2019/11/19 「デジタル・プラットフォーマー」に対する独禁法運用案の3つの問題点

デジタル経済は人間の生活を劇的に便利したが、その一方で、ある種の“怖さ”を感じることもあるのではないだろうか。その一つが個人情報の流出だ。デジタル経済は膨大な個人情報によって成り立つ。例えば、あるITサービスを利用するために、個人情報の提供を求められることも多い。

こうした中、公正取引委員会(以下、公取)は今年(2019年)8月29日に「デジタル・プラットフォーマーと個人情報を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」(本案)と題するペーパーを公表したところ。本案では、「消費者がデジタル・プラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても,消費者がサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合は,当該デジタル・プラットフォーマーは消費者に対して優越した地位にあると認定する」としている(本案の概要の「具体的考え方 1. 優越的地位の認定」参照)。要するに本案は、デジタル・プラットフォーマーが、不公正な手段で個人情報等を取得又は利用することで、消費者に不利益を与えるとともに、公正な競争に悪影響を及ぼす場合に、「対消費者」との関係で独占禁止法の優越的地位の濫用の規律を適用できることを明確にしたものと言える。

優越的地位の濫用 : 自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為のこと。この行為は、独占禁止法により、不公正な取引方法の一類型として禁止されている。

一方、産業界からは本案に対し、「規律が及ぶ主体や取引などが極めて不透明」などとして、コンプライアンス・リスクを懸念する声が上がっている。具体的には以下の3点である。・・・

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2019/11/19 「デジタル・プラットフォーマー」に対する独禁法運用案の3つの問題点(会員限定)

デジタル経済は人間の生活を劇的に便利したが、その一方で、ある種の“怖さ”を感じることもあるのではないだろうか。その一つが個人情報の流出だ。デジタル経済は膨大な個人情報によって成り立つ。例えば、あるITサービスを利用するために、個人情報の提供を求められることも多い。

こうした中、公正取引委員会(以下、公取)は今年(2019年)8月29日に「デジタル・プラットフォーマーと個人情報を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」(本案)と題するペーパーを公表したところ。本案では、「消費者がデジタル・プラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても,消費者がサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合は,当該デジタル・プラットフォーマーは消費者に対して優越した地位にあると認定する」としている(本案の概要の「具体的考え方 1. 優越的地位の認定」参照)。要するに本案は、デジタル・プラットフォーマーが、不公正な手段で個人情報等を取得又は利用することで、消費者に不利益を与えるとともに、公正な競争に悪影響を及ぼす場合に、「対消費者」との関係で独占禁止法の優越的地位の濫用の規律を適用できることを明確にしたものと言える。

優越的地位の濫用 : 自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為のこと。この行為は,独占禁止法により、不公正な取引方法の一類型として禁止されている。

一方、産業界からは本案に対し、「規律が及ぶ主体や取引などが極めて不透明」などとして、コンプライアンス・リスクを懸念する声が上がっている。具体的には以下の3点である。

(1)「デジタル・プラットフォーマー」とは?
まずは、本案が対象にする「デジタル・プラットフォーマー」の射程が分かりにくいというものだ。

本案では、情報通信技術やデータを活用して第三者にサービスの「場」を提供し、そこに異なる複数の利用者層が存在する多面市場を形成する者を「デジタル・プラットフォーム」と定義している。しかし、現在の定義は漠然としすぎており、相当幅広く解釈することが可能となっている。例えば、デジタルを使ったサービスを提供するB to Cビジネスを行っているあらゆる事業者が対象となるようにも読める。

このため産業界からは、「デジタル・プラットフォーマー」を適切に定義付けすることで、対象が限定・明確化されることを望む声が上がっている。

(2)「優越的地位」とは?
「優越的地位」に該当するかどうかの基準も不明確だ。

本案では、その判断基準として、①消費者にとって、代替的なサービスが存在しない場合、②代替的なサービスが存在していたとしても、デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスの利用を止めることが事実上困難な場合、③デジタル・プラットフォーマーが、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合―――には、「消費者に対する」優越的地位が認められるとされる。

しかし、①~③に該当するかどうかは、消費者の置かれている状況に依存するという問題がある。様々な消費者が存在する中で、公取が一体どのような基準で「優越的地位」にあるかを判断するのか、産業界からは不安の声が上がっている。公取が恣意的な判断を行えば、事業者は突如として「独禁法違反」として摘発されかねず、そうなれば新たなビジネス展開の支障となる。

また、③の基準に至っては、あらゆるB to Cビジネスが該当するようにも読めるため、産業界からは「判断規準としては“お粗末”と言わざるを得ない」との声も上がっている。

(3)「優越的地位の濫用となる取引」とは?
優越的地位の濫用となる事例についても不明確な内容が多い。
 
本案で挙げられている事例の中には「利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること」「個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること」といった、個人情報保護法違反そのものと考えられる事例も多く、個人情報保護法と独占禁止法の両方で規律する意義が不明である。

一方で、個人情報保護法を超える規律を求めていると考えられる事例も見受けられる。例えば、「消費者がサービスを利用せざるを得ないことから、個人情報をターゲティング広告に利用することにやむを得ず同意した場合には、当該同意は消費者の意に反するものと判断されるものと判断される場合がある」とあるが、「やむを得ず」同意したかどうかという“個人の内心”に基づいて濫用行為があったかどうかを決めるのは客観性に欠け、企業の予見可能性が損なわれてしまう。

ターゲティング広告 : クッキー(ウェブサイトがブラウザ(MicrosoftのInternet Explorer、グーグルのChromeなど、パソコンやスマートフォン等でウェブサイトを閲覧するためのソフト)に各種情報を保存するための仕組み)に蓄積されるユーザー情報(例えばログイン情報や、ウェブサイトの閲覧履歴等)等を分析して、各ユーザーに適切な情報を表示する広告のこと。

今後、公取では、パブコメ(既に9月30日で締め切られている)に寄せられた意見を踏まえ、本案をブラッシュアップすることになっている。産業界からは大幅な見直しを期待する声も聞かれる。本案からの大きな変更等があれば続報したい。

2019/11/18 有報「その他の記載内容」への監査人の関与強化策導入の影響

有価証券報告書の中で独立監査人(以下、「監査人」あるいは「監査法人」という)が監査の対象とするのは(連結)財務諸表であり、それ以外の例えば【事業の状況】の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】、【事業等のリスク】、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】といったいわゆる「その他の記載内容」(監査した財務諸表を含む開示書類全体における、財務諸表および監査報告書以外の記載内容)については監査の対象外とされている。

もっとも、監査人は(連結)財務諸表しか見ていないのかというとそうではない。現行の監査基準上、財務諸表の表示と「その他の記載内容」の間に重要な相違があればそれを監査報告書に追記しなければならないことから、監査人は監査対象ではない「その他の記載内容」を通読して、財務諸表の表示との重要な相違がないかを確認()している。ただ、そのような確認作業を行ったことは監査報告書上明らかにされていない。そのため、投資家の多くはそのような監査実務が行われていること自体知り得ない上、現行監査基準にはこの確認作業を「どういった手続きで」「どれほどの工数を割いて」行うのかの基準もないため、監査法人内の担当者によって確認作業のレベル感も異なるのが現状だ。

 財務諸表と「その他の記載内容」の間に重要な相違があるということは、財務諸表か「その他の記載内容」のどちらかが虚偽記載である可能性がある。そのため、監査人は、「その他の記載内容」が監査報告の対象外だからと言って、まったく目を通さないわけにはいかず、通読して財務諸表と「その他の記載内容」の間に重要な相違があるかどうかを確認するようにしている。

そこで、・・・

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2019/11/18 有報「その他の記載内容」への監査人の関与強化策導入の影響(会員限定)

有価証券報告書の中で独立監査人(以下、「監査人」あるいは「監査法人」という)が監査の対象とするのは(連結)財務諸表であり、それ以外の例えば【事業の状況】の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】、【事業等のリスク】、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】といったいわゆる「その他の記載内容」(監査した財務諸表を含む開示書類全体における、財務諸表および監査報告書以外の記載内容)については監査の対象外とされている。

もっとも、監査人は(連結)財務諸表しか見ていないのかというとそうではない。現行の監査基準上、財務諸表の表示と「その他の記載内容」の間に重要な相違があればそれを監査報告書に追記しなければならないことから、監査人は監査対象ではない「その他の記載内容」を通読して、財務諸表の表示との重要な相違がないかを確認()している。ただ、そのような確認作業を行ったことは監査報告書上明らかにされていない。そのため、投資家の多くはそのような監査実務が行われていること自体知り得ない上、現行監査基準にはこの確認作業を「どういった手続きで」「どれほどの工数を割いて」行うのかの基準もないため、監査法人内の担当者によって確認作業のレベル感も異なるのが現状だ。

 財務諸表と「その他の記載内容」の間に重要な相違があるということは、財務諸表か「その他の記載内容」のどちらかが虚偽記載である可能性がある。そのため、監査人は、「その他の記載内容」が監査報告の対象外だからと言って、まったく目を通さないわけにはいかず、通読して財務諸表と「その他の記載内容」の間に重要な相違があるかどうかを確認するようにしている。

そこで、金融庁に設置されている企業会計審議会・監査部会では、「その他の記載内容」への監査人の関与を監査基準で明文化する案が検討されている。具体的には、「財務諸表の表示および監査人が監査の過程で得た知識」と「その他の記載内容」との間に重要な相違がないかなどについて検討を行い、その結果を監査報告書に記載する旨を監査基準に明記する(監査報告書への記載内容については後述)。いわゆる「記述情報」など財務諸表以外の開示の充実(記述情報の充実については2019年3月22日のニュース『金融庁が「好事例集」と「開示原則」公表、記述情報充実に向けた環境整う』参照)が進む中で、「その他の記載内容」に対する監査人の関与を強めることで、監査の対象となった財務諸表の信頼性を確保するのが目的だ。既に国際監査基準(以下、ISA)720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」では同様の改正を実施済みであり、日本でもISA720の改正に対応するため、監査基準を改正する必要が生じていた。

国際監査基準 : 国際会計士連盟(IFAC)のなかにある国際監査・保証基準審議会(IAASB)が策定する国際的な監査の基準。International Standards on Auditingを略し、ISAと称されている。

上記の「監査人が監査の過程で得た知識」としては、「監査人がリスク評価において入手した企業及び企業環境に関する情報、あるいは資産の減損テストのときに将来キャッシュフローの見積りを検討したときに入手した将来の事業計画とか、セグメントごとのビジネスモデルなど」「継続企業の前提の評価のときに入手した情報」「取締役会等の重要な会議の議事録を読む過程で得た知識」などが例示されている(2019年5月21日に開催された第44回企業会計審議会監査部会における住田委員の発言より引用)。

また、「財務諸表の表示や監査人が監査の過程で得た知識に関連しない内容」についても、監査人は重要な誤りの兆候について「注意を払う()」ことが求められる方針。

 ISA720では「その他の記載内容」と「財務諸表の表示および監査人が監査の過程で得た知識」との間に重要な相違があるか否かは「intelligent read」(一定の知識がある者が通読すること)で臨むことが求められており、さらに、「その他の記載内容」と「財務諸表の表示や監査人が監査の過程で得た知識に関連しない内容」との間に重要な相違があるか否かは「remain alert」(「注意して読む」というニュアンス)で臨むことが求められている(第44回の監査部会の住田委員の発言より)。

その上で、監査報告書に「その他の記載内容」という区分を設け、監査人に次の項目の記載を求める方針。

・対象となる「その他の記載内容」
・「その他の記載内容」に対する監査人の責任
・「その他の記載内容」に対する監査人の手続
・「その他の記載内容」について監査人が報告すべき事項の有無、 報告すべき事項がある場合はその内容

なお、ここでいう「その他の記載内容」は、あくまで「監査した財務諸表を含む開示書類内の情報」に限定され、当該開示書類外の情報(たとえば任意開示の統合報告、サステナビリティ報告など)は含まれない。また、対象とする監査報告書は、金融商品取引法監査では有価証券報告書と有価証券届出書に添付されるものに限定する方針。会社法の計算書類に添付される監査報告書を対象とするかどうかは、会社法上の監査報告書日以後に「その他の記載内容」が記載された事業報告を入手するケースもあることから、そもそも対象とするかどうか今後議論する。

「その他の記載内容」への監査人の関与強化は2022年3月期から予定されている。2020年3月期に経営戦略等の記述情報が拡充され、2021年3月期にすべての対象会社の監査報告書に監査上の主要な検討事項(KAM)が記載されることとなることを踏まえたタイミングでの導入となる(経営戦略等の記述情報の拡充については2019年2月22日のニュース「事業等のリスク、取締役会での議論が必須に」、KAMの導入については2019年8月5日のニュース「KAMが導入された場合に予想される企業の負担」参照)。

では、この監査基準の改正により、企業や投資家にはどのような影響があるのだろうか。まず、監査人による検討結果が監査報告書に明確に記載されることにより、「その他の記載内容」に対する監査人の手続等の明確化が図られる効果は期待できよう。ただし、これは同時に企業にとって監査対応コストの増加を招きかねない点には留意が必要だ。というのも、「その他の記載内容」への監査人の関与を明確にする監査基準の改正案は「財務諸表の監査意見を形成するために要求される以上の監査証拠の入手を求めるものではない」ということを建前としているが、実際のところ、それが「財務諸表の監査意見を形成するために要求される以上の監査証拠」に該当するか否かの線引きは明確ではない。そのため、監査人が「その他の記載内容」を通読するにあたり、現状では企業に対してエビデンスの提出を求めないような個所にまで、「念のため」エビデンスの提出を求める機会が増える可能性があり、これは監査対応コストの増加につながるからだ。

また、監査基準改正後も監査意見が保証する対象は財務諸表であることには変わりはなく、監査人が「その他の記載内容」について何らかの保証を提供するようになるわけではないものの、監査人が「その他の記載内容」の確認作業の結果を監査報告書に記載することで、投資家が「『その他の記載内容』についても監査人が保証をしてくれている」と誤解するようになる可能性も否定できない。

さらに、企業会計審議会監査部会では、「有価証券報告書の記述情報の充実に向けた取組みが進められている中で、 監査人によるチェックを強化すると、企業の創意工夫や独自性が損なわれるおそれがあるのではないか」という点も懸念材料として指摘されている。裏を返せば、監査人側にも、記述情報における企業側の創意工夫・独自性を尊重した改正監査基準の運用が求められると言えよう。

2019/11/15 野村AM、社外取締役の「1/3基準」を限定的に導入

今やほとんどの国内機関投資家が議決権行使基準を公表しているが、改定版の議決権行使基準を公表するのは毎年6月の株主総会シーズンを控えた4月頃となっている。こうした中、他の国内機関投資家に先がけ、野村アセットマネジメントは・・・

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2019/11/15 野村AM、社外取締役の「1/3基準」を限定的に導入(会員限定)

今やほとんどの国内機関投資家が議決権行使基準を公表しているが、改定版の議決権行使基準を公表するのは毎年6月の株主総会シーズンを控えた4月頃となっている。こうした中、他の国内機関投資家に先がけ、野村アセットマネジメントは11月1日、「日本企業に対する議決権行使基準」の改定版を発表している。野村アセットマネジメントは例年いち早く「年内」のタイミングで改定に踏み切っている。上場会社にとっては、同社とのエンゲージメントの際、既に確定した最新の議決権行使基準を前提にできるため、より具体的かつ実質的な議論が可能となるという点、大きなメリットと言えよう。

今回の改定の主なポイントとして、野村アセットマネジメントは下表の4点を挙げている。

内容 改定前 改定後
①社外取締役の人数について、最低限の水準を引上げ ・2名以上
支配株主のいる会社は、ROEが8%以上の場合を除き、1/3以上
・監査役設置会社は2名以上
・取締役の人数が12名を超える場合は3名以上
・支配株主がいる場合、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は1/3以上
②株式報酬の希薄化に関する要件を緩和 希薄化率5%超の場合に反対 社外取締役が過半数又は独立性のある報酬委員会が整備されている場合のみ、希薄化率10%超の場合に反対
③取締役選任を求める株主提案を会社提案と同列に判断 ・会社提案による候補者が適切な場合は会社提案に賛成
・上記の場合、株主提案に反対
会社提案と株主提案を同列に判断
④企業再編・資本政策を判断する要因として、少数株主保護の重要性が高い旨を明記 特に経済的条件(プレミアムなど)や受け取る対価の適正性を重視 特に少数株主との利益相反の可能性、少数株主の利益保護の取り組みを重視

支配株主 : 必ずしも一律の定義はないが、東証の上場規則では、議決権の50%超を有している者や議決権の40%以上を有している者で、かつ、取締役の過半数を派遣していたり重要な財務および事業の方針の決定を支配する契約書が存在していたりする者を指す(東証 有価証券上場規程施行規則3条の2)。「支配株主」以外を「一般株主」という。ちなみに、上場会社の支配株主自体も上場しているケースが「親子上場」である。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)
希薄化率 : 希薄化とは「1株当たりの価値」が下がることであり、発行済株式数の増加により起こる。どれくらい希薄化したかを示す「希薄化率」とは発行済株式数の増加率のことであり、「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存株主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が5%未満」等、一定の水準を設けている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。
プレミアム : 株式の時価や発行額が額面金額を上回る場合における、当該超過金額のこと

多くの上場会社に影響を及ぼすとみられるのは、①の社外取締役の人数要件だろう。グローバルな資本市場の考え方と同様、日本の上場会社に「1/3基準」を課そうとする動きが年々強まっており、これが野村アセットマネジメントの議決権行使基準にも影響を及ぼしたと言える。なお、三菱UFJ信託銀行は2019年の議決権行使基準公表時に、2020年からはガバナンス体制に関わらず1/3の社外取締役を必要とすることを予告している(2019年までは2名。【2019年10月の課題】1/3の独立役員を求める投資家への対応 参照)。

本年2月から、委員会型のガバナンス体制をとる上場会社(指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社)に対し、先行的に「1/3基準」を求めてきたのが、議決権行使助言会社最大手のISSおよび三井住友トラストアセットマネジメントだ。ISSの基準は2019年2月から導入され、6月の株主総会シーズンにおける外国人投資家の反対率増加に直結した。三井住友トラストアセットマネジメントの基準には「ROEが上場会社の75%タイルに含まれていれば賛成という“救済条件”が付されているが、今後公表される2020年向け議決権行使基準において当該救済条件が維持されるかは現時点では不明となっている。また、大手の外国人投資家の中では、ステートストリート・グローバルアドバイザーズがガバナンス体制に関わらず1/3基準を導入済み。同社の1/3基準はTOPIX500企業が対象ではあるが、これも2020年において引き続き維持される保証はない(対象範囲が拡大される可能性がある)。

タイル : データを小さい順に並べた場合に、例えば小さい方から数えて全体の75%に位置する値を75%タイルという。75%パーセンタイルは「第三四分位数」ともいわれる。25パーセンタイルは「第一四分位数」、50パーセンタイルは中央値を指す。

足元で1,000社に迫っている監査等委員会設置会社(東証コーポレートガバナンス情報サービスによると、11月15日時点で999社)のうち、社外取締役が3人以下の会社は実に7割近くに達しており、これらの多くは1/3基準を満たしていないものと想定される。国内外の機関投資家が今後、野村アセットマネジメントの影響を受けて議決権行使基準の厳格化に雪崩をうって転じるようなことがあれば、経営トップの選任議案が当落線上まで降下する監査等委員会設置会社が出てくるかもしれない。社外取締役の増員か取締役会の縮小、いずれかの検討を急ぐ必要があろう。

2019/11/14 株主提案議案の賛成率、3つの“防衛ライン”

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

本年(2019年)の株主総会の特徴として「過去最多の株主提案」が挙げられることがある。ただし、実際に本年6月に開催された東証一部上場企業の定時株主総会を対象に株主提案をカウントしてみると、その数は123議案に上るものの、実はこの「議案数」は過去最多ではない。一方、提案を受けた「企業数」は37社であり、これは確認できる範囲で「過去最多」である。現行の会社法では、「提案の数」に関する制限がなく、一人の株主が多数の議案を提案することも可能であるため、「議案数」は変動しがちなことを踏まえると、「企業数」の方がより全体的な傾向を表していると言えるだろう。

【図表】株主提案の件数と企業数の推移(東証一部の6月総会)

47317

株主提案を受けた企業としては、その賛成率をなるべく低水準にとどめたいと思うのが一般的だろう。では、その具体的な水準としてはどのようなものが考えられるだろうか。本年の株主提案の議案の種類として最も多かった定款変更議案を例に検討してみよう。

まず、“絶対防衛ライン”とも位置づけられるのが・・・

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2019/11/14 株主提案議案の賛成率、3つの“防衛ライン”(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

 
本年(2019年)の株主総会の特徴として「過去最多の株主提案」が挙げられることがある。ただし、実際に本年6月に開催された東証一部上場企業の定時株主総会を対象に株主提案をカウントしてみると、その数は123議案に上るものの、実はこの「議案数」は過去最多ではない。一方、提案を受けた「企業数」は37社であり、これは確認できる範囲で「過去最多」である。現行の会社法では、「提案の数」に関する制限がなく、一人の株主が多数の議案を提案することも可能であるため、「議案数」は変動しがちなことを踏まえると、「企業数」の方がより全体的な傾向を表していると言えるだろう。

【図表】株主提案の件数と企業数の推移(東証一部の6月総会)

47317

株主提案を受けた企業としては、その賛成率をなるべく低水準にとどめたいと思うのが一般的だろう。では、その具体的な水準としてはどのようなものが考えられるだろうか。本年の株主提案の議案の種類として最も多かった定款変更議案を例に検討してみよう。

まず、“絶対防衛ライン”とも位置づけられるのが「66%」である。定款変更議案は2/3の賛成をもって可決するため、まずは念頭に置くべき数字である。

次に想定されるラインが「20%」である。コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)補充原則1-1①は、相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合にはその原因分析などを行うことを求めている。「相当数の反対」の具体的な水準は定められていないものの、英国CGコードに定められている「20%」を目安とする企業も多い。株主提案議案については同様の規定はないものの、本コードの趣旨に鑑みると、20%以上の賛成を受けた株主提案議案は取締役会で議論の対象とすることが望ましいと考えられる。

もう一つのラインが「50%」である。仮に可決に至らないとしても、やはり過半数の賛成を得たという意味合いは大きいと考えられる。また、議決権行使助言会社最大手ISSの議決権行使助言方針には、「少数株主にとって望ましいと判断される株主提案が過半数の支持を得たにもかかわらず、その提案内容を実行しない、あるいは類似の内容を翌年の株主総会で会社側提案として提案しない場合」に経営トップ(会長・社長)の選任に反対するとの基準がある。つまり、株主提案議案を否決できたとしても、翌年の会社提案の役員選任議案の賛成率に影響を及ぼす可能性があるということになる。

本年の株主総会でも、不祥事が発生した場合等に役員報酬の返還などを求める、いわゆるクローバック条項の導入を求める株主提案として付議された定款変更議案が52%の賛成を受けたにもかかわらず、定款変更議案の可決に必要な2/3に達せず否決されるという事態が生じた。来年の株主総会で、上記ISS基準を踏まえた影響が出てくるのか注目されるところである。

2019/11/13 重要会計基準改正解説第一弾 見積会計基準案が公表、MD&A、KAMへの影響

企業会計基準委員会(ASBJ)は2019年10月30日、「収益認識に関する会計基準」の改正案「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」(以下「見積り会計基準(案))の2本の重要会計基準案を公表している(意見募集はいずれも2020年1月10日まで)。これらの会計基準に基づく開示には間接的に経営者が関与することになるため、上場企業の役員としては内容を把握しておく必要がある。そこで当フォーラムではそれぞれについて2回に分けて解説する。まずは「見積り会計基準(案)」から――

下表にもあるとおり、・・・

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