2025/07/16 夏季休業のお知らせ

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2025/07/16 「稼ぐ力」を高めるための会社法改正の方向性【後編】

法務省の法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会で議論が進む会社法改正の方向性についてお伝えする本稿の【後編】では、「株主総会の在り方」および「企業統治の在り方」に関する規律の見直しを取り上げる。・・・

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2025/07/16 「稼ぐ力」を高めるための会社法改正の方向性【後編】(会員限定)

法務省の法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会で議論が進む会社法改正の方向性についてお伝えする本稿の【後編】では、「株主総会の在り方」および「企業統治の在り方」に関する規律の見直しを取り上げる(【前編】はこちら)。


株主総会の在り方に関する規律の見直し
1. バーチャル株主総会
現行法 検討事項
  • 会社法上、「場所」の定めのない株主総会を招集することは認められていない(298条1項1号)
  • 一定の要件を満たし、経済産業大臣・法務大臣の確認を受けた上場会社は、バーチャルオンリー株主総会を開催できる

  • 各大臣の確認なしに許容し、遠隔地からも株主総会に出席しやすくするべき
  • 非上場会社にもバーチャルオンリー株主総会を開催するニーズがある
  • バーチャルオンリー社債権者集会に関する規律を併せて検討する

コロナ環境下の措置として成立した改正産業競争力強化法により可能となったバーチャルオンリー株主総会を開催した会社は70社、開催を可能とするための定款変更を行った会社は459社に上っている。この社数の多さから、法務省は会社側のニーズが高いと判断、産業競争力強化法ではなく、会社法上の規律としてバーチャルオンリー株主総会を規定することが議論されている。通信障害などによる決議取消しリスクの取扱いなどが焦点となろう。


バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。

一方、議決権行使助言会社最大手のISSはバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とする定款変更には「原則として反対を推奨する」としている。会社法改正が実現した場合、本ポリシーが変更されるのかも注目される。

2. 実質株主確認制度
現行法 検討事項
  • 大量保有報告制度の適用対象となる場合を除き、名義株主の背後に存在する、いわゆる実質株主を確認することができる制度は存在しない
  • 実質株主に関する情報を把握することができないため、建設的な対話を行ううえで支障が生じている
  • 大量保有報告制度の実効性を確保するための規律も検討する必要がある


大量保有報告制度 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。
実質株主 : 株主名簿の背後に存在する投資判断や議決権を行使する権限を持つ株主のこと。これに対し、株主名簿に載っている株主を名義株主という。個人株主や事業会社が株主となる場合などは「実質株主=名義株主」となるが、信託銀行が信託勘定で「管理」だけをする株式は、実質株主と名義株主は一致しない。機関投資家が保有する株式は基本的に後者のケースとなる。

上場会社が投資家とのエンゲージメントを積極的に実施し、資本市場が期待する経営改革や事業戦略の実行に邁進するうえでの“障壁”となっている実質株主の確認方法を提供することに向けた議論である。具体的には、名義株主に対し、会社の請求によって実質株主に関する情報(株式数など)を提供する義務を課すことが検討されている。その結果明らかになった実質株主(運用受託機関など)も同様に、会社の請求があれば運用委託者の情報を提供しなければならない。違反した場合のペナルティとしては過料が想定されるが、議決権行使の制限など一層厳しい措置の要否が議論されよう(実質株主の透明化については2025年2月18日のニュース「速報 スチュワードシップ・コードの改訂内容が判明」参照)。

3. その他の株主総会の在り方に関する規律の見直し
現行法 検討事項
  • 事前の書面や電磁的方法による議決権行使により決議の成否の大勢が決していても、適切な議事運営をしなければ決議の取消事由になり得る(831条1項1号)
  • 株式の保有比率の極めて低い株主が、株主提案を可能にする議決権数の要件(300個以上)によって株主提案権を濫用的に行使する(303条2項)
  • 一定の場合には会議体としての株主総会を開催しなくとも株主総会の決議があったものとする制度を導入する
  • 株主提案権を得る議決権数の要件を見直す

決議事項の賛否が株主総会で決まることは現実には稀であることから、一定の要件を満たせば、総会当日の運営さらには総会の開催の有無にかかわらず、決議の結果を有効とすべきという議論である。どのような要件や判断基準を設定するかが、本テーマの議論のポイントとなるだろう。前述のバーチャル株主総会と併せて検討されることも考えられる。

株主提案権を得る議決権数は「総議決権の1%以上」または「300個以上の議決権」とされているが、東証は個人投資家が投資しやすい環境を整備するために上場会社に対し投資単位を「50万円未満」とするよう要請していることから(東証の投資単位引き下げ要請については2025年5月22日のニュース『「投資単位10万円」に向けて上場会社が事前に整理しておくべきこと』参照)仮に1個50万円とすると、1.5億円(50万円×300個)の保有金額で株主提案を実施できることになる。これは「1%」という要件(時価総額1兆円なら100億円)と比較してアンバランスとの指摘がある。ただ、注目度の高い論点ではあるものの、株主提案権は少数株主でも会社経営に意見を反映できる重要な手段であり、この権利を制限することは株主から発言の機会を奪うことにつながるため、改正に向けたハードルは高いだろう。

企業統治の在り方に関する規律の見直し
1. 指名委員会等設置会社制度の見直し
現行法 検討事項
  • 取締役の過半数が社外取締役でなければならない、とはされていない
  • 指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選解任議案の内容を決定する権限を有しており、取締役会が指名委員会の決定を覆すことはできない(404条1項)
  • プライム市場上場会社の20.3%で、取締役の過半数が独立社外取締役となっている
  • 一部は取締役によって構成される指名委員会が取締役の選任議案の内容を決定する権限を有する合理性は乏しい
  • 指名委員会、監査委員会、報酬委員会の権限を見直す

指名委員会等設置会社への移行が未だに限定的(プライム市場上場会社の5%程度)となっている要因として、指名委員会に過大な権限が付与されていることに対する抵抗感があるとの指摘を受けた議論である。そこで会社法を改正し、取締役会の過半数を社外取締役が占めている場合は、役員の選任(および役員報酬)の決定を取締役会の権限とする(指名・報酬委員会には「諮問」するにとどめる)ことが想定される。ただ、仮にこのような改正を行えば、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社の差異がなくなってくるため、委員会型の機関設計を一本化することも視野に入れた機関設計のグランドデザインに関する議論が必要になると考えられる(指名委員会等設置会社の権限見直しについては2024年10月23日のニュース「社外取締役が過半数を占める会社では指名権限が「取締役会」に帰属へ」参照)。

2. その他の企業統治の在り方に関する規律の見直し
現行法 検討事項
  • 責任限定契約は、非業務執行取締役、会計参与、監査役、会計監査人のみと締結できる(427条1項)
  • グローバルな人材確保や適切なリスクテイクによる経営判断を促す観点から、業務執行取締役との責任限定契約締結を認めるべき

「稼ぐ力」を高める施策として、優秀な人材獲得や「攻め」の経営判断を促進するため、責任限定契約を業務執行取締役との間でも締結可能とすべきではないかとの論点が俎上に載っている。しかし、2001年の商法改正により責任限定契約制度が導入された際には、株主・債権者保護の要請やモラルハザードへの懸念を踏まえ、業務執行取締役が締結対象から除外された経緯に鑑みると、締結対象の拡大には慎重な議論が必要になろう。スタートアップ企業に限定する、株主総会での承認を必要とするといった条件付となることも想定される。本論点に限らず、今後の改正議論においては、会社の成長を促進する観点と規律付けのバランスが慎重に検討されることになるだろう。

2025/07/15 「稼ぐ力」を高めるための会社法改正の方向性【前編】

会社法の改正に向け、法務省の法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会における議論(第1回:2025年4月23日、第2回:5月21日、第3回:6月25日)が着実に進展している。これまで実施されてきた会社法改正は諮問から施行まで3~4年を要することが多かったが、今回はよりスピーディーな改正プロセスが志向されており、2026年中に法案が国会に提出される可能性もある。今回の改正内容には企業の競争力強化や投資家との対話積極化につながるものが多く、政府が「稼ぐ力」を高めるための基盤強化を急いでいることがうかがえる(経済産業省によるセミナー『「稼ぐ力」のCGガイダンス及び「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則』はこちらから)。

具体的な改正内容は今後の議論によって変わってくるが、現時点で上場会社が押さえておくべきは、「何が検討事項となっているのか」、そして「今後それがどう変わる可能性があるのか」という点だ。前・後編に分けて解説しよう。・・・

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2025/07/15 「稼ぐ力」を高めるための会社法改正の方向性【前編】(会員限定)

会社法の改正に向け、法務省の法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会における議論(第1回:2025年4月23日、第2回:5月21日、第3回:6月25日)が着実に進展している。これまで実施されてきた会社法改正は諮問から施行まで3~4年を要することが多かったが、今回はよりスピーディーな改正プロセスが志向されており、2026年中に法案が国会に提出される可能性もある。今回の改正内容には企業の競争力強化や投資家との対話積極化につながるものが多く、政府が「稼ぐ力」を高めるための基盤強化を急いでいることがうかがえる(経済産業省によるセミナー『「稼ぐ力」のCGガイダンス及び「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則』はこちらから)。

具体的な改正内容は今後の議論によって変わってくるが、現時点で上場会社が押さえておくべきは、「何が検討事項となっているのか」、そして「今後それがどう変わる可能性があるのか」という点だ。前・後編に分けて解説しよう。

株式の発行の在り方に関する規律の見直し
1. 株式の無償交付の対象範囲の見直し
現行法 検討事項
  • 取締役・執行役を対象に株式を無償交付する場合、取締役・執行役は金銭の払込みや財産の給付を要しない(202条の2)
  • 従業員等に株式を付与する際には、金銭債権を従業員等に付与した上で、従業員等から当該金銭債権を現物出資財産として給付させることで、株式の発行や自己株式の処分をするという取扱いとなっている(これを「現物出資構成」という)
  • 国内外の優秀な人材の獲得・維持、エンゲージメントの向上等の観点から、従業員及び子会社の取締役等(以下、従業員等)に対しても株式を付与する動きが広がりつつある
  • 現物出資構成は技巧的であり、端的に、従業員等に対する株式の無償交付を認めるべき


エンゲージメント : ここでは投資家との対話ではなく、従業員エンゲージメントを指す。従業員エンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」を指し、組織の目指すゴールに対する「自発的貢献意欲」とも言い換えることができる。従業員エンゲージメントは「従業員満足度」と混同されがちだが、実は両者は同義ではない。所属する組織、職場の状況、上司、自身の仕事などについて、「従業員が自身の物差し」で評価をするのが従業員満足度であるのに対して、「会社が目指す方向性や姿を物差し」として、それらについての自分自身の理解度、共感度、行動意欲を評価するのが従業員エンゲージメントとされる。

会社法上、取締役・執行役に対する株式の無償交付は認められているものの、従業員等についてはそもそも規定が存在しないため、現物出資構成により技巧的に付与する方法が採用されてきた。今回検討されている改正は、従業員等への株式の付与も取締役・執行役と同様のシンプルな構成とすることで、従業員等に対しても、株式報酬を用いたインセンティブ報酬制度の導入促進を狙ったもの。株主総会決議を要件とするか(取締役会決議による場合は有利発行とされるリスクあり)、労働基準法における「賃金」(全額が通貨で支給される必要がある)ではないと認められる株数・金額はどの程度かなどが論点となろう。


有利発行 : 例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行することをいう。

2. 株式交付制度の見直し
現行法 検討事項
  • 他社を買収する際、買収会社は自社株式を対価とする手法(株式交付)で、円滑に被買収会社を子会社とすることができる(2条32号の2)
  • 子会社の株式を追加取得する場合や外国会社を子会社とする場合にまで、株式交付の利用範囲を拡大すべき

現行会社法上、株式交付は、“新たに”子会社化(完全子会社に限らない)を図る場合にしか使うことができない(つまり、子会社でない状態から議決権の過半数を取得し、子会社化するケースに限って使うことができる)。一方、“既存子会社”を完全子会社化するような場合には使うことができない。そこで、株式交付の対象範囲を拡大することで、既存の子会社の完全子会社化や、子会社には至らない関係会社化も機動的に実施できるようにする。子会社化・関係会社化全般を対象とするのか、あるいは取得する議決権割合に制限を設けるのかが論点となる。

また、外国会社の子会社化を対象とすることも俎上に載っているが、仮に外国会社を株式交付の対象とするよう会社法を改正したとしても、外国会社の所在する国で株式の譲渡が有効に成立するかどうかは、その国の法律によることになる。このため、外国における準拠法の問題も論点となるだろう。

3. 現物出資制度の見直し
現行法 検討事項
  • 株式会社は、現物出資がされる場合、現物出資財産の価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない(207条)
  • 現物出資財産の評価額が出資額を下回る場合、関係者(発起人など)が不足額塡補責任を負う
  • 検査役調査制度は、スタートアップに対する知的財産権等の現物出資において支障となっている
  • 検査役調査制度や不足額塡補責任は現物出資に対する萎縮効果をもたらす
  • 検査役の調査を要しない範囲の拡大、不足額塡補責任の緩和など、現物出資制度を見直すべき


検査役 : 仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。そこで会社法では、株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めている(会社法207条)。

仮に現物出資財産現物が過大に評価されれば、実際の価値が伴わない資本が計上されるという資本空洞化を招くとともに、現物出資した者に不当に多くの株式が割り当てられ、株主間で不公平が生じる。そこで現行会社法では、資本空洞化の防止と株主間の公平性確保を図るため、現物出資の際には原則として検査役を選任し、現物出資財産の価額を調査させることを求めている。

ただ、現物出資を受けるスタートアップ企業にとって検査役報酬および検査役の選任手続に要する時間は負担となっている。また、特に知的財産権については価値の算定が難しく、評価の不確実性(不足額填補リスク)も懸念される。改正議論においては、現物出資財産の価値評価について取締役が株主総会で説明責任を果たすことや、弁理士などの専門家の証明を受けるなどにより、検査役調査を不要とすることなどが浮上している模様だ。

【後編】に続く

2025/07/14 新経営陣が2か月以上も本社に立ち入れない異常事態が解消

近年の株主総会では経営陣の交代を求める株主提案が急増しているとはいえ、株主提案を通じて経営陣が丸ごと交代する事例は依然として稀だ。しかし、2025年7月9日付けのニュース『アクティビスト主導で経営陣総入れ替え 注目される「旧経営陣が賛同した」TOBの行方』で報じたように、皆無ではない。このような異例の事態では、経営権を失った旧経営陣が反発し、総会の議事運営等を巡る法的紛争に発展する可能性もある。

実際、アクティビストの影響下で経営体制が刷新されたフジテック(東証プライム)では、会社を追われた創業家出身の元取締役が、新経営陣を選任した株主総会決議の取消しを求める訴訟を提起。委任状の一部が無効と扱われたことの適否が争われたが、大津地方裁判所は元取締役の請求を棄却し、判決は確定した(当該訴訟の判決確定についてのフジテックのリリースはこちら)。

より激しい対立となったのが、・・・

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2025/07/14 新経営陣が2か月以上も本社に立ち入れない異常事態が解消(会員限定)

近年の株主総会では経営陣の交代を求める株主提案が急増しているとはいえ、株主提案を通じて経営陣が丸ごと交代する事例は依然として稀だ。しかし、2025年7月9日付けのニュース『アクティビスト主導で経営陣総入れ替え 注目される「旧経営陣が賛同した」TOBの行方』で報じたように、皆無ではない。このような異例の事態では、経営権を失った旧経営陣が反発し、総会の議事運営等を巡る法的紛争に発展する可能性もある。

実際、アクティビストの影響下で経営体制が刷新されたフジテック(東証プライム)では、会社を追われた創業家出身の元取締役が、新経営陣を選任した株主総会決議の取消しを求める訴訟を提起。委任状の一部が無効と扱われたことの適否が争われたが、大津地方裁判所は元取締役の請求を棄却し、判決は確定した(当該訴訟の判決確定についてのフジテックのリリースはこちら)。

より激しい対立となったのが、家電通販サイト「ECカレント」を運営するストリーム(東証スタンダード)のケースだ。2025年4月24日に開催された同社の定時株主総会では、議長を務めていた右田代表取締役に対し、株主が議長交代を求める緊急動議を提出。動議は採決の結果、可決された。


動議 : 株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。

ところが、右田氏は議長資格を失ったにもかかわらず、株主総会の流会を一方的に宣言し、会場を退出。その直後、旧経営陣は株主総会が流会した旨のリリースを出した。

一方、旧経営陣がいなくなった会場では議長に選任された株主が議事を続行し、新たな取締役5名(うち1名は旧経営陣のメンバー)を選任。新経営体制が成立することとなった。これに対し旧経営陣は、議長の閉会宣言後に行われた議事は無効であり、新経営陣は取締役の地位にないと主張し、新経営陣の本社建物への立ち入りを拒否した。

そして7月3日、事態は大きく動く。東京地方裁判所が右田氏による株主総会閉会宣言を無効と判断したことで、旧経営陣は新経営陣に本社を明け渡すことを余儀なくされた。続く7月7日には、ストリームの新経営陣が代表取締役の異動に関する開示を行い、旧経営陣が発出していた「株主総会の流会に関するお知らせ」および「株主総会決議通知の取り下げ」に関するリリースも訂正された(詳細は同社のリリース参照)。2か月以上続いた「新経営陣が本社に入ることができない」という異常事態はようやく解消されたことになる。

ストリームの新経営陣が株主総会での緊急動議を通じて議長交代および取締役への就任を実現できた背景には、主要株主との綿密な連携に加え、他の株主の議決権行使動向、すなわち“票読み”に成功したことがある。裏を返せば、議決権行使動向を見誤れば経営陣は一夜にしてその立場を追われかねないということを、ストリームの事例は如実に示したと言えよう。

2025/07/11 2025年6月株主総会における低賛成率議案の反対理由

2025年6月株主総会の議決権行使結果を開示する臨時報告書が出揃った。これを受け当フォーラムでは、機関投資家の議決権行使動向を分析するため、2024年7月から2025年6月までの1年間に開催されたTOPIX100採用企業(2024年10月選定)の臨時報告書を調査した。それによると、上程された議案は合計1,337議案(各役員候補者の選任議案など枝議案ベース)で、会社提案の1,274議案は全て可決(平均賛成率:95.9%)、株主提案の59議案は全て否決(同8.5%)ことが分かった。なお、撤回は4議案あった(候補者の急逝など)。

下表は賛成率が70%を下回った会社提案の一覧である。最も賛成率が低かったのは・・・

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2025/07/11 2025年6月株主総会における低賛成率議案の反対理由(会員限定)

2025年6月株主総会の議決権行使結果を開示する臨時報告書が出揃った。これを受け当フォーラムでは、機関投資家の議決権行使動向を分析するため、2024年7月から2025年6月までの1年間に開催されたTOPIX100採用企業(2024年10月選定)の臨時報告書を調査した。それによると、上程された議案は合計1,337議案(各役員候補者の選任議案など枝議案ベース)で、会社提案の1,274議案は全て可決(平均賛成率:95.9%)、株主提案の59議案は全て否決(同8.5%)ことが分かった。なお、撤回は4議案あった(候補者の急逝など)。

下表は賛成率が70%を下回った会社提案の一覧である。最も賛成率が低かったのはソフトバンクグループのストックオプション関連議案で、対象者に社外取締役が含まれること、割当日の翌日から行使可能であることなどが、機関投資家の議決権行使基準に抵触したものと考えられる。役員報酬関連では武田薬品工業の賞与関連議案も低賛成率だった。議決権行使助言会社最大手のISSが経営トップの再任と賞与支給に反対していることが、同社のプレスリリースで確認できる。同社のROEは直近期1.5%、過去5期平均4.1%とISSの基準である5%に達していないことによるものだろう。なお、経営トップの再任議案への賛成率も77.9%にとどまっている。


ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。

社名 議案 内容 賛成率
ソフトバンクグループ 役員報酬 ストックオプション 55.82%
ファーストリテイリング 監査役選任 社外監査役 61.10%
KDDI 取締役選任 社外取締役 61.86%
ファーストリテイリング 取締役選任 社外取締役 62.10%
ファーストリテイリング 取締役選任 社外取締役 62.20%
京セラ 取締役選任 代表取締役会長 63.84%
KDDI 取締役選任 社外取締役 64.27%
三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役選任 代表執行役社長 65.24%
三井住友フィナンシャルグループ 取締役選任 社外取締役 66.95%
ANAホールディングス 取締役選任 社外取締役 67.40%
武田薬品工業 役員報酬 賞与 67.41%
三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役選任 社外取締役 68.19%
三井住友フィナンシャルグループ 取締役選任 代表執行役社長 68.94%
大和ハウス工業 取締役選任 社外取締役 68.96%
住友電気工業 取締役選任 社外取締役 69.24%
ソフトバンクグループ 取締役選任 社外取締役 69.52%
京セラ 取締役選任 代表取締役社長 69.83%

経営トップの選任議案に対し多くの反対票が投じられたのが、京セラの会長と社長、三菱UFJフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループの社長だ。いずれも政策保有株式の貸借対照表計上額が連結純資産の20%を超えていることが、「20%」を経営トップの反対助言基準としているISSをはじめ多くの機関投資家からの反対票を呼び込んだのだろう(プライム市場上場会社における2024年6月株主総会後の政策保有株式の保有状況については2024年9月9日のニュース「株高で政策保有株式の割合が上昇、ISS等の基準に抵触も」参照)。なお、京セラについては、ROEが直近期0.7%、過去5期平均3.4%とISS基準を下回っていることも、賛成率の低下に拍車をかけたものと推測される。

社外役員の選任議案への反対行使は、一定以上の在任年数を理由とするものが近年目に付くようになっており、上表の社外役員候補者11人中5人が同理由によるものと推測される。最も賛成率が低かったのは、在任年数が12年に及ぶファーストリテイリングの社外監査役であった。また、同社においては、在任年数15年と19年の社外取締役も反対票を集めた。ANAホールディングスの社外取締役の在任年数は12年、大和ハウス工業の社外取締役は5年だが、社外監査役時代と通算すると17年に達している(社外役員の在任期間については2024年11月22日のニュース「社外役員の在任期間を独自に設定する企業が増加も」参照)。

社外役員の選任議案に対するもう一つの重要な反対理由と推測されるのが、大株主や政策保有株式の保有先に所属しているといった「資本関係」のものだ。KDDIは筆頭株主の京セラ、第3位株主のトヨタ自動車(第2位は信託口)からそれぞれ社外取締役を招聘している。三井住友フィナンシャルグループにとっての塩野義製薬、三菱UFJフィナンシャル・グループにとっての東急、住友電気工業にとってのトヨタ自動車はいずれも政策保有株式の保有先であり、保有先各社に属する社外取締役には多くの反対票が投じられた。

取引関係による独立性の毀損については、各社が慎重に独立性を判断するようになってきていること、国内機関投資家の多くが東証への独立役員届出書の提出の有無で判断していることなどから、社外役員選任議案の反対理由となることは相対的に減っていると考えられる。このような状況の中で、独立性の問題から低賛成率になったと推測されるのが、ソフトバンクグループの社外取締役だ。自身がパートナーを務める法律事務所が巨額M&A案件に携わっていたことに加え、その取引関係を踏まえてか独立役員届出書も提出されていないことから、国内外の機関投資家から反対行使を受けたものと考えられる。


独立役員届出書 : 東証は企業に対し、独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)を独立役員届出書により届け出ることを求めている。

以上、低賛成率議案の反対理由について考察してきたが、資本生産性(ROE等)や政策保有株式、在任期間に関する議決権行使基準については、閾値が厳格化される流れにある。上場会社においては、自社の現状分析と否決リスクも見据えた対応を検討することが求められるだろう。

2025/07/10 後発事象の検討締切日、“二重基準”に

周知のとおり、財務諸表に関する「後発事象」とは、決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象を指す。経営陣としては、決算日後いつまでに起きた事象が後発事象に該当するのか気になるところだが、今後、それを判定する基準日が変わる可能性がある。・・・

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