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2019/11/07 【失敗学第66回】関西電力の事例(会員限定)
概要
関西電力の幹部が、高浜原子力発電所がある福井県大飯郡高浜町の森山元助役(以下、森山氏)から長年にわたり多額の現金・商品券・スーツ仕立券付生地などを受け取っていた。
経緯
関西電力が2019年10月9日に八木会長と岩根社長の引責辞任を公表するまでの経緯は次のとおり(本事件に関して2019年10月9日に第三者委員会が発足しているが、第三者委員会の報告は2020年1月以降と見込まれており、今回の失敗学では対象にしていない)。
2018年
1月:金沢国税局が吉田開発(森山氏が顧問を務めていた高浜町の建設会社)に税務調査を開始。
2月:関西電力の幹部6名が森山氏から受領した金品の一部を森山氏へ返還。うち4名は金沢国税局からの指摘を受け、受領額を雑所得として修正申告を行う(修正申告にあたり4名は「見解の相違はあるものの、ご指摘を踏まえ修正申告を行う」旨の上申書を金沢国税局に提出していた)。
7月:関西電力が社内調査委員会を設置(委員はコンプライアンス委員会の社外委員(3弁護士)と社内委員3名の計6名)。
9月11日:関西電力の社内調査委員会が調査報告書を取りまとめたが、関西電力は「違法性はない」として内容の公表には至らなかった。また、関西電力の監査役も本件を「違法性はない」と判断し、公表しないことを問題視しなかった。
2019年
3月:関西電力の幹部が森山氏から金品を受領していたことを示すとともに、それに関与した取締役に次の株主総会で退陣することを促す匿名の告発文書が出回る。
6月:関西電力は定時株主総会で幹部の金品受領を公表することなく、幹部役員が退陣することもなかった。
9月26日:共同通信が関西電力役員らの金品受領問題を報じる。
9月27日:岩根社長が記者会見に応じたが、開示が不十分であったことから、批判が高まる。
10月2日:関西電力は批判の高まりを受け、2018年9月11日付の調査報告書を公表。
10月9日:関西電力が第三者委員会の発足を公表するとともに、八木会長と岩根社長が引責辞任を発表(岩根社長の辞任日は第三者委員会の調査結果報告日付)。
内容・原因・改善策
関西電力が公表した2018年9月11日付の社内調査委員会の調査報告書によると、関西電力で問題となった事件のうち金品の受領に関して、その原因、再発防止策は次のとおりとされている。
| 内容 | 関西電力で、同社幹部が長年にわたり、高浜原子力発電所の所在する高浜町の森山元助役(以下、森山氏)から多額(総額3億円超)の現金・商品券・スーツ仕立券付生地などを受け取っていた。金品は菓子等の土産物の袋の底に見えないように入れられているケースが多かった。 |
| 原因 |
(経緯) ・森山氏は昭和50年代に高浜原子力発電所の3号機・4号機増設の誘致や地域の取りまとめで多大な協力を受け、それ以降、森山氏との接点がある担当者や役員は原子力事業が円滑に進むように森山氏との良好な関係を維持することに腐心していた。それは、森山氏のお誕生日会を関西電力が開催し、幹部が多数出席するほどの状況であった。 (正当化) ・金品受領を拒むと、森山氏が地域での影響力を行使することで、原子力発電所の運営に支障を及ぼす行動に出るリスクがあった。なお、森山氏は関西電力から工事の発注を受けている建設会社「吉田建設」の顧問もしており、関西電力は森山氏に発注関係の情報提供を行っていたが、社内調査報告書では「森山氏から渡された金品の見返り」ではなかったとして、吉田建設を工事発注で特別扱いしていた事実は認められなかったとしている。 ・森山氏は、少しでも意に沿わないことがあると、急に激昂し「無礼者!」「お前は何様だ!」「お前みたいな者がわしに歯向かうのか」と叱責・罵倒することが多々あった。また、「発電所を運営できなくしてやる」「発電所立地当時の書類は、今でも自宅に残っており、これを世間に明らかにしたら、大変なことになる」「お前の家にダンプを突っ込ませる」といった恫喝も行われていた。金品を返還しようとすると「お前、誰に向かって言うてんねん、そんなことを言わんと受け取れ」「なぜワシの志であるギフト券を返却しようとするのか、無礼者。わしを軽く見るなよ」と激昂され、返却をあきらめざるを得なかった。もっとも、受け取った金品を保管しておき、退任時にお礼として返却するケースもあった。原子力事業本部長や原子力事業本部の総務部門を所管する幹部に「森山氏から渡された金品を会社として管理してもらえないか」相談したところ「個人で何とか対処するしかない」との回答があったため断念した者もいた。 |
| 再発防止策 |
・対応困難な状況に対し組織として対応する方針の徹底 ・役員層の意識向上 ・コンプライアンス推進の強化(コンプライアンス・マニュアルについての理解の徹底を図る、コンプライアンス相談窓口の強化等) |
<この失敗から学ぶべきこと>
本事件は、関西電力の幹部が3億円以上の金品を受領していたことが原子力発電を巡る闇として国民の一大関心事となり、マスコミで連日報道されることになりました。これだけコンプライアンスに対する感度が問われる時代になったにもかかわらず、これほど重要な問題が社内調査委員会による調査だけで問題なしと片付け、かつ、公表もしなかったことについて、その判断が妥当だったのかには疑問が残ります。社内調査委員会の報告書では「当社幹部が森山氏から渡された金品の見返りとして、森山氏に発注関係の情報を提供し、あるいは工事発注で特別扱い、働きかけを行っていた事実は認められなかった」と結論付けていますが、この結論が第三者の調査委員会の調査でも維持されるのかが気になるところです。
森山氏から金品を受領せざるを得ない問題については、原子力事業本部長や原子力事業本部の総務部門を所管する幹部が承知していた問題である以上、会社として本問題をしっかりと検討し、受け取った金品を一括として管理するとともに、供託の手続きを検討する等の手続きを行うなど対処方法があったはずですが、「個人で何とか対処するしかない」とのスタンスで対応していたのは明らかにミスと言わざるを得ません。
これは決して電子力発電所を抱える電力会社特有の問題ではありません。一般の事業会社であっても、担当者が出入りの業者から金品を受領していないかどうかという視点で社内体制をチェックするとともに、相見積もりの徹底や担当者の定期的なローテーションなどは必須と言えます。
2019/11/06 グリー、バーチャル株主総会で株主からメッセージを受け付け
「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」を開催する企業が複数現れている。
冒頭のリンク先(新用語・難解用語辞典)で解説しているとおり、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」とは、物理的に存在する会場に取締役・監査役等と株主が一堂に会する「リアル株主総会」と、取締役・監査役等と株主のすべてがインターネット等の手段を用いて株主総会に参加する「バーチャル株主総会」の“混合型”に位置付けられる。ハイブリッド型バーチャル株主総会はあくまで「リアル株主総会」の開催を前提としており、株主はそのリアル株主総会にインターネット等を活用して参加するという点で、リアル株主総会を開催しない「バーチャル株主総会」とは異なる。
現行会社法では、株主総会の招集に際してはその「場所」を定めなければならない(会社法298条1項1号)とされているため、リアル株主総会を開催しない「バーチャル株主総会」の開催は会社法の解釈上困難とされる中で「ハイブリッド型バーチャル株主総会」が注目を集めており、グリー、ヤフー、ソニーなど少なくとも数社で開催実績がある。このうち、・・・
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2019/11/06 グリー、バーチャル株主総会で株主からメッセージを受け付け(会員限定)
「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」を開催する企業が複数現れている。
冒頭のリンク先(新用語・難解用語辞典)で解説しているとおり、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」とは、物理的に存在する会場に取締役・監査役等と株主が一堂に会する「リアル株主総会」と、取締役・監査役等と株主のすべてがインターネット等の手段を用いて株主総会に参加する「バーチャル株主総会」の“混合型”に位置付けられる。ハイブリッド型バーチャル株主総会はあくまで「リアル株主総会」の開催を前提としており、株主はそのリアル株主総会にインターネット等を活用して参加するという点で、リアル株主総会を開催しない「バーチャル株主総会」とは異なる。
現行会社法では、株主総会の招集に際してはその「場所」を定めなければならない(会社法298条1項1号)とされているため、リアル株主総会を開催しない「バーチャル株主総会」の開催は会社法の解釈上困難とされる中で「ハイブリッド型バーチャル株主総会」が注目を集めており、グリー、ヤフー、ソニーなど少なくとも数社で開催実績がある。このうち、グリーはこのほど、(2019年)9月25日に開催した定時株主総会のオンデマンド動画(ただし、株主発言部分はカット)と株主からのメッセージを同社のウェブサイトで公表している。
グリーの「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」が他社と異なるのは、動画配信と併せて「メッセージ」欄を設けた点にある。あえて「質問」欄とせずに「メッセージ」欄としたのは、インターネット等を通じて動画を視聴する株主は実際に株主総会に「出席」しているわけではないため、リアル株主総会の場にいる株主のように、取締役等の説明義務を伴う「質問」はできないからだ。そこで同社は、動画視聴者から寄せられたメッセージを、リアル株主総会における質問が出尽くした後、議長が読み上げてリアル株主総会の場で紹介するとともに、一部の「メッセージ」に対しては担当取締役が回答までしている。インターネット等を通じて株主総会に参加する株主の「メッセージ」を受け付けることによりリアル株主総会に参加できない株主との対話の機会を確保したグリーの試みは高く評価されるべきだろう。
このような取り組みは、経済産業省に設置された「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会」が2019年5月22日に公表した「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期的課題に関する勉強会とりまとめ(案)~ハイブリッド型バーチャル株主総会に関する論点整理~」(以下、論点整理)でも下記のとおり言及されていたところ。
| (質問・動議) 34.参加型においては、株主総会の機能はリアル株主総会の場に限定されるため、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、会社法上株主総会において行うことが認められている質問(法314条)や動議(法304条等)を行うことはできない。他方、あらかじめ取締役会において、リアル出席株主が行う質問(法314条参照)とは別のものとして、インターネット等の手段による参加株主からのコメント等を受け付けることを決定するなどし、議長の裁量においてそれらを取り上げることは、株主総会の運営において十分に工夫の余地があると考えられる。 |
動議 : 株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。
上記論点整理は、現在は経産省の「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」に引き継がれ、同研究会の検討結果を反映した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下、実施ガイド)が年内にも公表される見込みとなっている。
冒頭のリンク先(新用語・難解用語辞典)で解説しているとおり、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会は、リアル株主総会の開催場所にいない株主が、会社法上株主総会に出席していれば「出席型」、出席していなければ「参加型」に区分されるが、「実施ガイド」が公表され、「出席型」の要件が明確になれば、「出席型」のハイブリッド参加型バーチャル株主総会(以下、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会)の開催を検討する企業が現れるのは間違いないだろう。グリーの事例は、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の実現に向けた第一歩とも言えそうだ。
出席 : 株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境にあること。(相澤 哲、葉玉 匡美、郡谷 大輔 『論点解説 新・会社法 千問の道標』 株式会社商事法務(2006.6)
遠方で投資先の株主総会が開催される場合、株主にとって、多額の交通費を負担してまで株主総会に出席するインセンティブは高くない。最近は株主総会のお土産を廃止する企業も増加傾向にあるだけになおさらだ。また、複数の投資先の株主総会が同日に開催されるとなれば、出席する株主総会を絞り込まざるを得ない。こうした場合に、投資先が「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」を開催していれば、交通費を負担することもなく自宅等に居ながら株主総会に出席することが可能になる。また、ある企業のリアル株主総会に出席しながら、別の企業の「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」に出席し、両社でリアルタイムに議決権を行使することもできなくはない。株主総会においてより多くの株主との対話を志向する企業にとって、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」のメリットは大きいだろう。
2019/11/05 英国SSコードが改訂、投資判断における検討ポイントも開示対象に
2014年2月に導入された日本のスチュワードシップ・コードは3年ごとに改訂されることになっており、2017年5月には、機関投資家による議決権行使結果の個別開示など大幅な見直しが実施されたところだ(改訂スチュワードシップ・コードの詳細は「議決権行使結果個別開示、“穏便な”コンプライは認められず」参照)。前回の改訂から3年目となる来年(2020年)に見込まれる次回改訂では、企業年金によるスチュワードシップ活動の取組みの推進などが重要なテーマとなる方向だが(2019年8月20日のニュース「フォローアップ会議、今後の検討テーマは?」参照)、それに先立ち、・・・
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2019/11/05 英国SSコードが改訂、投資判断における検討ポイントも開示対象に(会員限定)
2014年2月に導入された日本のスチュワードシップ・コードは3年ごとに改訂されることになっており、2017年5月には、機関投資家による議決権行使結果の個別開示など大幅な見直しが実施されたところだ(改訂スチュワードシップ・コードの詳細は「議決権行使結果個別開示、“穏便な”コンプライは認められず」参照)。前回の改訂から3年目となる来年(2020年)に見込まれる次回改訂では、企業年金によるスチュワードシップ活動の取組みの推進などが重要なテーマとなる方向だが(2019年8月20日のニュース「フォローアップ会議、今後の検討テーマは?」参照)、それに先立ち、日本のスチュワードシップ・コードが手本にした英国のスチュワードシップ・コードの改訂版が(2019年)10月24日、英国の財務報告評議会(FRC=Financial Reporting Council)から公表された。改訂版スチュワードシップ・コードは2020年1月1日から発効する。
財務報告評議会(FRC=Financial Reporting Council) : コーポレートガバナンスに関する独立の規制機関
改訂版スチュワードシップ・コードの内容は、2019年2月12日のニュース「英SSコード、コンプライorエクスプレイン⇒アプライ&エクスプレインへ」でもお伝えしたところだが、まず目に付くのは構成の抜本的な変更だ。現行スチュワードシップ・コードは運用機関を主な対象にしているが、改訂版では年金基金や保険会社といったアセット・オーナーや議決権行使助言会社等のサービス・プロバイダーも対象にすることとなった。それとともに、「7つの原則」とそれぞれの原則に関する複数のガイダンスという従来の構成が、「運用会社およびアセット・オーナー向けの12原則」と「サービス・プロバイダー向けの6原則」、およびそれぞれの補足説明という構成へと見直される。
また、改訂スチュワードシップ・コードでは、これまで曖昧だった「スチュワードシップ」という言葉を定義付けている点も注目される。具体的には、「顧客と受益者の長期的な価値とともに、経済・環境・社会の持続可能な利益につなげるために、責任ある資産の配分、管理、監督をすること」とした。その上で、運用機関およびアセット・オーナー向けの原則では、「・・・顧客や受益者に長期的な価値を生み出すスチュワードシップを実現し、経済・環境・社会に対して持続可能な利益をもたらすこと」(原則1)、「気候変動を含む重要な環境・社会・ガバナンスの要素をスチュワードシップ活動と投資活動に体系的に統合し、その責任を果たすこと」(原則7)と、ESGへの配慮を求めている。原則7では、署名機関は、ESGを含め、投資判断において検討したポイントの開示も求められることになる。さらに改訂スチュワードシップ・コードでは、運用会社およびアセット・オーナーに対し「自らの権利と責任を積極的に行使すること」とともに、上場株式や債券投資におけるスチュワードシップ活動に加え、他の資産についてもどのような権利および責任を行使したかを開示することを求めている(原則12)。改訂スチュワードシップ・コードの署名リストへの登録を希望する機関投資家等はFRCに対し2021年3月末までに2020年度のスチュワードシップ報告書を提出し、その内容をFRCが評価後、2021年夏に署名リストが公表されることになっているが、改訂スチュワードシップ・コードの運用の本格化後は、署名機関によるESG投資が加速するとともに、投資判断の内容やスチュワードシップ活動の開示も進むことになりそうだ。
既報のとおり、スチュワードシップ・コードに署名した機関に対しては全ての原則の適用を求め、さらにどのように適用したかを説明させる「アプライorエクスプレイン」という手法が採用される。アプライ&エクスプレインはコンプライorエクスプレインよりもスチュワードシップ・コードの順守を強く求めるものであり、それは機関投資家等によるスチュワードシップ活動の強化という形で、企業にも影響を及ぼすことになる。スチュワードシップ・コードの“本家”英国における今回の改訂が、これから議論が始まる我が国の次回スチュワードシップ・コードの改訂議論にどのような影響を及ぼすのか、注目される。
2019/11/01 【2019年11月の課題】改正民法への対応
2019年11月の課題
2020年4月1日から改正民法(債権関係)が施行されます。改正民法では、消滅時効の見直し、法定利率の見直し、保証制度の見直し、債権譲渡に関する見直し、約款(定型約款)に関する規定の新設など、企業に関係のある改正事項が多く含まれています。自社の事業に照らし、自社に関係のある改正項目は何か、またそれに対しどのような対応を図るべきか教えてください。
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2019/11/01 外国資本の出資等を規制する外為法改正案についてACGAが財務省にレター
安全保障上重要な日本企業に対する外国資本の出資・買収を規制する外為法改正案が10月18日に閣議決定されたが、この規制強化に対し、市場関係者から「海外からの投資意欲を減退させる」との批判が集中している。同改正案は・・・
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2019/11/01 外国資本の出資等を規制する外為法改正案についてACGAが財務省にレター(会員限定)
安全保障上重要な日本企業に対する外国資本の出資・買収を規制する外為法改正案が10月18日に閣議決定されたが、この規制強化に対し、市場関係者から「海外からの投資意欲を減退させる」との批判が集中している。同改正案は「事前届出」の対象となる外国資本による出資比率を現行の「10%以上」から「1%以上」に引き下げることを骨子とする。政府は今臨時国会での同改正案の成立を目指しており、成立すれば2020年度から施行される見通し。
アジアに投資するグローバルな機関投資家の団体であるアジア・コーポレート・ガバナンス協会(Asia Corporate Governance Association =ACGA)は早速この法改正の動きに反応し、10月24日、財務省に宛てたレターを公開している。ACGAはレター送付までの過去1週間でメンバーの機関投資家からコメントを募集、90のメンバーのうち39、国別ではオーストラリア、カナダ、香港、日本、オランダ、ノルウェー、シンガポール、スウェーデン、イギリス、アメリカの機関投資家から回答を得たという。レターはこれらのコメントを取りまとめたものとなっている。その内容は以下のとおり。
1. コーポレートガバナンス改革が後退する
投資家は近年の日本における改革を「より良いガバナンスを擁護する取り組み(efforts to champion better governance)」と評価する一方、今回の規制強化はこれと矛盾するものであり、「日本のガバナンス改善に向けた進展はおそらく遅れるだろう(Progress towards improved corporate governance in Japan will likely slow)」との懸念を示している。
2. 日本企業への投資意欲が減退する
今回の法改正によって、投資家は管理コストや複雑な手続(administrative costs and complexity)、法規制遵守に伴うコストとリスク(legal and regulatory compliance costs and risks)を負うことを強いられる。これらにより、日本における投資は他地域よりも魅力を失う(less attractive than opportunities in other jurisdictions)可能性があると指摘している。
3. 日本株の評価および市場流動性が悪化する
上記1・2などの影響から海外投資家が投資を抑制した場合、企業価値と市場流動性に対する長期的な悪影響(a negative impact over time on company valuations and market liquidity)が間違いなく発生すると、コメントを求められた投資家は警告している。
4. 「経営に影響を与える行為」が不明確
事前届出が免除されるには、経営に影響を与える意図がないことが投資家に求められるが、具体的にどのような行為が「経営に影響を与える行為」に該当するかが不明確である。企業へのレター送付(writing letters to companies)や株主提案への賛成(voting in favour of shareholder proposals)も「経営参画の意図あり」とみなされるのか、懸念している。
5. 事前届出のとなる業種が不明確
事前届出の対象業種として、非常に広範な業種(武器、航空機、原子力、軍事転用が可能な汎用品の製造業、サイバーセキュリティなど)が示されている。しかしこれらの業種のビジネスを少量しか手掛けていない場合(a small amount of business in a restricted sector)はどうなるのか、具体的に「売上の何%」を占めていれば該当するのか明確にすべきとしている。
6. パブリックコメントの手続がなかった
ACGAのメンバーである機関投資家は、外為法改正案の公表から閣議決定に至るまでのスピードの速さに驚いている(surprised at the speed)。市場関係者を対象とした事前協議(prior consultation of market participants)のプロセスがあって然るべきだと指摘している。
7. 特にアクティブ投資家が不利になる恐れ
事前届出制を免除する対象としては「ポートフォリオ投資など」、すなわち主にパッシブ投資家が想定されており、本改正はアクティブ投資家を狙い撃ちしているようにも見える(appear to penalise active managers)ことが懸念されている。
パッシブ投資家 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、そのような運用手法を採用する投資家をパッシブ投資家という。ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。
アクティブ投資家 : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法(以下、アクティブ運用)をとる投資家のこと。アクティブ運用はパッシブ運用の対極の概念であり、運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。
これらのコメントを受けてACGAは以下の4つの提言を財務省に対して投げかけている。グローバル資本市場の考え方を代弁する本提言を財務省がどのように受け止めるか、注目されよう。
1. まずはパブリックコメントを実施する
本改正案は日本の評判を著しく損なう(considerable damage to Japan’s reputation)ものであるため、国会での審議にかける前に、一度改正による影響について広く協議する(consult widely on the impact of the amendments)べきである。
2. 「経営に影響を与える行為」という言葉を削除する
この行為に該当するからとしてエンゲージメントを通じて正しいことをしようとする(trying to do the right thing by engaging with companies)ファンドマネージャーの行動を妨げてはいけない。この言葉は企業価値向上に逆効果(especially counterproductive)である。
3. ハードルは「1%以上」でなく「10%以上」を維持する
日本には大量保有報告制度があるため、日本の安全保障を脅かす投資家が日本企業の株式を大量保有したとしても、保有割合が5%超となれば保有で認識することができ、現行外為法法が定める「10%以上」に達したら売却命令を出すことができる。したがって、法改正の必要はない(no need to amend the current 10% rule)。
大量保有報告制度 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」である)。
4. 規制対象となる業種を明確化する
改正法による規制の対象になるのはどのセクターか、そのセクターにおいてどのレベルでビジネスを展開していると規制対象になるのか、詳細を明確にすることを急ぐべき(an urgent need to clarify in detail)である。
2019/10/31 【役員会 Good&Bad発言集】消費税転嫁拒否(会員限定)
<解説>
公正取引委員会、大東建託に30億円の差額支払いを勧告
2019年10月1日より消費税率が8%から10%にアップされました。今回は軽減税率への対応の煩雑さに話題が集中していますが、忘れてはならないのは消費税の価格転嫁への拒否行為の禁止です。「消費税の価格転嫁への拒否行為」は、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」で禁止されている行為であり、前回の消費税率増税時(2014年)にも問題になりました。経済産業省や公正取引委員会は、取引の売手側が転嫁拒否行為を受けていないか書面調査で情報収集を行うだけでなく、転嫁対策調査官(転嫁Gメン)による相談対応等を行っており、2019年3月末までに、転嫁拒否行為に対して4,661件の指導、13件の措置請求を、48件の勧告を実施しています(経済産業省の消費税転嫁対策への取組状況はこちらを参照)。2019年になってからも大東建託が駐車場棟の賃料を2014年4月分に遡って消費税率引き上げ分を上乗せした額まで引き上げ、当該額と実際に支払った額との差額(約30億円)を支払うよう、公正取引委員会から勧告を受けたことが話題になったばかりです(2019年9月24日に行われた公正取引委員会の「大東建託株式会社及び大東建託パートナーズ株式会社に対する勧告」はこちらを参照)。
上場企業やその子会社がこのような勧告を受けることはコンプライアンスに対する姿勢を疑われかねず、ひいては上場企業としての適格性をも問われかねません。また、過去数年分の差額支払いは財務的にも大きな負担となることでしょう。コンプラアインスを徹底させるために、消費税率アップを機に「消費税の価格転嫁への拒否行為」についておさらいしてみましょう。
<法律の対象となる事業者>
「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」の対象となる事業者は次のとおりです。
| 特定事業者(転嫁拒否等をする側)(買手) | 特定供給事業者(転嫁拒否等をされる側)(売手) |
| ①大規模小売事業者(*1) | 大規模小売事業者(*1)に継続して商品又は役務を供給する事業者(*2) |
| ②右欄の特定供給事業者から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者 | ・資本金等の額が3億円以下の事業者 ・個人事業者等 |
一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者で、次の①または②のいずれかに該当するもの
① 前事業年度における売上高が100億円以上である者
② 次のいずれかの店舗を有する者
・ 東京都特別区および政令指定都市において、店舗面積が3,000㎡以上
・ その他の市町村において、店舗面積が1,500㎡以上
(注)コンビニエンスストア本部等のフランチャイズチェーンの形態をとる事業者を含む(この場合、上記①の売上高については加盟する者の売上高を含む)。
*2 消費税の免税事業者であっても特定供給事業者に該当する。
<禁止行為>
特定事業者は、特定供給事業者に対し、以下に掲げる行為を行ってはならないとされています。
(1)消費税の転嫁拒否等の行為
① 減額、買いたたき
・ 商品または役務の対価の額を事後的に減額することにより、消費税の転嫁を拒否すること
・ 商品または役務の対価の額を通常支払われる対価に比べて低く定めることにより、消費税の転嫁を拒否すること
② 商品購入、役務利用または利益提供の要請
・ 消費税の転嫁に応じることと引換えに商品を購入させ、または役務を利用させること
・ 消費税の転嫁に応じることと引換えに金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
③ 本体価格での交渉の拒否
・ 商品または役務の対価に係る交渉において本体価格(消費税を含まない価格)を用いる旨の申出を拒むこと
(2)報復行為
特定供給事業者が公正取引委員会等に転嫁拒否等の行為に該当する事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること
とくに注意を要するのは「内税取引」に起因する「買いたたき」行為です。公正取引委員会のパンフレット「消費税の転嫁拒否に関する主な違反事例」では、次の2つの違反事例が紹介されています。
| 違反事例1 | 出版業者(買手)は、原稿執筆者(売手)に対し、消費税率引上げ後の原稿料(税込)について、 消費税率引上げ分を上乗せせず、消費税率引上げ前の原稿料(税込)と同額に据え置いた。 |
| 違反事例2 | 学習塾の運営業者(買手)は、教室に使用する不動産の賃借料を税込価格で契約している賃貸人(売手)に対し、消費税率引上げ後の賃借料(税込)について、消費税率引上げ分を上乗せせず、 消費税率引上げ前の賃借料(税込)と同額を支払った。 |
違反事例1のように取引先からの消費税率引上げ分の上乗せの要請や申出がなくても、 消費税率が引き上げられたら、その分対価(税込価格)を引き上げなければ違法になります。買い手側としては「買いたたき」の感覚がないまま違法になるので注意が必要です。なお、消費税率引上げの際に、消費税率引上げ分を上乗せするのをうっかり失念したような場合でも「買いたたき」行為として違反になってしまう点にも留意しておきましょう。また、違反事例②のように、消費税率引上げ前から税込価格で契約していた場合であっても、消費税率が引き上げられたら、その分対価(税込価格)を引き上げなければ、やはり違反事例①と同様に違法になります。
以上について、簡単にまとめたサイトが公正取引委員会の設置した「消費税転嫁拒否セルフチェック」です。購買部門や子会社の担当者も簡単に確認できることから、対応に不安がある部門や子会社には早めに確認してもらうようにしましょう。
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役B:「その方法だと下請先が増税分をかぶる格好になるので、実質的には値下げとなり、まずいのではないでしょうか?」
(コメント:取締役Bの発言は、取締役Aの発言に対して法令違反の可能性を指摘したGood発言です。ただ、単に「まずい」だけではなく、具体的に「消費税転嫁拒否に該当するのでまずい」と指摘することができれば、なおGOODでした。)
「私の部門でも契約書上内税取引となっている下請け先から値上げ要請が何件かありましたが、値上げを認める代わりに別途リベートで戻してもらうことにしました。当社としても消費税増税分をすべて転嫁できている訳ではないし、今は下請先も含めてONE TEAMとして頑張るときだと下請先を説得しました。」
(コメント:「下請先も含めてONE TEAM」などとはずいぶん都合のいい身勝手な発言です。自社が消費税増税分をすべて転嫁できていないとしても、それを理由に下請けいじめをすることは許されません。値上げ要請をした分をリベートで戻してもらうのであれば、下請先としては実態に変わりはなく、消費税価格の転嫁拒否を受けたことに等しいと言えます。以上よりAの発言はBADです。)
「私の部門では消費税率の引き上げ分を支払う代わりに、店舗の値札の付け替え作業を無償でやってもらうことにしました。」
(コメント:「消費税の転嫁に応じることと引換えに金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」は違法行為に該当します。Cの発言は、違法行為の認識がなく不勉強であることが露呈したBAD発言です。早急に店舗の値札の付け替え作業について対価を支払うべきです。)
「下請先から何も言ってこない限り、何もしないのが一番です。何も言われていないのにこちらから積極的に対応するのは“藪蛇”ってものですよ。」
(コメント:不作為であっても買いたたき行為に該当します。何も言われていないから対応不要というのはBAD発言です。)
