一度も実施されることのなかった“幻の株主優待制度”の導入プロセスの適法性等を検証するため第三者委員会を設置したREVOLUTION(東証スタンダード(不動産業)、以下「REV社」)が同委員会による調査報告書を公表した(これまでの経緯については2025年4月16日のニュース「株主急増で株主優待制度が幻に QUOカード配布のメリット・デメリット」参照)。既報のとおり、同社は一定数以上の株式を継続保有する株主を対象に半年で60,000円分、通期で120,000円分という高額のQUOカードを進呈する株主優待制度を導入したが、制度導入後に一部の大口株主が保有株式を売却したことにより発行済株式総数の約2割に相当する株式が市場に放出され、これに高額のQUOカード狙いの個人株主が飛びつき、株主数が急増。制度導入時に想定した株主数を大きく上回ることになった結果、株主優待を実施すれば同社が資金不足に陥るとして、一度も実施しないまま制度を廃止していた。
同社の第三者委員会による調査報告書の中で、他の上場会社も自社のガバナンスを再考する契機となり得るのが、①配当に代わる株主還元策としてQUOカードを配布することが、会社法における配当規制の趣旨を潜脱する行為に該当しうるかという法的論点と、②取締役会における社外取締役の対応の適切さという論点、の2つだ。
“幻の株主優待制度”が会社法における配当規制の趣旨を潜脱する行為に該当するか否かについて、第三者委員会の調査報告書は以下のとおり認定している。
| 1 本株主優待は、REV 社の2023年10 月期の利益剰余金がマイナスである状況の下、配当に代わる株主還元策として導入が検討されたものであり、配当の代替手段として利用されたものと評価できる。また、②本株主優待は、保有株2,000 株以上の株主に対し1 名当たり年間12 万円分のQUO カードPay を無償で付与するというものであり、会社財産の流出を伴う。そして、QUO カードPay は、市井の店舗やレストラン等において商品やサービスの代金の支払に利用することができるデジタルギフトであり、現金に類似する性質を有している上、12 万円という金額は、東証スタンダード市場に上場している不動産業を営むREV 社以外の企業が株主優待として提供する金券の額面が高いものでも年間2 万円であること等105,106に照らして非常に高額であることからすると、配当と同視し得る性質及び金額であったと評価できる。さらに、③QUO カードPay はREV 社の事業と何らの関連性を有しないことから、これを優待の内容とすることで同社の商品やサービスの広告宣伝効果を期待したものともいえない。 |
そのうえで第三者委員会は、「本株主優待は、配当規制を定めた会社法の趣旨を潜脱するものとして社会的相当性を欠き、現物配当に該当するものであったと評価される可能性が否定できない。」と評価し、「このような評価を前提とすると、本株主優待が会社法上要求されている株主総会決議を経ずに導入されたことは、同法第454条第1項に違反していた可能性がある。また、本株主優待は株主の有する株式の数に応じて配当財産を割り当てることを内容とするものではないことから、同法第454条第3項に違反していた可能性がある。」と指摘している。
同法第454条第1項 : 株式会社が剰余金の配当をしようとする場合、その都度、株主総会の決議によらなければならない旨の定め
同法第454条第3項 : 株主への配当財産の割り当てにあたっては、株主の有する株式の数に応じて割り当てる必要がある旨の定め
実はREV社では、本株主優待の導入に先立ち、同社の管理本部長が法律事務所に、「株主平等の原則」「剰余金の配当」「株主への利益供与」の3つの観点から法的リスクの有無について照会を行っていた。これに対し当該法律事務所は、過剰な株主優待に該当しなければ問題ないものの、①本株主優待では株主名簿に2 回連続で記載又は記録されるとの条件が課されていることから、株主優待を受けられない基準日株主が存在するという点で株主平等原則(会社法第109 条)に反すると評価されるリスクがある旨、②QUOカードPayでの株主優待は現金性を帯びており、かつ年間12万円と高額であることから、本株主優待が利益供与(同法第120 条)又は配当(同法第453 条及び第454 条)に該当すると評価されるリスクがある——といった見解を示していた(調査報告書22ページ)。
基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。
このようなリスクがあったにもかかわらず本株主優待が導入に至った背景には、取締役会における議論の不十分さというガバナンス上の問題があったと考えられる。
REV社の取締役会は、本株主優待を導入した2024年10月23日時点では、以下のメンバーで構成されていた。
REV社の取締役会の構成
代表取締役社長 a氏
取締役副社長 k氏
監査等委員 l氏
監査等委員 m氏
監査等委員 n氏 |
REV社は監査等委員会設置会社であり、取締役会の過半数を監査等委員が占めている。形式的にはガバナンスが効いているように見えるが、実態は違っていた。
まず問題視すべきは、本株主優待の概要が記載された電子ファイルが取締役会メンバーに共有されたのが決議前日(2024年10月22日)であったということだ。代表取締役社長a氏は、取締役会LINEグループにおいて、資料を共有するとともに、「こちらの株主優待を明日決議したいと思っております。現状の株主構成での費用は 1.3 億円になる見込みです。対象者が二倍程度に上振れすることを想定して、2.6 億円を見込んでおります」と投稿していた。つまり、監査等委員が資料に目を通す時間は1日しかなかったことになる。第三者委員会は、REV社が本株主優待の導入を急いだのは、「決算発表の延期や翌期業績の大幅な赤字予想の発表等を踏まえたREV 社株価の急落に対し、何としても株価を維持・上昇させる」との意図があったためであると認定している(本調査報告書の68ページ)。
しかも、このような重要な議案であるにもかかわらず、取締役会決議は書面決議で行われており、会議体としての取締役会は開催されていなかった。また、株主優待の対象者数のシミュレーションは上振れのケースで二倍程度にとどまっており、一部の大口株主が株式を売却することにより株主数が想定を超えて増加する可能性を踏まえた検討も行われていなかった。
このような対応は取締役会の意思決定プロセスとして重大な問題をはらむが、さらに第三者委員会によるヒアリング結果によれば、本株主優待制度の導入にあたり、代表取締役社長a氏と他のすべての取締役の間で以下のようなやり取りがあったことが確認されている(上記のとおり取締役会は書面決議であったため、これらのやり取りは口頭、LINE、電話等で行われていたと推測されるが、調査報告書からは明らかでない)。
| a代取以外の取締役 |
取締役会に先立ち行われた
a代取とのやり取り
|
第三者委員会の評価等 |
| l取締役(監査等委員である取締役。M&A案件等の経験を有する弁護士) |
株主配当ではなく株主優待を選択した理由等について質問した。これに対して、a代表取締役から、「利益剰余金がマイナスであるため株主配当は実施できない」「株主優待であれば大株主であっても年間12万円以上の付与が発生せず、特定の大株主に有利な設計にならない」旨の説明があった。
l取締役は、本株主優待が大株主優遇施策でなく、少数株主の利益になることから株主平等原則には違反しないと考えて賛成した。
なお、本株主優待が財源規制に違反する可能性については検討する時間がなかった。
|
l取締役は、一部の指摘については不十分な点があったことは否定できないものの、他の取締役に比して積極的に検討・議論を行い、a氏への意見、指摘等も行ってきた。 |
| n取締役(監査等委員である取締役。証券会社でのM&Aアドバイザリー業務等の経験を有する) |
n取締役は、a代表取締役に対し、「本株主優待で付与される金額はREV社の株価に対する利回りとして高い」旨の意見を述べた。これに対して、a代表取締役は、「本株主優待は少なくとも2回以上は継続して実施する予定であり、業績次第でその後の株主優待の金額については再度検討する」旨を説明した。
さらに、n取締役は、「本株主優待の対象者が拡大した場合に最大で必要となる金額」について質問したところ、a代表取締役は、「最大で2.6億円を見込んでおり、現在11.1億円の現預金残高となることが見込まれていることから、今後1年以上の運転資金が確保されている」旨を説明した。
a代表取締役から、剰余金の関係で配当はできないものの、REV社は今後黒字経営を行うことが見込まれ、現在の損益計算書に照らすと財源規制に違反しない旨の説明を受けたため、それを受け入れてしまった。
|
n取締役は、一部の指摘については不十分な点があったことは否定できないものの、他の取締役に比して積極的に検討・議論を行い、a氏への意見、指摘等も行ってきた。
n取締役は、左記意見に加え、「本株主優待は利回りが異常値であるため、数%程度の適切な利回りに抑えた上で中長期的に継続するべき」との意見を述べた旨を供述するが、一方で、a代表取締役は、n取締役から「異常値」や「中長期的に継続」といった点について指摘された記憶がない旨を供述している。
|
| k取締役(取締役副社長) |
特段の意見を述べず、懸念も表明しなかった。その理由は、「自身の役割は不動産を探し、購入して販売することであり、株主優待制度等について専門的な知見がなく、a 代表取締役の言っていることを信頼して、本株主優待の導入に賛成した」と供述している。 |
k取締役は、a代表取締役の業務執行を監視・監督しようとする姿勢が乏しかった。 |
| m取締役(監査等委員である取締役。デザイン関連業務を専門とする) |
本株主優待は、「株主が喜ぶのであれば良い話である」と考えて a代表取締役に一任し、a代表取締役とn取締役のやり取りには特段の異論を挟まずに賛成した。 |
m取締役は、専門外の事項については、自身の知見の乏しさ等を理由に、a代表取締役の提案の意義や適正性について十分に理解しないまま決議に応じており、他2名の監査等委員の判断に委ねる側面が強かった。本株主優待の導入に際しても、a代表取締役とn取締役のやり取りを傍観するのみで、株主が喜ぶのであれば良い話であると安易に考えて賛成している。 |
利益剰余金 : 企業活動で得た利益のうち、株主に還元(配当、自己株式の取得)せずに社内に留保してきた金額。
l取締役は弁護士として、n取締役は証券会社におけるM&Aアドバイザリー等の実務経験を踏まえ、それぞれの専門的見地から本株主優待に対し一定の質問を行っていた点は評価に値する。もっとも、株主優待の導入は書面決議によって可決されたため、これらの問いかけに関する議論はいずれもリアルな取締役会という会議体において交わされたわけではない。結果として、監査等委員と代表取締役との間での一対一のやり取りにとどまり、他の取締役が加わることで可能となるはずの、より深度ある議論には発展しなかった。
また、第三者委員会の報告書には明記されていないものの、a代表取締役が法律事務所から得た照会結果を他の取締役に共有していなかった可能性も否定できない。仮に執行側が不都合な情報を意図的に伝達していなかったのであれば、監査等委員の判断に重大な影響を与えかねない。そのような懸念が生じうる状況下においては、監査等委員として、当該法律事務所からの回答文書そのものの提示を求めるのが本来あるべき姿であろう。
また、n取締役は第三者委員会のヒアリングに対し、「本優待は利回りが異常に高く、数%程度に抑え、中長期的に継続すべき」との意見を述べた旨を供述しているが、一方でa代表取締役は、n取締役からそのような指摘を受けた記憶はないとしており、両者の間で認識の齟齬が生じている。このような証言の食い違いが生じること自体、取締役会という場で各自の意見を明確に表明し、それを正式に議事録に記録しておくことの重要性を改めて浮き彫りにしている。
m取締役は、2024年1月に開催された定時株主総会の監査等委員選任議案において、「日米での連続起業家としての豊富な経験とグローバルマーケティングに関する深い知見を有し、ブランディングの観点から当社経営に助言いただくとともに、監査等委員としての職務を適切に遂行いただけるものと判断しております」と紹介されていた。しかし、本株主優待の導入についてm取締役は、その意義や妥当性を十分な理解もないまま代表取締役の提案に賛成していた。第三者委員会は調査報告書の中で、「各取締役が監視・義務を負っている以上、専門性のある取締役の説明等を信頼することが許容される場合があるとしても、施策の具体的内容や、これに伴う種々のリスクについての理解に努める姿勢が見受けられない点は、監視・監督義務を負う取締役としての自覚に乏しいと言わざるを得ず、(後略)」とm取締役の姿勢を厳しく批判している。
また、第三者委員会の調査報告書では、「a氏が取締役会における審議を軽視していたために、a氏以外の取締役が決議事項の検討に十分な時間を確保しにくい状況にあったことは否定できない」としつつも、「一方で、a氏以外の取締役が当該状況の改善に向けた適切な対応を行ったことも認められない。」としており、a氏以外の取締役がa氏の姿勢の改善や決議事項の検討時間の確保に向けた動きを怠っていたことを認定している。
以上が本株主優待制度導入に関するREV社取締役会の意思決定プロセスの舞台裏であり、これらを踏まえると、REV社取締役会の問題点は次の通り整理できる。
REV社の取締役会で株主優待制度の導入を決めた決議の問題点
・取締役会資料が各取締役に共有されたのは決議前日であり、十分な検討時間が確保されていなかった。また、a氏は取締役会における審議を軽視しており、a氏以外の取締役は資料提出の遅れの改善に向けて動いたことはなかった。
・代表取締役が法律事務所から得た照会結果を他の取締役に共有していなかった可能性があり、監査等委員もまた、当該文書の提示を求めていなかった可能性がある。
・l取締役は弁護士として、n取締役はM&Aアドバイザリーの経験を持つ専門家として、それぞれ本株主優待に関する質問を行っていたが、それらは書面決議の過程でなされた1対1の問答にとどまり、取締役会という場での公開討議には至らなかった。議事録も残されておらず、当事者間で証言に齟齬が生じている。
・本株主優待の導入は書面決議で行われ、実際の取締役会において審議が尽くされることはなかった。
・一部の監査等委員が、専門外の領域について自らの知見不足を理由に、他の監査等委員の議論に加わることはなく、代表取締役の提案内容を十分に理解しないまま決議に同意していた。
・一部の大口株主が株式を売却する可能性を踏まえた検討が不十分であった。
|
上場会社各社は、本件を「ガバナンスが緩い会社の特異な事例」として片付けるのではなく、取締役会資料の共有タイミングが適切か、会議体で本来議論すべき重要案件を安易に書面決議で済ませていないか、監査等委員が本来期待される牽制機能を十分に果たしているか――といった点を改めて検証し、自社の取締役会運営を見直す契機としたいところだ。