締役が果たすべき役割とは」の講演録には実際の社外取締役のご経験を踏まえた考え方がそのまま掲載されています。社外取締役への就任を予定されている方に限らず、すでに社外取締役として就任済みの方も是非ご一読されることをお勧めします。データをご希望の方は当フォーラム事務局までご連絡ください。
2020年3月期の有価証券報告書から【事業等のリスク】の開示が強化される。開示が強化された背景は以下のとおり。・・・
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2020年3月期の有価証券報告書から【事業等のリスク】の開示が強化される。開示が強化された背景は以下のとおり。
| ・日本企業のリスク情報に関する開示は一般的なリスクの羅列となっているものが多く、外部環境の変化にかかわらず数年間記載に変化がない開示例も多い。 ・経営戦略やMD&Aとリスクの関係が明確でなく、投資判断に影響を与えるリスクが読み取りにくい。 ・投資判断に必要な企業固有のリスク、リスクが顕在化した際の影響度、リスクへの対応策等の開示がなされていない。 |
MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。
このような背景を踏まえ、金融庁は有価証券報告書の記載の根拠となる「記載上の注意」を以下のとおり改正している(赤字箇所が改正部分)。
| a 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下において「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう。以下aにおいて同じ。)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること。 b (略) c (略) |
改正点の1つ目、「経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク」については、「経営者」が主語となっていることに留意したい。ここでは「経営者」の視点により、自社固有のリスク情報が記載されることが想定されている。
改正点の2つ目、「当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること」における「当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期~リスクへの対応策」の記載は、その直後に「を記載するなど、」とあるとおり、あくまで“例示”にすぎない。したがって、投資家が投資先固有のリスクやそれに対する対応策などを理解することにつながる情報を、自社の状況を踏まえ、独自に記載することになる。
改正点の3つ目、「記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載」という部分は、単にリスク項目を羅列するのではなく、取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性(マテリアリティ)を判断し、重要性の高いリスクに記載を限定することを求めている。また、リスクの記載の順序は、その時々の経営環境、経営方針・経営戦略等との関連性の程度等を踏まえ、取締役会や経営会議で重要度を判断し決定することになる。
今回の改正点の中で最も重要な点は、「経営者の視点による、企業固有の重要なリスク情報」の開示が強調されているということだろう。金融庁は、NHKで「企業が抱えるリスク投資家に公表するよう要求へ」と題するニュースを流すほど啓蒙活動に力を入れている。このニュースでは、「サイバー攻撃」による個人情報の漏洩、「自然災害」による販売・生産の減少、「人口減少」による市場の縮小といった企業が抱えるリスク情報は投資家にとって重要であるとして、企業に情報開示を促している。
もっとも、上記「記載上の注意」の改正の趣旨を踏まえれば、例えば単に「サイバー攻撃による個人情報の漏洩」といった一般的なリスクを書けばよいというわけではない。たとえ各社に共通する一般的なリスクを記載する場合でも、それが「重要」であるがゆえに記載する以上、自社に対し具体的にどのような影響が見込まれるのかを明らかにする必要がある。
企業固有のリスク情報の開示内容については、当然経営者が判断することになるが、その際参考になるのが、金融庁が公表している「記述情報の開示の好事例集」だ。以下では、「サイバー攻撃」「自然災害」「人口減少」について記載している好事例を紹介しよう。
| (特に重要なリスク) (1)情報セキュリティに関するリスク 当社グループは業務遂行の一環として、個人情報や機密情報を取り扱うことがあります。これらの情報について、サイバー攻撃等による情報セキュリティ事故が発生した場合、当社グループの社会的信用やブランドイメージの低下、発生した損害に対する賠償金の支払い、法的罰則等により、当社グループの経営成績及び財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。 |
| (16)気候変動・自然災害に関するリスク 中略 また、地震、大雨、洪水などの自然災害により、社員や事務所・設備などに対する被害が発生し、当社及び連結子会社の事業に悪影響を及ぼす可能性があります。当社では、災害対策マニュアルや事業継続計画(BCP)の策定、社員安否確認システムの構築、耐震対策、防災訓練などの対策を講じていますが、自然災害等による被害を完全に排除できるものではなく、当社及び連結子会社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。 |
| ①食領域(酒類事業・飲料事業)に関するリスク 今後の酒類事業・飲料事業は、国内では人口減少により長期的に総需要の縮小が見込まれる中、価格の二極化や嗜好の多様化が進んでおり、RTDを含む低価格帯カテゴリーが伸長する一方、クラフトビール等の高価格帯カテゴリーや無糖飲料・機能性飲料等の健康志向の商品の需要が拡大していくことが予測されます。海外では、国や地域によって事業環境は異なり、人口増加による総需要拡大や新たな飲用人口の拡大に伴う低価格帯カテゴリーの成長が今後も見込まれる新興国市場がある一方、先進国市場や発展段階の進んだ新興国市場においては、日本と同様に、高価格帯カテゴリーの伸長や健康志向の商品への需要が見込まれます。こうした市場環境の変化に対応するため、キリングループでは、お客様とブランドのつながりを強めてモノだけに留まらない体験価値を提供し、強いブランドを維持・育成する「お客様主語のマーケティング力」を強化することにより、競争優位なブランドポートフォリオ構築を目指しています。 以下略 |
RTD : 「Ready to Drink」の略で、蓋を開ければそのまますぐ飲める飲料のことを指す。水や炭酸水で割る手間のかからない缶チューハイや缶カクテル、ハイボール缶などのアルコール飲料が代表的。
繰り返しになるが、経営者の視点による企業固有の情報を開示するという「記載上の注意」の改正趣旨を鑑みると、2020年3月期の有価証券報告書の記載にあたり、記載例や他社事例をそのまま開示するようなことがあってはならない。自社が投資家にとって魅力ある投資先となるためには、単に記載上の注意の内容を記載するだけではなく、「関連する情報」の記載を充実することがポイントと言える。リスク情報にはマイナスイメージが付きまとうが、リスクと機会は表裏一体の関係にある。例えば下記の開示事例のように、リスク情報の中に「機会」についての記載も入れることで、投資情報としては非常に有益なものとなる。
| 2.【事業等のリスク】 (略)
(以下、略) |
MSG : Mono Sodium Glutamate(グルタミン酸ナトリウム)の略で、味の素が長年販売している赤キャップのボトルに入ったうま味成分のこと。
ASQUA(アスカ) : 「Ajinomoto System of Quality Assurance」の略で、1997年に制定された味の素グループ独自の品質保証システム。
2020年3月期の有価証券報告書においては、【事業等のリスク】のほか、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】についても、開示の強化が図られる(2018年1月26日のニュース『新しい有報では「経営者の視点」への注目必至』参照)。投資家と建設的な対話を行うため、これらの改正項目についても、記載上の注意で求められている内容に加え、関連する追加的な情報を常に併せて開示することを意識したいところだ。
議決権行使助言会社大手グラスルイスの2020年版助言ポリシーの日本語版が公表された。英語版の内容は既に2019年12月11日のニュース「グラスルイスが2020年版ガイドライン公表、ISSが見送った政策保有株式のポリシー導入」でお伝えしたところだが、改めて日本語版と照らし合わせることで、自分の理解に間違いがないか確認しておきたい。・・・
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議決権行使助言会社大手グラスルイスの2020年版助言ポリシーの日本語版が公表された。英語版の内容は既に2019年12月11日のニュース「グラスルイスが2020年版ガイドライン公表、ISSが見送った政策保有株式のポリシー導入」でお伝えしたところだが、改めて日本語版と照らし合わせることで、自分の理解に間違いがないか確認しておきたい。
上記で引用したニュースでお伝えしたとおり、グラスルイスの2020年版ポリシーでは、「過剰な政策保有(純資産の10%超)」に関する基準が盛り込まれたものの、この基準の実施には1年間の猶予措置が設けられている。これに対し2020年の株主総会に直接影響するのが、ジェンダー・ダイバーシティに関する基準の適用拡大だ。この基準は女性役員が1人もいない場合、ジェンダー・ダイバーシティの欠如に責任がある取締役の選任議案に反対助言するというもので、昨年まではTOPIX100採用企業のみを対象としていたが、今年から東証1部および2部の上場企業すべてを対象とする。なお、「女性役員」とは女性の取締役、監査役および執行役とされ、「責任がある取締役」には監査役会設置会社と監査等委員会設置会社における会長(いない場合は社長)、および指名委員会等設置会社における指名委員長が該当する。
2月13日時点の有価証券報告書ベースで、女性役員がゼロの東証1・2部上場企業は全体の約3割を占めている。これらの企業は今年の株主総会で、女性役員の不在を理由に、会長などの選任議案に対しグラスルイスの反対推奨を受ける可能性が高いということになる。もっとも、グラスルイスは「その審査の際には、企業のダイバーシティに対する方針や取組みに関する開示内容等を慎重に吟味し、ジェンダー・ダイバーシティの欠如に対する明確な方針や取組みに関する十分な説明を示した企業に対しては、例外として、反対助言を行わない場合もある」としている。つまり、女性役員がゼロの企業であっても、開示内容次第では反対推奨を避けることができるということだ。
では、昨年はどれほどの「例外」事例があったのだろうか。グラスルイスによると、TOPIX100採用企業のうち12社が当基準(女性役員がゼロ)に抵触したが、反対推奨に至ったのはこのうち2社のみだったという。すなわち、残りの10社については、女性役員がいないにもかかわらず「十分な説明」があったと評価されたことにより、賛成推奨を勝ち取ることができたということになる。
また、グラスルイスは開示の「好事例」として、ふくおかフィナンシャルグループのコーポレートガバナンス報告書を紹介している。同報告書「ステークホルダーの立場の尊重に係る取組み状況」では、女性の活躍推進に向けた推進体制(専任部署の設置)や主な施策(各種の研修、支援制度)を説明したうえで、下表のとおり役職者および管理職に占める女性比率の数値目標を明示している。同社はTOPIX100採用企業ではないが、現状では女性役員が1人もいない。しかし、今年もし新たな役員として女性が選任されなくても、同様の開示レベルが維持されるのであれば、グラスルイスは賛成推奨する可能性が高いということだろう。
| 2018年3月末実績 | 2019年3月末実績 | 2020年3月末目標 | |
| 役職者 | 12.2%(262名) | 13.4%(297名) | 16.0%(330名) |
| 管理者 | 4.2%(52名) | 5.0%(57名) | 10.0%(90名) |
なお、当フォーラムが確認したところ、グラスルイスは「可能な限り」あらゆる情報開示をチェックしたうえで、どうしても女性活用にポジティブな記載が見つからなかった場合には反対推奨するという。前述したTOPIX100における12社中の2社は、そのような開示が「どうしても見つからなかった」ということだろう。女性役員を未選任の各社においては、女性活用を推進している旨を、コーポレートガバナンス報告書など投資家の目にとまりやすい媒体で開示することを検討する必要があろう。
「上場子会社の上場親会社からの独立性」の確保を巡って物議を醸したアスクルが、独立役員の選任に向け斬新な取り組みを実施し、話題を呼んでいる。・・・
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「上場子会社の上場親会社からの独立性」の確保を巡って物議を醸したアスクルが、独立役員の選任に向け斬新な取り組みを実施し、話題を呼んでいる。アスクルが同社の株式の約45%を保有する連結親会社ヤフー(当時。2019年10月1日よりZホールディングスに社名を変更)からLOHACO事業を譲渡するよう要請されたことをきっかけに両社間の対立が激化し、2019年8月2日のアスクルの株主総会では岩田社長と3人の社外取締役の再任議案が否決される事態となったのは周知のとおり(その経緯については【役員会 Good&Bad発言集】上場子会社の独立社外取締役の選任議案 を参照)。同社では、社長と3人の社外取締役の再任議案が否決された結果、社内取締役4名、社外取締役2名(ヤフーの小澤取締役とヤフー側についたプラス(かつてアスクル(当時の社名はプラス工業)を完全子会社として設立した事務機器メーカー)の今泉代表取締役社長。いずれも独立社外取締役ではない)の体制となり(なお、今泉社外取締役は2019年9月30日に逝去)、独立社外取締役が不在となっていた。そこで同社は2019年9月12日に(暫定)指名・報酬委員会を設置、9⽉16⽇から2020年2⽉5⽇にかけて合計21回の同委員会を開催し、2⽉5⽇には、企業経営者2名、法曹実務家1名、学識経験者1名の計4名の独⽴社外取締役候補者を指名し、取締役会に答申した。これを受け、同社取締役会は2020年3月13日に開催予定の臨時株主総会で当該候補者の選任議案を提案する運びとなった。
(暫定)指名・報酬委員会が最初に取り組んだのが、独立社外取締役の指名基準の作成だ。2019年9月17日に公表した指名基準の内容は以下のとおりとなっている。
| ・アスクルの企業価値向上のために最適な判断ができること ・アスクルの企業理念・⽂化を理解し、共有できること ・アスクルの執⾏部からの独⽴性のみならず、⼤株主であるZホールディングス株式会社及びプラス株式会社からの独⽴性が確保されていること ・コーポレートガバナンス及び資本市場の公正確保(⼀般株主の権利の尊重を含む)についての⼗分な⾒識を有すること ・ビジネス(ネットビジネスを含む)に対する⼗分な理解を有すること |
(暫定)指名・報酬委員会はまず、エグゼクティブサーチ会社の協⼒も得て約30名の候補者のロングリストを作成し、次いで、これらの候補者を上記「指名基準」に基づいて絞り込み、ショートリストを作成。そして、ショートリスト上の候補者と⾯談を実施し、今後のアスクルの企業価値向上、ガバナンス、⼤株主であるZホールディングス(旧ヤフー)およびプラスとの関係の在り⽅などについて候補者と意⾒交換を⾏ったうえで、(暫定)指名・報酬委員会の委員全員と意見が⼀致した4名を独⽴社外取締役候補者として指名している。
アスクルの一連の取り組みの中で注目すべきポイントは2つある。
まず、候補者4名は、(暫定)指名・報酬委員会のメンバー同席のもと、⼤株主であるZホールディングスおよびプラスの経営陣とそれぞれ対話を実施しているという点である。対話の際、候補者4名は「独⽴社外取締役に選任された際には、経済産業省の『グループガイドライン』の趣旨を尊重して業務を遂⾏し、⼤株主との建設的な対話を重視しつつ、⼤株主から独⽴した⽴場で、アスクル株主全体の共通の中⻑期な利益の向上に資する判断を⾏う」との意思を⼤株主に表明している。上場親会社としても、ここまで慎重かつ丁寧な段取りを踏まれては、もはや賛成するほかないだろう。
2点目は、候補者4名がそれぞれ「抱負文」を作成し、公表したということだ(抱負文はこちら)。株主総会の場で株主が候補者に抱負を述べるよう求めるケースは増えてきたが、会社提案の議案が公表された翌日に自主的に抱負文を公表するのは初めてのケースと思われる。株主にとっては、抱負文を読んだうえで株主総会において意思決定ができるようになることに加え、経歴だけでは分からない“意気込み”を知ることが可能になったという点で画期的な取り組みと言える。
さらにアスクルは、独⽴社外取締役の執⾏側および⼤株主からの独⽴性を強化しつつ、在任が⻑期にわたることの弊害を防⽌するために、独⽴社外取締役の任期を1年ではなく例えば2年にする⼀⽅で、在任期間の上限を設けることも検討している。
「上場親会社との事前面談」「グループガイドラインの遵守宣言」「抱負文の公表」「在任期間の上限設定」といったアスクルの取り組みは、上場子会社側が上場親会社から独立性を確保していることを対外的にアピールする手段として、一つのモデルケースとなりそうだ。
同一人物がいずれも代表取締役を務める3社が絡んだ第三者割当増資を無効とする判決が東京地裁で下された。
本件は、最近まで東証一部に上場していた・・・
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同一人物がいずれも代表取締役を務める3社が絡んだ第三者割当増資を無効とする判決が東京地裁で下された。
本件は、最近まで東証一部に上場していたT社の株式を間接的に保有するグループ会社間で発生した。T社の上場廃止後、同社株式は同社の創業者(2011年に死亡)の母、長男、次男の3人で全て保有されているが(3人がそれぞれ直接保有している分もあれば、複数の会社を通して間接的に保有している分もある)、3人の中に突出した保有割合の株主はいない。
T社の株式はX社が90%保有しているが(残りの10%は母、長男、次男で保有)、このX社の株式はT総業が100%保有している。すなわち、各人のT総業株式の保有割合が、T社への支配力を左右することになる。T総業株式の保有割合は、母が25.72%、長男が23.39%、次男が11.1%となっているほか、乙社が30.09%、丙社が8.52%となっている。このうち丙社は長男が100%保有する甲社の100%子会社であるため、丙社の持分8.52%は事実上長男の持分と言える。この状況において、T社の支配という観点から鍵を握っていたのが、T総業の筆頭株主である乙社だ。
乙社の株式は長男が100%保有する甲社が「49%」、母が40%、長男・次男がそれぞれ30%保有するP社が100%保有するX社が「51%」保有していた。そこで、P社、甲社・乙社のすべてにおいて代表取締役を務めていた長男は、乙社を発行会社、甲社を引受人とする第三者割当増資を行うことを考案する。これが実現すれば、長男が100%保有する甲社が、T総業の筆頭株主である乙社の株式を過半数取得することができ、結果的にT社も支配することができるからだ。

甲社を提案者(かつ引受人)とする乙社の第三者割当増資は、乙社のすべての株主が「書面」により同意の意思表示をしたとして、会社法319条1項に基づき、本件を可決する旨の株主総会決議があったものとみなされた。
| 会社法319条(株主総会の決議の省略) 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。 |
これに対しP社は、「第三者割当増資議案への同意により、P社が保有する乙社株式の内容が大きく変化することに照らせば、同意の意思表示は会社法362条4項柱書の『その他の重要な業務執行』に該当することになるため、P社の取締役会決議を経る必要がある」などと主張し、乙社に対し訴訟を提起した。
| 会社法362条(取締役会の権限等) 中略 4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。 以下略 |
P社には事業による収益がほとんどなく、実態としては、乙社を通じてT総業及びT社の株式を間接的に保有することを目的としていた(実際、P社の総資産額に占める乙社の株式の帳簿価額は27.15%に達していた)。このような状況の中で、仮にP社の代表取締役(長男)が本件第三者割当増資に同意する意思表示を行えば、P社の乙社に対する持株比率は49%となり、乙社の支配株主としての地位は失われることになる。
東京地裁は、親会社の代表取締役(ここではP社の代表取締役である長男)が子会社(ここでは乙社)の株主総会において議決権を行使する行為は一種の「業務執行行為」に当たるとしたうえで、「親会社と子会社との関係、議案の内容等に応じて、それが親会社の業務執行としての重要性を有するものであれば、会社法362条4項柱書の『その他の重要な業務執行』に該当し、取締役会における意思決定を必要とする場合があると解することが相当」ととし、P社の代表取締役(長男)が本件第三者割当増資に同意すれば乙社の支配株主としての地位が失われるという点に照らせば、本件同意の意思表示は「会社法362条4項柱書の『その他の重要な業務執行』に該当すると解することが相当」との判断を示した。
また、代表取締役(長男)が、取締役会決議を経てすることを要する外部的な業務執行行為を、当該決議を経ずに行った場合においては、意思表示等に関する民法の一般原則である民法93条但書の法理に準拠して、相手方(長男)が取締役会決議を経ていないことを知り又は知ることができた場合には、当該行為は無効と解するのが相当であるとし(最高裁昭和40年9月22日第三小法廷判決民集19巻6号1656頁参照)、代表取締役(長男)が会社法319条1項に基づく同意の意思表示を行った場合も、これと同様に解することができるとみるべきであるとした。
| 民法93条(心裡留保) 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。 |
東京地裁は、P社、甲社、乙社の代表取締役はいずれも長男であり、長男は、本件新株発行によってP社が乙社の支配株主たる地位を失うことに加え、P社の取締役会決議を経ていないことを当然に認識していたと言えるから、上記同意の意思表示は無効と解することが相当とし、当該第三者割当増資も無効と結論付けている。
本件は、元東証一部上場企業の“お家騒動”ではあるが、会社法319条1項を利用した「書面等による同意」のリスクを確認したという点では、同族色の強い上場企業などで時折見受けられる“社長の独断”による意思決定に警鐘を鳴らすものとも言えそうだ。