2026/04/08 「これは始まりにすぎない」 オアシスが株主総会後も圧力継続へ(会員限定)

先月(2026年3月)、2025年12月決算上場会社の株主総会が終了した。当フォーラムが株主総会開催前に取り上げた12月決算上場会社の2社について、株主総会での決議結果と、それを受けた展開についてお伝えする。今回は堀場製作所を取り上げる(日本和装ホールディングスについては明日お伝えする予定)。

■ 堀場製作所
注目された理由 アクティビストのオアシスが、堀場製作所が手掛ける事業の中には採算性の悪いものがあるとして、堀場厚会長の取締役再選に反対票を投じるようキャンペーンを実施していた。
前回のニュース 2026年3月16日のニュース『アクティビストが迫る「選択と集中」 創業家経営が岐路に

堀場製作所の定時株主総会は2026年3月21日に開催され、下表(同社が2026年3月26日に財務局に提出した臨時報告書より抜粋)のとおりの決議結果となった。

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オアシスによる堀場厚会長の取締役再選に対する反対票は25%を超えた。オアシスが運用するファンドは議決権の9.90%を保有しており、その分を除いても、約15%の株主がオアシスに同調して反対票を投じたとみられる。

もっとも、反対票は過半数には遠く及ばず、結果として現状維持を支持する株主が多数であった。ただし、これをもって現経営陣が今回の局面を乗り切ったと評価するのは早計だ。オアシスがこれで矛を収めるとは考えにくいからである。

実際、オアシスは定時株主総会後、「オアシスは、堀場の2026年定時株主総会の結果を、取締役会への明確な警告と見做す」と題するコメントを公表している(オアシスのリリースはこちら)。長文ではあるが、アクティビストの問題意識が色濃く反映されているため、全文を紹介する。

定時株主総会において会社提案は全て可決されたものの、堀場厚代表取締役会長兼グループCEOの再任議案に対する賛成率は74.4%にとどまり、前年の91.0%から大幅に低下しました。これは、議決権を行使した株主の4人に1人超が、堀場厚会長の続投に明確に反対したことを意味します。この水準の反対票は、経営陣に対する株主からの重く明確な警告であり、取締役会はこれを軽視すべきではありません。

今回の議決権行使結果は、堀場製作所の取締役会が経営陣に対して十分かつ実効的な監督機能を果たしておらず、低収益事業の課題、M&Aの失敗、およびガバナンスに対処できていないと株主が判断していることを明確に示すものです。

オアシスは、キャンペーンに対する支持の声を寄せ、オアシスが提起した多くの経営課題に賛同し、更なる調査が必要となるガバナンス上の問題点を提起いただいた多くの株主、元従業員、取引先、その他の関係者の皆様に深く感謝申し上げます。こうした反応の広がりや寄せられた意見は、オアシスが指摘してきた事業ポートフォリオの規律、資本配分、ガバナンスの質、および取締役会の独立性に関する懸念が、市場や同社のステークホルダーのみならず、より広いビジネスコミュニティにも認識されており、同社の経営陣が早急に対応すべき問題であるというオアシスの確信をさらに強固なものとしました。

議決権行使結果は、取締役会全体に対する明確な警鐘
2026年の定時株主総会の結果は、堀場厚会長の賛成率のみにとどまらず、多くの取締役の賛成率がTOPIX上場企業における取締役の平均的な賛成率の水準を大きく下回ったことも含め、慎重に検証されるべきです。

オアシスが提起した独立性やガバナンス上の懸念に応えることなく、同社および創業家との長年にわたる関係性についての明確な説明も行われないまま選任された新任取締役である小山浩史CFOへの賛成率は81.6%にとどまりました。これは、新任の取締役選任議案としては異例に低い水準です。

また、取締役としての適格性について十分な説明がなされていない創業家出身の堀場弾取締役、慢性的な赤字が続いている自動車関連事業を管轄するジョージ・ギレスピー取締役の賛成率も、それぞれ82.4%にとどまりました。

さらに、オアシスがキャンペーンおよび総会当日に、創業家との従前の関係性について疑問を呈した社外取締役の松田文彦氏および田邉智子氏の両名の賛成率も、それぞれ86.7%にとどまりました。これは、当該社外取締役2名が創業家から真に独立した立場で十分な監督機能を果たし得るかという、株主の懸念を顕著に示すものです。

取締役会全体に共通するメッセージは極めて明確です。株主は、コングロマリット・ディスカウント、過度に多角化した事業ポートフォリオ、不適切な資本配分、そして脆弱なガバナンスという課題から同社を守り、改善するため、経営陣を厳格に監督することができる、真に独立し、実効的に機能する取締役会を求めています。株主は、創業家およびその関係者の利益のためだけでなく、全ての株主の利益のために同社が運営されることを求めています。取締役会はこの結果を誤って解釈すべきではありません。

株主総会で得られたのは回答よりも新たな疑問だった
株主総会においてオアシスは、キャンペーンを通じて指摘した中核的なガバナンスおよび戦略上の懸念について、直接問題提起を行いました。しかし、会社側の回答は、オアシスの見解では曖昧かつ回避的であり、株主が期待すべき水準を大きく下回るものでした。

事業ポートフォリオの再編と「選択と集中」について:オアシスは堀場会長に対し、事業ポートフォリオの再編に関する現在の見解、および複数の非半導体セグメントにおける継続的な業績不振を踏まえ、長年否定し続けてきた「選択と集中」に対する考え方に変化があるのかを直接質問しました。しかし、会長自身は回答せず、足立社長が代わって、同社は事業ポートフォリオを「柔軟に」変化させており、諸課題は現在の構造改革を通じて対処していると述べるにとどまりました。具体的なタイムラインも、事業再編や撤退に関する判断基準も提示されず、これまでの失敗に対する直接的な説明責任も一切果たされていません。堀場会長に対して25%以上の反対票が投じられたのは、まさにこのような回避的な対応に対する株主からの直接的な意思表示として認識しなくてはなりません。

社外取締役の疑わしい独立性について:オアシスは松田氏および田邉氏に対し、社外取締役就任以前の堀場製作所および創業家との関係の性質について直接質問しました。同社は両氏が堀場製作所と長年にわたる関係を持つことを認めた上で、「専門知識」および「経営経験」を選任理由として挙げました。オアシスがその個人的な関係性についてさらなる説明を求めると、同社はその質問への回答を明示的に拒否し、個人的な事項であり株主総会では回答しない旨を述べました。オアシスは、この対応は著しく不十分だと考えています。社外取締役の独立性の有無は「個人的な事項」ではなく、同社に対して実効的な監督を行う能力そのものに疑義を生じさせるガバナンス上の問題です。

小山CFOの疑わしい取締役選任について:オアシスは、前日本銀行京都支店長という経歴を踏まえ、小山浩史氏の取締役就任の経緯について質問しました。同社は小山氏との長年の付き合いを認め、同氏の財務・経理能力を理由に挙げましたが、個人的な関係性については言及しませんでした。同社の戦略や資本配分上の具体的な課題を監督するのに相応しい人物かどうかを厳格かつ独立したプロセスで評価した結果ではなく、長年の個人的関係をもって取締役選任を正当化すること自体が、まさにオアシスが問題視してきた点です。取締役選任プロセスに関する説明責任を果たすことに消極的な同社の姿勢は、同社の選任プロセスに対するオアシスの懸念を払拭するどころか、むしろ裏付けるものとなりました。

オアシスのキャンペーンに対して会社が正式な声明を公表しなかったことについて:定時株主総会では別の株主から、なぜ堀場製作所としてオアシスのキャンペーン公表後に回答・反論を行わなかったのかという質問が出ました。同社の回答は、オアシスの資料について「事実と確認できない点もあった」中で、「真摯に」精読した上で、回答は株主総会の場で行うこととしたことを説明しました。これは、公開された詳細かつ実質的な株主エンゲージメントに対する説明として到底十分ではありません。オアシスが提起した問題に正面から向き合わないという同社の姿勢は、創業家以外の株主に対する関心の薄さを示すものです。堀場製作所の株主に必要なのは、沈黙でも、株主総会の場に限った慎重なコメントでもなく、透明性の高い説明や情報開示であり、創業家と同様に全ての株主が公平に扱われなくてはなりません。

これは始まりにすぎない
堀場会長に対する反対票率25.6%という数字は、反対票が歴史的にも少なく、構造的にも積み上がりにくい日本市場において、極めて重要な節目です。しかし、これは終着点ではなく出発点です。

オアシスは、今後も堀場製作所およびそのステークホルダーとの対話を継続する方針です。今回の株主総会で示された反対の大きさ、そして会社側がポートフォリオ改革、資本配分、取締役会の独立性について信頼に足る回答を示せなかったことは、オアシスの問題意識と決意を一層強めるものとなりました。

同社は、中長期経営計画(MLMAP 2028)の改訂版を2026年8月に開示するとしており、これは堀場製作所の取締役会および経営陣を評価するうえで極めて重要な試金石となります。オアシスは、その計画を慎重に精査する方針です。このMLMAP 2028の見直しは、既存戦略を新しい言葉で言い換えるような内容では不十分です。新計画には、具体的な期限、測定可能なKPI、低採算事業の再編または撤退に関する明確な基準、そして取締役会・経営陣の明確な責任所在が盛り込まれなくてはなりません。「柔軟に対応」「課題に取り組む」といった曖昧な表現や繰り返しの説明だけでは、もはや十分ではありません。

オアシスは今後も、全ての株主を代表し、また堀場製作所の真の強みを守り、強化するという観点から、同社の取締役会および経営陣に対する説明責任を追及してまいります。

オアシスのリリースのポイントは以下の3つである。

1つ目は、取締役選任議案への賛成率の低さは経営陣に対する重く明確な警告であり、取締役会はそれを軽視すべきではないという点だ。オアシスは、株主は真に独立し実効的に機能する取締役会を求めており、今回の結果は新体制に対する牽制と評価すべきとしている。

2つ目は、会社が説明責任を十分に果たしていないとの指摘である。オアシスは、事業ポートフォリオの再編と「選択と集中」に関する具体的なタイムラインや事業再編・撤退の判断基準の明確化、過去の失敗に関する説明を求めている。さらに、この指摘の背景にある問題として、社外取締役の独立性の確保や取締役選任プロセスの透明性向上といったガバナンス面の課題も挙げている。

3つ目は、堀場製作所が今後改訂する中長期経営計画への注文である。オアシスは、新たな計画に、具体的な期限、測定可能なKPI、低採算事業の再編または撤退に関する明確な基準、そして取締役会と経営陣の責任の所在を盛り込むよう求めている。

オアシスが今後どのような対応を取るかは、堀場製作所が今後公表する中期経営計画の改訂内容次第とみられる。仮に、上記「3つ目」のポイントで挙げた事項が十分に示されなければ、取締役会が経営陣に対する監督機能を果たしていないとして、次回の定時株主総会で独自の取締役候補を擁立する可能性がある。

一方で、これらの事項が形式的には示されたとしても、計画が期限通りに実行されなければ、最終的には経営陣に対する責任追及に発展する可能性もある。オアシスの「これは始まりにすぎない」というメッセージは単なる牽制ではなく、今後も堀場製作所に対し圧力をかけ続けることを示唆している。

今回の株主総会では、オアシス以外の株主から、堀場製作所がオアシスのキャンペーンに対する見解を公式に示さなかった点を疑問視する声が上がった。アクティビストによる提案を受けた場合、他の株主が知りたいのは、会社側がそれをどう受け止め、どう反論するかという点に尽きる。両者の主張を比較したうえで議決権行使を判断したいというのが一般株主の立場であり、会社側に求められるのは沈黙ではなく、自社の考えを明確に示すことだ。8月に予定される中長期経営計画の改訂は、その姿勢の有無が問われる最初の機会となろう。

2026/04/07 2026年3月総会に見る株主との対話のあり方(会員限定)

野村総合研究所金融イノベーション研究部 三井 千絵

2026年3月株主総会(以下、総会)シーズンが終わった。筆者は、オンライン総会が増加し始めたコロナ禍の2020年頃から定点的に総会の変化を観察してきたが、今期は時価総額や業種の異なる4社の総会を見る機会を得た。いま話題となっている有価証券報告書(以下、有報)の総会前開示の効果や、総会における経営トップの言葉が議決権行使に与える影響といった観点から、これらの総会を分析してみたい。

有報の総会前開示
4社のうち1社を除き、有報の総会前開示を行っていたが、2社は総会前日、しかも遅い時間(15時すぎ)という議決権行使の事前締め切り直前の開示であった。残りの1社は2営業日前の開示だったが、開示日から総会日までの間に祝日があったため、株主には有報の内容を確認して議案を検討する時間的余裕がある程度あったと思われる。当該企業では剰余金の配当も議案として付議されており、総会では株主還元と成長投資のバランスについて質問が出た。

こうした論点を株主が適切に理解するうえでは、有報が総会前に開示されている意義は大きい。特に成長投資については、各事業の状況や、施策の進捗、投資額の内訳など、口頭での説明だけでは十分に伝えきれない情報が多い。実際、当該企業の総会では、昨年からの3ヵ年計画に盛り込まれた投資について、その内訳や進捗を尋ねる質問もあり、CEOは、将来的なM&Aを視野に入れつつ、現時点では製品開発や人材投資に充てており、計画どおりに進んでいる旨を説明していた。こういったやり取りを踏まえると、総会での説明を株主が的確に理解するための資料としては、やはり有報が最適だということを再認識した。

オンライン総会
有報を総会前日に提出したA社、総会当日までに提出できなかったB社の総会では、株主は限られた情報の中で議決権行使をせざるを得ない。両社はいずれも、昨年受けたサイバー攻撃や現在の中東情勢が事業に影響しているといった株主を不安にさせる材料を抱えていた。また、両社ともオンラインでの出席を認めていたものの、視聴のみに限られ、質問や議決権行使ができるハイブリッド出席型バーチャル株主総会ではなかった。


ハイブリッド出席型バーチャル株主総会 : リアル株主総会を開催したうえで、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、文字通り株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会のこと。文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

もっとも、いずれの会社においても、こうした不安材料への対応について、CEO自らが明確かつ具体的な説明を行っていた。具体的には、A社では、事業ポートフォリオの分散により中東情勢による業績への影響は限定的であることが説明され、B社では、今後サイバーセキュリティを経営上の最重要課題の一つとして位置付ける方針が示された。いずれの総会でも、会場にいた株主からは経営陣の発言を前向きにとらえる“応援”に近い意見が聞かれた。もし両社がハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催し、この説明を会場に足を運べない株主にもリアルタイムで共有できていれば、議決権行使の判断にもポジティブな影響を与えたのではないかと感じさせられた。

興味深い質問として、企業会計基準の見直し議論を踏まえたものもみられた。例えば、のれんの会計処理見直しが企業会計基準委員会で議論されていることもあってか、海外事業投資について「のれんの水準を確認したい」「財務諸表上、無形資産と合算して開示されているが、分離して開示してほしい」という意見が出た。また、「若年層の株主を増やし、長期保有につなげる観点から、株式分割を検討してはどうか」との提案も聞かれた。


のれんの会計処理見直し : 企業買収で生じる「のれん」を、現行どおり毎年償却するのか、それともIFRSのように定期償却せず、価値が落ちた時だけ損失計上するのかを見直す議論。比較可能性や実務負担も論点であり、まだ結論が出ていない。文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

両総会とも約2時間にわたり、質問が出尽くすまで株主との質疑に時間を充てていた点も印象的であった。

会場での投票
C社は会場で投票用紙を配布した。事前の議決権行使では決議の帰趨が見通せなかったためだ。後日公表された出席株主数からしても、当日の出席株主による議決権行使が決議の結果を左右し得る状況にあったと思われる。

このように会場での投票が決議を左右するとなると、総会当日の説明や質疑応答は、議決権行使の重要な判断材料になる。C社は、4期連続赤字を背景に、前期の総会では個人株主からの社長交代を求める株主提案を受けたうえ、会社提案においても当時の社長の取締役選任議案が否決され、社長交代に至ったという経緯がある。

しかし、新社長は就任後の1年間、事業の立て直しに向けて、リストラや新事業の立ち上げに取り組んだ。これに対しある株主からは、質問の際に「社の将来にワクワクしてきた」との発言も出た。他の株主も事業のアイディアを提供したり、応援にも等しい意見を述べたりと、会場にはある種の“一体感”が感じられた。

総会における経営トップの言葉の重み
総会において経営トップが株主に対して直接語る内容は、会社の現状や経営方針などを理解してもらううえで極めて重要である。実際、経営トップが真剣に語る会社では、(主に個人株主による)株主質問の内容も具体的かつ建設的なものになりやすく、経営陣に対する期待や支持を示す発言が聞かれることも少なくない。株主質問に真摯に答える経営陣の姿を多くの株主に共有することは、株主エンゲージメントの観点からも意義が大きい。

ハイブリッド総会の意義
もっとも、実際に総会の会場まで足を運べる株主は限られる。より多くの株主に総会へ参加する機会を提供する観点からは、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を導入するべきではないだろうか。株主の発言に十分耳を傾けることは、企業にとって今後の事業戦略を考えるうえでの示唆を得ることにつながる。とりわけ、消費財、食品、サービス業など個人株主との接点が多い業種では、株主が自社のファンであることも多く、総会で出た意見は経営上のインプットとなり得る。また、株主の意見に耳を傾ける姿勢は、自社のファンを増やすことに寄与する。

今回筆者が見た総会では、議決権行使をしていない株主が相当数にのぼると思われる事例もあった。投票数と株主数の比較からすると、議決権行使をしていない株主の多くは小口の個人株主である可能性がある。議決権行使をしても結果に変わりはないという意識から、議決権行使のモチベーションがわかないのかもしれない。もしハイブリッド出席型バーチャル株主総会で総会を通じて、経営陣の説明や質疑応答を踏まえたうえで議決権を行使できる環境が整えば、こうした株主の行動も変わる可能性がある。現在のように先行きの見通しが立ちにくい局面だからこそ、総会を通じて株主との信頼関係を築くことが、自社を支えることにつながるのではないだろうか。

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2026/04/06 CGコード改訂案、有識者会議踏まえ修正 4月中旬にパブコメ、CG報告書提出期限は2027年7月となる方向

金融庁は2026年4月3日、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(以下、有識者会議)の第3回会合を開催し、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の第三次改訂に向けた改訂案(以下、第3回会合案)を公表した。第3回会合案は第2回会合で示された改訂案(以下、第2回会合案)について、有識者会議のメンバーから受けた指摘を反映したもの(第2回会合案については、2026年3月3日のニュース「CGコード第三次改訂案、原則数は83から28に大幅減も「序文」および「解釈指針」を踏まえた対応必要に」参照)。CGコード全体の構成要素(序文、基本原則、原則、解釈指針)に変更はないが、2つの解釈指針が原則に格上げされ、原則数は現行CGコードの83から第3回会合案では30となった(第2回会合案では28)。

解釈指針から格上げされた2原則は下表のとおり。第2回会合案ではいずれも原則4-3(取締役会の役割・責務(3):経営陣・取締役に対する実効的な監督)の解釈指針とされていた。しかし、・・・

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2026/04/06 CGコード改訂案、有識者会議踏まえ修正 4月中旬にパブコメ、CG報告書提出期限は2027年7月となる方向(会員限定)

金融庁は2026年4月3日、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(以下、有識者会議)の第3回会合を開催し、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の第三次改訂に向けた改訂案(以下、第3回会合案)を公表した。第3回会合案は第2回会合で示された改訂案(以下、第2回会合案)について、有識者会議のメンバーから受けた指摘を反映したもの(第2回会合案については、2026年3月3日のニュース「CGコード第三次改訂案、原則数は83から28に大幅減も「序文」および「解釈指針」を踏まえた対応必要に」参照)。CGコード全体の構成要素(序文、基本原則、原則、解釈指針)に変更はないが、2つの解釈指針が原則に格上げされ、原則数は現行CGコードの83から第3回会合案では30となった(第2回会合案では28)。

解釈指針から格上げされた2原則は下表のとおり。第2回会合案ではいずれも原則4-3(取締役会の役割・責務(3):経営陣・取締役に対する実効的な監督)の解釈指針とされていた。しかし、第2回会合で、松田メンバーから、基本原則2(第2章:株主以外のステークホルダーとの適切な協働)はステークホルダーとの関係を扱う章であり、内部通報はその中でも重要な従業員との関係性に関わる事項である以上、第2章にも残しておくべきとの指摘があった。また、同じく松田メンバーより、内部統制・全社的リスク管理体制の整備について、リスクマネジメントはリスクテイクと並ぶ取締役会の重要な役割であるにもかかわらず、原則4-3の中に「リスク管理体制整備」として盛り込むだけでは、その重要性をやや矮小化しかねないとの指摘があった。こうした議論を踏まえ、第3回会合案では、前者は原則2-3、後者は原則4-4という独立した原則として位置付け直されたものとみられる(第2回会合の議事録はこちら)。

原則2-3
(現行2-5
内部通報 上場会社は、内部通報に係る適切な体制整備を行い、取締役会は、その運用状況を監督すべきである。
原則4-4
(現行4-3中段)
取締役会の役割・責務Ⅲ:経営陣・取締役に対する実効的な監督② 取締役会は、内部統制や全社的リスク管理体制を適切に整備すべきである

また、序文(3ページ11行目~)における「解釈指針はこのような意味で原則と一体であり、本コードの一部をなすものである」との文言が削除された。これは、第2回会合で、「解釈指針も規範性を持つものと受け止められかねない」(小林メンバー)、「わざわざ一体であり、一部をなすものであると書かなくても、グッドプラクティス、ベストプラクティスであるということは、十分この記載で理解できる」(長谷川メンバー)といった削除を求める意見を反映したもの。序文にある「『解釈指針』は、コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではない」との趣旨が明確化したわけだが、第3回会合では、投資家や学識者のメンバーから「『一体』はともかく『一部』まで削除することは、実際の改訂案における原則と解釈指針の建付けに合わない(一部であることは明らか)」との反発もあった。「一部」が最終案で復活するのか、注目される。

同じく序文の末尾には、有価証券報告書の株主総会前開示について、金融庁が、企業負担も踏まえると現行実務の下では「株主総会開催日の3週間以上前の開示は必ずしも容易ではない」との認識を示したうえで、有価証券報告書と事業報告等の一本化や、会社法監査と金商法監査の一元化などの制度的検討を進めることが盛り込まれた。これは、「現行の法制度的枠組みの下での実務を踏まえると、現実的に対応が困難」(松岡メンバー)といった意見を踏まえたもの。ただし、松岡メンバーは、原則1-2の解釈指針(11ページ3行目~)における「3週間以上前の提出が最も望ましいという記述については削除」するよう求めたものの、当該記述自体は残された。

基本原則1の解釈指針には、現行CGコードの原則1-5(買収防衛策)、1-6(希釈化を伴う資本政策)、1-7(関連当事者間取引)に示されている少数株主保護の視点を踏まえた下記の文章が追加された。第2回会合案では、原則1-5~1-7は、金融商品取引法や有価証券上場規程等との重複があるなどとして「削除」等の対象とされていたが、第2回会合における「少数株主の利益、株主共同の利益を守るということは非常に重要な点ですので、さらに強調することが必要」(古布メンバー)との意見も踏まえ、少数株主保護の視点が基本原則1の解釈指針に改めて盛り込まれた。

上場会社は、少数株主と経営陣・支配株主との間には構造的に利益相反や情報の非対称性の問題があることから、例えば、(ⅰ)買収への対応方針の導入・対抗措置の発動は経営陣・取締役会の保身を目的としないか、(ⅱ)支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)は既存株主を不当に害するものでないか、(ⅲ)関連当事者間の取引は会社や株主共同の利益を害するものでないか等の観点から必要性・合理性を検討するなど、適正な手続に従い、少数株主の利益に配慮すべきである。また、支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはならないのであって、支配株主を有する上場会社には、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の整備が求められる。

原則2-2(現行CGコードの補充原則2-4①から格上げ)においては、「管理職への登用」に関する「測定可能な目標」および「その状況」の開示対象とされている「女性・外国人・中途採用者」が、「ジェンダーや国際性、経歴、年齢、文化的背景」など、より幅広い表現に見直された。これは、第2回会合で「もう少し多様性を含んだ人材の活用ということが分かるような表現にしていただきたい」(長谷川メンバー)との要望を受け入れたもの。本原則の最後に「開示すべき」とあるように、本原則はいわゆる開示原則に該当するため、今回の第三次改訂後は、「測定可能な目標」「その状況」をどのような区分で開示すべきか、検討する必要が生じることになろう(第三次改訂における開示原則の動向については2026年3月13日のニュース「CGコード第三次改訂における原則数の大幅減に伴う「開示原則」の行方」参照)。

第2回会合案 第3回会合案
上場会社は、社内における女性・外国人・中途採用者の中核人材への登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定するとともに、その状況を開示すべきである。 上場会社は、ジェンダーや国際性、経歴(中途採用を含む)、年齢、文化的背景やこれらに限られない観点から、中核人材への登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定するとともに、その状況を開示すべきである。

上場会社各社の関心を集めていた現預金の有効活用に関する原則4-2の解釈指針における記述は、第2回会合案では「現預金を投資等に有効活用できているか」を検証すべきとされていたが、第3回会合案では「現預金」という文言が「現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源」へと改められ、現預金に限って説明責任を求めるトーンは後退した。これは、第2回会合で「現預金のみを取り上げて、これを検証・説明を推奨することは、企業の自主性・自律性を阻害し、また、一部の投資家の要請による過度な株主還元を助長して企業の持続的成長を阻害する」(小林メンバー)といった批判を受けたもの。もっとも、小林メンバーの意見は「現預金」の削除を求めるものであったところ、「過大な現金保有が、いわゆるアクティビストの方だけではなくて、中長期視点の機関投資家にとっても大きな課題と認識されている」(井口メンバー)との意見も影響し、「現預金」という文言自体は残された。トーンダウンしたとはいえ、「現預金」という文言が残された以上、依然として現預金が重要な検証対象であることに変わりはない。さらに、検証対象が現預金だけでなく経営資源全体に広がることとなった。したがって、企業には、現預金を含む経営資源全体の配分について説明・検証することが求められよう。

第2回会合案 第3回会合案
取締役会は、自社の経営戦略や経営計画を踏まえ、持続的成長と中長期的な企業価値の向上に繋げるために適切なリスクテイクとなる経営資源の配分が実現されるよう、現預金を投資等に有効活用できているかを含め、不断に検証を行うべきである。また、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。 取締役会は、自社の経営戦略や経営計画を踏まえ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に繋げるために適切なリスクテイクとなる経営資源の配分が実現されるよう、現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源成長投資等に有効活用できているかを含め、不断に検証を行うべきである。また、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

原則4-11の解釈指針では、独立社外取締役の独立性判断基準が、第2回会合案では「所属組織の影響を受けるおそれがない」という抽象的なものにとどまっていたところ、第3回会合案ではその前に「例えば上場会社と一定の資本関係・取引関係にある他の組織に所属している場合には」という文言が追記され、具体的にどういう場合に「所属組織の影響を受けるおそれがない」ことが求められるのか明確になった。これは、第2回会合で、「例示のほうが分かりやすい」(武井メンバー)などの指摘があったことを受けたもの。ここでいう「一定の資本関係」には、政策保有株式の持ち合い関係も含まれていると解釈すべきだろう。

以上、第3回会合案について、第2回会合案からの主な変更点を解説したが、今後、第3回会合で出た意見を勘案したうえで最終的な改訂案がとりまとめられ、パブリックコメントに付される予定となっている。パブリックコメントの期間は、4月中旬から1か月程度となる見込み。

特筆されるのが、改訂CGコードに対応したCG報告書(コーポレートガバナンス報告書)の提出時期だ。過去の改訂の際には、改訂が行われた年の12月末までに提出が求められたが、今回の第三次改訂では「遅くとも2027年7月までに」CG報告書の提出が求められることになる模様。過去にない大幅な改訂となったことに加え、改めて「原則主義(プリンシプルベース・アプローチ)」が強く標榜されたことから、企業に十分な検討期間を与えるようという狙いが見える。これを受け、企業においては、CGコード改訂案の序文を踏まえた「丁寧なエクスプレイン」「単にコンプライとするのではなく(中略)コンプライとする理由について説明を行うこと」(コンプライ・アンド・エクスプレイン)に取り組むことが期待されよう。


原則主義(プリンシプルベース・アプローチ) : 大まかな原理・原則だけを定め、細かな運用は現場の判断に任せるという規制方法のこと。プリンシプルベース・アプローチ とも呼ばれる。プリンシプルベース(原則主義)の反意語は「ルールベース(細則主義)」である。

  

2026/04/03 SSBJ基準適用第1号はキリンHD 有報は53ページの大幅増に(会員限定)

2026年3月27日、キリンホールディングス株式会社(以下、キリンHD)は2025年12月期の有価証券報告書を提出し、日本初のSSBJ基準適用会社となった(キリンHDのリリースはこちら)。同時に英語版も公表されており、グローバル投資家への情報提供を重視する同社のスタンスがうかがえる。以下、キリンHDの開示内容を分析し、今後SSBJ基準の適用を受ける可能性がある上場会社が留意すべきポイントを整理する。


SSBJ基準 : SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan=サステナビリティ基準委員会)が策定するサステナビリティ開示基準。SSBJ基準は、企業に共通して求められる基本的な開示事項を定める「一般基準」と、気候関連など個別テーマごとの具体的な開示事項を定める「テーマ別基準」に分かれている。一般基準では、企業のサステナビリティ情報を「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」の4要素で開示する構造を採用しており、このうち「戦略」は企業の中長期的な方針や取組の方向性を示すもの、「指標・目標」はその進捗や成果を測る具体的な数値や達成水準を示すものである。

ポイント①:ページ数の爆発的増加(53ページ増)
SSBJ基準適用前の前年度の有価証券報告書では、【サステナビリティに関する考え方及び取組】のセクションは約13ページだったが、SSBJ基準適用後は約66ページと、単純比較で53ページの増加となった。これは、サステナビリティ開示が財務諸表並みの情報量を求められることを示している。

SSBJ基準は、過大なコストや労力をかけずに利用可能な情報を用いて開示するという設計思想だったはずだが、今のところSSBJ基準が適用されるかどうか未定の時価総額5千億円未満のプライム市場上場会社など、サステナビリティ開示の体制が十分でない中小規模の上場会社が本当に対応できるのか、金融庁における適用対象を巡る議論に一石を投じる可能性があろう(SSBJ基準の適用対象については2026年3月18日のニュース「平均時価総額の開示はすべてのプライム上場企業が対象」参照)。

ポイント②:テーマの絞り込み
キリンHDは、同社が設定する「グループ・マテリアリティ・マトリックス(GMM)」と呼ばれる31個の経営課題を起点に、シングルマテリアリティ(企業価値への影響)の観点から、以下の7つの重要テーマを選定した。


シングルマテリアリティ(企業価値への影響) : 「社会・環境が企業財務に与える影響」のみを評価してサステナビリティ上の重要課題を特定する考え方。「企業が社会・環境に与える影響」と「社会・環境が企業財務に与える影響」の2軸の評価によりサステナビリティ上の重要課題を特定する考え方はダブルマテリアリティと呼ばれる。

(1) アルコールの負の影響
(2) 健康長寿社会
(3) アンメットメディカルニーズ
(4) 人的資本
(5) 人権
(6) 消費者課題
(7) 環境(気候変動・自然資本)


アンメットメディカルニーズ : 既存の医薬品や治療法だけでは十分に応えられていない医療ニーズを指す。キリンはこれを健康領域の重要課題と位置づけ、「医薬品にとどまらない医療ニーズへの新たな取組」の対象としている。「アンメット」とは「満たされていない」を意味する。

SSBJ基準では、重要テーマごとに「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の記載が求められるため、テーマの選定がサステナビリティ開示の分量(ページ数)を大きく左右することになる。

注目されるのが、キリンHDが明示した重要性の判断基準だ。具体的には、「リスク及び機会」が顕在化した場合の財務上の影響度(50億円未満、50~100億円、100億円以上)と、当該リスク・機会の発生可能性(10年に1回程度、10~30年に1回程度、30年以上に1回程度)の二軸で評価し、①財務上の影響度が100億円以上の場合は発生確率を問わず「重要性が高い」と評価、②財務上の影響度が中程度(50~100億円)の場合は発生可能性が高い(10年に1回程度)ものを「重要性が高い」と評価している。この基準は他社にとっても参考になろう。

ポイント③:「ガバナンス」「リスク管理」のボリュームの多さ
キリンHDの場合、「ガバナンス」と「リスク管理」の説明が手厚く、それぞれ約7.5ページ、約2ページのボリュームとなっている。

「ガバナンス」では、取締役会の監督機関としての役割、執行体制(経営者の役割)が詳細に記載されている。特徴的なのは、取締役会に求められるスキル及びコンピテンシーの定義と充足状況がマトリックス形式で開示されている点だ。「サステナビリティ」に関するスキルは「気候変動・自然資本・人権等の重要課題を事業戦略・KPIに統合して中長期の企業価値向上に結び付ける能力」と定義され、取締役・執行役員ごとの充足状況が一覧で示されている。役員報酬への非財務指標の反映についても詳細に説明されており、PSU(3年経営計画の目標達成度に連動するパフォーマンス・シェア・ユニット)の非財務評価に環境・コミュニティ・健康・人的資本の4項目が含まれることが明記されている。


パフォーマンス・シェア・ユニット : パフォーマンス・シェアとは、一定期間(以下、業績等評価期間)における「業績」や「株価」によって交付する株式数が変動するタイプの株式報酬のことをいう。業績評価期間の最初に株式を交付するものは単に「パフォーマンス・シェア(通称:PS)」と呼ばれるが、まずポイント(ユニット=単位)を付与し、業績等評価期間終了後に評価の結果に応じてポイント数を変動させ、当該ポイントに応じた株式を交付するのが「パフォーマンス・シェア・ユニット(通称:PSU)」である。業績や株価条件のある株式交付信託は、パフォーマンス・シェア・ユニットに区分される。

「リスク管理」では、サステナビリティ関連のリスク・機会の識別プロセスが詳細に説明されている。具体的には、上記GMMで洗い出した経営諸課題を出発点に重要テーマを整理したうえで、各テーマに関するリスクと機会を毎年見直し、さらに、その結果をグループ全体の重要リスクの選定に反映するという、サステナビリティ課題を全社のリスク管理に組み込む流れが示されている。

ポイント④:第三者保証の取得
キリンHDは、ガバナンス、リスク管理、Scope1・2排出量および一部の指標について、KPMGあずさサステナビリティ株式会社による第三者保証(限定的保証)を任意で取得している。ガバナンスやリスク管理の記載が厚くなった背景には、これらが第三者保証の対象になったこともあるとみられる。


Scope1・2 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。 スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。 スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。
限定的保証 : 保証業務の実施者が、重大な虚偽表示がないことを確信するに足る証拠が得られなかったと結論づける保証業務であり、「合理的保証」に比べて保証水準は低いとされる。限定的保証は、情報の正確性を網羅的に検証するものではなく、明白な誤りがないかをチェックする程度にとどまる。

ちなみに、キリンHDの財務諸表を監査しているのは、KPMGあずさサステナビリティ株式会社と同系列の有限責任あずさ監査法人である。キリンHDは、制度上、有価証券報告書に保証報告書を添付できないため「別冊」を作成しており、財務諸表監査とサステナビリティ保証が現時点では別の枠組みで扱われていることがうかがえる。

ポイント⑤:充実した財務的影響の開示
「戦略」のパートでは、財務的影響が「短期・中期・長期」の時間軸で丁寧に説明されている。具体的には、短期(1年後)、中期(3年後)、長期(10年後)の各時点でのPL・BS・CFへの影響が百万円単位で開示されており、例えば気候変動への対応に伴う負担として、①研究開発費や再生可能エネルギーの調達コストのように毎期の利益に影響する費用と、②温室効果ガス排出削減のための設備投資のように資産として計上される支出を区分して示している。投資家がサステナビリティリスクを将来キャッシュフロー予測に反映するうえでの重要な情報となろう。

<気候変動の移行リスクの当期及び将来の財務的影響>
80911

ポイント⑥:Scope3の未開示
キリンHDは、開示初年度に限りバリューチェーン全体の間接排出であるScope3排出量を開示しないことを認めるSSBJの気候関連開示基準の経過措置(SSBJ開示テーマ別基準第2号第103項(2))を使って、Scope3排出量の開示を見送った。「2025年度実績が確定次第、開示する予定」としている。

これは、キリンHDのようなサステナビリティ開示の先進企業であっても、決算日後3か月以内に有価証券報告書でScope3排出量を開示することは難しいという現実を示している。Scope3排出量の算定にはサプライチェーン全体のデータ収集が必要であり、決算スケジュール内での確定はハードルが高い。決算日後3か月以内の開示に向けては、見積りの精度をいかに上げるかが重要な課題となろう。

ポイント⑦:公表承認日
社内におけるサステナビリティ開示の公表承認日は2026年3月27日であり、これは連結財務諸表の公表承認日と同一であった。情報開示委員会の審議を踏まえ、委員長である取締役常務執行役員CFOが承認し、代表取締役社長COOに報告するというプロセスが明示されており、開示プロセスの透明性が確保されている。

ポイント⑧:平均時価総額の開示
SSBJ基準は「時価総額」に応じて段階的に適用されるため、平均時価総額1兆円以上の企業にSSBJ基準が強制適用される2028年3月期から、時価総額を問わず「すべて」のプライム上場企業は、平均時価総額の開示が求められることになるが(この点は2026年3月18日のニュース「平均時価総額の開示はすべてのプライム上場企業が対象」参照)、キリンHDは平均時価総額に関する情報は開示していない(早期適用していない)。金融庁はSSBJ基準の早期適用は「規定ごと」に適用できるとの見解を示していることを受け、同社は平均時価総額の開示は見送ったものとみられる。

以上のとおり、キリンHDによるSSBJ基準の適用は、今後適用を控えるプライム市場上場会社の実務対応上、多くのヒントを与えるとともに、サステナビリティ開示の負担の大きさをリアルに示したと言えそうだ。

2026/04/03 SSBJ基準適用第1号はキリンHD 有報は53ページの大幅増に

2026年3月27日、キリンホールディングス株式会社(以下、キリンHD)は2025年12月期の有価証券報告書を提出し、日本初のSSBJ基準適用会社となった(キリンHDのリリースはこちら)。同時に英語版も公表されており、グローバル投資家への情報提供を重視する同社のスタンスがうかがえる。以下、キリンHDの開示内容を分析し、今後SSBJ基準の適用を受ける可能性がある上場会社が留意すべきポイントを整理する。


SSBJ基準 : SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan=サステナビリティ基準委員会)が策定するサステナビリティ開示基準。SSBJ基準は、企業に共通して求められる基本的な開示事項を定める「一般基準」と、気候関連など個別テーマごとの具体的な開示事項を定める「テーマ別基準」に分かれている。一般基準では、企業のサステナビリティ情報を「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」の4要素で開示する構造を採用しており、このうち「戦略」は企業の中長期的な方針や取組の方向性を示すもの、「指標・目標」はその進捗や成果を測る具体的な数値や達成水準を示すものである。

ポイント①:ページ数の爆発的増加(53ページ増)
SSBJ基準適用前の前年度の有価証券報告書では、【サステナビリティに関する考え方及び取組】のセクションは約13ページだったが、SSBJ基準適用後は約66ページと、単純比較で53ページの増加となった。これは、サステナビリティ開示が財務諸表並みの情報量を求められることを示している。

SSBJ基準は、過大なコストや労力をかけずに利用可能な情報を用いて開示するという設計思想だったはずだが、今のところSSBJ基準が適用されるかどうか未定の時価総額5千億円未満のプライム市場上場会社など、サステナビリティ開示の体制が十分でない中小規模の上場会社が本当に対応できるのか、金融庁における適用対象を巡る議論に一石を投じる可能性があろう(SSBJ基準の適用対象については2026年3月18日のニュース「平均時価総額の開示はすべてのプライム上場企業が対象」参照)。

ポイント②:テーマの絞り込み
キリンHDは、同社が設定する「グループ・マテリアリティ・マトリックス(GMM)」と呼ばれる31個の経営課題を起点に、シングルマテリアリティ(企業価値への影響)の観点から、以下の7つの重要テーマを選定した。


シングルマテリアリティ(企業価値への影響) : 「社会・環境が企業財務に与える影響」のみを評価してサステナビリティ上の重要課題を特定する考え方。「企業が社会・環境に与える影響」と「社会・環境が企業財務に与える影響」の2軸の評価によりサステナビリティ上の重要課題を特定する考え方はダブルマテリアリティと呼ばれる。

(1) アルコールの負の影響
(2) 健康長寿社会
(3) アンメットメディカルニーズ
(4) 人的資本
(5) 人権
(6) 消費者課題
(7) 環境(気候変動・自然資本)


アンメットメディカルニーズ : 既存の医薬品や治療法だけでは十分に応えられていない医療ニーズを指す。キリンはこれを健康領域の重要課題と位置づけ、「医薬品にとどまらない医療ニーズへの新たな取組」の対象としている。「アンメット」とは「満たされていない」を意味する。

SSBJ基準では、重要テーマごとに「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の記載が求められるため、テーマの選定がサステナビリティ開示の分量(ページ数)を大きく左右することになる。

注目されるのが、キリンHDが明示した重要性の判断基準だ。具体的には、・・・

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2026/04/02 議長の責務が明確にされないまま進む取締役会事務局の機能強化(会員限定)

2026年2月26日に開催された金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(有識者会議)の第2回会合で示されたCGコード改訂案を読んで気付くのは、取締役会の議長への明示的な言及がほとんどないということだ。議長に触れているのは、原則4-13(取締役会における審議の活性化等)の解釈指針における「独立社外取締役が議長を務める場合・・・には、取締役会事務局が果たす機能が特に大きくなる」という部分に限られる。

そもそも現行CGコードには「議長」という文言が皆無であるところ、有識者会議の第1回の会合では、「議長の独立性を含む独立取締役のリーダーシップを規定すべき」(シッソンメンバー)、「取締役会における適切なアジェンダ設定のためには、議長が機能することが必要」(日本取締役協会(オブザーバー))、「原則4-8に取締役会の議長を入れるということを検討してもよいタイミングなのではないか」(井口メンバー)といった意見が出た(有識者会議のメンバーはこちら)。また、シッソンメンバーは、第2回会合においても、「独立した議長あるいは少なくとも筆頭独立取締役を任命すべき」と主張している。いずれも、取締役会の実効性向上に責任を持つ“リーダー”としての議長の重要性を意識した発言だが、上述のとおり、改訂案にこれらの意見が反映されたとは言い難い。

ここで英国CGコードを確認してみると、セクション2(Division of responsibilities:責任の分担)では、取締役会の実効性に対する取締役会の議長(the chair)の責務と役割が明確に説明されている(Principle F)。

Principle F
議長は取締役会を率い、取締役会全体の実効性に責任を負う。議長は、在任期間を通じて客観的な判断を示し、開かれた議論を重んじる文化を促進すべきである。加えて、議長は、取締役会内の建設的な関係を促進し、すべての非業務執行取締役による効果的な貢献を促すとともに、取締役が正確で適時かつ明確な情報を得られるようにすべきである。

さらに、その職責を果たすため、議長には独立性を求めるとともに、CEOと議長の分離を原則としている(Provision 9)。

Provision 9
議長は、就任時に独立していなければならない。議長と最高経営責任者(CEO)の役割は、同一人が担うべきではない。同じ会社のCEOが議長に就くべきでもない。例外的に、取締役会がCEOを議長に選任しようとする場合には、就任前に主要株主と協議すべきである。その場合、取締役会は、就任時にその理由を全株主に示すとともに、会社のウェブサイトにも公表すべきである。

一方、コーポレートセクレタリー(company secretary:取締役会事務局)については、取締役会が実効的かつ効率的に機能するための基盤を支える存在として位置付けるとともに(Principle I)、ガバナンス事項全般について取締役会に助言する責任を負うものとしている(Provision 16)。

Principle I
取締役会は、コーポレートセクレタリーの支援の下で、実効的かつ効率的に機能するために必要なポリシー、プロセス、情報、時間及びリソースを確保すべきである。
Provision 16
すべての取締役は、コーポレートセクレタリーの助言を得られるようにすべきである。コーポレートセクレタリーは、ガバナンス事項全般について取締役会に助言する責任を負う。また、その選任及び解任は、取締役会全体の決定事項とすべきである。

以上のとおり、英国CGコードは、まず議長が取締役会全体の実効性に責任を負うことを明確にしたうえで、コーポレートセクレタリーを取締役会の機能発揮を支え、助言する存在として位置付けている。

翻ってCGコード改訂案の原則4-13の解釈指針を見ると、「取締役会を支える部署」である「取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)」は、取締役会などが「実効性ある議論の場となるよう」に「(取締役会などの)運営を能動的に行うことが望ましい」と書かれている。このように事務局の役割だけを具体化すると、取締役会の実効性向上が、あたかも事務局機能の拡充によって達成されるかのような受け止め方をされかねない。しかし、取締役会の実効性向上に第一義的な責務を負うのは、取締役自身、とりわけ議長であるはずだ。

したがって、事務方である取締役会事務局の負担を増やすだけで、原則4-13への対応が完了すると考えるべきではない。上場会社においては、まず議長の責務を明確にすることが、議長を支援する取締役会事務局の在り方を検討するためには不可欠だということを認識する必要がある。

原則4-13(取締役会における審議の活性化等)の 解釈指針(後段)
取締役会の審議の活性化を図り、また、社外を含めた取締役・監査役への情報提供を含めた支援を適確に行うためには、取締役会を支える部署であるいわゆる取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化等の取組みを推進することも重要である。取締役会事務局は、上記(ⅰ)~(ⅴ)を含む会議運営を行う単なる取締役会の事務方としての役割のみならず、取締役会やその傘下の各委員会の会議体が実効性ある議論の場となるよう、当該会議体の果たすべき役割・責務に照らし適切な審議事項を定めるなど、それらの運営を能動的に行うことが望ましい。また、必要に応じて、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる役割を担うことも期待される。
なお、独立社外取締役が議長を務める場合や、取締役会における社外取締役が占める割合が高い場合には、取締役会事務局が果たす機能が特に大きくなると考えられる。

2026/04/02 議長の責務が明確にされないまま進む取締役会事務局の機能強化

2026年2月26日に開催された金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(有識者会議)の第2回会合で示されたCGコード改訂案を読んで気付くのは、・・・

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2026/04/01 ~上場会社役員ガバナンスフォーラム会員の皆様は1万円割引!~ 2026年度JCGR研究会・セミナーが4月より順次開講します。

日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)様が実施する2026年度の研究会・セミナーが4月より順次開講します。
https://jcgr.org/

上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員は、JCGR様のご厚意により、月例研究会の参加費が1万円割引となります。

月例研究会 <コーポレートガバナンス研究会・ファイナンス研究会>
◆ 2026年度のコーポレートガバナンスおよびファイナンスの月例研究会は2025年4月より開講されます。
◆ 毎月開催の全12回で、各回とも対面およびオンデマンドのハイブリッドです。参加者は各回とも対面and/orハイブリッドで受講できます。対面講義の2週間後にQ&Aセッションがzoomミーティング方式で実施されます。
◆ なお、オンデマンド方式ですので、4月以降もいつからでも参加ができます。
https://jcgr.org/2026cgcf/

短期セミナー <データサイエンス研究会>
◆ これからのビジネスパーソンにとってデータサイエンスの素養が不可欠です。自らデータを処理し情報を創ることはできなくても、創られた情報を読んで理解することが要求されます。
◆ 計量経済学の専門家であるJCGR大林守理事が、対面によるハンズオン(体験型)の研究会を単発で実施します。2時間の講義・実習と30分の質疑応答です。
1.ビジネスパーソンのためのAIリテラシー
2.ビジネスパーソンのためのデータサイエンスリテラシー
3.経営者が知っておくべきデータサイエンス
https://jcgr.org/2026ds%EF%BC%86ai/

※ セミナーについては参加者個人または派遣元企業のご要望に応じることができます。お問い合わせください。
semi@jcgr.org セミナー担当 宛