2025年6月株主総会では様々なアクティビスト・ファンドによる株主提案が相次ぐ中、アクティビスト・ファンドと中華資本の双方から株主提案を受けたのが電子部品メーカーの東京コスモス電機(東証スタンダード)だ。
このうちアクティビスト・ファンドとはSwiss-Asia Financial Services(以下、SAFS)である。SAFSはESG(環境・社会・ガバナンス)要素を重視したアクティビズムを展開しており、シンガポールを拠点とする傘下のファンドGlobal ESG Strategy(以下、GES)を通じて、2023年より東京コスモス電機に対する投資を開始し、2025年3月末現在、SAFSの運営ファンドが東京コスモス電機の議決権の約27%を取得している。
一方、中華資本とは、中国・大連の鵬成グループの日本法人鵬成ジャパンの傘下の成成株式会社(以下、成成)である。鵬成ジャパンは日本の中小電器メーカーである旭計器、共和ダイカスト、神明電機の3社を既に傘下に収めている。次のターゲットとして東京コスモス電機に狙いを定めて株式取得を重ね、2025年3月末現在、東京コスモス電機の議決権を約15%取得している。
つまり、東京コスモス電機は、金融投資として比較的短期間での売り抜けを狙うアクティビスト・ファンドと、中小電器メーカーを次々と傘下に収める事業投資を進める中華資本の双方から狙われたことになる。東京コスモス電機が狙われた理由は同社株価が割安で放置されていたからに他ならない。2023年3月末の同社の株価は2,178円であり、2023年3月期の一株当たり利益(実績)827.63円から算出される実績PERは2.6倍と、同時期における東証スタンダード市場の電気機器業の平均値12.7倍を大きく下回っていた。2024年3月末の株価3,385円と2024年3月期の一株当たり利益(実績)706.68円から算出される実績PERは4.8倍となり、前期よりは高くなったものの、同時期における東証スタンダード市場の電気機器業の平均値15.5倍を大きく下回ることに変わりはない。
PER : Price Earnings Ratio=株価収益率(株価/1株当たり純利益)。PERが高いほど、株価がその企業の利益に対して「割高」に評価されているということになるが、それは必ずしも「悪い」わけではなく、一般的には、将来の成長期待が大きいということを意味する。
GESによる東京コスモス電機へのキャンペーン資料によると、株価の低迷を招いた東京コスモス電機が抱える問題は以下のとおり。
| 問題点 |
理由 |
| 成長戦略の不存在 |
東京コスモス電機では過去2年間にわたり売上・利益が減少、現経営陣は今後3年間も売上・利益を伸ばせないと主張している。
同社が2024年4月に公表された新中期経営計画は実質的にわずかスライド4枚であり、中身が無い。どの事業をどのように伸ばすのか、どのような分野に投資を行うかなど具体的なことには一切触れられていない。
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| 成長投資・株主還元の不実行 |
東京コスモス電機は、2025年3月期を初年度とする第2次中期経営計画において、「設備投資/研究開発費目標合計20億円」と掲げているにもかかわらず、同社の2025年3月期の連結キャッシュフロー計算書では「有形固定資産及び無形固定資産の増加額」は約2.2億円しか計上されていない。また、第2次中期経営計画公表から1年が経過した現在に至るまで、経営陣は株主に対し成長投資や株主還元についての具体的な施策を何ら示しておらず、余剰資金を成長投資や株主還元に有効活用できていないのは明らか。 |
| 後継者およびサクセッションプランの不存在 |
岩崎代表取締役社長は今年70歳を迎え、取締役会自身が「後継者問題がある」と過去2年間我々に表明し続けているが、現経営体制において有力な後継者候補が見られない。有効なサクセッションプランが示されず、中期経営計画を含め東京コスモス電機の経営計画執行に疑義を生じさせる状況。取締役会も後継者問題が喫緊の課題と認識しているものの、岩崎社長に一任し、能動的に解決することを避けている。 |
GESは、上記問題点を解決するためには執行側の取締役の入れ替えが必要であるとし、東京コスモス電機に対してGESが推す5人の取締役の選任議案を株主提案として提出。これに対して東京コスモス電機の取締役会は反論を試みるも、以下のとおりいずれもGESに反駁されている。
| 東京コスモス電機の取締役会の主張 |
GESの反駁 |
| 当社は、激動する事業環境においてさらなる成長・拡大を図るべく、2024年から2026年の3か年を「成長投資」の段階と位置付け、2027年以降の「成長・拡大」に向けた助走期間として開発・投資を行っております。 |
製造業各社が3年以上も「成長投資」期間として助走期間を要している訳ではなく、端的に現経営陣の成長戦略を描く能力の欠如を自ら認めているに過ぎません。 |
提案者は成長投資の期間を成長鈍化としてこれを否定するものですが、それ自体が当社の事業に対する理解を欠く提案と言わざるを得ません。
提案者はこれまで、当社にIR面談と称する面談を求めてきましたが、その際の提案者の興昧関心は、専ら当社のネットキャッシュその他の財務面に関する内容に尽きており、製造業としての当社の事業に対する関心を窺うことはできませんでした。
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・GESが事業の話をしたいと思っても、現経営陣こそ、経営方針や事業に関する質問に対して会社側が答えられない状態が続いていました。
・東京コスモス電機の中期経営計画は実質4ページしかなく、どのように事業成長を実現するのか何ら具体的に経営陣は説明できていません。
・GESの関心が専ら東京コスモス電機の財務面に尽きているとの主張は全くの事実誤認であり、いかに現経営陣が株主との対話についての素質・認識を欠いているかを端的に示しています。
・現経営陣はその経営方針や事業への理解を促す説明を株主に対して出来ていない上に、同社が抱えるネットキャッシュの活用法などの財務戦略も語ることが出来ていません。 |
提案者が提案する取締役候補者が、その略歴からいずれも製造業の製造や研究開発の現場を理解しているとは言い難く、かつそのうち4名は企業経営という点でも未経験者であると見受けられることからも、提案者の提案は当社を取り巻く事業環境が大幅な変動期にあり、高度な経営判断が求められる状況にあることを全く理解することのない提案であることが見て取れます。
当社と致しましては、提案者の提案は当社の事業に対する理解を欠くものであると共に、中長期的な成長ではなく、短期的な利益獲得を目的とする提案に外ならないと思料します。
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・現在の東京コスモス電機経営陣に必要なのは単純な製造業の経験者ではなく、企業経営、事業再構築、国際経験、財務/会計など上場会社に求められる高いレベルの経営能力を兼ね備えた人材です。
・現在の経営陣には製造業の経験者が含まれるものの、製造業である東京コスモス電機の成長戦略が描けておらず、保有するネットキャッシュや自己資本の活用方針も描けていません。
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| 提案者であるGESは投資ファンドであるところ、その運用委託先であると思われるSwiss-Asia Financial Services Pte. Ltd.の投資傾向及び投資資金の傾向からすると、提案者による中長期的な株式保有は期待することができません。そもそも、短期的な利益獲得を目的とした株主が提案する取締役候補者には中長期的目線による経営改善は望みようがありません。 |
・GESは、中長期的に株を保有し、建設的な対話によって企業価値向上を目指す方針のもと現在約27%もの議決権を保有する筆頭株主です。どのようにGESが「短期的な利益獲得を目的」としているか東京コスモス電機現経営陣の反対意見からは読み取れません。
・一般的には上場株に投資する機関投資家は投資先にそこまでリソースとコストをかけることはありませんが、GESは今回、複数の取締役候補とGES門田自らも取締役会に入ることを提案しており、これは中長期的に東京コスモス電機の企業価値向上に積極的に関わることを示しています。
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| 候補者のうち門田泰人氏は、提案株主である投資ファンドのGESの運用の責任者としての立場にあると思われるところ、利益相反の観点から著しく不適任であると考えられます。すなわち、門田氏が当社の経営に参画することで短期的な株価の上昇に強く依拠した経営戦略が取られることが強く懸念されます(中略)。また、同時に、当社の機密情報が当然に投資家株主に流出することになり、門田氏が当社取締役候補として推薦されることは、インサイダー取引防止を含む利益相反の観点から苦しく不適切と判断いたします。 |
門田の取締役在任中、GESの保有株の売買は、他の役員と同様の売買ウィンドウのみに限られ(インサイダー規制上の重要事実を会社が抱えている間は取引をしない) 、他の役員の皆様と同様にインサイダー取引規制上の問題は生じ得ず、利益相反の恐れもありません。
むしろ、門田が株主を代表して東京コスモス電機の経営に入り、より能動的に企業価値・株式価値向上を目指すことで、他の大多数の少数株主にも利益をもたらすことに繋がります。
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また、成成も下記の理由により取締役3名の選任を求める株主提案を行った。右列は当該理由に対する会社側の反論である。
| 成成の株主提案の理由 |
東京コスモス電機の取締役会の反論 |
現在の経営陣は、昨年(2024年)4月に第2次中期経営計画を公表し、売上高等について数値目標を定めていますが、具体的な行動計画は見られず、株主はその進捗を検証することができない状況です。また、中国に設立した連結子会社では生産及び販売活動の一部が行われているものの、その強みを活かしきれているとは言えません。さらに、当社の成長に有効と思われるM&Aへの取組みも不十分です。現在の経営陣は、当社の資本効率.資金効率に対する理解が不十分であり、当社の経営は非効率のまま放置されている状況にあります。
かかる状況を打開するため、当社は、専門的知見と進取の気概を有する取締役を新たに迎え入れる必要があります。
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本株主提案で挙げられる3名の取締役候補者は、いずれも中国大連に本拠を置く企業グループ(鵬成グループ)の傘下にある子会社役員であり、本株主提案の実質は、大連鵬成グループによる強力な当社経営への関与を目的としたものであると推察されます。もっとも、大連鵬成グループの経営方針など、提案者として当社株主に対し説明してしかるべき重要な点は、現在に至るまで当社に一切開示されておりません。また、本株主提案に挙げられる提案理由は、大要、当社の経営が非効率であるため、かかる状況の打開として取締役候補者を選任する、というきわめて抽象的な内容にとどまっており、当社としては、その提案者の背後に存在する実質的な提案者の意図、取締役候補者3名により実現しようとしている具体的な目的に疑念を抱くものです。
当社の考える今後の成長戦略と鵬成グループとの間においては、事業上のシナジー効果は低いと判断しております。
また、提案にかかる候補者が有する知識経験が当社の事業内容と親和性に乏しく、特に李秀鵬氏については、当社経営に実質的に関与すること自体を期待し難い(李秀鵬氏と面談した際に同氏は、「自らは生産・製造そのものには詳しくなく、日本企業の経営にも苦手意識がある、それゆえに過去務めていた日本の上場企業の経営から退いた経緯がある」旨と述べました。かような発言からも、当社は、当社ビジネスそのものである生産・製造に詳しくなく、かつ日本企業の経営に苦手意識があったことから日本の上場企業の経営から退いたと述べる李秀鵬氏(現在は大連に本拠を置いています)が取締役として当社経営に実質的に関与し、また的確な経営判断を行うこと自体が困難であると考えております)。と言えます。
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2025年6月24日に開催された東京コスモス電機の株主総会では、下表のとおり、GESが推す取締役候補5名全員および成成が推す取締役候補3名全員が選任された一方、会社が提案した候補者の選任議案は全て否決、企業価値を上げることができなかった経営陣は“退場”となった。
| 会社提案議案(当時の役職) |
決議の結果と
賛成割合(%)
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| 岩崎 美樹(代表取締役社長) |
否決 47.98 |
| 中島 秀雄(専務取締役) |
否決 48.02 |
| 宮田 一智(取締役 技術本部長、品質本部長) |
否決 48.43 |
| 久保田 純(取締役 管理本部長) |
否決 48.45 |
| 郡 慎一郎(執行役員) |
否決 48.42 |
| GES提案の株主提案議案 |
決議の結果と
賛成割合(%)
|
| 若林 勇人 |
可決 52.62 |
| 西立野 竜史 |
可決 52.62 |
| 門田 泰人 |
可決 52.62 |
| 伊勢谷 直樹 |
可決 52.62 |
| 大木 真 |
可決 52.62 |
| 成成提案の株主提案議案 |
決議の結果と
賛成割合(%) |
| 李 秀鵬 |
可決 52.29 |
| 大河内 尚志 |
可決 52.29 |
| 黄 聖遼 |
可決 52.29 |
新体制下での取締役会の構成は下表のとおり(カッコ内は提案者)。なお、このほかに、旧経営者時代に選任されたが今回は改選期ではないため残留した監査等委員である取締役が4名いる。
新体制下での東京コスモス電機の取締役会の構成
| 氏名 |
新役職 |
| 李 秀鵬(成成) |
社外取締役会長 |
| 門田 泰人(GES) |
代表取締役社長 |
| 若林 勇人(GES)
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代表取締役副社長
COO
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| 大河内 尚志(成成) |
専務取締役
海外事業担当
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| 西立野 竜史(GES) |
常務取締役
Chief Transformation Officer
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| 伊勢谷 直樹(GES) |
社外取締役 |
| 黄 聖遼(成成) |
社外取締役 |
| 大木 真(GES) |
社外取締役 |
成成の李氏は「社外取締役会長」というあまり馴染みのない役職に就き、代表権はGESの門田氏と若林氏が持つ。GESは実質的に取締役会を掌握し、東京コスモス電機の経営権を獲得するに至ったが、実は東京コスモス電機を巡る騒動はまだ終わっていない。2025年6月10日、米系電子部品メーカーBourns 社の傘下のBourns Japan Holdings LLCが東京コスモス電機の完全子会社化を目指して友好的TOB(株式公開買付け)を実施する予定であることを発表したからだ。買付価格は交渉を経て1株8,075円(第三者算定機関のKPMG FASが算定した8,238円を上回る株価8,250円から配当額175円を控除して算定)、総額約109億円に達する提案となっている。
アクティビストや中華資本からプレッシャーをかけられ続けた東京コスモス電機がBournsと接触し、20%のプレミアムを付けて完全子会社化(非公開化)を図ろうとしたという経緯は容易に想像がつく。東京コスモス電機はBournsに対し、いわゆるホワイトナイト的な役割を期待したものと思われる。しかし、Bournsの提案を「友好的」と受け止め、賛同を表明してくれた当時の取締役会(東京コスモス電機の取締役会は2025年6月10日付のリリースで、「本公開買付けが開始された場合には、賛同の意見を表明するとともに、当社の株主の皆様に対して、本公開買付けへの応募を推奨することを決議いたしました」としている)の執行メンバーは既に一掃され、Bournsが交渉する新経営陣の執行メンバーにはアクティビストと中華資本から送り込まれてきた新取締役しかいない。Bournsとしては、まさに「はしごを外された」格好となった。
プレミアム : 買収価格と株価の差
ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。
Bournsは6月27日、「未公表重要事実(Material Facts)」の存在を理由に、TOBの条件が「未達」と判断し、2025年6月30日としていたTOBの開始をいったん延期し、新経営陣下の東京コスモス電機との間で現在も協議を続けている(東京コスモス電機のリリースによると、Bourns は2025年7月上旬から7月中旬を目途にTOBを開始することを目指すという)。
もともとBournsの提案は、市場価格に対して20%以上のプレミアムを付すなど、株主利益に配慮した内容となっていた。しかし、東京コスモス電機の株価は2025年7月3日時点で9,450円の年初来高値を付けており、TOB提示価格である8,075円を大幅に上回る水準となっている。市場では、BournsがTOB条件を再調整し、買付価格の引き上げに踏み切るのではないかという期待が高まっているものと思われる。既に株価はファンダメンタルズを超えて動き、投資家の短期的な思惑が価格を押し上げる“マネーゲーム”の様相すら呈している。
ファンダメンタルズ : 売上高や利益といった業績や、資産・負債といった財務状況など、株式の本質的価値を決める指標
同社の旧経営陣は、長期にわたり株価が純資産や利益に比べて割安な水準にある状況を放置し、東京証券取引所が求める「資本コストや株価を意識した経営」に関する開示も一切行っていなかった(「検討中」の開示すらしていなかった)。その一方で、米Bournsを“ホワイトナイト”として招き入れ、上場廃止に向けた動きを進めていたことになる。
このような株主軽視の姿勢を見れば、会社提案議案に賛成票を投じる気になれず、アクティビストに同調する一般株主が増えるのもやむを得ない。市場は今や経営陣の言葉ではなく「行動」を注視している。企業価値を高めるために事業計画を刷新し、開示と実行を伴わせたうえで、サクセッションプラン(後継計画)の不備を自覚したのであれば即時に検討に移る――このようなスピード感と実効性がない経営を続ければ資本市場からの信任を失い、退場を迫られる時代に入ったと言えよう。