2019/11/13 重要会計基準改正解説第一弾 見積会計基準案が公表、MD&A、KAMへの影響(会員限定)

企業会計基準委員会(ASBJ)は2019年10月30日、「収益認識に関する会計基準」の改正案「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」(以下「見積り会計基準(案))の2本の重要会計基準案を公表している(意見募集はいずれも2020年1月10日まで)。これらの会計基準に基づく開示には間接的に経営者が関与することになるため、上場企業の役員としては内容を把握しておく必要がある。そこで当フォーラムではそれぞれについて2回に分けて解説する。まずは「見積り会計基準(案)」から――

下表にもあるとおり、企業会計には様々な見積もり要素がある。例えば貸付金のうち何%が貸倒れになるかは、実際に貸倒れが発生してみないと分からない。しかし、貸付金の一部貸倒れはしばしば発生するため、企業は貸倒額を見積もって、「貸倒引当金」を費用に計上しておくことになる。もっとも、見積りが外れることはあり得る。そうなれば(外れ方の程度にもよるが)決算数値も変わることになり、企業が計上した見積額を信じて投資判断を行った投資家にも影響が及ぶことになる。こうした事態を避けるために、見積りに影響を与えそうな情報をあらかじめ企業に開示させようというのが、今回公表された「見積り会計基準(案)」だ。

具体的には、国際会計基準(以下「IFRS」)において開示が行われている「見積りの不確実性の発生要因」と同様の開示を求め、開示の充実を図ることになる。見積り会計基準(案)で開示が求められる内容は下表のとおり。留意したいのは、開示項目及びその内容を決めるのは「経営者自身」であるということだ。見積り会計基準(案)では、当該開示の目的は「当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示すること」とされている(見積り会計基準(案)第4項)。そして、開示する具体的な項目およびその記載内容については、開示目的に照らして企業が判断する旨が明記されている(見積り会計基準(案)第15項)。

  開示内容(見積り会計基準(案)第7,8項) 内容
1 会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目 当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目するのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高いものに着目して開示する項目を識別する。項目としては、例えば、繰越欠損金に対する繰延税金資産の回収可能性、引当金の見積り、減損損失の見積り、ストック・オプションの評価等が挙げられる。
2 (1)当年度の財務諸表に計上した金額 財務諸表の科目の金額そのものの他、財務諸表の科目をブレイクダウンした金額を意味する。
(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報(例えば、以下①~③) 単に会計基準に書かれている内容(例えば、「固定資産の減損損失は当該固定資産の将来の見積りキャッシュ・フローの低下に基づいて計算する」など)ではなく、各社固有の状況が理解できる内容を記載することが想定されている。
①当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法 ある金額を算出するために使用した、評価技法、算定モデル、重要なインプット(例えば、金利、為替)の内容が記載される。
②当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
③翌年度の財務諸表に与える影響 見積りと実績が乖離した場合の影響を書く。例えば、重要なインプット(影響を与える要因)が変動した場合の影響(定量的なものに限られないと考えられる。)、感応度分析(下記参照)などが想定される。

減損損失 : 固定資産による将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ計上する損失のこと。
インプット : 時価の算定式に入力する数値

上記2③における「感応度分析」とは、ある変数(仮定)を、合理的に予想される範囲(例えば上下10%)で変動させた場合に、どの程度影響するかを期末時点で算出することをいう(下記の参考例(トヨタ自動車のMD&Aより)参照)。

MD&A : 「Management Discussion & Analysis」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

(感応度分析)
トヨタの業績に重大な影響を与える金融損失の程度は、主に損失発生の頻度、予想損失程度という2つの要素の影響を受けます。金融損失引当金は様々な仮定および要素を考慮して、少なくとも四半期ごとに評価されており、発生しうる損失を十分にカバーするかどうか判断しています。次の表は、トヨタが主として米国において金融損失引当金を見積もるにあたり、損失発生の頻度または予想損失程度の仮定の変化を示したものであり、他のすべての条件はそれぞれ一定とみなしています。金融損失引当金がトヨタの金融事業に対して与える影響は重要であり、損失発生の頻度または予想損失程度の仮定の変化に伴う金融損失引当金の変動が金融事業に与える影響を示しています。
47287

見積り会計基準(案)に開示例は示されていないが、上述のとおり、同基準(案)はIFRSで開示が行われている「見積りの不確実性の発生要因」を手本にしているだけに、以下のようなIFRS任意適用会社の開示事例は参考になる。

<花王㈱ 2018年12月期:重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断の開示事例(一部抜粋)>
4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断
(略)
 見積り及び仮定のうち、当社グループの連結財務諸表で認識する金額に重要な影響を与える事項は、以下のとおりであります。

(1)有形固定資産、のれん及び無形資産の減損
 当社グループは、有形固定資産、のれん及び無形資産について、資産又は資金生成単位の回収可能価額が帳簿価額を下回る兆候がある場合には、減損テストを実施しております。
 減損テストを実施する契機となる重要な要素には、過去あるいは将来見込まれる経営成績に対する著しい実績の悪化、取得した資産の用途の著しい変更又は事業戦略全体の変更等が含まれます。
 さらに、のれんについては、のれんを配分した資金生成単位の回収可能価額がその帳簿価額を下回っていないことを確認するため、減損の兆候の有無にかかわらず、連結会計年度末までに、最低年に一度減損テストを実施しております。
 減損テストは、資産又は資金生成単位の帳簿価額と回収可能価額を比較することにより実施し、回収可能価額が帳簿価額を下回る場合には、その回収可能価額まで帳簿価額を減額し、減損損失を認識することとなります。回収可能価額は、資産又は資金生成単位の処分費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額を使用しております。
 使用価値の算定にあたっては、資産の残存耐用年数や将来のキャッシュ・フロー、割引率、成長率等について一定の仮定を設定しております。これらの仮定は、経営者の最善の見積りと判断により決定しておりますが、将来の事業計画や経済条件等の変化によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、翌年度以降の連結財務諸表において認識する金額に重要な影響を与える可能性があります。
 のれんの回収可能価額の算定方法及び感応度については、注記「14.のれん及び無形資産」に記載しております。

(2)退職後給付
 当社グループは、確定給付制度を含む様々な退職後給付制度を設けております。確定給付制度債務の現在価値及び関連する勤務費用等は、数理計算上の仮定に基づいて算定しております。
 数理計算上の仮定は、経営者の最善の見積りと判断により決定しておりますが、経済状況の変化による割引率や死亡率等の変化によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、翌年度以降の連結財務諸表において認識する金額に重要な影響を与える可能性があります。
 数理計算上の仮定及びそれに関連する感応度については、注記「20.従業員給付」に記載しております。
(以下略)

減損テスト : 減損の兆候の有無を評価し、兆候があれば帳簿価額と回収可能価額とを比較すること

見積り会計基準(案)は上述のとおり「開示レベル」を国際水準に合わせることを目的としており、有価証券報告書(有報)の「経理の状況」の記載内容に大きな影響を及ぼす。結果として、有報の他の開示項目とも密接な関係を有することになる。具体的には、2020年3月期から【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(以下「MD&A」)での記載が必須となる「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」(2019年3月22日のニュース『金融庁が「好事例集」と「開示原則」公表、記述情報充実に向けた環境整う』の表の一番下参照)、そして2021年3月期から監査報告書に記載されることとなるKAM(Key Audit Matters=監査上の主要な検討事項)である(2019年8月5日のニュース「KAMが導入された場合に予想される企業の負担」参照)。それぞれの適用時期、記載内容および三者の関係性をまとめたのが下表だ。

有報上の項目 MD&A
(重要な会計上の見積り及び
当該見積りに用いた仮定)
経理の状況
(重要な会計上の
見積りの開示)
監査報告書
(KAM)
適用時期 2020年3月期から 2021年3月期から
(2020年3月期から早期適用可能(予定))
2021年3月期から
(2020年3月期から早期適用可能)
開示内容 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「第5 経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報。 会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目について以下の内容
(1)当年度の財務諸表に計上した金額
(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
(詳細は上記参照)
監査上特に注意を払った以下の項目等で特に重要な事項
①特別な検討を必要とするリスク又は重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された領域
見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断
③ 当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響
他項目との関係性 記載すべき事項の全部又は一部を「第5 経理の状況」の注記において記載した場合には、その旨を記載することによって、当該注記において記載した事項の記載を省略することができる。 実質的にMD&Aに記載される内容と同一。両者の記載内容に矛盾がないようにする必要あり。 KAMに記載される事項は②会計上の見積りに関する事項に限られないためより範囲が広い。ただし、②の内容を記載するときは、MD&Aまたは経理の状況の会計上の見積りの開示を踏まえることになる。
KAMは、関連する財務諸表の注記事項がある場合にのみ参照を付すことになる。監査対象ではない財務諸表以外の情報を参照することはない。

三者の中で最も早く記載が強制されるのは、MD&Aに記載される「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」だが、当該MD&Aの記載に当たっては、今回公表された「見積り会計基準(案)」の内容を踏まえることが必要になろう。なぜなら、両者の記載内容は実質的に同一と考えられるからだ。また、2021年3月期から「経理の状況」で「重要な会計上の見積り」の開示が行われるようになれば、多くの企業はMD&Aから経理の状況を参照することが予想される。

企業にとって最も厄介なのは、2021年3月期から監査報告書に記載されるKAMだ。KAMの記載内容は会計上の見積りの領域に限られないが、会計上の見積りに関する事項がKAMとして記載される可能性は高い。このため、仮に会計上の見積りに関する事項のうち監査人がKAMに該当すると判断した事項について、企業が経理の状況の「重要な会計上の見積り」として開示していなかった場合、企業社側が重要な見積りと判断していなかった理由を株主に説明しなければならなくなる可能性がある(2019年8月5日のニュース「KAMが導入された場合に予想される企業の負担」参照)。

株主に対する説明は、当然ながら企業にとって負担になるため、可能な限り排除したいところ。経理の状況の「重要な会計上の見積り」、監査報告書の「KAM」は2021年3月期から強制されるが、三者の関係を踏まえると、取締役や監査役は、2020年3月期の有価証券報告書から記載が必須となるMD&A「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」の記載内容について、監査法人と十分な調整をしなければならないだろう。

2019/11/12 同一労働同一賃金時代における「住宅手当」「家族手当」

賃金が労働の対価であることは言うまでもないが、我が国の賃金制度には、労働の質や量との関係が必ずしも明確ではない「住宅手当」や「家族手当」といった各種手当が根付いてきた。外資系企業や新興企業を中心にこうした手当を支給しない(または既に廃止した)企業も増えてきてはいるが、いまだ民間企業のうち約52%が「住宅手当」、約78%が「家族手当」を支給している(人事院調べ「平成31年民間給与実態調査」の概要 67ページ」参照)。ただ、当たり前のように支給されてきたこれらの手当にも今後は「支給根拠」が求められることになる。周知のとおり、・・・

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2019/11/12 同一労働同一賃金時代における「住宅手当」「家族手当」(会員限定)

賃金が労働の対価であることは言うまでもないが、我が国の賃金制度には、労働の質や量との関係が必ずしも明確ではない「住宅手当」や「家族手当」といった各種手当が根付いてきた。外資系企業や新興企業を中心にこうした手当を支給しない(または既に廃止した)企業も増えてきてはいるが、いまだ民間企業のうち約52%が「住宅手当」、約78%が「家族手当」を支給している(人事院調べ「平成31年民間給与実態調査」の概要 67ページ」参照)。ただ、当たり前のように支給されてきたこれらの手当にも今後は「支給根拠」が求められることになる。周知のとおり、2020年(中小企業は2021年)4月1日からは「同一労働同一賃金」の名の下、正規労働者(正社員)と非正規労働者(有期雇用社員、パートタイマー、派遣社員等。以下、非正規社員)の間の不合理な待遇格差を設けることが禁止されるからだ()。逆に言うと、これらの手当を正社員にだけ支給している場合には、非正規社員に「支給しない根拠」が必要になる。

 これまで、有期雇用社員だけは現行の労働契約法で不合理な待遇差が禁じられてきたが(労働契約法第20条)、2020年4月1日からはこの規定を新設の「パートタイム・有期雇用労働法」8条に移管することでパートタイマーにも拡大し、また、労働者派遣法の改正により派遣労働者にも拡大する(ただし、改正労働者派遣法では、同一労働同一賃金を実現するための原則的手法である「派遣先均等・均衡方式」の他に、例外的手法である「労使協定方式」を認めており、多くの企業が後者を採用すると言われている(この点については、2019年8月8日掲載の(新用語・難解用語)「派遣先均等・均衡方式」【2019年8月の課題】自社にとってベストな「同一労働同一賃金」への対応の「同一労働同一賃金制度の下では派遣社員の賃金は上昇する」 参照)。

厚生労働省が2018年12月に公表した「同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)」には、各種手当を正社員にだけ支給している場合や非正規社員との間で金額に差をつけている場合などにおいて「問題になる例」と「問題にならない例」が多数示されているが、「住宅手当」「家族手当」(を含む複数の手当)については「労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる」とあるだけで、「問題になる例」「問題にならない例」が一切示されていない。このため、両手当については、今後各企業が、存廃を含めその在り方を検討しなければならない(3ページ「第2 基本的な考え方」6行目の「なお・・・」以降参照)。

コストの増加などを踏まえれば、一般論としては、経営陣がこれらの手当を非正規社員にも支給しようという発想にはなりにくいだろう。また、そもそも住宅手当は不公平感を生みやすいと言われており(例えば居住エリアによって家賃が異なる、実家住まいの人はもらえない、ルームシェアや事実婚などライフスタイルの変化に対応した支給基準の設定が難しいなど)、家族手当に至っては近年「女性の就労意欲を削いでいる」との指摘がある中、むしろこれらの手当の廃止を検討している企業も少なくないと思われる。

ただし、現在支給している住宅手当や家族手当を廃止し、支給を打ち切ることは「可能」ではあるものの、そう簡単なことではない。これは明らかな「労働条件の不利益変更」に該当するため、通常、まずは現在の支給対象者に個別に同意を取り(労働契約法8条)、その後、就業規則の変更により労働条件を変更する(労働契約法11条)という手順を踏むことになる。もちろん、社員(労働組合のある企業では労働組合)への丁寧な説明も欠かせない。また、これまで手当を支給していた者には、当面は「調整手当」等の名目で一定額を支給する激変緩和措置を講じる必要もあろう。

長年日本企業に定着してきた住宅手当や家族手当を廃止するということは、企業にとっても社員にとっても大きなパラダイムシフトと言えるが、これを「賃金とは何か?」という企業経営における根本的なテーマに改めて向き合い、場合によっては自社の賃金体系を見直す機会ととらえることもできよう。

2019/11/11 日本で助言内容のレビュー及びフィードバック制度導入の可能性も

米国証券取引委員会(SEC)は(2019年)11月5日、ISSやグラスルイスなど議決権行使助言会社が顧客に情報を提供する際に生じ得る利益相反リスクについて、開示の質を高めることを目的とする新たな規制案を公表した。助言会社は原則として投資家以外からは手数料や報酬を得ることはできないとし、特別な取引関係や実質的な利害関係がある場合にはその開示を求める。・・・

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2019/11/11 日本で助言内容のレビュー及びフィードバック制度導入の可能性も(会員限定)

米国証券取引委員会(SEC)は(2019年)11月5日、ISSやグラスルイスなど議決権行使助言会社が顧客に情報を提供する際に生じ得る利益相反リスクについて、開示の質を高めることを目的とする新たな規制案を公表した。助言会社は原則として投資家以外からは手数料や報酬を得ることはできないとし、特別な取引関係や実質的な利害関係がある場合にはその開示を求める。議決権行使助言会社が上場会社にコンサルティングサービスを展開しているケース(ISSは企業向けコンサルティングを提供するICSをグループ会社に持つ)、特定の投資家が議決権行使助言会社の大株主であるケース(グラスルイスの筆頭株主はカナダのオンタリオ州教職員年金基金である)などが問題視されたものと思われる。

また、投資家に対する助言内容に事実誤認が含まれていないか、上場会社サイドが確認できるよう、議決権行使助言会社からレビュー及びフィードバックを受ける機会を一定期間設ける(an opportunity for a period of review and feedback)。その目的としてSECは、議決権行使助言会社が提供する情報の正確性と透明性を高めることで、議決権行使助言の顧客である投資家による議決権行使判断の質を向上させることを挙げている。背景には、投資家に対する議決権助言会社の影響力が強まる中、仮に事実誤認に基づいた助言があった場合には上場会社の受ける不利益が無視できないという懸念がある。ただし、上場会社がこのレビュー&フィードバック制度を利用するためには、株主総会の25日以上前に株主総会招集通知などの関係書類を提供しなければならない。

本規制は今後60日間のパブリックコメント期間を経て確定する見通しだが、議決権行使助言会社のみならず、その顧客である機関投資家からも規制強化に対しては慎重な声が少なくないことから、原案通りの内容となるかどうかは不透明となっている。それでも大筋では規制強化の方向に進むことは間違いない。その結果、日本における議決権行使助言会社の活動にも影響を及ぼす可能性がある。

上場会社にとって特に注目されるのは、レビュー&フィードバック制度が日本でも導入されるのかという点だろう。また、導入されるとすれば「法規制」としてなのかあるいは「議決権行使助言会社による任意の制度」にとどまるのか、同制度を利用する条件として招集通知の早期提出などが求められるのか、という点も気になるところ。事実誤認に基づく反対推奨がされた場合におけるネガティブな影響は大きく、上場会社にとってその内容を事前にチェックできる機会を確保しておくことのメリットを考えれば、招集通知の提出スケジュールの前倒しは検討に値しよう。

もっとも、レビュー&フィードバックによって議決権行使助言会社の反対推奨を覆すことができるかと言えば、過剰な期待は禁物だろう。事実誤認とは言っても、例えば「過去5年平均のROEを5%未満と認識していたが単純な計算間違いだった」「ストックオプションの付与対象者から社外取締役を除く旨の記載を見落としていた」といった明らかな“間違い”でもなければ、いったん議決権行使助言会社が下した判断は変わらない可能性が高いからだ。日本でレビュー&フィードバック制度が導入されたとしても、上場会社としてはあくまでもリスクマネジメントの一つとして位置付けておくといった程度の向き合い方が無難と言えそうだ。

2019/11/10 【新任役員向けトレーニングプログラム】役員が知っておきたい主要会計基準の考え方(税効果会計Ⅱ)

概略

本講義では、貸倒引当金を例に税効果会計における繰延税金税金の回収可能性について会社区分ごとに丁寧に解説します。繰延税金税金の回収可能性は税引後利益に与える影響が大きい項目であるだけに、経理担当役員以外の役員も必ず知っておきたい知識の一つです。「役員が知っておきたい主要会計基準の考え方(税効果会計Ⅰ)」を受講してからの受講をお勧めします。

【講師】EY新日本有限責任監査法人 中谷 真久 公認会計士
【講義時間】29分53秒
【目次】
1 繰延税金資産の回収可能性とは
2 回収可能性の判断(企業の分類)
3 スケジューリング
4 経営に与える影響

セミナー資料 役員が知っておきたい主要会計基準の考え方(税効果会計Ⅱ).pdf(668KB)
セミナー動画

役員が知っておきたい主要会計基準の考え方(税効果会計Ⅱ)
newseminar47220

新任役員向けトレーニングプログラムの受講者は、資料名や講義画像をクリックすることで、
受講者限定コンテンツ(講義および資料)をご覧いただけます
(まだログインがお済みでない場合はログイン画面になります)。

※本トレーニングプログラムは、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員資格だけでは
ご利用できないオプションのサービスです。
上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員は、
本トレーニングプログラムを会員向けの割引価格(会員価格)でご利用できます。
上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員ではない方が、
本トレーニングプログラムのみを受講することもできます。
詳細は、下の「お申込み」ボタンを押してご確認ください。
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2019/11/10 役員が知っておきたい主要会計基準の考え方(税効果会計Ⅱ)

概略

本講義では、貸倒引当金を例に税効果会計における繰延税金税金の回収可能性について会社区分ごとに丁寧に解説します。繰延税金税金の回収可能性は税引後利益に与える影響が大きい項目であるだけに、経理担当役員以外の役員も必ず知っておきたい知識の一つです。「役員が知っておきたい主要会計基準の考え方(税効果会計Ⅰ)」を受講してからの受講をお勧めします。

【講師】EY新日本有限責任監査法人 中谷 真久 公認会計士
【講義時間】29分53秒
【目次】
1 繰延税金資産の回収可能性とは
2 回収可能性の判断(企業の分類)
3 スケジューリング
4 経営に与える影響

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2019/11/08 監査法人の交代プロセス

会計監査人(以下、適宜「監査法人」という)を変更した場合には臨時報告書でその理由を開示する必要があるが、最近は「監査報酬の値上げ」を理由に挙げる企業が多い(2019年9月26日のニュース「監査法人の交代理由開示、ガイドライン改正受け充実進むも残る課題」参照)。

下図は、2019年6月に会計監査人の異動があったケースについて、異動前・後の会計監査人の規模と監査報酬の増減を調査したもの。これを見ると、大手から中小に会計監査人が変更された場合には、8割超のケースで監査報酬が減少していることがわかる。・・・

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2019/11/08 監査法人の交代プロセス(会員限定)

会計監査人(以下、適宜「監査法人」という)を変更した場合には臨時報告書でその理由を開示する必要があるが、最近は「監査報酬の値上げ」を理由に挙げる企業が多い(2019年9月26日のニュース「監査法人の交代理由開示、ガイドライン改正受け充実進むも残る課題」参照)。

下図は、2019年6月に会計監査人の異動があったケースについて、異動前・後の会計監査人の規模と監査報酬の増減を調査したもの。これを見ると、大手から中小に会計監査人が変更された場合には、8割超のケースで監査報酬が減少していることがわかる。

<会計監査人異動後の監査報酬の状況> (出所:公認会計士・監査審査会)

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監査法人の異動およびそれに伴う監査報酬減少の背景には、相次ぐ不正会計をきっかけに監査法人側から「監査工数を増やしたい」として監査報酬の値上げを打診されるケースが増えているという事情があるが、不正を疑われる筋合いが一切ない企業にとっては、他社の不正を原因とする監査報酬の値上げには納得できないところだろう。とはいえ、結果的に監査法人を変更することとなった場合、その理由が単に「監査報酬の値上げに納得できなかったから」というだけでは、投資家を納得させるには不十分だ。

コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)では、上場会社に対し「適正な監査の確保に向けて適切な対応を行う」ことを求めており(原則3-2)、そのために、取締役会及び監査役会は、高品質な監査を可能とする十分な監査時間を確保しなければならないとされている(補充原則3-2②(i))。

【原則3-2.外部会計監査人】外部会計監査人及び上場会社は、外部会計監査人が株主・投資家に対して責務を負っていることを認識し、適正な監査の確保に向けて適切な対応を行うべきである。
【補充原則3-2②】 取締役会及び監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。
(ⅰ) 高品質な監査を可能とする十分な監査時間の確保

同程度の規模の同業他社に比べて監査報酬が低い(≒監査時間が少ない)と、「十分な監査が行われていないのではないか」といった疑念を投資家から持たれる可能性がある。これを避けるためには、監査法人を変更した場合、企業は監査報酬がリスクに見合った水準であることや、監査法人が業務遂行に必要な人員・品質管理体制を確保していることなどについて、投資家に対して納得感のある説明を行う必要がある。

監査法人の変更にあたっては、監査役や監査役会が果たす役割も大きい。CGコード原則4-4では、監査役・監査役会は、外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使に際し、独立した客観的な立場で適切な判断を行うことを求めている。

【原則4-4.監査役及び監査役会の役割・責務】監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。また、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。

監査法人を変更する場合には、1年間程度の準備期間をかけて交代のプロセスを進める企業もある一方、監査報酬に関する交渉の途上で、急遽変更に向けた検討を開始する企業も少なくない。ただ、監査法人を変更した場合、これまでの監査法人であれば説明を要しなかった事項について、新たな監査法人には改めて説明する手間がかかるなど、企業側の監査対応コストの増加も無視できない。したがって、監査法人の変更に向けて十分な準備期間を確保し・体制整備を行うことが、変更に伴う混乱・支障を最小限に抑えることにつながると言える。特に事業規模が大きな企業にあってはなおさらだろう。

3月決算、監査役会設置会社が監査法人を変更する場合のプロセスの例は下表のとおり。新たな監査法人を正式に選任する前の年度の期末監査において、当該選任予定の監査法人がシャドーイング(前任の監査法人が退任する最終年度について、引継ぎのために後任の監査法人が並行的に調査を行うこと)を行うことが最近の傾向である。また、監査法人の変更に際しては、1年間は、退任予定の監査法人と新たに選任された監査法人との「共同監査体制」とするのが理想と言える。監査法人の変更を考える上場企業は参考にされたい。

年月 企業(監査法人)の対応
X-1年6月 監査法人交代の検討を開始
7~8月 監査役会において選定基準や評価項目を議論したうえで、複数の監査法人に対してプロポーザルを依頼
7~8月 監査役会において選定基準や評価項目を議論したうえで、複数の監査法人に対してプロポーザルを依頼
10~11月 各監査法人からの提案内容を比較検討
12月 監査役会において選任とする監査法人を暫定的に決定
X年1~2月 (監査法人側での受嘱審査)
3月 監査役会において会計監査人選任議案を決定し、6月株主総会において新たな会計監査人を選任
4~6月 (新監査法人が期末監査においてシャドーイングを行う)

2019/11/07 【2019年10月の課題】1/3の独立役員を求める投資家への対応(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

経営トップ選任議案への賛成率が大きく下落

本年(2019年)株主総会における特徴の一つが、経営トップの選任議案に対する賛成率の低下です。【表1】は、本年6月総会における取締役選任議案の平均賛成率をまとめたものです。社外取締役への賛成率が前年比でわずかに上昇した一方、社内取締役への賛成率は低下し、特に経営トップ(会長・社長)への賛成率が大きく下落しています。

【表1】本年6月総会における取締役選任議案の平均賛成率(対象は東証一部上場企業)

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経営トップの選任議案への反対行使は、経営トップ自身の資質や能力の不足を要因とするものよりも、会社全体の経営やガバナンスに対する機関投資家の意思表示であることが多く、その具体的な理由は多岐にわたりますが、本年は特に取締役会に占める独立役員の割合を問題視した海外機関投資家による反対行使が多かったと推測されます。

【表2】は、社外取締役の割合が1/3未満の企業における経営トップへの賛成率を前年と比較したものです。なお、いわゆるROE基準による反対の影響をなるべく除外するため、議決権行使助言会社最大手のISSが設定するROE基準(5年平均5%未満かつ直近5%未満)に抵触する企業を除いて分析しています。この調査結果によると、社外取締役の割合が1/3未満の企業の経営トップへの賛成率は相当程度低下しており、なかでも外国人株主比率が高い企業においては大きく下落していることが分かります。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本) 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

【表2】社外取締役の割合が1/3未満の企業における経営トップへの賛成率

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・社外取締役の比率が1/3未満の企業における取締役選任(会長・社長)議案を対象としている
・会長と社長が両方とも選任されている場合、会長を選択している
・ISSのROE5%基準に抵触している企業は除外している

ISSは本年2月から、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社について、取締役会に占める社外取締役の割合が1/3未満の場合、経営トップの選任議案に反対するというガイドラインの適用を開始しました。さらには、独自のガイドラインに基づき、機関設計に関わらず1/3の独立役員の選任を求める機関投資家も増加しており、これらが経営トップへの賛成率低下に影響を及ぼしたものと考えられます。

国内機関投資家については、本年6月総会時点で1/3基準の設定は限定的でしたが、三菱UFJ信託銀行が「全ての上場企業」を対象に来年(2020年)から導入することを公表しているほか、三井住友トラスト・アセットマネジメントは、本年から指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社に対して1/3の独立社外取締役選任を求めており、さらに「将来的には上場企業()においては、取締役の1/3以上が独立社外取締役で占められることが望ましい」との考えを明らかにしています。

 監査役設置会社も含む全上場企業
投資家ごとに異なる「1/3」の算定方法

「1/3の独立役員」を求める投資家への対応を検討するにあっては、当然ながらまずは自社が「1/3基準」を満たしているかどうかを把握する必要があります。その際には、「1/3」の具体的な算定方法が機関投資家によって異なることに注意が必要です。機関投資家の考え方は大きく以下の3つに分類されます。

①分母を「取締役の人数」、分子を「社外取締役の人数」として計算
②分母を「取締役の人数」、分子を「独立性のある社外取締役の人数」として計算
③分母を「取締役と監査役の合計人数」、分子を「独立性のある社外取締役と社外監査役の合計人数」として計算

①は、一定割合の社外取締役の選任を求める考え方です。独立性は問わず、あくまで社外取締役の人数をベースとしたシンプルな算定方法であるため、機関投資家と企業の間で認識の齟齬が生じる余地は小さいと言えます。三菱UFJ信託銀行の考え方はこの①に該当します。

②は、一定割合の「独立社外取締役」を求めるものです。①との違いは、社外取締役であるだけでは足りず、「独立性」も要求するという点です。独立性の有無については各機関投資家が独自の基準に基づき判定するため、機関投資家と企業の間で、あるいは機関投資家ごとに判断が異なる場合があります。1/3基準を導入する海外機関投資家の多くが②の考え方をとっています。

また、ISSは2020年2月から、上場子会社に対して、取締役会に独立性のある社外取締役が「1/3以上」いることを求め、これらの基準を満たさない場合には、経営トップ(指名委員会等設置会社の場合は、経営トップに加え指名委員である取締役)の選任議案に反対推奨する見込みとなっています。(2019年10月15日のニュース『ISS、上場子会社に社外取締役比率「3分の1」基準導入へ』参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。

③は、議決権行使助言会社のグラスルイスが採用する考え方です。取締役のみならず監査役も含めて1/3基準を判定するという点が特徴的です。監査役設置会社の場合、会社法上、全監査役のうち半数以上は社外監査役である必要があるため、監査役を含めて計算した方が社外役員の割合が大きくなるのが一般的です。ただし、ここでも単に社外役員であることのみならず独立性が要求されることには注意が必要です。

「1/3基準」を満たしていない場合における機関投資家との対話

現状、自社が「1/3基準」を満たしておらず、また、来年の株主総会を経ても満たすこと(上記①~③のいずれの「1/3基準」を満たすことが求められるかは機関投資家による)が困難であると見込まれる場合、機関投資家と対話を行うことが考えられます。企業側からは「機関投資家の議決権行使は機械的である」との批判も聞かれますが、例えば三菱UFJ信託銀行は社外取締役の割合について、「個々の企業の置かれている状況は様々であり、企業価値向上を可能とするコーポレートガバナンス体制は一律ではない」とした上で、「各企業において望ましいガバナンス体制の在り方を検討頂き、あるべきガバナンス体制について対話をさせて頂きたいと考えております」との方針を公表しています。こうした機関投資家の姿勢を見る限り、「1/3基準」については対話の余地は十分あるものと考えられます。

機関投資家との対話にあたり企業がとりうる立場は大きく以下の2つに分かれます。

①自社では1/3以上の独立社外取締役を選任するのが望ましいと考えている(しかし現時点では実現していない)
②そもそも自社には1/3の独立社外取締役選任は不要と考えている

上記①の「望ましいが実現できていない」場合においては、候補者を探しているものの、今のところ適任者を見つけられていないという説明があり得ます。ただし、その際には、自社としてはどのような社外取締役が望ましいと考えているかについて、具体的に示す必要があります。現任の取締役のスキル・マトリックス(取締役の能力や経験を一覧にしたもの)を作成し、今後強化したい分野を説明してくことなども有用と考えられます(スキル・マトリックスについては、2018年11月16日のニュース『スキル・マトリクス、「ガバナンス」の項目で開示する企業も』参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。

また、社外取締役を増やすのではなく、社内取締役を減らすことによって1/3基準を満たすという考え方もあります。一般的に、取締役の人数を抑え、取締役会から業務執行者等への権限移譲を進めていくという方向性は機関投資家から理解を得られやすいと言えます。ただし、この場合、なぜすぐに減員することが難しいのか、いつ頃1/3基準の実現を目指しているかなどの説明は必要になるでしょう。

②の「自社には1/3の独立社外取締役選任は不要」という立場をとる場合、例えば「自社の取締役会はモニタリングボードというよりはマネジメントボードであり、社内の業務に詳しい者を中心に構成する方が実態に即している」といった説明があり得ます。ただし、一般的に機関投資家は独立社外取締役による「監督」(モニタリング)への期待が大きく、こうした説明で理解を得るのは困難であることが多いと思われます。むしろ、形式的に1/3基準は満たしていなくとも実態としてガバナンスは機能しているといった説明の方が受け入れられやすいと考えられます。例えば「社内取締役であるものの非業務執行の役員がおり、経営トップ等に対する監督の役割を担っている」、あるいは「監査役を含めてガバナンス体制を構築しており、取締役会においても独立社外監査役が積極的に発言している」などの説明が想定されます。

モニタリングボード : 重要な業務執行の「決定」ではなく、その「監督」を目的とした取締役会のこと。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム
マネジメントボード : 重要な業務執行の「決定」を目的とした取締役会のこと。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

コーポレートガバナンス・コードへの対応状況と対話内容の矛盾に要注意

①、②のいずれの立場をとるにしてもコーポレートガバナンス・コード(以下、CGC)との関わりが密接な分野であることを念頭に置く必要があります。

例えばCGC原則4-8は、上場会社は少なくとも2名以上の独立社外取締役を選任すべきであると規定するとともに「3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべき」としています。したがって、①の「望ましいが実現できていない」場合には、対話の内容が当該原則に係る開示や説明と矛盾しないよう留意する必要があります。例えば、機関投資家との対話では「当社では3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考えている」と説明をしているにもかかわらず、現状では「3分の1以上」に達していないとすれば、2名の独立社外取締役がいたとしても、CGC原則4-8の「3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべき」という部分に抵触し、同原則を「エクスプレイン」しなければならなくなる可能性があります。
また、CGC補充原則4-11①は「取締役会全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方」を開示すべきと定めており、既に多くの企業がコーポレートガバナンス報告書において、取締役会の規模や社外役員の割合について言及しています。機関投資家との対話の過程において改めて自社の考え方を整理するとともに、必要に応じてコーポレートガバナンス報告書の記載を見直すことも有用であると考えられます。