桜の季節が終わり、今後は酷暑の夏に向け徐々に気温が上がり始める。ゴールデンウイーク明けからクールビズをスタートする企業も多いことだろう。
また、一定期間(例えば6月~9月)、始業時間および終業時間を30分~1時間程度早める「サマータイム」を導入している企業もある。サマータイムを導入するメリットとしては、
・退社時刻が早まることで退社後自由に使える時間が増え、ワークライフバランスが向上する(家族と過ごす時間が増える、自己研鑽に使う時間の確保など)
・女性の活躍促進(夜の残業が減り、仕事と家庭が両立しやすくなるなど)
・早く退社するため自然と業務の効率化を意識するようになり、生産性が上がる(企業にとっては残業代の削減につながる)
・気温が低い朝のうちに業務を開始し、明るいうちに終えることで電力コストの削減につながる
・通勤ラッシュのピークの回避
・早寝早起きは健康に資する
といったことが言われている(サマータイムを含む朝型勤務のメリットについては2015年11月30日のニュース「早朝勤務を導入する目的」も参照)。
サマータイムは社員のワークライフバランスの充実や業務効率化への意識が高い著名企業での導入も目に付くが、サマータイムの本場である欧州では、2021年からサマータイムを廃止する法案がこのほどEU議会で可決されている(2019年3月26日付)。
EU諸国におけるサマータイム制度の開始は1980年に遡る。EU域内では既に1970年代から各国が主に省エネを目的に独自にサマータイムを実施していたが、サマータイムの開始時期が各国バラバラで、EU域内の経済活動に支障が出ていた。そこでEU加盟国におけるサマータイムの開始時期の統一が図られ、その後何度かの見直しを経て、現在はEU加盟国各国は「3月最終日曜」にサマータイムに移行(時計の針を1時間前倒し)し、10月の最終日曜に元の時間に戻すという運営が行われている。
今回、EU議会でサマータイム廃止が決まった最大の理由が「健康」への影響だ。「早起き=健康に良い」というイメージがあるサマータイムだが、EU委員会が調査したところ、人が1年間で異なる2つの時間帯を使い分けることは実は健康に悪影響を与えることが分かった。また、EUにおけるサマータイム導入のきっかけとなった省エネについても、近年は自動的に電力の使用量を制御する“スマート節電”等の省エネ技術の進歩により、サマータイムによる効果は限定的となっていた。決定打となったのがEU市民の意見だ。EU委員会が2018年7月~8月に実施したアンケートでは、アンケートに回答した460万人のEU市民のうちの84%がサマータイム廃止に賛成した。健康への悪影響が懸念され、省エネ効果も弱いサマータイムにEU市民も「No」を突きつけた格好だ。
EU委員会 : 欧州連合の政策執行機関で、法案の提出や決定事項の実施など、EU連合の運営を担う。1つの加盟国から1人の委員が選出されている。
結局、EU議会は3月26日の本会議において、賛成410(反対192、棄権51)という圧倒的な賛成多数で2021年からのサマータイム廃止を決定している。EU各国は、2021年3月の最終日曜にこれまでどおりサマータイムに移行した後、同年10月の最終日曜にサマータイムのままの時間を継続するか、サマータイム移行前の時間に戻すかを国ごとに決定するという。不測の事態に備え、サマータイムの廃止を1年延期できる措置も盛り込まれたもが、いずれにせよEUにおけるサマータイムは消滅する。
一時は2020年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策の一つとして日本でも導入論が浮上したサマータイムだが、サマータイムの生みの親とも言えるEUで「1年間の中で生活のリズムを変えることは健康に悪影響がある」などの理由から廃止が決まったことのインパクトは小さくない。既にサマータイムを導入している企業はもちろん、「働き方改革」というキーワードにもフィットしそうに見えるサマータイムの導入を検討している企業は、本件をきっかけにサマータイムについて再検討する必要がありそうだ。各社員の選択制という形でサマータイムを導入している企業もあるようだが、こうした企業は別として、全社員に一律にサマータイムを実施している企業は、一度社員の意見を聞いてみるべきだろう。社員数の多い上場企業ともなれば、朝型の人もいれば夜型の人もいるはずだ。今後は、特定の働き方を一律に社員に強制するのではなく、各社員のライフスタイルや性格に合わせた多様な働き方が実現できる企業が採用面でも優位に立つこととなる可能性は高い。今回のEUにおけるサマータイム廃止決定を、これまでの価値観(例えば「早朝出社は良いことだ」など)を捨て、生産性の向上性に資する“実効的な働き方改革”を検討するきっかけとしたいところだ。