2019/04/09 ACGAが「更なる変更を要する」としたCGコードの論点(会員限定)

ACGA(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)がアジア諸国におけるコーポレートガバナンスの国別ランキングや評価などを示すレポートの2018年版「CG Watch 2018」において、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役設置会社という3つの機関設計が存在することなど日本のコーポレートガバナンスの「複雑さ」を批判していることは、2019年4月2日のニュース『ACGAが指摘する「Japan – Keeping it complicated」の意味』でお伝えしたとおり。一方で、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の導入・改訂など国を挙げてコーポレートガバナンス改革を進めているにもかかわらず、日本のランキングが下がった(2016年・4位→2018年・7位)ことについては、いまだに失望や批判の声もある。

ACGA(アジア・コーポレート・ガバナンス協会) : Asia Corporate Governance Associationの略で、アジアに投資するグローバルな機関投資家の団体。

では、ACGA、ひいてはグローバル投資家は日本のコーポレートガバナンス改革の進捗度をどのように捉えているのだろうか。CG WatchはIntroductionにおいて、最近2年間に実施された日本のガバナンス改革の各施策について以下のように評価している。

① スチュワードシップ・コードの改訂: 極めて必要性の高い変更が加えられた
② CGコードの改訂: あまり効果的な変更とは言えない
③ 監査法人のガバナンスコード()の導入: アジア初であり、不祥事に適切な対応
 監査法人のガバナンスコードについては2017年4月10日のニュース「監査法人のガバナンス・コード導入が企業に与える影響」参照

上記②にあるように、CGコードは改訂されたものの「although to less effect」と低い評価に甘んじており、7つあるカテゴリー別のスコアで「3. CG rules」は最低点(47% ※トップのオーストラリアは78%)となっている。さらにACGAは、日本のガバナンス規制について「いまだアジアの先進市場に遅れをとっている」と指摘している。昨年(2018年)に行われたCGコード改訂が投資家の要求水準に応えるものではなかったことが、「CG rules」のカテゴリー、ひいては全体のスコアが低迷した大きな要因と言えよう。

またACGAは、昨年のCGコード改訂で取り上げられなかった「変更を要する論点(more contentious change)」として、具体的に以下を例示している。

contentious : 「異論の多い」といった意味

・独立社外取締役の最低人数の引上げ(3人または3分の1)
・株主総会開催時期の後ろ倒し(例えば決算期末から4か月後)
・取締役会および経営陣における女性役員の役割拡大
・独立社外取締役の定義厳格化(特に取引関係について)
・取締役会における監査委員会の役割拡大
・取締役会の戦略/監督機能への特化(業務執行機能ではなく)

これらの論点は次回の改訂(3年後もしくはより早期)時のテーマになり得るのみならず、機関投資家の視点(議決権行使基準など)としても注目する必要があろう。実際、独立社外取締役については三菱UFJ信託銀行が「3分の1」に引き上げ(2020年~)、女性役員についてはグラスルイスが「1名」を義務付け(2019年~)、独立性要件についてはISSが政策保有先出身の社外役員候補者の独立性を否定(2020年~)するなど、着実に議決権行使基準に反映させてきている。上場会社においてはCGコードの改訂を待たず、独自の対応を検討するべきだろう。

2019/04/08 統合報告書に足りない3つの視点(会員限定)

統合報告書を発行する企業が増加している。2018年度に統合報告書を発行した企業数は414社で、前年から79社(24%)の増加となった。このうち東証一部上場企業は382社であり、東証一部上場企業全体(2,128社)の2割には達していないが、これらの企業の時価総額を合計すると東証一部全体の58%を占める。少なくともTOPIX500など時価総額が大きい企業においては、統合報告書は必須の開示マテリアルになりつつあると言えよう。

開示マテリアル : 開示書類や開示データ

とはいえ、我が国における統合報告書の歴史はまだ浅いこともあり、必ずしも投資家の求める内容となっていないものも少なくないという現状がある。こうした中、2014年から5年間連続で実施され、国内上場企業の統合報告書に関する貴重な定点観測データとして投資家の間でも知られているのが、KPMGの「日本企業の統合報告書に関する調査」だ。その2018年版が(2019年)3月28日に公表されている。

この調査では、上記のような統合報告書の発行企業数やページ数といった計数情報のみならず、その記載内容についても7つの領域(統合思考、価値創造、マテリアリティ、リスクと機会、財務戦略、主要指標、ガバナンス)に分けて分析し、その分析結果として以下の3点を提言している(4ページ参照)。

マテリアリティ : 重要性

まずは「経営陣や取締役会の考える価値創造ストーリーを伝えること」だ。統合報告書は財務情報と非財務情報を統合して、企業の価値創造プロセスとその進捗状況を説明するものだが、価値創造プロセス図を掲載している企業は全体の3分の2にとどまっている(9ページの図表2-1参照)。いまだCSR情報の羅列にとどまっているような統合報告書も少なくないことがうかがわれる。また記載内容の正当性について経営者がコミットメントを表明している統合報告書はわずか1%(414社中の5社)だった(8ページ図表1-3参照)。統合報告書に対する経営トップの主体的な関与はまだまだと言えそうだ。

CSR : Corporate Social Responsibility(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)の略で、一般的に「企業の社会的責任」と訳される。企業を、「社会の構成員」として位置付けることで、企業は取引先・消費者・株主・従業員・地域社会などのステークホルダーに対し、責任ある行動を行い、社会的課題に応え、信頼関係を築いていくべきという考え方。

次に、「流行りのキーワードに流されず、統合思考に基づく経営を示すこと」が提言されている。“流行り”の最たるものとしては「SDGs(持続可能な開発目標)」が挙げられるだろう。しかし単にSDGsが掲げる17の目標を並べているような事例もあり、それでは財務価値と非財務価値の相互関係を包括的に考慮する “統合思考”に基づく説明とは言えない。「社会・環境に対するアウトカム(創出された成果)が経済価値に及ぼす影響」を説明している統合報告書は全体の50%にとどまっており(7ページの図表1-1参照)、“統合思考”の実現にはいまだ課題が多い。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

3つ目が「価値創造ストーリーを柱に、その実態と進捗状況を示すこと」だ。たとえ中長期的な価値創造ストーリーを描いても、その進捗状況のチェック方法とストーリーの実現を支える体制の説明がなければ、“絵に描いた餅”以上の印象を読み手に与えることはできない。進捗状況をチェックするツールであるKPIについてはROEROAROICなど資本効率性に関する指標を88%の企業が開示する(17ページの図表6-2参照)など、一定の進展が見られる。一方で「体制」の肝であるガバナンスについては、社内取締役の選任理由を説明している事例が11%にとどまる(19ページの図表7-4)など、説明不足感が否めない。

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)。実務上、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。
ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産))。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。

次回統合報告書を作成する際には、上記3点を念頭に置きながら、ブラッシュアップを図りたいところだ。

2019/04/05 「予備費」を設けている企業に求められる対応

予算の策定時には見積もることができなかった支出に機動的に対応するため、「予備費」を設けている企業も少なくないだろう。現在この「予備費」の是非を問われているのが、・・・

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2019/04/05 「予備費」を設けている企業に求められる対応(会員限定)

予算の策定時には見積もることができなかった支出に機動的に対応するため、「予備費」を設けている企業も少なくないだろう。現在この「予備費」の是非を問われているのが、日産自動車だ。

日産自動車が2019年3月27日に公表した「ガバナンス改善特別委員会報告書」によると、同社には機動的な支出に対応することを名目とする「CEOリザーブ」なる予備費があり、原則として CEO、CFOおよび CEO オフィス長(並びに担当役員)がサインするだけで支出が可能となっていた。同社前会長(CEO(兼会長兼社長)の肩書を持っていたのは2016年までだが、その後も実質的なCEOの立場にあった)のカルロス・ゴーン氏の不透明な支出の多くが「CEOリザーブ」から支払われていた。こうした不透明な支出は「CEO案件」と称されており、ゴーン氏は、同社の前代表取締役でゴーン氏の腹心と言われたグレッグ・ ケリー氏をはじめとする特定少数の者に人事本部、CEOオフィス、秘書室、法務室、内部監査室等、数々の主要な部署の責任者たる地位を集中させ、会社資金・経費の私的利用に関与する役職員を限定することで、他部署がCEO案件やCEOリザーブに関与する機会を無くしていた。これらの責任者は、報酬支払いや資金の私的利用に関連する問題を他部署などから指摘されても、「CEO案件」であることを理由に詳細な説明を拒んでいた。つまり、CEOリザーブなる予備費の存在がゴーン氏による経費の私的流用を手助けしていたことになる。

ガバナンス改善特別委員会報告書は、「事実上CEOとその直属の特定少数の部下がサインすれば金銭支出が可能となる仕組みは、本件不正行為等と類似の行為の実行を容易にすると判断」したとして、CEOリザーブの廃止を提言している(同報告書の提言34を参照)。もっとも、報告書では「通常の予備費の存在自体は差し支えないと考える」としており、そのための前提条件として「監査委員会、内部監査・統制部門及び監査法人により、適切に監査される」ことが必要であるとしている(報告書31ページ)。

予備費を設けている企業においては、日産自動車と同じ轍を踏まないよう、早急に予備費自体の必要性(予算設定時に見積もることができない突発的な支出が年間でどれほどあるのか)、より透明性のある代替手段では対応できない理由(「予算設定時に設けたバッファー」「予算外支出」「事後承認」では対応できないのか)を検討するべきである。検討に先立ち、内部監査で過去数年分の予備費の内訳をレビューし、「予備費が過去にどのような用途で支出されていたのか」という観点から集計を行うとともに、あわせて「不透明な支出がなかったか」を確認する必要がある。その結果、予備費の必要性が乏しいという結論に至れば予備費はすぐに廃止すべきである。仮に一定の必要性が認められるのであれば、次は予備費支出にあたっての内部統制の十分性(通常の予算外支出や事後承認が稟議書による承認等社内で必要な承認プロセスを経るのに対して、予備費にだけ軽い内部統制が適用されていないか。また、不正の温床になりがちな予備費を重点的な内部監査の対象にしているか)も検討しなければならない。

バッファー : 本来は「余裕」「緩衝」といった意味を持つが、ここでは、予算のうち「余裕をもって確保していた部分」を指す。

今後は監査法人も予備費に対して厳しいスタンスで臨むことが予想される。経営陣には、社内外から予備費に対して厳しい視線が注がれるようになったという環境変化に対応した行動とアカウンタビリティの履行が求められていると言えよう。

アカウンタビリティ : 説明責任

2019/04/04 セクハラへ等の対応不足で役員が投資家に訴えられる

訴訟大国と言われる米国で、企業が頭を悩ませているのが「集団訴訟(クラスアクション)」だ。最近では東芝が、不正会計問題に起因する株価下落により損失を被ったとして、同社の米国預託証券(ADR)を保有する米国の投資家から、損害賠償を求め集団訴訟を起こされている(本件に関する同社のリリースはこちら)。・・・

預託証券 : 企業が自社の株式を法規制の異なる外国でも流通させるため、自社の株式を銀行等に預託し、その代替として海外で発行される証券のこと。 預託証券は、通常の株式と同様に発行された国の取引所等に上場し、取引される。これにより、企業は預託証券を通じて外国での資金調達が可能となる。預託証券は英語では「Depositary(預託の) Receipt(領収書)」、略して「DR」と呼ばれる。米国の資本市場で取引される米国預託証券が「ADR=American Depositary Receipt 」である。

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2019/04/04 セクハラへ等の対応不足で役員が投資家に訴えられる(会員限定)

訴訟大国と言われる米国で、企業が頭を悩ませているのが「集団訴訟(クラスアクション)」だ。最近では東芝が、不正会計問題に起因する株価下落により損失を被ったとして、同社の米国預託証券(ADR)を保有する米国の投資家から、損害賠償を求め集団訴訟を起こされている(本件に関する同社のリリースはこちら)。

預託証券 : 企業が自社の株式を法規制の異なる外国でも流通させるため、自社の株式を銀行等に預託し、その代替として海外で発行される証券のこと。 預託証券は、通常の株式と同様に発行された国の取引所等に上場し、取引される。これにより、企業は預託証券を通じて外国での資金調達が可能となる。預託証券は英語では「Depositary(預託の) Receipt(領収書)」、略して「DR」と呼ばれる。米国の資本市場で取引される米国預託証券が「ADR=American Depositary Receipt 」である。

集団訴訟とは、同じ相手や事件から同じ損害・被害を受けた者が複数いる場合、一部の被害者の被害者全体を代表して提起する民事訴訟であり、米国では企業を相手取った集団訴訟が頻発している。米国の集団訴訟は和解に至ることが多いが、本人が望まない限り被害者全員が訴訟当事者となり得るため、和解するにしても、和解金が膨大な額に上る恐れがある。

そして、近年の顕著な傾向として見られるのが、東芝に対して提起されたような投資家による集団訴訟の増加だ。ここでいう投資家には機関投資家が含まれる。上記東芝の集団訴訟でも、原告に年金基金が名を連ねている。企業の不祥事等による株価下落で損失を被ったとして投資家により提起された集団訴訟は2018年には約400件発生しており、ここ5年間で倍増している。集団訴訟というと、通常は企業を対象にしたものというイメージが強いが、最近は役員を対象にするケースが増えていることも注目される。また、提訴の理由も、東芝のような不正会計といったものにとどまらず、セクハラや差別、サイバー攻撃などに対する役員の対応不足など多様化している。

米国市場にADRを上場させている日本企業はもちろん、そうでない日本企業も、日本市場にも投資する投資家がこのような動きをしていること自体、注意しておくべきだろう。日本では2016年10月に「消費者裁判手続特例法」が施行され、集団訴訟を起こすことが可能となったが、損害賠償の対象となるのは基本的に「契約の目的物等に生じた損害(例えば商品代金や契約代金相当額など)」のみであり、株価下落による損失などは対象外となっているが()、東芝の不正会計問題では、日本でも株価下落により損失を被った投資家から訴訟が提起されている。その原告には、個人投資家のみならず、海外機関投資家が多く含まれる(本件に関する同社のリリース参照)。米国で起きていることを見ると、日本においても、不祥事に起因する株価下落について投資家が訴訟を起こすケースが増加するというシナリオは否定できないだろう。

 また、集団訴訟を提起できる主体も適格消費者団体に限定されており、米国流の集団訴訟は不可能。ただし、共同して訴訟(いわゆる共同訴訟。民事訴訟法38条)を起こすことは可能。この場合、全員が原告となる。“被害者の会”などが起こす訴訟は共同訴訟に当たる。

2019/04/03 海外子会社役員への株式報酬

海外子会社の売上等の増加とともに、海外子会社の役員をいかに処遇するかは日本企業にとって重要な経営課題の一つとなりつつある。日本の親会社の役員とベクトルを合わせるためには、近年日本企業でも導入が相次いでいる譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)を付与するということも考えらえるが、この場合ネックとなるのが、・・・

譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しない、目標の業績に未達など)が定められているものを指す。リストリクテッド・ストック(restricted stock)という呼称も定着している。

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2019/04/03 海外子会社役員への株式報酬(会員限定)

海外子会社の売上等の増加とともに、海外子会社の役員をいかに処遇するかは日本企業にとって重要な経営課題の一つとなりつつある。日本の親会社の役員とベクトルを合わせるためには、近年日本企業でも導入が相次いでいる譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)を付与するということも考えられるが、この場合ネックとなるのが、海外子会社の役員など「非居住者」はそもそも日本の証券会社での口座開設が困難ということだ。日本の証券会社に口座を開設できないとなれば、株式報酬の付与も事実上不可能となる。

譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しない、目標の業績に未達など)が定められているものを指す。リストリクテッド・ストック(restricted stock)という呼称も定着している。

そこで考えられるのが、株式に変えて金銭を支給することだ。もっとも、単に金銭を支給するだけでは「日本の親会社の役員とベクトルを合わせる」という目的は達成できない。このような状況を解消するのに適した報酬として「ファントムストック(自社株連動型報酬)」が挙げられる。株式報酬を現金で代替した報酬であるファントムストックとは、文字通り架空(ファントム=Phantom)の株式(ストック=Stock)を用いたインセンティブ報酬であり、架空の株式を付与し、一定期間経過後、その間における株価の上昇・下落等を反映させた「株価×付与数」を現金で支給する()。ファントムストックを使えば、実質的に株式報酬を支給した場合と同じインセンティブ効果を作り出すことができる。

 なお、ファントムストックはフルバリュー型(⇔値上がり益型(例:通常型ストックオプション))という点で、株式報酬型ストックオプションの代替措置と言える。資本構成や議決権に影響を与えたくないなど、資本政策上の観点から利用されることが多い。ただし、企業にとっては、ストックオプションと異なりキャッシュアウトが生じる分、負担が大きい点は注意が必要。

ただし、ここで問題になるのが「税金」だ。譲渡制限付株式報酬は「事前確定届出給与」として、法人税の計算上、損金に算入することができるが(役員報酬の法人税上の取扱いについては、【特集】2017年度税制改正を踏まえたインセンティブ報酬設計のポイント「2.損金算入要件の変化」 の図表3参照)、譲渡制限付株式報酬の実質的に同じ性格を持つ報酬を海外子会社の役員に「ファントムストック」として支給した場合、果たしてこれを税務上どのように取り扱うのかは、これまで明確な答えがなかった。

事前確定届出給与 : いつ、どれくらい(確定額、確定した株式数・新株予約権など)支給するかを“事前に”確定した上で原則として税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

こうした中、経済産業省は、今や役員報酬に関する実務の指針となっている同省の『「攻めの経営」を促す役員報酬 ~企業の持続的成長のための インセンティブプラン導入の手引~』を先月(2019年3月8日)改訂し、この点に関する新たなQ&Aを新設している(「事前確定届出給与である株式報酬に相当する金銭報酬(ファントムストック)を非居住者役員に交付する場合の取扱いについて(Q18)」 参照)。

もともと、ファントムストックを損金算入するためには「業績連動給与」の損金算入要件を満たす必要がある(上記図表3参照)。そこでQ18では、非居住者である役員にファントムストックを支給する場合には「業績連動給与」の損金算入要件を満たせば損金算入を認めることを明らかにしている。ただし、損金算入するためには、有価証券報告書等において、「非居住者役員への金銭報酬は居住者役員に付与する株式報酬に相当するものである」旨などを開示することも求める。

業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。

実質的に同じ報酬であるにもかかわらず、日本に居住する役員に支給する場合には「事前確定届出給与」として、一方、非居住者である海外子会社の役員に支給する場合には「業績連動給与」として損金算入を認めることとした点は、国税当局の配慮の跡と言えそうだ。

2019/04/02 ACGAが指摘する「Japan – Keeping it complicated」の意味

昨年(2018年)末に公表されたACGA(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)CG Watch 2018におけるMarket rankingで、日本が2016年の4位から7位に後退したことは、我が国の資本市場関係者から失望と批判をもって受け止められていることは既報のとおりだ(2018年12月13日のニュース「ACGAが付けた日本のCGランキングに機関投資家から批判の声」参照。一方、ランキングは妥当とする意見については2018年12月20日のニュース「ACGAのCGランキングと海外から見た日本企業の現状」参照)。とはいえ、・・・


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