2019/03/07 CG報告書における「任意の委員会の活動状況」の記載場所

2019年1月31日公布・施行された改正開示府令により、同年3月決算会社の有価証券報告書から「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅に拡充されるなど(関連記事は下記)、上場会社はコーポレートガバナンスに関する開示の充実を迫られているが、こうした中、東証は2019年2月21日付でコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の記載要領(以下、記載要領)を改訂、同年3月決算会社から適用する(改訂版の記載要領はこちら)。今回の記載要領の見直しも、上記開示府令の改正と同じく、昨年(2018年)6月28日に金融庁が公表した「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告-資本市場における好循環の実現に向けて-」(以下、DWG報告)の提言を踏まえたものとなっている。

<有価証券報告書「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載拡充に関連する記事>
・2018年11月5日のニュース『速報 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅改正へ
・2018年12月21日のニュース『「記述情報の開示に関する原則」が取締役会実務に与える影響
・【2018年11月の課題】新たな有報における「役員報酬」と「政策保有株式」の記載事項
・2019年1月15日掲載の(新用語・難解用語)「記述情報」
・2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方
・2019年2月22日のニュース「事業等のリスク、取締役会での議論が必須に

今回の記載要領見直しで追加された開示事項の一つが、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社における「任意の委員会の活動状況」だ。具体的には、主な検討事項、委員の出席状況などの開示が新たに求められる。

同様の見直しは、指名委員会や報酬委員会の設置が会社法で義務付けられている指名委員会等委員会設置会社についても実施されているが、東証は、指名委員会等委員会設置会社に対しては「Ⅱ 経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」の「2. 業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)」という、機関設計を包括的に記載する欄での記載を求める(改訂記載要領8ページ13ページ参照)一方、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社に対しては「Ⅱ 経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」(←ここまでは指名委員会等設置会社と同じ)のうち、「1.機関構成・組織運営等に係る事項」の「取締役関係」の「任意の委員会」の「補足説明」に記載するよう求めている(改訂記載要領8ページ13ページ参照)。この結果、監査役会設置会社/監査等委員会設置会社は、任意の委員会の活動状況は「任意の委員会」の「補足説明」に記載し、取締役会全体としての活動状況は、指名委員会等委員会設置会社ど同じく、「Ⅱ 経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」の「2. 業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)」に記載することになる。

このように指名委員会等委員会設置会社と監査役会設置会社/監査等委員会設置会社で記載場所を変えた背景には、もともと監査役会設置会社/監査等委員会設置会社のCG報告書には「任意の委員会」という独立した記載欄が存在しているということもあるが、「任意の委員会がどのような権限を持ち、どのような構成になっているかといった点を詳しく見たい」という投資家からの強い要望がある。ただ、任意の委員会は多くの上場会社で「取締役会」の諮問機関として位置付けられているだけに(2018年8月29日のニュース「任意の報酬委員会の社内的位置付け」参照)、取締役会の活動状況と任意の委員会の活動状況を別々の場所に記載することに違和感を持つ上場会社も少なくないと思われる。この点について東証は、別々の場所に記載することを原則としつつも、それではあまりにも書きにくいという場合には、・・・

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2019/03/07 CG報告書における「任意の委員会の活動状況」の記載場所(会員限定)

2019年1月31日公布・施行された改正開示府令により、同年3月決算会社の有価証券報告書から「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅に拡充されるなど(関連記事は下記)、上場会社はコーポレートガバナンスに関する開示の充実を迫られているが、こうした中、東証は2019年2月21日付でコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の記載要領(以下、記載要領)を改訂、同年3月決算会社から適用する(改訂版の記載要領はこちら)。今回の記載要領の見直しも、上記開示府令の改正と同じく、昨年(2018年)6月28日に金融庁が公表した「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告-資本市場における好循環の実現に向けて-」(以下、DWG報告)の提言を踏まえたものとなっている。

<有価証券報告書「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載拡充に関連する記事>
・2018年11月5日のニュース『速報 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅改正へ
・2018年12月21日のニュース『「記述情報の開示に関する原則」が取締役会実務に与える影響
・【2018年11月の課題】新たな有報における「役員報酬」と「政策保有株式」の記載事項
・2019年1月15日掲載の(新用語・難解用語)「記述情報」
・2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方
・2019年2月22日のニュース「事業等のリスク、取締役会での議論が必須に

今回の記載要領見直しで追加された開示事項の一つが、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社における「任意の委員会の活動状況」だ。具体的には、主な検討事項、委員の出席状況などの開示が新たに求められる。

同様の見直しは、指名委員会や報酬委員会の設置が会社法で義務付けられている指名委員会等委員会設置会社についても実施されているが、東証は、指名委員会等委員会設置会社に対しては「Ⅱ 経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」の「2. 業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)」という、機関設計を包括的に記載する欄での記載を求める(改訂記載要領8ページ13ページ参照)一方、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社に対しては「Ⅱ 経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」(←ここまでは指名委員会等設置会社と同じ)のうち、「1.機関構成・組織運営等に係る事項」の「取締役関係」の「任意の委員会」の「補足説明」に記載するよう求めている(改訂記載要領8ページ13ページ参照)。この結果、監査役会設置会社/監査等委員会設置会社は、任意の委員会の活動状況は「任意の委員会」の「補足説明」に記載し、取締役会全体としての活動状況は、指名委員会等委員会設置会社ど同じく、「Ⅱ 経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」の「2. 業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)」に記載することになる。

このように指名委員会等委員会設置会社と監査役会設置会社/監査等委員会設置会社で記載場所を変えた背景には、もともと監査役会設置会社/監査等委員会設置会社のCG報告書には「任意の委員会」という独立した記載欄が存在しているということもあるが、「任意の委員会がどのような権限を持ち、どのような構成になっているかといった点を詳しく見たい」という投資家からの強い要望がある。ただ、任意の委員会は多くの上場会社で「取締役会」の諮問機関として位置付けられているだけに(2018年8月29日のニュース「任意の報酬委員会の社内的位置付け」参照)、取締役会の活動状況と任意の委員会の活動状況を別々の場所に記載することに違和感を持つ上場会社も少なくないと思われる。この点について東証は、別々の場所に記載することを原則としつつも、それではあまりにも書きにくいという場合には、指名委員会等委員会設置会社同様「2. 業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)」に記載し、「任意の委員会」の「補足説明」覧には、「2. 業務執行、監査・監督、指名、報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)」に記載されている旨を一言書いておくというやり方も容認するというスタンスをとっている。

もっとも、「記載することが望まれる」という表現からも分かるように、東証は、監査役会設置会社/監査等委員会設置会社のみならず指名委員会等委員会設置会社についても、報酬委員会、指名委員会などの委員会(監査委員会および監査等委員会を除く)の活動状況を記載することを「必須」とはしておらず、あくまで「推奨」しているに過ぎない。これは、委員会の役割や権限、開催頻度などは各社まちまちというのが現状であり、活動状況の記載要領を画一的に定めるのは困難であることに加え、任意の委員会については、そもそも設置自体が法的に義務付けられているわけではないため、仮に活動状況の記載を義務付ければ任意の委員会の設置の妨げになる恐れがあるからだ。

とはいえ、今回の記載要領改訂で東証が「任意の委員会」の活動状況の開示強化に踏み出したことは間違いない。上場会社は、いまだ任意の委員会を設置していな場合には設置を急ぐべきであり、既に設置している場合は、活動内容を開示に耐えられるものとするべく具体的に検討する必要があろう。

2019/03/06 原則4-1(政策保有株式)、コンプライとエクスプレインの分岐点

既報のとおり東証は、改訂コーポレートガバナンス・コードに基づくコーポレートガバナンス報告書の提出が締め切られた昨年(2018年)末時点のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況をとりまとめ公表したが(2019年1月25日のニュース「CGコード改訂でフルコンプライ率が大きく低下した要因」、同1月28日のニュース「主要改訂原則、実際の対応とコンプライ率に乖離も」参照)、改訂された原則のコンプライ率は【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】を除く全ての原則において低下している(東証 コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2018年12月末日時点)4ページ参照)。その中で、2017年7月時点の調査と比べコンプライ率の低下が10ポイントを超えた5つの原則(改訂された原則は全部で9つ)の1つが・・・

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2019/03/06 原則4-1(政策保有株式)、コンプライとエクスプレインの分岐点(会員限定)

既報のとおり東証は、改訂コーポレートガバナンス・コードに基づくコーポレートガバナンス報告書の提出が締め切られた昨年(2018年)末時点のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況をとりまとめ公表したが(2019年1月25日のニュース「CGコード改訂でフルコンプライ率が大きく低下した要因」、同1月28日のニュース「主要改訂原則、実際の対応とコンプライ率に乖離も」参照)、改訂された原則のコンプライ率は【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】を除く全ての原則において低下している(東証 コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2018年12月末日時点)4ページ参照)。その中で、2017年7月時点の調査と比べコンプライ率の低下が10ポイントを超えた5つの原則(改訂された原則は全部で9つ)の1つが【原則1-4.政策保有株式】だ(11ポイント減)。

改訂後の原則1-4は、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方」の開示を求めており、一見すると政策保有株式の縮減を迫っているように見えるほか(この点については、【2018年8月の課題】「【原則1-4. 政策保有株式】への対応」の「開示への対応」「① 縮減に関する方針・考え方など」の4段落目~参照)、保有の適否を検証し「検証の内容」の開示も求めるなど、企業にとって決して低くないハードルを設けていることが、コンプライ率の減少につながったものと考えられる。

もっとも、各社のコーポレートガバナンス報告書を読むと、ほとんど内容に変わらないにもかかわらず「コンプライorエクスプレイン」の選択が異なるケースが見受けられ、この場合、両者の差は紙一重と言えよう。

例えば下記の2社は、前半部分の「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方」については両社とも「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資すると認められない政策保有株式は保有しない」と全く同じことを言っており、後半部分の「検証の内容」の開示についても、「取締役会で毎年検証⇒保有先企業と対話⇒売却」と、文章の流れ自体は変わらない。ところが、キリンホールディングスは原則1-4を「コンプライ」とした一方、アサヒグループホールディングスは「エクスプレイン」としている。

キリンホールディングス株式会社
<政策保有株式に関する方針>
当社は、事業運営上の必要性などを総合的に勘案した上で、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資すると認められない政策保有株式は保有しないこととします。
個別の政策保有株式の保有の合理性については毎年取締役会にて検証を行い、保有意義の薄れてきた銘柄については、取引先等との対話・交渉を実施しながら、政策保有株式の縮減を進めます。
<現在の状況>
2018年上半期においては当社保有の政策保有株式のうち5銘柄の全数売却、2銘柄の一部売却(売却金額:約20億円)を実施しました。その結果、当社保有の政策保有株式の貸借対照表計上額は18年6月末現在で693億円となり、中計開始時点の15年末の861億円と比べても、着実に縮減が進んでおります。
アサヒグループホールディングス株式会社
当社は、『中期経営方針』において、「持続的成長を目指した“企業価値向上経営”の深化」のための重点課題の一つとして設定した、「資本コストを踏まえた資産・資本効率の向上」に鑑みて、当社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資すると認められない株式保有は行わないこととします。
当社は、取締役会で毎年、政策保有株式について検証を行います。当社の持続的な成長と中期的な企業価値の向上に資すると認められない株式がある場合は、その検証の結果を開示するとともに、株主として相手先企業との必要十分な対話を行います。対話の実施によっても、改善が認められない株式については、適宜・適切に売却します。これらの取組みにより、政策保有株式の縮減が十分に進行していくと考えます。

両社における「コンプライorエクスプレイン」の判断を分けたと思われるのが、政策保有株式を縮減することに対する“明確な意思表示”の有無だ。キリンホールディングスは「政策保有株式の縮減を進めます。」と縮減の意思を明確にしたうえで、縮減の状況についても数字で示している。一方、アサヒグループホールディングスは、取締役会における毎年の検証や保有先企業と対話といった取り組みによって「政策保有株式の縮減が十分に進行していくと考えます。」としている。すなわち、同社にとって政策保有株式の縮減は「結果として実現するもの」であり、「縮減する」という強い意思をもって縮減させると言っているわけではない。同社が「エクスプレイン」を選択した理由はこの点にあると考えられる。

政策保有株式を縮減することに対する“明確な意思”を示せるかどうかが、原則1-4をコンプライしていると言えるかどうかの分岐点と言えそうだ。

2019/03/05 東証の市場改革、まず最初に実施されることは?

周知のとおり、東京証券取引所(以下、東証)は昨年(2018年)10月から「市場構造の在り方等に関する懇談会」(以下、懇談会)を設け、現在の株式市場構造の見直しを検討している(2019年1月9日のニュース「東証の市場構造の変化がもたらすCGコードへの影響」、2019年2月7日のニュース「パッシブ化”の進行と東証の市場構造の見直しが与える株価への影響」参照)。東証は懇談会における議論を踏まえ、昨年末(2018年12月21日)には「市場構造の在り方等の検討に係る意見募集(論点ペーパー)」(以下、論点ペーパー)を公表し、今年1月末までパブリックコメントに付していたところだ。論点ペーパーでは、マザーズとJASDAQ(グロース)を「新興企業向け市場」、市場第二部とJASDAQ(スタンダード)を「実績のある企業向け市場」、市場第一部を「ステップアップ先の市場」とグルーピングし、それぞれの形式基準や上場廃止基準の在り方を検討していくことが必要であるとされているが、一部メディアでは、懇談会が今月末までに報告書をとりまとめ、4月にも市場構造の見直しが実現するとの報道も見られ、東証一部上場企業であり続けるための“ボーダーライン”と言われる時価総額500億円を下回る企業のリストも掲載されている。

ただ、・・・

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2019/03/05 東証の市場改革、まず最初に実施されることは?(会員限定)

周知のとおり、東京証券取引所(以下、東証)は昨年(2018年)10月から「市場構造の在り方等に関する懇談会」(以下、懇談会)を設け、現在の株式市場構造の見直しを検討している(2019年1月9日のニュース「東証の市場構造の変化がもたらすCGコードへの影響」、2019年2月7日のニュース「パッシブ化”の進行と東証の市場構造の見直しが与える株価への影響」参照)。東証は懇談会における議論を踏まえ、昨年末(2018年12月21日)には「市場構造の在り方等の検討に係る意見募集(論点ペーパー)」(以下、論点ペーパー)を公表し、今年1月末までパブリックコメントに付していたところだ。論点ペーパーでは、マザーズとJASDAQ(グロース)を「新興企業向け市場」、市場第二部とJASDAQ(スタンダード)を「実績のある企業向け市場」、市場第一部を「ステップアップ先の市場」とグルーピングし、それぞれの形式基準や上場廃止基準の在り方を検討していくことが必要であるとされているが、一部メディアでは、懇談会が今月末までに報告書をとりまとめ、4月にも市場構造の見直しが実現するとの報道も見られ、東証一部上場企業であり続けるための“ボーダーライン”と言われる時価総額500億円を下回る企業のリストも掲載されている。

ただ、市場構造の大改革はそれほど簡単に実施できるものではないだろう。まず確認しておきたいのが、今回の市場改革の狙いだ。それは現在の「東証一部上場市場」の改革に他ならない。現在の東証一部には、約2100社の企業が上場しているが、これは他の世界的な市場と比べると突出して多くなっている(例えば、英ロンドン証券取引所の「プレミアム市場」は約500社、米ナスダックの「グローバル・セレクト市場」が約1,400社)。その中身も、時価総額22兆円のトヨタ自動車もあれば40億円の企業もあり、このように時価の異なる企業が同一市場に混在しているという状態を解消したいと規制当局(市場区分の決定権限を有するのは金融庁)は考えているものと思われる。

現在の状況を生む大きな要因となったのが、2011年に行われた東証マザーズ改革だ。元々、時価総額が10億円あれば東証マザーズに上場することができたが、この改革の際には、東証マザーズに留まれる期間を「10年間」と定める一方、「時価総額40億円」という基準をクリアすれば東証一部に上がれる(市場変更)とのルールが定められた。すなわち、東証マザーズは明確に東証一部に上場するための“通過市場”と位置付けられ、その結果、2011年から8年間の間に約150社が東証マザーズから東証一部へとステップアップを果たしている。

以上を踏まえると、今回の市場改革は2つの段階を踏むことが想定される。まず最初にやらなければならないのが、”入口“を閉めること、すなわち、東証マザーズから東証一部へのステップアップを制限することだ。現状のまま時価総額の低い企業が東証一部に上場し続ければ、東証一部市場の改革が進まないのは自明の理であることから、この制限は早晩実施される可能性がある(早ければ3月中とも言われている)。

このようにまず“入口”を制限したで、規制当局は市場改革に乗り出すはずだ。東証一部市場に上場するためのハードルが引き上げられるのは確実だろう。現在、東証一部に上場するためには原則として「250億円」の時価総額が必要だが、上述のとおり、東証マザーズから東証一部に上がる場合、時価総額は「40億円」で足りる。リーマンショックが起こる前は時価総額が500億円ないと東証一部には上がれなかったことや(2012年から250億円に変更)、現状、現在東証一部に上場する2100社のうち時価総額が1000億円以上の企業が約700社であることを踏まえると、時価総額500億円が東証一部に上場するための新たなハードルとなる可能性は高い。

そのうえで、上記論点ペーパーのとおり、東証一部市場への“入口”となる現在の東証二部、ジャスダック、マザーズ市場は、(1)成長性が高い「新興企業向け市場」と、(2)安定性が確保されている「中堅企業向け市場」に再編されることになろう。これら新しいマーケットの名称はまだ決まっていない。「ジャスダック」という名称は消滅することが濃厚だが、新興企業向け市場としてのブランドを確立している「マザーズ」という名称は存続することも考えられる。いずれの市場についても、東証一部に上場するためには、時価総額500億円というハードルが課されることが予想される。

現在東証一部に上場する企業の多くが気にしているのが、東証一部上場市場の新たな時価総額要件を満たせない場合の取扱いだ。仮に東証一部上場企業であり続けるためのボーダーラインが「時価総額が500億円」になったとすると、相当数の東証一部上場企業がこの基準に抵触することになる。こうした中でこれらの企業を一律に下位の市場に落とせば、大きな混乱が生じることになるだろう。例えば地方では、地方銀行が地元の上場企業と株式を持ち合っており、株式を担保に融資を行っているケースも少なくない。仮に上場する市場が下位の市場に変更されれば、地方経済が好調とは言えない中、信用をシュリンクさせることにもなりかねない。時価総額基準を満たさないということで下位の市場に落とすとしても、相当な猶予期間が設けられることになりそうだ。また、現行制度上も上場基準よりも上場廃止基準の方が緩くなっているように(例えば東証一部市場の上場基準は「時価総額250億円」とされているが(時価総額に関する上場廃止基準は「10億円」とされている)、東証一部上場企業であり続けるためのボーダーラインが「時価総額が500億円」としても、下位の市場に落とす基準はより緩いものとなる可能性が高いだろう。

このほか、東証一部市場の上位市場として“プレミアム市場”が新設される可能性がある。ちなみに、時価総額が1兆円以上の企業は150社、5000億円以上の企業は250社、3000億円以上の企業は350社となっている。上位市場を作るとなれば金融庁マターとなるが、場合によってはJPX日経400のように、東証が一定の指標を作り、‟代表的銘柄制度“のようなものを作る可能性もある。この点は現時点では明らかではないが、どのような形になるにせよ、「プレミアム」のカテゴリーに属する企業に対しては、時価総額基準を満たすことのみならず、コーポレートガバナンス・コードへの対応状況や、不適正開示を行っていないことなどが問われる可能性もあろう。

JPX日経400 : JPX日経インデックス400の略。東京証券取引所および日本経済新聞社が東証の市場第一部等に上場している株式のうち代表的な銘柄として選定した400銘柄。業績が低迷している企業を除いたうえで規模が大きい企業が選定されるため、東京証券取引所の代表的銘柄とも言える。

 

 

 

2019/03/04 英国、役員報酬の次は「役員年金」がターゲットに 日本では?

日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が、有価証券報告書に開示されていた株価連動報酬といった「報酬」に加え得ていた住宅の無償供与や家族旅行の経費負担等の「財産上の利益」を開示していなかったことが金融商品取引法違反に問われたことをきっかけに(同法違反の詳細は2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』参照)、絶対的な権力を有する経営トップがいる上場企業は投資家から同様の懸念を抱かれる可能性がある。一方、欧米ではそもそも上場企業の役員報酬と一般従業員給与の極端な格差が問題視されている。例えば英国では、株主総会で企業業績から見て高すぎると判断された役員報酬議案に多くの反対票が投じられるケースが発生していることを受け、格差を是正するための規制も強化されているが(2017年2月27日のニュース 「海外機関投資家、役員報酬議案に厳しい基準」、2018年1月25日の【特集】「EU株主権利指令の改正に伴う経営者報酬への影響」、2018年6月19日 のニュース「英国、非上場の大企業にもCGコード」参照)、これに加え、・・・

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2019/03/04 英国、役員報酬の次は「役員年金」がターゲットに 日本では?(会員限定)

日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が、有価証券報告書に開示されていた株価連動報酬といった「報酬」に加え得ていた住宅の無償供与や家族旅行の経費負担等の「財産上の利益」を開示していなかったことが金融商品取引法違反に問われたことをきっかけに(同法違反の詳細は2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』参照)、絶対的な権力を有する経営トップがいる上場企業は投資家から同様の懸念を抱かれる可能性がある。一方、欧米ではそもそも上場企業の役員報酬と一般従業員給与の極端な格差が問題視されている。例えば英国では、株主総会で企業業績から見て高すぎると判断された役員報酬議案に多くの反対票が投じられるケースが発生していることを受け、格差を是正するための規制も強化されているが(2017年2月27日のニュース 「海外機関投資家、役員報酬議案に厳しい基準」、2018年1月25日の【特集】「EU株主権利指令の改正に伴う経営者報酬への影響」、2018年6月19日 のニュース「英国、非上場の大企業にもCGコード」参照)、これに加え、一般従業員に比べ手厚過ぎる「役員向け年金制度」が株主総会での注目論点として浮上している。

その背景にあるのが、2019年1月から適用が開始された英国の改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)だ。英国の改訂CGコードには、役員向けの年金と従業員向けの拠出率を整合的な水準にすべきとの内容が追加されている。

こうした動きには企業側も敏感に反応しており、大手企業を中心に年金規約を改定して役員向けの年金の拠出率を引き下げる動きが続出している。ただ、役員向けの年金の拠出率はいまだ概ね給与の20~25%となっており、一般従業員向け年金の拠出率8.7%~10.5%(役員報酬コンサルティング等で世界的権威を持つウイリス・タワーズワトソンの調査によるFTSE100企業の一般従業員の値)に比べれば依然として高い。

FTSE : ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位100銘柄で構成される株価指数である「FTSE100」のほか、FTSE100に次ぎ時価総額が大きい250銘柄で構成される「FTSE250」、FTSE100とFTSE250の両指数の銘柄で構成される「FTSE350」、小型株で構成される「FTSE SmallCap Index」、FTSE350とFTSE SmallCapの両指数の銘柄で構成される「FTSE All Shares」、ロンドン証券取引所の新興市場(AIM)の銘柄で構成される「FTSE AIM」がある。

大手運用会社JP Morgan Asset Managementは今年(2019年)1月に英国における議決権行使方針を見直し、「役員向け年金の水準は一般従業員向けの年金の水準を反映すべきであり、一般従業員向けの年金の水準を大きく上回る役員向け年金は不適切」との内容を盛り込んだほか、同じく大手運用会社Aviva Investorsも「企業内の年金受給権は平等であるべき」との議決権行使方針を追加している。さらに、投資家の業界団体である英国投資協会は、FTSE350の報酬委員会議長宛の書簡で、「投資家は、役員報酬及び役員向け年金拠出が業績に連動していない企業に不満を抱いており、対策を取らない企業は株主から反発を浴びることになる」と警告している。

欧米の経営者報酬を巡る動きや規制は海外投資家にとっての「グローバル・ディファクト・スタンダード」と言えるが、日本企業においては、そもそも役員年金(役員向けの特別年金プログラムの意。欧米では「SERP:Supplemental Executive Retirement Plan」と言われる)を有する企業はもともと多くない。かつては財閥系企業や銀行(天下りの官僚のために官と同じ制度を用意する必要があったと言われる)で導入事例が見受けられたが、投資家から「支給の根拠と金額が不透明性である」との批判を受け、リーマンショック(2008年)前後に廃止が相次いだ役員退職慰労金とともに、一部の企業を除き、その多くは廃止されている(役員退職慰労金を巡る動向については2017年9月13日のニュース「“退任後給付スキーム”に復活の余地」参照)。したがって、日本では英国と同じようなリアクションは想定されないが、日本企業では「顧問・相談役」制度が役員年金と同じ役割を果たしていると言われている。英国の動向を見ても、第一線を引いた役員の過度な優遇は投資家からの批判を浴びることになろう。

2019/03/01 GPIFがESG投資に取り組まなければならない構造的な理由

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

2019年2月14日掲載のニュース「投資家との対話において企業が持つべき視点」では、国内の機関投資家がESG投資に取り組むのは、「顧客」である資金拠出者がそれを求めているからであり、なかでも日本最大の資金拠出者であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の意向が大きく影響していることをお伝えしたところだ。では、なぜGPIFはESG投資を積極的に推し進めているのだろうか。この疑問が解消されない限り、一部の経営者などから聞こえてくる「ESGは本当に企業価値向上につながるのか」「ESGは一時的なブームにすぎない」といった声も消えることはないだろう。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

先に結論を一言でいえば、・・・

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2019/03/01 GPIFがESG投資に取り組まなければならない構造的な理由(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

2019年2月14日掲載のニュース「投資家との対話において企業が持つべき視点」では、国内の機関投資家がESG投資に取り組むのは、「顧客」である資金拠出者がそれを求めているからであり、なかでも日本最大の資金拠出者であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の意向が大きく影響していることをお伝えしたところだ。では、なぜGPIFはESG投資を積極的に推し進めているのだろうか。この疑問が解消されない限り、一部の経営者などから聞こえてくる「ESGは本当に企業価値向上につながるのか」「ESGは一時的なブームにすぎない」といった声も消えることはないだろう。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

先に結論を一言でいえば、GPIFはESG投資に積極的なのは「GPIFの資産が巨大だから」に他ならない。GPIFは運用資産残高が150兆円を超える世界最大の資金拠出者であり、国内株式についても約40兆円の残高がある。すなわち、国内全上場会社の時価総額の6%~7%にも相当する株式を、基本的にはパッシブ運用で、(運用委託先を通じて)間接的に保有しているということになる。これは、GPIFが市場の一部を“市場と同じバランス”で保有していることを意味する。この状態を指して、市場全体の「スライス」を保有していると表現されることもある。ちなみに、保有する資産規模の巨大さゆえに「スライス」を保有するようになった投資家や資金拠出者は、ユニバーサル・オーナーと呼ばれる。

パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

特定の企業、あるいは特定のセクターの銘柄のみを保有する投資家であれば、投資先の企業が例えば環境(E)や社会(S)の点で問題があったとしても、業績さえ上げてくれればそれでいいという考え方も可能かもしれない。これに対しユニバーサル・オーナーの場合は、仮に特定の企業の業績が上がったとしても、例えばそこから環境汚染(E)などの問題が生じ、その影響が他の投資先に及べばリターンは相殺されてしまう。市場の「スライス」を保有するユニバーサル・オーナーにとって、「保有株式のリターンを上げること」は「市場全体のリターンが上がること」と同義である。したがって、GPIFのような巨大な資金拠出者が、市場全体の底上げやリスク低減といった観点からESGに取り組むことは必然と言える。

近年、世界的にパッシブ運用の人気が高まっている(2019年2月7日掲載のニュース「“パッシブ化”の進行と東証の市場構造の見直しが与える株価の影響」参照)。パッシブ運用は、「個別銘柄」の調査を省き指数連動型の運用を行うことで運用コストを削減する投資手法であるため、スケールメリットが出やすいという特徴を持つ。実際、海外でもBlackRockやVanguard、State Streetといったパッシブ運用を主戦場とする大手投資家の運用資産額は拡大の一途をたどっている(2018年11月19日のニュース「強まる大手運用機関の影響力」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。彼らもまた「ユニバーサル・オーナー」と位置付けることができる。ESG投資を「巨大な資金拠出者あるいは投資家にとっての必然」と考えれば、それは決して一時的なブームなどではなく、パッシブ化の進展に伴いさらに拡大していくことになるだろう。むしろ、投資の世界においては「当然のこと」として定着する日も近いと言えよう。

スケールメリット : 事業、生産、販売など、様々な規模の拡大によって生まれる生産性向上や効率性上昇、購買力の向上などの効果のこと。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム