2018/11/29 【失敗学第54回】ブロードメディアの事例(会員限定)

概要

ブロードメディア(JASDAQ)の子会社の釣りビジョンが架空取引(累積で120億円超)に巻き込まれる。

経緯

ブロードメディアが、2018年8月に東京証券取引所に改善報告書を提出するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。

2006年
10月:ブロードメディアの子会社ブロードメディア・スタジオ社は、A社から話を持ち掛けられるが、取引総額2000万円を上限にすることを取引の条件にしたことから、A社による架空取引の被害にあわずに済む。

2007年
2月:ブロードメディアの子会社の釣りビジョン社(釣り情報番組の放送・配信・番組制作および販売)は、A社から持ち掛けられた案件(上記のブロードメディア・スタジオが断った案件)に乗り、架空取引に巻き込まれる。

2011年
釣りビジョンではA社との年間取引額が5億円を超える。

2013年
釣りビジョンではA社との年間取引額が10億円を超える(釣りビジョンの売上高43億円)。

2015年
釣りビジョンではA社との年間取引額が20億円を超える(釣りビジョンの売上高53億円)。

2017年
2月:釣りビジョンに税務署からA社の反面調査のための税務調査が入り、A社が釣りビジョンからA社に宛てた請求書を偽造していることが判明し、釣りビジョンにおいてA社への発注上限を10億円に設定することになった。
12月末:D社あて売掛金のうち一部70百万円が入金されなかった。

2018年
1月16日:ブロードメディアは子会社の釣りビジョン社(釣り情報番組の放送・配信・番組制作および販売)の業務委託先企業(A社)から2007年から2017年にわたる映像受託制作取引について、取引全体が架空取引であった旨の報告を受けた。
1月30日:ブロードメディアは内部調査を進め、調査結果を「連結子会社の架空取引被害及び当社の2018年3月期第3四半期決算発表延期に関するお知らせ」をリリース
4月20日:ブロードメディアは、第三者委員会を設置し、更なる調査を行うこととした(リリースはこちら)。
5月23日:ブロードメディアは、第三者委員会から調査報告書を受領したことをリリース
7月20日:ブロードメディアは、架空取引により計上されていた売上・原価・売掛金を取り消す等の過年度の決算訂正を行ったことをリリース
7月24日:ブロードメディアは東京証券取引所から改善報告書の提出を求められる(東証のリリースはこちら)。
8月7日:ブロードメディアは東京証券取引所に改善報告書を提出する。

内容・原因・改善策

ブロードメディアが、2018年5月に公表した「第三者委員会の調査報告書」によると、本件の問題点の主な内容とその原因、再発防止策は次のとおりである。

架空取引被害
内容 A社がD社(電通の子会社)等8社を騙って架空取引を偽装し、釣りビジョンから資金を引き出し、運転資金に使っていた。契機およびスキームの詳細は次のとおり。

契機
2007年2月に、釣りビジョンは、発注元からの支払いサイトが遅いことで運転資金の負担が増加していたA社(映像制作業務の費用支出が発注元からの入金に先行する)から依頼を受け、A社の運転資金負担を楽にするために、発注元とA社との間に入ることとなった(すなわち、映像制作物の対価が「発注元→A社」から「発注元→釣りビジョン→A社」と流れる)。

スキームの詳細
本スキームは釣りビジョンが発注元から入金を受ける前(A社が映像制作物を発注元に納入直後)にA社へ先行して支払うスキームであり、A社から見れば資金負担が不要となる一方で、資金負担が生じる釣りビジョン(発注元からの支払いサイトは納品後3~4か月)には対価として5%の利益が落ちることとされた。また、発注元への営業活動・受発注業務・請求等発注元への連絡はすべてA社が行うことから、釣りビジョンの事務負担も生じなかった。ところがそもそも発注元とA社の取引のほとんどは、A社があたかも取引が存在するかのように偽装工作をして釣りビジョンに持ち込んだ架空取引であった。具体的な取引内容は次のとおり(発注元が釣りビジョンに100支払い、釣りビジョンがA社に95支払うケースを想定)。
・A社がD社等の発注元名義の発注書(実際には発注はない)を偽造(担当社員も偽造)
・A社が釣りビジョンに偽造発注書を交付
・A社は釣りビジョンに過去の制作物を流用したり動画サイトからダウンロードした映像を加工したりして制作物を偽装
・A社が釣りビジョンに制作完了を報告
・A社がD社等の発注元名義の納品受領書を偽造(担当社印ないし発注元の会社印も偽造)
・A社は制作物を納品物のコピーDVDであると称して釣りビジョンに送付
・釣りビジョンがA社に対して代金95を支払う。
・A社は支払われた代金で資金繰り。
・数か月後に発注元から釣りビジョンに代金100が振り込まれる(実際はA社が銀行窓口で振込名義人を発注元として送金処理をしているだけ)

原因 丸投げ取引の許容
・釣りビジョンでは発注元との直接的なコンタクトをしておらず、A社に丸投げしていた。

納品物のおざなりな確認
・釣りビジョンでは納品物をしっかりと確認していなかった(釣りビジョンでは、発注元に納品された制作物のコピーが収められているというDVDを受け取っても、数倍速で再生して何らかの映像が映っていればそれで足りるという程度の確認しかしていなかった)。

J-SOXへの不誠実な対応
・ブロードメディアの監査役と業務監査室が、釣りビジョンに業務監査を行いたい旨の申し入れを行った際に、釣りビジョンのK取締役は業務監査を拒否する姿勢を示した。
・2013年12月に内部監査が行われ、釣りビジョンにJ-SOXの評価手続きが実施された。その結果、下記の問題点が指摘され、それに対して改善策が示されたものの、実際は指摘をないがしろにする不誠実な対応であり、問題点は解消されていなかった。

問題点 改善策 実 際
①A社との取引が管理部主体で行われている 営業を行う部署が主体となって取引を行う。 A社との取引の主体は管理部のままであった。
②発注書の入手が製作品完成後になっている    
③発注元への請求書、納品書、納品受領書がA社を介して受け渡しされている 改善された。もっとも、実際には発注元が納品受取書を送付しているのではなく、A社があたかも発注元が送付しているかのように偽装をして送付しているに過ぎなかった。 A社との取引の主体は管理部のままであった。
④契約書が作成されていない 業界慣習を理由に改善が困難  
⑤発注書に発注担当者の個人印はあるが、会社印がない 会社印に変更すべき。 会社印が押印されるようになった。もっとも、実際にはA社代表取締役が偽の会社印を押印していた。
⑥与信審査が不十分である 取引稟議の起案者を変更すべき 変更された。もっとも、取引起案者は釣りビジョン取締役のL氏から「ハンコだけ押せばよい」と指示されていた。

監査法人の確認手続が裏をかかれる
2015年3月期までブロードメディアの監査人であった有限責任監査法人トーマツは、期末に釣りビジョンの得意先に対して残高確認を実施していたが、L氏からの要請を受けD社に対する債権残高確認書の宛先をD社の経理・財務を担当する部署から担当者であるT氏に変更した。T氏に届いた債権残高確認書はP氏が回収してD社による回答を偽装(会社印の偽装、消印を考慮して返信をD社の最寄りのポストに投函)していたため、トーマツは見抜くことができなかった。トーマツの後任の仁智監査法人もトーマツ同様にD社に対する債権残高確認書はD社ではなくT氏に宛てて送付していた。そのうえ、釣りビジョンのL取締役はA社の代表取締役P氏に対して、監査法人からの残高確認の紹介先・照会時期・照会金額等の情報を伝えていたため、P氏はT氏に対して債権残高確認書の回収をタイミングよく依頼できた。

電通というビッグネームを前にした思考停止
釣りビジョンでは、D社は電通の子会社であることから与信管理は不要と考えられていた。順調に取引高が伸びていっても、誰もそのことに対して不信感を抱かなかった。しかし、本件スキームは実質的には釣りビジョンからA社へのファイナンスであり、D社ではなくA社の与信を管理しなければならなかった。

不審事象を結び付ける視点の欠如
釣りメディアでは、下記の不審事象が起きていたが、これらの事実が深掘りされないままそれぞれ問題なしと結論していた。これらの不審事象を結び付けてA社との取引に疑義を持つといった視点がなかった。
・2016年4月: A社の口座がある銀行と同一銀行同一支店からD社等からの入金も行われていたことをL取締役が指摘(問題なしと結論)
・2017年1月に釣りビジョン社長のK氏がA社の成果物のDVDのクオリティが低いと指摘
・2017年4月にA社の税務調査の反面調査でA社が釣りビジョンからの請求書を偽造していた事実(架空損金の計上)が発覚

再発防止策 「丸投げ取引禁止」ルールの明確化
成果物の徹底確認
残高確認の漏洩絶対禁止の再教育とルール化
子会社(釣りビジョン)と親会社(ブロードメディア)間のレポートラインの整備
親会社による業務監査の充実
人事ローテーションの実施
コンプライアンス教育の再徹底と研修による組織のリフレッシュ
内部通報制度の有効活用
<この失敗から学ぶべきこと>

A社が提案して実行された架空取引は釣りビジョンに5%の手数料を落とすことから、釣りビジョンでは安定した取引として評価されていたようです。しかし、もともとA社が運転資金の不足に陥ったことが本件スキームの発端であったため、5%の利益を補いつつスキームを維持するためには、取引金額を増やしていくしかほかありません。実際に、ブロードメディアが東京証券取引所に提出した改善報告書によると、当該スキームによる取引額は次のとおり増加傾向で推移しています。

年 度 仮装入金額(単位:百万円)
2008年3月期 2
2009年3月期 38
2010年3月期 115
2011年3月期 320
2012年3月期 552
2013年3月期 751
2014年3月期 1,110
2015年3月期 1,582
2016年3月期 2,157
2017年3月期 2,742
2018年3月期 2,367

このように取引高や債権残高が月を追うごとに漸増している取引先は、仕入先であっても要注意です。釣りメディアのように実は資金がぐるぐると循環しているだけの可能性があるからです。監査役や内部監査担当者は「大企業相手の債権だから問題はない」「回収遅延がないから債権管理に問題はない」といった“常識”にとらわれることなく、「A社の口座がある銀行と同一銀行同一支店からD社等からの入金も行われている」という不自然な状況に感じる違和感を大事にして職務に臨むべきです。

2018/11/28 男性社員の約7割が半年間の育休を取得した企業がしたこと

政府は2020年に男性の育児休暇取得率を13%に引き上げる目標を掲げているが(内閣府が公表している「数値目標 」⑫参照)、厚生労働省の調査によると、2017年度における男性の育児休業取得率は5.14%に過ぎない(平成29年度雇用均等基本調査(確報)「事業所調査 結果概要」19ページ参照)。この数値は前年度比1.98ポイントアップしており、5%を突破したのも初とはいえ、いまだ政府目標の半分にも満たない。こうした中、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2018/11/28 男性社員の約7割が半年間の育休を取得した企業がしたこと(会員限定)

政府は2020年に男性の育児休暇取得率を13%に引き上げる目標を掲げているが(内閣府が公表している「数値目標 」⑫参照)、厚生労働省の調査によると、2017年度における男性の育児休業取得率は5.14%に過ぎない(平成29年度雇用均等基本調査(確報)「事業所調査 結果概要」19ページ参照)。この数値は前年度比1.98ポイントアップしており、5%を突破したのも初とはいえ、いまだ政府目標の半分にも満たない。こうした中、海外に目を向けると、休暇取得資格を有する男性従業員のうち「95%」が法定の有給育児休暇日数(2週間)を超える期間の育児休暇を取得し、「67%」が6か月間の育児休暇を取得した企業がある。英国の大手保険会社アビバ社だ。同社が男女ともに「6か月間(26週間)」の育児休暇を取得できる新たな育児休暇制度を導入した2017年11月からだが、同社のリリースによると、2017年11月から2018年9月までの期間に育児休暇を取得した従業員729人のうち約40%に相当する299人を男性従業員が占める。なぜ同社はここまで高い(男性従業員による)育児休暇取得率を達成できたのだろうか。

同社の新たな育児休暇制度のポイントの一つが「平等」だ。旧制度では、有給での育児休暇取得可能日数を女性従業員は18週間、男性従業員は2週間としていたが、2017年11月に導入した新制度では、男女の区別はもちろん性的指向も問わず6か月間(26週間)の有給休暇と同期間の無給休暇を取得することができることとした。また、仮に父親・母親とも同社の従業員である場合には各人が同制度を利用できるうえ、同時期に育児休暇を取得することも可能とされる。さらに新制度はパートタイムを含む全従業員を対象としており、実子、養子、代理母により生まれた子等による内容の差もない。

もっとも、同社の新たな育児休暇制度が男性従業員にこれほどまでに利用された最大の理由は、何と言っても金銭面での手厚いサポートを実施したことだろう。上述のとおり、旧制度では男性従業員の有給での育児休暇取得可能日数はわずか2週間に過ぎなかった。これが一気に13倍の26週間に延長されたことが男性従業員の育児休暇取得率の大幅アップに貢献したことは間違いない。実際、同社も「男性の育児休暇取得率を上げるためには経済的な障壁を取り除くことが重要」との見解を示している。

冒頭で日本における男性の育児休暇取得率の低さに触れたが、同様の問題は日本より男性の育児参加が進んでいるイメージがある欧米にも存在している。例えばアビバ社が本拠を置く英国は2015年に母親の産後・育児休暇52週間のうち産後の2週間を除く50週間を父母が共有し、父母どちらも休暇を取得できる「男女共同育児休暇制度」を導入したものの、同制度の利用率は約2%に過ぎない。これは、同制度で保障される休暇中の給与が週約150ポンド(1ポンド≒145円)にとどまり、完全な有給休暇とするかはどうかは雇用主に委ねられていることが原因との指摘があった。アビバ社の男性従業員による高い育児休暇取得率は、この指摘が正しいことを裏付けたと言えるだろう。

男性従業員にとっては、長期間の育児休暇を取ることによるキャリアの中断も懸念されるところだが、アビバ社のように上限(半年間)まで育児休暇を取る男性従業員がマジョリティになれば、こうした不安も大幅に減少するはずだ。また、育児への積極的な参加は“仕事一辺倒”の男性従業員のワークライフバランスへの考え方を変え、“自主的な働き方改革”を促す可能性があるとともに、夫婦が同じ企業に勤務している場合はもちろん、そうでない場合にも社会全体として女性の活躍を後押しすることにつながる。その意味では、アビバ社の試みは自社のESG推進に向けた有効な投資と言うこともできる。日本企業の間でも同様の事例が広がることが期待されよう。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

2018/11/27 取締役を対象にした訴訟、「和解」には監査役等の同意必要に

周知のとおり、コーポレート・ガバナンスに関連する会社法の見直しを検討している法務省の法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、2018年10月24日に開催された第17回会議で、改正会社法の骨格となる「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(仮案) 」(以下、要綱案)をとりまとめたところだ。要綱案の大部分は、今年2月14日に取りまとめられた「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下、中間試案)と同じ内容となっているが、一部見送りとなった項目もある。例えば、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2018/11/27 取締役を対象にした訴訟、「和解」には監査役等の同意必要に(会員限定)

周知のとおり、コーポレート・ガバナンスに関連する会社法の見直しを検討している法務省の法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、2018年10月24日に開催された第17回会議で、改正会社法の骨格となる「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(仮案) 」(以下、要綱案)をとりまとめたところだ。要綱案の大部分は、今年2月14日に取りまとめられた「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下、中間試案)と同じ内容となっているが、一部見送りとなった項目もある。例えば、中間試案の第2部「第1 取締役等への適切なインセンティブの付与」の「1 取締役の報酬等」の「(5)情報開示の充実」では、役員報酬等の金額について個別開示するかどうかが検討されていたが(8ページ ((5)の注))参照)、最終的には見送りになっている。この点は、金融庁が11月2日に公表した「企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案」でも“検討課題”とされたが(2018年11月5日のニュース『速報 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅改正へ』参照)、上場会社以外の会社も対象とする会社法で導入することは時期尚早との判断があった。また、金融商品取引法では1億円以上の取締役の報酬等は開示されているが、会社法でこの“1億円基準”を採用することに肯定的な意見もあまりなかった。また、「3 役員等賠償責任保険契約」の⑤(D&O保険の開示)では、保険金額、保険料、保険給付の金額を事業報告に含めるか否かが検討されていたが、こちらも見送りとなっている(10ページ (5)の注)参照)。金額を開示すると濫訴や和解額のつり上げ等を誘発することが懸念された。

濫訴 : むやみやたらに訴訟を起こすこと

一方、中間試案の内容がそのまま要綱案にも盛り込まれることとなったのが、会社が取締役等の責任を追及する訴訟で「和解」をするためには監査役等の同意が必要とする規定だ。

日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の逮捕は金融商品取引法違反を容疑とするものだが、今後は日産自動車がゴーン氏に対し損害賠償請求訴訟を提起する可能性もささやかれている(金融商品取引法違反の内容は2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』参照)。日産自動車の件が今後どのような展開を見せるかは現時点では不明だが、いずれにせよ、会社が取締役の責任を追及する訴訟を提起した場合でも、最終的には「和解」で決着するケースもある。この点(和解すること)について現行会社法では、監査役等の同意を求めていない。

これに対し現行会社法では、監査役設置会社(監査役会設置会社を含む)、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社が取締役や執行役等(以下、取締役等)の責任を追及する訴訟に提起した場合において、(1)取締役等の責任の免除に関する議案を株主総会に提出する場合や、(2)会社が取締役等を補助するために当該訴訟に「補助参加人」として参加する場合には、監査役設置会社においては「各監査役」、監査等委員会設置会社においては「各監査等委員」、指名委員会等設置会社においては「各監査委員」(以下、まとめて監査役等という)の同意を得なければならないとされている((1)は会社法425条3項、(2)は同849条3項)。

取締役 : ここでいう取締役からは、監査役と類似の立場にある監査等委員及び監査委員は当然除かれる。

このように現行会社法では、訴訟に補助参加する場合や責任の免除に関する議案を提出する場合には監査役等の同意が必要であるとしているにもかかわらず、「和解」する場合においては監査役等の同意を求めていない。そこで、補助参加や責任免除の議案提出に関する規定と平仄を合わせる観点から、「和解」する場合にも各監査役等の同意が必要である旨の規定を新設する。取締役等を対象にした訴訟が和解に至るケースは少なくないだけに、本改正は、訴訟において監査役等が果たす責任を一層重くするものと言えそうだ。

なお、会社法制部会では、「各監査役」等ではなく、監査役会等の同意で足りるのではないかとの意見も出ていたが、この意見は不採用となっている。

監査役会等 : ここでは監査役会、監査等委員会、監査委員会を指す。

2018/11/26 取締役会議事録を開示している上場企業(会員限定)

2018年11月14日のニュース「社外取締役に対して吹き始めた逆風」で「日本の上場企業で取締役会議事録を開示しているところはほとんどないが、仮に今後開示が広がれば、取締役会で何も発言しない社外取締役は自然に排除されることになる」旨お伝えしたところ、当フォーラム会員から「『ほとんどない』ということは、開示している企業があるのか」との問い合わせをいただいた。

取締役会議事録を開示しているのは、丸井とカプコンだ(ただし、法定の取締役会議事録そのものではなく取締役会における質疑応答の抜粋である)。

丸井は統合報告書「共創経営レポート 2018」の中で、「取締役会のおもな審議事項」として2018年3月期の各四半期における「おもな決議事項および報告事項議論テーマ」と「議論テーマ」を挙げているが、そのうち第4四半期において議論された「証券事業の設立」について、取締役会でのディスカッションの概要を開示している(同社の統合報告書の91ページ参照 )。社内取締役からの「今回の新規事業のポイントは、クレジットカードを利用した投資信託の購入です。基本的にクレジットカードによる投資信託の購入は認められていませんが、証券会社を設立して、累積投資であればクレジットカードの1回払いで決済できることがわかり、事業化を進めることにしました。」との説明に対し、社外取締役から「レピュテーションリスクが高いので、撤退基準については事前に検討しておくべき」との意見が出されている点からは、社外取締役が「取締役会に外部の視点を持ち込む」という自らに期待される役割を果たしていることがうかがえる。

カプコンは「統合方向書2018」の「コーポレート・ガバナンス」の章の中に「2017年度取締役会・監査等委員会での主な議論」というコーナーを設け、「海外における新規事業への参入」と「モバイル事業の改善策に関する議論」という2つの事案について、取締役会議事録を開示している。社外取締役の発言に水色のマーカーを引いているのも特徴的だ。社外取締役からは、前者の事案について「執行部門が本件を進めていくにあたり、適法性の担保をお願いしたい。執行部門が適法条件等をきちんと守っているということを、別の部門がチェックするなど、きっちり第三者的にモニタリングの仕組みを同時に動かして進行いただきたい。事業としてぜひ進めたいということは精神論としてはわかるが、運営にあたってご配慮をお願いしたい。」「運営地域として欧州も含まれているが、EUの競争法との関係で地域制限をクリアできているのかは慎重に検討いただきたい。」といったコンプライアンス面の指摘がなされる一方、後者の事案では「モバイルはカプコンの成長戦略の一つとして重要な分野なので、スピード感を持って臨む必要がある。また、市場を俯瞰すると、アジア市場の伸び率が非常に高く、今後アジアのマーケットをどのように取り込んでいくかも課題の一つだと考えている。」と、モバイル事業の推進に向け、背中を押すような発言も見られる。社外取締役が「ブレーキ」と「アクセル」両方の役割を果たしている様子がうかがえる。

そのカプコンが取締役会議事録を開示するきっかけとなったと思われるのが買収防衛策だ。同社は2008年に買収防衛策を導入、以来2年ごとに継続議案を上程してきたものの低賛成率に苦しみ、2014年にはとうとう否決(史上初)されるに至った。翌年に再提案し、ISSの賛成推奨を得るなどして可決に至ったものの、2017年には、買収防衛策に対する海外機関投資家等の姿勢が一段と厳しくなってきたことなどを背景に、継続を断念している(2017年6月27日のニュース「買収防衛策の廃止は妥当だったか?」参照)。同社の統合報告書(アニュアルレポート)を確認すると、2014年版(48ページ参照 )から取締役会議事録の開示がスタートしている。ここでは「2013年度取締役会における主な議論」として「2013年3月期業績予想の修正に関する議案」と「2013年度上期 業務監査役員 監査実績報告書に関する議案」についての取締役会議事録が開示されている。そして、買収防衛策否決後に公表された「統合報告書2015」では、「2014年度取締役会等での主な議論」の議題2「コーポレートガバナンス・コードに関する議論」の中で社外取締役が買収防衛策について触れ、「買収防衛策は昨年否決されており、本年上程することは昨年以上に厳しい状況だ。しかし、この1年間は機関投資家との対話を強化し、株主の意向を踏まえ成長目標にROEを掲げるなど、提案内容も昨年から大きく進化させている。アジア地域も含めた懸念を払拭するために本施策が必要であり、株主総会で判断を仰ぐという経営陣の主張であれば、上程すればよい。」と、買収防衛策の再導入議案の上程を促す発言をしている(57ページ参照)。上述のとおり、カプコンの買収防衛策は2015年6月の株主総会で再可決された後、2017年には自ら買収防衛策の非継続を決定しているが、「統合報告書2017年」では、買収防衛策に絞り、非継続に至るまでの議論を記録した取締役会議事録が開示されている(64ページ参照)。議事録の内容からは、買収防衛策の継続を巡り取締役会が逡巡している様子が伝わってくるが、社外取締役からは継続にネガティブかつ慎重な意見が相当出ており、社外取締役の意見が「非継続」という結論に影響を与えたことは間違いない。

“当たり外れ”の多いゲーム業界において、“外れ”たことで一気に株価が下落し、買収されるようなことになれば、それまで積み上げた知的コンテンツが全て買収者にもっていかれることにもなりかねない。カプコンは、知的コンテンツを守るためには買収防衛策が経営上どうしても必要と考えていたと思われる。最終的には廃止という結果にはなったものの、買収防衛策について社外取締役も入れて真剣に議論していることを開示した姿勢は評価されるべきであり、他社も参考にしたいところだ。

2018/11/26 取締役会議事録を開示している上場企業

2018年11月14日のニュース「社外取締役に対して吹き始めた逆風」で「日本の上場企業で取締役会議事録を開示しているところはほとんどないが、仮に今後開示が広がれば、取締役会で何も発言しない社外取締役は自然に排除されることになる」旨お伝えしたところ、当フォーラム会員から「『ほとんどない』ということは、開示している企業があるのか」との問い合わせをいただいた。

取締役会議事録を開示しているのは、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2018/11/23 【WEBセミナー】近時の事例から得られる不祥事防止のポイントと
不祥事発生時の対応

概略

【セミナー開催日】2018年11月20日(火)

検査データ改ざん、不適切融資、料金の過大請求等々、ここ最近、大手名門企業での不祥事が相次いで明るみに出ています。外部に出ていないものも含めれば、上場企業で発生する不祥事は毎年相当数に上るものと思われます。世間を騒がす大型の企業不祥事が発生するたびに不祥事防止のための“ケーススタディ”が積み上げられているにもかかわらず新たな不祥事が続々と発生するという事実は、企業が現在講じている不祥事防止策にも見直し・改善の余地があることを示唆しているものと考えられます。
本セミナーでは、訴訟紛争処理や不祥事対応を得意とするTMI総合法律事務所 パートナーの田代啓史郎弁護士をお招きし、最近の不祥事事例に基づき、どのような不祥事防止策が効果的なのかを解説していただきます。また、万が一不祥事が発生してしまった場合、その後の裁判等において、いかにして自社に不利な事態を回避し、回復困難な損害が生じないようにするか、不祥事発生後の情報コントロールや証拠となり得る資料の管理など、不祥事発生後の対応についても最近の事案を踏まえて解説していただきます。これらの解説の中では、海外子会社も対象にした内部通報制度や今年(2018年)6月1日から施行された改正刑事訴訟法により実現した司法取引の活用についても取り上げていただきます。

【講師】TMI総合法律事務所
パートナー 弁護士 田代 啓史郎(たしろ けいしろう) 様

セミナー資料 近時の事例から得られる不祥事防止のポイントと不祥事発生時の対応.pdf(360KB)

上記の資料をクリックすると会員限定コンテンツがご覧になれます。
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちら

セミナー動画
(1) 近年の不祥事事例と企業に及ぼし得る影響
40320a

(2) 不祥事発生時の対応のポイント
40320b

(3) 不祥事発生時の情報コントロール
40320c

(4) 不祥事防止のための措置
40320d

(5) 質問
40320e
本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を下の右側の「感想の登録」ボタンを押してください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録

2018/11/23 【WEBセミナー】サイボウズ社の働き方改革

概略

【セミナー開催日】2018年11月20日(火)

2018年6月29日に国会で成立した働き方改革関連法の施行が2019年4月1日に迫る中、上場企業各社にとって働き方改革は喫緊の経営課題となっていますが、いまだ自社の働き方改革については模索中というところも多いようです。
本セミナーでは、在宅勤務や副業の許可、選択型人事制度、さらに選択した働き方とは異なる働き方を単発することを認める“ウルトラワーク”の導入など先進的でユニークな働き方改革をいち早く打ち出し続け、一時期は3割近くあった高い離職率を4%程度にまで抑えることに成功したサイボウズ株式会社で執行役員を務める関根紀子様をお招きし、これまで同社が実施してきた働き方改革とその効果、社員の反応、今後の計画、働き方改革を進める上での同社のポリシーなどについて語っていただきます。これから働き方改革を進めようという企業にとって参考になるお話が聞けるはずです。

【講師】サイボウズ株式会社
執行役員 関根 紀子(せきね のりこ) 様

セミナー資料 サイボウズ社の働き方改革.pdf(1.96MB)

上記の資料をクリックすると会員限定コンテンツがご覧になれます。
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちら

セミナー動画
(1) 自己紹介~
40316a

(2) 企業理念~
40316b

(3) 子連れ出勤風景~
40316c

(4) 副業の自由化~
40316d

(5) 在宅勤務~
40316e
本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を下の右側の「感想の登録」ボタンを押してください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録