2019/02/25 デリバティブ取引を行う企業の内部統制(会員限定)

2019年2月20日のニュース『金融商品の時価の「レベル別開示」義務化で上場会社への影響は?』でお伝えしたとおり、経営者(会社)と投資家との間で「情報の非対称性」を生みやすい「金融商品」に関する会計基準を改正する案(以下、時価算定基準案)が先月(2019年1月)企業会計基準委員会(ASBJ)から示され、金融商品の時価を算定する際に使われるインプット(=時価の算定式に入力する数値)の影響度(重要度)のレベルに応じて、時価を客観性の高い順に「レベル1の時価(上場株式の時価など)」「レベル2の時価(金利スワップの時価、為替予約の時価など)」「レベル3の時価(複雑なデリバティブ取引など)」の3つに分類し、各レベル別に開示することが求められる方向となっている。

情報の非対称性 : 自社の情報については、経営陣など社内の人間の方が投資家よりも詳しいということ。
金利スワップ : 固定金利と変動金利をスワップ(交換)するデリバティブ契約。変動金利で借り入れをした企業が、金利を固定化するために「変動金利を受け取り、固定金利を支払う」金利スワップ契約を利用するケースが多い。
為替予約 : 金融機関との間で、将来、外国通貨を一定の為替レートで購入または売却することを予約する契約。為替リスクをヘッジ(為替レートの変動により受け取る(または支払う)自国通貨の額が変動することを回避)するのが目的。

客観的に把握することが容易な「レベル1の時価」「レベル2の時価」に対し、企業にとって問題となるのが、複雑なデリバティブ取引など「レベル3の時価」をいかに評価するのかということだ。

現状、複雑なデリバティブ取引を行う企業は、当該デリバティブ取引の時価として、金融機関が算定した時価をそのまま使用していると思われるが、時価算定基準案においては、金融機関等の第三者から入手した相場価格をそのまま「時価」として使用することは認められてない。第三者から入手した時価を利用するためには、当該時価が時価算定基準案に沿って算定されたものであることを企業が自ら検証しなければならない。このため、第三者から入手した相場価格を利用する場合、経営者は例えば次のような内部統制を整備・運用することが求められると考えられる。

(1) 当該第三者より、時価の算定に用いた評価技法とインプットの内容を入手。
(2) (1)で入手したインプットについて、算定日の市場の状況を表したものであるのか、観察可能なものが優先して利用されているのかを確認。
(3) (1)で入手した評価技法が、同じく(1)で入手したインプットを十分に利用できるものであるかを確認。
(4) その他、状況に応じて次のような手続を実施。
① 他の複数の第三者から時価算定基準案に沿って算定されていると期待される価格を入手できる場合、当初第三者から入手した価格と他の第三者から入手した価格を比較・検討。
 ② 自社が算定した理論値と当初第三者から入手した価格を比較・検討。
 ③ 自社が保有しているかどうかにかかわらず、時価算定基準に従って算定されている類似銘柄の価格と比較。
 ④ 過去に時価算定基準に沿って算定されていると確認された当該金融商品の価格の時系列の推移を分析。

上記の内部統制は例示であり、必ずしも全てを実施する必要はない。また、各企業が保有する金融商品の状況、重要性に応じて適切な統制手続を選択し、実施することになる。例えば、他の第三者から価格を入手(①)できない場合、自社で理論値を算定する(②)ことが考えられる。

もっとも、上記は複雑なデリバティブ取引を行う企業に求められる内部統制であり、多くの一般事業会社においては、デリバティブ取引を行っているとしても、そこまで複雑なものではないケースが多いだろう。時価算定基準案では、以下のような一般的なデリバティブ取引については「第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができる」とする簡便的な規定を設け、企業に過重な負担がかからないよう配慮がなされている。

一般的なデリバティブ取引の範囲
(1)インプットである金利がその全期間にわたって一般に公表され、観察可能である同一通貨の固定金利と変動金利を交換する金利スワップ
(2)インプットである所定の通貨の先物為替相場がその全期間にわたって一般に公表され、観察可能である為替予約

金利スワップ : 固定金利と変動金利をスワップ(交換)するデリバティブ契約。変動金利で借り入れをした企業が、金利を固定化するために「変動金利を受け取り、固定金利を支払う」金利スワップ契約を利用するケースが多い。
為替予約 : 金融機関との間で、将来、外国通貨を一定の為替レートで購入または売却することを予約する契約。為替リスクをヘッジ(為替レートの変動により受け取る(または支払う)自国通貨の額が変動することを回避)するのが目的。

41896

“簡便法”の適用条件
a.第三者が客観的に信頼性のある者で、企業集団等から独立した者であること
b.公表されているインプットの契約時からの推移と入手した相場価格との間に明らかな不整合がないこと
c.「レベル2の時価」に属すること

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第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができる

2019/02/22 事業等のリスク、取締役会での議論が必須に

有価証券報告書における記述情報の開示の大幅な充実を求める「企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、改正開示府令)」(2019年1月31日公布・施行)への対応に頭を悩ませている上場企業も少なくないことだろう。2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方」では、改正開示府令のうち早急な対応が必要になる2019年3月期決算の有価証券報告書(以下、有報)から適用される改正項目を紹介したが、改正開示府令にはそれより1年遅れて適用(すなわち、2020年3月31日以後に終了する事業年度の有報から適用)される改正項目がある。その中には、今のうちから準備が求められそうなものもある。

2020年3月31日以後に終了する事業年度の有報から適用される改正項目について、改正開示府令と同時に公表された「金融庁の考え方」を紹介しつつ、開示の際の留意点をまとめたのが下表だ。・・・

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2019/02/22 事業等のリスク、取締役会での議論が必須に(会員限定)

有価証券報告書における記述情報の開示の大幅な充実を求める「企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、改正開示府令)」(2019年1月31日公布・施行)への対応に頭を悩ませている上場企業も少なくないことだろう。2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方」では、改正開示府令のうち早急な対応が必要になる2019年3月期決算の有価証券報告書(以下、有報)から適用される改正項目を紹介したが、改正開示府令にはそれより1年遅れて適用(すなわち、2020年3月31日以後に終了する事業年度の有報から適用)される改正項目がある。その中には、今のうちから準備が求められそうなものもある。

2020年3月31日以後に終了する事業年度の有報から適用される改正項目について、改正開示府令と同時に公表された「金融庁の考え方」を紹介しつつ、開示の際の留意点をまとめたのが下表だ。

2020年3月期決算の有報から適用される主な開示項目に対する金融庁の考え方と留意点
様式上の項目 改正項目 金融庁の考え方 留意点
【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】 連結会社の経営環境(企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含める。 No.3
資本コストについての経営者の認識の説明が明記されるよう、経営環境の例示の中に“資本コスト”を加えていただきたい。」とのコメントが寄せられていたが、金融庁は資本コストの記載を“強制”することまではせず。

資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。

金融庁は資本コストの記載を強制はしなかったものの、「企業の経営内容に即して資本コストについても記載することが期待される」とし、資本コストの記載を“勧奨”している。
No.5
「連結会社の経営環境」として、「企業構造、事業を行う市場の状況、競業他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等」のすべてを記載しなければならないわけではなく、各企業が個社の実情に応じて工夫して記載するという理解でよい。また、例えば、各社の企業機密に該当する情報等、開示することによりかえって企業価値等を損なう情報についてまで、記載を求めるものでもない。
優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について、その内容、対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて記載。 No.8
「対処すべき事業上及び財務上の課題」が複数ある場合には、優先順位が高い「重要な課題」を記載する(優先順位が低い課題は掲載不要)。
ここに記載しなかった「対処すべき事業上及び財務上の課題」が原因で問題が発生すれば、経営陣は投資家等から「優先順位の付け方を誤っており、リスクコントロールができていなかった」と批判される可能性がある。
【事業等のリスク】 経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載。 No.10
リスク項目を羅列するのではなく、主要なリスクを記載する。
主要なリスクとしては、連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項が考えられる(開示府令の記載要領(31)a)。
No.10
「主要なリスク」とは、リスクの発生可能性や企業への潜在的影響の大きさの観点から、企業の成長、業績、財政状態、将来の見込みについて重要であると経営陣が考えるものに限定する。もし、企業に固有でない一般的なリスクを記載する場合は、具体的にどのような影響が当該企業に見込まれるのか明らかにする。
開示府令の記載要領(31)a上、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載することが求められている。
No.16
金融庁は、「提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされていた場合、提出後に事情が変化したことをもって、虚偽記載の責任を問われるものではない。一方、提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて敢えて記載をしなかった場合、虚偽記載に該当することがあり得ると考えられる。」との考え方を示している。
事業等のリスクの開示に先立ち、取締役会等は、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性を判断しておく必要がある。もし、取締役会で重要性が高いリスクであると判断していたにものかわらず、有報の【事業等のリスク】で開示しなかった場合、金融商品取引法上、虚偽記載に該当することがあり得る。
【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】 キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報の記載に当たっては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載 No.19
キャッシュ・フローの状況における資金需要の動向に関する経営者の認識の説明に当たっては、企業が得た資金のうち、どの程度を成長投資、手許資金、株主還元とするかについて、経営者の考え方を記載することが有用。
パブコメ募集時の案では「キャッシュ・フローの状況(内部留保資金の状況を含む。)」となっていたが、確定版では「(内部留保資金の状況を含む。)」が丸ごと削除されている。これにより「内部留保資金の状況」は絶対的記載事項ではなくなった。
2019年2月1日まで意見募集を行っていた「記述情報の開示に関する原則」(案)によると、キャッシュ・フローの状況における資金需要の動向に関する経営者の認識の説明は、次の観点から説明することが投資家にとって有用とされている。
① 資金需要の動向に関する経営者の認識の説明に当たっては、企業が得た資金のうち、どの程度を成長投資、手許資金、株主還元とするかについて、経営者の考え方を記載する。
② 成長投資への支出については、経営方針・経営戦略等と関連付けて、設備投資や研究開発費を含めて、説明する。
③ 株主還元への支出については、目標とする水準が設定されている場合にはそれも含め、考え方を説明することが望ましい。その際、配当政策など、他の関連する開示項目と関連付けて説明することが望ましい。
④ 緊急の資金需要のために保有する金額の水準(例えば、月商○か月分など)とその考え方を明示するなど、現金及び現金同等物の保有の必要性について投資家が理解できる適切な説明をすることが望ましい。
⑤ 資金調達の方法については、資金需要を充たすため、どの程度の資金が営業活動によって得られるのか、銀行借入、社債発行や株式発行等により調達が必要かを具体的に記載することが考えられる。また、資金調達についての方針(例えば、DEレシオ)を定めている場合には、併せて記載することが有用。
⑥ 資本コストに関する企業の定義や考え方について、上記の内容とともに説明することも有用。

DEレシオ: 有利子負債/株主資本。返済義務のあるデット(有利子負債)が返済義務のないエクイティ(株主資本)の何倍あるかを示し、長期の支払い能力を判断(安全性分析)する際に使われる指標。この数値が「1」を下回れば、有利子負債のすべてを株主資本でカバーしていることを示しており、財務の安全性が高いと言える。

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積りおよび当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、有価証券報告書の【経理の状況】に記載した会計方針を補足する情報を記載する。 No.23
『会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、「経理の状況」の注記に記載し、独立監査人による監査の対象とすべきものである。「経理の状況」と異なる場所に記載することは、利用者の一覧性・利便性を妨げる』とのコメントに対し金融庁は「会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定に関する情報は、投資判断・経営判断に直結するものであり、経営陣の関与の下、より充実した開示が行われるべきと考えられる」との考え方を示し、当初案が維持された。
(3)【監査の状況】 提出会社の監査役及び監査役会の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況及び常勤の監査役の活動等)を記載。 No.34
監査役、監査委員及び監査等委員の活動状況として、常勤者の活動の記載のみだけではなく、非常勤の者の活動も含めて記載する必要がある。
常勤者のみの活動だけでなく、監査役会としての活動や非常勤監査役の活動についても開示しなければならないことから、監査役会としては何を開示するかを整理しておくべきである。
監査法人が連続して監査関連業務を行っている場合におけるその期間(継続監査期間) No.34
継続監査期間の算定に関する考え方を整理→詳細については2019年2月8日のニュース『EUでは「10年」が上限の継続監査期間、監査法人変更でも合算のケースも』を参照
企業によっては、継続監査期間のデータの収集に手間取る可能性があるため、早めに監査法人と打ち合わせをしておきたい。

上表に掲げた改正項目の中で特に注目したいのが、事業等のリスクの開示に関する改正だ(「様式上の項目」覧の上から二番目参照)。

「事業等のリスク」等のリスク情報は、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析(MD&A)、ガバナンス情報と並ぶ記述情報の一つだが、2019年2月1日まで意見募集を行っていた「記述情報の開示に関する原則(案)」の2-1では「記述情報」について、「投資家が経営の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められる」とされている。上表の改正開示府令では、「事業等のリスク」を認識する主体は「経営者」となっているが(【事業等のリスク】の「改正項目」の赤字参照)、上記「記述情報の開示に関する原則(案) 」2-1の説明を踏まえれば、「経営者」という言葉は「取締役会」と置き換えることができる。多くの上場企業は従来から取締役会において、自社の状況に応じたリスクを評価したうえで、とるべき経営行動を決定しているはずだが、改正開示府令が「(主要な)リスクが顕在化する可能性の程度」を記載すべきとしている以上、今後は意図的に取締役会において「リスクのレベル付け」そのものを議論の対象にしておくべきだ。また、「リスク管理委員会」等を設置し、取締役会の開催に先立ち同委員会で議論の下準備をしておくことも有用だろう。

MD&A: 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

取締役会で重要性が高いリスクであると判断していたにもかかわらず、これを有報の【事業等のリスク】で開示しなかった場合、金融商品取引法上の虚偽記載に該当することがあり得る。また、取締役会等で重要性が高いリスクであると判断し何らかの手を打つべき状況であったにもかかわらず手をこまねいていた取締役は会社法上の善管注意義務違反に問われる可能性がある。こうした事態を避けるためには、取締役会でリスクについて十分な議論を重ねたうえで、それを経営行動および有報での開示に適切に反映させるようにしたい。

2019/02/21 取締役会評価のトレンド

投資家にとって、投資対象企業の取締役会の充実度は最大の関心事の一つであることは言うまでもない。それゆえ、取締役会の充実度を測る取締役会評価(コーポレートガバナンス・コード補充原則4-11③)に対する投資家の関心は高い(【2018年3月の課題】「取締役会改革に向けた取り組み」の最後の見出し『「取締役会評価」は長期投資を呼び込むための最低条件』の本文参照)。

補充原則4-11③
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

昨年(2018年)12月が提出期限とされていた改訂コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日~)に基づくコーポレートガバナンス報告書を踏まえた東証の最新の調査結果によると、補充原則4-11③のコンプライ率は82.5%と、コンプライ率が90%を切っている12の原則(原則の数は全部で78)の一つに数えられているものの、コンプライ率自体は前回調査時(2017年7月)より6.6ポイント増加している(東証「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2018年12月末日時点)」を参照)。この数字が示すように、取締役会評価というプラクティス自体は上場企業にも大分浸透したと言える。

また、最近はその“中身”も変化を見せているようだ。

コーポレートガバナンス・コード導入当初は、・・・

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2019/02/21 取締役会評価のトレンド(会員限定)

投資家にとって、投資対象企業の取締役会の充実度は最大の関心事の一つであることは言うまでもない。それゆえ、取締役会の充実度を測る取締役会評価(コーポレートガバナンス・コード補充原則4-11③)に対する投資家の関心は高い(【2018年3月の課題】「取締役会改革に向けた取り組み」の最後の見出し『「取締役会評価」は長期投資を呼び込むための最低条件』の本文参照)。

補充原則4-11③
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

昨年(2018年)12月が提出期限とされていた改訂コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日~)に基づくコーポレートガバナンス報告書を踏まえた東証の最新の調査結果によると、補充原則4-11③のコンプライ率は82.5%と、コンプライ率が90%を切っている12の原則(原則の数は全部で78)の一つに数えられているものの、コンプライ率自体は前回調査時(2017年7月)より6.6ポイント増加している(東証「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2018年12月末日時点)」を参照)。この数字が示すように、取締役会評価というプラクティス自体は上場企業にも大分浸透したと言える。

また、最近はその“中身”も変化を見せているようだ。

コーポレートガバナンス・コード導入当初は、補充原則4-11③が「取締役会全体」の実効性の評価を求めていることから、取締役会の各メンバーが取締役会全体について自己評価するという手法でも問題なく、「個人評価」まで踏み込んだプラクティスは、日本企業にとっては未だハードルが高いと考えられていた(2016年3月28日のニュース「取締役会評価、実際のところどこまでやればよい?」、2016年10月3日のニュース「取締役会評価を巡る日英のギャップ」参照)。

しかし、最近はこの流れが変わりつつあると取締役会評価の専門家は指摘する。例えば、取締役会議長のリーダーシップは適切かといった設問が設けられたり、取締役会の構成メンバーそれぞれが期待される役割を果たしているかといった個人のパフォーマンスを確認する設問が増えたりするなど、「取締役会」評価と言いながら、「取締役」個人の評価にフォーカスする傾向が強まっているという。

取締役会評価のもう一つのトレンドが、リスクマネジメントに関する評価項目の充実だ。「災害対応」といった従来からある典型的なリスクマネジメント項目のみならず、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の事件をきっかけに改めて注目を浴びている役員の不祥事、有事におけるCEOの交代、さらには社員のコンプライアンス違反、サイバーリスク、情報漏洩、クレーム・風評被害に至るまで、企業に起こり得る幅広いリスクの予防策や取締役会によるモニタリング、万が一これらのリスクが現実のものとなってしまった場合の対応策などが評価対象となっている。また、個別の取引をリスクマネジメントの評価対象としている企業もあるという。例えば大型の投資案件や受注案件に関するリスクについて議論が尽くされたかといった点である。

取締役会評価は「まずは定例のプラクティスとして実施する」段階から、「実際に取締役会の充実度を投資家に伝える」段階へと進みつつあると言えそうだ。

2019/02/20 金融商品の時価の「レベル別開示」義務化で上場会社への影響は?

投資家が投資判断を行う際に最も気にすることの一つに、経営者(会社)と投資家との間の「情報の非対称性」がある。「情報の非対称性」は様々な局面で生じるものの、会計データ、とりわけ見積もり要素が含まれる項目は「情報の非対称性」が顕著になりがちだ。見積もり要素が含まれる会計データとしては退職給付引当金や貸倒引当金といった引当金や不動産・のれんの減損(のれんの減損は2018年10月3日のニュース『IFRSにおける「のれん」の償却義務化議論の方向性』を参照)が真っ先に思い浮かぶが、「金融商品」の価値も見積もり要素の占める割合が高い項目として挙げられる。上場株式など時価が明確なものは別として、例えば市場価格のない株式や、金融工学の発展に伴い開発された複雑な価格変動性を持つデリバティブや仕組債証券化商品などの時価は、その算定上「見積もり要素」が多く含まれることなどにより、どうしても客観性は低くなる。IFRS(国際会計基準)や米国会計基準など国際的な会計基準では既に金融商品の時価を算定するルールが定められているが、日本の会計基準(以下、日本基準)にはそのようなルールがない。そこで日本基準を策定している企業会計基準委員会(ASBJ)は先月(2019年1月)、国際的な会計基準に基づき作成された財務諸表との比較可能性向上を目指し、金融商品の時価(公正な評価額)の算定方法に関する詳細なガイダンスを定めるとともに、金融商品の時価の“レベル別開示”(後述)を求める「企業会計基準公開草案第63号「時価の算定に関する会計基準(案)」(以下、時価算定基準案)を公表、2020年4月1日以後開始する事業年度の期首からの適用を提案している。

情報の非対称性 : 自社の情報については、経営陣など社内の人間の方が投資家よりも詳しいということ。
減損 : 固定資産による将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ計上する損失のこと。
仕組債 : 一定の条件(例えば、円とドルの為替レート)が達成された場合に一定の効果(例えば、元本の返済通貨が円からドルに変更される等)建てで返済されるが発動したり、デリバティブの仕組みを取り入れたりした債券。
証券化 : 不動産や債権など、キャッシュ・フローを生む資産を有価証券という形に変えて,第三者に売却する手法。

時価算定基準案では、金融商品の「時価」を「算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格」(いわゆる“出口価格”)と定義した。そのうえで、金融商品の時価を算定する際に使われるインプット(=時価の算定式に入力する数値)の影響度(重要度)のレベルに応じて、時価を「レベル1の時価」「レベル2の時価」「レベル3の時価」の3つに分類し、各レベル別の開示を求めている。

時価算定基準案が「レベル別」に時価の開示を求めたのは、・・・

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2019/02/20 金融商品の時価の「レベル別開示」義務化で上場会社への影響は?(会員限定)

投資家が投資判断を行う際に最も気にすることの一つに、経営者(会社)と投資家との間の「情報の非対称性」がある。「情報の非対称性」は様々な局面で生じるものの、会計データ、とりわけ見積もり要素が含まれる項目は「情報の非対称性」が顕著になりがちだ。見積もり要素が含まれる会計データとしては退職給付引当金や貸倒引当金といった引当金や不動産・のれんの減損(のれんの減損は2018年10月3日のニュース『IFRSにおける「のれん」の償却義務化議論の方向性』を参照)が真っ先に思い浮かぶが、「金融商品」の価値も見積もり要素の占める割合が高い項目として挙げられる。上場株式など時価が明確なものは別として、例えば市場価格のない株式や、金融工学の発展に伴い開発された複雑な価格変動性を持つデリバティブや仕組債証券化商品などの時価は、その算定上「見積もり要素」が多く含まれることなどにより、どうしても客観性は低くなる。IFRS(国際会計基準)や米国会計基準など国際的な会計基準では既に金融商品の時価を算定するルールが定められているが、日本の会計基準(以下、日本基準)にはそのようなルールがない。そこで日本基準を策定している企業会計基準委員会(ASBJ)は先月(2019年1月)、国際的な会計基準に基づき作成された財務諸表との比較可能性向上を目指し、金融商品の時価(公正な評価額)の算定方法に関する詳細なガイダンスを定めるとともに、金融商品の時価の“レベル別開示”(後述)を求める「企業会計基準公開草案第63号「時価の算定に関する会計基準(案)」(以下、時価算定基準案)を公表、2020年4月1日以後開始する事業年度の期首からの適用を提案している。

情報の非対称性 : 自社の情報については、経営陣など社内の人間の方が投資家よりも詳しいということ。
減損 : 固定資産による将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ計上する損失のこと。
仕組債 : 一定の条件(例えば、円とドルの為替レート)が達成された場合に一定の効果(例えば、元本の返済通貨が円からドルに変更される等)建てで返済されるが発動したり、デリバティブの仕組みを取り入れたりした債券。
証券化 : 不動産や債権など、キャッシュ・フローを生む資産を有価証券という形に変えて,第三者に売却する手法。

時価算定基準案では、金融商品の「時価」を「算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格」(いわゆる“出口価格”)と定義した。そのうえで、金融商品の時価を算定する際に使われるインプット(=時価の算定式に入力する数値)の影響度(重要度)のレベルに応じて、時価を「レベル1の時価」「レベル2の時価」「レベル3の時価」の3つに分類し、各レベル別の開示を求めている。

時価算定基準案が「レベル別」に時価の開示を求めたのは、時価算定の不確実性(リスク)を投資家等に明らかにするため。下表のとおり、時価算定の客観性は「レベル3」が最も低い。なぜなら、レベル3の時価算定においては、観察できないインプットを使用するなど、経営者による見積要素が多く含まれているからだ。したがって、レベル3の金融商品を有している場合、時価算定の不確実性の高さを補うため、他のレベルにはない細かな開示が求められている。

レベル1~3の各レベルは、インプットの内容に応じて下表のように区分される。

(注)レベル2と判断されるためには、評価対象となる資産または負債の契約期間のほぼ全てを通じてインプットが一般に公表されており、かつ観察可能であることが前提になると考えられる。
インプットのレベル インプットの内容 時価の客観性
代表的な例
レベル1 時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場(例えば株式市場)における同一の資産または負債に関する相場価格で、調整されていないもの。 上場株式の時価
レベル2 直接または間接的に観察可能(注)なインプットのうち、レベル1のインプット以外のもの。 金利スワップの時価
為替予約の時価
レベル3 観察できないインプット。 例えばインプットに「ボラティリティ」が用いられており、その重要性が高い場合

金利スワップ : 固定金利と変動金利をスワップ(交換)するデリバティブ契約。変動金利で借り入れをした企業が、金利を固定化するために「変動金利を受け取り、固定金利を支払う」金利スワップ契約を利用するケースが多い。
為替予約 : 金融機関との間で、将来、外国通貨を一定の為替レートで購入または売却することを予約する契約。為替リスクをヘッジ(為替レートの変動により受け取る(または支払う)自国通貨の額が変動することを回避)するのが目的。
ボラティリティ : 変動率。「株価のボラティリティが高い」とは、株価が乱高下することを意味する。

日本基準で上記レベル別開示が導入されるのはこれからだが、日本企業でもIFRSを任意適用会社しているところは既にレベル別開示を実施している。下記の事例を見れば、レベル別開示のイメージがつかみやすいだろう(なお、IFRSでは「時価」は「公正価値」と表現される)。

ツバキ・ナカシマ 2017年12月期 金融商品
24. 金融商品
(1) 会計上の分類及び公正価値
以下の表では、金融資産及び金融負債の帳簿価額及び公正価値、並びにそれらの公正価値ヒエラルキーのレベルを示しております。公正価値で測定されていない金融資産または金融負債の帳簿価額が公正価値の合理的な近似値である場合、それらの項目の公正価値に関する情報は、この表には含まれておりません。
(省略)
41825

公正価値ヒエラルキーのレベル : 下表のレベル1~3のことを指す。

上記ツバキ・ナカシマの事例では売却可能金融資産の一部(2百万円)が「レベル3」の金融商品に該当しているが、これは、IFRSでは市場価格のない株式について公正価値(時価)評価が求められるためだと思われる。

一方、今般の時価算定基準案では、「市場価格のない株式については取得原価で評価する」という従来の取扱いが踏襲されている。このため、複雑なデリバティブ取引を行っている会社は別として()、多くの一般事業会社では、レベル3に該当する金融商品はないものと思われる。したがって、日本基準で新たに時価算定基準が導入されても、IFRS任意適用会社のような過重な開示負担は生じないと考えてよさそうだ。

 デリバティブ取引を行っている会社の対応については、近日中に別稿で解説する予定です。

2019/02/19 従業員の“事故隠し”を防ぐために

従業員が業務の執行に伴って第三者に損害を与えるということは十分に起こり得る。営業車による交通事故などはその典型だが、自分への社内評価の悪化を懸念し、交通事故を起こしたことを会社に報告せず、勝手に示談を進めてしまう従業員も時折いる。ただ、示談が上手くまとまらなかったり、被害者が反社会的勢力だったり、被害者に対する損害賠償額が予想以上に大きくなったりして、結局会社に発覚する、あるいは会社に“泣きつく”といったパターンを辿ることもあろう。

従業員が業務の執行に伴って第三者に損害を与えた場合、原則的には、使用者である会社がその責任を負わなければならないことになっている(民法715条1項)ため、このような場合でも、会社は被害を受けた第三者に対し、損害賠償をする必要がある。

会社としては、例えば従業員が十分な法律知識もないまま勝手に示談を進めたことが原因で被害者との交渉が難航することとなった場合などにおいては、会社が負担した損害賠償額を当該従業員に請求(求償)したいと考えても不思議ではない。結論から言えば、これは・・・

求償 : 賠償を求めること。ここでは、会社が従業員に対し賠償を求めることを想定している。

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2019/02/19 従業員の“事故隠し”を防ぐために(会員限定)

従業員が業務の執行に伴って第三者に損害を与えるということは十分に起こり得る。営業車による交通事故などはその典型だが、自分への社内評価の悪化を懸念し、交通事故を起こしたことを会社に報告せず、勝手に示談を進めてしまう従業員も時折いる。ただ、示談が上手くまとまらなかったり、被害者が反社会的勢力だったり、被害者に対する損害賠償額が予想以上に大きくなったりして、結局会社に発覚する、あるいは会社に“泣きつく”といったパターンを辿ることもあろう。

従業員が業務の執行に伴って第三者に損害を与えた場合、原則的には、使用者である会社がその責任を負わなければならないことになっている(民法715条1項)ため、このような場合でも、会社は被害を受けた第三者に対し、損害賠償をする必要がある。

会社としては、例えば従業員が十分な法律知識もないまま勝手に示談を進めたことが原因で被害者との交渉が難航することとなった場合などにおいては、会社が負担した損害賠償額を当該従業員に請求(求償)したいと考えても不思議ではない。結論から言えば、これは「可能」だ。民法では、会社(使用者)が従業員(被使用者)に求償することを妨げない旨を定めている(715条3項)。ただし、賠償した“全額”を求償することについては、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべき」(最高裁第一小法廷 昭和51年7月8日判決)との判例があり、当該従業員の故意や重過失があった場合を除き、認められない。これは、「報償責任の原理」(利益の存するところ(=会社)に損失も帰する)に基づく考え方である。

求償 : 賠償を求めること。ここでは、会社が従業員に対し賠償を求めることを想定している。

逆に、会社に未報告のまま示談を進めた従業員が、被害者に対する高額な損害賠償額に耐えられず、それを会社に求償してくるといったこともあり得る。この点については法律の規定はないが、裁判例では、トラックドライバーが業務遂行中に交通事故を起こして相手方に支払った損害賠償金を当時の雇い主に求償した事案(佐賀地裁 平成27年9月11日判決⇒福岡高裁 平成28年2月18日判決(棄却))で、「当該被用者の責任と使用者の責任とは不真正連帯責任の関係にある」として、会社にその7割を支払うよう命じたものがある。すなわち、従業員から会社への求償も可能ということだ。

もっとも、求償の可否以前に、そもそも業務中に事故を起こした従業員が勝手に示談を進めてしまうこと自体、会社は許すべきではない。“事故隠し”につながりかねないばかりでなく、例えば過剰請求といった新たな不正を生む可能性もあるからだ。こうした事態を防ぐため、会社は「事故発生時には速やかに会社に報告し、対応について指示を受ける」旨を就業規則に定め、それを従業員に順守させることを徹底すべきだろう。そして、事故を起こしたことよりも、それを「報告しなかったこと」に対する処分をより厳しいものとすることで、その実効性を担保したいところだ。

2019/02/18 インパクト投資とESG投資の違い

貧困の撲滅など、世界が抱える様々な社会的問題解決のための投資、すなわち「(社会的)インパクト投資」が欧米を中心に急速に広がっている。インパクト投資は、これまでは「融資」が中心だったが、最近は官民連携の「ソーシャル・インパクト・ボンド」といった形で、債券投資の分野にも登場している。さらに、株式投資の分野でも活発化しており、その対象もベンチャー企業から上場企業まで幅広い。こうした中、上場企業からしばしば聞かれる疑問が、「インパクト投資とESG投資はどう違うのか」というものだ。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

両者の最大の違いと言えるのが、・・・

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