2019/09/26 監査法人の交代理由開示、ガイドライン改正受け充実進むも残る課題(会員限定)

企業と会計監査人の癒着による会計不正発生への懸念から、継続監査期間(同一の会計監査人に継続して監査を受ける期間)に投資家の注目が集まる一方(2019年2月8日のニュース『EUでは「10年」が上限の継続監査期間、監査法人変更でも合算のケースも』参照)、会計監査人の交代(異動)も投資家にとって気になる話ではある。会計監査人の異動には、会計処理を巡り企業と会計監査人との間で見解に相違が生じていたり、“事故”につながることを懸念した会計監査人が自ら辞任したりといった事情が潜んでいることもあるからだ。

会計監査人の異動があった場合には臨時報告書で異動理由を開示する必要があるが、従来は交代の理由として単に「任期満了」とだけ記載するという不十分な開示例が多く見られた。そこで金融庁は2019年6月に企業内容等開示ガイドライン(以下、ガイドライン)を改正し、臨時報告書に会計監査人が異動した実質的な理由が記載されるよう、具体的な交代理由を例示している(企業内容等開示ガイドラインB基本ガイドライン(監査公認会計士等の異動理由及び経緯)24の5-23-2(1))。改正ガイドラインの内容は下記のとおり。

(1)実質的な異動理由としては、例えば次に掲げる事項(複数可)について詳細に記載することに留意する。
① 連結グループでの監査公認会計士等の統一
② 海外展開のため国際的なネットワークを有する監査公認会計士等へ異動
③ 監査公認会計士等の対応の適時性や人員への不満
④ 監査報酬
⑤ 継続監査期間
⑥ 監査期間中に直面した困難な状況
⑦ 会計・監査上の見解相違
⑧ 会計不祥事の発生
⑨ 企業環境の変化等による監査リスクの高まり
⑩ その他異動理由として重要と考えられるもの

ガイドラインの改正により臨時報告書の記載内容に変化があったかどうかを確認するため、当フォーラムが「2019年6月27日~9月18日」の間に提出された会計監査人の交代に関する臨時報告書21件を調査したところ、会計監査人の交代理由として挙げられていた事項は下表のとおりだった。

順位 交代理由 合計(延数)
1 監査報酬 10
2 継続監査期間 9
3 事業規模や近年の経営環境に見合った対応を求める 5
4 「任期満了」のみ 4
4 監査人から辞任の申し出 4
6 連結グループでの監査公認会計士等の統一 1
6 海外展開のため国際的なネットワークを有する監査公認会計士等へ異動 1
6 会計・監査上の見解相違 1
6 監査法人の体制の不備 1
6 組織変更に伴う監査人の見直し 1

また、21社の監査法人等の異動前、異動後の規模の状況は下表のとおりとなっている。

異動前→異動後 社数
中小監査法人→中小監査法人 8
大手監査法人→中小監査法人 7
大手監査法人→大手監査法人 3
中小監査法人→個人 3

「監査報酬」が交代理由のトップとなったのは、監査の品質管理向上に向けた取り組みに伴うコストアップから監査報酬の値上げを迫られるケースが増えているためと推測される。また、3番目に多かった「事業規模や近年の経営環境に見合った監査対応を求める」との交代理由は、企業側が効率的な監査を求めるものと思われ、これを監査工数の問題と捉えれば、トップの「監査報酬」と一体的な関係にあると言ってよいだろう。監査報酬の引き上げが会計監査人の交代につながっている実態が浮かび上がる。

冒頭でも触れた「継続監査期間」が監査報酬に次ぐ多さとなったことも注目に値するが、監査継続年数を会計監査人の交代理由とする場合には、少なくとも会社として会計監査人のローテーションに関するルールを整備・運用していることが必要であろう。したがって、そのようなルールがないにもかかわらず「継続監査期間」のみを交代理由とすることは避けるべきと考えられる。

「監査報酬」「継続監査期間」「事業規模や近年の経営環境に見合った監査対応を求める」というトップ3の理由がすべて盛り込まれた開示事例が下記だ。

(株)トーエルの臨時報告書より
(5)異動の決定または異動に至った理由及び経緯
 当社の会計監査人である有限責任監査法人トーマツは、2019年7月30日開催予定の第56回定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。監査等委員会は、当社の事業規模に適した監査対応と監査費用の相当性について、以前より他の監査法人と比較検討してまいりましたが、現会計監査人の監査継続年数が14年と長期にわたること並びに監査報酬の改定に鑑み、これを契機として新たな会計監査人の選任について検討いたしました。その結果、新たな視点での監査が必要な時期であること、会計監査人に必要とされる専門性、品質管理体制及び当社の事業活動に対する理解に基づき監査する体制を有していることなどを総合的に勘案し、監査法人A&Aパートナーズを当社の会計監査人として選任することが適当であると判断いたしました。

会計監査人の交代理由として「任期満了」のみを挙げた事例も4件(「監査人から辞任の申し出」と並び4位)と引き続き多かった。ただ、監査人の任期が通常1年で終了することからすれば、「任期満了」のみを記載することはそもそも交代理由の開示として不適切であり、実質的な交代理由の記載を促そうというガイドライン改正の意図にも反していると言えよう。

「会計・監査上の見解相違」は実質的な交代理由と言えるが、オピニオン・ショッピング(自社にとって都合の良い監査意見を表明してくれる会計監査人を新たに選任すること)と捉えられないよう、具体的にどのような点で見解が相違しているのかを明確にするため、自社・会計監査人両者の見解、自社の主張の正当性を詳細に開示することが必要になる。例えば、下記のインパクトホールディングス(株)の事例では、東陽監査法人から「CDGLの財務状況を確認できない状況ではCDGLに対する貸付債権(約11億円)の回収可能性について判断できない」「CDCSPLに対する投資額(約17億円)についても判断できない」旨の回答を得たとあるが、「CDGLの財務状況を確認できない」という内部統制不備の状況で、貸付債権および投資額の回収可能性に関する自社の合理的な説明が記載されていない。本来であれば、回収可能性に関する自社の主張の正当性を示す詳細な説明が必要だったと思われる。

インパクトホールディングス(株)の臨時報告書から抜粋
そこで、提出期限である9月13日までに四半期報告書の提出を間に合わせるべく、当社から東陽監査法人へCDGLへの貸付債権について、CDGLの財務状況が確認できないことで評価できないのであれば、保守的に貸付債権の全額を貸倒引当金として処理する方向で打診いたしましたが、東陽監査法人からは、CDGLの財務状況を確認できない状況ではCDGLに対する貸付債権(約11億円)の回収可能性については判断できない旨の回答を得ました。それに伴い、CDCSPLに対する投資額(約17億円)についても判断できない旨の回答を得ました。その後、当社と東陽監査法人で何度か折衝を重ねましたが、事態は進展しなかったため、東陽監査法人と協議の結果、監査及び四半期レビュー契約を解除することで合意に至りました。

当社はこれに伴い、会計監査人が不在となる事態を回避し、適正な監査業務が継続的に実施される体制を維持するため、新たな会計監査人の選定を進めてまいりました結果、本日開催の監査役会において監査法人アリアを一時会計監査人に選任することを決議いたしました。

2019/09/25 低い配当性向、無借金経営に機関投資家の厳しい目

時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案分析の第五弾では、・・・

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2019/09/25 低い配当性向、無借金経営に機関投資家の厳しい目(会員限定)

時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案分析の第五弾では、時価総額第6位(2019年8月末現在)のキーエンスをとり上げる。

第一弾 2019年9月5日『独立性の説明なければ「独立性なし」と“推定”される恐れ
第二弾 2019年9月9日『「独立役員届出書」の内容も議決権行使の判断材料に
第三弾 2019年9月10日「賛成率2%台の株主提案議案に機関投資家が賛成票
第四弾 2019年9月12日「親会社出身の社外監査役選任に賛成した機関投資家も
第五弾 2019年9月19日「役員報酬制度の設計が賛成率を左右する傾向顕著に

議案 内容 賛成率
第1号議案 剰余金の処分 配当性向:10.70%
自己資本比率:94.41%
68.85%
第2号議案 取締役9名選任 【名誉会長】滝崎武光 71.06%
【社長】山本晃則 84.32%
木村圭一 90.23%
山口昭司 90.23%
三木雅之 90.23%
中田有 90.97%
寒澤晃 90.21%
【社外】田辺陽一 96.54%
【社外】谷口誓一 97.93%
第3号議案 監査役1名選任 【社外】小村貢一郎 77.95%
第4号議案 補欠監査役1名選任 【社外】山本雅春 99.54%

枝番を合わせて全12議案のうち賛成率が60%台だったのが1議案、70%台が2議案、80%台が1議案と、否決こそないものの賛成率の低い議案が目に付く。

最も多くの反対票を集めた剰余金処分案に対しては、日興アセットマネジメント、JPモルガン・アセット・マネジメント、シュローダー・インベストメント・マネジメント、ピクテ投信投資顧問、マニュライフ・アセット・マネジメントなどが反対行使したことが確認された。日興アセットマネジメントは、議決権等行使基準で「著しく疑義がある場合、議案に反対する」としており、具体的には「総還元性向が上場企業平均より著しく低い場合」「手元流動性や株主資本比率の水準に妥当性が欠ける場合」などが反対行使の対象に挙げられている。生命保険協会の調査によると、投資家が中長期的に望ましいと考える配当性向は「30%以上40%未満」が最も多い中(平成29年度 生命保険協会調査「株式価値向上に向けた取り組みについて」34ページの図表55参照)、キーエンスは配当性向が10.70%と著しく低く、自己株消却も実施しておらず、さらに実質無借金で自己資本比率が非常に高いこともあって、日興アセットマネジメントの議決権等行使基準に抵触したとみられる。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
株主資本比率 : 企業の総資本(自己資本(資本金、法定準備金、剰余金等)+他人資本(借入金、社債等))に対する株主資本(自己資本)の割合。「自己資本比率」と概ね同じ意味である。
自己株消却 : 自社株を株式市場から買い入れて消却すること。自己株消却により株式市場に出回る株式数の減少によりEPS(Earnings Per Share(一株当たり利益)=当期純利益÷期末の発行済株式数)やROE(Return On Equity(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本)などが改善されるため、株式市場からは株価上昇の期待とともに好感されることが多く、近年は株主還元の一つに位置付けられている。また、企業にとっても、発行済株式数の減少により、株式の配当負担を軽減できるといったメリットがある。自己株消却には取締役会の決議が必要になる。なお、株式消却のために充てられる資金は、分配可能利益(利益準備金を除く利益剰余金など)の範囲内となる。

また、JPモルガン・アセット・マネジメントの議案別議決権行使指図結果を見ると、反対行使したケースとして「総還元性向が低いと判断した企業の剰余金処分案または取締役の再任」が挙げられている。個別開示結果を見ると、剰余金処分のみならず、代表取締役である名誉会長と社長の選任議案にも反対していることが確認された。もっとも、JPモルガン・アセット・マネジメントは議決権行使行使基準で「社外取締役の比率が総会後の取締役会で3分の1に満たない企業の社長等、代表取締役の再任」にも反対するとしており(ただし、JPモルガン・アセット・マネジメントはこの基準を少なくとも開示ベースでは明らかにしない)、キーエンスはこの方針にも抵触することから、複合的な理由で2人の代表取締役の選任議案に反対票を投じたと言えるだろう。

なお、剰余金処分議案に反対した上述の機関投資家は、いずれも名誉顧問の再任議案に反対している。なかでも日興アセットマネジメントは、新任者を除く取締役全員の選任議案に反対した。日興アセットマネジメントの議決権行使基準では、取締役選任議案に反対するケースとして「経営資源が効率的に運用されていないと考える場合」「株主価値を損なう行為があった場合」を挙げており、キーエンスはこれらの基準に抵触したものと考えられる。

監査役選任議案に反対した機関投資家としては、JPモルガン・アセット・マネジメント、シュローダー・インベストメント・マネジメント、ピクテ投信投資顧問、マニュライフ・アセット・マネジメントなどが確認された。逆に言うと、野村アセットマネジメントや大和証券投資信託委託(2020年4月1日付で「大和アセットマネジメント」に社名変更予定)など大手証券系、三菱UFJ信託銀行や三井住友トラスト・アセットマネジメントなど信託銀行系は軒並み賛成したことになる。候補者の小村氏は三井住友銀行の出身者であり、招集通知では「定常的な銀行取引」があると説明されている。もっとも、前述のとおりにキーエンスは実質無借金であり、また三井住友銀行は同社の大株主にもなっていないため、独立性に問題なしと判断されたのかもしれない。

2019/09/25 セミナー「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針への企業の対応」および「公正なM&Aの在り方に関する指針への企業の対応」を2019年11月14日(木)に開催しました。

本セミナーはすでに開催済みですが、会員の方向けにWEBセミナーを配信中です。
WEBセミナー:グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針への企業の対応
WEBセミナー:公正なM&Aの在り方に関する指針への企業の対応

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上場会社役員ガバナンスフォーラムでは、2019年11月14日(木)の14時30分~17時20分に下記のセミナーを開催します。
詳細はこちらもご覧ください。

時 間 テーマ 講 師
第一部
14:30

15:50
~第二のCGコード?
実務指針が企業グループに求めることと子会社管理への活用法~
「グループ・ガバナンス・システムに関する
実務指針」への企業の対応
TMI総合法律事務所
弁護士
佐藤 竜明 様
第二部
16:00

17:20
~公正性担保措置の狙いと課題は?
指針の読み方と実務上の落としどころ~
「公正なM&Aの在り方に関する指針」への企業の対応
TMI総合法律事務所
パートナー 弁護士
谷口 達哉 様

■第一部の詳細

セミナー
の内容
昨今、上場会社の子会社が不祥事を起こすケースの増加とともに、「企業グループとしてのガバナンス」の在り方に投資家等からの注目が集まっています。コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)は、主として上場企業単体の企業経営を念頭に作られているため、CGコードがそのままグループガバナンスの指針とはなりにくいということも、この問題を難しくしています。こうした中、経済産業省に設置されたCGS(コーポレート・ガバナンス・システム)研究会は2019年6月、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下、グループガイドライン)を公表したところです。グループガイドラインは、CGコードの趣旨に沿って、CGコードと整合性を保ちつつ、グループガバナンスの在り方を示しており、CGコードとは補完関係にあります。
本セミナーでは、日本取引所グループへの出向経験があり、グループガバナンスの実務に造詣の深いTMI総合法律事務所の佐藤竜明弁護士をお招きし、 “第二のコーポレートガバナンス・コード”とも言えるグループガイドラインが企業あるいは企業グループに何を求めているのか、それに対し企業はどのような対応を図るべきなのかについて分かり易く解説していただきます。また、グループガイドラインにはグループ経営を行う企業に対するヒアリングやアンケートの結果に基づく「グループガバナンスに関するベストプラクティス」が多数掲載されています。本セミナーではこれらについても分析していただき、子会社管理をはじめ企業が頭を悩ませるグループガバナンスの改善に役立ちそうな事例をピックアップし、解説していただきます。取締役・監査役、管理部門の担当者等にとっては実務に直結するセミナーになることでしょう。
講師の
ご紹介
佐藤 竜明(さとう たつあき)様
TMI総合法律事務所 弁護士。
TMI総合法律事務所にて、2014年1月以降、M&A、IPO、及び企業不祥事対応を含む、企業法務全般に従事。2016年8月から2018年9月まで、日本取引所自主規制法人にて、開示審査、上場廃止審査、特設注意市場銘柄指定・解除審査、不祥事予防プリンシプル策定、新規上場審査等を担当。2018年10月より現職。
共著書に、「起業の法務―新規ビジネス設計のケースメソッド」(商事法務)、「個人情報管理ハンドブック〔第4版〕」(商事法務)、「企業のためのサイバーセキュリティの法律実務」(商事法務)など。論文に、「「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」の解説[上][下]」(旬刊商事法務)、「スポーツガバナンスコード案<中央競技団体向け>について」(現代スポーツ評論(40))など。

■第二部の詳細

セミナー
の内容
経営者による企業買収(MBO:マネジメント・バイアウト)に関する公正なルールの在り方を示すため、2007年9月に経済産業省が「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(以下、MBO指針)を公表してから早や12年が経過しました。この間、上場企業を取り巻く環境は大きく変化し、MBOに関する実務、裁判例、議論の蓄積に加え、コーポレートガバナンス改革の大きな進展がありました。さらに、MBOと同様に「利益相反の問題」と「情報の非対称性の問題」が存在する「支配株主による従属会社の買収」のルールも定めるべきとの声も上がっていたところです。そこで経済産業省は2019年6月、従来のMBO指針の内容をアップデートしつつ、「支配株主による従属会社の買収」等のM&Aのルールを盛り込んだ「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下、本指針)を公表するに至りました。
本セミナーでは、金融庁への出向経験があり、M&Aの実務に精通した谷口達哉弁護士をお招きし、本指針の読み方や企業への影響について分かり易く解説していただきます。また、本指針の策定時には多くのパブリックコメントが寄せられましたが、それに対する経済産業省の回答の中には抽象的なものも少なくありません。例えば、公正なM&Aの実現をいかにして実現するのかとのコメントに対して経済産業省は、「形式上講じられた公正性担保措置の数よりも、講じられた措置が全体として果たす機能の実質が重要となる」と回答しています。本セミナーでは、パブリックコメントの結果を踏まえた実務的な“落としどころ”も示していただきます。
講師の
ご紹介
谷口 達哉(たにぐち たつや)様
TMI総合法律事務所 弁護士。
TMI総合法律事務所にて、2009年9月以降、TOBをはじめとする上場会社M&A案件に多数従事。2012年7月から2015年3月まで、金融庁総務企画局企業開示課に出向し、公開買付規制及び大量保有報告規制の改正・監督・執行業務や、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードの策定業務に従事。2015年4月より現職。
共著書に、『逐条解説 2013年金融商品取引法改正』(商事法務)、『逐条解説 2014年金融商品取引法改正』(商事法務)など。論文に、「■実務問答金商法 第1回■ 公開買付規制における「買付け等」の該当性」(旬刊商事法務)、「■実務問答金商法 第6回■ 任意的な公開買付けに対する公開買付規制の適用」(旬刊商事法務)、「■改訂CGコードと企業実務(1)■ コーポレートガバナンス・コードの改訂と政策保有株式」(旬刊商事法務)、「集団的エンゲージメントに関する金融商品取引法上の諸論点」(旬刊商事法務)、「種類株式の最新実務(2)金融商品取引法における種類株式の取扱い」(旬刊商事法務)、「種類株式の最新実務 (3) 公開買付規制における種類株式の取扱い」(旬刊商事法務)、「株式等売渡請求に関する金融商品取引法上の諸論点」(旬刊商事法務)、「『コーポレートガバナンス・コード原案』の解説〔Ⅰ〕~〔Ⅳ〕」(旬刊商事法務)など。

なお、セミナー参加費につきましては、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員のみ無料、それ以外の方は33,000円(税込 ※)となっております。
※セミナーお申込み前に会員登録いただくと、セミナー参加費は無料となります。

会員登録はこちらから

非会員で視聴をご希望の方はjimukyoku@govforum.jpまでご連絡いただければメールにてお申し込み方法をお知らせいたします(有料(33,000円)となります)。

その他、ご不明な点等がございましたら、ご遠慮なく jimukyoku@govforum.jpまでお問い合わせください。

<セミナー概要>

  • 第一部 「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」への企業の対応
  • 第二部 「公正なM&Aの在り方に関する指針」への企業の対応
  • 【日時】2019年11月14日(水)14時30分~17時20分
  • 【会場】六本木ヒルズ森タワー22階 TMI総合法律事務所セミナールーム
  • 【受付】六本木ヒルズ森タワーLL階ロビー 14時00分より
  • 【講師】第一部 TMI総合法律事務所 弁護士 佐藤 竜明 様
        第二部 TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士 谷口 達哉 様
  • 【セミナー参加費】当フォーラム会員は無料、それ以外の方は33,000円(税込)

2019/09/24 確定拠出年金導入企業の受託者責任

既報のとおり、昨年(2018年)6月1日に施行された改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に新設された【原則2-6. 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】は、上場企業(以下、母体企業)に対し、自社の企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、企業年金の人事面や運営面でどのような取り組みを行っているかを開示することを求めている(2018年3月15日のニュース「続報・CGコード改訂 企業年金への関与を求める原則に込められた“警告”」、2018年8月27日のニュース『原則2-6「アセットオーナーとしての機能発揮」への対応で明確な傾向』参照)。

CGコードの改訂時、このCGコード原則2-6を巡っては、同原則でいう「企業年金」とは何を指すのかとの疑問の声が上がったところ。特に、加入者個人が自己責任で運用するため、母体企業が年金積立金の運用に関与しないように見える「企業型確定拠出年金」も対象になるのかどうかは焦点の一つとなった。これに対し東証はパブリック・コメントに回答する形で、「原則2-6における『企業年金』は、基本的には、基金型規約型の確定給付年金及び厚生年金基金を想定しています。」「なお、ご指摘のとおり、確定拠出年金についても、運用が従業員の資産形成に影響を与えることは確定給付年金と同様であるため、一般論としては、例えば、運用機関・運用商品の選定や従業員に対する資産運用に関する教育の実施などの場面で、上場会社において適切な取組みがなされることが期待されるものと考えます。」との考えを示している(【2018年9月の課題】【原則2-6. 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】では何を開示するか 参照。なお、年金の種類についてはケーススタディ「【人事・労務】退職金を廃止・減額したい」の「廃止の対象となる退職金は?」の図参照)。

企業型確定拠出年金 : 企業が一定のルールに基づき掛金を拠出する確定供出年金(給付額が保障されていない年金)。一方、個人が掛金の金額を決め、個人が掛金を拠出する確定拠出年金が個人型確定拠出である。企業型確定拠出年金の中には従業員が一部掛金を負担する「マッチング拠出」タイプのものもある。いずれにせよ、掛金を運用するのはあくまで加入者個人であるという共通点がある。
基金型 : 確定給付企業年金(給付額が保障された年金)の1つで、母体企業から自社から独立した法人である基金(企業年金基金)を設立し、その基金が年金資産を管理運用する。
規約型 : 企業が保険会社や信託銀行等と契約を結び運営される確定給付年金のこと。保険会社や信託銀行等は、企業に代わり、給付に必要な保険料(掛け金)を集め、集めた資金を運用し、社員に給付する。
厚生年金基金 : 日本の公的年金制度は「1階部分」の国民年金と「2階部分」の厚生年金によって成り立っているが、確定給付年金や確定拠出年金同様、「3階部分」に相当する企業年金(私的年金)の一種。厚生年金基金の最大の特徴として、公的年金である厚生年金金保険料の一部を運用できるという「代行部分」があり、これに企業ごとのオリジナルの企業年金が加わって「厚生年金基金」を構成する。ただ、代行部分の運用利回りの悪化等に伴い、2014年4月以降は新規の厚生年金基金設立はできなくなり、事実上企業年金しての役割を終えている。

上記東証の回答を受け、同じく確定拠出年金を導入している上場企業でも、確定拠出年金の運用機関・運用商品の選定や従業員に対する資産運用に関する教育への取組みなどを開示しているところと、開示を行わないところが出て来ている(2018年7月4日のニュース「年金母体企業に機能発揮求める原則2-6、確定拠出年金導入企業の対応」参照)。このように、確定拠出年金を導入する企業は原則2-6に対応した開示を行わなくても特段問題はないとはいえ、・・・

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2019/09/24 確定拠出年金導入企業の受託者責任(会員限定)

既報のとおり、昨年(2018年)6月1日に施行された改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に新設された【原則2-6. 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】は、上場企業(以下、母体企業)に対し、自社の企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、企業年金の人事面や運営面でどのような取り組みを行っているかを開示することを求めている(2018年3月15日のニュース「続報・CGコード改訂 企業年金への関与を求める原則に込められた“警告”」、2018年8月27日のニュース『原則2-6「アセットオーナーとしての機能発揮」への対応で明確な傾向』参照)。

CGコードの改訂時、このCGコード原則2-6を巡っては、同原則でいう「企業年金」とは何を指すのかとの疑問の声が上がったところ。特に、加入者個人が自己責任で運用するため、母体企業が年金積立金の運用に関与しないように見える「企業型確定拠出年金」も対象になるのかどうかは焦点の一つとなった。これに対し東証はパブリック・コメントに回答する形で、「原則2-6における『企業年金』は、基本的には、基金型規約型の確定給付年金及び厚生年金基金を想定しています。」「なお、ご指摘のとおり、確定拠出年金についても、運用が従業員の資産形成に影響を与えることは確定給付年金と同様であるため、一般論としては、例えば、運用機関・運用商品の選定や従業員に対する資産運用に関する教育の実施などの場面で、上場会社において適切な取組みがなされることが期待されるものと考えます。」との考えを示している(【2018年9月の課題】【原則2-6. 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】では何を開示するか 参照。なお、年金の種類についてはケーススタディ「【人事・労務】退職金を廃止・減額したい」の「廃止の対象となる退職金は?」の図参照)。

企業型確定拠出年金 : 企業が一定のルールに基づき掛金を拠出する確定供出年金(給付額が保障されていない年金)。一方、個人が掛金の金額を決め、個人が掛金を拠出する確定拠出年金が個人型確定拠出である。企業型確定拠出年金の中には従業員が一部掛金を負担する「マッチング拠出」タイプのものもある。いずれにせよ、掛金を運用するのはあくまで加入者個人であるという共通点がある。
基金型 : 確定給付企業年金(給付額が保障された年金)の1つで、母体企業から自社から独立した法人である基金(企業年金基金)を設立し、その基金が年金資産を管理運用する。
規約型 : 企業が保険会社や信託銀行等と契約を結び運営される確定給付年金のこと。保険会社や信託銀行等は、企業に代わり、給付に必要な保険料(掛け金)を集め、集めた資金を運用し、社員に給付する。
厚生年金基金 : 日本の公的年金制度は「1階部分」の国民年金と「2階部分」の厚生年金によって成り立っているが、確定給付年金や確定拠出年金同様、「3階部分」に相当する企業年金(私的年金)の一種。厚生年金基金の最大の特徴として、公的年金である厚生年金金保険料の一部を運用できるという「代行部分」があり、これに企業ごとのオリジナルの企業年金が加わって「厚生年金基金」を構成する。ただ、代行部分の運用利回りの悪化等に伴い、2014年4月以降は新規の厚生年金基金設立はできなくなり、事実上企業年金しての役割を終えている。

上記東証の回答を受け、同じく確定拠出年金を導入している上場企業でも、確定拠出年金の運用機関・運用商品の選定や従業員に対する資産運用に関する教育への取組みなどを開示しているところと、開示を行わないところが出て来ている(2018年7月4日のニュース「年金母体企業に機能発揮求める原則2-6、確定拠出年金導入企業の対応」参照)。このように、確定拠出年金を導入する企業は原則2-6に対応した開示を行わなくても特段問題はないとはいえ、「受託者責任」を負っているという自覚は持っておく必要がある。

米国では先月(2019年8月)、ドラッグストア大手のウォルグリーン社が、同社が導入する確定拠出年金について、従業員の受給権保護に関する法律であるエリサ法に定める受託者責任を果たしていなかったとして、年金の現・元加入者12名から訴訟を起こされている。現・元加入者は、同社が選定したファンドの運用実績が2013年の組み入れ当初から現在まで継続して他のファンドやベンチマークを下回っていたにもかかわらず、同社がこのファンドを提供し続けたことがエリサ法上の受託者義務違反に該当するとしている。損害賠償額は、2014年1月1日から現在までに生じた損失相当額で、実に3億ドルにものぼる。

エリサ法: 米国の企業年金制度や福利厚生制度の設計や運営を統一的に規定する連邦法であり、企業年金等に加入する従業員の受給権保護を最大の目的としている。ERISA(エリサ)とは「Employee Retirement Income Security Act(従業員退職所得保障法)」の頭文字をとった作られた通称。

日本の確定拠出年金法でも、受託者責任は制度運営に関わる者が負うとされているため(確定拠出年金法43条4項一号)、加入者個人が自己責任で運用する確定拠出年金制度を導入する企業であっても、制度の運営者である企業(事業主)が受託者責任を負うことになる可能性は高い。

(事業主の行為準則)
第43条 事業主は、法令、法令に基づいてする厚生労働大臣の処分及び企業型年金規約を遵守し、企業型年金加入者等のため忠実にその業務を遂行しなければならない。
2  略
3  略
4 事業主(運用関連業務を行う者である場合に限る。)は、次に掲げる行為をしてはならない。
一 自己又は企業型年金加入者等以外の第三者の利益を図る目的をもって、特定の運用の方法を選定すること。
  以下略

また、事業主によっては、運用商品の選定を運営管理機関にアウトソースしていることもあるが、この場合も、アウトソース先の運営管理機関を選んだ企業(事業主)の責任が問われることになろう(確定拠出年金法100条五号)。

第100条 確定拠出年金運営管理機関は、次に掲げる行為をしてはならない。
一~ 四 略
五 自己又は加入者等以外の第三者の利益を図る目的をもって、特定の運用の方法を加入者等に対し提示すること。
  以下略

すなわち、確定拠出年金を巡り、企業が加入者・受給者に訴えられるという事態は日本でも起こり得るということだ。

企業年金によるスチュワードシップ活動の取組み推進は次期フォローアップ会議でも重要なテーマの一つとなる(2019年8月20日のニュース「フォローアップ会議、今後の検討テーマは?」参照)。上記パブリック・コメントに対する東証の回答にも「例えば、運用機関・運用商品の選定や従業員に対する資産運用に関する教育の実施などの場面で、上場会社において適切な取組みがなされることが期待される」とあるように、確定拠出年金制度を導入した企業が「自社にはスチュワードシップ責任は関係ない」と考えるのはリスキーと言えよう。

2019/09/20 議案の事前説明に対する機関投資家の考え方

周知のとおり、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードには機関投資家と上場会社の対話(エンゲージメント)を促す規定が入っている(下記参照)。コーポレートガバナンス・コードでは「基本原則」の一つとされていることからも分かるように、いずれも両コードの“本丸”に位置付けられる規定と言えるが、実際のところ、すべての上場会社が対話に取り組んでいるわけではない。

スチュワードシップ・コード原則4
機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。

コーポレートガバナンス・コード基本原則5
【株主との対話】
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

全国株懇連合会(以下、全株懇)が昨年(2018年)10月に公表した調査結果によると、機関投資家に議案の事前説明を実施している上場会社は、調査対象となった上場会社のうち約16%(前年比約2.8%増)に過ぎない(平成30年度全株懇調査報告書の16ページ参照)。2019年度の調査報告書(現在時点では未公表)ではより高い数字が出て来ることが予想されるとはいえ、スチュワードシップ・コードの導入(2014年2月~)から4年、コーポレートガバナンス・コードの導入(2015年6月~)から3年が経過している中で、およそ8割の上場会社が機関投資家に議案の事前説明を実施したことがないという調査結果は若干ショッキングなものと言えるかもしれない。

この8割の上場会社は、機関投資家に対する議案の事前説明の効果を認識しておく必要がある。既報のとおり、日本投資顧問業協会が昨年(2018年)12月に公表した「日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケート(第5回)の結果について」によると、「エンゲージメント活動の結果、会社からの事前説明を受けて賛否等を変更した議案がありますか。」との問いに対して「変更した議案がある」と答えた機関投資家は全体(150社)のうち24.7%にのぼっている(2019年1月8日のニュース「数字が証明するエンゲージメントの意義」参照)。

もっとも、逆に言えば75.3%の機関投資家は事前説明を受けても議案への賛否等を変更しなかったということであり、機関投資家にやみくもに事前説明を行っても徒労に終わる可能性は小さくない。こうした事態を避けるうえで参考になるのが、・・・

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2019/09/20 議案の事前説明に対する機関投資家の考え方(会員限定)

周知のとおり、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードには機関投資家と上場会社の対話(エンゲージメント)を促す規定が入っている(下記参照)。コーポレートガバナンス・コードでは「基本原則」の一つとされていることからも分かるように、いずれも両コードの“本丸”に位置付けられる規定と言えるが、実際のところ、すべての上場会社が対話に取り組んでいるわけではない。

スチュワードシップ・コード原則4
機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。

コーポレートガバナンス・コード基本原則5
【株主との対話】
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

全国株懇連合会(以下、全株懇)が昨年(2018年)10月に公表した調査結果によると、機関投資家に議案の事前説明を実施している上場会社は、調査対象となった上場会社のうち約16%(前年比約2.8%増)に過ぎない(平成30年度全株懇調査報告書の16ページ参照)。2019年度の調査報告書(現在時点では未公表)ではより高い数字が出て来ることが予想されるとはいえ、スチュワードシップ・コードの導入(2014年2月~)から4年、コーポレートガバナンス・コードの導入(2015年6月~)から3年が経過している中で、およそ8割の上場会社が機関投資家に議案の事前説明を実施したことがないという調査結果は若干ショッキングなものと言えるかもしれない。

この8割の上場会社は、機関投資家に対する議案の事前説明の効果を認識しておく必要がある。既報のとおり、日本投資顧問業協会が昨年(2018年)12月に公表した「日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケート(第5回)の結果について」によると、「エンゲージメント活動の結果、会社からの事前説明を受けて賛否等を変更した議案がありますか。」との問いに対して「変更した議案がある」と答えた機関投資家は全体(150社)のうち24.7%にのぼっている(2019年1月8日のニュース「数字が証明するエンゲージメントの意義」参照)。

もっとも、逆に言えば75.3%の機関投資家は事前説明を受けても議案への賛否等を変更しなかったということであり、機関投資家にやみくもに事前説明を行っても徒労に終わる可能性は小さくない。こうした事態を避けるうえで参考になるのが、経済産業省に新たに設置された「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」で紹介された投資家の意見だ。同研究会はハイブリッド型バーチャル株主総会について検討を行った「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会」の後継の会合に位置付けられる。2019年8月26日に開催された第1回会合に先立ち事務局と投資家等の間で意見交換が行われているが、そこで得られた意見のうち、機関投資家への議案の事前説明を実のあるものとするために役立つと思われるものを紹介しよう(第1回会合で配布された事務局資料より抜粋)。

機関投資家の意見
対話のスケジュール 招集通知を発送(または開示)してから面談の要望があったとしても、総会スケジュールが過密である状況では応えられないことも多い。論点になりそうな議論の場合には議案上程前から対話できるとよい。
(6月総会の場合)5月中に招集通知が出ているのはごくわずか。約半分の企業は2週間前にしか情報が出ない。社外取締役の取締役会への出席率など、議決権行使判断に必要な情報が載っていないこともあり、その場合には個別に確認が必要だがスケジュール的に厳しい。
対話にあたっての上場会社側の姿勢 意味のある対話を行うことにリソースを割いている会社は、機関投資家が個別開示をしなくても、結果を個別に聞きに来ている。→2018年4月17日のニュース「議決権行使結果の個別開示が企業にもたらした効果」参照
対話が不要なケース 特に問題になるような議案がなければ総会の直前に対話する必要はない。
議案によっては、そもそも対話によって判断が変わることがないようなものもある。事前に議決権行使基準を開示していることもあり、理解を得たいところ。
エンゲージメントはコストがかかるので、追加でフィーが支払われないと、きめ細やかな対応は体制的に難しい。
コンタクトパーソン(対話すべき相手方)の設定 議決権行使担当者にIRの話をするなど、企業側が機関投資家の誰にアプローチしたらよいかということを分かっていないことが多い。

一方、上場会社やコンサルティング会社からは次のような意見が寄せられている。

上場会社・コンサルティング会社の意見
上場会社の姿勢 総会終了後、賛否の調査を行い、反対票を投じた機関投資家とは面談を実施。次年度以降の議案や社内のガバナンス体制の設計に生かすようにしている。
忙しい総会前の時期に無理に対話を行おうとするのではなく、平時から機関投資家の考え方を聞き、それを受けて透明性をもった形で変化することが大事。
機関投資家の議決権行使基準をあらかじめチェックし、基準とは異なる判断をしてもらう必要があるときには、早めに対話を行い、どういった情報を開示すべきかを明らかにするようにしている。
機関投資家と上場会社のどちら側が対話を申し入れるにせよ、あらかじめ事前質問を投げて問題意識を明確にすべき。
対話は、投資額や投資額が総資産に占める割合、または重要テーマを決めて行うべき。→2019年3月18日のニュース『「政策保有株式」が株主総会議案の賛成率に及ぼす影響』参照
投資額の大きい機関投資家から優先順位を付けて対話することも必要。アセットオーナーと直接の対話が有効な場面もある。→2019年7月25日のニュース「企業の対話相手に変化の兆し」、2019年3月1日のニュース「GPIFがESG投資に取り組まなければならない構造的な理由」参照
上場会社・機関投資家の体制 上場会社の対話担当者がIR組、SR組、CSRESG)組に分かれているように、投資家サイドもファンドマネージャー、アナリスト、議決権行使担当者といったように分断が生じている。相互の一体的な活動が必要。
対話すべき相手方 パッシブの機関投資家とどのような対話を行うかは悩ましいが、主に責任投資部門に対して説明を行うようにしている。→2019年2月7日のニュース「“パッシブ化”の進行と東証の市場構造の見直しが与える株価への影響」参照

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。
CSR : CSRとは「Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任」の略で、企業は社会の一員として社会に与える影響に対して責任を負うべきであるという考え方。
ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
パッシブ : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネージャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。
責任投資 : 投資判断プロセスにESG(環境、社会、ガバナンス)を反映すること。RI(Responsible Investment)と略されることも多い。

上記の意見からは、対話のスケジュールやテーマ、企業側の姿勢などについて、上場会社と機関投資家の間に認識のギャップが生じていることがうかがえる。機関投資家に議案の事前説明には、これらの意見を参考に十分に戦略を練ってから臨む必要がある。

 

2019/09/19 役員報酬制度の設計が賛成率を左右する傾向顕著に

時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案分析の第五弾では、時価総額第5位(2019年8月末現在)の・・・

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2019/09/19 役員報酬制度の設計が賛成率を左右する傾向顕著に(会員限定)

時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案分析の第五弾では、時価総額第5位(2019年8月末現在)のソニーをとり上げる。

第一弾 2019年9月5日『独立性の説明なければ「独立性なし」と“推定”される恐れ
第二弾 2019年9月9日『「独立役員届出書」の内容も議決権行使の判断材料に
第三弾 2019年9月10日「賛成率2%台の株主提案議案に機関投資家が賛成票
第四弾 2019年9月12日「親会社出身の社外監査役選任に賛成した機関投資家も

議案 内容 賛成率
第1号議案 取締役13名選任 【社長兼CEO】吉田憲一郎 97.00%
【CFO】十時裕樹 99.00%
【社外】隅修三 99.00%
ティム・シャーフ 99.00%
【社外】松永和夫 99.00%
【社外】宮田孝一 97.00%
【社外】ジョン・V・ルース 99.00%
【社外】桜井恵理子 99.00%
【社外】皆川邦仁 99.00%
【社外】岡俊子 99.00%
【社外】秋山咲恵 99.00%
【社外】ウェンディ・ベッカー 99.00%
【社外】畑中好彦 99.00%
第2号議案 ストックオプションの発行(市場価額による行使) 付与数:100株
行使期間:1~10年
85.00%

取締役選任議案は全て95%以上の賛成率を獲得している。取締役候補者13名中の11名までを社外取締役が占めるという取締役会の独立性の高さ、前々期が18%、前期が27%という高いROEが評価されたものと言えよう。社長兼CEOの吉田氏の賛成率は97%と若干低くなっているが、少なくとも大手の国内機関投資家で反対した事例は確認できなかった。一部の外国人機関投資家などが何らかの不満を表明するために反対票を投じた可能性はある。同社の有価証券報告書によると、吉田氏の前期の役員報酬は現金が約4億円、ストックオプションが約2億円、譲渡制限付株式が約2億円となっており、株主の中に高額報酬を嫌う外国人機関投資家が存在することも考えられよう。

同じく97%の賛成率であった宮田氏については、JPモルガン・アセットマネジメント、SBIアセットマネジメント、パインブリッジ・インベストメンツによる反対行使が確認された。同氏は三井住友フィナンシャルグループの会長であり、ソニーとの金融取引の存在(ソニーのメインバンクは三井住友銀行)が独立性を毀損すると判断された模様。例えばJPモルガン・アセットマネジメントは議決権行使基準において、「基本的に肯定的に判断する。社外取締役の独立性、取締役の数に関する別項の基準に抵触する場合は否認する」としており、具体的には、社外取締役の独立性基準が「原則として「独立性」があるとはせず、企業から適切な説明がない限り、利害関係がある者として選任案に反対する」とする「大株主又は主要な取引先企業に在籍していた者」に該当すると判断されたものとみられる(JPモルガン・アセットマネジメントが定める「社外取締役の独立性基準」はこちら)。
 
一方、国内機関投資家の多くは宮田氏の選任議案に賛成票を投じている。三菱UFJ信託銀行の議決権行使基準では、社外取締役の選任議案に反対するケースとして、①独立役員届出書がない者、②大株主(持ち株比率10%)の出身者、③在任期間が20年以上の者、の3つを挙げており、同氏はこれらをいずれもクリアしている。特に上記①については同様の基準を持っている国内機関投資家は少なくない。上場企業としては、独立役員届出書の重要性を再認識すべきだろう。

独立役員届出書 : 証券取引所では、企業行動規範の「遵守すべき事項」として、上場会社に独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)を1名以上確保することを求めており、上場会社は独立役員の確保に係る企業行動規範の遵守状況を示すため「独立役員届出書」に自社の独立役員を記載して証券取引所に提出しなければならない。

なお、外国人機関投資家に強い影響力を持つ議決権行使助言会社最大手のISSは、指名委員会等設置会社について「株主総会後の取締役会の過半数が独立していない場合、ISS の独立性基準を満たさない社外取締役」の選任議案に反対推奨する旨、ポリシー(5ページ参照)で定めている。この点でソニーの取締役会は、宮田氏を除いてもなお13人中の10人が社外取締役であるため、同氏も含め誰一人として反対行使の対象とはならなかったと考えられる。

ストックオプション議案については賛成率85%と、若干低さが目立っている。国内機関投資家では野村アセットマネジメント、日興アセットマネジメント、パインブリッジ・インベストメンツによる反対行使が確認された。野村アセットマネジメントは「譲渡制限期間が3年未満の場合(ストックオプションを含む)」に反対、日興アセットマネジメントは「報酬が業績に適切に連動しており、その計算根拠が明確な場合」でなければ反対するとしており、最短で1年後には権利行使が可能となり、業績と連動する明確な仕組みもないソニーのストック・オプション)はその両面(待機期間、業績連動性)から反対された可能性がある。役員報酬に対する注目度が高まる中、その制度設計が賛成率を左右する傾向が顕著になってきていると言えよう。

 権利行使禁止期間(新株予約権の割当日から1年間)を置くとともに、付与対象者との間の割当契約において、行使可能数の制限(原則として毎年付与数の3分の1ずつ解除され、付与日から3年後に初めて全付与数が行使可能)や行使時における在籍要件などの権利行使制限を設けており、今後発行されるストック・オプションについても同様の権利行使禁止期間や権利行使制限を設定する予定だという(同社の株主総会招集通知の29ページ「ご参考」参照)。