2019/07/16 2019年6月株主総会 賛成率40%超の株主提案が15議案(会員限定)

2019年6月株主総会では株主提案議案が相次いだが、上場会社役員ガバナンスフォーラムが各社の臨時報告書を確認したところ、下表のとおり15議案が40%超という高い賛成率となっていたことが分かった(低賛成率の会社提案議案については7月8日のニュース「速報・2019年6月株主総会 取締役選任議案が2件否決」参照)。

社名 議案 概要 賛成率
LIXILグループ 取締役選任 社外:公的年金元役員 64.6%
LIXILグループ 取締役選任 社内:0.1%株主 58.7%
LIXILグループ 取締役選任 社内:元CEO 53.7%
武田薬品工業 定款一部変更 クローバック条項の導入 52.2%
LIXILグループ 取締役選任 社外:コンサルタント 52.0%
LIXILグループ 取締役選任 社内:子会社CEO 51.4%
LIXILグループ 取締役選任 社内:元副社長 50.8%
スパンクリート 取締役選任 社内:8%株主 50.4%
スパンクリート 監査役選任 社外:元常務(1997年退任) 50.3%
スパンクリート 取締役選任 社内:建材メーカー 50.2%
スパンクリート 取締役選任 社内:元常勤監査役 50.2%
武田薬品工業 定款一部変更 役員報酬の個別開示 49.7%
関西電力 定款一部変更 役員報酬の個別開示 43.1%
九州旅客鉄道 取締役選任 社外: PBファンド 41.7%
九州旅客鉄道 取締役選任 社内:投資銀行 40.1%

PBファンド : 富裕層向けに組成されたファンド。投資先は国内外の不動産、債券、株式など多岐にわたる。PBとはプライベート・バンキング(富裕層向け金融)の略。

賛成率上位のほとんどは、創業家と元CEOの経営権争いを背景としたLIXILグループの取締役選任議案で占められた。最も多くの支持を集めたのは公的年金の元役員である社外取締役で、64.6%という異例の高賛成率となった。次いで創業家系の社内取締役が58.7%、元CEOの社内取締役が53.7%の賛成率を獲得しており、経営権が提案株主側に移動したことを象徴している(なお、会社提案と重複した社外取締役2名の選任議案は賛成率が90%を超えた)。

LIXILグループの取締役選任議案に割って入るように上位にランクインしたのが、武田薬品工業の役員報酬についてクローバック条項を導入する定款変更議案だ。クローバック条項とは、利益の大幅な下方修正や不正、巨額の損失発生時等において、過去に支給した役員報酬の返還や減額を求めるもの。本議案への賛成率は定款の変更に必要な 特別決議の要件である「3分の2」には達せず、本議案は否決されたものの、過半数は超えた。直近期の同社のROEが3%にとどまったにもかかわらず、経営トップの報酬は前期比で1.5倍近い17億円超であったことも、賛成票が集まった背景の一つと言えそうだ。

特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。

同様に業績不振が影響したと考えられるのが、スパンクリートコーポレーションの株主提案議案である。同社のROEは過去6期連続で5%を下回っており、主力事業の立て直しが必要として、元取締役である同社顧問が提起した役員選任議案が可決された。同氏は大株主であり、他の大株主である個人および法人を合わせると3割程度の議決権は確保していたとみられ、ここに一般株主の現経営陣に対する批判票が加わった結果と言えよう。

賛成率が過半数には到達しなかったものの、役員報酬の個別開示を求める2つの定款変更議案も多くの支持を集めた。いずれも取締役全員を対象としているが、金額のみを問題とする関西電力の議案に対して、武田薬品工業の議案では金額と内容および決定方法の開示を求めている。役員報酬について「プロセス」まで踏み込んで説明責任を求めるものと言える。

九州旅客鉄道の株主提案では、2名の取締役候補者が約4割の賛成票を獲得した。この株主提案は、同社の株式を約1%保有する米ファンドのファーツリー・パートナーズによるもので、取締役候補者はいずれも不動産ビジネスに知見のある人物である。この両者には議決権行使助言最大手のISSが賛成推奨したことが同社のリリースによって明らかにされており、外国人機関投資家の議決権行使に大きく影響したと推測される。議決権行使助言会社がビジネスに立ち入って株主提案を判断したことは、今後、株主提案に対する企業の警戒心を高める一因となりそうだ。

2019/07/12 公正なM&A指針公表、公正性担保措置を“やったフリ”に強い懸念

2019年6月28日に経済産業省のCGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会) が公表した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下、グループ・ガバナンス実務指針)の「6 上場子会社に関するガバナンスの在り方」でも多くのページが割かれているように(2019年5月7日のニュース「グループ・ガバナンス実務指針案、上場子会社の扱いに“特段の配慮” 」参照)、昨今、上場子会社における親会社株主と少数株主との間での利益相反構造に対する投資家の目線は厳しさを増している(2019年6月18日のニュース「子会社上場を維持するかどうかの判断基準」参照)。今後は、利益相反構造の解消を企図した上場子会社の経営陣によるMBOや親会社による子会社買収の増加が見込まれる。

利益相反 : 例えば親会社の要請を受け、上場子会社のサービスを親会社にだけ一般価格よりも割安の価格で提供した場合、親会社はコストダウンを図ることができる一方で、子会社の収益機会はその分損なわれ、ひいては子会社の一般株主の配当減や株価下落につながることになる。
MBO : MBO(マネジメント・バイアウト)とは、現在の経営者が全部または一部の資金を出資し、事業の継続を前提として一般株主から対象会社の株式を取得することをいう。

ただ、少数株主が不利益を被るようなMBOや子会社買収が行われないとは限らない。例えば、買収価格を公正な企業価値よりも低く設定するMBOや子会社買収では、結局のところ少数株主が損失を被ることになる。こうした中、経済産業省はグループ・ガバナンス実務指針と同日(2019年6月28日)に「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下、本指針)を明らかにした。これは、「公正なM&Aの在り方に関する研究会」(座長:神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)での議論をとりまとめたもので、2019年5月14日から2019年6月12日まで募集していたパブリックコメントに寄せられた意見を踏まえ、このたび確定版の公表に至っている。本指針は、名称からするとM&A全般を対象としているようにも見えるが、実際のところM&Aの中でもMBOと親会社による子会社の買収を主な対象として「ベストプラクティス」を提示するものとなっている。また、本指針は、経済産業省が2007年9月4日に公表した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」の方向性を受け継ぐものであり、公正性を担保するための措置が解説されている。

本指針の内容を端的に示すキーワードとなるのが「特別委員会」「マーケット・チェック」「マジョリティ・オブ・マイノリティ条件」「情報開示」の4つだ。これらについては既に2019年4月19日のニュース「M&Aの説明責任、特別委員会の設置と開示が鍵に」で解説したところだが、さらに本指針では、M&Aにおいては次の「2つの原則」と「2つの視点」が重要だとされている。

マジョリティ・オブ・マイノリティ条件 : M&Aの実施に際し、「株主総会における賛否の議決権行使」や「公開買付けへの応募の有無」により当該M&Aの是非に関する株主の意思表示が行われる場合に、一般株主、すなわち買収者と重要な利害関係を共通にしない株主が有する株式の過半数の支持を得ることを取引の前提条件とし、当該前提条件をあらかじめ公表すること。M&Aがマジョリティ・オブ・マイノリティ条件を満たせば、一般株主による判断の機会が確保され、M&Aの条件が一般株主にとって有利なものとなりやすいと言える。

第1原則 企業価値の向上
望ましいM&Aか否かは、企業価値を向上させるか否かを基準に判断されるべきである。
第2原則 公正な手続を通じた一般株主利益の確保
M&Aは、公正な手続を通じて行われることにより、一般株主が享受すべき利益が確保されるべきである。
視点1 取引条件の形成過程における独立当事者間取引と同視し得る状況の確保
対象会社においてM&Aの是非や取引条件の妥当性についての交渉および判断が行われる過程において、M&Aが相互に独立した当事者間で行われる場合と実質的に同視し得る状況、すなわち、構造的な利益相反の問題や情報の非対称性の問題に対応し、企業価値を高めつつ一般株主にとってできる限り有利な取引条件で M&Aが行われることを目指して合理的な努力が行われる状況を確保すること。
視点2 一般株主による十分な情報に基づく適切な判断の機会の確保
MBOおよび支配株主による従属会社の買収においては、買収者と一般株主との間の情報の非対称性により、取引条件の妥当性等について一般株主による十分な情報に基づいた適切な判断(インフォームド・ジャッジメント)が行われることが当然には期待しにくいことを踏まえて、一般株主に対して、適切な判断を行うために必要な情報を提供し、適切な判断を行う機会を確保すること。

本指針では、これら2つの原則および2つの視点を実現するための公正性担保措置として、特別委員会の設置、外部専門家の助言、マーケット・チェック、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件、強圧性排除などの措置を紹介している。その中でも特に注目したいのが「特別委員会()」の設置だ。特別委員会は、本指針では手続きの公正性を確保するうえでの「基点」と位置付けられている(本指針 3.2.3)。というのも、特別委員会の設置は、それ自体がM&Aの公正性を担保する上で有効性の高い公正性担保措置であること(本指針 3.2.3を参照)に加えて、特別委員会には、他の公正性担保措置をどの程度講じるべきかを検討する役割を担うことも期待されるからだ。

 特別委員会とは、取締役会に利益相反のおそれがある場合に、本来取締役会に期待される役割を補完し、または代替する独立した主体として任意に設置される合議体である。特別委員会は、独立性を有する者で構成され、重要な情報を得たうえで、企業価値の向上および一般株主の利益を図る立場から、M&Aの是非や取引条件の妥当性、手続の公正性について、検討および判断を行う。特別委員会には、取引条件の形成過程において、構造的な利益相反の問題および 情報の非対称性の問題に対応し、企業価値を高めつつ一般株主にとってできる限り有利な取引条件で当該M&Aが行われることを目指して合理的な努力が行われる状況を確保する機能が期待されている。

情報の非対称性 : 自社の情報については、経営陣など社内の人間の方が投資家よりも詳しいということ。

本指針の公表に合わせて、パブリックコメント募集の結果寄せられたコメントとそれに対する経済産業省の考え方(以下、「本パブコメ結果」)も公表されている(こちらを参照)。主なコメントとそれに対する経済産業省の考え方および実務上の留意点を下表にとりまとめたので、参考にされたい(ページ数や番号は本パブコメ結果のページ数等に対応している)。・・・

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2019/07/12 公正なM&A指針公表、公正性担保措置を“やったフリ”に強い懸念(会員限定)

2019年6月28日に経済産業省のCGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会) が公表した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下、グループ・ガバナンス実務指針)の「6 上場子会社に関するガバナンスの在り方」でも多くのページが割かれているように(2019年5月7日のニュース「グループ・ガバナンス実務指針案、上場子会社の扱いに“特段の配慮” 」参照)、昨今、上場子会社における親会社株主と少数株主との間での利益相反構造に対する投資家の目線は厳しさを増している(2019年6月18日のニュース「子会社上場を維持するかどうかの判断基準」参照)。今後は、利益相反構造の解消を企図した上場子会社の経営陣によるMBOや親会社による子会社買収の増加が見込まれる。

利益相反 : 例えば親会社の要請を受け、上場子会社のサービスを親会社にだけ一般価格よりも割安の価格で提供した場合、親会社はコストダウンを図ることができる一方で、子会社の収益機会はその分損なわれ、ひいては子会社の一般株主の配当減や株価下落につながることになる。
MBO : MBO(マネジメント・バイアウト)とは、現在の経営者が全部または一部の資金を出資し、事業の継続を前提として一般株主から対象会社の株式を取得することをいう。

ただ、少数株主が不利益を被るようなMBOや子会社買収が行われないとは限らない。例えば、買収価格を公正な企業価値よりも低く設定するMBOや子会社買収では、結局のところ少数株主が損失を被ることになる。こうした中、経済産業省はグループ・ガバナンス実務指針と同日(2019年6月28日)に「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下、本指針)を明らかにした。これは、「公正なM&Aの在り方に関する研究会」(座長:神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)での議論をとりまとめたもので、2019年5月14日から2019年6月12日まで募集していたパブリックコメントに寄せられた意見を踏まえ、このたび確定版の公表に至っている。本指針は、名称からするとM&A全般を対象としているようにも見えるが、実際のところM&Aの中でもMBOと親会社による子会社の買収を主な対象として「ベストプラクティス」を提示するものとなっている。また、本指針は、経済産業省が2007年9月4日に公表した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」の方向性を受け継ぐものであり、公正性を担保するための措置が解説されている。

本指針の内容を端的に示すキーワードとなるのが「特別委員会」「マーケット・チェック」「マジョリティ・オブ・マイノリティ条件」「情報開示」の4つだ。これらについては既に2019年4月19日のニュース「M&Aの説明責任、特別委員会の設置と開示が鍵に」で解説したところだが、さらに本指針では、M&Aにおいては次の「2つの原則」と「2つの視点」が重要だとされている。

マジョリティ・オブ・マイノリティ条件 : M&Aの実施に際し、「株主総会における賛否の議決権行使」や「公開買付けへの応募の有無」により当該M&Aの是非に関する株主の意思表示が行われる場合に、一般株主、すなわち買収者と重要な利害関係を共通にしない株主が有する株式の過半数の支持を得ることを取引の前提条件とし、当該前提条件をあらかじめ公表すること。M&Aがマジョリティ・オブ・マイノリティ条件を満たせば、一般株主による判断の機会が確保され、M&Aの条件が一般株主にとって有利なものとなりやすいと言える。

第1原則 企業価値の向上
望ましいM&Aか否かは、企業価値を向上させるか否かを基準に判断されるべきである。
第2原則 公正な手続を通じた一般株主利益の確保
M&Aは、公正な手続を通じて行われることにより、一般株主が享受すべき利益が確保されるべきである。
視点1 取引条件の形成過程における独立当事者間取引と同視し得る状況の確保
対象会社においてM&Aの是非や取引条件の妥当性についての交渉および判断が行われる過程において、M&Aが相互に独立した当事者間で行われる場合と実質的に同視し得る状況、すなわち、構造的な利益相反の問題や情報の非対称性の問題に対応し、企業価値を高めつつ一般株主にとってできる限り有利な取引条件で M&Aが行われることを目指して合理的な努力が行われる状況を確保すること。
視点2 一般株主による十分な情報に基づく適切な判断の機会の確保
MBOおよび支配株主による従属会社の買収においては、買収者と一般株主との間の情報の非対称性により、取引条件の妥当性等について一般株主による十分な情報に基づいた適切な判断(インフォームド・ジャッジメント)が行われることが当然には期待しにくいことを踏まえて、一般株主に対して、適切な判断を行うために必要な情報を提供し、適切な判断を行う機会を確保すること。

本指針では、これら2つの原則および2つの視点を実現するための公正性担保措置として、特別委員会の設置、外部専門家の助言、マーケット・チェック、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件、強圧性排除などの措置を紹介している。その中でも特に注目したいのが「特別委員会()」の設置だ。特別委員会は、本指針では手続きの公正性を確保するうえでの「基点」と位置付けられている(本指針 3.2.3)。というのも、特別委員会の設置は、それ自体がM&Aの公正性を担保する上で有効性の高い公正性担保措置であること(本指針 3.2.3を参照)に加えて、特別委員会には、他の公正性担保措置をどの程度講じるべきかを検討する役割を担うことも期待されるからだ。

 特別委員会とは、取締役会に利益相反のおそれがある場合に、本来取締役会に期待される役割を補完し、または代替する独立した主体として任意に設置される合議体である。特別委員会は、独立性を有する者で構成され、重要な情報を得たうえで、企業価値の向上および一般株主の利益を図る立場から、M&Aの是非や取引条件の妥当性、手続の公正性について、検討および判断を行う。特別委員会には、取引条件の形成過程において、構造的な利益相反の問題および 情報の非対称性の問題に対応し、企業価値を高めつつ一般株主にとってできる限り有利な取引条件で当該M&Aが行われることを目指して合理的な努力が行われる状況を確保する機能が期待されている。

情報の非対称性 : 自社の情報については、経営陣など社内の人間の方が投資家よりも詳しいということ。

本指針の公表に合わせて、パブリックコメント募集の結果寄せられたコメントとそれに対する経済産業省の考え方(以下、「本パブコメ結果」)も公表されている。主なコメントとそれに対する経済産業省の考え方および実務上の留意点を下表にとりまとめたので、参考にされたい(ページ数や番号は本パブコメ結果のページ数等に対応している)。

項目 コメントの概要(要約) 経済産業省の考え方(要約) 実務上の留意点
全般
2ページNo.4
本指針案の一部には、現行の市場プラクティスに比べて過度な公正性担保措置を推奨する内容が含まれている。公正性担保措置は、各取引当事者が自ら合理的と判断する範囲で行われるべきものであり、必要以上の措置は、企業による機動的な M&A、ひいては事業ポートフォリオの組み換えによる企業価値向上を阻害しかねない。 各公正性担保措置の実施は、MBO及び支配株主による従属会社の買収において公正な取引条件を実現するための条件ではなく、いかなる措置をどの程度講じるべきかは、個別の M&Aにおける具体的状況に応じて個別に検討されるべきものである(本指針 3.1.1)。事案に即した適切な公正性担保措置を判断し、実施することが重要であり(本指針 3.1.2)、状況に応じて、各取引当事者が自ら適切と判断する公正性担保措置を実施することが想定されている。 本指針に記載されている公正性担保措置のうち採用しなかったものがある場合、監査役や株主からの質問に備えて、不採用の理由(費用対効果、代替措置の確保など)が合理的かどうか検討しておく。
本指針の対象
7ページNo.11
本指針において、支配株主とは、原則として、東京証券取引所の有価証券上場規程に規定される「支配株主」が該当するが、個別のM&Aごとに、本指針の趣旨を踏まえて、構造的な利益相反の問題及び情報の非対称性の問題の有無やその程度、他の大株主の存否等を勘案して実質的に判断されることが想定される(本指針1.5 の c))。買収者が保有する対象会社の議決権の割合が過半数か否かという形式基準によって画一的に本指針の対象となる支配株主による従属会社の買収か否かが画されるものではない。 関連会社に該当する上場会社を100%子会社化する際にも、本指針に準拠して公正性担保措置を実行すべきである。 本指針案の趣旨に照らして、対象外であることが明らかな取引、例えば「議決権比率 20%以上 50%以下の上場関連会社の子会社化取引」等については、本指針の対象ではないことを明記すべきである。
公正性担保措置の位置付け
16ページNo.27
注22に「公正な取引条件は、本章で提示する各公正性担保措置を講じることによってのみ実現されるわけではなく、公正性担保措置を講じることによらずとも大半の一般株主から支持を得られるような公正な取引条件が実現される場合もあると考えられる」とあるが、この記述には注意が必要だと考える。
「公正な取引条件が実現」したといえるためには、単に「大半の一般株主から支持を得」たという事実だけでは不十分。具体的には、例えば、レックスのMBOでは、TOBへの応募数が多かったからといって、価格が公正と直ちには言い難いものであったが、それは強圧性の問題もあったし、TOB 開始前の開示の問題もあったのは知られているとおりである。したがって、注 22 が間違っているというつもりはないが、もう少し配慮のある記述を期待したい。

レックスのMBO :旧レックスホールディングスが業績予想の下方修正をして株価が暴落した後にMBOを実施したため、暴落後の株価をベースとした買取価格が不当に安い(本来の価格を下回っていた)のではないかと株主から訴訟を提起された事件。東京地裁は、旧レックス社のTOB価格を妥当と判断するも、東京高裁は買取価格を引き上げる判断を行い、最高裁は旧レックス社の抗告を棄却した。
TOB 開始前の開示の問題 :旧レックスホールディングスのMBO時の買取価格に関する訴訟で、東京高裁は、旧レックス社がMBOの実施を念頭に決算内容を下方に誘導することを意図した会計処理がされたことは否定できないとの判断を下している。

ご指摘を踏まえて注22を修正した。
修正前「更に言えば、公正な取引条件は、本章で提示する各公正性担保措置を講じることによってのみ実現されるわけではなく、公正性担保措置を講じることによらずとも大半の一般株主から支持を得られるような公正な取引条件が実現される場合もあると考えられる。」
 ↓
修正後「更にいえば、公正な取引条件は、本章で提示する各公正性担保措置を講じることによってのみ実現されるわけではなく、これらの公正性担保措置を講じることによらずとも、公正な取引条件が実現され、大半の一般株主から納得が得られる場合もあると考えられる。」
上場会社の取締役はTOBや子会社等の買収にあたり、公正性担保措置を実施したから十分という考えだと、“形式”を満たせば十分と言う誤った考えに至りがちなので、「一般株主から支持を得られるような公正な取引条件かどうか」といった観点から、公正性担保措置が「実質的」に機能しているかどうかを確認すべきである。
特別委員会設置の時期
23ページNo.36,37
脱法的な対応を企図する者は、正式な買収提案の時期を遅らせた上で、特別委員会が設置された時点で既に取引条件等が事実上決定されている状況であるにもかかわらず、「指針の3.2.4.1では提案を受けた場合に可及的速やかに設置することが望ましい」とされており、その通りにしていると主張しかねない 特別委員会の設置時期を遅らせるためにいたずらに正式な買収提案の時期が遅らせられることや、正式な買収提案の前に取引条件等が事実上決定されることは、本指針 3.2.4.1 の趣旨に反し、望ましくない。 買収提案が正式なものかどうかは問わず、客観的に見て具体的かつ実現可能性のある真摯な買収意向が示された(例えば、大株主が同意していたり、金融機関から融資意向表明書の提出を受けたりすることも含む)のであれば、特別委員会の設置を検討すべきである。
独立委員会の委員構成
25ページNo.40
MBOを行う取締役と支配株主が異なるような場合で、支配株主がMBOに反対しているようなケースの場合、支配株主から派遣されているような取締役又は支配株主が推薦して社外取締役になっているような人物は、当該M&Aの成否からの独立性の観点から独立性は否定されるべきと考えられるか。 ご指摘のような場合において、MBOに反対している支配株主から派遣された社外取締役又は当該支配株主の推薦により就任した社外取締役は、その一事をもって直ちに当該 M&Aの成否からの独立性が否定されるというわけではない。当該社外取締役の独立性は、当該社外取締役が、当該M&Aの成否に関して一般株主とは異なる重要な利害関係を有しているか、ひいては企業価値の向上及び一般株主の利益を図る立場から適切な判断を行うことが一般に期待できるかという観点から、個別のM&Aごとに、具体的状況を踏まえて実質的に判断されるべき(本指針 3.2.4.2 A)。その際、ご指摘のような当該社外取締役が就任した経緯は考慮要素の一つとなり得ると考えられる。 特別委員会の人選は慎重にするべき。「社外取締役だから適任」と言った安直な判断はすべきではない。また、選任される側(特別委員会の委員)だけでなく、選任する側(特別委員会の委員を選任する主体)の選任プロセスについても独立性を確保しておくことが望ましい。
アドバイザー
34ページNo.55
外部専門家の選定を行うのは、取締役会ではなく特別委員会に限るべきである。 本指針 3.2.4.5では、特別委員会が対象会社の取締役会が選任したアドバイザー等を利用することも否定されるべきとはいえないとされているが、これは、当該アドバイザー等が高い専門性を有しており、独立性にも問題がない場合等、特別委員会として当該アドバイザー等を信頼して専門的助言を求めることができると判断した場合であることが前提とされている。特別委員会が対象会社の取締役会が選任したアドバイザー等を無条件で利用することは想定されていない。 特別委員会が対象会社の取締役会が選任したアドバイザー等を利用する場合、特別委員会が当該アドバイザーの独立性を確認し、問題ないと判断した場合には、当該アドバイザー等を自らのアドバイザー等として改めて選任することが考えられる(本指針29ページ注44)。
特別委員会の委員の報酬
35ぺージNo.56
一部の大手企業を除き、社外取締役や社外監査役の報酬水準は、その責任の重さに比して安く設定されていることから、特別委員会の委員としての業務はその社外取締役や社外監査役の職務の対価とは別に報酬を発生させるべき。 本指針 3.2.4.7 においては、ご指摘のとおり、特別委員会に係る職務には通常の職務に比して相当程度の追加的な時間的・労力的コミットメントを要すると考えられるところ、元々支払が予定されていた役員報酬には、委員としての職務の対価が含まれていない場合も想定されることを踏まえて、このような場合には、別途、委員としての職務に応じた報酬を支払うことが検討されるべきである。 特別委員会の委員の報酬の決定の際には、対象会社の独立社外取締役や独立社外監査役が主体性を持って実質的に関与すべき。例えば任意の報酬諮問委員会の活用も考えられる。
開示の充実
57ページNo.95
親会社による上場子会社の完全子会社化においては、会社法、金融商品取引法又は東京証券取引所上場規則等が、少数株主保護の観点から、上場子会社側に必要十分な開示義務を課しており、新たなルールを設ける必要はない。なお、仮に支配株主と被支配会社の間のM&Aにおいて、通常のM&Aよりも充実した情報開示を求めるとしても、特に企業価値評価においてはその前提となる情報の中に多くの企業秘密が含まれることは当然であり、情報開示には一定の制限がある。 本指針 3.6.2は、MBO及び支配株主による従属会社の買収に際し、法令や金融商品取引所の適時開示規制による開示制度を遵守するにとどまらず、自主的に、一般株主の適切な判断に資する充実した情報を分かりやすく開示する場合に、特に充実した開示が期待される情報を提示するものであり、新たな開示義務を課すものではない。
また、ご指摘のとおり、対象会社には企業秘密等の公表に馴染まない情報も存在することから、一般株主に対して開示することができる情報の範囲には限界があることを踏まえて、特別委員会が一般株主に代わって非公開情報も含めて重要な情報を得た上で、 M&Aの是非や取引条件の妥当性について検討及び判断を行うとともに(本指針 3.2.4.6)、これに対する信頼性を確保する観点からは、特別委員会に関する情報の開示の充実を通じて、特別委員会が機能したか否かについて、一般株主が判断できるようにすることが重要である(本指針3.6.2.1)。
MBOや支配株主による従属会社の買収にあたり、企業秘密まで開示する必要はないにしても、「なぜ今でなければならないのか」については開示することが望ましい。業績予想の下方修正を発表して株価を暴落させてから、当該暴落した価格をベースにしてMBOを実施するようなことがあってはならない。

パブコメの多くで見られたのが、MBOや子会社買収にあたり、買収主体が公正性担保措置を形式的に実施するだけでお茶を濁す(いわゆる「やったフリ」で済ませる)のではないかといった懸念だ。上場会社の役員をはじめM&A関係者は、本指針の注10「一般株主の立場からは、・・・対象会社の内部情報に通じた取締役や支配株主により、対象会社の市場株価がその本源的価値と比較して一時的に過小評価されているタイミングを利用して、企業価値の向上の観点からは必要性や合理性に乏しいにもかかわらず、単に自らの利益追求のみを目的として M&Aが行われているのではないかとの疑念」を晴らすとともに、「M&Aに関係する当事者において、公正なM&Aを実現していこうというインセンティブはあるのか、あるとすれば、それは何であろうか」、といった本質的な問いかけに自信をもって回答できるように、一人ひとりが矜持を持って本指針を尊重する心構えを持つようにしたいところだ。

一時的に過小評価 : 旧レックスホールディングス社のMBOの場合、MBOの直前に業績予想の下方修正が行われて株価が暴落しており、その暴落していた株価をベースに買付価格が決定されていたため、当該買付価格の妥当性を巡って、業績予想の下方修正とMBOのタイミングが意図的なものであったのかどうかが問題視された。

2019/07/11 GPIFによるESG活動の行方

2019年7月9日のニュース「気候変動関連の情報開示のトレンド」でお伝えしたとおり、今年は日本企業でも気候関連財務情報の開示が増えそうだが、それをさらに後押ししそうなのが、・・・

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2019/07/11 GPIFによるESG活動の行方(会員限定)

2019年7月9日のニュース「気候変動関連の情報開示のトレンド」でお伝えしたとおり、今年は日本企業でも気候関連財務情報の開示が増えそうだが、それをさらに後押ししそうなのが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の動きだ。

日本ではここ数年、ESG投資額が急速に拡大()しているが、そのけん引役は言うまでもなくGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)である。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

 JSIF(日本サステナブル投資フォーラム)が機関投資家を対象にしたアンケートの結果(3ページ冒頭参照)によれば、2018年の日本のサステナブル投資残高は232兆円と、2017年の137兆円と比べて1.7倍、2016年の56兆円と比べて3.1倍となった。

サステナブル投資 : JSIF(日本サステナブル投資フォーラム)は、「投資分析や投資ポートフォリオの決定プロセスに、環境、社会、ガバナンス(ESG)などの課題を勘案し、投資対象の持続性を考慮する投資」と定義付けている。

日本におけるESG投資のターニングポイントとなったのが、GPIFがPRI(国連責任投資原則)に署名し、ESGを考慮することを盛り込んだ「投資原則」を公表した2015年だ。またGPIFは、一昨年(2017年)には、国内株式をESGを考慮してパッシブ運用するための「ESG指数」として「FTSE Blossom Japan Index」と「MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数」「MSCI 日本株 女性活躍指数(WIN)」の3つの指数を採用(2017年7月6日のニュース「GPIFの新しいESG指数に約360社が選定」参照)、続いて昨年(2018年)には、「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数」「S&Pグローバル 大中型株カーボン・エフィシェント指数 (除く日本)」を採用している(2018年10月9日のニュース「東証1部上場企業の8割がESG投資の対象に」参照)。ちなみに、GPIFがESG指数を選定した目的は、運用の観点のみならず、日本企業全体のESG情報開示、ひいてはESGに対する評価の底上げがある。日本企業におけるESG情報の開示は海外企業に比べて劣っていると言われているが、GPIFの「平成29年度 ESG活動報告」によると、確かに国別のESG評価では他国に見劣りするものの、改善度では日本が世界トップとの検証結果が紹介されており(22ページ参照)、この点はGPIFの目論見どおりとなっている。

PRI(国連責任投資原則) : (国連)PRIとは「(United Nations) Principles for Responsible Investment」の略で、機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。
パッシブ運用 : ‘パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。

GPIFが2019年7月5日に公表した「平成30年度 業務概況書」によると、上記5つのESG指数に基づきGPIFが運用委託をするパッシブ運用の運用資産額は大きく伸びている。2017年に3指数、約1兆円からスタートしたGPIFのESG指数は、2018年3月末時点で1.5兆円、2019年3月末時点では3.5兆円まで拡大している。最初に導入された3指数だけを見ても、2019年3月末で1.9兆円に増加しているが、「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数」「S&Pグローバル 大中型株カーボン・エフィシェント指数」は2018年に後からESG指数に採用されたにもかかわらず、金額的なインパクトが大きいことが分かる。これは、指数構成銘柄数の影響もあるが、GPIFが「環境」を重大なESG課題と考え、力を入れていこうとしていることの一つの証左だろう。

指数名 FTSE Blossom Japan Index MSCIジャパン ESGセレクト・リーダーズ指数 MSCI日本株 女性活躍指数(WIN)
テーマ ESG総合 ESG総合 社会
対象 国内株 国内株 国内株
選定年 2017年7月 2017年7月 2017年7月
運用資産額
(2018年3月末)
(2019年3月末)
 
5266億円
 
6229億円
 
3884億円
6428億円 8043億円 4746億円
指数構成銘柄数
(2019年3月末)
152 268 213
出典:GPIF「平成29年度 業務概況書」「平成30年度 業務概況書」「グローバル環境株式指数の選定結果について」から作成
指数名 S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数 S&Pグローバル 大中型株カーボン・エフィシェント指数 (除く日本)
テーマ 環境 環境
対象 国内株 外国株
選定年 2018年9月 2018年9月
運用資産額
(2018年9月25日)
(2019年3月末)
 
合計 約1.2兆円
3878億円 1兆2052億円
指数構成銘柄数
(2019年3月末)
1,738 2,199

現在、GPIFは新たなESG株式指数の公募は行っていないが、今後の取り組みとして予想されるのが、グリーンボンド等の債券や、インフラ、PE(未上場企業の株式=プライベート・エクイティ)、不動産等のオルタナティブ投資といった、株式以外のアセットに対するESG投資だ。特に債券については世界銀行との共同研究報告書を発表し、GPIFの委託運用機関にグリーンボンド等への投資を提案することになっている。また、金融安定理事会(FSB)が設置した気候関連財務情報開示タスクフォースであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース=Task Force on Climate-related Financial Disclosures)やClimate Action 100+といったイニシアチブへの参加も表明し、気候変動関連のエンゲージメントにも積極的な姿勢を見せている。今後は「環境」をはじめとしたESG株式指数によるESG投資残高の拡大もさることながら、株式投資以外のアプローチよるESG投資の動向にも注視する必要がありそうだ。

オルタナティブ投資 : オルタナティブ投資とは、上場株式や債券といった伝統的資産と呼ばれるもの以外の新しい投資対象や投資手法のことをいう。オルタナティブ(alternative)は直訳すると「代わりの」「代替の」という意味である。具体的な投資対象としては、農産物・鉱物、不動産などの商品、未公開株や金融技術が駆使された先物、オプション、スワップなどの取引が挙げられる。
金融安定理事会(FSB) : 主要国の金融当局で構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織。中央銀行、金融監督当局、財務省、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)なども参加している。
Climate Action 100+ : 機関投資家が、温室効果ガスを排出する世界最大級の企業と協力し、こうした企業が気候変動に関するガバナンスを改善するとともに、排出量を抑制し、気候関連の財務情報の開示を促進するために設立された団体。

2019/07/10 データで見る 日本企業の業績連動報酬の算定指標

既報のとおり、2019年3月決算の有価証券報告書から適用されている改正開示府令では、役員報酬に関する開示の大幅な充実を求めている(【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示、 2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方」参照)。その一つとして、(2019年3月期の有価証券報告書の)提出会社の役員の報酬等に業績連動報酬が含まれる場合、有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】の【役員の報酬等】において、「当該業績連動報酬に係る指標」を記載する必要がある。

業績連動報酬 : 正確には、「利益の状況を示す指標」「株式の市場価格の状況を示す指標」「その他の提出会社又は当該提出会社の関係会社の業績を示す指標」を基礎として算定される報酬

上場会社役員ガバナンスフォーラムがTOPIX100構成企業のうち3月末決算会社69社(金融・保険会社を除く)の記載状況を調査したところ、業績連動報酬の算定根拠として記載されていた指標の上位ランキングは下記のとおりだった。・・・

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2019/07/10 データで見る 日本企業の業績連動報酬の算定指標(会員限定)

既報のとおり、2019年3月決算の有価証券報告書から適用されている改正開示府令では、役員報酬に関する開示の大幅な充実を求めている(【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示、 2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方」参照)。その一つとして、(2019年3月期の有価証券報告書の)提出会社の役員の報酬等に業績連動報酬が含まれる場合、有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】の【役員の報酬等】において、「当該業績連動報酬に係る指標」を記載する必要がある。

業績連動報酬 : 正確には、「利益の状況を示す指標」「株式の市場価格の状況を示す指標」「その他の提出会社又は当該提出会社の関係会社の業績を示す指標」を基礎として算定される報酬

上場会社役員ガバナンスフォーラムがTOPIX100構成企業のうち3月末決算会社69社(金融・保険会社を除く)の記載状況を調査したところ、業績連動報酬の算定根拠として記載されていた指標の上位ランキングは下記のとおりだった。

(1)賞与
指標 社数
営業利益(事業利益コア営業利益等の調整後の営業利益を含む) 32
売上高 19
親会社株主に帰属する当期純利益 19
ROE 10
当期純利益

事業利益 : 営業利益に受取利息や配当金などの金融収益を加えたもの。企業本来の営業活動の成果と財務活動の成果の両方を表す。
コア営業利益 : 営業利益から非経常的な要因により発生した損益を控除した損益。経常的な収益力を表す。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)。実務上、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。

(2)株式給付信託
指標 社数
売上高
ROE
営業利益(事業利益、コア営業利益等の調整後の営業利益を含む)

(3)譲渡制限付株式報酬
指標 社数
ROE
営業利益率
売上高

業績連動報酬に係る指標としては、売上高、営業利益など損益計算書の主要項目が多くの企業で用いられているほか、ROEといった経営指標も目に付く。

また、2019年3月期の有価証券報告書からは、【主要な経営指標等】において、「株主総利回り」(TSR)を、提出会社が選択した株価指数(例えばTOPIX(東証株価指数)、日経225(日経平均株価)、JPX日経インデックス400、同業他社平均など)の最近5年間の総利回りを比較して記載することも義務付けられている。TSRとは「株式投資により得られた収益(配当とキャピタルゲイン)を投資額(株価)で割った比率」であり、開示府令では以下の算式に基づいて算定することとされている。

(各事業年度末日の株価+当事業年度の4事業年度前から各事業年度までの1株当たり配当額の累計額)
当事業年度の5事業年度前の末日の株価

TSRの開示が義務付けられた趣旨は、米国や欧州の企業では、役員報酬を決定する際の評価指標としてTSRを用いられ、これが広く開示されていることにある(金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ 報告 -資本市場における好循環の実現に向けて-Ⅱ2.役員報酬に係る情報 12ページ参照)。すなわち、米国や欧州の投資家から見れば、TSRのパフォーマンスが悪いにもかかわらず役員報酬が高くなっているような状態は“異常”ということになる。

このように、TSRは有価証券報告書では【主要な経営指標等】で開示されるものの、【役員報酬等】と密接に関係している。しかしながら、上表の調査結果のとおり、日本企業においては、業績連動報酬を決定する際の評価指標としてTSRが用いられているケースは少ない。TRSのほか、株価や配当関連の指標を業績連動報酬に係る指標として開示した企業は下表のとおり。

(1)賞与
指標 社数 社名
配当、配当性向、1株当たり配当 京セラ、本田技研工業、三井不動産他
株価変動性、株価 トヨタ自動車、伊藤忠商事、ソフトバンクグループ
比較指標 伊藤忠商事

比較指標 : 下記の日立製作所の開示例参照

(2)株式給付信託
指標 社数 社名
TSR アステラス製薬
比較指標 アステラス製薬

(3)譲渡制限付株式報酬
指標 社数 社名
TSR 塩野義製薬、日立製作所、三菱商事
比較指標 日立製作所、三菱商事
株価 ソフトバンクグループ

TSRを業績連動報酬の指標としていることを開示している事例:日立製作所

(中長期インセンティブ報酬)
(略)
・譲渡制限付株式の半数は、事後評価により譲渡制限が解除される株式数が確定する。具体的には、当社株式のTotal Shareholder Return(株主総利回り)とTOPIX成長率を比較し、その割合(対TOPIX成長率)によって評価する。対TOPIX成長率が120%以上の場合、全ての株式を譲渡制限の解除の対象とする。対TOPIX成長率が80%以上120%未満の場合、一部の株式を譲渡制限の解除の対象とする(※)。対TOPIX成長率が80%未満の場合、全ての株式について譲渡制限は解除されない。譲渡制限が解除されないことが確定した株式は、当社が無償で取得する。

もちろん、例えば「営業利益」や「売上高」も株価や配当に影響を及ぼす要因であることには変わりないという点からすると、必ずしもTSRや株価・配当関連の指標を業績連動報酬の算定指標として選定することは必須というわけではない。とはいえ、TSRと役員報酬の関連を重視している機関投資家が多いという事実は、自社の役員報酬制度を設計する際に念頭に置いておく必要があろう。

2019/07/09 気候変動関連の情報開示のトレンド

ここ数年で気候変動の影響を体感する人も増えているのではないだろうか。日本における昨夏の酷暑や豪雨災害は記憶に新しい。フランスでは熱波によって今年6月に45.9℃、オーストラリアでは昨年12月(南半球なので日本と夏冬の時期が逆)に49.3℃という最高気温を記録した。一方、アメリカでは大寒波により今年1月にはノースダコタ州で体感温度がマイナス54℃にもなった。

このような極端な気象を引き起こす地球温暖化の主な要因は「人間活動の可能性が極めて高い(95%以上)」とIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書は結論付づけている。地球の平均気温は産業革命以降、既に約1℃上昇しており、現状のように温室効果ガスの排出が続くと、2100年には平均気温が2.6~4.8℃上昇すると予測されている。

世界中の経営者も気候変動は大きなリスクと捉えており、WEF(World Economic Forum:世界経済フォーラム)が毎年公表するグローバルリスクレポートの2019年版においても、「発生の可能性が高いグローバルリスク」と「影響が大きいグローバルリスク」の上位5位の中に、気候変動に関する課題である「異常気象」「気候変動の緩和や適応への失敗」「自然災害」という3つが含まれている。

同様に機関投資家も気候変動リスクを注視しており、投資先企業に対しては、温室効果ガスの排出削減といったことへの「取り組み」だけでなく、その「情報開示」を求めている。気候変動リスクに関するグローバルスタンダードになりうる開示フレームワーク(枠組み)としては、・・・

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2019/07/09 気候変動関連の情報開示のトレンド(会員限定)

ここ数年で気候変動の影響を体感する人も増えているのではないだろうか。日本における昨夏の酷暑や豪雨災害は記憶に新しい。フランスでは熱波によって今年6月に45.9℃、オーストラリアでは昨年12月(南半球なので日本と夏冬の時期が逆)に49.3℃という最高気温を記録した。一方、アメリカでは大寒波により今年1月にはノースダコタ州で体感温度がマイナス54℃にもなった。

このような極端な気象を引き起こす地球温暖化の主な要因は「人間活動の可能性が極めて高い(95%以上)」とIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書は結論付づけている。地球の平均気温は産業革命以降、既に約1℃上昇しており、現状のように温室効果ガスの排出が続くと、2100年には平均気温が2.6~4.8℃上昇すると予測されている。

世界中の経営者も気候変動は大きなリスクと捉えており、WEF(World Economic Forum:世界経済フォーラム)が毎年公表するグローバルリスクレポートの2019年版においても、「発生の可能性が高いグローバルリスク」と「影響が大きいグローバルリスク」の上位5位の中に、気候変動に関する課題である「異常気象」「気候変動の緩和や適応への失敗」「自然災害」という3つが含まれている。

同様に機関投資家も気候変動リスクを注視しており、投資先企業に対しては、温室効果ガスの排出削減といったことへの「取り組み」だけでなく、その「情報開示」を求めている。気候変動リスクに関するグローバルスタンダードになりうる開示フレームワーク(枠組み)としては、金融安定理事会(FSB)が設置した気候関連財務情報開示タスクフォースTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)が2017年6月に公表した最終提言がある。これは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定したものだ。

金融安定理事会(FSB) : 主要国の金融当局で構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織。中央銀行、金融監督当局、財務省、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)なども参加している。

ただし、日本においては現状、「開示義務化の予定はない」と金融庁が明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類を含む開示媒体への“自主的な”記載を推奨している。

TCFDによると、TCFDに賛同を表明する日本の組織(企業、機関投資家など)は178に達している(2019年6月末現在)。経済産業省、金融庁、環境省が中心となってもTCFDコンソーシアムを立ち上げ、TCFDガイダンス(気候関連財務情報開示に関するガイダンス)やTCFD事例集を公表するなど、政府も企業に対し、TCFDの開示フレームワークに基づく気候変動リスクに伴う情報開示への取り組みを強く後押ししている。日本におけるTCFDへの関心は、気候変動がテーマの一つとなったG20大阪サミットで急速に高まったこともあり、今年は日本企業の開示事例が多く見られる「初年度」となりそうだ。

2019/07/08 速報・2019年6月株主総会 取締役選任議案が2件否決

2019年6月の株主総会における議決権行使結果を開示する臨時報告書が出揃った。会社提案で否決になった議案は2件、いずれも・・・

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