2025/07/10 後発事象の検討締切日、“二重基準”に(会員限定)

周知のとおり、財務諸表に関する「後発事象」とは、決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象を指す。経営陣としては、決算日後いつまでに起きた事象が後発事象に該当するのか気になるところだが、今後、それを判定する基準日が変わる可能性がある。

現在、企業会計基準委員会(ASBJ)は、日本公認会計士協会の監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」を会計基準に移管する作業を進めているが、その過程で、後発事象の基準日が論点になっている。現状では、決算日後から監査報告書日までに発生した重要な事象を後発事象として開示することを求めているが(つまり、「監査報告書日」が後発事象の基準日とされている)、通常、監査報告書日は監査報告書日と一致している。ただし、この取扱いはあくまで「監査」の視点から定義されたもの。「後発事象に関する監査上の取扱い」が会計基準に移管されれば、会計基準は企業が利用するものである以上、企業の視点で後発事象の基準日が定義される必要がある。


監査報告書日 : 監査人が監査業務を完了したと判断した日として監査報告書に記載される日付のこと。
経営者確認書日 : 監査人が意見表明を行う前に、経営者が財務諸表の作成責任や提供情報の網羅性などを文書で確認する日のこと。この日は、後発事象の検討対象期間の終点としても扱われ、「この日までに発生した事象を監査対象とする」という区切りになる。経営者確認書日は監査報告書日と一致させるのが実務上の慣行となっている。

では、会計基準上の基準日はいつが適切だろうか。その決定にあたっては、国際会計基準IAS第10号「後発事象」が参考にされる可能性が高い。IAS第10号では、後発事象とは「報告期間の末日と財務諸表の公表の承認日との間に発生する事象で、企業にとって有利な事象と不利な事象の双方をいう」とされている。日本の会計基準にIAS第10号における後発事象の定義を取り入れる場合、企業には「財務諸表の公表の承認日」を設定するとともに、その承認プロセスを整備することが求められる。これはサステナビリティ開示と同様の動きとなっている(2023年5月15日のニュース「サステナビリティ開示、社内で新たな承認プロセスが必要に」参照)。

注意したいのは、「財務諸表の公表の承認日」とは財務諸表を公表することを承認する権限を有する社内の機関又は個人が公表を承認した日であり、「財務諸表が公表される日」ではないということだ。「財務諸表の公表日」を基準日とした方が、後発事象を財務諸表の公表ギリギリまで反映できるという意味で財務諸表利用者にとっては望ましいように見えるが、それでは財務諸表の作成がいつまでも終わらなくなりかねないという問題がある。そこで、一つの“割り切り”として、「財務諸表の公表の承認日」を基準日とするのが現実的と言える。「財務諸表の公表の承認日」は経営者確認書日(=監査報告書日)と一致する場合もあれば、それより前の場合もあり得る。


経営者確認書日 : 監査人が意見表明を行う前に、経営者が財務諸表の作成責任や提供情報の網羅性などを文書で確認する日のこと。この日は、後発事象の検討対象期間の終点としても扱われ、「この日までに発生した事象を監査対象とする」という区切りになる。経営者確認書日は監査報告書日と一致させるのが実務上の慣行となっている。

このように後発事象の基準日を変更することにより、国際会計基準との整合性が図られ、また、監査法人の視点ではなく、企業が自ら後発事象のカットオフデート(後発事象の発生の有無についての検討を打ち切る日)を決定できることになる。一方、同じ考え方を会社法の計算書類に持ち込むと問題が生じる。下図のとおり、企業が作成した決算書類は監査法人が内容をチェックし、その結果を監査報告としてとりまとめることになるが、この監査報告は「取締役会が決算書類を承認した日」(会社法436条3項)の前に通知される。したがって、仮に「取締役会が決算書類を承認した日」が、後発事象を記載するかどうかを判断するための最終日(基準日)と解釈されると、取締役会の承認日までの出来事を決算書類に反映しなければならなくなり、その結果、監査法人が提出した監査報告と、取締役会で承認された決算書類の内容がズレてしまう可能性がある。要するに、監査報告が先に提出されているにもかかわらず後から新しい情報が決算書類に追加されると、決算書類と監査報告との整合性が取れなくなる恐れがあるということだ。

<図表:計算書類における現行の後発事象の基準日>
2025-07-10 12.50.02

このような事態を避けるため、計算書類については、現行通り、監査報告書日(経営者確認書日)を後発事象の基準日とすることになりそうだ。その結果、今後の会計実務では、金融商品取引法と会社法とで後発事象の基準日が異なるという“二重基準”が生じる。上場企業においては、後発事象の検討範囲や報告タイミングに応じた社内ルールの整備や、承認・報告プロセスの見直しなどが求められることになろう。

2025/07/09 アクティビスト主導で経営陣総入れ替え 注目される「旧経営陣が賛同した」TOBの行方

2025年6月株主総会では様々なアクティビスト・ファンドによる株主提案が相次ぐ中、アクティビスト・ファンドと中華資本の双方から株主提案を受けたのが・・・

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2025/07/09 アクティビスト主導で経営陣総入れ替え 注目される「旧経営陣が賛同した」TOBの行方(会員限定)

2025年6月株主総会では様々なアクティビスト・ファンドによる株主提案が相次ぐ中、アクティビスト・ファンドと中華資本の双方から株主提案を受けたのが電子部品メーカーの東京コスモス電機(東証スタンダード)だ。

このうちアクティビスト・ファンドとはSwiss-Asia Financial Services(以下、SAFS)である。SAFSはESG(環境・社会・ガバナンス)要素を重視したアクティビズムを展開しており、シンガポールを拠点とする傘下のファンドGlobal ESG Strategy(以下、GES)を通じて、2023年より東京コスモス電機に対する投資を開始し、2025年3月末現在、SAFSの運営ファンドが東京コスモス電機の議決権の約27%を取得している。

一方、中華資本とは、中国・大連の鵬成グループの日本法人鵬成ジャパンの傘下の成成株式会社(以下、成成)である。鵬成ジャパンは日本の中小電器メーカーである旭計器、共和ダイカスト、神明電機の3社を既に傘下に収めている。次のターゲットとして東京コスモス電機に狙いを定めて株式取得を重ね、2025年3月末現在、東京コスモス電機の議決権を約15%取得している。

つまり、東京コスモス電機は、金融投資として比較的短期間での売り抜けを狙うアクティビスト・ファンドと、中小電器メーカーを次々と傘下に収める事業投資を進める中華資本の双方から狙われたことになる。東京コスモス電機が狙われた理由は同社株価が割安で放置されていたからに他ならない。2023年3月末の同社の株価は2,178円であり、2023年3月期の一株当たり利益(実績)827.63円から算出される実績PERは2.6倍と、同時期における東証スタンダード市場の電気機器業の平均値12.7倍を大きく下回っていた。2024年3月末の株価3,385円と2024年3月期の一株当たり利益(実績)706.68円から算出される実績PERは4.8倍となり、前期よりは高くなったものの、同時期における東証スタンダード市場の電気機器業の平均値15.5倍を大きく下回ることに変わりはない。


PER : Price Earnings Ratio=株価収益率(株価/1株当たり純利益)。PERが高いほど、株価がその企業の利益に対して「割高」に評価されているということになるが、それは必ずしも「悪い」わけではなく、一般的には、将来の成長期待が大きいということを意味する。

GESによる東京コスモス電機へのキャンペーン資料によると、株価の低迷を招いた東京コスモス電機が抱える問題は以下のとおり。

問題点 理由
成長戦略の不存在 東京コスモス電機では過去2年間にわたり売上・利益が減少、現経営陣は今後3年間も売上・利益を伸ばせないと主張している。
同社が2024年4月に公表された新中期経営計画は実質的にわずかスライド4枚であり、中身が無い。どの事業をどのように伸ばすのか、どのような分野に投資を行うかなど具体的なことには一切触れられていない。
成長投資・株主還元の不実行 東京コスモス電機は、2025年3月期を初年度とする第2次中期経営計画において、「設備投資/研究開発費目標合計20億円」と掲げているにもかかわらず、同社の2025年3月期の連結キャッシュフロー計算書では「有形固定資産及び無形固定資産の増加額」は約2.2億円しか計上されていない。また、第2次中期経営計画公表から1年が経過した現在に至るまで、経営陣は株主に対し成長投資や株主還元についての具体的な施策を何ら示しておらず、余剰資金を成長投資や株主還元に有効活用できていないのは明らか。
後継者およびサクセッションプランの不存在 岩崎代表取締役社長は今年70歳を迎え、取締役会自身が「後継者問題がある」と過去2年間我々に表明し続けているが、現経営体制において有力な後継者候補が見られない。有効なサクセッションプランが示されず、中期経営計画を含め東京コスモス電機の経営計画執行に疑義を生じさせる状況。取締役会も後継者問題が喫緊の課題と認識しているものの、岩崎社長に一任し、能動的に解決することを避けている。

GESは、上記問題点を解決するためには執行側の取締役の入れ替えが必要であるとし、東京コスモス電機に対してGESが推す5人の取締役の選任議案を株主提案として提出。これに対して東京コスモス電機の取締役会は反論を試みるも、以下のとおりいずれもGESに反駁されている。

東京コスモス電機の取締役会の主張 GESの反駁
当社は、激動する事業環境においてさらなる成長・拡大を図るべく、2024年から2026年の3か年を「成長投資」の段階と位置付け、2027年以降の「成長・拡大」に向けた助走期間として開発・投資を行っております。 製造業各社が3年以上も「成長投資」期間として助走期間を要している訳ではなく、端的に現経営陣の成長戦略を描く能力の欠如を自ら認めているに過ぎません。
提案者は成長投資の期間を成長鈍化としてこれを否定するものですが、それ自体が当社の事業に対する理解を欠く提案と言わざるを得ません。
提案者はこれまで、当社にIR面談と称する面談を求めてきましたが、その際の提案者の興昧関心は、専ら当社のネットキャッシュその他の財務面に関する内容に尽きており、製造業としての当社の事業に対する関心を窺うことはできませんでした。
・GESが事業の話をしたいと思っても、現経営陣こそ、経営方針や事業に関する質問に対して会社側が答えられない状態が続いていました。
・東京コスモス電機の中期経営計画は実質4ページしかなく、どのように事業成長を実現するのか何ら具体的に経営陣は説明できていません。
・GESの関心が専ら東京コスモス電機の財務面に尽きているとの主張は全くの事実誤認であり、いかに現経営陣が株主との対話についての素質・認識を欠いているかを端的に示しています。
・現経営陣はその経営方針や事業への理解を促す説明を株主に対して出来ていない上に、同社が抱えるネットキャッシュの活用法などの財務戦略も語ることが出来ていません。
提案者が提案する取締役候補者が、その略歴からいずれも製造業の製造や研究開発の現場を理解しているとは言い難く、かつそのうち4名は企業経営という点でも未経験者であると見受けられることからも、提案者の提案は当社を取り巻く事業環境が大幅な変動期にあり、高度な経営判断が求められる状況にあることを全く理解することのない提案であることが見て取れます。
当社と致しましては、提案者の提案は当社の事業に対する理解を欠くものであると共に、中長期的な成長ではなく、短期的な利益獲得を目的とする提案に外ならないと思料します。
・現在の東京コスモス電機経営陣に必要なのは単純な製造業の経験者ではなく、企業経営、事業再構築、国際経験、財務/会計など上場会社に求められる高いレベルの経営能力を兼ね備えた人材です。
・現在の経営陣には製造業の経験者が含まれるものの、製造業である東京コスモス電機の成長戦略が描けておらず、保有するネットキャッシュや自己資本の活用方針も描けていません。
提案者であるGESは投資ファンドであるところ、その運用委託先であると思われるSwiss-Asia Financial Services Pte. Ltd.の投資傾向及び投資資金の傾向からすると、提案者による中長期的な株式保有は期待することができません。そもそも、短期的な利益獲得を目的とした株主が提案する取締役候補者には中長期的目線による経営改善は望みようがありません。 ・GESは、中長期的に株を保有し、建設的な対話によって企業価値向上を目指す方針のもと現在約27%もの議決権を保有する筆頭株主です。どのようにGESが「短期的な利益獲得を目的」としているか東京コスモス電機現経営陣の反対意見からは読み取れません。
・一般的には上場株に投資する機関投資家は投資先にそこまでリソースとコストをかけることはありませんが、GESは今回、複数の取締役候補とGES門田自らも取締役会に入ることを提案しており、これは中長期的に東京コスモス電機の企業価値向上に積極的に関わることを示しています。
候補者のうち門田泰人氏は、提案株主である投資ファンドのGESの運用の責任者としての立場にあると思われるところ、利益相反の観点から著しく不適任であると考えられます。すなわち、門田氏が当社の経営に参画することで短期的な株価の上昇に強く依拠した経営戦略が取られることが強く懸念されます(中略)。また、同時に、当社の機密情報が当然に投資家株主に流出することになり、門田氏が当社取締役候補として推薦されることは、インサイダー取引防止を含む利益相反の観点から苦しく不適切と判断いたします。 門田の取締役在任中、GESの保有株の売買は、他の役員と同様の売買ウィンドウのみに限られ(インサイダー規制上の重要事実を会社が抱えている間は取引をしない) 、他の役員の皆様と同様にインサイダー取引規制上の問題は生じ得ず、利益相反の恐れもありません。
むしろ、門田が株主を代表して東京コスモス電機の経営に入り、より能動的に企業価値・株式価値向上を目指すことで、他の大多数の少数株主にも利益をもたらすことに繋がります。

また、成成も下記の理由により取締役3名の選任を求める株主提案を行った。右列は当該理由に対する会社側の反論である。

成成の株主提案の理由 東京コスモス電機の取締役会の反論
現在の経営陣は、昨年(2024年)4月に第2次中期経営計画を公表し、売上高等について数値目標を定めていますが、具体的な行動計画は見られず、株主はその進捗を検証することができない状況です。また、中国に設立した連結子会社では生産及び販売活動の一部が行われているものの、その強みを活かしきれているとは言えません。さらに、当社の成長に有効と思われるM&Aへの取組みも不十分です。現在の経営陣は、当社の資本効率.資金効率に対する理解が不十分であり、当社の経営は非効率のまま放置されている状況にあります。
かかる状況を打開するため、当社は、専門的知見と進取の気概を有する取締役を新たに迎え入れる必要があります。
本株主提案で挙げられる3名の取締役候補者は、いずれも中国大連に本拠を置く企業グループ(鵬成グループ)の傘下にある子会社役員であり、本株主提案の実質は、大連鵬成グループによる強力な当社経営への関与を目的としたものであると推察されます。もっとも、大連鵬成グループの経営方針など、提案者として当社株主に対し説明してしかるべき重要な点は、現在に至るまで当社に一切開示されておりません。また、本株主提案に挙げられる提案理由は、大要、当社の経営が非効率であるため、かかる状況の打開として取締役候補者を選任する、というきわめて抽象的な内容にとどまっており、当社としては、その提案者の背後に存在する実質的な提案者の意図、取締役候補者3名により実現しようとしている具体的な目的に疑念を抱くものです。
当社の考える今後の成長戦略と鵬成グループとの間においては、事業上のシナジー効果は低いと判断しております。
また、提案にかかる候補者が有する知識経験が当社の事業内容と親和性に乏しく、特に李秀鵬氏については、当社経営に実質的に関与すること自体を期待し難い(李秀鵬氏と面談した際に同氏は、「自らは生産・製造そのものには詳しくなく、日本企業の経営にも苦手意識がある、それゆえに過去務めていた日本の上場企業の経営から退いた経緯がある」旨と述べました。かような発言からも、当社は、当社ビジネスそのものである生産・製造に詳しくなく、かつ日本企業の経営に苦手意識があったことから日本の上場企業の経営から退いたと述べる李秀鵬氏(現在は大連に本拠を置いています)が取締役として当社経営に実質的に関与し、また的確な経営判断を行うこと自体が困難であると考えております)。と言えます。

2025年6月24日に開催された東京コスモス電機の株主総会では、下表のとおり、GESが推す取締役候補5名全員および成成が推す取締役候補3名全員が選任された一方、会社が提案した候補者の選任議案は全て否決、企業価値を上げることができなかった経営陣は“退場”となった。

会社提案議案(当時の役職) 決議の結果と
賛成割合(%)
岩崎 美樹(代表取締役社長) 否決  47.98
中島 秀雄(専務取締役) 否決  48.02
宮田 一智(取締役 技術本部長、品質本部長) 否決  48.43
久保田 純(取締役 管理本部長) 否決  48.45
郡 慎一郎(執行役員) 否決  48.42
GES提案の株主提案議案 決議の結果と
賛成割合(%)
若林 勇人 可決  52.62
西立野 竜史 可決  52.62
門田 泰人 可決  52.62
伊勢谷 直樹 可決  52.62
大木 真 可決  52.62
成成提案の株主提案議案 決議の結果と
賛成割合(%)
李 秀鵬 可決  52.29
大河内 尚志 可決  52.29
黄 聖遼 可決  52.29

新体制下での取締役会の構成は下表のとおり(カッコ内は提案者)。なお、このほかに、旧経営者時代に選任されたが今回は改選期ではないため残留した監査等委員である取締役が4名いる。

新体制下での東京コスモス電機の取締役会の構成
氏名 新役職
李 秀鵬(成成) 社外取締役会長
門田 泰人(GES) 代表取締役社長
若林 勇人(GES) 代表取締役副社長
COO
大河内 尚志(成成) 専務取締役
海外事業担当
西立野 竜史(GES) 常務取締役
Chief Transformation Officer
伊勢谷 直樹(GES) 社外取締役
黄 聖遼(成成) 社外取締役
大木 真(GES) 社外取締役

成成の李氏は「社外取締役会長」というあまり馴染みのない役職に就き、代表権はGESの門田氏と若林氏が持つ。GESは実質的に取締役会を掌握し、東京コスモス電機の経営権を獲得するに至ったが、実は東京コスモス電機を巡る騒動はまだ終わっていない。2025年6月10日、米系電子部品メーカーBourns 社の傘下のBourns Japan Holdings LLCが東京コスモス電機の完全子会社化を目指して友好的TOB(株式公開買付け)を実施する予定であることを発表したからだ。買付価格は交渉を経て1株8,075円(第三者算定機関のKPMG FASが算定した8,238円を上回る株価8,250円から配当額175円を控除して算定)、総額約109億円に達する提案となっている。

アクティビストや中華資本からプレッシャーをかけられ続けた東京コスモス電機がBournsと接触し、20%のプレミアムを付けて完全子会社化(非公開化)を図ろうとしたという経緯は容易に想像がつく。東京コスモス電機はBournsに対し、いわゆるホワイトナイト的な役割を期待したものと思われる。しかし、Bournsの提案を「友好的」と受け止め、賛同を表明してくれた当時の取締役会(東京コスモス電機の取締役会は2025年6月10日付のリリースで、「本公開買付けが開始された場合には、賛同の意見を表明するとともに、当社の株主の皆様に対して、本公開買付けへの応募を推奨することを決議いたしました」としている)の執行メンバーは既に一掃され、Bournsが交渉する新経営陣の執行メンバーにはアクティビストと中華資本から送り込まれてきた新取締役しかいない。Bournsとしては、まさに「はしごを外された」格好となった。


プレミアム : 買収価格と株価の差
ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。

Bournsは6月27日、「未公表重要事実(Material Facts)」の存在を理由に、TOBの条件が「未達」と判断し、2025年6月30日としていたTOBの開始をいったん延期し、新経営陣下の東京コスモス電機との間で現在も協議を続けている(東京コスモス電機のリリースによると、Bourns は2025年7月上旬から7月中旬を目途にTOBを開始することを目指すという)。

もともとBournsの提案は、市場価格に対して20%以上のプレミアムを付すなど、株主利益に配慮した内容となっていた。しかし、東京コスモス電機の株価は2025年7月3日時点で9,450円の年初来高値を付けており、TOB提示価格である8,075円を大幅に上回る水準となっている。市場では、BournsがTOB条件を再調整し、買付価格の引き上げに踏み切るのではないかという期待が高まっているものと思われる。既に株価はファンダメンタルズを超えて動き、投資家の短期的な思惑が価格を押し上げる“マネーゲーム”の様相すら呈している。


ファンダメンタルズ : 売上高や利益といった業績や、資産・負債といった財務状況など、株式の本質的価値を決める指標

同社の旧経営陣は、長期にわたり株価が純資産や利益に比べて割安な水準にある状況を放置し、東京証券取引所が求める「資本コストや株価を意識した経営」に関する開示も一切行っていなかった(「検討中」の開示すらしていなかった)。その一方で、米Bournsを“ホワイトナイト”として招き入れ、上場廃止に向けた動きを進めていたことになる。

このような株主軽視の姿勢を見れば、会社提案議案に賛成票を投じる気になれず、アクティビストに同調する一般株主が増えるのもやむを得ない。市場は今や経営陣の言葉ではなく「行動」を注視している。企業価値を高めるために事業計画を刷新し、開示と実行を伴わせたうえで、サクセッションプラン(後継計画)の不備を自覚したのであれば即時に検討に移る――このようなスピード感と実効性がない経営を続ければ資本市場からの信任を失い、退場を迫られる時代に入ったと言えよう。

2025/07/08 WEBセミナー『2025年6月株主総会の状況』配信開始!

会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2025年7月8日(火)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
2025年6月株主総会の状況 三菱UFJ信託銀行 法人コンサルティング部
中川 雅博 様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
2025年6月株主総会は、集中率が過去最低を記録するとともに、来場者数、発言株主数が増加したことが示すように、株主総会が単なる手続きから実質的なコミュニケーションの場へと変化していることを改めて実感させるものとなりました。株主提案は過去最多を更新、機関投資家等による提案に限っても過去最多を記録し、ガバナンス関連や情報開示強化の提案が増加しています。株主提案議案の可決は7社、会社提案議案の否決は8社に上り、ROEが低位な会社や、政策保有基準に抵触する会社を中心に経営トップの選任議案が低賛成率となった事例も見受けられました。本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者で全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、2025年6月総会を分析していただきつつ、論点ごとに今後の企業の対応のポイントを解説していただきます。自社にとって最適なガバナンス体制や情報開示のあり方などを検討する上でのヒントが満載のセミナーとなっています。
講師のご紹介 中川 雅博(なかがわ まさひろ)様
大阪大学法学部卒、大阪大学大学院法学研究科(修士課程)修了。1990年、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。以後、証券代行部門・法人ビジネス部門に所属し、一貫して会社法務に関するコンサルティングを行う。現在、三菱UFJ信託銀行(株)法人コンサルティング部に所属し、全国株懇連合会理事、東京株式懇話会常任幹事(研究部 研究第1部担当)も務める。
ハンドブックシリーズ1「株主総会」(共著:2002年12月・商事法務)、ハンドブックシリーズ2「株式実務」(共著:2003年4月・商事法務)、「委員会等設置会社への移行戦略」(共著:2003年5月・商事法務)、「株券電子化と移行のポイント」(共著:2008年5月・商事法務)、「株券電子化-その実務と移行のすべて」(共著:2008年8月・きんざい)、「全株懇モデル[新訂2版]」(共著:2009年3月・商事法務)、「株式事務の基礎知識」(2009年11月・商事法務)、「株主総会ハンドブック第3版」(共著:2015年3月・商事法務)、「株主総会・取締役会・監査役会の議事録作成」(共著:2015年3月・清文社)、「監査等委員会設置会社の活用戦略」(共著:2015年9月・商事法務)、「新株主総会実務なるほどQ&A」(共著:2017年3月・中央経済社)、「株主総会の準備実務・想定問答」(共著:2018年1月・中央経済社)など著書多数。

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/77742/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/DrGFLt84vUga2dev8

<収録月>
2025年7月

<収録時間>
1時間9分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2025/07/08 【Webセミナー】2025年6月株主総会の状況

概略

【WEBセミナー公開開始日】2025年7月8日

2025年6月株主総会は、集中率が過去最低を記録するとともに、来場者数、発言株主数が増加したことが示すように、株主総会が単なる手続きから実質的なコミュニケーションの場へと変化していることを改めて実感させるものとなりました。株主提案は過去最多を更新、機関投資家等による提案に限っても過去最多を記録し、ガバナンス関連や情報開示強化の提案が増加しています。株主提案議案の可決は7社、会社提案議案の否決は8社に上り、ROEが低位な会社や、政策保有基準に抵触する会社を中心に経営トップの選任議案が低賛成率となった事例も見受けられました。本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者で全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、2025年6月総会を分析していただきつつ、論点ごとに今後の企業の対応のポイントを解説していただきます。自社にとって最適なガバナンス体制や情報開示のあり方などを検討する上でのヒントが満載のセミナーとなっています。

講師のご紹介 中川 雅博(なかがわ まさひろ)様
大阪大学法学部卒、大阪大学大学院法学研究科(修士課程)修了。1990年、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。以後、証券代行部門・法人ビジネス部門に所属し、一貫して会社法務に関するコンサルティングを行う。現在、三菱UFJ信託銀行(株)法人コンサルティング部に所属し、全国株懇連合会理事、東京株式懇話会常任幹事(研究部 研究第1部担当)も務める。
ハンドブックシリーズ1「株主総会」(共著:2002年12月・商事法務)、ハンドブックシリーズ2「株式実務」(共著:2003年4月・商事法務)、「委員会等設置会社への移行戦略」(共著:2003年5月・商事法務)、「株券電子化と移行のポイント」(共著:2008年5月・商事法務)、「株券電子化-その実務と移行のすべて」(共著:2008年8月・きんざい)、「全株懇モデル[新訂2版]」(共著:2009年3月・商事法務)、「株式事務の基礎知識」(2009年11月・商事法務)、「株主総会ハンドブック第3版」(共著:2015年3月・商事法務)、「株主総会・取締役会・監査役会の議事録作成」(共著:2015年3月・清文社)、「監査等委員会設置会社の活用戦略」(共著:2015年9月・商事法務)、「新株主総会実務なるほどQ&A」(共著:2017年3月・中央経済社)、「株主総会の準備実務・想定問答」(共著:2018年1月・中央経済社)など著書多数。
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2025/07/08 【WEBセミナー】2025年6月株主総会の状況(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2025年7月8日

2025年6月株主総会は、集中率が過去最低を記録するとともに、来場者数、発言株主数が増加したことが示すように、株主総会が単なる手続きから実質的なコミュニケーションの場へと変化していることを改めて実感させるものとなりました。株主提案は過去最多を更新、機関投資家等による提案に限っても過去最多を記録し、ガバナンス関連や情報開示強化の提案が増加しています。株主提案議案の可決は7社、会社提案議案の否決は8社に上り、ROEが低位な会社や、政策保有基準に抵触する会社を中心に経営トップの選任議案が低賛成率となった事例も見受けられました。本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者で全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、2025年6月総会を分析していただきつつ、論点ごとに今後の企業の対応のポイントを解説していただきます。自社にとって最適なガバナンス体制や情報開示のあり方などを検討する上でのヒントが満載のセミナーとなっています。

講師のご紹介 中川 雅博(なかがわ まさひろ)様
大阪大学法学部卒、大阪大学大学院法学研究科(修士課程)修了。1990年、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。以後、証券代行部門・法人ビジネス部門に所属し、一貫して会社法務に関するコンサルティングを行う。現在、三菱UFJ信託銀行(株)法人コンサルティング部に所属し、全国株懇連合会理事、東京株式懇話会常任幹事(研究部 研究第1部担当)も務める。
ハンドブックシリーズ1「株主総会」(共著:2002年12月・商事法務)、ハンドブックシリーズ2「株式実務」(共著:2003年4月・商事法務)、「委員会等設置会社への移行戦略」(共著:2003年5月・商事法務)、「株券電子化と移行のポイント」(共著:2008年5月・商事法務)、「株券電子化-その実務と移行のすべて」(共著:2008年8月・きんざい)、「全株懇モデル[新訂2版]」(共著:2009年3月・商事法務)、「株式事務の基礎知識」(2009年11月・商事法務)、「株主総会ハンドブック第3版」(共著:2015年3月・商事法務)、「株主総会・取締役会・監査役会の議事録作成」(共著:2015年3月・清文社)、「監査等委員会設置会社の活用戦略」(共著:2015年9月・商事法務)、「新株主総会実務なるほどQ&A」(共著:2017年3月・中央経済社)、「株主総会の準備実務・想定問答」(共著:2018年1月・中央経済社)など著書多数。
セミナー資料 2025年6月株主総会の状況.pdf
セミナー動画

2025年6月株主総会の状況

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2025/07/07 TOB絡みのインサイダー取引封じ込めなどに向け、来年の通常国会で金商法改正へ

TOBの活発化とともに増加しているのがインサイダー取引だ。インサイダー取引により課徴金勧告を受けた事案のうち最も多いのがTOB絡みの事案となっている。こうした中、・・・

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2025/07/07 TOB絡みのインサイダー取引封じ込めなどに向け、来年の通常国会で金商法改正へ(会員限定)

TOBの活発化とともに増加しているのがインサイダー取引だ。インサイダー取引により課徴金勧告を受けた事案のうち最も多いのがTOB絡みの事案となっている。こうした中、金融庁はインサイダー取引規制の強化などのため、早ければ来年の通常国会に金融商品取引法(金商法)の改正案を提出する。金商法改正案には、インサイダー取引規制における「公開買付者等関係者」の対象範囲拡大や課徴金引き上げのほか、大量保有報告制度違反に対する課徴金の引き上げ、サステナビリティ情報の虚偽記載に対するセーフハーバー・ルールの導入などが盛り込まれる方向。以下、上場企業が押さえておきたい改正内容についてお伝えする。

インサイダー取引規制
●TOB関係

公開買付け(TOB)に係るインサイダー取引規制では、公開買付者だけでなく、被買付企業、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)やリーガル・アドバイザー(LA)などの「公開買付者」と契約を締結する者も「公開買付者等関係者」として規制対象とされているが(金商法167条1項)、ここに列挙されていない者は規制の対象外となる。最近のTOBでは事前交渉が行われるのが通常だが、「被買付企業」と契約を締結しているFAやLAは公開買付等関係者と同等の情報を有しているにもかかわらず、形式的には規制対象となっていない。さらに、FAやLAからインサイダー情報を得た者は「第二次情報受領者」となり、インサイダー規制の対象外となる。証券取引等監視委員会によると、インサイダー取引に係る課徴金勧告事案で最も多いのが「公開買付け等事実」に関する事案となっている。平成17年度に課徴金制度が導入されてから令和6年度までの勧告件数408件のうち、「公開買付け等事実」に関する事案は25.5%(104件)を占める。違反行為が多発する原因として、公開買付けでは、公表後に株価が上昇する可能性が高いことや、公表前に多数の関係者に情報共有する必要があり情報管理が難しいことが挙げられる。そこで、公開買付者等関係者の範囲を拡大する。


公開買付者等関係者 : 公開買付け等に関する重要事実を業務上知り得る立場にある者で、未公表の情報を利用した株式等の売買が禁止される。金融商品取引法167条1項では、公開買付者等関係者として、「 公開買付者等の役員・従業員」「帳簿閲覧権を有する株主」「法令に基づく権限を有する者(例:監督官庁の職員)」「公開買付者等と契約を締結している者、または契約交渉中の者」「公開買付けの対象会社(被買付企業)の役員等(ただし自社株の公開買付けの場合は除外)」などを「公開買付者等関係者」として列挙している。
第二次情報受領者 : 会社関係者や公開買付者等関係者から直接インサイダー情報を受け取った者(第一次情報受領者)から、さらにその情報を伝達された者。金融商品取引法では、第一次情報受領者までがインサイダー取引規制の対象とされており(166条3項、167条3項)、第二次情報受領者(またはそれ以降の者)は、原則として規制対象外となる。

また、抑止力を高めるため、課徴金の引き上げも検討する。現行の課徴金の算出方法は、「(公開買付等事実公表後2週間における最大の価格-買付けをした価格)×数量」となっているが、この算式が変更される可能性がある。

●海外子会社関係
日本企業がグローバルに事業を展開する中、海外子会社の役職員が親会社である日本の上場企業の重要事実を知る機会も多く、上場企業においては、海外子会社を含めインサイダー情報の管理および法令遵守を徹底することが求められている。


重要事実 : 投資判断に著しい影響を及ぼす会社情報のこと

こうした中、証券取引等監視委員会は、たとえ海外居住者が日本や居住国以外の第三国に開設した自己名義ではない口座を利用して取引を行ったとしても、「多国間情報交換覚書」(MMoU= Multilateral Memorandum of Understanding on Cooperation and Information Exchange)に基づき海外の金融規制当局に情報提供を依頼し、調査を実施することで違反行為を特定、不公正取引として摘発している。

ただ、証券監督者国際機構が2016年に作成した多国間情報交換覚書の強化・拡張版(EMMoU=Enhanced MMoU)では、証言させるために出頭を強制すること、資産を凍結すること、裁判所の関係当局を通じて既存のインターネットサービス・プロバイダの記録を入手し、共有することなどの実効性の強い権限が追加されている。そこで、日本もEMMoUに署名できるよう、証券取引等監視委員会に出頭命令の権限を追加することなどを検討する。

大量保有報告書に係る課徴金制度
大量保有報告書等は「提出事由が生じた日」から5日以内に提出する義務があるが、提出遅延も多いことから、2008年の金商法改正により、大量保有報告書等の不提出及び不実記載が課徴金制度の対象とされたところ。しかし、その後も大量保有報告書等の提出遅延は後を絶たず、現在も年間平均で約1,500件の提出遅延が発生している。一方、課徴金納付命令の発出件数は課徴金制度導入以来、わずか13件にすぎない。さらに、課徴金納付命令が勧告された事案でも、課徴金額は数十万円にとどまるなど、決して抑止力の高いものとはなっていない。現行法上、課徴金額は対象企業の時価総額の10万分の1とされているが、この算定方法を見直す。


大量保有報告書 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。

有価証券報告書の虚偽記載
有価証券報告書の虚偽記載を行った場合であっても、調査開始前に違反事実を報告すれば課徴金の額を50%減額するという「課徴金の減算制度」が存在するが、違反事実を報告したにもかかわらず、調査に対しては協力的でないケースが報告されている。そこで、独占禁止法において導入されている「調査協力減算制度」と同様の仕組みを導入する方向だ。


調査協力減算制度 : 公正取引委員会が独占禁止法違反の調査を行う際に、事業者が積極的に協力した場合に課徴金を減額できる仕組み。令和元年の独占禁止法改正によって導入された制度で、課徴金減免制度の一部として位置づけられる。対象となるのは、調査開始後に課徴金減免を申請した事業者であり、既に違反を申告していた最初の申請者は対象外となる。減算率は協力の内容や真相解明への貢献度に応じて、公取委との協議によって決定される。

2027年3月期より、時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業に対し「サステナビリティ開示基準」適用され、2028年3月期からは1兆円以上の企業へと段階的に対象が拡大される方向となっているが(2025年2月25日のニュース「サステナビリティ開示基準が決定、公開草案からの変更点は?」参照)、企業の間では、サステナビリティ情報が「見積り」等を伴うことへの懸念がある。特にGHGのScope3排出量の開示では、バリュー・チェーンの上流及び下流から提供されたデータ、データプロバイダーから提供されるデータ、投融資に帰属する排出量(ファイナンスド・エミッション)といった企業の統制が及ばない第三者から取得した情報や見積りによる情報の開示が求められており、事後的に「誤りだった」という事態の発生が予想される。このため、仮にScope3排出量に関する定量情報が事後的に誤りであることが発覚したとしても、①統制の及ばない第三者から取得した情報を利用することの適切性、②見積りの合理性について社内で適切な検討が行われたことが説明されていること、③開示の内容が一般に合理的と考えられる範囲のものであることが担保されていれば、虚偽記載としての責任を負わないとすることが適当であるとし、金融庁の金融審議会に設置された「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」では開示ガイドラインの改正に取り組むとともに、金商法の改正も検討する。具体的には、セーフハーバーの内容、適用要件、適用範囲、行政罰や刑事罰などがテーマとなる。


Scope3 : Scope1:報告企業が所有又は支配する排出源から発 生する直接的な温室効果ガス排出  Scope2:報告企業が消費する、購入又は取得した電 気、蒸気、温熱又は冷熱(以下あわせて「電気等」という。)の生成から発生する間接 的な温室効果ガス排出をいう。  Scope3 :Scope1、Scope2 以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
ファイナンスド・エミッション : 金融機関や企業のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)などが投融資を通じて間接的に関与する温室効果ガス(GHG)排出量のこと。すなわち、資金を提供した企業やプロジェクトが排出するGHGを、自身の排出量として捉える考え方である。

有価証券報告書の記載事項の整理
加藤勝信金融担当大臣がすべての上場企業に対し、株主総会前に有価証券報告書を開示するよう要請したこと(2025年4月2日のニュース「“寝耳に水” 金融担当大臣による有報の総会前開示要請に従わなかったらどうなる?」参照)などを踏まえ、有価証券報告書の記載事項のうち「相対的に有用性が低下している事項」の有無を検証し、必要に応じて整理する。

株式報酬に係る臨報特例の拡充
上場企業が役員・従業員に対する報酬として株式を交付する場合には、その株式に一定の譲渡制限期間が付されていることを条件に、有価証券届出書の提出に代えて「臨時報告書」の提出をもって募集又は売出しを行うことができる特例制度(臨報特例)が設けられているが、スタートアップ等の非上場企業がその役員・従業員に株券を交付する場合や、外国企業が日本の子会社の役員・従業員に株式を交付する場合にも臨報特例の適用ができるようにすることを検討する。

2025/07/04 牧野フライスへの同意なき買収が日本の企業買収法を再考する契機に

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

上場企業の経営者から「日本の買収ルールはよく分からない」という声をしばしば耳にする。それもそのはず、日本の企業買収法は一見すると米国法に似ているように見えるが、「効果」という観点からは英国法に近いからだ。最新の議論を踏まえ、日本の企業買収法のあり方を考えてみよう。

米国の企業買収法では、「取締役会」は買収者と株主の間の取引に介入する十分な裁量権を有しており、取締役会の決定は裁判所によって“事後的”に審査される。一方、英国の企業買収法は、「株主総会」において別途承認されない限り、取締役会が買収提案を阻害する効果を持ついかなる対抗措置を講じることも禁止している(これを「ノー・フラストレーション・ルール」(対抗措置禁止の原則/買収阻害行為の禁止規定)という)。買収に関する紛争は、M&Aの専門家が集う「テイクオーバー・パネル」によってリアルタイムに解決される。

では、なぜ米国と英国のルールにはこのような違いがあるのだろうか。・・・

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2025/07/04 牧野フライスへの同意なき買収が日本の企業買収法を再考する契機に(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

上場企業の経営者から「日本の買収ルールはよく分からない」という声をしばしば耳にする。それもそのはず、日本の企業買収法は一見すると米国法に似ているように見えるが、「効果」という観点からは英国法に近いからだ。最新の議論を踏まえ、日本の企業買収法のあり方を考えてみよう。

米国の企業買収法では、「取締役会」は買収者と株主の間の取引に介入する十分な裁量権を有しており、取締役会の決定は裁判所によって“事後的”に審査される。一方、英国の企業買収法は、「株主総会」において別途承認されない限り、取締役会が買収提案を阻害する効果を持ついかなる対抗措置を講じることも禁止している(これを「ノー・フラストレーション・ルール」(対抗措置禁止の原則/買収阻害行為の禁止規定)という)。買収に関する紛争は、M&Aの専門家が集う「テイクオーバー・パネル」によってリアルタイムに解決される。

では、なぜ米国と英国のルールにはこのような違いがあるのだろうか。

最大の要因が、ルール策定プロセスに対する機関投資家の関与度の違いだ。英国では、公開株式の所有権が機関投資家に集中してきたため、機関投資家が規制当局にロビー活動を行ったり、自主規制的な市場規範を求めたりすることが可能となっており、その結果、株主に有利な企業買収法が形成された。一方、米国では、機関投資家がルール策定プロセスに政治的影響力を及ぼすことができず、紛争の解決権は専門的な商事裁判制度が整備され、企業法務の運用が安定していることから多くの大手企業や有名企業が法人登記をする米国デラウェア州の裁判官に委ねられており、企業は訴訟を繰り返すことで、取締役会に有利な企業買収法を形成してきた。

政治に例えるなら株主による“直接民主主義”の側面を取り入れている英国型は、株主が選んだ代表(取締役)を通じて企業を間接的に統治する“共和制モデル”の米国型よりも、株主にとっては有利であるように見える。しかし、米国型は、株主の「財産」を守る対抗措置でなければ正当化しないことから、取締役会が株主のためにリターンを生み出すことに集中するモデルであるとされている(2025年5月13日のニュース「第三者割当増資から考える対抗措置の本質」参照)。その証拠に、米国の株主の方が英国の株主より高い買収プレミアムを受け取っていることを示す実証研究が多数ある。すなわち、取締役会に強力な交渉力を与える米国型の方が株主へのリターンを生み出しているということだ。


買収プレミアム : 買収価格と株価の差

日本の企業買収法は、これら2つの対照的なルールの中間に位置しているものの、同意なき買収提案に対する取締役会の行動を監視する権限は裁判所に委ねられているため、米国型に近いと言われてきた。しかし、2005年5月に経済産業省と法務省が共同で公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」は、取締役会が対抗措置を講じることを認めているものの、対抗措置の導入には「株主」の関与が求められる。

この考え方は、2023年8月に経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」にも踏襲されている。具体的には、「取締役会」は、買収者が提示する買収価格や企業価値向上策と現経営陣が経営する場合の企業価値向上策を、定量的な観点から十分に比較検討することが望ましいが(3.1.2)、対抗措置の発動は、会社の経営支配権に関わるものであることから、「株主」の合理的な意思に依拠すべき(5.2)とされている。すなわち、日本の企業買収法は、買収提案に際して取締役会に強力な交渉力を与えるような設計とはなっておらず、実は英国の「ノー・フラストレーション・ルール」に近い。

しかし、話題を呼んだニデックによる牧野フライス製作所への同意なき買収の顛末を見ると、英国型の日本の企業買収法には疑問を抱かざるを得ない。周知のとおり、牧野フライス製作所の取締役会はニデックによるTOBに対し、新株予約権を既存株主に無償で割り当てる対抗措置の導入を決議。ニデックは、この対抗措置がいわゆる「ポイズンピル」であるため、「認められれば経営陣の気に入らない買収はたやすく阻害されることになる」旨を主張し、その差し止めを東京地裁に申し立てて法廷闘争に突入したが、東京地裁は、牧野フライス製作所の対抗措置は「競合する提案の受領や検討等のための合理的に必要な時間を確保することを目的とした対応にとどまる」として差し止め申し立てを却下した。そこでニデックはTOBの撤回を発表、2024年12月27日に始まった“同意なき買収劇場”は2025年5月8日、呆気なく幕を閉じた。ニデックがTOBを撤回後、牧野フライス製作所の株価は前日比20.73%安まで急落した。これは、牧野フライス製作所の対抗措置が、結果として、株主が株式という「財産」を有利な価格で売却する機会を奪ったからに他ならない。牧野フライス製作所は、「企業価値や株主の利益の最大化に向けた取り組みを引き続き進める」として複数のファンドとの交渉を継続し、MBKパートナーズがTOBすることを発表したが、ニデックによる牧野フライス製作所への同意なき買収は、日本の企業買収法を再考する契機となろう。


ポイズンピル : 「敵対的買収者が被買収企業の株式の一定割合を取得した場合、既存株主は時価より安い価格で新株を購入できる」という権利(ライツ)を既存株主に与える手法。新株が発行されれば、敵対的買収者の持株比率は低下するとともに、1株当たりの株価も安くなり、敵対的買収者は大きな損失を被ることになる。「ポイズンピル(毒薬条項)という名称は、毒薬が回って体が弱るようなイメージがあることから来ている。