概要
和服の販売仲介事業を営む日本和装ホールディングス(東京証券取引所市場第二部)で、当時の会長兼社長が個人的経費を会社に費用負担させていた。
経緯
日本和装ホールディングスが2018年10月31日に特別調査委員会の調査報告書を公表し、代表取締役会長兼社長の吉田氏が代表権を返上するまでの経緯は次のとおり。
2018年
5月1日:日本和装ホールディングスが、東京証券取引所市場第一部への指定申請を行う。東京証券取引所の審査過程で同社は東証から関連当事者取引に関する問題点・不備の指摘を受ける。
9月6日:日本和装ホールディングスは特別調査委員会を設置。
10月31日:日本和装ホールディングスが特別調査委員会の調査報告書を公表。
12月1日:代表取締役会長兼社長の吉田氏が代表権を返上
内容・原因・改善策
日本和装ホールディングスが公表した特別調査委員会の調査報告書によると、同社が会長の個人的経費を負担していた原因、再発防止策は次のとおりである(これが調査報告書で問題視された事項のすべてではない)。
吉田会長個人が負担すべき自宅費用を会社が負担
| 内容 |
日本和装ホ-ルディングスの規程によると、役員の社宅の利用は月額費用(賃料、管理費、共益費等)は20万円を上限として会社が負担するとされていたにもかかわらず、吉田会長の社宅費用の全額を会社が負担していた(3年間で35百万円)。
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| 原因 |
(経緯)
日本和装ホ-ルディングスでは、2010年3月から吉田会長の自宅に脅迫状が届いたことを契機に、吉田会長のセキュリティ確保(登記上の住所を居宅とは別に確保する)を目的として、「会長自宅とは別の物件」を会社が全額負担する形で賃借し、当該物件の住所を代表者住所として登記するとともに、定期的に場所を移していた(麻布十番、六本木、虎ノ門と転居)。もっとも、2016年1月以降は、改装等により会長自宅が利用できなくなったことから「会長自宅イコール社宅」として利用されるようになり、脅迫事件から年月が経過してセキュリティ確保の必要性が低下してもなお、田園調布、元麻布、日本橋と定期的に転居が行われて、当該社宅(自宅として利用)に係るコストを会社が全額負担していた。
(機会)
・同社においては、吉田会長の⼀存で物事が決定されることが多かった。また、吉田会長、菅野取締役を中心とした管理部門の責任者が関連当事者取引の問題性を十分に理解・認識しておらず、公私の区別がついていなかった。
・関連当事者取引の存在を適切に把握する仕組みや関連当事者取引を牽制する仕組みがなかった。
・こうした恣意的かつ不透明な意思決定が常態化していたことによって、取締役会で議論すべき事項が取締役会に上程されないという事態につながり、さらにその結果として、社外役員による牽制が十分に働かない状況となっていた。
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| 再発防止策 |
役員の意識改革
役員が社会の公器の⼀員としての自覚を再認識する
内部管理体制の再整備・強化
利益相反取引・関連当事者取引に対する正確な知識の共有化、当該取引に関する社内ルールの再整備・周知徹底、モニタリング体制の強化
適切な意思決定プロセスの構築
恣意的かつ不透明な意思決定プロセスから脱却し、上場企業としてあるべき適切な意思決定のプロセスが取られる仕組みを構築する
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会長個人が所有するクルーザーの維持費を会社が負担
| 内容 |
吉田会長個人が所有するクルーザーの船舶係留利用料その他維持費を日本和装ホールディングスが支払っていた(5年間で計23百万円)。この費用負担は利益相反取引に該当するところ、取締役会決議も経ていなかった。また、関連当事者取引として認識もされていなかった。
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| 原因 |
(経緯)
2014年12月期に、菅野取締役が吉田会長にクルーザーの維持費用を会社で負担することを提案したのがきっかけであった。これは、吉田会長の役員報酬が従前より低額(ピーク時の4割程度)であることから吉田会長個人の懐事情を慮っての提案であり、「会社の業務目的に利用しているのだから会社が負担しても問題無い」という正当化を図りつつ、吉田会長個人のために行動していたという側面があった(報告書16ページ)。
(機会)
・同社においては、吉田会長の⼀存で物事が決定されることが多かった。また、吉田会長、菅野取締役を中心とした管理部門の責任者が関連当事者取引の問題性を十分に理解・認識しておらず、公私の区別がついていなかった。
・関連当事者取引の存在を適切に把握する仕組みや関連当事者取引を牽制する仕組みがなかった。
・こうした恣意的かつ不透明な意思決定が常態化していたことによって、取締役会で議論すべき事項が取締役会に上程されないという事態につながり、さらにその結果として、社外役員による牽制が十分に働かない状況となっていた。
(正当化)
年間の船舶係留費等については、都度稟議書による決裁がなされているところ、当該稟議書には、常勤取締役の押印、署名または内容確認済みである旨の記載がなされていた。また、決裁後であるが、常勤監査役、内部監査室長も押印していた。当該クルーザーは、吉田会長の所有物であることを他の常勤役員や内部監査室長は認識していた(あるいは知り得る状態にあった)が、当該クルーザーが従業員の福利厚生(懇親会)や顧客の接待目的で利用されていたことから、上記負担について疑問に思ったり、関連当事者取引・利益相反取引と認識することはなかった。そのため取締役会決議も経ていなかった。
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| 再発防止策 |
上記の「吉田会長の社宅費用」の再発防止策を参照
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会長が個人で所有するロールスロイスの維持費を会社が負担
| 内容 |
吉田会長個人が所有するロールスロイスの自動車税、保険料その他維持費用を日本和装ホールディングスが支払っていた(3年間で計1.8百万円)。この費用負担は利益相反取引に該当するところ、取締役会決議も経ていなかった。また、関連当事者取引として認識もされていなかった。
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| 原因 |
(経緯)
菅野取締役が吉田会長にロールスロイスの維持費用を会社で負担することを提案したのがきっかけであった。これは、吉田会長の役員報酬が従前より低額(ピーク時の4割程度)であることから吉田会長個人の懐事情を慮っての提案であり、「会社の業務目的に利用しているのだから会社が負担しても問題無い」という正当化を図りつつ、吉田会長個人のために行動していたという側面があった(報告書16ページ)。
(機会)
・同社においては、吉田会長の⼀存で物事が決定されることが多かった。また、吉田会長、菅野取締役を中心とした管理部門の責任者が関連当事者取引の問題性を十分に理解・認識しておらず、公私の区別がついていなかった。
・関連当事者取引の存在を適切に把握する仕組みや関連当事者取引を牽制する仕組みがなかった。
・こうした恣意的かつ不透明な意思決定が常態化していたことによって、取締役会で議論すべき事項が取締役会に上程されないという事態につながり、さらにその結果として、社外役員による牽制が十分に働かない状況となっていた。
(正当化)
車検費用・修理費用については、都度稟議書による決裁がなされているところ、当該稟議書には、常勤取締役の押印、署名または内容確認済みである旨の記載がなされていた。また、決裁後であるが、常勤監査役、内部監査室長も押印していた。当該ロールスロイスは、吉田会長の所有物であることを他の常勤役員や内部監査室長は認識していた(あるいは知り得る状態にあった)が、当該ロールスロイスが業務目的で利用されていたことから、上記負担について疑問に思ったり、関連当事者取引・利益相反取引と認識することはなかった。そのため取締役会決議も経ていなかった。
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| 再発防止策 |
上記の「吉田会長の社宅費用」の再発防止策を参照
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<この失敗から学ぶべきこと>
日本和装ホールディングスでは、会長の個人的支出を会社が負担していたことが問題になりました。これを機に東証の上場審査における関連当事者取引についてのチェックが厳格化したと言われています。
同社では、2018年12月に吉田氏が代表取締役から外れて代表権のない取締役になり、それまで副社長であった道面氏が代表取締役社長になりましたが、その4か月後の2019年3月20日には「経営体制の一層の強化を図るため」といった理由で吉田氏が「代表取締役会長」になるとともに、道面氏は代表権のない社長になる決議をした旨のリリースが行われています(こちらを参照)。2019年3月29日のリリースによると、道面氏より代表権返上の申し出があったとのことであり、「その時点での経営責任を一旦明確にし、経営体制の一層の強化を図る措置としての判断」とされていますが、就任後約半年しか経っていないにもかかわらず経営責任の話が浮上して代表権返上となるのは、外部から見ると納得感を得にくい話と言えます。それ以上に、個人的支出を会社に負担させておいていったんは代表権を返上したはずの吉田氏が、会社に負担させていた立替金を全額返金したとは言え、たった4か月で代表取締役会長に復帰することに違和感を覚える人も少なくないのではないでしょうか。そのような声が届いたのか、3月28日に開催された取締役会において、その前日(3月27日)に開催された定時株主総会で選任された社外役員から「後継者育成という観点からも取締役道面義雄を代表取締役に復帰させ、当面は代表取締役2名体制にするべきであるという提案」がなされ、これを受け道面氏は代表権なき社長から代表取締役社長に急遽復帰することとなりました(上記の2019年3月29日のリリースを参照)。代表権人事を巡っての目まぐるしい動きは同社のコーポレートガバナンスの混乱を物語っていると言えそうです。
吉田会長は日本和装ホールディングスの株式を53%保有(2018年12月31日現在)する大株主です。そのような特異な状況下でガバナンスがどのように働いているのかは投資家の最大の関心事と言えます。同社は、2019年3月28日付の役員人事で吉田代表取締役会長の管掌を「海外事業管掌」、道面代表取締役社長の管掌を「国内事業管掌」としたうえで、「業務管掌領域等における意思決定のプロセスを重視し、経営の迅速化をはかることについても方向性の確認」をしたとリリースしています(上記の2019年3月29日のリリースを参照)。この「業務管掌領域の明確化」は“ダブル代表”による指揮命令系統の混乱を防ぐだけでなく、パワーバランスを分散させるための工夫としても注目すべきポイントと言えそうです。