2019/01/17 70歳までの継続雇用義務付けと同一労働同一賃金の関係(会員限定)

政府は昨年(2018年)10月に開催された第20回未来投資会議において、「70歳までの就業機会の確保を図り、高齢者の希望・特性に応じて、多様な選択肢を許容する方向で検討する」方針を打ち出している。席上、安倍首相が「来年(2019年)の夏に『実行計画』で具体的制度化の方針を決定したい」と述べていることからすると、同計画はその後労政審議会に諮られ、2020年の通常国会に関連法案が提出される可能性がある。経済界は「いきなり義務化は困る」と主張しているものの、2021年あるいは2022年には70歳まで(現行は65歳まで)の継続雇用が義務付けられることが予想される。

継続雇用 : 定年を満60歳と定めたうえで、定年後に「勤務延長」または「再雇用」などとして従業員を雇用すること。これは、高年齢者雇用安定法上、事業主は原則として「満60歳」を下回る定年制を定めることができず(同法8条)、また、定年到達後も本人が希望している場合は、「少なくとも満65歳まで」は雇用を確保しなければならないとされている(同法9条)ことによる。

70歳までの継続雇用義務付けが実現した場合、経営陣にとって気になるのは人件費の上昇だろう。継続雇用年齢が伸びるとなれば、従業員の賃金カーブを見直さざるを得なくなるかもしれない。ただ、その場合でも、ずっと右肩上がりに賃金を上昇させる絵を描くのは困難であるため、一定の年齢で賃金の上昇を止める、あるいは賃金を減額するということも考えられる。

その場合に懸念されるのが、下記の労働契約法20条などに規定される「同一労働同一賃金」への抵触だ(同一労働同一賃金を規定する法令については、2018年8月3日のニュース「同一労働同一賃金を巡る誤解」参照)。たとえ継続雇用された従業員であっても、継続雇用前(定年前)と仕事内容に変化がないとなれば、従来と同一の賃金の支払いが求められる可能性がある。この問題について、同一労働同一賃金についての考え方を示した最高裁判決の1つを根拠に、「定年後の賃金低下は是認される」との理解が一部の企業にあるが、必ずしもそうとは言い切れない面もあるので注意したい。

昨年新聞等でも大々的に取り上げられたところだが、同一労働同一賃金についての考え方を示した最高裁判決は2つある。一つは、契約社員と正社員との労働条件の差異の是非が争われた「ハマキョウレックス事件」、もう一つは、定年後と定年前との労働条件の差異の是非が争われた「長澤運輸事件」である(いずれも2018年6月1日、最高裁判所第2小法廷にて判決)。両事案ともトラック運転手に関するものであり、最高裁は、「ハマキョウレックス事件」では労働者側の請求を概ね認める一方で、「長澤運輸事件」では会社側の言い分を概ね認める判決を下している(ただし、両判決とも皆勤手当の支給について差異を設けるのは不合理であるとした)。

両裁判で焦点となったのが、下記の労働契約法20条に規定する「労働条件の相違が不合理と認められるか否か」をいかにして判断するのかという点だ。

労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない

両判決において最高裁は、労働契約法20条は「当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」(特に「その他の事情」を強調)を考慮して「均衡のとれた処遇」を求める規定であり、「その相違が不合理と認められるか否か」を判断すれば足りるとしたうえで、その判断に際しては「両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当」と述べている。この一文は「長澤運輸事件」の控訴審において東京高裁が賃金項目を個別に考慮しなかったことへの批判とも言えるが、読み落としてはいけないのが「賃金の総額を比較することのみによるのではなく」とのくだりだ。実際に判決では「賃金総額」の比較もなされていることが示すように、判決は「両者の賃金の総額を比較すること」を全否定しているわけではない。

上述のとおり、定年後と定年前との労働条件の差異の是非が争われた「長澤運輸事件」で会社側の言い分を概ね認める最高裁判決が出たことから、「定年後の賃金減額が最高裁に是認された」と見る向きもあるが、判決で「賃金総額」の比較がなされていることからしても、単純にそうとは言い切れないだろう。

また、長澤運輸事件においては特有の事情が存在する点も考慮する必要がある。具体的には、同社は労働組合との団体交渉を経て、定年後には諸手当が支給されなくなる代わりに基本賃金や歩合給計算に用いる係数を有利に変更し、さらに、老齢厚生年金の報酬比例部分が受給できるようになるまでの間、調整給を支給することとするなど、収入の安定に配慮していた。このほか、「定年前の賃金額と比較して61%から75%未満の場合に高年齢雇用継続給付金が支給される」という、定年後における賃金額の低下を織り込んだ公的制度も存在している。判決には明記されていないが、当該労働者が高年齢雇用継続給付金を受給していた可能性もある。仮にこうした事情がなければ、判決の内容が変わっていた可能性も否定はできない。

高年齢雇用継続給付金 : 賃金が定年前の賃金額と比較して61%から75%未満の水準の場合に会社に給付される給付金。定年後における賃金額の低下を補うことを目的とする制度である。

こうした事情なく、定年後も定年前と同じような仕事をさせているとなれば、定年前と同水準の賃金を支払わない限り、「同一労働同一賃金」に反することになりかねない。70歳までの継続雇用が義務付けられた場合には、人件費予算を睨みながら、仕事内容と賃金が見合っているかどうかを検証したり、仮に賃金を引き下げるのであれば仕事内容を金額に見合ったものに見直したりするなど、賃金・仕事内容を再検討する作業が発生することになりそうだ。

2019/01/16 会社法制(企業統治等関係)部会、会社法見直し要綱案を確定

2017年4月からこれまで1年半以上の時間をかけて会社法見直しに向け議論を重ねてきた法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は本日(2019年1月16日)、会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(以下、要綱案)を確定した。

要綱案が会社法の見直しを求めている主な項目は下表のとおり。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/01/16 会社法制(企業統治等関係)部会、会社法見直し要綱案を確定(会員限定)

2017年4月からこれまで1年半以上の時間をかけて会社法見直しに向け議論を重ねてきた法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は本日(2019年1月16日)、会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(以下、要綱案)を確定した。

項目 内容 関連ニュース
株主総会資料の電子提供制度 株式会社は株主総会開催時に下記の資料について電子提供措置をとる旨を定款で定めることができる(上場会社は改正会社法施行日に当該定款の変更の決議をしたものとみなされる)。
・株主総会参考書類
・議決権行使書面
・計算書類及び事業報告
・連結計算書類
2018年3月2日のニュース『ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ
上場会社はEDINETを通じて電子提供措置をとることができる。 2018年10月26日のニュース「株主総会資料、一転してEDINETでの提供容認
電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の株主(電磁的方法により株主総会の招集通知を受け取ることを承諾した株主を除く)は、株式会社に対し、電子提供ではなく、書面の交付を請求することができる。 2018年5月24日のニュース「デジタル・ディバイドへの配慮と経費削減の間で揺れる総会資料電子化議論
株主提案議案の数の制限 取締役会設置会社の株主が株主総会に提案できる議案の数を10個に制限する。 2018年10月16日のニュース「社外取選任のための員数拡大と責任限定契約導入議案は“一の議案”か?
株主提案議案の目的等による制限 下記の株主提案を制限する。
・株主が、専ら人の名誉を侵害し、人を侮辱し、若しくは困惑させ、または自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で株主総会に議案を提案する場合
・株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合
2018年1月19日のニュース『株主提案議案数を制限する会社法改正案 「数」と「数え方」が焦点に
2018年10月16日のニュース「社外取選任のための員数拡大と責任限定契約導入議案は“一の議案”か?
役員報酬への規律強化と開示 下記の株式会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く)の報酬等の内容として定款または株主総会の決議による同項各号に掲げる事項についての定めがある場合には、当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を決定しなければならないものとする。
・金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)
・監査等委員会設置会社
2018年5月11日のニュース『投資家目線の「望ましい経営者報酬」
2018年9月21日のニュース「役員報酬の決定に関する会社法改正に影響を与えかねない注目判決
会社役員の報酬等に関する次に掲げる事項について、公開会社における事業報告による情報開示に関する規定の充実を図るものとする。
・報酬等の決定方針に関する事項
・報酬等についての株主総会の決議に関する事項
・取締役会の決議による報酬等の決定の委任に関する事項
・業績連動報酬等に関する事項
・職務執行の対価として株式会社が交付した株式又は新株予約権等に関する事項
・報酬等の種類ごとの総額
2018年3月2日のニュース『ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ
補償契約 株式会社の役員が第三者から損害賠償責任を追及された場合に、会社が損害賠償額や争訟費用を補償することを約する契約の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならないものとする。
上場会社のような公開会社は、当該株式会社の役員(取締役又は監査役に限る)と当該株式会社との間で締結している補償契約があれば事業報告で開示しなければならないものとする。
2015年7月23日の新用語・難解用語辞典「会社補償
役員等のために締結される保険契約(D&O保険契約) 株式会社が、D&O保険契約を締結するには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならないものとする。
株式会社が事業年度の末日において公開会社である場合において、D&O保険を締結しているときは、事業報告で次に掲げる事項を開示しなければならないものとする。
・当該D&O保険契約の被保険者
・当該D&O保険契約の内容の概要(役員等による保険料の負担割合、塡補の対象とされる保険事故の概要および当該D&O保険契約によって当該役員等の職務の適正性が損なわれないようにするための措置を講じているときは、その措置の内容)
2017年10月31日のニュース「D&O保険の補償内容、見直しのポイント
社外取締役を置くことの義務付け 金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)は、社外取締役を置かなければならない。 2018年8月17日のニュース『社外取締役選任、「適任者がいない」という理由はいつまで通用する?
2018年11月7日のニュース「社外取締役義務付けで上場会社の2割弱に浮上する問題と対策
株式交付制度の創設 株式会社は、株式交付をすることができるものとする。 2018年3月2日のニュース『ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ
2018年3月26日のニュース『会社法改正中間試案、「無対価」の株式交付は認めず

株式交付 : 株式を交付する会社(これを株式交付親会社という)が他の株式会社を子会社(これを株式交付子会社という)とするため、株式交付子会社の株主(譲渡人)から株式を譲り受け、譲渡人に対して株式交付親会社の株式を交付する組織再編の手法のこと

なお、同部会は要綱案を確定するにあたり、次の2点の付帯決議を行っている。電子提供措置の早期開始要請は、開示担当部署にとってはプレッシャーになりそうだ。

・株主総会資料の電子提供制度に関して、証券取引所の有価証券上場規程において、上場会社は、株主による議案の十分な検討期間を確保するために電子提供措置を株主総会の日の3週間前よりも早期に開始するよう努める旨の規律を設ける必要がある。
・株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書に関して、「株式会社の代表者から、自己が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条第2項に規定する被害者その他の特定の法律に規定する被害者等であり、更なる被害を受けるおそれがあることを理由として、その住所を登記事項証明書に表示しない措置を講ずることを求める旨の申出があった場合において、当該申出を相当と認めるときは、登記官は、当該代表者の住所を登記事項証明書に表示しない措置を講ずることができる」および「電気通信回線による登記情報の提供に関する法律に基づく登記情報の提供においては、株式会社の代表者の住所に関する情報を提供しないものとする」旨、法務省令において規律を設ける必要がある。

来月開催予定の法制審議会総会で本要綱案および同附帯決議が採択されれば、直ちに法務大臣に答申され、2019年1月28日に召集される通常国会に会社法改正法案が提出される見込み。

2019/01/15 (新用語・難解用語)記述情報

一般的に、『開示書類において提供される情報のうち「財務情報」以外の情報』を指すとされている(2018年6月28日に金融庁が公表した「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告-資本市場における好循環の実現に向けて-」(以下、ディスクロージャーワーキング・グループ報告)の2ページ 注釈1参照)。ディスクロージャーワーキング・グループ報告に「記述情報の充実」が盛り込まれたことを受け、金融庁が2018年12月21日に記述情報開示の“ガイダンス”と言える「記述情報の開示に関する原則(案)」を公表するなど(2018年12月21日のニュース『「記述情報の開示に関する原則」が取締役会実務に与える影響』参照)、「記述情報」という用語は企業経営上も重要なキーワードとなっている。

もっとも、「記述情報」の具体的な中身については、上述のとおりディスクロージャーワーキング・グループ報告で「財務情報以外の情報」とされているのみで、有価証券報告書における開示ルールを定めた金融商品取引法(以下、金商法)にも何ら定義はない。これから開示の充実を迫られる企業としては、「記述情報」の中身を詳しく知りたいところだろう。

「記述情報」が法令上の用語ではないのに対し、「財務情報」は金商法から定義付けることができる。金融商品取引法・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/01/15 (新用語・難解用語)記述情報(会員限定)

一般的に、『開示書類において提供される情報のうち「財務情報」以外の情報』を指すとされている(2018年6月28日に金融庁が公表した「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告-資本市場における好循環の実現に向けて-」(以下、ディスクロージャーワーキング・グループ報告)の2ページ 注釈1参照)。ディスクロージャーワーキング・グループ報告に「記述情報の充実」が盛り込まれたことを受け、金融庁が2018年12月21日に記述情報開示の“ガイダンス”と言える「記述情報の開示に関する原則(案)」を公表するなど(2018年12月21日のニュース『「記述情報の開示に関する原則」が取締役会実務に与える影響』参照)、「記述情報」という用語は企業経営上も重要なキーワードとなっている。

もっとも、「記述情報」の具体的な中身については、上述のとおりディスクロージャーワーキング・グループ報告で「財務情報以外の情報」とされているのみで、有価証券報告書における開示ルールを定めた金融商品取引法(以下、金商法)にも何ら定義はない。これから開示の充実を迫られる企業としては、「記述情報」の中身を詳しく知りたいところだろう。

「記述情報」が法令上の用語ではないのに対し、「財務情報」は金商法から定義付けることができる。金融商品取引法第193条の2には次のような記述がある。

<金融商品取引法第193条の2>
金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社その他の者で政令で定めるもの(次条において「特定発行者」という。)が、この法律の規定により提出する貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類で内閣府令で定めるもの(第四項及び次条において「財務計算に関する書類」という。)には、その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない。(以下省略)

この記述から、「財務情報」とは、(1)金商法の規定により提出が求められる貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類、すなわち有価証券報告書における「財務計算に関する書類」で、(2)「公認会計士又は監査法人の監査証明」を受けたもの――に記載される情報と言える。

有価証券報告書における「財務計算に関する書類」は、下記のとおり、監査法人が企業に提出する監査報告書にも監査対象として表示されている。

<連結財務諸表の監査報告書から抜粋>
当監査法人は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている株式会社●●●の平成〇年4月1日から平成〇年3月31日までの連結会計年度の連結財務諸表、すなわち、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項、その他の注記及び連結附属明細表について監査を行った。
<個別財務諸表の監査報告書から抜粋>
当監査法人は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている株式会社●●●の平成〇年4月1日から平成〇年3月31日までの第××期事業年度の財務諸表、すなわち、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、重要な会計方針、その他の注記及び附属明細表について監査を行った。

要するに、「財務情報」とは有価証券報告書のうち監査対象となる情報(上記下線部)、「記述情報」とは有価証券報告書のうち監査対象とならない情報(上記下線部以外)と考えればよい。

下図のとおり、「記述情報の開示に関する原則(案)」では、「有価証券報告書における記述情報は、主に、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報、ガバナンス情報から構成」されるとしている(2ページ 2-1(考え方)参照)。

<有価証券報告書における記述情報と財務情報の分類 イメージ図>

41273b

一見どちらに該当するのか判断に迷うのが、例えば「主要な経営指標等(いわゆるハイライト情報)」など、有価証券報告書における“数値情報”だ。数値で示されている以上は「財務情報」にも見えるが、これらは監査対象ではないため、定義上は、「記述情報」に分類されると考えられる。

「記述情報」は、企業の財務状況とその変化、事業の結果を理解するために必要な情報であり、以下の点で重要と考えられている(ディスクロージャーワーキング・グループ報告の2ページ「1.基本的な考え方」参照)。

41273b

また「記述情報」が充実すれば、企業に対する投資家の理解が深まり、その結果として、投資家と企業との対話が、中長期的な企業価値向上につながる「気づき」を企業にもたら効果も期待されている。中長期的な企業価値を見極めるという観点からは、企業の情報開示(ディスクロージャー)における重要性は、監査対象となる過去の財務情報から将来の企業の姿を映し出す記述情報へとシフトしていくことになりそうだ。

2019/01/11 エンゲージメントの成功事例

2019年1月8日のニュース「数字が証明するエンゲージメントの意義」では、エンゲージメント活動の結果、会社提案議案に対する賛否等を変更した議案があると回答した投資家が1/3に上るなど、我が国でもエンゲージメントの意義が高まりつつあることをお伝えしたが、グローバルに目を向けると、最近のエンゲージメント活動における成功モデルとして高い評価を受けているのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/01/11 エンゲージメントの成功事例(会員限定)

2019年1月8日のニュース「数字が証明するエンゲージメントの意義」では、エンゲージメント活動の結果、会社提案議案に対する賛否等を変更した議案があると回答した投資家が1/3に上るなど、我が国でもエンゲージメントの意義が高まりつつあることをお伝えしたが、グローバルに目を向けると、最近のエンゲージメント活動における成功モデルとして高い評価を受けているのが、英国・オランダの大手石油会社ロイヤル・ダッチ・シェル(以下、シェル)の事例だ。

シェルのような地球温暖化の直接的な原因となる化石燃料を扱う石油会社(やガス会社)は、ESG投資が活発になるにつれ、常にダインベスト(投資の取り止め)の危機に晒されてきた。こうした中、投資家とのエンゲージメントによってダインベストを回避したのがシェルの事例であり、今後、企業と投資家のエンゲージメントにおける“ケーススタディ”として語られることになりそうだ。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

シェルは当初、投資家が求めるCO2(二酸化炭素)排出削減目標が未達に終わった場合の株主からの訴訟リスクなどを懸念し、柔軟性のない確定的なCO2排出削減目標を設定することには難色を示していた。しかし、最終的には、同社に投資する投資家(オランダの大手運用機関ロベコなど)とのエンゲージメントを通じ、世界的にクリーンエネルギーへの転換が進む中で気候変動問題への更なる対応を講じなければ、石油やガス会社の投資パフォーマンスが悪化するという投資家の危機感をシェルも共有し、気候変動問題に積極的に取り組む方向へと企業姿勢を転換させている。

具体的には、(1)これまで「長期削減目標」しか示していなかったCO2の排出量(シェルは、CO2排出量を2035年までに20%、2050年迄に半分に削減するとの長期削減目標を既に公表している)について、3年または5年という短期間の削減目標を設定する、(2)CO2排出量の削減達成状況と経営幹部層の長期インセンティブ報酬を連動させる仕組みを「報酬方針報告書」に盛り込む(同報告書の内容は今後株主からの意見も参考に細部を詰め、2020年の株主総会で決議する)、(3)CO2排出量削減の進捗状況を年次で公表する―――ことなどについて、投資家と合意に至っている。(2)の長期インセンティブ報酬の対象になる経営幹部は約1,200名にも及ぶという。シェルにとっては大きな決断と言えるだろう。

シェルは「当社の方針に変革をもたらしたのは投資家との対話である」とのコメントを発表、エンゲージメントの意義を認めている。一方、投資家にとっても、地球温暖化の直接的な原因物質を商材とする石油会社から上記のような合意を引き出す事例が出現したことは、今後企業とのエンゲージメントに臨むうえでの自信になりそうだ。

2019/01/10 日産と三菱自のガバナンス体制の同時比較で浮かび上がる“意図”(会員限定)

日産自動車のカルロス・ゴーン会長の金融商品取引法違反による逮捕(違反の詳細については2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』参照)を端緒として、同社のコーポレートガバナンスが議論の的になっている。以前から同社ガバナンスを「低水準」と評価する声は少なくなかったが、今回の件を受けて特に報酬ガバナンスを中心に関心が高まっているようだ。

そして、その日産自動車と、同社とアライアンス関係にある三菱自動車のガバナンス体制を同時比較すると、ある“意図”が見えてくる。以下、“決めつけ”は避けるよう最大限の注意を払いつつ、両社のガバナンス体制から透けて見える事象を拾ってみたい。

まず指名報酬の任意委員会について見てみる。事件直前までに提出されたコーポレートガバナンス(以下、CG)報告書によると、両社いずれも同委員会を設置していないことが分かる。

  日産自動車 三菱自動車
指名委員会又は報酬委員会に相当する任意の委員会の有無 なし
(2018年7月5日)
なし
(2018年7月26日)

CG報告書には役員選任のプロセスについての記載がある。日産自動車は「各取締役・監査役候補者の選任・指名の決定手続きとしては、取締役会議長の提案をもとに、取締役会の決議により決定している」とし、三菱自動車は「経営幹部の選任や取締役・監査役候補の指名を行うにあたっては、取締役会長及びCEOが人事案を作成し、社外取締役の助言を得た上で指名・選任議案を取締役会に付議しております」としている。日産自動車の「議長」と三菱自動車の「会長」はいずれもカルロス・ゴーン氏であり、両社の役員人事に同氏が強く関与していたことが分かる。報酬の決定についても同様に関与していたものと推測できよう。

なお、三菱自動車は、ゴーン氏の事件発覚後の2018年12月19日に提出したCG報告書(2018年12月末までに提出が求められていた改訂CGコードに基づくCG報告書)において、任意の指名報酬委員会を設置したことを公表している。当該委員会は、下表のとおり社外取締役を中心とした独立性の高い構成となっている。今後の日産自動車におけるコーポレートガバナンス改善の取り組みにも、一定の影響を与えるものと考えられる。

  名称 全委員 社内取締役 社外取締役 委員長(議長)
指名委員会に相当する任意の委員会 指名・報酬委員会 4人 1人 3人 社外取締役
報酬委員会に相当する任意の委員会 4人 1人 3人 社外取締役

次に個別の報酬金額(1億円以上)について年次で確認してみよう。日産自動車におけるゴーン氏の報酬は2017年3月期まで増加基調であったが、2018年3月期は一転して大幅に減少している。代表的な経営指標であるROEが向上していることを勘案すると、相当にイレギュラーな措置である印象は否めない。もっとも、有価証券報告書の記載によると、下表の金銭報酬は「確定額金銭報酬」と説明されており、業績連動性が高いとは読み取れないため、ROEなど業績とは異なった要素が影響して減額された可能性もある。

ROE : Return On Equity=自己資本利益率(当期純利益/株主資本)

年度 総報酬(億円) 内訳(億円) 参考:ROE
金銭報酬 SAR
2014年3月期 995 995 - 9.6%
2015年3月期 1,035 1,035 - 10.0%
2016年3月期 1,071 1,071 - 11.0%
2017年3月期 1,098 1,098 - 13.8%
2018年3月期 735 735 - 14.6%

SAR: ストックオプションと同様に株価に連動するものの、株式は介在しない現金によるインセンティブ報酬。付与時点からの株価の上昇分を会社が現金支給する。海外現地法人の幹部に対し、現地の証券税制や税制の影響や事務負担を回避する観点から、通常型ストックオプションの代替措置として支給されるケースが多い。

一方、三菱自動車の有価証券報告書においては、2018年3月期からゴーン氏に対する個別報酬額が記載されている。その金額を同時期における日産自動車のものと合計すると、まだ1億円ほど不足しているものの、2017年3月期における日産自動車の報酬金額に近付くということを、興味深い事象として指摘しておきたい。

年度 総報酬(億円) 内訳(億円) 参考:ROE
金銭報酬 1円SO
2017年3月期 開示なし(1億円未満) △29.16%
2018年3月期 227 180 47 47-

最後に取締役の人数および内訳を対前年比で分析してみる。日産自動車の取締役会は9名で構成されているが、昨年まで社外取締役はルノー出身者の1名のみで、今年になって新たに2名が選任される一方、社内取締役を2名削減している(すなわち、取締役会の総数は9名のまま)。削減された社内取締役はいずれも日産自動車の生え抜きであり、結果的にルノー出身者の発言力が高まったようにも見える。

  総数 社内 社外 内訳
自社出身 ルノー出身 独立
2017年6月 9 8 1 6 3 0
2018年6月 9 6 3 4 3 2

同様に三菱自動車の取締役会構成を見ると、社外取締役の人数は6名から変わっていないが、社内取締役が減ることによって全体の人数が11名から8名に縮小している。減ったのは三菱グループ出身の2名と日産自動車出身の1名で、ルノー出身者はカルロス・ゴーン氏1名ということに変わりはない。三菱グループと日産自動車の出身者が減ることで、ゴーン氏の発言力は増すことになったのではないか。

  総数 社内 社外 内訳
自社出身 三菱系出身 日産出身 ルノー出身 独立
2017年6月 11 5 6 1 4 3 1 2
2018年6月 8 2 6 1 2 2 1 2

このような動きが期せずして両社で同時に起こっていた背景で、何らかの共通した意図が動いていたと推測することは、決して不自然なことではないだろう。

2019/01/10 日産と三菱自のガバナンス体制の同時比較で浮かび上がる“意図”

日産自動車のカルロス・ゴーン会長の金融商品取引法違反による逮捕(違反の詳細については2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』参照)を端緒として、同社のコーポレートガバナンスが議論の的になっている。以前から同社ガバナンスを「低水準」と評価する声は少なくなかったが、今回の件を受けて特に報酬ガバナンスを中心に関心が高まっているようだ。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/01/09 東証の市場構造の変化がもたらすCGコードへの影響

2013年7月に東京証券取引所(以下、東証)と大阪証券取引所の株式市場が統合してから、はや5年半が経過した。統合以来、東証は、第一部・第二部・マザーズ・JASDAQの四つの市場(及びプロ投資家向けの東京PROマーケット)を運営しており、市場ごとに異なる上場要件や上場廃止基準を設けてきた。その間、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が実施されるなど上場企業を巡る環境は大きく変化したが、株式市場そのものは統合時のままとなっている。 ・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから