2026/04/22 【WEBセミナー】コーポレートガバナンス・コード改訂の要点(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2026年4月22日

コーポレートガバナンス・コードの第三次改訂(2026年)では、原則の数が大幅に絞り込まれ、改めてプリンシプルベース・アプローチが強く打ち出されました。他方で、各原則の理解にあたって重視すべき視点や考え方は解釈指針等で示されており、企業には各原則の趣旨を踏まえた対応が求められることになります。

本セミナーでは、金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」のメンバーでもある一橋大学大学院・経営管理研究科教授の円谷昭一先生に、今回の改訂の背景にある事情や、企業の開示実務にどのような影響が及ぶのかという点も踏まえて、改訂のポイントを解説していただきます。

上場会社が改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応を進める上で、多くの示唆が得られる内容となっています。

講師のご紹介 円谷 昭一(つむらや しょういち)様
一橋大学大学院・経営管理研究科教授
金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー
日本IR協議会 客員研究員
セミナー資料 コーポレートガバナンス・コード改訂の要点.pdf
セミナー動画

コーポレートガバナンス・コード改訂の要点

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2026/04/21 株主総会の開催は有報開示の後に

野村総合研究所金融イノベーション研究部 三井 千絵

ここ数年、「有報(有価証券報告書)の総会(定時株主総会)前開示」というフレーズが繰り返し使われ、2026年4月10日にパブリックコメントに付されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂案にも盛り込まれている(序文(4ページ)、原則1-2(株主総会における権利行使)参照)。しかし、筆者は、このフレーズが有報簡素化議論の伏線にされかねないことに、強い危機感を抱いている。

総会の開催と有報の開示のタイミングは古くから問題視されてきた。2015年のCGコード導入後にはACGAや国内機関投資家からもこの問題を指摘する声が上がっていたが、金融庁が腰を上げたのは、2024年4月に岸田首相(当時)が「有報の総会前開示に向けて、金融庁で検討を進める」との方針を示した後だった。そして議論は、株主総会を後ろに倒すのではなく、有報の開示前倒しへと向かった。


ACGA : The Asian Corporate Governance Association(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)の略で、アジア市場に投資するグローバルな機関投資家の団体である。香港に拠点を置く。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

しかし、有報の開示を前倒しすることには無理がある。・・・

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2026/04/21 株主総会の開催は有報開示の後に(会員限定)

野村総合研究所金融イノベーション研究部 三井 千絵

ここ数年、「有報(有価証券報告書)の総会(定時株主総会)前開示」というフレーズが繰り返し使われ、2026年4月10日にパブリックコメントに付されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂案にも盛り込まれている(序文(4ページ)、原則1-2(株主総会における権利行使)参照)。しかし、筆者は、このフレーズが有報簡素化議論の伏線にされかねないことに、強い危機感を抱いている。

総会の開催と有報の開示のタイミングは古くから問題視されてきた。2015年のCGコード導入後にはACGAや国内機関投資家からもこの問題を指摘する声が上がっていたが、金融庁が腰を上げたのは、2024年4月に岸田首相(当時)が「有報の総会前開示に向けて、金融庁で検討を進める」との方針を示した後だった。そして議論は、株主総会を後ろに倒すのではなく、有報の開示前倒しへと向かった。


ACGA : The Asian Corporate Governance Association(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)の略で、アジア市場に投資するグローバルな機関投資家の団体である。香港に拠点を置く。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

しかし、有報の開示を前倒しすることには無理がある。同じく2024年4月、経済産業省が設置した「企業情報開示のあり方に関する懇談会」では、有報と事業報告の統合(いわゆる「開示一体化」)などのほか、総会の開催と有報の開示のタイミングも議論されたが、同懇談会のメンバーであった筆者は会合において、「有報の開示を総会の前に出すという議論は成り立たない。通常でも有報の作成負担は重いのに、いまサステナビリティ開示を追加する議論をしている。一体どうすればこれ以上早くすることができるのか」と問題提起した。それ以降、「有報を総会前に開示するのではなく、むしろ総会の開催を後ろ倒しにすべきだ」と訴えてきた(2024年5月2日付の日本経済新聞の「私見卓見」欄「株主総会は有報開示の後で」参照)。

総会の開催を後ろ倒しにするという意見も決して新しいものではない(例えば、スチュワードシップ研究会代表理事が2017年に公表した「株主総会シーズンを迎えて―株主総会の7月以降開催を期待する」参照)。その背景には、海外では有報に相当する開示を行った後、4か月目以降に株主総会を開催しているケースが少なくないということがある。これに対し日本では、決算期末から3か月以内に総会を開催するため、総会までの日程が過密になっている。機関投資家との対話に十分な時間を確保するためにも、総会の開催を遅らせるべきだ。

もっとも、株主総会は、会社法により基準日から3か月以内に開催することが求められているため、「では今年から7月に開催しよう」というわけにはいかない。開催時期を遅らせるには、前年までに定款を変更し、基準日を動かしておく必要がある。例えば、2027年から総会を遅らせるならば、遅くとも2026年、つまり今年の総会で定款変更を行う必要がある。実際、2025年6月総会では、2社が翌年(2026年)の総会に向けて基準日を変更する定款変更議案を上程している。


基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

こうした中、2026年3月2日には、ダルトンインベストメントが「株主総会基準日変更に関する株主提案方針について」と題する文書を公表し、2026年6月総会より議決権基準日の変更を求める株主提案を順次行う方針を示している(2026年4月15日のニュース「ダルトンによる議決権基準日見直し提案に資本市場から否定的な声も 上場会社はどう対応する?」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。また、ACGAも今年3月の初めに「日本版コーポレートガバナンス・コード改訂案(2026年2月26日案)に対する意見」と題する文書を金融庁向けに公表し、その中で、総会直前の有報提出では株主が十分な検討時間を確保できないとして、少なくとも総会の3週間前までの提出を原則に明記するとともに、議決権基準日を定款で見直して総会開催日を後ろに移し、有報の提出後に十分なレビュー期間を設けるよう促すべきだと述べている(3ページ参照)。

今年3月には、ホルムズ海峡を巡る情勢などを背景に、株価が大きく動いた企業もあった。株価が大きく下落した後に反発すれば、相当数の株主が入れ替わっている可能性がある。ところが日本企業では、株主総会の3か月も前に基準日が到来し、その時点で来る総会の議決権を有する株主が確定してしまう。3か月前というのは、海外に比べて著しく早い。英国やフランスなどは総会の2日前とされており、そこまで近接していない国でも、もっと総会に近い。望ましいのは有報が開示された後に議決権基準日が到来することだ。

有報の開示後に議決権基準日が到来するのであれば、株主は有報の内容を踏まえ、役員選任議案など重要議案について議決権を行使できる。また、有報の内容を評価して株式を取得した株主が、総会での意思決定に参加することにもつながなる。3月末に議決権基準日を置き、6月下旬に総会を開く現在の日程では、既に株式を売却した株主にも議決権が残る。これは健全な状態とは言い難い。順序が逆であることで最も不利益を被るのは実は企業自身である。

自社のことを真剣に考える株主を増やすというメリットに比べれば、「開示の負担が重い」などと言っている場合ではないだろうし、また、有報は議決権行使に活用されてこそ意味がある。アクティビストによる株主提案は年々増えており、今後はサステナビリティ開示の義務化も段階的に進むことを考えれば、できるだけ早く定款変更を行って基準日を後ろにずらし、有報の開示を無理に前倒ししなくても、総会前に十分な時間をもって有報が開示できる体制を整えるべきだ。それは、自社と株主の関係を深めるとともに、より実質的な対話の実現につながることになろう。

2026/04/20 なぜ日本の役員報酬は決定までにこんなに時間がかかるのか

日本企業の意思決定は「すり合わせ型」が基本だ。関係者全員が納得するまで丁寧に議論を重ね、合意を積み上げていく。この慎重さは、事業戦略の策定や組織運営の場面で強みとして機能してきた。しかし、役員報酬や指名といった「経営者自身の処遇」を決める場面では、それが適しているとは限らない。むしろ弊害になっているケースが少なくない。

欧米企業では、報酬ガバナンスにおける・・・

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2026/04/20 なぜ日本の役員報酬は決定までにこんなに時間がかかるのか(会員限定)

日本企業の意思決定は「すり合わせ型」が基本だ。関係者全員が納得するまで丁寧に議論を重ね、合意を積み上げていく。この慎重さは、事業戦略の策定や組織運営の場面で強みとして機能してきた。しかし、役員報酬や指名といった「経営者自身の処遇」を決める場面では、それが適しているとは限らない。むしろ弊害になっているケースが少なくない。

欧米企業では、報酬ガバナンスにおける「役割」と「権限」の線引きが明確だ。CEOの報酬は報酬委員会が決め、CEO以外の経営幹部の報酬は実質的にCEOがトップダウンで(ただし、特に開示対象幹部については報酬委員会のモニタリングは入る)決めている。その際、報酬委員会は、CEOの意向に過度に配慮したり、個々の経営幹部に気を遣って報酬設計を変えたりすることは基本的にない。人材の引き留め(リテンション)が必要な場合には、リテンションパッケージと呼ばれる特別な報酬を付けるといった合理的な判断はするが、個々の幹部の評価や処遇の細部にまで口を出すような議論はほとんど起こらない。決める人が決め、決まったら終わり。そのシンプルさが意思決定のスピードを支えている。

日本企業ではどうか。報酬制度を変えようとすると、「変更前と後で何が違うのか」「評価方法はフェアか」「自分にとって得なのか損なのか」といった声が関係者から噴出する。それだけではない。報酬制度の見直しの対象となる経営幹部からは、報酬水準を引き上げることへの抵抗と、それに見合う高い業績目標にコミットすることへの抵抗が同時に現れる。その背景には、報酬水準を抑えたまま低い目標で収めたいという本音が透けて見える。つまり、高い報酬も高い目標も両方避けたいということだ。

第三者アドバイザー等が報酬を受け取る本人に話を聞き、社内の序列バランスを慎重に考慮しながら、全員が納得できる着地点を探る。その結果、膨大なコミュニケーションコストが発生する。第三者アドバイザー等は、制度設計そのものよりも、「意思決定プロセス」の支援に多くの時間を費やしているのが現実だ。

こうした欧米企業と日本企業の違いはどこから来るのだろうか。一つの構造的な要因として、報酬水準の「思い切りの良さ」の違いがある。欧米企業では、エグゼクティブの報酬がかなり魅力的に設計されている。そのため、個人が制度設計に口を出す動機は薄く、会社の論理で、ステークホルダーの利益にかなうように報酬制度が決まる。経営陣は報酬に見合う成果を出すことで応える。つまり、報酬制度が「企業価値向上という外部の目的を達成するための道具」として機能している。

一方、日本企業では、限られた報酬原資の中で「誰にいくら配分するか」という組み替えの議論が中心になりがちだ。制度変更のたびに、関係者の感情が複雑に絡み合う。報酬制度が経営目標を達成するための道具ではなく、社内の感情的均衡を保つための調整装置になってしまっている。

もっとも、日本企業も変わりつつあり、グローバルスタンダードを意識した欧米流の合理的な意思決定を行う企業も出てきている。我が国で着実に進むガバナンス改革に加え、経営陣の世代交代が進めば、この流れはさらに加速するだろう。

ただ、時間の経過に任せるだけでは問題は解決しない。今できることがある。それは、報酬委員会の役割と権限を改めて明確にし、「何を・誰が・どこまで決めるか」の線引きをはっきりさせることだ。すり合わせ型の意思決定手法は日本企業の強みではあるものの、役員報酬の意思決定はその延長で行うべきではない。役員報酬の意思決定においては、権限と責任を集中させる仕組みを作ること――それが日本企業の報酬ガバナンスを次のステージに進めるための最初の一歩となる。

2026/04/17 「有報の3週間前開示」を実現するための現実解

2026年4月10日にパブリックコメントに付されたコーポレートガバナンス・コードの改訂案にも明記されたとおり、有価証券報告書(以下、有報)は「株主総会開催日の3週間以上前」の開示が理想とされている(原則1-2の解釈指針を参照)。しかし、金融庁の調査によれば、2026年3月現在、この「3週間前」という“壁”を突破できている上場会社は、下表のとおり全上場会社の中でもわずか5社にとどまる。2026年3月5日のニュース「有報の総会前開示、2026年は8割超えへ 金融庁調査と制度改正が後押し」でお伝えしたとおり、総会前開示を実施した会社が8割を超えたといっても、総会の「前日」に開示する会社が大半というのが実態であり、多くの会社にとって有報を3週間以上前に開示するハードルの高さは尋常ではない。その理由として、決算確定から総会招集通知の発送、そして有報提出に至るスケジュールがタイトであり、これ以上の早期化は現場の担当者への負荷が大きすぎることが指摘されている。

有報の早期開示(総会3週間前)を実現している上場会社
決算期 上場会社名 有報提出日 定時株主総会開催日 有報開示から
株主総会までの日数
3月末日 HOYA(東証プライム) 2025年6月5日 2025年6月26日 21日
5月末日 ニイタカ(東証スタンダード) 2025年8月26日 2025年9月25日 30日
6月末日 ジョイフル(福証) 2025年9月16日 2025年11月21日 66日
12月末日 アシックス(東証プライム) 2026年3月4日 2026年3月25日 21日
12月末日 ローランド(東証プライム) 2026年3月5日 2026年3月26日 21日

数字だけを見れば、ジョイフルの「66日前」やニイタカの「30日前」という数字が際立つ。有報開示の早期化で四苦八苦している会社にとっては、どうしたら総会日より66日も早く有報を開示できるのか、にわかには想像しにくいところだろう。実は・・・

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2026/04/17 「有報の3週間前開示」を実現するための現実解(会員限定)

2026年4月10日にパブリックコメントに付されたコーポレートガバナンス・コードの改訂案にも明記されたとおり、有価証券報告書(以下、有報)は「株主総会開催日の3週間以上前」の開示が理想とされている(原則1-2の解釈指針を参照)。しかし、金融庁の調査によれば、2026年3月現在、この「3週間前」という“壁”を突破できている上場会社は、下表のとおり全上場会社の中でもわずか5社にとどまる。2026年3月5日のニュース「有報の総会前開示、2026年は8割超えへ 金融庁調査と制度改正が後押し」でお伝えしたとおり、総会前開示を実施した会社が8割を超えたといっても、総会の「前日」に開示する会社が大半というのが実態であり、多くの会社にとって有報を3週間以上前に開示するハードルの高さは尋常ではない。その理由として、決算確定から総会招集通知の発送、そして有報提出に至るスケジュールがタイトであり、これ以上の早期化は現場の担当者への負荷が大きすぎることが指摘されている。

有報の早期開示(総会3週間前)を実現している上場会社
決算期 上場会社名 有報提出日 定時株主総会開催日 有報開示から
株主総会までの日数
3月末日 HOYA(東証プライム) 2025年6月5日 2025年6月26日 21日
5月末日 ニイタカ(東証スタンダード) 2025年8月26日 2025年9月25日 30日
6月末日 ジョイフル(福証) 2025年9月16日 2025年11月21日 66日
12月末日 アシックス(東証プライム) 2026年3月4日 2026年3月25日 21日
12月末日 ローランド(東証プライム) 2026年3月5日 2026年3月26日 21日

数字だけを見れば、ジョイフルの「66日前」やニイタカの「30日前」という数字が際立つ。有報開示の早期化で四苦八苦している会社にとっては、どうしたら総会日より66日も早く有報を開示できるのか、にわかには想像しにくいところだろう。実は有報の早期開示を実現する手法として、大きく分けて下記の2つ()があり、ジョイフルやニイタカは「総会の後ろ倒し」を採用している。

有報の前倒し 総会の日程は変えず、有報の作成・監査プロセスを極限まで短縮する(HOYAやローランド)
総会の後ろ倒し 有報提出のタイミングは維持(あるいは少し早める)しつつ、総会開催日そのものを後ろにずらす(ニイタカやジョイフル)
上記2つの手法のほか、株主総会開催日はそのままにして決算月を早める方法も考えられるものの、決算期の変更は連結子会社を含むグループ全体で対応する必要があり、導入年度の負荷が大きすぎるため、現実的ではない。

「3週間前」の壁を突破できている上場会社の「期末からの経過日数」を比較すると、両方式の差が鮮明になる。

有報開示早期化の手段別・日数分析
有報開示早期化の手段 上場会社名 期末日から有報提出日
までの日数
期末日から株主総会
までの日数
有報の前倒し ローランド(東証プライム) 63日 84日
アシックス(東証プライム) 64日 85日
HOYA(東証プライム) 66日 87日
総会の後ろ倒し ジョイフル(福証) 78日 144日
ニイタカ(東証スタンダード) 87日 117日

ローランド、アシックス、HOYAが期末から約2か月強で有報提出まで完了させるタイトな日程を強いられているのに対し、総会を後ろ倒ししている2社は、有報提出までにある程度()のバッファ(余裕)を確保していることがわかる。「総会3週間前の開示」を目指す際、「総会の後ろ倒し」は、現場の疲弊を避けるための現実的な選択肢となろう。

有報の提出期限は事業年度経過後3か月以内であり、この提出期限は総会を後ろ倒ししても変わることはない。

総会を後ろ倒しするには、取締役会の判断だけでなく、株主総会での定款変更が不可欠となる。では、「3週間前」の壁を突破できた2社はどのように定款を変更したのだろうか。

ニイタカが総会の後倒しを実現するための定款変更をしたのは、2017年7月のことである。同社は定款変更により、定時株主総会の招集時期を「事業年度終了後3か月以内」から「同4か月以内」へと延長し、基準日も1か月後ろ倒しにしている。これによりニイタカでは、一般的な日程の他の上場会社と比べ、株主総会開催までの期間に約1か月の余裕が生まれている。


基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

ニイタカ(5月決算)の定款変更内容(抜粋)
変更前定款 変更後定款
第3章 株主総会
(招集)
第12条 当会社の定時株主総会は、毎事業年度終了後3ヶ月以内にこれを招集し、臨時株主総会は、必要あるときに随時これを招集する。
(定時株主総会の基準日)
第13条 当会社は、毎年5月31日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において、権利を行使することができる株主とする。
第3章 株主総会
(招集)
第12条 当会社の定時株主総会は、毎事業年度終了後4ヶ月以内にこれを招集し、臨時株主総会は、必要あるときに随時これを招集する。
(定時株主総会の基準日)
第13条 当会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年6月30日とする。

一方、ジョイフルは2018年3月の株主総会で、決算期の変更とあわせて、定時株主総会の招集時期を「事業年度終了後3か月後」から「同5か月後」へと延長する定款変更を実施している。これによりジョイフルでは、一般的な日程の他の上場会社と比べて、株主総会開催までの期間に約2か月の余裕が生まれている。

ジョイフル(12月決算から6月決算に変更)の定款変更内容(抜粋)
変更前定款 変更後定款
第3章 株主総会
(招集)
第12条 当社の定時株主総会は、毎年3月にこれを招集し、臨時株主総会は、必要あるときに随時これを招集する。
(定時株主総会の基準日)
第13条 当会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年12月31日とする。
(事業年度)
第40条 当会社の事業年度は、毎年1月1日から12月31日までの1年とする。
(剰余金の配当の基準日)
第41条 当会社の期末配当の基準日は、毎年12月31日とする。
(中間配当)
第42条 当会社は、取締役会の決議によって毎年6月30日を基準日として、中間配当をすることができる。
第3章 株主総会
(招集)
第12条 当社の定時株主総会は、毎年11月にこれを招集し、臨時株主総会は、必要あるときに随時これを招集する。
(定時株主総会の基準日)
第13条 当会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年8月31日とする。
(事業年度)
第40条 当会社の事業年度は、毎年7月1日から6月30日までの1年とする。
(剰余金の配当の基準日)
第41条 当会社の期末配当の基準日は、毎年8月31日とする。
(中間配当)
第42条 当会社は、取締役会の決議によって毎年2月末日を基準日として、中間配当をすることができる

また、ニイタカとジョイフルはいずれも、定時株主総会の開催日のみならず、議決権基準日も変更している。これは、総会を後ろ倒しする際に議決権基準日を据え置くと、議決権を行使できる株主の確定から実際に議決権を行使する日までの間隔が長くなりすぎるという問題を解消するための措置である。

総会を後ろ倒しにする際の最大の懸念は、株主への配当支払いが遅れることだ。 この問題に対しては、両社は対照的なアプローチを採っている。

ニイタカ 配当基準日は「期末日(5月末)」に据え置き。取締役会決議で配当を決定できる仕組みを使い、総会開催より前に配当を支払うことで、株主の不利益を回避した。
ジョイフル 配当基準日も議決権基準日と同様、後ろに2ヶ月ずらした。


取締役会決議で配当を決定できる仕組み : 剰余金の配当は株主総会の決議によるのが原則であるが(会社法454条1項)、取締役の任期が1年である場合には、定款の定めにより配当の決定を取締役会決議事項にすることができる(会社法459条1項)。ただし、計算書類に対する会計監査人の意見が無限定適正意見である必要がある(会社法459条2項、会社計算規則155条)。

実務上は、配当基準日と議決権基準日を切り離すニイタカ方式の方が、株主の賛成を得やすいとされる。特に個人株主は、配当受取日が後ろ倒しになることを嫌がる傾向があるからだ。ただし、基準日が複数になると、事務負担や信託銀行に支払う手数料の増加につながるという問題に加えて、経済的利害と議決権の不整合が生じてしまうという問題(経済的利害と議決権の不整合については2026年4月15日のニュース「ダルトンによる議決権基準日見直し提案に資本市場から否定的な声も 上場会社はどう対応する?」を参照)もある点には留意したい。

ニイタカおよびジョイフルの配当関連日程(2025年)
会社名
(決算日)
配当の基準日 配当の決議日
(配当決定機関)
配当の効力発生日
ニイタカ
(5月末)
2025年5月31日
(期末日と同じ)
2025年7月29日
(取締役会決議)
2025年8月12日
ジョイフル
(6月末)
2025年8月31日
(期末日から2か月後)
2025年8月12日
(取締役会決議)
2025年10月27日

議決権基準日と配当基準日を別々にすれば、株主名簿の確定手続きを立て続けに行う必要が生じる。そうなれば、株主名簿の確定に際して信託銀行等に支払うコストが増えるほか、基準日が複数存在することによる事務・日程管理の複雑化も不可避となる。

仮に期末配当の基準日を後ろにずらすのであれば、中間配当の基準日も同様に後ろにずらす必要がある(ジョイフルの定款42条の変更を参照)。というのも、中間配当の基準日だけを据え置くと、中間配当の基準日と期末配当の基準日の配置のバランスが悪くなってしまうからだ。

金融庁もこの動きを後押ししている。中間配当基準日を後ろ倒しした場合、従来は中間期末と中間配当基準日のそれぞれの時点で、株主名簿を確定する必要があった。これに対し金融庁は開示府令を改正し、2026年3月31日以後に終了する事業年度の半期報告書から、中間配当基準日時点の大株主の状況等を記載できるようにした。これにより、中間配当基準日を後ろ倒しした場合でも、株主名簿の確定作業が1回で済むことになった(ただし、半期報告書の提出期限は中間会計期間の末日から45日以内とされているうえ、半期報告書の開示に備えたデータ集計のためのスケジュールも考慮すると、中間配当基準日を中間期末日から1か月を超えて後ろ倒しした場合には、半期報告書用と中間配当用で同じ株主名簿を使えなくなり、株主名簿の確定が2回必要になる)。

3月決算会社にとって、今年の総会での定款変更を検討する時間は残り少ない。今年はひとまず有報の開示前倒しに取り組み、来年以降の「総会3週間前の開示」に向けたスケジュールやリソースの確保、ノウハウの蓄積を図りつつ、1年かけて総会を後ろ倒しすることによる影響や他社の動向を見極めたうえで、総会後倒しを実行に移すかどうか判断する方が無難と言えそうだ。

2026/04/16 のれん非償却を巡る攻防 M&A促進と会計規律のせめぎ合いに

他企業の株式を取得して経営権を握るM&Aは、企業グループの持続的成長を加速する有力な戦略の一つとなっている。株式取得に際しては通常、取得対価が被取得企業の識別可能純資産の公正価値を上回るため、その差額が「のれん」として計上される。日本の会計基準(以下、日本基準)では、のれんを20年以内の期間で規則的に償却することが求められるのに対し、IFRS(国際会計基準)では、のれんの償却は求められず、毎期の減損テストによって価値の毀損の有無を確認することになる。


減損テスト : のれんの価値が維持されているかを毎期点検し、価値が下がったと判断されれば損失を計上する手続き。

この会計基準の差異は、株式取得後の利益の見え方に大きな影響を及ぼす。買収により取得した企業の利益は連結損益計算書に取り込まれるが、日本基準を採用する企業においては、のれん償却費の分だけ利益が圧縮される。一方、IFRSを採用する企業においては、のれんの償却が求められない以上、減損が生じない限り利益が圧縮されることはない。のれんの償却費は日本基準を採用する企業に重くのしかかるが、だからといってIFRSに移行するのも、導入コストや人材・ノウハウの不足といった制約から容易ではない。・・・


減損 : 資産の価値が下がった場合に、その下落分を損失として計上すること。

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2026/04/16 のれん非償却を巡る攻防 M&A促進と会計規律のせめぎ合いに(会員限定)

他企業の株式を取得して経営権を握るM&Aは、企業グループの持続的成長を加速する有力な戦略の一つとなっている。株式取得に際しては通常、取得対価が被取得企業の識別可能純資産の公正価値を上回るため、その差額が「のれん」として計上される。日本の会計基準(以下、日本基準)では、のれんを20年以内の期間で規則的に償却することが求められるのに対し、IFRS(国際会計基準)では、のれんの償却は求められず、毎期の減損テストによって価値の毀損の有無を確認することになる。


減損テスト : のれんの価値が維持されているかを毎期点検し、価値が下がったと判断されれば損失を計上する手続き。

この会計基準の差異は、株式取得後の利益の見え方に大きな影響を及ぼす。買収により取得した企業の利益は連結損益計算書に取り込まれるが、日本基準を採用する企業においては、のれん償却費の分だけ利益が圧縮される。一方、IFRSを採用する企業においては、のれんの償却が求められない以上、減損が生じない限り利益が圧縮されることはない。のれんの償却費は日本基準を採用する企業に重くのしかかるが、だからといってIFRSに移行するのも、導入コストや人材・ノウハウの不足といった制約から容易ではない。


減損 : 資産の価値が下がった場合に、その下落分を損失として計上すること。

こうした中、内閣府が、企業会計基準委員会(ASBJ)を運営する財務会計基準機構(FASF)に対し、のれんの非償却化を検討するよう水面下で要請していたことは既報のとおり(内閣府の動きについては2025年5月12日のニュース「上場企業の経営者がM&Aを躊躇する最大の理由が解消する可能性」を参照)。

さらに同年5月30日には、経済同友会、新経済連盟、日本ベンチャーキャピタル協会、日本プライベート・エクイティ協会など13団体、スタートアップ有志35社、企業経営者有志138名が連名で、FASFに対し、のれんの非償却を認めることや、償却費の計上区分の見直しを要請している。要請の内容は以下のとおり。

1. のれんの非償却を導入(選択制)
のれんの償却と併せてのれんの非償却も認める選択制を適用する。
2. のれん償却費の計上区分変更
現在、販売費及び一般管理費として営業費用に計上しているのれんの償却費を営業外費用もしくは特別損失に計上する。

要請を受け、ASBJが全8回にわたる公聴会を開催したところ、のれんを非償却とすることを支持する立場から以下の意見が寄せられた。

のれんの非償却の導入を支持する理由
概要 詳細
M&Aの促進 ・ M&A後の利益圧迫を嫌って、経済合理性のある M&Aを中止・断念しているケースが多く生じている。物的資産の乏しい企業を対象とする買収はのれんが大きくなりやすく、M&Aを躊躇させている。
・ M&Aのコンペでは、償却負担のある日本基準適用企業は高い価格を提示できず買い負けが生じており、国際競争力を阻害している。
・ スタートアップは純資産が極めて薄く、研究開発型では売上が当初計上されないことも多いため、買収価格との差額であるのれんが非常に大きくなりやすい。そのため、取得企業にとっては、スタートアップはのれん償却の悪影響を最も強く受けるM&Aの対象企業群であり、スタートアップに対する M&A を敬遠することが多い。
・ M&Aでプレミアムを支払うことは、成長加速投資や買収後のシナジーを想定しているはずである。有形資産から無形資産に企業価値の焦点が移ってきている中で、のれんを機械的に償却することはM&Aの目的や価値創造と整合しない。
・ のれんの償却を求める現行の会計基準は、事業者がM&Aを検討する際の足枷となっており、また、スタートアップの出口戦略の多様化を阻害している。
・ スタートアップ育成、成熟経済における企業成長及び経済的影響のため、のれんは非償却とすべきである。
企業価値評価における情報の有用性 ・ 投資家が重視するのは会計上の償却ではなくキャッシュ・フローであり、Cash on Cashを基礎とする評価が主流である。このため、投資家は、業績分析においてのれんの償却費は無視している。
・ 定期償却により営業利益、当期純利益が低くなり、PER(株価収益率)を重視する日本の市場では、企業価値が低く評価されやすい。また、利益の圧迫が収益性の低さと誤認され、結果として資本コストを高め、企業の成長力を削いでいる。
・ スタートアップ企業に投資を行う投資家は、指標を補正する機関投資家と異なり、表面的な利益の多寡に反応しやすいため、定期償却はネガティブなノイズとなる。このように、定期償却が株価を不当に押し下げている。
・ のれんの償却費により利益が低下している状況において、昨今は表面的な数字に対してアクションを起こすロボット投資等が増えており、市場における株価形成が近視眼的・表面的になってきていると感じている。
国際的な比較可能性 ・ IFRS会計基準と米国会計基準が非償却を採用しており、のれんの償却を求める日本基準は国際的に少数派である。このような状況において、日本基準が償却を維持することは海外投資家への説明コストを増大させている。

このほか、「償却期間の設定の難しさ」「経営の規律への寄与」「相対的なコスト負担」といった理由も挙がった。


償却期間の設定の難しさ : 「償却期間の決定には、恣意性が介入する。また、取得企業と監査法人との協議で決まるという側面があり、買収価格決定時においては償却年数が確定しない」等を根拠とする。
経営の規律への寄与 : 「減損テストの方が投資の成否を明確に可視化するため、経営者の説明責任を高める」等を根拠とする。
相対的なコスト負担 : 「非償却の導入や維持に係るコストは、必要なコストとして負担していく。これらはのれんの償却費ほど重要ではなく、また、IFRS導入よりも低コストである。 」を根拠とする。

一方、公聴会で聞かれたのれんの非償却の導入を支持しない理由は、概ね以下のとおりだった(後述するFASFの要請より引用。以下同じ)。

のれんの非償却の導入を支持しない理由
概要 詳細
買入のれん価値の減価及び自己創設のれんとの入替え ・ のれんは、競争を通じて超過利益の獲得能力が時間とともに減少する。
・ のれんの償却の実務は、企業の平均的な利益獲得能力の平均回帰傾向(5年から10年程度)と整合している。
・ のれんが将来の収益力に対する期待を表しているものであると捉えると、時間の経過とともにその価値は減少すると考えることが自然である。
・ 本来、買収の「買入のれん」は時間の経過とともに価値が減少していくはずであり、償却はそれを反映するのに適している。非償却の下での減損テストの場合、事後の努力による成果や既存事業の余力の要素がシールドとなり、価値の低下が表面化しにくくなる。結果として、のれんの中身が、財務報告の目的の観点から資産に含まれないこととされている自己創設のれんへ変質してしまう。
M&Aによる投資成果の適切な判定 ・ のれんはM&Aに投じたコストの一部である。のれん償却費を期間配分し、M&Aのシナジーを得るための投資原価として売上高と対比させることにより、M&Aの投資成果を判定する役割を持つ。換言すると、のれんの償却費を計上したうえで利益を出していることが、投下資本を回収していること及びそれを超えたシナジーを生み出していることを示している。
株主価値を犠牲にするM&Aの抑制効果 ・ のれんの償却には、毎年の償却費が利益を圧迫するという仕組みがあるおかげで、経営者は慎重な判断を行う必要が生じている。償却がなければ、失敗したM&Aのコストが表面化せず、株主価値を犠牲にする過度な投資を助長するおそれがある。
減損損失の認識時期が遅すぎる又は金額が少なすぎる
(too little, too late)
・ 減損の判断に経営者の裁量が介入しやすく、報酬や任期、財務制限条項への抵触回避などの動機から、損失の計上が先送りされる傾向があることを示す実証分析の研究がある。
・ 買収した事業の業績が悪くても、会社全体や他の部門が持つ自己創設のれんと合算して減損テストが行われることで、のれんの価値下落が覆い隠され、バランスシートに反映されない状況が生じる。このように、非償却モデルが依存する減損テストには、損失の認識が遅いという構造的な問題がある。
・ 非償却にはtoo little, too lateの問題があり、また、業績悪化時に減損により損失が雪だるま式に増え、経営の健全性に課題が生じることが懸念される。
貸借対照表の有用性に関する課題 ・ 非償却の会計処理の下では、投資回収が終わったはずの買収コストまで資産として残り続け、のれん残高が自己資本や総資産に対して異常に大きく積み上がる状況を招くおそれがある。このようにのれんが減らないことにより、ROA(総資産利益率)などの資産効率指標が改善されず、また格付分析においても自己資本比率の信頼性が低下するなど、クレジット分析において伝統的な指標の有効性が失われる。
個人投資家の保護 ・ 非償却とすることで業績をよく見せたいという思惑があるとすれば、投資家保護の観点から懸念がある。
政策目的による会計基準の改正に対する反対 ・ スタートアップ企業の取引の活性化に反対するものではないが、その手段が会計基準の変更という形になっていることに疑念を持っている。会計基準は企業経営の実態を適切に反映するために設定されるべきものであり、政策的な目的のための手段として会計基準の変更を行うべきではない。

のれんの実務に詳しくないと分かりにくいのが、表中の赤字で示した「非償却の下での減損テストでは、事後的な経営努力や既存事業の余力がシールドとなり、価値の低下が表面化しにくい」との指摘である。

買収した事業が自律的に成長するケースは少なく、放置すれば顧客の喪失や従業員の離職により、通常は価値が低下していく。こうした事態を回避するためには、人員の補充に加え、採算の良い他事業からの資金投入による設備更新や、他部門による営業支援が不可欠となる。

このような「事後的な経営努力」によって、事業全体としては、あたかも価値が維持されているかのような利益水準が保たれることがある。さらに、減損判定の単位に含まれる他事業の貢献(既存事業の余力)が加わることで、この傾向はいっそう強まる。


減損判定の単位 : IFRSではCGU(Cash-Generating Unit:資金生成単位)、または複数のCGUを組み合わせたグループ単位で減損テストを行う。このため、CGUのくくり方次第で、買収前から存在していた他の事業も合算したうえで減損テストを行うケースは少なくない。

そうなれば、財務諸表作成者や監査人にとっては、どの時点で価値の低下を認識すべきかが見えにくい。これは、実務家の間で「IFRSでも減損テストがあるから問題はない」との見方に賛同が広がりにくい要因となっている。このほか、のれんの非償却の導入を支持しない理由として、「のれんの非償却がM&Aの促進につながることを示す証拠の欠如」「コストの増加」「経営の規律への寄与」「国際的な会計基準への対応のスタンス」といった意見も寄せられた。


国際的な会計基準への対応のスタンス : 「国際会計基準との整合性を図っていく考え方があることは理解するものの、昨今の国際会計基準の動きは必ずしも正しいとは思えないものがある。このような状況においては、単純に国際会計基準に合わせていくべきものではない」を根拠とする。

「のれんの償却と非償却の選択制」を巡っては、支持する理由として「M&Aの促進」等、支持しない理由として「比較可能性の低下」等が挙がった。一方、「のれん償却費計上区分の変更(のれん償却費を販売費及び一般管理費から営業外費用又は特別損失とする案)」については、のれんの償却費は営業費用としての性質があるとして、反対意見が多数となっている。

各論点への賛否についての理由・見解はおおむね出そろったものの、2026年3月13日に開催された財務会計基準機構(FASF)の企業会計基準諮問会議第56回会合では結論を出すには至らなかった。その理由として、「本テーマについて幅広い利害関係者から関心が寄せられていることを踏まえ慎重を期してプロセスを進める必要がある」ことが示された。

そこで、FASFは、これまでに収集した情報をウェブサイトで公表するとともに、それに追加すべきものがないかどうかについて、2026年4月1日付で情報要請を行っている(情報要請の詳細はこちら)。情報要請では、これまでの公聴会に寄せられた理由以外の理由や観点がある場合には、それを寄せるよう求めている。

情報要請の結果、これまでの議論を覆すような情報等が寄せられれば話は別だが、現時点で寄せられた情報等を企業会計基準諮問会議の事務局が分析したところ、以下の見通しとなっている。

・日本基準内での非償却と償却の選択制については、比較可能性の観点から懸念が多く聞かれており、採用は難しい。
・現時点では、いわゆる概念フレームワークにおける質的特性の観点で、のれんの非償却を導入する方が有用であるとの十分な根拠は示されていないと考えられる。したがって、仮にのれんの非償却の導入を検討する場合、その積極的な理由は国際的な整合性の観点のみになる。


概念フレームワーク : 会計のルール(IFRSなど)を作る際の憲法のようなもの
質的特性 : 「投資家が将来を予測するのに役立つか?」「企業の経済的実態を正しく表しているか?」といった価値判断を指す。

こうした企業会計基準諮問会議のネガティブな動きをけん制するため、経済同友会は2026年3月3日に「のれん非償却に関する意見」を公表し、次の2つの対案を公表している。

経済同友会が示した2つの対案
(1)グローバルな潮流に機動的に対応していくために、企業会計基準諮問会議における審議・決定プロセスを全会一致のコンセンサスベースから多数決に見直すべき
(2)非償却の早期導入が叶わない場合には、政府主導による新たな会計基準の策定を検討すべき

(1)は企業会計基準諮問会議の運営方法に対する注文であり、(2)はASBJに頼らず、政府主導で会計基準を設定することを提案するものだ。いずれも、のれんの非償却に向けた会計基準改正に腰が重い企業会計基準諮問会議に対する経済界からの強い不満の現れと言える。

議論が政治色を帯びる中、「M&A巧者」と評価されていたニデック(IFRS適用企業)で、のれんの減損回避を目的とした不適切会計が発覚したこともあり、「のれんの非償却は粉飾を誘発しかねない」とする従来からの慎重論が再び勢いを増している。FASFによる情報要請のコメント期限は2026年6月5日であり、その後に開催される企業会計基準諮問会議が、のれんの非償却の行方を左右する重要な節目となろう。

2026/04/15 ダルトンによる議決権基準日見直し提案に資本市場から否定的な声も 上場会社はどう対応する?

有価証券報告書(有報)を定時株主総会(総会)の前に開示する動きが広がる中、著名なアクティビストであるダルトン・インベストメンツ(ダルトン)が投資先企業に対して、2026年6月総会の議決権基準日の変更を求める株主提案を順次行う方針を示し、上場会社のみならず資本市場関係者の注目を集めている(ダルトンのリリースはこちら)。

ダルトンは株主提案の趣旨として、①有報等の重要な情報を総会よりも十分に早い時期に開示することで、投資家がその情報を分析・検討したうえで議決権を行使できるようになることと、②現在6月下旬に集中している総会開催日が分散することで、株主が総会に参加する機会が広がること、を挙げている。

ただ、上場会社の多くが「3月31日」を基準日としている現状では、有報の開示が総会に近接したタイミング(総会当日や前日)とならざるを得ないため、投資家がその内容を精査したうえで議案への賛否を判断することは難しい。そこでダルトンは、議決権の基準日を「4月末~5月中旬」に変更すべき、と主張している。


基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

ダルトンがこうした方針を打ち出した背景には、・・・

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