概要
AI議事録サービスを主力とする東証グロース上場のオルツにおいて、2023年12月期に計上された売上高の9割超、2023年12月期に計上された売上高の8割超の粉飾(売上の水増し)が明らかになった。
経緯
オルツが2025年7月28日に公表した「第三者委員会の調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。
2020年
1月:オルツが「AI GIJIROKU」のサービス提供を開始する。「AI GIJIROKU」はオルツのWebサイトやモバイルアプリを通してユーザーが直接申込を行うケースやユーザーが代理店経由で申込を行うケース等がある。
4月~9月:オルツでは月中の普通預金残高が1,000万円を切るほど資金繰りが逼迫していた。資金調達のためには売上実績を作る必要が生じた。そこで、米倉社長の指示の下、「AI GIJIROKU」に係るライセンスの販売先等に対して営業支援金等の名目で同ライセンスの購入費等相当額以上の資金を提供する取引(以下同額取引)を実施した(マーケティングリサーチ支援会社のJ社に対して「AI GIJIROKU」のアカウント1万個を発行し、1,500万円の売上を計上する一方で、J社に売上と同額の販促費用を1,500万円支払い、さらにマーケティングリサーチ支援の調査委託費として82万5000円(税抜750千円)を支払う取引)。この取引に対して、当時の監査人であるAW監査法人より、「当該AI議事録のアカウント利用料の15,000千円(税込)については、実質的な負担は貴社が行っていることから、貴社において売上計上を行うことはできず、相殺後の750千円が販売費および一般管理費等で計上されることとなると考えられます。」(売上と費用を両建てで計上するのではなく相殺した純額で計上すべきである)と指摘され、別の方法を模索するようになった。
2021年
4月:オルツはAW監査法人より2020年12月期の監査結果概要報告を受ける。その中で、内部統制の不備に関する発見事項として「AI GIJIROKUは1ヶ月間の定額課金となっており、サービス期間に応じて売上を計上する必要がありますが、期末監査時点では、入金又は申込みがなされた月に計上されており、売上計上の業務フロー及び統制が整備されていませんでした。」と記載されていた。
6月:広告代理店であるA社がオルツから受領した「PR協力費」の一部をWeb施策としてプロモーションを行い、その残りを「PR協力費」や事務局費の名目でB社に支払うとともに、オルツとB社がAI GIJIROKUのセールスパートナー契約を締結して、B社が、A社から支払われた資金を原資としてオルツにサービス利用料を支払うといったスキームが確立し、オルツは売り先と広告宣伝費(あるいは研究開発費)支払先を変えた本スキーム(広告宣伝費等の支払先(広告代理店等)から売り先に資金が流れる)を他の協力会社との間でも展開していくことになる。なお、広告代理店A社は、実際にはごく一部を除き広告を行っていなかった。
2022年
1月13日:AW監査法人は、オルツに対し「期中の検証において、AW監査法人から指摘している内部統制の構築(受注、売上計上、請求管理、入金管理)につき、現時点で整備を確認できていません。」「AI GIJIROKU(販売代理店)の販売が2021年より開始したことに伴い、期中からの業務プロセスの整備が必要な状況でしたが、内部統制の整備が売上の拡大に追い付かなかったことから、貴社内での整備及び運用評価が終了していないと伺っています。このため、AW監査法人内での内部統制の評価も検証できていない状況です。」との発見事項を記載したマネジメントレターのドラフトを提出した。
2月頃:AW監査法人は、M社とN社の代表取締役および本店所在地が同一であること並びにR社とQ社がグループ会社であることを把握し、オルツに対し、同一グループへの売上・費用が同額程度発生する場合には、売上(サービス提供)の実在性および広告サービス提供の実在性の確認が必要であり、これらが確認できなければ、監査が終了しない旨を告げた。
6月6日:AW監査法人は「販売代理店と広告代理店が同一の企業グループであって循環取引のおそれがあると想定される外観を有している」および「現在の状況では循環取引ではないと心証を得るための十分な監査手続が実施できず監査証拠を入手できない」という問題点を指摘したうえで、現在の状況では2021年12月期の監査を完了することができず、2022年12月期監査も受嘱できないことを告げた。
7月22日:AW監査法人は、同法人内の審査部門の最終回答として、2021年12月期の監査に対応し得る監査業務を完了できない状況となり、その結果として進行期である2022年12月期の監査契約の締結を見送ることとなった旨オルツに報告した。
8月:オルツの取締役会において、AW監査法人から循環取引の疑義について指摘があったことが報告された。
8月25日および26日:オルツは、株主向けに「重要事項の共有説明会」と題する説明会を開催した。オルツは、かかる説明会において、説明会資料にAW監査法人から受領したマネジメントレターを引用しつつ、同マネジメントレターで指摘を受けた事項について、矮小化(たとえば、AW監査法人のマネジメントレターにおいて「循環取引ではないと心証を得るための十分な監査手続が実施できなかった」と指摘された件について、「循環取引であるとの認定までは受けていない」と矮小化)した説明を行った。
9月13日:AW監査法人の後任として、監査法人シドーがオルツの会計監査人に就任する。
10月17日:オルツの中野常勤監査役は、オルツの全株主に対し、調査報告書と題する書面をメール送付し、その中で、2021年12月期の監査役会の監査報告の結論に変更がないこと、およびオルツはAW監査法人に対して十分な証憑を提出していることをあらためて確認した旨を報告した。しかし、実際には中野常勤監査役はa氏に対して質問をすることにより事情を確認したに留まり、AW監査法人に対して提出した証憑をあらためて精査・確認することまではしていなかった。
2024年
10月11日:オルツは東証グロース市場に上場する(主幹事証券会社は大和証券)。
2025年
4月上旬:証券取引等監視委員会(SESC)がオルツへの調査を開始。
4月25日:オルツは取締役会を開催し、粉飾決算についての第三者委員会を設置する旨の決議を行う。
4月下旬:オルツを退職した元社員がYouTubeの田端信太郎氏のチャンネルに登場し、内部告発を行う。
4月28日:オルツの株価が急落しストップ安になる。
7月25日:東京証券取引所がオルツ銘柄を監理銘柄(審査中)に指定する。
7月28日:オルツが第三者委員会の調査報告書を公表する。米倉代表取締役は取締役を辞任し、日置取締役(CFO)が代表取締役に選任される。
7月30日:東京証券取引所がオルツ銘柄の上場廃止を決定する。オルツは民事再生手続開始の申立てを行う。
8月8日:日本公認会計士協会が「最近報道されている、上場廃止の決定に至った上場企業における会計不祥事は、資本市場の信頼性の観点から誠に遺憾な事態であります。今般の会計不祥事に関し、自主規制団体である日本公認会計士協会は、当該企業の監査に関与した会員に対して監査実施状況の調査を開始しております。その結果を受け、会則・規則に則り適切な対応を行ってまいります。」とオルツの事件における監査法人シドーを念頭に置いたリリースを公表。
内容・原因・再発防止策
オルツが2025年7月28日に公表した「第三者委員会の調査報告書」等によると、本件不正の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。
| 内容 | オルツの経営者が循環取引の手法により粉飾決算を行った。これにより、2023年12月期に計上された売上高の9割超、2023年12月期に計上された売上高の8割超が、実際には存在しないのにかさ上げされていた。 |
| 原因 | <動機> オルツにはVCから資金調達をするとともにグロース市場へ上場するために売上をかさ上げして実態よりもよく見せたいという動機があった(いわゆる「上場ゴール」)。また、オルツの経営陣には経営トップに求められる「誠実性」が欠如していた。 <代表者不正による内部統制の無効化と徹底した情報管理> オルツの米倉社長や日置CFOは本循環取引に登場する売上先と広告宣伝費(研究開発費)支払先が実は密接な関係にあるということを一部の従業員を除き社内外に秘密にしており、監査法人や投資家にも秘匿していた。 また、広告宣伝及び研究開発においては、発注を行っている担当部門自身が実施状況の検収をしていた。また、内部監査が機能していなかった。 <最先端の事業に対するバイアス等の可能性> オルツが営むAI関連事業は、いわゆる「最先端の事業」として過度な期待があることから、その妥当性や合理性の判断にバイアスがかかっていた可能性がある。また、オルツはスタートアップ企業として華々しい受賞歴を持ち、著名な教授を顧問に迎える等、従業員数20名程度のベンチャーでありながら高い社会的信用力が付与されていた。このような事情もあいまって、本件疑義が発覚されにくい状況が作出されていた。 <社外取締役や監査役の対応> 社外取締役や監査役は、2022年8月の取締役会等の場において執行側からAW監査法人から循環取引の疑義について指摘があった旨の説明を受けた際、執行側の説明に対して職業的な懐疑心を抱くことなく安易に納得してしまった。 <常勤監査役の形だけの監査> オルツの中野常勤監査役は2022年10月17日、オルツの全株主に対し、「第8期決算に関する調査報告書」と題する書面をメール送付し、その中で、2021年12月度の監査役会の監査報告に変更がないこと、及びオルツはAW監査法人に対して十分な証憑を提出していることをあらためて確認した旨を報告したものの、実際にはコーポレート本部長兼財務経理部部長a氏への質問により事情を確認したに留まり、AW監査法人に対して提出した証憑をあらためて精査・確認することはしていなかった。実際のところ、a氏は本粉飾決算の当事者の一人であった。 <社外監査役の形だけの進言> 福島社外監査役(公認会計士)は、2024年10月17日の取締役会において循環取引について「今後は疑わしき取引が発生しないよう、より気を付けるように」との進言を行ったり、AW監査法人のマネジメントレター等の閲覧により、循環取引についてAW監査法人や主幹事証券等から疑惑をかけられていたことを認識したりしていた。それにもかかわらず、オルツの監査役会は、2023年12月期から2025年12月期において、監査計画上循環取引を重点監査項目にしていなかった。また、2023年12月期及び2024年12月期の監査報告においても循環取引に関する監査結果は報告されていない。 <広告宣伝費の突出を避けるために研究開発費スキームを導入> オルツは循環取引により広告宣伝費が以上に突出し、株主からもの広告宣伝費が高額であるとの指摘を受けていた。そこで、米倉社長は、オルツの主力事業との関係で研究開発費を増加させても不自然ではないとの認識から、広告宣伝費の名目での支出を抑えるため、研究開発費等の名目で金銭を支払い、それらを広告宣伝費等に回して、売上を維持・増加させる手法も採用した。 <監査法人騙し> オルツの会計監査人の監査法人シドーは、監査契約の受嘱に当たってAW監査法人から「循環取引の疑義が生じた」というアラートを受け取っていた。しかし、オルツが商流を変更して販売代理店と同一グループ内の広告代理店との取引を終了させた後は、この疑義について複数の観点から確認した事実を総合的に検討した結果、売上が順調に伸びていることもあり不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況を識別していなかった。この前提に基づき、通常の監査手続を実施する中で、オルツより売上および広告宣伝費の取引の実態があるかのような事実と異なる資料の提出・説明を受けており、結果としてシドーはオルツの決算数値に疑念を抱くことはなかった。監査法人シドーおよび適正意見を表明した同法人所属の公認会計士は、今後、監査人としての正当な注意義務を払って監査を実施していたのかどうかを問われる可能性がある。 <期末顧客数の偽装> 監査法人シドーが入手した取締役会承認済の事業計画には、KPIとして「期末顧客数」の記載があり、毎年、数千から2万の数が記載されていたが、この数値は、販売代理店の数及び販売代理店を介さない取引先を合わせた数(200前後)の50倍から100倍もの値であることから、監査法人シドーはこの数字がエンドユーザー数であるとの認識を持っていた。さらに、監査法人シドーは「期末顧客数」の予算と実績の推移と売上高の連動について、毎事業年度の監査手続において確認していたが、特に不自然な動きは認められなかった。また、監査法人シドーは、販売代理店が配布したアカウントの実在性を何らかの手段によって確認する必要があるとは判断しておらず、「AI GIJIROKU」のユーザー管理用データベースの情報等については、監査手続の証憑としてオルツへ提出の要求をしたことはなかった。 <VC等のオブザーバーへの虚偽報告> VC等の株主は、投資契約に基づきオブザーバーとして取締役会に参加することが可能であり、実際にほとんどの株主がオブザーバーとして参加していた。取締役会では、事業の進捗や資金繰りに関する説明がなされており、VC等の株主は、かかる説明を通じて、オルツの経営状況を理解していた。特に「AI GIJIROKU」は販売代理店を通じた販売が好調であること、月末契約数(アカウント数)も右肩上がりで増加を継続していること等が繰り返し説明されていた。また、広告宣伝に関しても、想定ターゲットリーチ数や想定認知数、指名検索上昇率等CMの効果測定に関し説明がなされていた。 <東証審査への虚偽回答> 東証の上場審査において、監査法人がAW監査法人からシドー監査法人に交代した理由を問われたところ、オルツは「AW監査法人からは上場準備体制における教科書的な指導がなされ、当社にはそぐわない指導内容であると感じた」「当社と販売パートナーとの契約上の観点から一部提出が困難な監査証拠がありました。結果として、監査法人として当該取引の不適切性の事実は一切確認できなかったとの見解でありました。上記の一連の事象における監査法人とのコミュニケーションを踏まえて、双方にとって今後も連携することは難しいと判断し、2022年10月にAW監査法人とは合意解約のうえで、現在の監査法人シドーに変更することといたしました。AW監査法人が監査を行っていた当時の課題は監査法人シドーに引継ぎが行われ、現状は事後稟議が発生しないよう体制整備が進められており改善されております。」と虚偽の回答を行っていた。 <主幹事証券の引受審査への虚偽回答> 大和証券からの資料要求に対して、CFOの日置取締役等が改ざんした資料を提出していた。 |
再発防止策 | 1 抜本的な組織改革 2 経営トップに対する牽制機能の強化 (1)社外役員や監査役による牽制機能の強化 (2)内部監査機能の強化 (3)内部通報制度の活性化 (4)リスク管理委員会、コンプライアンス推進委員会の改善 3 内部統制上の機能及び権限の見直し 4 企業風土の改善 (1)社内教育・研修による会計リテラシーの向上、モニタリング等 (2)経営理念、行動規範等の見直し 5 会計監査人とのコミュニケーションの強化 |
<この事例から学ぶべきこと>
オルツは循環取引を利用して、売上高と広告宣伝費(および研究開発費)とを両建てで膨らませていました。売上の8~9割が偽装されていたという驚愕の事実に、IPO市場が冷え込む可能性が指摘されています。
オルツでは経営者が不正を主導していたため、内部統制が全く機能していませんでした。もっとも糾弾されるべきは経営者です。また、監査法人シドーや監査役はAW監査法人が監査契約を辞退したことの重みを十分に理解しておらず、会社の虚偽説明に騙されてしまいました。後知恵になりますが、監査法人シドー、常勤監査役や監査役(公認会計士・弁護士)がAW監査法人の発した警告をしっかりと受け止めていれば、こういった上場ゴールによる投資家の被害が避けられたのではないか気になるところです。なお、本件不正の背景については、上記に加えて、2025年8月7日付けのニュース「売上の9割が虚偽 オルツの循環取引に専門家が騙された理由」も参照してください。なお、本件で監査役はどのような監査手続きを実施すれば循環取引を検出できていたのかについてはあらためて解説する予定です。
オルツは東証の「監査法人交代理由」についての質問に対して、AW監査法人が「教科書的な指導」をしていて当社にそぐわなかったと回答しています。「教科書的な指導」を軽んじる風潮があるのはとても残念なことですし、「教科書的」であることを理由に別の安易な方法を提案する者がいた場合、「教科書的」であることで不都合が生じる(=不正が発覚する)からポジショントークをしているだけではないかと疑うべきでしょう。
オルツでは、広告および研究開発の発注者と検収者が同一人物でした。同一人物が発注者と検収者を兼ねるのは、架空仕入のリスクが高まることから回避すべきと言われています。不正防止の観点から、発注と検収の担当者を分け、さらに担当者の定期的なローテーションを行うべきです。


