2019/06/20 【特集】TOPIX100企業のコーポレートガバナンス報告書の開示内容分析

日本シェアホルダーサービス株式会社
チーフコンサルタント 藤島 裕三
シニアアナリスト 水嶋 創

上場会社のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)対応を支援するサービスを提供している日本シェアホルダーサービス(JSS)では、その重要な支援ツールとして活用するため、TOPIX100採用企業のコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)を継続的に調査・分析することにより、わが国を代表する企業群におけるCGコード対応のレベルを相対的に把握しています。

CGコードは2018年6月に改訂されており、上場会社各社は改訂CGコードに基づくCG報告書を2018年12月末までに提出しています。そこで当社では、同時点におけるTOPIX100採用企業のCG報告書のうち、CGコードの開示11原則に関する記載(コンプライおよびエクスプレインの両方)を分析しました。

1.分析の概要と結果の全体像

各社のCG報告書の記載内容の分析に際しては、各原則が文言上求める最低限の要請にとどまらず、機関投資家との建設的な対話を促進するというCGコードの趣旨を踏まえた内容になっているか、そしてグローバル機関投資家が日本企業に期待するガバナンスの水準を意識したものであるかを重視しています。具体的には主に以下の6つとなります。

・経営陣のリーダーシップ:ガバナンス全般に経営トップが主体的に関与しているか
・社外取締役の活用:経営の意思決定および監督において独立性が確保されているか
・攻めのガバナンス:適切な権限移譲により迅速・果断な経営を実現しているか
・株主重視の姿勢:株主の利益および権利を尊重しているか
・資本生産性の重視:ROE(自己資本利益率)を基軸に経営管理が行われているか
・持続可能性:ガバナンスを継続的に強化する仕組みが確立されているか

これらに加え、自社特有の特徴や課題を踏まえた独自性の高い記載となっているかどうかに注目し、各社の開示11原則()に係る開示を以下の7レベルに分類しています(図表1)。

 以下の11の原則をいう。
・原則1‒4 政策保有株式
・原則1‒7 関連当事者間の取引
・原則2‒6 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮
・原則3‒1 情報開示の充実
・補充原則4‒1① 経営陣に対する委任の範囲
・原則4‒9 社外取締役となる者の独立性判断基準および資質
・補充原則4‒11① 取締役会のメンバーのバランス・多様性・規模に関する考え方と取締役の選任に関する方針・手続き
・補充原則4‒11② 社外役員の兼任状況
・補充原則4‒11③ 取締役会全体の実効性についての分析・評価
・補充原則4‒14② 取締役・監査役に対するトレーニングの方針
・原則5‒1 株主との建設的な対話に関する方針

文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

<図表1:CG報告書レビュー結果のレベル表>
1 グローバル水準
2 日本市場におけるCG優良企業の水準
3 日本市場において特に規模の大きい企業に求められる水準
4 日本市場において比較的規模の大きい企業に求められる水準
5 日本市場において平均的な規模の上場企業に求められる水準
6 上場企業として最低限の説明責任を果たしている
7 上場企業として十分な説明責任を果たしていない(またはCGコード対応ができていない)

下記図表2は、TOPIX100採用企業について、開示11原則(実際には細分化された24項目)それぞれの開示内容を評価したうえで(各開示項目について)上表に基づくレベルを付し、各社ごとに平均した数値の分布図になります。100社の平均値は「4.69」で、四捨五入するとレベル5「平均的な規模の上場企業に求められる水準」となり、わが国を代表する企業群であるTOPIX100としては物足りない結果となりました。TOPIX100採用企業のCG報告書であれば、少なくともレベル3「特に規模の大きい企業に求められる水準」にあることが期待されますが、このレベルに相当する企業は2社に過ぎません。むしろレベル6「上場企業として最低限の説明責任を果たしている」にとどまっている企業が9社あり、これらの企業は、CGコードの趣旨ひいては機関投資家の期待に応えているとは言い難い状況です。

<図表2:TOPIX100採用企業のレベル分布>

44185

なお、本調査は昨年度に続き2回目となります。今年度はCGコードの改訂および機関投資家による要求水準の高まりを反映して、評価基準を厳格化しています。その結果、TOPIX100採用企業の平均スコアは昨年度の4.46から0.23ポイント低下しています。ガバナンスの改善要請に終わりはなく、上場企業には継続的な取り組みが求められていると言えるでしょう。

2.レビューの実例(補充原則4-11①:取締役会全体の考え方)

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2019/06/20 【特集】TOPIX100企業のコーポレートガバナンス報告書の開示内容分析(3・会員限定)

3.今後の望ましいCGコード対応

多くの上場企業は、改訂CGコードに基づくCG報告書の作成にあたり、できるだけエクスプレインをしないですむよう、CGコードの改訂部分に対応する文言を慎重に検討しつつ、提出期限(2018年12月末)までに間に合わせるべくCG報告書を作成・提出したものと思われます。

しかし上記各事例にみられるように、必ずしもCGコードの要請や期待に応えていないばかりでなく、何ら具体性のない“一般論”で済ませているケースも散見されます。機関投資家はその企業ならではのCGコード対応を求めており、そのような対応(開示)こそが機関投資家との対話を活性化させることになります。企業側はこの点を再認識して、今年6月の株主総会以降に提出するCG報告書では、記載内容を見直すべきでしょう。

これは改訂された原則に限った話ではありません。2015年にCGコードが導入されて以降、昨年改訂された原則以外の原則の多くについては、導入当時の対応を見直すことなく、今日に至っているという企業が少なくないのではないでしょうか。各原則の背景にある機関投資家の考え方を踏まえた対応となっているか、“作文”による最低限のコンプライになっていないか、機関投資家との建設的な対話の導出というCGコードの趣旨に沿った対応ができているか―――これを機にCGコード対応全体を再検証することで、当社のCG報告書レビュー結果の平均レベルもより高水準なものとなることが期待されます。

2019/06/19 独立社外取締役の“1/3基準”満たす監査等委員会設置会社の割合判明

機関投資家の間で、取締役会に占める社外取締役の比率を「3分の1以上」とする議決権行使基準(以下、3分の1基準)を新たに設定する動きが加速している。

すべての上場会社を対象に基準を変更したのが・・・

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2019/06/19 独立社外取締役の“1/3基準”満たす監査等委員会設置会社の割合判明(会員限定)

機関投資家の間で、取締役会に占める社外取締役の比率を「3分の1以上」とする議決権行使基準(以下、3分の1基準)を新たに設定する動きが加速している。

すべての上場会社を対象に基準を変更したのが三菱UFJ信託銀行だ。ただし、これには来年(2020)4月まで猶予期間が設けられており、本年の株主総会への影響はない(三菱UFJ信託銀行「受託財産運用における株式議決権行使」1.改訂項目(1)、2..改訂内容(1)参照)。

一方、三井住友トラスト・アセットマネジメントは今年(2019年1月)から、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社については、3分の1基準を満たしていない場合、取締役(候補者全員とみられる)の選任に反対する。なお、初年度は経過措置が講じられており、ROEがTOPIX全体の上位75%に入っていれば賛成する(三井住友トラスト・アセットマネジメント「責任ある機関投資家としての議決権行使(国内株式)の考え方」6ページの【行使判断基準】④参照。なお、ROEに関する基準は同5ページの【本ガイドラインにおいて使用する各種の基準】(1)業績(ROE)基準 参照)。

機関投資家の議決権行使により大きな影響を及ぼし得るのが議決権行使助言会社のポリシーだが、監査役会設置会社については、ISSは「複数名の社外取締役」、グラスルイスは「監査役を合わせて(取締役と監査役の総人数)の3分の1以上」とするにとどまっている。本年の株主総会において多大な影響が見込まれるのが、監査等委員会設置会社だ。下表はISSとグラスルイスが監査等委員会設置会社の取締役会構成について定めているポリシーの抜粋である。なお、指名委員会等設置会社についても概ね同様の内容となっている。

ISS ・監査等委員会設置会社においては、監査役設置会社向け基準に加え、さらに下記に該当する場合、原則として反対を推奨する。
- ISSの独立性基準を満たさない監査等委員である社外取締役
- 株主総会後の取締役会に占める社外取締役の割合が3分の1未満である場合、経営トップである取締役
・経営トップとは通常、社長と会長を指す。
グラスルイス ・(監査等委員会設置会社について)取締役会の独立性基準は「3分の1以上」である。
・独立性基準を満たさない場合、責任追及という意味で、会長(会長職が存在しない場合、社長またはそれに準ずる役職の者)に対して、反対助言とする
・その他の非独立と判断する候補者に対しても、弊社独立基準を満たす人数に達するまで反対助言を行う。

では、社外取締役が取締役会の3分の1に達していない監査等委員会設置会社は現状どのくらいあるのだろうか。当フォーラムが2019年6月14日時点のデータで確認したところ、独立性を問わなくても4割超、独立性を求めた場合は過半数が未だ「3分の1基準」を満たしていないことが分かった。なお、過半数に達している監査等委員会設置会社は1割前後にとどまっている。

○社外取締役
  社数 割合
3分の1未満 231社 43.1%
3分の1以上、半数未満 247社 46.1%
過半数 58社 10.8%
○独立取締役
  社数 割合
3分の1未満 286社 53.4%
3分の1以上、半数未満 203社 37.9%
過半数 47社 8.8%

上記のデータは本年6月の今株主総会前のものであり、「3分の1基準」を満たす取締役選任議案を今株主総会に上程している上場会社もあろうが、依然として3分の1に達することなく助言会社の反対推奨を受けているケースが多くを占めているものと予想される。

上述の通り、来年には国内の大手機関投資家が3分の1基準を導入、もしくは経過措置の解除に動くものとみられる。未だ今株主総会シーズンは終わっていないものの、自社の独立社外取締役に適した人材を探すのは容易ではないだけに、来年の株主総会を見越した対応を早期に検討する必要があろう。

2019/06/18 セミナー「2019年6月株主総会に向けたエンゲージメントの内容と今後の注目テーマ」および「2019年6月株主総会分析 」を2019年7月26日(金)に開催しました。

本セミナーはすでに開催済みですが、会員の方向けにWEBセミナーを配信中です。
WEBセミナー:ひふみが考えるガバナンスとエンゲージメント
WEBセミナー:2019年6月総会の状況

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上場会社役員ガバナンスフォーラムでは、2019年7月26日(金)の14時30分~17時40分に下記のセミナーを開催します。
詳細はこちらもご覧ください。

時 間 テーマ 講 師
第一部
14:30

16:00
~国内屈指のアクティブ投資家は企業とどう対話したか?~
2019年6月株主総会に向けたエンゲージメントの内容と
今後の注目テーマ
レオス・キャピタルワークス
運用部 シニア・アナリスト
八尾 尚志 様
第二部
16:10

17:40
~投資家の議決権行使基準厳格化と
株主提案が相次ぐ中での賛否動向は?~
2019年6月株主総会分析
三菱UFJ信託銀行
法人マーケット統括部 次長
中川 雅博 様

■第一部の詳細

セミナー
の内容
スチュワードシップ・コードの定着とともに、2019年6月の株主総会に向け上場企業と機関投資家の間では活発なエンゲージメントが行われたことでしょう。近年はパッシブ運用の割合が高まっていますが、その一方で逆に存在感を高めているのが、エンゲージメントに力を入れるアクティブ投資家です。その中でも、企業と対話を重ねながら長期投資に取り組むことでいまや“国民的投資信託”と言わまでになった「ひふみ投信」を運用するなど、国内屈指の知名度と運用実績を誇るのがレオス・キャピタルワークスです。本セミナーでは、同社の運用部でシニア・アナリストをつとめる八尾尚志様をお招きし、2019年6月株主総会に向けたエンゲージメントではどのようなテーマについて議論が交わされたのか、また、アクティブ投資家としてこれから注目するテーマ、上場企業に期待することなどついて語っていただきます。「顔の見える運用」を掲げ、企業の個性を重視しつつ、サイズに関係なく成長する企業を支援することをポリシーとする同社のエンゲージメントには、良質な投資を呼び込むためのヒントが詰まっているはずです。
講師の
ご紹介
八尾 尚志(やつお ひさし)様
レオス・キャピタルワークス運用部 シニア・アナリスト

1990年、和光証券(現みずほ証券)入社。 三菱証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)を経て、2004年、オプティマル・ファンド・マネジメントに入社。同社では、インベストメント・アナリストとして活躍、約7年半に渡り、年間400-500社の取材を行なった。2013年、レオス・キャピタルワークス入社。

■第二部の詳細

セミナー
の内容
機関投資家による議決権行使結果の個別開示が始まって以来、上場企業にとって株主総会の“緊張感”は確実に高まっています。各機関投資家が定める独自の議決権行使基準は厳格化が進んでおり、従来は反対票を投じることが少なかった国内機関投資家も、議決権行使基準に沿って反対票を投じることをいとわなくなりつつあります。株主提案も増加しており、今6月総会では、相当数の反対票が集まる議案が少なからず出てくることも予想されます。また、今6月総会は、改訂コーポレートガバナンス・コードに基づくコーポレートガバナンス報告書が出揃ってから初めての株主総会となります。各社の対応状況が投資家の議決権行使判断に影響を及ぼしたり、株主総会での質問の対象となる可能性もあります。本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者であり、全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、個社の事例や一定数の上場企業に係る横断的なデータをご紹介いただきながら、2019年6月株主総会を分析していただきます。本分析からは、特定の企業行動や株主総会議案に対する機関投資家の考え方のトレンド、今後の経営や来年の株主総会に向けた課題を検討するうえでのヒントが得られることでしょう。また、株主総会運営上の先進的な取り組み等についても解説していただきます。
講師の
ご紹介
中川 雅博(なかがわ まさひろ)様
大阪大学法学部卒、大阪大学大学院法学研究科(修士課程)修了。1990年、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。以後、証券代行部門・法人ビジネス部門に所属し、一貫して会社法務に関するコンサルティングを行う。現在、三菱UFJ信託銀行(株)証券代行部次長、全国株懇連合会理事、東京株式懇話会常任幹事(研究部 研究第2部担当)。
ハンドブックシリーズ1「株主総会」(共著:2002年12月・商事法務)、ハンドブックシリーズ2「株式実務」(共著:2003年4月・商事法務)、「委員会等設置会社への移行戦略」(共著:2003年5月・商事法務)、「株券電子化と移行のポイント」(共著:2008年5月・商事法務)、「株券電子化-その実務と移行のすべて」(共著:2008年8月・きんざい)、「全株懇モデル[新訂2版]」(共著:2009年3月・商事法務)、「株式事務の基礎知識」(2009年11月・商事法務)、「株主総会の準備実務・想定問答」(共著:2015年2月・中央経済社)、「新株主総会実務なるほどQ&A」(共著:2015年3月・中央経済社)、「株主総会ハンドブック第3版」(共著:2015年3月・商事法務)、「株主総会・取締役会・監査役会の議事録作成」(共著:2015年3月・清文社)、「監査等委員会設置会社の活用戦略」(共著:2015年9月・商事法務)など著書多数。

なお、セミナー参加費につきましては、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員のみ無料、それ以外の方は22,000円(税込 ※)となっております。
※セミナーお申込み前に会員登録いただくと、セミナー参加費は無料となります。

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非会員で視聴をご希望の方はjimukyoku@govforum.jpまでご連絡いただければメールにてお申し込み方法をお知らせいたします。

その他、ご不明な点等がございましたら、ご遠慮なく jimukyoku@govforum.jp までお問い合わせください。

<セミナー概要>

  • 第一部 2019年6月株主総会に向けたエンゲージメントの内容と今後の注目テーマ
  • 第二部 2019年6月株主総会分析
  • 【日時】2019年7月26日(金)14時30分~17時40分
  • 【会場】六本木ヒルズ森タワー22階 TMI総合法律事務所セミナールーム
  • 【受付】六本木ヒルズ森タワーLL階ロビー 14時00分より
  • 【講師】第一部 レオス・キャピタルワークス 運用部 シニア・アナリスト 八尾 尚志 様
        第二部 三菱UFJ信託銀行 法人マーケット統括部 次長 中川 雅博 様
  • 【セミナー参加費】当フォーラム会員は無料、それ以外の方は22,000円(税込)

2019/06/18 子会社上場を維持するかどうかの判断基準

日本の株式市場には現在でも多くの上場子会社が存在しているが(2018年時点において、東証上場企業の17.2%に相当する628社、そのうち親会社が上場企業である上場子会社は311社)、上場子会社の利益相反構造に焦点が当たる中、上場子会社および親会社の意識も変化しつつある。例えば、・・・

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2019/06/18 子会社上場を維持するかどうかの判断基準(会員限定)

日本の株式市場には現在でも多くの上場子会社が存在しているが(2018年時点において、東証上場企業の17.2%に相当する628社、そのうち親会社が上場企業である上場子会社は311社)、上場子会社の利益相反構造に焦点が当たる中、上場子会社および親会社の意識も変化しつつある。例えば、ある企業からは、「親会社と上場子会社とが重複した事業を行い、取引上も競合しているような状態に対し、資本市場が、上場を無意味なものとして捉えるのは当然」といったコメントも聞かれる。また、「一般株主が存在し、グループとして一体的な経営戦略が進めにくい面がある以上、今後は完全子会社にするか売却するかの二択になる」との考えを示している企業や、上場子会社が「独自ブランドを有するわけでもなく、親会社の一部機能を担っている(例えば製造委託)だけにすぎない」として「上場させている意味がない」との結論に至り、完全子会社化に踏み切った企業グループも出てきている。

利益相反 : 例えば親会社の要請を受け、上場子会社のサービスを親会社にだけ一般価格よりも割安の価格で提供した場合、親会社はコストダウンを図ることができる一方で、子会社の収益機会はその分損なわれ、ひいては子会社の一般株主の配当減や株価下落につながることになる。
一般株主 : 「支配株主」以外の株主のこと。「支配株主」とは、議決権の50%超を有している者や議決権の40%以上を有している者で、かつ、取締役の過半数を派遣していたり重要な財務および事業の方針の決定を支配する契約書が存在していたりする者を指す(東証 有価証券上場規程施行規則3条の2)。上場会社の支配株主自体も上場しているケースを「親子上場」という。

とはいえ、現状では、子会社の上場を維持する、あるいは今後どうするか特に方針を決めていないという企業が大半を占めている。やはり上場企業としてのブランドやステータスは捨てがたく、実際、上場企業であることは、取引先からの信頼、社員のモチベーションの向上・維持や優秀な人材の採用のしやすさなどにもつながる。上場にこうしたメリットがあることは確かだが、利益相反リスクのある子会社上場を維持するのであれば、より明確な判断基準を設ける必要があろう。

例えばある企業では、子会社の上場を維持するかどうかを「当該上場子会社がグループのリソースを活用して成長を実現できるか」「グループ内の優先順位から、当該上場子会社に対して大きな投資ができなくなっていないか」「自社グループではなく、他社と一緒になった方が成長を実現できるのではないか」といった観点から検討したうえで、完全子会社化やグループからの切り出しを実行している。

逆に、完全子会社化に若干否定的な意見もある。ある企業は、「完全子会社化するかどうかは、完全子会社化により本当にグループ全体の企業価値が高まるのかを説明できるかどうかがポイント」としたうえで、「完全子会社化しなくてもグループ全体の企業価値が高まるという考え方があってもよい」との考えを示している。

いずれにせよ、たとえ子会社の上場をすぐに解消する予定がないとしても、現状のまま維持するのか、あるいは完全子会社化するのか、手放すのか等々、親会社の経営陣は「上場子会社のあるべき姿」を継続的に検討していく必要があろう。

2019/06/17 事業ポートフォリオ見直しで、事業単位毎に資本コストを設定する企業も

昨年(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード原則5-2(経営戦略や経営計画の策定・公表)では、下記のとおり「資本コスト」を的確に把握するとともに、「事業ポートフォリオの見直し」を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのか説明することが求められている。

資本コスト:株主など資本提供者の期待利回りのこと。資本コストが小さい=投資家にとってのリスクが小さいということになる。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。株主資本により資金調達を行った場合のコストが「株主資本コスト」であり、株主資本の提供者である株主が期待する収益率のことを指す。一方、他人資本コストとは要するに借入金の金利を指す。この株主資本と他人資本を合わせた「総資本」のコストが「総資本コスト」である。総資本コストは、株主資本コストと他人資本コストを、株主資本(株式の時価総額)と他人資本(負債総額)の合計額に占めるそれぞれ額で按分(加重平均)した上で合計するため「加重平均資本コスト」、英語では「Weighted Average Cost of Capita=WACC(ワック)」と呼ばれる。

※赤字が改訂部分

【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

通常、事業には“寿命”がある以上、企業は新規事業に投資し、事業ポートフォリオを新たなものに組み替え、適正化していく必要がある。投資家等からは、事業ポートフォリオの組替えプロセスを明文化し、対外的に明確に説明できるようにすべきとの声も聞かれるが、そもそも事業ポートフォリオの見直しを検討する前提として必要になるのが、・・・

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2019/06/17 事業ポートフォリオ見直しで、事業単位毎に資本コストを設定する企業も(会員限定)

昨年(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード原則5-2(経営戦略や経営計画の策定・公表)では、下記のとおり「資本コスト」を的確に把握するとともに、「事業ポートフォリオの見直し」を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのか説明することが求められている。

資本コスト:株主など資本提供者の期待利回りのこと。資本コストが小さい=投資家にとってのリスクが小さいということになる。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。株主資本により資金調達を行った場合のコストが「株主資本コスト」であり、株主資本の提供者である株主が期待する収益率のことを指す。一方、他人資本コストとは要するに借入金の金利を指す。この株主資本と他人資本を合わせた「総資本」のコストが「総資本コスト」である。総資本コストは、株主資本コストと他人資本コストを、株主資本(株式の時価総額)と他人資本(負債総額)の合計額に占めるそれぞれ額で按分(加重平均)した上で合計するため「加重平均資本コスト」、英語では「Weighted Average Cost of Capita=WACC(ワック)」と呼ばれる。

※赤字が改訂部分

【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

通常、事業には“寿命”がある以上、企業は新規事業に投資し、事業ポートフォリオを新たなものに組み替え、適正化していく必要がある。投資家等からは、事業ポートフォリオの組替えプロセスを明文化し、対外的に明確に説明できるようにすべきとの声も聞かれるが、そもそも事業ポートフォリオの見直しを検討する前提として必要になるのが、事業セグメントごとの財政状態の把握だ。

ある上場企業は、ビジネス・ユニット(事業単位)ごとに貸借対照表を作成、キャッシュフローも管理するようにした。どの事業がどれだけ稼いでいるのかを見える化することにより、資金分配に関する社内のコンセンサスを得たうえで、伸びる事業に資金をシフトしているという。また、この資金配分は「リソース配分委員会」での検討を経ている。

事業性や収益性・財務健全性の観点から各ビジネス・ユニットを“格付け”し、それぞれの格付けに応じてビジネス・ユニットごとに資本コストを設定している上場企業も目に付く。格付けの低いビジネス・ユニットに対しては資本コストが高く設定されているため、格付けの高い事業に比べ資金の配分を受けることが難しく、資金配分を受けようとする際には、毎回経営会議において事業継続の必要性について説明を求めているという上場企業もある。結果として事業継続の必要性を十分に説明できず、当該事業からの撤退に至ることも多いという。

事業からの撤退あるいは事業の再構築を決定するにあたり、一定の指標を設けている上場企業も多い。例えば、「3年連続赤字」や「ROA基準に未達」、「当初計画から50%以上乖離」「3年累積で赤字」「利益のハードル・レートを3年連続下回っている」といったものだ。

ROA:Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産))。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。

ハードル・レート:資金提供者が要求する最低限の期待利回り(期待収益率)のこと。通常WACC(上記「資本コスト」の注釈参照)のことを指す。

こうした基準に抵触した場合、原則として事業から撤退することとされているものの、実際には直ちに撤退を決定することは少なく、例えば当該ビジネス・ユニットに事業再生計画を出させ、経営会議でこれを審査したり、対処方針を検討したりすることになる。このように、事業ポートフォリオの見直しにあたっては、機械的に基準を当てはめるだけでなく、「いかに事業を立て直すか」という視点も重要と言える。ただし、事業再生を試みたにもかかわらず再生計画の期間内に指標をクリアできないようであれば、その時こそ撤退の決断が下されることにならざるを得ないだろう。

2019/06/14 KAMを早期適用すべき? 3月決算企業の経営判断、期限迫る

上場企業では、2021年3月期決算の有価証券報告書の監査から、会計監査人(公認会計士。以下、監査人)が会計監査において「特に重要と判断した事項」であるKAM(Key Audit Matters(監査上の主要な検討事項)の略)の記載が始まる(2018年7月19日のニュース「KAMの導入が確定、企業の監査対応はどう変わる?」を参照)。ただし、KAMは「それ以前の決算に係る財務諸表の監査」から記載することを妨げないこととされており(2018年7月5日公表の「監査基準の改訂について」の三 実施時期等の1)、3月決算企業であれば現在進行中の「2020年3月期」からの早期適用も認められる。

KAMはブラックボックス化した会計監査の透明化を図るために導入される制度であり、投資家はKAMの記載を待ち望んでいる。特に東証一部上場企業については、2020年3月期決算の監査からの記載が期待されている(企業会計審議会「監査基準の改訂について(公開草案)」に対する「コメントの概要及びコメントに対する考え方」№61、62)。東証一部上場企業を中心に、今6月の定時株主総会では、株主から「KAMを早期適用するのか」「早期適用しないのはなぜか」といった質問が出る可能性もあろう。上場企業の経営陣は、こうした質問に備え、KAMを早期適用するかどうかを決定しておく必要がある。

では、いつまでにそれを決定しなければいけないのだろうか。もし早期適用するのであれば、・・・

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