2026/04/15 ダルトンによる議決権基準日見直し提案に資本市場から否定的な声も 上場会社はどう対応する?(会員限定)

有価証券報告書(有報)を定時株主総会(総会)の前に開示する動きが広がる中、著名なアクティビストであるダルトン・インベストメンツ(ダルトン)が投資先企業に対して、2026年6月総会の議決権基準日の変更を求める株主提案を順次行う方針を示し、上場会社のみならず資本市場関係者の注目を集めている(ダルトンのリリースはこちら)。

ダルトンは株主提案の趣旨として、①有報等の重要な情報を総会よりも十分に早い時期に開示することで、投資家がその情報を分析・検討したうえで議決権を行使できるようになることと、②現在6月下旬に集中している総会開催日が分散することで、株主が総会に参加する機会が広がること、を挙げている。

ただ、上場会社の多くが「3月31日」を基準日としている現状では、有報の開示が総会に近接したタイミング(総会当日や前日)とならざるを得ないため、投資家がその内容を精査したうえで議案への賛否を判断することは難しい。そこでダルトンは、議決権の基準日を「4月末~5月中旬」に変更すべき、と主張している。


基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

ダルトンがこうした方針を打ち出した背景には、昨年(2025年)、アドバンテストが基準日を「5月15日」に、同じくソラコムが「4月30日」に変更する定款変更を実施したということがある(いずれも3月決算)。アドバンテストは、定款変更議案の提案理由を「株主の皆さまと建設的かつ実効的なエンゲージメントを図るため」と説明、同議案は99.78%の圧倒的な賛成を得て可決されている。

現行定款 変更案
(基準日)
第11条
当会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年3月31日とする。
②前項のほか必要がある場合は、取締役会の決議によりあらかじめ公告して臨時に基準日を定めることができる。
(株主総会の招集)
第12条
定時株主総会は毎年4月1日から3ヶ月以内にこれを招集し、臨時株主総会は必要に応じて随時にこれを招集する。
(定時株主総会の基準日)
第11条
当会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年5月15日とする。
②前項の規定にかかわらず、必要がある場合は、取締役会の決議によりあらかじめ公告して前項の基準日を別途定めることができる。
(株主総会の招集)
第12条
定時株主総会は前条に規定する基準日から3ヶ月以内にこれを招集し、臨時株主総会は必要に応じて随時にこれを招集する。

2026年4月10日に公表されたコーポレートガバナンス・コードの第三次改訂案(詳細は2026年4月14日のニュース「第三次CGコード改訂に対する産業界等の評価と改訂の背景」ほか参照)では、新設する原則1-2(下記)において、有報を総会前に開示するなど「株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報を必要に応じ適確に提供」することに加え、「株主総会開催日や議決権行使に係る基準日をはじめとする株主総会関連の日程を適切に設定」することを求めている。また、原則1-2の解釈指針では、有報は「株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましい」としたうえで、基準日を「従前の慣行に基づく時期から後ろ倒し」することを含めて検討すべきとしている。

【原則1-2. 株主総会における権利行使】
上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを踏まえ、株主の視点に立って、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出するなど株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報を必要に応じ適確に提供する、株主総会開催日や議決権行使に係る基準日をはじめとする株主総会関連の日程を適切に設定する、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とするなど、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。
解釈指針
株主総会は株主にとって議決権行使等を通じて上場会社に対して直接意見を発信することができる数少ない機会であり、株主との建設的な対話を行うことができる場の一つであることを踏まえ、上場会社は、株主総会において株主が適切な判断を行うことができるよう、例えば以下の点について、株主の視点に立って適切な環境整備を行うべきである。
(ⅰ) 有価証券報告書には役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報等、投資家
がその意思を決定するに当たって有用かつ信頼性の高い情報が豊富に含まれていることから、本来、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいと考えられる。そのため、株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討する。(後略)

今回のダルトンの提案には、有報を踏まえて議案の賛否を検討する時間の確保や、総会参加機会の拡大という大義名分があり、かつ、CGコード改訂をはじめ金融庁が推進する政策とも合致しているため(2026年3月5日のニュース「有報の総会前開示、2026年は8割超えへ 金融庁調査と制度改正が後押し」参照)、一定数の機関投資家は積極的に賛成する可能性がある。当フォーラムが機関投資家に取材したところ、「良い提案なので賛成したい」「少なくとも反対する理由は見当たらない」といった声が確認されている。

その一方で、市場関係者の中には、ダルトンの提案に対して複雑な思いを示す声も少なくない。これまで国内機関投資家は、限られた期間に膨大な数の投資先企業について議決権を行使しなければならない中、実務を回すための工夫を重ねてきた。また、企業との対話を通じて招集通知の任意記載の充実を促し、その情報を活用することで議決権行使の質を高めてきた。このため、今回の提案を「こうした積み重ねを無視したもの」と捉える向きもある。さらには、今回の提案に対し「これまで我々が行ってきた議決権行使は不十分な情報に基づくいい加減なものだったと言われているようなもの」と、不快感をにじませる声も聞かれる。企業との対話と協働を長年積み重ねてきた立場から、その蓄積を自ら否定することになりかねない株主提案に直ちに賛成することへのためらいも広がっている。

加えて、投資家が懸念しているのが、配当基準日の取扱いだ。ダルトンの提案は「議決権の基準日」の変更のみを求めており、配当基準日については触れていない。配当基準日が3月末のままだと、ダルトンが求めるように議決権基準日を「4月末~5月中旬」に後ろ倒しした場合、3月末の権利落ち後に株式を取得した株主が、自らは当期配当を受ける権利を持たないにもかかわらず、剰余金処分案については議決権を行使できるという、経済的利害と議決権の不整合が生じてしまう。これを避けるには、議決権基準日を変更するだけでなく、定款変更により剰余金処分を取締役会の決議事項とすることも併せて検討する必要があり、この点に踏み込んでいないダルトンの提案に乗ることは難しいとの声も聞かれる。


権利落ち : 配当や株主優待などの権利を受け取るための基準日を過ぎ、株式を取得してもその権利が付かない状態。

このように資本市場において賛否が分かれている状況の中、本株主提案のターゲットとなった企業はどのように対応すべきだろうか。株主提案を受け入れ、会社提案として定款変更議案を上程することは、株主総会を建設的な対話の場とする取り組みとして検討に値する一方で、議決権基準日を変更すれば株主名簿の確定など株主管理の負担増にもつながるため、検討は継続しつつも、今回は時期尚早として提案を受け入れないという対応も十分考えられる。

提案を受け入れないこととした場合には、現状のスケジュール下で招集通知の記載内容を充実させ、早期のウェブ開示や英文開示を進めることにより、投資家に対する情報提供の質と十分な検討期間を確保していることをアピールし、資本市場の理解を得つつ反論することは有効だろう。

基準日変更を求める株主提案の対象は、ダルトンの投資先企業にとどまるとは限らない。他のアクティビストを含む投資家から、同様の株主提案やエンゲージメントが上場会社全体に広がることも想定される。上場会社各社は、改訂CGコードの趣旨を踏まえ、株主総会関連の日程や情報開示スケジュールの望ましいあり方について、あらかじめ議論を深めておく必要がある。

2026/04/15 GW休業のお知らせ

誠に勝手ながら、2026年4月30日(木)、5月1日(金)、5月7日(木)、5月8日(金)のゴールデンウィーク期間中、事務局は休業となります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い致します。

2026/04/14 第三次CGコード改訂に対する産業界等の評価と改訂の背景

2026年4月13日のニュース『CGコード第三次改訂案のパブコメ開始、現預金保有は「保有の必要性・合理性」の説明が条件』でお伝えしたとおり、2026年4月10日よりパブリックコメントに付されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の第三次改訂案に対しては企業から様々な声が上がっている。

昨年10月21日に開催された「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」の第1回会合で金融庁が示した「アクション・プログラム2025が示唆する検討の方向性」(9ページ)において挙げられた以下の4つの論点に関する改訂内容について、産業界等の評価と改訂の背景を取材した。

「アクション・プログラム2025が示唆する検討の方向性」

【全体】
□ コードのスリム化/プリンシプル化
【個別】
□ 多様な投資機会があることを認識することの重要性、現状の資源配分が適切かを不断に検証しているか、例えば現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化
□ 有価証券報告書の定時株主総会前の開示
□ 取締役会事務局の機能強化

1. コードのスリム化/プリンシプル化
CGコードの記述に対しては、かねてより産業界から・・・

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2026/04/14 第三次CGコード改訂に対する産業界等の評価と改訂の背景(会員限定)

2026年4月13日のニュース『CGコード第三次改訂案のパブコメ開始、現預金保有は「保有の必要性・合理性」の説明が条件』でお伝えしたとおり、2026年4月10日よりパブリックコメントに付されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の第三次改訂案に対しては企業から様々な声が上がっている。

昨年10月21日に開催された「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」の第1回会合で金融庁が示した「アクション・プログラム2025が示唆する検討の方向性」(9ページ)において挙げられた以下の4つの論点に関する改訂内容について、産業界等の評価と改訂の背景を取材した。

「アクション・プログラム2025が示唆する検討の方向性」

【全体】
□ コードのスリム化/プリンシプル化
【個別】
□ 多様な投資機会があることを認識することの重要性、現状の資源配分が適切かを不断に検証しているか、例えば現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化
□ 有価証券報告書の定時株主総会前の開示
□ 取締役会事務局の機能強化

1. コードのスリム化/プリンシプル化
CGコードの記述に対しては、かねてより産業界から「箸の上げ下ろしに口を出すかのような細部にわたる記述が多い」との指摘があったところ。こうした中、今回のCGコード改訂案では、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則等の数が、現行コードの「83個」から「30個」へと、53個(64%)も削減された。これについて、「半減」を要望していた産業界からは「満点以上の回答」との声が上がっている。

一方で、全体の分量が現行の25ページから改訂案では26ページと増えていることへの不満も聞かれる。分量が減らなかった(むしろ増えた)一因となったのが、CGコードに各種の政策的意図を書き込むことによって、それを企業経営に反映させたいという一部省庁の意向だ。昨年12月には経団連が「コーポレートガバナンス・コードはあくまで企業の創意工夫による自律的経営を支える枠組みであり、企業行動を制御したり、特定の政策目的の実現手段として用いたりするべきではない」と提言していたが(詳細は2025年12月9日のニュース「資本効率偏重に警鐘 経団連がコーポレートガバナンス改革に向け久々の本格的提言」参照)、経済産業省の知的財産政策担当部局をはじめ、様々な部局が強力なロビイングを展開した結果、原則4-1(取締役会の役割・責務Ⅰ:企業戦略等の大きな方向付け)やその解釈指針を中心に、様々な政策が盛り込まれた(例えば、「知的財産等の無形資産への投資」「地方への人的投資・地方拠点の整備」といった記述が見られる)。

2. 経営資源の配分(キャピタル・アロケーション)
この論点は、与党内に企業の内部留保、とりわけ現預金の保有率が諸外国に比べて高いことに対して批判があることを受けて問題提起されたものだが、産業界からは「保有率の水準を示せば、現預金がそれを上回る場合、その超過分を株主還元に回すよう求める口実をアクティビストに与えることになりかねない」との懸念が示されるなど、改訂CGコードにおける書き振りに注目が集まっていた。

結局、原則4-2(2)の本文に「取締役会は、自社の経営資源の配分が、成長の実現を目指して策定・公表した経営戦略や経営計画に照らし適切なものとなっているかについて不断に検証を行うべきである」、解釈指針に「現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかを含め、不断に検証を行うべき」と書き分けることで決着した。産業界からは、「現預金」という文言が原則に入らなかったことについて、「そもそも成長投資に振り向けるべき経営資源は現預金だけでないことから、経営者に問われているのは経営資源の配分(キャピタル・アロケーション)であることが明示された」「近年、経営計画等でキャピタル・アロケーションを説明する企業が増えているが、こうした動きを取り込んだ記述」と、前向きな評価が聞かれる。

改訂の趣旨を記載した文書「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(2ページ下から4行目~)に盛り込まれた「現預金を含めたこれらの資産を保有することは常に否定されるべきものではなく、会社が保有の必要性・合理性を説明できる限りにおいて、適正な水準の現預金等を保有することも経営資源の配分の一環として考えられることに留意が必要である」との記述に対しては、筒井経団連会長が4月6日の記者会見で、「配分先として、投資、従業員への還元、またリスク事象に備えたバッファーとしての内部留保にも重要な役目がある」と呼応していた。

3. 有価証券報告書の総会前開示
この論点については、企業の対応コスト・開示負担の増加を懸念する産業界から激しい反発があった。そこで改訂CGコードの序文に、「金融庁は、企業負担も考慮し、現行法制下で一般化している実務運用からすると株主総会開催日の3週間以上前の開示は必ずしも容易ではないとの認識の下、法務省とも連携しつつ、法制審議会において議論されている有価証券報告書と事業報告等の一本化・会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化や、有価証券報告書の記載事項の整理といった制度的な検討も並行して進める」との表現を盛り込み、さらに「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(3ページ最終行~)にも同じ表現を盛り込む念の入れようとなった。

これにより、金融庁は、法務省と連携して、有価証券報告書と事業報告等の一本化等に取り組むことを“公約”するとともに、金商法や会社法の環境が整うまでの間、投資家が「有価証券報告書を3週間前に開示していないこと」を理由に、定時株主総会の議案に反対票を投じるという対応をとることは「封じられた」格好となった。

4. 取締役会事務局の機能強化
取締役会事務局の機能強化は、元々は経済産業省が『「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会』で提起した論点である。原則4-14(取締役会における審議の活性化等)の(3)に「上場会社は、取締役会を支える部署等の人員面を含む取締役・監査役の支援体制を整えるべきである」との表現が入り、さらに解釈指針に、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化を推進すべきことや、取締役会事務局は単なる事務方ではなく、取締役会や委員会の実効性ある運営を能動的に支える役割を担うことなどが記述されたことは、経済産業省や、取締役会事務局の機能強化を求めてきた日本取締役協会等にとっては満点以上の成果が得られたと言えよう。

もっとも、これらの記述は、英国法におけるカンパニーセクレタリー制度などとは異なり、現在も「経営企画部」「取締役会室」等の名称で各社に置かれている機能の重要性と、社外取締役が増加している中でその機能が重要になってくることを示したものであり、配置される人員の要件等を定めたものではない。

今回の第三次改訂案は、原則数の大幅削減に象徴されるように、産業界の要望が相当程度反映された一方で、個別の記述には関係省庁の政策的意図も色濃く残った。現預金の扱い、有価証券報告書の総会前開示、取締役会事務局の機能強化といった主要論点を見ても、今回の改訂内容は、産業界・投資家・関係省庁のせめぎ合いの中での現実的な着地点と言えそうだ。

2026/04/13 CGコード第三次改訂案のパブコメ開始、現預金保有は「保有の必要性・合理性」の説明が条件

金融庁は2026年4月10日、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の第三次改訂案についてパブリックコメントを開始した(金融庁のリリースはこちら)。2026年4月6日のニュース「CGコード改訂案、有識者会議踏まえ修正 4月中旬にパブコメ、CG報告書提出期限は2027年7月となる方向」でお伝えしたとおり、パブコメ期間は約1か月後の5月15日までとなっている。パブコメの結果を踏まえ、6月上旬には内容が確定するとともに適用が開始され、上場会社は遅くとも2027年7月までにCG報告書を提出することが求められる。

4月3日に開催された「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(以下、有識者会議)第3回会合からパブコメ開始までわずか1週間であり、同会合で提示された改訂案から内容はほぼ変わっていない。原則4-4の解釈指針において、「全社的リスク管理体制」の「体制」が削除されるなど、基本的に小幅な変更にとどまる中、最も重要な変更点と言えるのが、・・・

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2026/04/13 CGコード第三次改訂案のパブコメ開始、現預金保有は「保有の必要性・合理性」の説明が条件(会員限定)

金融庁は2026年4月10日、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の第三次改訂案についてパブリックコメントを開始した(金融庁のリリースはこちら)。2026年4月6日のニュース「CGコード改訂案、有識者会議踏まえ修正 4月中旬にパブコメ、CG報告書提出期限は2027年7月となる方向」でお伝えしたとおり、パブコメ期間は約1か月後の5月15日までとなっている。パブコメの結果を踏まえ、6月上旬には内容が確定するとともに適用が開始され、上場会社は遅くとも2027年7月までにCG報告書を提出することが求められる。

4月3日に開催された「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(以下、有識者会議)第3回会合からパブコメ開始までわずか1週間であり、同会合で提示された改訂案から内容はほぼ変わっていない。原則4-4の解釈指針において、「全社的リスク管理体制」の「体制」が削除されるなど、基本的に小幅な変更にとどまる中、最も重要な変更点と言えるのが、序文の末尾近くにある「●年改訂を踏まえた当面の留意事項」に以下の文章が追加されたことだ。

●年改訂にともない、改訂の趣旨等を記載した「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」が公表されている。上場会社や株主その他のステークホルダーにおいては、当該文書を参照することが期待される。

有識者会議の第3回会合では、今回の改訂の趣旨を示す文書である「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」の案文に対し、「この文書は一過性のものではなく、常に立ち返るべき指針として参照されるべき」(小林メンバー)、「非常に骨太な記載であり、経営者の方にぜひ読んでいただけるよう周知すべき」(松田メンバー)、「改訂の目的や考え方が非常に分かりやすくなった」(長谷川メンバー)といった高評価のコメントが相次いだ。これを受けて、改訂案の最終版の序文に、当該文書の参照を促す記述が追加されたという経緯がある。

パブコメに付された「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」は4ページで構成されており、主な内容は以下のとおりとなっている。「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象は原則本文に限られること(解釈指針は対象外であること)、現預金などの保有が必ずしも否定されるものではないこと、プライム市場上場会社は将来的に独立社外取締役を過半数とすべきであることなど、有識者会議で取り上げられた論点が反映されている。

Ⅰ. はじめに ● 本コードは、会社の迅速・果断な意思決定を促すことで、企業の「稼ぐ力」の向上に向けた、「攻めのガバナンス」の実現を目指す
● 経営資源をどのように振り向けるかは企業の経営判断に属するが、専ら株主還元に頼るなど短期目線ではなく、中長期的な企業価値の向上に向けた成長投資等の取組みが期待される
● 改訂案では「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則を抽象的かつ概念的なものに限定し、実効的な実施を支援する具体的な内容や趣旨・背景を記載した「解釈指針」を新設した
● 上場会社には、各原則の趣旨・精神に照らしてコンプライ又はエクスプレインを選択するとともに、このいずれを選択する場合であっても、自らの取組みについて丁寧に説明することが望まれる
Ⅱ. 本コードの改訂に当たって 1. 成長投資の促進 ● 経営資源の配分に関する説明は、例えば、キャピタルアロケーションの開示が考えられる
● 自社の成長フェーズや機会コスト等の様々な要素を考慮した上で、多様な投資先への配分や株主還元を含む資源配分戦略を検討する必要がある
会社が保有の必要性・合理性を説明できる限りで、適正な水準の現預金等を保有することも、経営資源の配分の一環として考えられる
2. 取締役会の機能強化 ● いずれプライム市場上場会社では、過半数の独立社外取締役が選任されるべき
● 一定の場合、独立社外取締役が議長を務めることで、取締役会の役割がより実効的に果たされる
● 議長や独立社外取締役を含めた取締役を支援する重要な役割を果たす事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化を推進すべき
3. 有報の総会前開示 ● 現行法制下で一般化している実務運用からすると、3週間以上前の開示は容易ではない
● 金融庁は、法務省とも連携しつつ、有報・事報の一本化など、制度的な検討も並行して進める
Ⅲ. 本コードの改訂の適用について ● 上場会社は、遅くとも2027年7月までに、改訂CGコードに関する事項を記載したCG報告書を提出するよう求めることが考えられる(具体的には東証が検討)


キャピタルアロケーション : 調達した資金、事業活動を通じて得た資金をどこに投資するか、どのように使うかを判断すること。
機会コスト : ある資源配分を選ぶことで、他の選択肢に振り向けていれば得られたはずの利益や成長機会を失うこと。

上場会社が改訂CGコードに対応するにあたっては、“総論”としては、上表の「Ⅰ. はじめに」にあるとおり、「解釈指針」を用いた実効的な「コンプライ・オア・エクスプレイン」を行うこと、また、コンプライを選択した場合でも、「自らの取組みについて丁寧に説明」することが必要になる。

“各論”として留意したいのが、「1. 成長投資の促進」だ。現預金を保有することが必ずしも否定されていないとはいえ、それはあくまで「会社が保有の必要性・合理性を説明できる限り」という条件付きであり、説得力のある「キャピタルアロケーションの開示」が求められる。

さらに金融庁は、上場会社の経営者担当者投資家(スチュワードシップ・コード署名機関)それぞれに向けた「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」と題する文書をパブコメに付している。各文書は、改訂CGコードの実施・運用に際しての留意点を示したもの。具体的には、経営者には組織体制の整備などを通じて「取組みの陣頭指揮」を執ること、担当者には「解釈指針も踏まえて」各原則の趣旨・精神を理解すること、投資家には「会社の個別状況を考慮せず」に対応を迫るべきでないこと、などを促している(下表参照)。上場会社においては、経営者のリーダーシップの下、担当者が改訂CGコードの趣旨を適切に理解したうえで対応を進めることが重要になる。そして、そのプロセスを、社外取締役をはじめとする取締役会が継続的にモニタリングすることが求められよう。

経営者 ● 各原則は、経営陣にとっての制約と捉えることは適切ではなく、果断な意思決定やリスクテイクを伴う事業活動を後押しするもの
● 今般の改訂では、取締役会を支える部署等の人員面を含む取締役・監査役の支援体制の整備の重要性を強調した
● 社内担当者に対する趣旨・精神の周知や、CG対応の実践のための組織体制の整備を行うなど、取組みの陣頭指揮を執ってほしい
担当者 ● 「ひな型」的な表現により表層的な説明に終始することはコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨に反する
● 原則をコンプライする場合・しない場合のいずれであっても、その理由を丁寧に説明することが、投資家との建設的な対話に資する
● 解釈指針も踏まえて各原則の趣旨・精神を解釈し、自社が置かれた状況を踏まえ、当該趣旨・精神に沿った対応を行う必要がある
投資家 ● 短期目線での一方的な要求や、自己の投資方針に沿わないことのみで会社側の説明を否定する姿勢は、信頼関係を損ないかねない
● コードの運用には、会社の個別の状況を十分に尊重することが求められ、特に会社による「丁寧なエクスプレイン」は歓迎すべき
● コードをルールと捉え、会社の個別状況を考慮せず、コードに文言・記載があることのみを理由に対応を迫ることは、適切ではない

2026/04/10 【2026年3月の課題】各運用機関の2026年議決権行使方針 解答(会員限定)

ジェイ・ユーラス・アイアール株式会社
シニアマネージャー 水嶋 創

2026年6月の株主総会シーズンに向けて、国内主要機関投資家の新たな議決権行使基準が出揃いました。本稿では、以下の機関投資家の議決権行使基準の改定内容をテーマごとに整理します。併せて、各投資家が公表している議決権行使基準に関する「検討課題」等についても取り上げます。

大和アセットマネジメント(2025年10月公表)

野村アセットマネジメント(2025年11月公表)

りそなアセットマネジメント(2025年11月公表)

三井住友トラスト・アセットマネジメント(2025年12月公表)

三井住友DSアセットマネジメント(2026年1月公表)

アモーヴァ・アセットマネジメント(2026年2月公表)

三菱UFJ信託銀行(2026年2月公表)

三菱UFJアセットマネジメント(2026年2月公表)

アセットマネジメントOne(2026年2月公表)

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ROE基準

ROEが一定期間(3年など)連続で一定の水準を下回った場合に取締役の再任に反対するといういわゆるROE基準は、ここ1~2年間で「5%」から「8%」への厳格化が進行しました。例えばアモーヴァ・アセットマネジメントは、本年4月より、「3期連続で8%未満かつ業種内下位50%の場合、当該期間在任の取締役の再任に反対」することとしています(前年の改定時に予告済)。また、昨年5%から8%への引き上げを行ったりそなアセットマネジメントは、業種内相対基準を「業種内下位25%」から「業種内下位1/3」に厳格化しています。


ROE : ROE( Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。

この「8%」をさらに引き上げる動きは現時点で確認されておらず、今後は「8%」の定着が図られていくものと考えられます。例えば、三菱UFJアセットマネジメントは、2027年4月からTOPIX500採用企業に対して8%を求めることとするとともに、対象企業を拡大する方針を示しています。また、大和アセットマネジメントは、「業種内下位33%水準」を閾値に設定していますが、「絶対値の採用については検討課題」としています。今後は企業の規模や業種を問わず「8%」を求める投資家が増加していくことが見込まれます。

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政策保有株式基準

政策保有株式基準についても、一部の機関投資家で厳格化の動きが確認されました。野村アセットマネジメントは、政策保有株式が過大であるとして会長・社長等の選任に反対する閾値を「投下資本(純資産+有利子負債)の20%」に設定していましたが、これを「15%」に引き下げました。同様に三井住友DSアセットマネジメントは、「純資産の20%程度」を「15%程度」に引き下げています。

定性的な判断基準としては、りそなアセットマネジメントが「保有目的を純投資に振り替えたにもかかわらず、実態として政策保有株式と認められる場合」にはこれを加味して判断することとしました。また、大和アセットマネジメントは、売却の打診を断る行為を問題視しており、今後これを議決権行使基準に盛り込むことを検討するとしています。

ジェンダー・ダイバーシティ基準

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女性取締役の選任を求めるジェンダー・ダイバーシティ基準については、女性取締役の不在解消を求める段階から、人数や比率に着目した、より具体的な基準へと厳格化が進んでいます。野村アセットマネジメントは、女性取締役が不在の場合に会長・社長等の選任に反対していましたが、これを「10%未満の場合」に変更しています(前年の改定時に予告済)。また、議決権行使助言会社ISSも、2027年2月以降、10%以上の女性取締役の選任を求めるとしています。さらに、大和アセットマネジメントも10%を閾値とする予定としています(時期未定)。

なお、りそなアセットマネジメントと三菱UFJアセットマネジメントは、「2030年までに30%」との方針を示しています。ジェンダー・ダイバーシティ基準の厳格化は今後も進行していくと考えられます。

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指名・報酬委員会

本年は指名・報酬委員会に関する改定もみられました。野村アセットマネジメントは、「指名に関するガバナンスを整備している」とみなす基準として、委員の過半数が社外取締役であることを条件としました(本年11月以降適用)。そのうえで、「指名に関するガバナンスが整備されていない」企業において、取締役会に過半数の社外取締役がいない場合は、会長・社長等の選任に反対するとしています。指名委員会に取締役でない委員が含まれている企業などは本改定の影響を受ける可能性があるので、注意が必要です。

また、アセットマネジメントOneは2027年4月から、指名・報酬委員会が設置されていない場合には代表取締役の選任に反対するとの基準を新設しました(対象はTOPIX500構成企業)。さらに、同様の基準を既に導入(対象はプライム市場上場企業)している大和アセットマネジメントは、「委員長は社外取締役が務めるとともに社長、CEO等は入らないことが望ましい」との見解を示しました。今後は委員会の「設置」にとどまらず、委員会の「構成」が問われる可能性があります。

社外役員の独立性

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国内機関投資家が社外取締役候補者の独立性を判断するにあたっては、①東証の独立役員届出書の提出があるか、②大株主出身ではないか、③在任期間が長期(12年以上など)ではないかを考慮する実務が定着しています。このうち②について大和アセットマネジメントは、大株主と見なす保有割合の基準を10%から5%に厳格化しました。


独立役員届出書 : 東証は企業に対し、独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)を独立役員届出書により届け出ることを求めている。

また、アセットマネジメントOneは、大株主出身者を社外取締役や社外監査役候補者とした場合、当該候補者のみならず代表取締役(指名委員会設置会社の場合は、指名委員会の構成員)の選任に反対するとの規定を新設しています。

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本稿で分析対象とした投資家はいずれも運用資産額が大きく、多くの上場企業において主要な実質株主に該当します。株主判明調査等に基づき、投資家が保有する議決権比率を把握することで、自社の株主総会議案の賛成率に与える影響が決して小さくなく、また複数の投資家の賛否が重なることでさらに大きなインパクトとなりうることが分かるでしょう。

上場企業としては、株主総会における議案の賛成率を安定的に確保することが求められます。そのため、自社の大株主の議決権行使基準を確認し、対話等も含めてその考え方を理解したうえで取締役会にフィードバックすることは、今後の資本政策やガバナンス体制の見直しに資する有益なインプットになると考えられます。

2026/04/09 支配株主である創業者の経営復帰に対する少数株主の判断

2025年12月決算上場会社の株主総会を前に、当フォーラムでは株主総会の行方が注目される2社を取り上げたところだ。このうち堀場製作所の株主総会については2026年4月8日のニュース『「これは始まりにすぎない」 オアシスが株主総会後も圧力継続へ』でお伝えしたが、今回はもう1社の・・・

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2026/04/09 支配株主である創業者の経営復帰に対する少数株主の判断(会員限定)

2025年12月決算上場会社の株主総会を前に、当フォーラムでは株主総会の行方が注目される2社を取り上げたところだ。このうち堀場製作所の株主総会については2026年4月8日のニュース『「これは始まりにすぎない」 オアシスが株主総会後も圧力継続へ』でお伝えしたが、今回はもう1社の日本和装ホールディングスの株主総会についてお伝えする。

■ 日本和装ホールディングス
注目された理由 同社の創業者である吉田氏が、「このままでは会社が”じり貧”に陥る」として、自身の経営復帰を株主提案していた。吉田氏は総議決権ベースで53.95%を保有する筆頭株主であることから、株主提案が可決されることは確実視されていたものの、少数株主からどの程度の賛成票を集めるのか、注目されていた。
前回のニュース 2026年2月5日のニュース「創業者・筆頭株主が経営陣の刷新を提案
2026年2月9日のニュース「社内ガバナンス方針と矛盾する株主提案の行方

日本和装ホールディングスの定時株主総会は2026年3月27日に開催され、決議結果は下表のとおりとなった(同社が同年3月30日に財務局へ提出した臨時報告書より抜粋)。

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会社提案議案と株主提案議案(吉田氏個人による提案)への賛成率を合算すると100%を超えるが、これは両議案が独立した別個の議案であり、両方の議案に同時に賛成することが可能なためである。

創業者の吉田氏は単独で可決に必要な議決権を保有しているが、それを超えてどれだけの支持を集めるかが焦点となった。結果は、89.54%と9割近い賛成を得て、吉田氏の経営復帰が実現した。

「89.54%」という賛成率だけを見ると、吉田氏は少数株主からも高い支持を得たように見える。しかし、ここで注意が必要なのは、賛成率の分母は総議決権数ではなく、あくまで出席議決権数()であるということだ。吉田氏の株主提案への賛成総数59,340個から吉田氏が保有する議決権48,853個を除いた「少数株主による賛成票」は10,487個であり、これが総議決権数(90,557個)に占める割合は11.58%にすぎない。それでも、少数株主による賛成票10,487個が会社提案の候補者である前社長の鶴野氏への賛成票8,826個を上回ったということは、議決権を行使した少数株主のうち過半数が吉田氏の経営復帰を支持したと評価することができる。

株主総会に出席(会場に足を運んだ“リアル出席”に限らず、議決権の事前行使も含む)した株主の議決権数を指す。ちなみに、出席議決権数を総議決権数で割った議決権行使率は「株主がどれだけ経営に関心を持っているか」を表す指標と言える。同社の場合、73.17%(=66,265個÷90,557個)となっている(2025年12月期の定時株主総会では77.33%(=70,028個÷90,557個)であり、今回の定時株主総会では減少している)。上場会社の議決権行使率の平均は年によって異なるものの60%程度であり、日本和装ホールディングスのように時価総額100億円未満の層だと50%を切る。もっとも、同社には吉田氏という支配株主がいるため、平均を上回るのは当然とも言える。

下表は、少数株主の議決権行使の動向を比較したもの。最も多かったのは「そもそも議決権を行使しない」であり、吉田氏の株主提案への支持がこれに続いた。

少数株主の議決権行使の動向 議決権個数
そもそも議決権を行使しない 24,292個
吉田氏の株主提案を支持(吉田氏への賛成票) 10,487個
会社提案を支持(鶴野氏への賛成票) 8,826個

吉田氏は、2018年に個人所有の不動産やロールスロイス、クルーザーの維持費を会社に負担させていた問題が発覚し、代表権を返上している。その後、わずか4か月で「経営体制の強化」を名目に会長職に復帰したものの(詳細は【失敗学第64回】日本和装ホールディングスの事例を参照)、2022年には再び取締役を退任した。吉田氏の退任を受け同社取締役会は、2023年1月、「コーポレート・ガバナンスの充実及び少数株主の利益の保護に係る方針」を制定し、吉田氏の存在を念頭に少数株主保護の考え方を明文化したが、吉田氏の経営復帰に伴い、その内容は修正を迫られる可能性がある(少数株主保護の方針の内容については2026年2月9日のニュース「社内ガバナンス方針と矛盾する株主提案の行方」を参照)。

業績の回復と少数株主の利益保護——この二つを両立できるかどうかが、吉田氏の経営者としての真価を問う試金石となろう。

2026/04/08 「これは始まりにすぎない」 オアシスが株主総会後も圧力継続へ

先月(2026年3月)、2025年12月決算上場会社の株主総会が終了した。当フォーラムが株主総会開催前に取り上げた12月決算上場会社の2社について、株主総会での決議結果と、それを受けた展開についてお伝えする。・・・

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