企業グループにとって、グループ内のすべての企業を黒字にすることは容易ではない。このような場合、グループ内の各社の黒字と赤字を相殺してグループ全体の税負担を減らす効果のある連結納税制度の導入は検討に値するはずだが、実際には多くの企業が連結納税の導入を見送っている。その最大の理由が、「現行の連結納税制度は複雑すぎて、経理部門等に大きな負担がかかる」というものだ。経団連が企業に実施したアンケートでも、企業が連結納税制度を適用しない理由としては「事務手続きの負担が大きい」(51社中35社)が最多となっており、それに次ぐ「損益通算等のメリットがない/少ない」(51社中28社)を上回っている(2019年2月14日公表の「連結納税制度に関するアンケート結果概要」11ぺージ参照)。連結納税制度の節税効果よりも事務負担の重さが重視されているということからすると、現行連結納税制度は「仕組み」として大きな欠陥があると言わざるを得ないだろう。
連結納税制度 : 100%の持株関係にある企業グループに属する各企業の所得金額(≒黒字)と欠損金額(≒赤字)を通算して「連結所得金額」を計算し、この連結所得に対する法人税を親会社がまとめて納税する仕組み。例えば親会社の所得金額が100、子会社の欠損金額は100である場合、連結納税制度を採用していなければ親会社は所得金額100に対する法人税を負担しなければならないが、連結納税制度を採用していれば、親会社の所得金額100は子会社の欠損金額100と相殺され、税負担はゼロとなる。
この点については政府(財務省)も問題意識を持っており、連結納税制度の簡素化に向けて検討を始めたことは、2018年11月6日のニュース「連結納税の導入、経営判断は来年12月以降に」でお伝えしたとおり。そしてこのほど、新たな連結納税制度の仕組みが判明した。連結納税制度の見直しは内閣府に設置された「連結納税制度に関する専門家会合」で検討されているが、(2019年)2月14日に開催された第2回会合で、財務省が新たな連結納税制度の仕組みについて踏み込んだ説明を行っている(財務省の説明資料はこちら)。
新たな連結納税制度では「個別申告方式」という方式が採用されることになる。現行の連結納税制度では、連結グループ各社の所得(≒黒字)と欠損(≒赤字)を通算したうえで、「親会社」が税務署に申告・納税を行うことになっている。例えば、A~D社で構成される企業グループが連結納税を行っており、各社の所得がA社(親会社)100、B社(子会社)50、C社(子会社)▲50、D社(子会社)▲50だったとすると、連結所得は50(100+50-50-50)となり、これに法人税率を乗じて算出した「連結税額」をA社がまとめて申告・納付する。
これに対し「個別申告方式」では、文字通り各社が「個別」に申告・納税を行う。すなわち、上記例で言えば、A~Dの各社がそれぞれ申告・納税を行うことになる。もっとも、C社とD社はともに▲50の欠損が発生しているため、納税額は発生しない(ただし、申告は必要)。
個別申告方式の最大のポイントと言えるのが、C社とD社それぞれに生じている欠損▲50の取扱いだ。この点について財務省からは、連結グループ全体の欠損の合計額を、所得が発生しているグループ企業の「所得金額の比」により按分するというアイデアが示されている。
上記例を使って説明しよう。C社とD社それぞれに生じている欠損▲50が生じているため、連結グループ全体の欠損金額は▲100(▲50+▲50)となる。当該連結グループでは、A社に100、B社に50の所得が発生しているが、この欠損金額は▲100を、A社とB社の所得金額の比により按分することになる。具体的には下記の算式のとおり。
〇A社に配分される欠損金=67(※)
※▲100×A社の所得100/(A社の所得100+B社の所得50))
〇B社に配分される欠損金=33(※)
※▲100×B社の所得50/(A社の所得100+B社の所得50))
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この結果、A社の所得金額は100から「33(100-67)」へ、B社の所得金額は50から「17(50-33)」へと減少し、その分、納税額も減少することになる。
この「個別申告方式」が導入されることにより、企業の事務負担は大幅に低下することが見込まれる。現行の連結納税制度では、親会社がまとめて申告・納税するという方式をとっているため、連結グループ内の企業の一つにでも計算ミスや税務調査による所得の変動が生じた場合、連結グループ内の全企業において所得の再計算等が必要になるという問題がある(財務省の説明資料9ページ参照)。これに対し新たな連結納税制度では、上記のように一度配分した欠損金は、計算ミスの発覚や税務調査等で所得の増減があったとしても「考慮しない」という方法で、一企業の所得の変動の影響が連結グループ内の他企業に及ばないようにする。
例えば、仮にD社で計算ミスが見つかり、所得が▲50⇒100に増えたとしても、D社の所得を50(▲50+100)とは考えず、▲50は既にA社およびB社に “配分済み”として無視する。すなわち、税務署は単純に所得の増額分の150に対する税額をD社からから追徴することになる。逆にD社の所得が▲50⇒▲200にさらに減少した場合は、D社の所得を▲150(▲200-▲50)とは考えず、▲50は既にA社およびB社に “配分済み”として無視する。そして、欠損金の増額分▲150を翌期に繰り越すことになる(翌期にD社において所得が発生すれば、これと相殺可能)。このように、連結グループの一部の企業で所得の修正があったとしても、当該企業法人だけで修正計算が完結するとなれば、連結納税を採用する企業グループの事務負担は劇的に減ることになる。
また、現行の連結納税制度では、基本的に(1)連結納税開始時や新たに連結グループに子会社が加入した際には子会社の資産を時価評価し、含み益があればそれに対して課税されるほか、(2)連結納税開始前あるいは連結グループ加入前の子会社の赤字(欠損金)を切り捨てる(=親会社の黒字(所得)との通算ができない)ことが求められ、これらも企業に連結納税制度の導入を躊躇させる一因となってきたが、個別申告方式では個別企業における所得計算が尊重され、逆に「連結グループ」という単位での所得計算はなくなるため、上記(1)(2)とも廃止もしくは大幅に緩和される可能性が高い。
以上のような見直しの結果、連結納税制度は、グループ経営を行う企業の多くが現実に採用を検討し得る制度として生まれ変わることになりそうだ。新たな連結納税制度が導入されるのは2020年4月1日となる見込み。経営陣は、一度導入の是非を取締役会で検討しておくべきだろう。