2019/04/22 TV/電話会議の導入で取締役会規則を改正する必要は?

会社法上、取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行うこととされているが(会社法369条1項)、最近の株主総会では取締役会への出席率が低い社外取締役の選任議案に反対票が投じられるケースが増えているように(2018年7月20日のニュース「社外役員選任議案に対する投資家の議決権行使スタンスが厳格化」参照)、コーポレートガバナンスの観点からは、全取締役が取締役会に出席するのが望ましいことは言うまでもない。とはいえ、コーポレートガバナンス・コード原則4-8が社外取締役の2名以上の選任を義務付けたことによる社外取締役の増加や、事業展開のグローバル化に伴う取締役の海外出張・赴任の増加などにより、毎月の取締役会の現場に全取締役が顔を揃えることは容易ではなくなりつつある。

こうした中、遠隔地からでも取締役会に参加できるようテレビ会議や電話会議システムを導入する企業は多い。取締役会の議事録の記載内容について定めた会社法施行規則に「取締役会が開催された日時及び場所当該場所に存しない取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が取締役会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。」(会社法施行規則101条3項一号)とあるように、会社法は、取締役会の現場に全ての取締役がいることを求めているわけではない。この規定を前提に、法務省はTVや電話を使って取締役会に参加することを認めているのも周知のとおりだ(TV会議については法務省民事局参事官室が平成8年4月19日付で公表した「規制緩和等に関する意見・要望のうち、現行制度・運用を維持するものの理由等の公表について」、電話会議については平成14年12月18日付け民商3044号民事局商事課長回答「電話会議の方法による取締役会の議事録を添付した登記の申請について」参照)。このうち電話会議システムでは、「出席者が一堂に会するのと同等に適時的確な意見表明が互いにできる状態」であることが求められている。要は、取締役会の現場にいる取締役の一人がその場にいない取締役会に電話して意見を聞きながら議事を進めるのはNGだが(平成23年8月9日福岡地裁判決)、スピーカー機能を利用した電話会議であれば、この要件を満たすことになる(TV会議についても同様の要件が求められているが、通常は要件を満たすことになる)。また、TVや電話を使って取締役会を行う場合には、この要件が満たされていることを議事録でも表現する必要がある。例えば審議に入る前には「議長は、審議に先立ち、TV会議システム(or電話会議システム)により、出席者が一堂に会するのと同等に適時的確な意見表明が互いにできる状態にあることを確認した」、審議の終了時には「本日のTV会議システム(or電話会議システム)を用いた取締役会は、終始異状なく議題の審議を終了した」といった記載だ。

ここまでは既に多くの経営陣が知っているものと思わるが、会員企業から疑問の声が寄せられたのが・・・

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2019/04/19 セミナー『2018年12月決算会社・3月株主総会分析』および『「会社法(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」のポイント』を2019年4月19日(金)に開催しました。

本セミナーはすでに開催済みですが、会員の方向けにWEBセミナーを配信中です。
WEBセミナー:~3月総会の動向から 6月総会をシュミレーションする~ 2018年12月決算会社・3月株主総会分析
~上場会社に求められる対応と優先順位~ 「会社法(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」のポイント

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上場会社役員ガバナンスフォーラムでは、2019年4月19日(金)の14時30分~17時40分に下記のセミナーを開催いたします。
詳細はこちらもご覧ください。

時 間 テーマ 講 師
第一部
14:30

16:00
~3月総会の動向から
6月総会をシュミレーションする~
2018年12月決算会社・3月株主総会分析
三菱UFJ信託銀行
法人マーケット統括部 次長
中川 雅博 様
第二部
16:10

17:40
~上場会社に求められる対応と優先順位~
「会社法(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」のポイント
TMI総合法律事務所
パートナー 弁護士
池田 賢生 様

■第一部の詳細

セミナー
の内容
3月決算会社においては、2019年6月の定時株主総会に向けた準備が本格化していることでしょう。改訂コーポレートガバナンス・コードに対応したコーポレートガバナンス報告書の提出が昨年12月末をもって締め切られたことから、今6月総会では政策保有株式への対応や資本コストの把握、独立した諮問委員会の活用など、主要改訂項目が論点になることが予想されます。また、2017年5月に実施されたスチュワードシップ・コードの改訂により機関投資家に議決権行使結果の個別開示が求められて以来、国内機関投資家の議決権行使基準とそれに基づく議決権行使姿勢の厳格化が顕著となっており、予想以上の反対票を投じられる議案もしばしば見受けられるようになりました。

本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者であり、全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、3月決算に次いで社数が多い12月決算会社の3月総会を分析していただきます。議案への賛否動向や、特徴的な株主提案や株主からの質問など3月総会の動向を押さえておくことは、6月総会をシュミレーションする上でも役に立つはずです。また、開催日の集中度合いや個人株主に来場してもらうための工夫など、株主総会の運営面についてもご報告いただきます。

講師の
ご紹介
中川 雅博(なかがわ まさひろ)様
大阪大学法学部卒、大阪大学大学院法学研究科(修士課程)修了。1990年、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。以後、証券代行部門・法人ビジネス部門に所属し、一貫して会社法務に関するコンサルティングを行う。現在、三菱UFJ信託銀行(株)法人マーケット統括部次長、全国株懇連合会理事、東京株式懇話会常任幹事(研究部 研究第2部担当)。
ハンドブックシリーズ1「株主総会」(共著:2002年12月・商事法務)、ハンドブックシリーズ2「株式実務」(共著:2003年4月・商事法務)、「委員会等設置会社への移行戦略」(共著:2003年5月・商事法務)、「株券電子化と移行のポイント」(共著:2008年5月・商事法務)、「株券電子化-その実務と移行のすべて」(共著:2008年8月・きんざい)、「全株懇モデル[新訂2版]」(共著:2009年3月・商事法務)、「株式事務の基礎知識」(2009年11月・商事法務)、「株主総会ハンドブック第3版」(共著:2015年3月・商事法務)、「株主総会・取締役会・監査役会の議事録作成」(共著:2015年3月・清文社)、「監査等委員会設置会社の活用戦略」(共著:2015年9月・商事法務)、「新株主総会実務なるほどQ&A」(共著:2017年3月・中央経済社)、「株主総会の準備実務・想定問答」(共著:2018年1月・中央経済社)など著書多数。

■第二部の詳細

セミナー
の内容
周知のとおり、2017年4月から1年半以上の時間をかけて会社法見直しに向け議論を重ねてきた法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は2019年1月16日、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」(以下、要綱案)を確定しました。要項案には、株主総会資料の電子提供制度の導入、社外取締役の選任義務付け、株主提案議案の制限、役員報酬に関する決定方針等に関する開示の充実、株式交付制度の創設、D&O保険や会社補償の内容の開示や株主総会での決議の義務付けなど、コーポレートガバナンスに関する重要改正事項が多数盛り込まれています。

会社法改正法案の今通常国会への提出こそ見送られたものの、近い将来改正会社法が成立・施行されることは規定路線であり、上場会社は、対応に時間を要する事項については今のうちから対応方針を検討したり、対応に向けた準備を始めておく必要があります。
本セミナーでは、今回の会社法改正を早い段階からウォッチし、改正の経緯にも精通するTMI総合法律事務所 パートナーの池田賢生弁護士をお招きし、要綱案の内容を解説していただきつつ、各改正により上場会社に求められる対応を示していただくとともに、対応の優先順位付けも行っていただきます。

講師の
ご紹介
池田 賢生(いけだ けんせい)様
TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士 ニューヨーク州弁護士。
TMI総合法律事務所にて、2006年10月以降、M&A、IPO、及びグローバル・オファリングを含む、エクイティ・ファイナンス業務等に従事。2010年4月から2012年6月まで金融庁総務企画局企業開示課にて、公開買付け、大量保有報告、その他開示規制の改正・運用、粉飾等の開示規制の違反事案に対する執行(エンフォースメント)を担当。2015年5月、Duke Law School(LL.M.)卒業後、Morgan, Lewis & Bockius LLP(New York Office)にて、M&A、グローバル・オファリング業務等に関与。2018年1月より現職。
共著書に、「詳説 公開買付制度・大量保有報告制度 Q&A」、「逐条解説・2012年金融商品取引法改正」など。論文に、「論説 地方銀行の経営統合の実務および留意点」(金融法務事情)、「自社株対価公開買付け等に係る公開買付制度上の取扱い(Q&A)の解説」(旬刊商事法務)、「金融・資本市場の観点から重要と考えられる論点 -会社法制関係-」(旬刊商事法務)など。

なお、セミナー参加費につきましては、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員のみ無料、それ以外の方は22,000円(税込 ※)となっております。
※セミナーお申込み前に会員登録いただくと、セミナー参加費は無料となります。

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非会員で視聴をご希望の方はjimukyoku@govforum.jpまでご連絡いただければメールにてお申し込み方法をお知らせいたします。

その他、ご不明な点等がございましたら、ご遠慮なく jimukyoku@govforum.jp までお問い合わせください。

<セミナー概要>

  • 第一部 2018年12月決算会社・3月株主総会分析
  • 第二部 「会社法(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」のポイント
  • 【日時】2019年4月19日(金)14時30分~17時40分
  • 【会場】港区港南2-15-2 品川インターシティB棟 11F
  • 【受付】東京海上日動火災保険株式会社 東京中央支店 大会議室 14時00分より
    今回のセミナーは従来の会場とは異なる会場で開催するので、お間違えのないようご注意ください
  • 【講師】第一部 三菱UFJ信託銀行 法人マーケット統括部 次長 中川 雅博 様
        第二部 TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士 池田 賢生 様
  • 【セミナー参加費】当フォーラム会員は無料、それ以外の方は22,000円(税込)

2019/04/19 M&Aの説明責任、特別委員会の設置と開示が鍵に

M&Aは年々増加傾向にある(下図は2018年版中小企業白書の「第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」の「第6章 M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上」より引用)。その背景には、事業の統廃合や、スピード感をもって成長するために“時間を買う”といった経営判断があるものと見られる。
42755

一方で、M&A取引では、通常の証券市場のような透明性が確保されておらず、また、買い手と売り手の利害が対立することから、どうしても取引に不透明さが残りやすいのも事実。特にMBOや支配株主による従属会社の買収(例えば親会社が過半数の株式を所有している子会社の株式を少数株主から購入する場合など)においては、利益相反の問題情報の非対称性の問題が存在するため、一般株主からすると、買収価格が一般株主に不利な価格になっており、買収者が不当に利益を享受しているのではないかといった疑念が生じやすい。M&Aがより一層普及するためには、M&Aの「手続き面での公正さ」の確保が大きな課題と言えよう。・・・

MBO : マネジメント・バイアウト(経営者による買収)の略で、現在の経営者が全部または一部の資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること
利益相反の問題 : MBOを主導する経営者や買収を主導する支配株主には、一般株主から不当に安く株式を買い占めたいというインセンティブが働くため、一般株主と利益が相反する関係にあるという問題点のこと。
情報の非対称性の問題 : 一般株主は、MBOを主導する経営者や買収を主導する支配株主に比べると、アクセスできる情報に限りがあるため、一般株主からすると経営者や支配株主が提示する買収対価が妥当かどうか判断しづらいという問題点のこと。

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2019/04/19 M&Aの説明責任、特別委員会の設置と開示が鍵に(会員限定)

M&Aは年々増加傾向にある(下図は2018年版中小企業白書の「第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」の「第6章 M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上」より引用)。その背景には、事業の統廃合や、スピード感をもって成長するために“時間を買う”といった経営判断があるものと見られる。
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一方で、M&A取引では、通常の証券市場のような透明性が確保されておらず、また、買い手と売り手の利害が対立することから、どうしても取引に不透明さが残りやすいのも事実。特にMBOや支配株主による従属会社の買収(例えば親会社が過半数の株式を所有している子会社の株式を少数株主から購入する場合など)においては、利益相反の問題情報の非対称性の問題が存在するため、一般株主からすると、買収価格が一般株主に不利な価格になっており、買収者が不当に利益を享受しているのではないかといった疑念が生じやすい。M&Aがより一層普及するためには、M&Aの「手続き面での公正さ」の確保が大きな課題と言えよう。

MBO : マネジメント・バイアウト(経営者による買収)の略で、現在の経営者が全部または一部の資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること
利益相反の問題 : MBOを主導する経営者や買収を主導する支配株主には、一般株主から不当に安く株式を買い占めたいというインセンティブが働くため、一般株主と利益が相反する関係にあるという問題点のこと。
情報の非対称性の問題 : 一般株主は、MBOを主導する経営者や買収を主導する支配株主に比べると、アクセスできる情報に限りがあるため、一般株主からすると経営者や支配株主が提示する買収対価が妥当かどうか判断しづらいという問題点のこと。

こうした中、経済産業省に設置された「公正なM&Aの在り方に関する研究会」が検討しているのが「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下、「本指針」)だ。今春に公表予定の本指針は、経済産業省が2002年に公表した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」の後継の指針と位置付けられており、MBOおよび支配株主による従属会社の買収を中心に、主としてM&Aのプロセス面から、我が国企業社会における公正なM&Aの在り方を提示することを目的としている。

本指針の内容を端的に示すキーワードが、「特別委員会」「マーケット・チェック」「マジョリティ・オブ・マイノリティ条件」「情報開示」の4つだ。以下、それぞれについて解説しよう。

■特別委員会
特別委員会とは、「M&Aの是非」「取引条件の妥当性」「手続の公正性」について検討および判断を行うことをミッションとして任意に設置される合議体であり、対象会社から独立性を有する者で構成される。

本指針では、社外取締役が特別委員会の構成メンバーとしてもっとも適任であるとしている。なぜなら、社外取締役は会社の状況をよく理解しているだけでなく、株主が直接責任追及できる存在でもあるからだ。本指針では、社外監査役も「本来的に経営判断に関与することが予定された者ではない」とはいえ「社外取締役が少数にとどまる現状においては、社外取締役を補完するものとして、社外監査役も委員としての適格性を有する」と評価している。一方、社外有識者は、「株主総会で株主の付託を受けて選任されているわけではなく、社外役員に比して会社や株主に対する責任関係も不明確であり、株主による直接の責任追及も困難である」ことから、「M&Aに関する専門性を補うために、社外取締役および社外監査役に加えて、社外有識者を委員として選任することは否定されない」と位置付けている。結論として本指針では、社外取締役のみで特別委員会を構成し、M&Aに関する専門性はアドバイザーから専門的助言を得ること等によって補うという形態が最も望ましい“ベストプラクティス”であるとしている。M&Aの機会が多い上場会社では、M&Aに詳しい社外取締役の選任も必須となってこよう。

特別委員会の設置時期は早ければ早いほど望ましい。本指針では、対象会社が買収者から買収提案を受けた時点以降可及的速やかに、特別委員会を設置することが望ましいとしている。

また、特別委員会には「取引を拒絶する権限」を付与するなどして、対象会社と買収者との間で行われる買収対価等の取引条件に関する交渉過程に実質的に関与させるべきとしている。仮に特別委員会が取引を拒絶する旨の判断を行った場合には、対象会社の取締役会はその判断に拘束されるべき、ということになる。万が一取締役会が特別委員会の判断内容と異なる判断を行う事態に至った場合には、特別委員会の設置趣旨に鑑み、その理由について十分な説明責任を果たすことが求められる。

■マーケット・チェック
マーケット・チェックとは、他の買収者による買収提案の機会の確保のことを指す。他の買収者にも入札させることで、一般株主にとってより有利な条件で M&A が行われることが期待できる。

もっとも、買収者が支配株主である場合(すなわち、経営者が支配株主である場合における MBO、およびそれ以外の支配株主による従属会社の買収)には、第三者への売却に応じる意思が乏しいという状況下で真摯な対抗提案がなされることは考えにくいことから、マーケット・チェックが公正性担保措置として機能する場面は限定的となる点には注意が必要だ。

■マジョリティ・オブ・マイノリティ条件の設定
マジョリティ・オブ・マイノリティ条件とは、M&Aの実施に際し、「株主総会における賛否の議決権行使」や「公開買付けへの応募の有無」により当該M&Aの是非に関する株主の意思表示が行われる場合に、一般株主、すなわち買収者と重要な利害関係を共通にしない株主が有する株式の過半数の支持を得ることを取引の前提条件とし、当該前提条件をあらかじめ公表することをいう。M&Aがマジョリティ・オブ・マイノリティ条件を満たせば、一般株主による判断の機会が確保され、M&Aの条件が一般株主にとって有利なものとなりやすいと言える。

■情報開示
最後に、MBOや支配株主による従属会社の買収で重要になるのが情報開示だ。事後的に情報が開示されることが分かっていれば、取引の当事者に公正さを確保しようとするインセンティブが働くことが期待できる。

指針案では、具体的に以下の情報について充実した開示を行うことが望ましいとしている。

特別委員会に関する情報 ・委員の独立性や専門性等の適格性に関する情報(例えば、委員の独立性、属性、選任理由、選定プロセス等に関する情報)
・特別委員会に付与された権限の内容に関する情報(例えば、取引を拒絶する権限や独自のアドバイザーを選任する権限等が付与されたか否かに関する情報)
・特別委員会における検討経緯や、買収者との協議・交渉過程への関与状況に関する情報(例えば、特別委員会の設置時期、検討事項、受領した情報の類型、審議回数・審議時間等に関する情報)
・M&A取引の是非、取引条件の妥当性や手続の公正性についての特別委員会の判断の根拠・理由、答申書の内容に関する情報(例えば、当該 M&Aに関する主要な検討事項がある場合には、その点に関する判断内容、根拠・理由に関する情報)
・委員の報酬(あるいは報酬スキーム)に関する情報
株式価値算定書やフェアネス・オピニオンに関する情報 ・DCF法における算定の前提としたフリー・キャッシュフロー予測(M&Aが組織再編により行われる場合も含む)
・DCF法における算定の前提とした財務予測の作成経緯(例えば、特別委員会による事業計画の合理性の確認や財務アドバイザー等によるレビューを経ているか否か、当該 M&A以前に公表されていた財務予測と大きく異なる財務予測を用いる場合にはその理由等)
・DCF法における割引率の計算根拠やフリー・キャッシュフローの予測期間以降に想定する成長率の考え方、類似会社比較法における類似会社の選定理由
フェアネス・オピニオンの発行プロセス
・第三者評価機関の重要な利害関係
その他の情報 ・M&Aを実施するに至ったプロセス等に関する情報
・対象会社の業績の下方修正後に M&Aを行うような場合等においては、M&Aが成立しやすくなるように意図的に市場株価を引き下げているとの疑義を招く可能性があるため、当該時期に M&Aを行うことを選択した背景・目的等に関する情報
・MBOにおける取締役と他の出資者(投資ファンド等)の最終的な出資比率や、MBO後の取締役の地位を保証する合意等の対象会社の取締役等が当該 M&Aに関して有する利害関係の具体的な内容に関する情報や、当該取締役等の取引条件の形成過程への関与の有無・内容に関する情報
・対象会社と買収者との間で行われた取引条件等に関する協議・交渉の具体的な経緯に関する情報
・他の買収方法や代替的な買収提案の検討の有無に関する情報
・M&Aへの賛否等について決議する取締役会の議決に参加した取締役および監査役の氏名、賛否等の意見の内容および反対の場合にはその理由

フェアネス・オピニオン : 独立の第三者評価機関が、M&A 等の当事会社に対し、合意された取引条件の当事会社やその一般株主にとっての公正性や妥当性について、財務的見地からの意見を表明するもの

本指針で提示されている原則論や実務上の対応等は、「あくまで、M&Aの公正性を担保しつつ、経済的意義を有する M&Aを発展させるためにはどのような点に留意するのが適切かとの観点から提案されたものであり、M&Aに新たな規制を課す趣旨で提案されたもの」ではない。とはいえ、今後MBOおよび支配株主による従属会社の買収を行うにあたっては、当然に参考にすべき指針となってくる。また、MBOや支配株主による従属会社の買収には該当しないM&Aであっても、利益相反の問題や情報の非対称性の問題は存在する場合があることから、本指針を適宜参照することは、「当該M&Aの公正さの担保に資するとともに、その公正さについて一般株主や投資家等に対して説明責任を果たす際にも役立つ」ことは間違いない。上場会社の経営陣としては、MBOおよび支配株主による従属会社の買収以外の類型のM&Aにも、説明責任を果たす観点から、本指針を意識しつつ取り組むべきと言えよう。

2019/04/18 「内部統制システムの基本方針」の取締役会決議は毎年必要か?

会社法上、大会社(取締役会非設置会社)、大会社である取締役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の取締役会(取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数。以下同)は「内部統制システム」の整備に関する決定をすることが義務付けられている(会社法 348 条 3 項四号・4 項、362 条 4 項六号・5 項、399 条の 13 第 1 項 一号ロハ・2 項、416 条 1 項 一 号ロホ・2 項)。内部統制システムとは「取締役(指名委員会等設置会社の場合は執行役。以下同)の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他会社の業務並びに当該会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制」(※会社法の条文を一部簡略化)を指す。要するに、取締役自身の職務執行や、企業および企業グループの業務を法令等に則った適正なものとするための仕組みと言える。

執行役 : 指名委員会等設置会社において、取締役会決議によって委任された事項について会社業務を実行する役職。取締会決議により選任・解任される(登記も必要)。執行役が2人以上いる場合は会社を代表する代表執行役を選ぶ。取締役と同様、会社に対して善管注意義務および忠実義務を負い、株主代表訴訟の対象にもなる。「執行役員」も会社業務の実行に対して権限と責任を持つが、会社法上に定義はなく、あくまで重要な使用人に過ぎない点、執行役とは異なる。

具体的には、「内部統制システム構築の基本方針」(以下、基本方針)を定め、これを取締役会で決議することになるが、企業からは、「当該決議を毎年しなければならないのか、あるいは一度決議すれば内容に変更がない限り毎年決議する必要はないのか」といった疑問が聞かれる。実際、基本方針の内容を一切変更していなくても、取締役会で前年と同内容の基本方針を改めて決議(前年と同内容の決議)している企業や取締役会で内部統制システム構築の基本方針を変更しない旨を決議(前年の決議内容を「変更しない」旨の決議)している企業もある。

結論から言えば、・・・

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2019/04/18 「内部統制システムの基本方針」の取締役会決議は毎年必要か?(会員限定)

会社法上、大会社(取締役会非設置会社)、大会社である取締役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の取締役会(取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数。以下同)は「内部統制システム」の整備に関する決定をすることが義務付けられている(会社法 348 条 3 項四号・4 項、362 条 4 項六号・5 項、399 条の 13 第 1 項 一号ロハ・2 項、416 条 1 項 一 号ロホ・2 項)。内部統制システムとは「取締役(指名委員会等設置会社の場合は執行役。以下同)の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他会社の業務並びに当該会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制」(※会社法の条文を一部簡略化)を指す。要するに、取締役自身の職務執行や、企業および企業グループの業務を法令等に則った適正なものとするための仕組みと言える。

執行役 : 指名委員会等設置会社において、取締役会決議によって委任された事項について会社業務を実行する役職。取締会決議により選任・解任される(登記も必要)。執行役が2人以上いる場合は会社を代表する代表執行役を選ぶ。取締役と同様、会社に対して善管注意義務および忠実義務を負い、株主代表訴訟の対象にもなる。「執行役員」も会社業務の実行に対して権限と責任を持つが、会社法上に定義はなく、あくまで重要な使用人に過ぎない点、執行役とは異なる。

具体的には、「内部統制システム構築の基本方針」(以下、基本方針)を定め、これを取締役会で決議することになるが、企業からは、「当該決議を毎年しなければならないのか、あるいは一度決議すれば内容に変更がない限り毎年決議する必要はないのか」といった疑問が聞かれる。実際、基本方針の内容を一切変更していなくても、取締役会で前年と同内容の基本方針を改めて決議(前年と同内容の決議)している企業や取締役会で内部統制システム構築の基本方針を変更しない旨を決議(前年の決議内容を「変更しない」旨の決議)している企業もある。

結論から言えば、基本方針は一度取締役会で決議すればそれで会社法上の義務を履行したことになるため、必ずしも取締役会において定期的な決議や見直しが必要とされるわけではない。このことは、会社法の条文上、取締役会に義務付けられているのは、内部統制システムの整備に関する「決定」であることからも読み取ることができる。

ただし、基本方針の決議後、社会情勢や会社の状況の変化により、リスクやコンプライアンスの状況にも変化が生じた場合(例えば、会社に関係する法律の改正、製品の安全に対する社会的価値観の変化など「多くの会社に共通する経営環境の変化」や、組織再編、不祥事の発生など「自社において生じる経営環境の変化」があった場合)、現在の基本方針の内容が会社法の求める内部統制システムとしては不十分なものとなってしまうことも想定される。このような場合には、経営環境の変化に応じて迅速に内部統制システムのあり方を見直し、新たな基本方針を決議することが、取締役の善管注意義務から要請されることになる。逆に言えば、基本方針の内容を変更する必要が生じていない場合には、上述のとおり、それを取締役会において毎年決議する必要はないということになる(「変更しない」旨の決議も不要)。

関連記事:2018年8月23日掲載『代表取締役が負う「内部統制システムの構築義務」の程度

2019/04/17 在留資格「特定技能」の新設により外国人は雇いやすくなったのか?

これまで日本では、「技能実習」(日本の技能・技術等を開発途上地域へ移転させる目的で就労するための在留資格)や留学生等による資格外活動(アルバイト)を除き、外国人が単純労働に就くことは原則として許されていなかった。このこと自体は、国内の雇用市場を安定させるために必要かつ有効な措置と言えるが、今や一部の業界では、人手不足により外国人の労働力に頼らざるを得なくなっている現状が見られる。こうした状況を受け、昨年(2018年)12月8日に出入国管理法が改正され、単純労働を可能とする在留資格「特定技能」が新設されている。これは、人材を確保することが困難な状況にある産業分野(特定産業分野:「介護」「外食」「宿泊」など14業種)において、一定程度の技能と日本語能力を有する外国人に対し、就労を可能とする在留資格を与えるというもの。出入国在留管理庁(旧・入国管理局)では、これにより5年間で34万5千人の外国人受け入れを見込んでいる。

上記能力を測定する試験は国内のみならず海外でも実施され、海外では、「国際交流基金日本語基礎テスト」を実施することとされた9か国(ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴル)のうち試験を実施できる環境が整った国から順次開始されることとなっている。その先陣を切って4月13日・14日にフィリピン・マニラで実施された「介護」分野の特定技能試験は、受験の受け付けを始めた3月20日中に定員125人が満席となり、受験できない者が多数生じたほどの盛況ぶりだった。こうした状況を受け厚生労働省は、当初4月と6月に1回ずつ予定していた試験日程を追加し、6月までに4回試験を実施することとした。

こうした動きは人手不足に頭を悩ませる企業にとっては“渡りに舟”かも知れないが、本当に「外国人を雇いやすくなった」のかというと必ずしもそういうわけではないので注意したい。

その理由として、まず、・・・

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2019/04/17 在留資格「特定技能」の新設により外国人は雇いやすくなったのか?(会員限定)

これまで日本では、「技能実習」(日本の技能・技術等を開発途上地域へ移転させる目的で就労するための在留資格)や留学生等による資格外活動(アルバイト)を除き、外国人が単純労働に就くことは原則として許されていなかった。このこと自体は、国内の雇用市場を安定させるために必要かつ有効な措置と言えるが、今や一部の業界では、人手不足により外国人の労働力に頼らざるを得なくなっている現状が見られる。こうした状況を受け、昨年(2018年)12月8日に出入国管理法が改正され、単純労働を可能とする在留資格「特定技能」が新設されている。これは、人材を確保することが困難な状況にある産業分野(特定産業分野:「介護」「外食」「宿泊」など14業種)において、一定程度の技能と日本語能力を有する外国人に対し、就労を可能とする在留資格を与えるというもの。出入国在留管理庁(旧・入国管理局)では、これにより5年間で34万5千人の外国人受け入れを見込んでいる。

上記能力を測定する試験は国内のみならず海外でも実施され、海外では、「国際交流基金日本語基礎テスト」を実施することとされた9か国(ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴル)のうち試験を実施できる環境が整った国から順次開始されることとなっている。その先陣を切って4月13日・14日にフィリピン・マニラで実施された「介護」分野の特定技能試験は、受験の受け付けを始めた3月20日中に定員125人が満席となり、受験できない者が多数生じたほどの盛況ぶりだった。こうした状況を受け厚生労働省は、当初4月と6月に1回ずつ予定していた試験日程を追加し、6月までに4回試験を実施することとした。

こうした動きは人手不足に頭を悩ませる企業にとっては“渡りに舟”かも知れないが、本当に「外国人を雇いやすくなった」のかというと必ずしもそういうわけではないので注意したい。

その理由として、まず、外国人であっても「労働者」である以上、労働基準法・最低賃金法・労働契約法・労働組合法等の労働関係法令は日本人同様に適用されるということが挙げられる。労働保険や社会保険(社会保障協定の締結相手国から派遣された者を除く)にも加入させなければならない。また、外国人であることを理由として日本人より賃金を低く抑えることも許されない(ただし、経験・能力等を考慮して適正な労働条件を設定することは(日本人と同様に)認められる)。

社会保障協定 : 海外で働く場合、一定期間その国の年金制度に加入しなければならない場合がある。社会保障協定は、こうした「保険料の二重負担」を防止するため、加入するべき制度を二国間で調整する(二重加入の防止)制度であり、日本における年金加入期間を、協定を結んでいる国の年金制度に加入していた期間とみなし、その国の年金を受給できるようにする。

さらに、外国人を雇い入れる企業にとって最も負担となるのは、「外国人支援計画」を策定しなければならないということだろう。これは、外国人が特定技能活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための「職業生活上」、「日常生活上」又は「社会生活上」の支援の実施に関する計画のことを指す。上述のとおり日本の技能・技術等を開発途上地域へ移転させることを目的とする「技能実習」であれば、仲介する事業協同組合等がお膳立てしてくれるのが通常だが、「特定技能」は直接雇用なので自社で対応しなければならないことになる。外国人を雇用する際には、これらを踏まえて自社の要員計画を検討する必要があろう。

2019/04/16 「E」や「S」の経済的価値への換算

産業能率大学 経営学部 教授
光定 洋介

ESGのうち「E」と「S」の“源流”とも言えるのが「CSR」だが、かつてはCSRを本業とは関係がない単なる“ボランティア活動”等と捉える経営者も少なくなかった。しかし、今やそのような経営者はだいぶ減ったと思われる。

ESG : Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
CSR : Corporate Social Responsibility(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)の略で、一般的に「企業の社会的責任」と訳される。企業を、「社会の構成員」として位置付けることで、企業は取引先・消費者・株主・従業員・地域社会などのステークホルダーに対し、責任ある行動を行い、社会的課題に応え、信頼関係を築いていくべきという考え方。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

経営者の考え方に変化をもたらす一因となったのが、・・・

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2019/04/16 「E」や「S」の経済的価値への換算(会員限定)

産業能率大学 経営学部 教授
光定 洋介

ESGのうち「E」と「S」の“源流”とも言えるのが「CSR」だが、かつてはCSRを本業とは関係がない単なる“ボランティア活動”等と捉える経営者も少なくなかった。しかし、今やそのような経営者はだいぶ減ったと思われる。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
CSR : Corporate Social Responsibility(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)の略で、一般的に「企業の社会的責任」と訳される。企業を「社会の構成員」として位置付けることで、企業は取引先・消費者・株主・従業員・地域社会などのステークホルダーに対し、責任ある行動を行い、社会的課題に応え、信頼関係を築いていくべきという考え方。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

経営者の考え方に変化をもたらす一因となったのが、2017年5月に経済産業省が公表した「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス―ESG・非財務情報と無形資産投資―」(以下、価値協創ガイダンス)だ。価値協創ガイダンスでは、企業価値の向上につながる要素として下記の6項目が掲げられており、これらは企業の開示の充実や機関投資家の対話のテーマに利用されることが期待されている。

<価値協創ガイダンスにおける6つの柱>
① 価値観(企業理念やビジョン等)
② ビジネスモデル(事業を通じて顧客・社会に価値を提供し、持続的な企業価値向上につなげる仕組み)
③ 持続可能性・成長性(ビジネスモデルが持続し成長性を保つための重要事項、ESGやリスク等)
④ 戦略
⑤ 成果と重要な成果目標(財務パフォーマンスや戦略遂行のKPI等)
⑥ ガバナンス

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

この6つの柱は、下図の「本ガイダンスの全体像」(価値協創ガイダンスの5ページ参照)の一番上の列に並んでいるが、この図で注目されるのは、「ESGに対する認識」を含む「持続可能性・成長性」(上記③)が、「ビジネスモデル」(④)および「戦略」(⑤)と結びついている点である。これは、自社のビジネスモデルをより競争力のあるものとするために、ESGを「戦略」として活用すべきということを示している(「持続可能性・成長性」だけが菱形になっている理由など、下図の見方については2018年2月22日のニュース「価値協創ガイダンスに見るESGに対する機関投資家の考え方」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。米国では、2011年にハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授とマーク・クラマー教授が「Creating Shared Value(CSV=共通価値の創造)」というタイトルの論文を発表しが、この論文では、過去の論文で使っていた「戦略的なCSR」という文言を「CSV」と言い直す形で再提起している。簡潔に言えば、CSVとは本業の発展にもつながるCSR活動であり、これはESGを「ビジネスモデル」「戦略」と結び付けて考える価値協創ガイダンスに通じるものがある。
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では、本業の発展につながるCSR活動とはどのようなものだろうか。これを明らかにするために筆者がCSR活動を分類したのが下図である。図の横軸は企業価値への影響の大きさ、縦軸は本業との関連の深さを示している。商品やサービスの販売が社会貢献に結び付くような仕掛けを取り入れるマーケティング手法(Cause Related Marketing(コーズ・リレーテッド・マーケティング)=CRM)などはゾーンAに属し、ビジネスモデルや経営戦略と密接に結び付いている。例えば、ミネラルウォーターを1L飲むたびにアフリカに10L分の新鮮な水を提供する(1L for 10L)、ビールを1本飲むごとに1円を環境や文化財の保護活動に寄付する、ティシュペーパーの売上の一部をアフリカでトイレを設置するためなどに寄付するといった活動である。ゾーンCは、例えば工場近くで普段からボランティア活動を行うことによって、万が一工場で事故等のトラブルが発生した際に地元住民との話し合いがスムーズに行くようにするなど、ダウンサイド・リスクを抑制するようなCSR活動である。

Cause : ここでは「社会的課題やテーマ」を指す。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

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2018年秋に公表された統合報告書を見ると、いくつかの企業が、ESG活動がどのように企業価値の増加につながるのかを説明しようとしている。その一つが味の素グループだ。同社グループは統合報告書の中で「創業以来一貫して事業を通じた社会課題の解決に取り組み、社会・地域と共有する価値を創造することで経済価値を向上し、成長につなげてきた」とし、この取り組みを「ASV(Ajinomoto Shared Value)」(同社の統合報告書の4ページ左上参照)と名付けている。社会課題の解決を最終的に「経済価値の向上・成長」につなげている点で、ASVはCSVに近い概念と言えよう。そして、中期経営計画(2017-2019)においても「ASVを通じた価値創造ストーリー」を定めている。同社グループが掲げる「ASVを通じた価値創造ストーリー」は以下の4つから構成される(6~7ページ参照)。

(1)先端バイオファイン技術とそこから生まれたおいしさ設計技術により、おいしく体に良い職で、健康づくりに貢献します
(2)食を通じて、家族や人と人がつながり、多様なライフスタイルを実現できる社会づくりに貢献します
(3)モノづくりから消費の場面に至るまで、社会とお客様と共に、地域・地球との共生に寄与します
(4)グローバルトップクラスの多様な人財が、お客様起点で地域トップ価値を共創します

特筆すべきは、上記4つの「ASVを通じた価値創造ストーリー」という非財務的な価値を、売上高、コスト、事業利益、ROEといった財務な価値(経済価値)に換算しているということだ。例えば、「(2)食を通じて、家族や人と人がつながり、多様なライフスタイルを実現できる社会づくりに貢献」した結果として「共に食べる場」が1世帯で年間あたり「50回⇒70回」へと増加し、これによる同社グループ製品の売上の増加などが数字で示されている。また、「(3)モノづくりから消費の場面に至るまで、社会とお客様と共に、地域・地球との共生に寄与」することにより「地球環境への負荷の低減」などを実現し、これがどの程度のコスト削減につながるのかも数字で示されている。

このように、CSR活動(ESGにおける「E」や「S」)とビジネスモデルや経営戦略との関係を開示することは、投資家が投資先の事業の競争力を理解する上で非常に役に立つ。近い将来、社会(S)や環境(E)に良いことが、自社の中長期的な企業価値向上にどのようにつながるのかを「データ」とともに示すことが求められる時代が来るだろう。