2019/02/28 【2019年1月の課題】議決権行使助言会社から反対推奨を受る可能性がある場合の対応(会員限定)

大和総研 主任研究員 鈴木裕

Ⅰ “利益相反管理ツール”としての議決権行使助言会社

まず、なぜ近年、機関投資家が議決権行使助言会社を利用するケースが広がっているのかについて触れておきましょう。

その大きな要因と言えるのが、2017年5月に実施されたスチュワードシップ・コードの改訂により、機関投資家に対し、投資先企業の株主総会における議決権行使結果を「個別企業」の「個別議案」ごとに開示することが求められるようになったということです。スチュワードシップ・コードは「コンプライ・オア・エクスプレイン」というプリンシプル・ベースのルールであるとはいえ、今や大手機関投資家のほとんどが議決権行使結果の個別開示を行っています。

この個別開示は、機関投資家に利益相反行為をさせないようにする目的で導入されたものです。例えば機関投資家(運用機関)自身やその親会社(銀行や証券会社など)が投資先企業と取引がある場合、投資先企業に有利になるよう賛成票あるいは反対票を投じるという形で議決権行使において投資先企業への忖度が働けば、機関投資家の顧客(年金基金など)の利益が損なわれる恐れがあります。そこで、機関投資家は利益相反行為がないことを明確にするため、議決権行使結果の個別開示を行っているわけです。

また、最近は独立社外取締役を迎え入れたり、第三者委員会を設けたりして、利益相反を適切に管理していることを示すための組織作りに取り組んでいる機関投資家も増えています。

さらにもう一つの利益相反防止策として、本稿のテーマでもある「議決権行使助言会社」の利用が考えられます。これまで日本の大手機関投資家は、議決権行使の判断はインハウス(社内)で行っていましたが、議決権行使結果の個別開示が始まってからは、外部の議決権行使助言会社を使って、利益相反の管理を適正に行っていることを対外的に示そうと動きが広がっています。

Ⅱ 議決権行使助言会社のレポートを入手する

少なからぬ機関投資家が議決権行使助言会社の助言に従うとしている以上、上場企業としては、まず自社の株主総会議案について、議決権行使助言会社がどのような賛否推奨を行っているのかを知る必要があります。議決権行使助言会社による賛否推奨情報を企業側が知るのは、証券代行会社やIRコンサルティング会社からの情報提供によることが多いようです。

こうした入手先がない場合やできるだけ早く情報を入手したい場合には、企業側から議決権行使助言会社に直接、賛否推奨レポートを請求する方法もあります。議決権行使助言会社大手のISS(Institutional Shareholder Services Inc.)とグラスルイス(Glass, Lewis & Co., LLC)は、上場企業からの請求があればレポートを送ることとしているようです。議決権行使助言会社は他にもありますが、この2社が業界シェアの97%を有すると言われています。

議決権行使助言会社と接触したくない場合には、機関投資家の議決権行使状況を見て、議案への反応を探ることもできます。モノ言う投資家として世界的に著名なCalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金 ※通称「カルパース」)やCalSTRS(カルフォルニア教職員退職年金基金 ※通称「カルスターズ」)は、株主総会前に日本の上場企業を含む投資先企業の株主総会議案への賛否を公表しています。CalPERSやCalSTRSがあらかじめ反対投票を投じるとしているようであれば、議決権行使助言会社が反対推奨を行っている可能性があるので、議決権行使助言会社に賛否推奨レポートを請求してもよいでしょう。

<議決権行使助言会社等の賛否状況を知る方法>
(出所)ISS、グラスルイスのウェブサイトより大和総研作成
ISS ISS「企業が ISS 分析レポートを入手する方法」
グラスルイス Glass, Lewis & Co.“Purchase a Proxy Paper”
CalPERS CalPERS“Global Proxy Voting Decisions”
CalSTRS CalSTRS“Proxy Vote Disclosure”
Ⅲ 反論すべきか、静観すべきか

1 反論の要否の検討
議決権行使助言会社から株主総会議案に対し反対推奨を受ける上場企業は毎年数百社にのぼります。しかし、これに対し反論する企業はさほど多いわけではありません。反対推奨を受けた企業が反論しない理由はいくつか考えられます。

第一に、議決権行使助言会社の反対推奨自体を企業側が認識していないということがあります。議決権行使助言会社は、上場企業側からの請求がない限り、賛否推奨の判断を対象企業に積極的に知らせるわけではないため、IRコンサルティング会社などから知らされることがなければ、反対推奨されているという事実自体を企業側が知らないということは十分考えられます。

第二に、企業側で「議決権行使助言会社の反対推奨に大きな影響力がなく、議案の成否には関係しない」と判断すれば、反論するまでもないのは言うまでもありません。

第三に、反論のために反対推奨の存在に言及すれば、かえって「この議案には問題がありそうだ」という情報を株主に広く知らせることになってしまうことを危惧し、あえて反論しないというケースもあるでしょう。

2 反論する場合、どこを攻めるか
助言内容に反論することを公表すると決めた場合、次は助言内容のどの点を攻めるべきかを検討することになります。

議決権行使助言会社は、類型的な株主総会議案についてはあらかじめ賛否判断基準を策定し、これに事実を当てはめることで賛否のいずれを推奨するかを決定しています。そこで、議決権行使助言会社の助言内容に反論する場合には、判断基準の合理性に関する疑いを指摘するか、あるいは事実認定の誤りを指摘することが考えられます。

判断基準の合理性を問題にする場合には、議決権行使助言会社の判断基準が日本の実情や常識からかけ離れていることを主張することになるでしょう。もっとも、このような反論を受けたとしても、議決権行使助言会社が自らの判断基準自体が不合理であると認めることは考えにくいと言えます。しかし、例えばメインバンク出身の社外役員候補者の独立性が問題になった場合、仮にそこに勤務していたのが数十年前のことで、しかも勤務期間も短いということであれば、「メインバンクへの勤務経験があるというだけで独立性がないとする判断は疑問である」などとして、判断基準の不合理さを問う余地はあります。メインバンク等での勤務経験があっても、退職後ある程度の期間が経過していれば独立性を認めるという考え方が肯定されるケースはあるはずです。

一方、事実認定の誤りを指摘する場合には、議決権行使助言会社の判断を覆すことができる可能性はより高いでしょう。議決権行使助言会社は、非常に多くの上場企業の株主総会議案に対する賛否推奨を短期間で判断しなければならないため、事実認定に誤りが生じるということは起こり得ます。そこで、事実関係の誤りを指摘したうえで、議決権行使助言会社の判断基準に真実を当てはめてみれば賛成が推奨されるはずだという指摘は効果があるものと考えられます。

Ⅳ 企業側からの反論事例

1 スチュワードシップ・コード導入前にも年間50社近くが反論文を公表
実は、機関投資家に適正な議決権行使を求めるスチュワードシップ・コードが設けられる前から、議決権行使助言会社による反対推奨に反論する補足説明等を公表する例は少なからずありました。今後議決権行使助言会社の影響が強まる可能性を上場企業は当時から敏感に察知していたのかもしれません。

<補足説明等がなされた議案数>     ※スチュワードシップ・コードの導入は2014年2月
(出所)株式会社ICJ「議決権行使参考書類の補足説明にみる情報発信のポイントと留意点」(2019年3月7日)
2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
43 21 19 40 49 56 79

2 反論の内容
これらの反論は、議決権行使助言会社の反対推奨を踏まえて、自社の考え方を述べるものがほとんどです。例えば社外取締役の選任議案であれば、議決権行使助言会社の独立性基準を満たさないが故に反対推奨が行われているものの、自社の独立性基準からは何ら問題がないとして、助言内容の不合理さを論じるものが大部分を占めています。過去に大株主の企業やメインバンク、担当監査法人で勤務経験がある社外取締役候補者は、社外取締役として必要な独立性に疑いがあるとされることが少なくありませんが、反論文では、上記Ⅲ2で述べたように、社外取締役候補者と過去の勤務先との間の利益相反を解消するのに十分な期間が経過しているといった内容の主張をすることが多いようです。

また、近年は、ROEが一定の基準に達していない場合には、経営トップの取締役選任議案への反対が推奨されるようになっています。この基準を満たしているかどうかは「数値」によって機械的、客観的に判断されますが、反論する場合には、「各社の状況を考慮しない形式的な業績基準を当てはめるのは不当」といった主張を展開することになるでしょう。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)。実務上、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

取締役選任や監査役選任などの類型的な議案については、議決権行使助言会社の判断基準もある程度明確になっているので、判断基準が争点になります。一方、あまり頻繁に付議されない議案については、助言会社もケース・バイ・ケースで賛否を判断しているため、反論や補足説明の内容も様々です。例えば企業側が提出する株主総会議案の中には、それによってガバナンスを改善したり、必要な資金を調達することなどを目的にしたりしているものがありますが、これに反対推奨をされた場合には、「議案の目的を曲解しているのではないか」との反論を行うことが考えられます。

Ⅴ 反対率を下げる効果

企業側が熱意を込めて反論したとしても、助言会社の賛否推奨を覆すことに成功するのは、かなり稀なケースであることは確かです。とはいえ、企業側からの反論には、議決権行使助言会社による反対推奨を賛成推奨に変えるという目的のみならず、株主総会で議決権を行使する機関投資家に対して、議決権行使助言会社の判断の不合理さや誤りを指摘し、反対推奨への懐疑を持たせるという目的もあります。実際、反論文の結びの部分には、機関投資家に向けて、助言会社の賛否推奨を鵜呑みにするのではなく、受託者責任に基づく良識のある議決権行使を期待するという趣旨の文章が記載されているものが多く見受けられます。

また、反論文を公表すること自体にも反対率を下げる効果があるようです。上場企業側からの反論文や議案に関する補足説明によって、機関投資家の反対投票をある程度は賛成に変えられると解せる調査結果もあります。助言会社の反対推奨を受けて、企業が反論文の公表等を行った場合における国内機関投資家の反対率は20.1%ですが、行わなかった場合は35.3%であったとの調査結果も出ています(株式会社ICJ「議決権行使白書-ガバナンス改革のさらなる進展に向けた『議決権行使の実質化』の現状と課題-」(2017年5月25日) 57ページ 【図表4-4-6】「反対推奨を受けた議案の補足説明等の提出有無と機関投資家の反対率」参照)。株主構成や議案内容は企業によって異なるため単純な結論は出せませんが、反論文を出せば、ある程度は反対率を引き下げることができると言えそうです。

2019/02/28 【役員会 Good&Bad発言集】事業等のリスク(1)(会員限定)

<解説>
改正有報「事業等のリスク」の開示に先立ち必要になる取締役会でのリスクの検討

投資家にとって株式投資には2つのリスクがあります。投資先の企業価値が低下するリスクとマーケット自体が値動きするリスクです。投資家からすると、マーケットのリスクはコントロールしようがないのに比べ、投資先の企業価値が低下するリスクは企業分析を徹底することで相当程度は回避可能であることから、投資先である上場企業がリスク情報を適切に開示することが投資にあたっての大前提となります。

上場会社におけるリスク情報は、有価証券報告書の「事業等のリスク」欄で開示されることとなります。「事業等のリスク」の具体的な記載例は企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)のC 個別ガイドライン Ⅰ 「事業等のリスク」に関する取扱いガイドラインの1に示されているので、下に掲げておきます。

(1) 会社グループがとっている特異な経営方針に係るもの
a 当社グループ(当社及び連結子会社)は、過去3年間、一株当たり○○円、○○円、○○円の利益を計上しているが、当社グループは内部留保を充実するため配当を実施していない。当面はこの方針を継続することとしている。
b 当社グループ製品の○○%は、海外生産拠点によって生産されている。主要な海外生産拠点はA国(生産高の○○%)、B国(同○○%)、C国(同○○%)であり、当該各国企業への投融資残高は、A国(○○億円)、B国(○○億円)、C国(○○億円)である。
c 当社グループは、自社開発の技術については、技術流出を避けるため一切の特許申請を行っていない。
(2) 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動に係るもの
a 当社グループの主要製品(売上高の○○%)及びそれに使用される原材料は国際商品市況に大きく影響され、それにより当社グループの過去の経営成績も下のグラフのように大きく変動している(製品市況、原材料市況、当該会社の経営成績についてグラフ表示)。
b 当社グループの主要事業である海外プラント工事は、一工事の請負金額が大きく、完成までに長期間を要する。また、工事施行国の中には現在、他国と紛争中のものがあり、工事の進行が大幅に遅れる可能性がある。例えば○○期では、○○戦争により○○国における工事が大幅に遅れ、その結果、売上高、利益とも前期の約○○%と大幅に落ち込んだことがある。
c 当社グループの輸出比率は、平成○年○月期○○%、平成○年○月期○○%、平成○年○月期中(平成○年○月○日から平成○年○月○日まで)○○%と高くなってきている。このため、為替予約等によるリスクヘッジを行っているが、当社グループの経営成績は為替変動の影響を強く受けてきている。
(3) 特定の取引先等で取引の継続性が不安定であるものへの高い依存度に係るもの
a 当社グループの売上高の○○%はA社に対するものであるが、同社とは、納入数量、価格等に関する長期納入契約を締結していない。
b 当社製品の販売についてはその大半を海外市場に依存しており、これらの中には、現在、政治的、経済的に不安定な状態にあるA国、B国等が含まれ、その依存度は○○%である。
(4) 特定の製品、技術等で将来性が不明確であるものへの高い依存度に係るもの
a 当社の主要製品である○○の市場占有率は○○%と高いが、その成分及び製造方法について、特許権等を有していないので、新規参入も予想される。
b 当社は、○○特許に基づく、○○製品の製造販売を行っているが、同製品の特許期限は、平成○○年○月までであり、その後は新規参入が予想される。
c 当社製品は、ライフサイクルが短く、従来、生産開始より生産停止までの期間が短期間であった(○○期の主力製品Aは○○カ月、○○期の主力製品Bは○○カ月)。現在販売中の主力製品Cの生産開始は平成○○年○月である。
d 当社の主要製品は、米国A社からの技術導入によって製造しているが、その製品は、技術導入契約により米国、欧州地区には輸出できないこととなっている。
同製品の主な輸出先は、中近東地区(○○%)及び東南アジア地区(○○%)である。
e 当社は主力商品である○○の開発等に関し、A社とライセンス契約を締結している。これにより、主力商品である○○の規格・仕様等については、同社の承認が必要となっている。
(5) 特有の取引慣行に基づく取引に関する損害に係るもの
a 当社グループ売上高の○○%は、委託販売によっている。委託販売は、当業界の一般的な取引慣行であり、委託先の信用に基づき商品を預託し、販売を委託するもので、その際、委託先より営業保証金及び物的担保は徴求していない。当社グループは委託先の倒産により、○○期において○○百万円の損失を計上している。
b 当社グループは仕入商品について業界の取引慣行により、一定期間、一定価格による全額買取保証契約を締結している。当社は○○期において○○百万円の商品の廃棄損を計上している。
(6) 新製品及び新技術に係る長い企業化及び商品化期間に係るもの
a 当社グループによる○○の開発について新聞紙上等で報道されているが、これは、現在試作の段階であり、実用化の目途がつき販売を開始することができるのは、早くて○年後の予定である。
b 当社グループは○○製品の企業化を図るため、新工場を建設中であるが、その成否は当社グループの将来に重大な影響を及ぼすと見込まれる。その完成の時期は、○年後の予定であり、採用した新技術の習熟に時間を要するため、その全面操業の時期は完成後○年の予定である。
(7) 特有の法的規制等に係るもの
a 現在、当社が開発中の○○製品について、新聞紙上等で報道されているが、この認可申請は早くて○年後の予定であり、認可申請をしても承認される保証はない(承認されない場合もある)。
b 当社の○○製品については、現在、生産調整カルテルが実施されている(平成○○年○月から平成○○年○月まで)。
c これまで当社の○○製品の製品規格について法定されたものはなかったが、このほど全米○○業界は新たに自主的な製品規格を設定した。この結果、当社の輸出品はこれら規格に適合することが必要となったが、適合する製品の開発には、約○年を要するものと見込まれる。
d 当社は、商品の大部分を自社店舗において販売しており、また現在、事業展開の軸として店舗網の拡大を図っているところであるが、出店等については「○○法」の規制の対象であり、○○大臣の許可等の対象となっている。
(8) 重要な訴訟事件等の発生に係るもの
a 当社が○○期まで発売していた○○製品について、薬害があったとして○○より○億円の損害賠償請求が○○裁判所へ提訴されている。
b 当社は主要製品である○○を、主に米国に輸出しているが、類似の製品を同国で販売しているA社から、特許権を侵害しているとして、米国○○裁判所に提訴されている。
(9) 役員、従業員、大株主、関係会社等に関する重要事項に係るもの
a 当社取締役社長甲は、当社製品の○○%の販売先であるA社の株式を○○%所有している。なお、当社グループとA社グループとの間の取引価格及び取引条件は他の販売先と同一である。
b 当社の銀行からの借入金に対して、当社取締役社長甲が保証を行っている。
c 当社取締役社長甲の銀行からの借入金に対して、当社は保証を行っている。
d 当社の有力な営業担当者○○名は、平成○○年○月退社し、新たに株式会社○○社を設立して、当社と同一の営業を開始した。この結果、当社と○○社は競合する関係となった。
(10) 会社と役員又は議決権の過半数を実質的に所有している株主との間の重要な取引関係等に係るもの
a 当社は、本社社屋を当社取締役社長甲より賃借している。その賃借条件は次のとおりであるが(賃借面積、支払賃借料等を記載)、賃借料率、保証金額は不動産鑑定士○○事務所の鑑定評価額を参考に決定している。
b 当社の製品○○の主要材料である○○は、B商会㈱から仕入れているが、同商会の代表取締役である甲は、当社の議決権の過半数を実質的に所有している株主である。
なお、同商会からの仕入価格その他の取引条件は、他の仕入先と同一である。
c 当社は、親会社であるA社の総販売代理店として、輸出を除き、同社全製品の国内向け販売を取り扱っている。
なお、A社からの仕入価格、その他の取引条件は、毎期首、両者間で市場動向その他を勘案して協議決定している。
(11) 将来に関する事項について
以上に記載している将来に関する事項は、有価証券届出書提出日(平成○○年○○月○○日)現在において当社グループが判断したものである。

このように投資家にとって重要な投資判断となる情報が満載の「事業等のリスク」欄ですが、金融庁が2019年1月31日に公布した「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」により、2020年3月31日以降終了事業年度に係る有価証券報告書から記載内容の充実が図られることとなりました(早期適用可。改正の経緯の詳細は2018年11月5日のニュース『速報 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅改正へ』を参照)。

この改正により、有価証券報告書の「事業等のリスク」の記載内容は次のように変更されました(赤字が改正箇所)。

改正前 改正後
届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること。 届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載すること。記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載すること。

注意したいのは、開示府令上、列挙されているリスクの範囲が広がったわけではないということです。列挙されているリスクの範囲はそのままで、記載すべき項目として下記が追加されたことになります。
・経営者が認識しているリスクのうち主要なものを記載
・当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期を記載
・当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容を記載
・当該リスクへの対応策を記載

ここで注目したいのは、開示府令の改正により新たに「経営者が認識」という要件が加えられた点です。「経営者」と言うと、通常は社長等一部の役員を指しているようにも見えますが、2019年2月1日まで意見募集が行われていた「記述情報の開示に関する原則(案)」の2-1では「記述情報」について、「投資家が経営の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められる」とされていることを考慮すると、「経営者」は取締役会を指すと考えるべきと言っても過言ではありません。今後は意図的に取締役会でもリスクについての議論をしておくべきでしょう(取締役会において「リスクのレベル付け」そのものを議論の対象にしておくべき点については2019年2月22日のニュース「事業等のリスク、取締役会での議論が必須に」を参照)。

また、リスクを指摘するだけでは不十分で、対応策についてもあわせて記載しなければなりません。

リスクと取締役会の関わりは、コーポレートガバナンス・コードでも明示されています。

原則3.【適切な情報開示と透明性の確保】
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

補充原則2-3①
取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討すべきである。

【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】
取締役会は、経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ、説明責任の確保に向けて、そうした提案について独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討を行うとともに、承認した提案が実行される際には、経営陣幹部の迅速・果断な意思決定を支援すべきである。
また、経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。

【原則4-3.取締役会の役割・責務(3)】
取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。
また、取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである。
更に、取締役会は、経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきである。

補充原則4-3④
コンプライアンスや財務報告に係る内部統制や先を見越したリスク管理体制の整備は、適切なリスクテイクの裏付けとなり得るものであるが、取締役会は、これらの体制の適切な構築や、その運用が有効に行われているか否かの監督に重点を置くべきであり、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない。

上場会社の取締役会は、リスクを識別して、当該リスクが顕在化した場合の影響の程度や顕在化の可能性を検討することで重要なリスクを特定し、当該重要なリスクへの対応策を考え実行に移すことでリスクを管理するよう求められています。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら
取締役C:「リスク管理委員会での議論の結果が取締役会に報告されたことは、今まで一度もありません。次回は必ず報告してください。それと、単に報告を受けるだけでは不十分と考えています。その報告を受けて、取締役会でも議論を重ねて何が重要なリスクかを見極め、それに対してどのような対策をすべきなのかを検討すべきです。」
コメント:リスク管理委員会を設置する企業は少なくありませんが、中には議論の結果を取締役会に報告できていない企業もあるようです。リスク管理委員会を設けた場合、取締役会との業務の分担を定めておき、リスク管理委員会での議論の結果は必ず定期的に取締役会に報告するようにすべきです。取締役会でのリスクに関する議論の徹底を訴えるCの発言はGoodです。
BAD発言はこちら
取締役A:「有価証券報告書の記載内容が改正され、改正後は僅かなリスクであっても開示しなければならなくなると聞きました。改正前に、取締役会でリスクについて議論をしておくのはいいことだと思います。」
コメント:開示府令が改正され、2020年3月期から有価証券報告書における事業等のリスクについての情報の開示が充実されます。改正により経営者が経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載しなければならなくなりました。もっとも、僅かなリスクまで開示しなければならなくなったわけではないので、Aの発言は誤ったBad発言です
取締役B:「取締役会は経営の観点から本当に重要なものに絞って議論を行う場所です。新規事業は売上がほとんど立っていないので、当社にとっての重要性は低いと言わざるを得ません。取締役会では新規事業よりも当社の売上の大半を占める中核事業のリスクについて議論すべきです。もちろん新規事業のリスクを検討しなくても構わないと申しているわけではありません。新規事業のリスクは執行役員や現場の担当者で構成されるリスク管理委員会で検討するよう指示を出しておきますので、ご安心ください。」
コメント:売上が立っていない事業であっても、たとえば在庫リスクや損害賠償リスクが高いのであれば、それは経営成績等の状況に与える影響次第で重要なリスクになります。事業リスクの重要性は該当事業の売上の規模だけでは測ることはできないことから、Bの発言はBad発言です。

2019/02/28 【役員会 Good&Bad発言集】事業等のリスク(1)

IT業のA社では、数年前に新規事業を次々に打ち出したはいいものの、リスクの見極めが十分でないまま見切り発車でスタートした事業もあり、最近になって様々なリスクを抱えている新規事業も少なくないことが社内で指摘されるようになりました。A社の取締役会で、新規事業のリスク管理が話題となったところ、社外取締役から「取締役会で新規事業のリスクについて議論したい」という提案がなされ、これに対し他の取締役A・B・Cが次の発言をしました。3人の発言のうち、誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「有価証券報告書の記載内容が改正され、改正後は僅かなリスクであっても開示しなければならなくなると聞きました。改正前に、取締役会でリスクについて議論をしておくのはいいことだと思います。」

取締役B:「取締役会は経営の観点から本当に重要なものに絞って議論を行う場所です。新規事業は売上がほとんど立っていないので、当社にとっての重要性は低いと言わざるを得ません。取締役会では新規事業よりも当社の売上の大半を占める中核事業のリスクについて議論すべきです。もちろん新規事業のリスクを検討しなくても構わないと申しているわけではありません。新規事業のリスクは執行役員や現場の担当者で構成されるリスク管理委員会で検討するよう指示を出しておきますので、ご安心ください。」

取締役C:「今までリスク管理委員会での議論の結果が取締役会で報告されたことはありません。次回は必ず報告してください。それと、報告を受けるだけでは不十分です。その報告を受けて、取締役会でも議論を重ねて何が重要なリスクかを見極め、それに対してどのような対策をすべきなのかを検討すべきです。」

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2019/02/28 【2019年2月の課題】経営陣による自社株保有

2019年2月の課題

東証一部上場会社で機関投資家との対話を担当するA取締役は、海外の投資家から「社長をはじめとする経営陣の自社株保有が少ないのではないか」「増やす方針はあるのか」と問われました。
A取締役は「当社では、経営者報酬の一部を業績連動型にしており、また、株式報酬の導入も検討している」旨回答しましたが、海外投資家はあまり納得していないようです。
海外投資家の関心を踏まえ、どのような説明ができるか考えてみてください。

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2019/02/28 2019年2月度チェックテスト

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【問題1】

日本では「パフォーマンス」と「コスト」の観点から、パッシブ運用からアクティブ運用への運用資金の流入が続いている。


正しい
間違い
【問題2】

改正開示府令に基づき有価証券報告書で継続監査期間を開示する際、自社の監査人である監査法人が過去に合併したことがあるのであれば、当該監査法人の継続監査期間は合併後からカウントすべきである。


正しい
間違い
【問題3】

英国スチュワードシップ・コードの改訂に向けたパブコメ版では、コードのうち「原則」についてはスチュワードシップ・コードに署名した全ての機関に適用(アプライ)を求めるとともに、どのように適用したかを説明させる「アプライ&エクスプレイン」のアプローチが取られている。


正しい
間違い
【問題4】

アルバイト従業員がSNSに“悪ふざけ動画”を投稿した場合、企業は「弁明の機会」を与えずに懲戒処分を科しても構わない。


正しい
間違い
【問題5】

2019年3月期決算の有価証券報告書から、5年分の「株主総利回り」と「株価指数」を「比較」して開示することが求められている。


正しい
間違い
【問題6】

インパクト投資とESG投資は、まったく同じ投資手法である。


正しい
間違い
【問題7】

従業員が業務の執行に伴って第三者に損害を与え、従業員が十分な法律知識もないまま勝手に示談を進めたことが原因で、会社と被害者との交渉が難航することとなった場合であっても、会社が負担した損害賠償額を当該従業員に請求(求償)することは認められない。


正しい
間違い
【問題8】

最近では「取締役会評価」は「会議体」よりも「会議体を構成する取締役個人」の評価にフォーカスする傾向が強まっている。


正しい
間違い
【問題9】

2020年3月期決算の有価証券報告書から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】において資本コストについての経営者の認識の説明を記載することを求められるようになった。


正しい
間違い
【問題10】

企業会計基準委員会(ASBJ)が示した時価算定基準案によると、複雑なデリバティブ取引を行う企業は、金融機関等の第三者から入手した相場価格をそのまま当該デリバティブ取引の「時価」として使用することは認められてない。


正しい
間違い

2019/02/28 2019年2月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
2019年1月に企業会計基準委員会(ASBJ)から示された時価算定基準案によると、複雑なデリバティブ取引の時価として金融機関等の第三者から入手した相場価格をそのまま使用することは認められておらず、当該時価が時価算定基準案に沿って算定されたものであることを企業が自ら検証する必要があるとされています(問題文は正しいです)。このため、複雑なデリバティブ取引を行っている企業の経営者は、第三者から入手した相場価格を利用する場合の内部統制が現状のままでよいのかどうか、検証しておくべきです。

こちらの記事で再確認!
2019年2月25日 デリバティブ取引を行う企業の内部統制(会員限定)

2019/02/28 2019年2月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
2019年1月に企業会計基準委員会(ASBJ)から示された時価算定基準案によると、複雑なデリバティブ取引の時価として金融機関等の第三者から入手した相場価格をそのまま使用することは認められておらず、当該時価が時価算定基準案に沿って算定されたものであることを企業が自ら検証する必要があるとされています(問題文は正しいです)。このため、複雑なデリバティブ取引を行っている企業の経営者は、第三者から入手した相場価格を利用する場合の内部統制が現状のままでよいのかどうか、検証しておくべきです。

こちらの記事で再確認!
2019年2月25日 デリバティブ取引を行う企業の内部統制(会員限定)

2019/02/28 2019年2月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
2020年3月期決算の有価証券報告書から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】において連結会社の経営環境(企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含められるようになりました。パブコメでは「資本コストについての経営者の認識の説明が明記されるよう、経営環境の例示の中に“資本コスト”を加えていただきたい。」とのコメントが寄せられていたものの、金融庁は資本コストの記載を“強制”することまではしませんでした(問題文は誤りです)。もっとも、金融庁では「企業の経営内容に即して資本コストについても記載することが期待される」との考え方を示して、資本コストの記載を“勧奨”していることは押さえておきたい知識と言えます。

こちらの記事で再確認!
2019年2月22日 事業等のリスク、取締役会での議論が必須に(会員限定)

2019/02/28 2019年2月度チェックテスト第9問解答画面(正解)

正解です。
2020年3月期決算の有価証券報告書から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】において連結会社の経営環境(企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含められるようになりました。パブコメでは「資本コストについての経営者の認識の説明が明記されるよう、経営環境の例示の中に“資本コスト”を加えていただきたい。」とのコメントが寄せられていたものの、金融庁は資本コストの記載を“強制”することまではしませんでした(問題文は誤りです)。もっとも、金融庁では「企業の経営内容に即して資本コストについても記載することが期待される」との考え方を示して、資本コストの記載を“勧奨”していることは押さえておきたい知識と言えます。

こちらの記事で再確認!
2019年2月22日 事業等のリスク、取締役会での議論が必須に(会員限定)

2019/02/28 2019年2月度チェックテスト第8問解答画面(不正解)

不正解です。
コーポレートガバナンス・コード導入当初は、補充原則4-11③が「取締役会全体」の実効性の評価を求めていることから、取締役会の各メンバーが取締役会全体について自己評価するという手法でも問題なく、「個人評価」まで踏み込んだプラクティスは、日本企業にとっては未だハードルが高いと考えられていましたが、最近では「取締役会」評価と言いながら、取締役会議長のリーダーシップは適切かといった設問が設けられたり、取締役会の構成メンバーそれぞれが期待される役割を果たしているかといった個人のパフォーマンスを確認する設問が増えたりするなど、「取締役」個人の評価にフォーカスする傾向が強まっています(問題文は正しいです)。

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2019年2月21日 取締役会評価のトレンド(会員限定)