金融庁は2025年6月30日、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」を公表した。2023年の「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム(意見書(6))」、2024年の「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024(意見書(7))」に続き、「アクション・プログラム」の公表は3年連続となる。今後の主な方向性として以下の施策が打ち出されており、上場会社においてはCGコードの改訂を見据えた対応を検討する必要がある。2025年6月11日のニュース「CGコード改訂の方向性」と併せて確認いただきたい。
| 1.稼ぐ力の向上 |
✔︎経営資源の適切な配分を通じた投資の促進(現預金を含め、現状の資源配分が適切であるかの検証等)
✔︎企業戦略と関連付けた人材戦略や従業員給与・報酬の決定方針、従業員給与の平均額の前年比増減率等の有報開示を拡充
|
| 2.情報開示の充実・投資家との対話促進 |
✔︎有報の総会前開示の対応状況のフォローアップ、更なる環境整備等
✔︎総会資料の書面交付の不要化を含めた総会に係る法制面の整理等の推進策について、関係省庁(法務省・経済産業省)と連携
✔︎有報の記載事項を整理(スリム化含む)
|
| 3.取締役会等の機能強化 |
✔︎社外取締役や取締役会事務局(コーポレートセクレタリー)の機能強化について、共有する好事例を更に充実させるべく、企業の実務担当者や関係者の議論の場としてコンソーシアムを立上げ |
| 4.市場環境上の課題の解決 |
✔︎政策保有株式の開示に関する課題や開示例等を公表
✔︎大量保有報告制度違反の課徴金引上げを検討
✔︎東証において、親子上場、グループ経営等に関する検討・開示を推進し、少数株主保護の観点から必要な上場制度整備を検討
|
| 5.サステナビリティを意識した経営 |
✔︎サステナビリティ開示・保証制度、特に有報の非財務情報の虚偽記載等の責任のあり方を検討(セーフハーバー・ルールの整備)
✔︎人的資本に関する国際的な基準開発に向けた意見発信
|
大量保有報告制度 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。
保証制度 : 有価証券報告書に開示された気候変動等のサステナビリティ情報の正確性を担保する仕組み。
セーフハーバー・ルール : 予測困難な責任を回避するために企業の行動が委縮することがないよう、違法ないし違反にならない範囲を明確化すること。セーフハーバーとは「安全な港」という意味であり、セーフハーバー・ルールという言葉は、船が安全な港にいる限り海難を避けられることに由来する。
当フォーラムでは、アクション・プログラム2025の「案」と今回の「確定版」を比較した。案から確定版に至る過程で変更された箇所は、今後の施策において特に重視されるポイントであると考えられるからだ。下表中の赤字下線が追加された部分、青字が削除された部分となっている(軽微な変更を除く)。なお、「5.サステナビリティを意識した経営」については、案からの変更はなかったため割愛する。
1.稼ぐ力の向上
cash hoarding問題の定義が、現預金を「必要以上に積み増していないか」から、「投資等に有効活用できているか」に変更された。2025年6月16日のニュース『企業側が懸念するフォローアップ会議「アクション・プログラム」の記述』でお伝えしたとおり、6月2日のフォローアップ会議で「短期的な自社株買いなどを誘発する」といった懸念が示されたことを踏まえたものと考えられる。一見すると上場会社に配慮した変更に見えるが、cash hoarding問題に対する投資家のプレッシャーが強まる中、むしろ自社株買いなどによる“その場しのぎ”の対応が取りづらくなり、今後は、真剣に「検証・説明責任」を果たすことに取り組まざるを得なくなったと捉えるべきだろう。そのための取締役会機能の強化が急務となる。
hoarding : 「貯蔵」「買いだめ」といった意味
| 2025/6/2案 |
2025/6/30確定版 |
| 経営資源の配分に関し、現状の資源配分が適切かを不断に検証しているか、例えば現預金を必要以上に積み増していないか(cash hoarding問題)の検証・説明責任の明確化を検討する。 |
投資等のための経営資源の配分に関し、現状の資源配分が適切かを不断に検証しているか、例えば現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化を検討する(cash hoarding 問題)。 |
2.情報開示の充実・投資家との対話促進
2025年6月25日に公表された改訂スチュワードシップ・コードに合わせ(スチュワードシップ・コードの改訂内容については、2025年2月18日のニュース「速報 スチュワードシップ・コードの改訂内容が判明」参照)、エンゲージメントを建設的な議論の場とするべく、ショートターミズムに陥らないようにするためのフォローアップを実施する旨が記載された。投資家側へのプレッシャーとなる内容だが、上述したcash hoarding問題に関する検証・説明責任など、上場会社に対する要求水準が高まることにもつながる可能性がある。また、有価証券報告書の総会前開示について「制度横断的な検討」を行うことが追記された。有報と事業報告などの開示一体化をはじめ、上場会社にとってメリットとなる諸施策の進展が期待されるところだ。
ショートターミズム : 目先のリターンばかりを求める「短期志向」のこと。
| 2025/6/2案 |
2025/6/30確定版 |
| (スチュワードシップ・コードの改訂についての新規の記載) |
今後は、改訂コードが企業価値の向上や持続的成長に向けた企業と投資家の建設的な「目的を持った対話」につながるような形で適用されるよう、特にコード本来の趣旨とは異なる形で運用され対話が阻害されることとならないよう留意しつつ、フォローアップしていくことが重要である。 |
| その上で、建設的な「目的を持った対話」を通じて、中長期的な企業価値の向上や持続的成長を促すためには、「緊張感ある信頼関係」が不可欠である |
その上で、ショートターミズムに陥ることなく、建設的な「目的を持った対話」を行うことを通じて、中長期的な企業価値の向上や持続的成長を促すためには、「緊張感ある信頼関係」が不可欠である。 |
| 企業と投資家の議論の場を設け、「スチュワードシップ活動の実態に関する調査」で共有する事例を更に充実させる等、取組事例の収集・共有を継続することとしてはどうか。 |
改訂スチュワードシップ・コードに基づく対話の実施状況を確認し、企業と投資家の議論の場を設け、「スチュワードシップ活動の実態に関する調査」で共有する事例を更に充実させる等、取組事例の収集・共有を継続する。 |
| 総会前開示に係る要請を受けた企業の対応状況を有価証券報告書レビューによりフォローアップするとともに、上場企業の総会前開示の取組を更に促すべく、コーポレートガバナンス・コードの見直し等を検討することとしてはどうか。 |
上場企業の総会前開示の取組を更に促すべく、総会前開示に係る要請を受けた企業の対応状況を有価証券報告書レビューによりフォローアップしつつ、コーポレートガバナンス・コードの見直し等を検討するとともに、環境整備に向け制度横断的な検討を進める。 |
有価証券報告書レビュー : 金融庁が上場企業等の有価証券報告書の記載内容の適正性の確保の観点から、各財務(支)局等と連携して行っている行政手続き。
3.取締役会等の機能強化
案の段階では独立社外取締役に対する期待役割に関する記載が目に付いたが、確定版では「取締役会のあるべき姿」「取締役会の重要な意思決定」「効果的な取締役会の実効性評価」といった取締役会の機能向上を求める文言が追加された。案の段階から記載があった「意思決定・監督を行うボード機能と経営を担うマネジメント機能の分離」を強力に推進する意思を示したものと言える。上場会社には、委員会型ガバナンスへの移行を含む大幅なガバナンス改革が一層求められることになろう(取締役会の機能向上に関する議論については、2025年4月9日のニュース『”稼ぐ力”の強化に向け経産省が「取締役会5原則」および「稼ぐ力のCGガイダンス」公表へ』参照)。
| 2025/6/2案 |
2025/6/30確定版 |
| 取締役会が迅速・果断な意思決定に加えて、独立した客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを更に後押しする観点からは、グローバルに活躍する上場企業について、意思決定・監督を行うボード機能と経営を担うマネジメント機能の分離を進めるべきとの指摘がある。 |
取締役会が迅速・果断な意思決定に加えて、独立した客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを更に後押しする観点からは、取締役会のあるべき姿についての本質的な議論を行うことが重要である。特に、グローバルに活躍する上場企業については、意思決定・監督を行うボード機能と経営を担うマネジメント機能の分離を進めるべきとの指摘がある。 |
| 独立社外取締役は、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、重要な役割を果たすことが求められる。 |
コーポレートガバナンス・コードの策定から10 年以上が経過し、独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、重要な役割を果たすことが求められ、取締役会の重要な意思決定を通じ経営の監督を行うべきことが再認識される必要があるとの指摘がある。 |
| こうした独立社外取締役に期待される役割を踏まえ、適切な選解任手続を確保しつつ、十分な数の独立社外取締役を選任することは、引き続き重要である。 |
こうした独立社外取締役に期待される役割を踏まえ、効果的な取締役会の実効性評価の実施、適切な選解任手続の確保、研修等を通じた能力向上により、質の高い十分な数の独立社外取締役を選任することは、引き続き重要である。 |
4.市場環境上の課題の解決
大量保有報告制度について、課徴金額の引き上げのみならず、違反行為の摘発など当局の対応を強化する旨が盛り込まれた。より多面的に制度の実効性を高めることで、上場会社が自社の株主構成を正確に把握しやすくする。スチュワードシップ・コードの改訂および会社法の改正議論において進む実質株主の透明化と併せ、上場会社にとっては不測の市場リスクを回避することにつながると同時に、より積極的なエンゲージメントを推進するためのインフラ整備と捉えることもできそうだ(実質株主透明化については、2024年4月22日付ニュース「実質株主の把握が容易に スチュワードシップ・コード改訂へ」参照)。
実質株主 : 株主名簿の背後に存在する投資判断や議決権を行使する権限を持つ株主のこと。これに対し、株主名簿に載っている株主を名義株主という。個人株主や事業会社が株主となる場合などは「実質株主=名義株主」となるが、信託銀行が信託勘定で「管理」だけをする株式は、実質株主と名義株主は一致しない。機関投資家が保有する株式は基本的に後者のケースとなる。
| 2025/6/2案 |
2025/6/30確定版 |
| 大量保有報告書等の不提出及び虚偽記載が課徴金制度の対象とされたが、大量保有報告制度に係る課徴金額の水準が低いため、制度の実効性が確保されていないとの指摘がある。 |
大量保有報告書等の不提出及び虚偽記載が課徴金制度の対象とされたが、大量保有報告制度違反に対する摘発事例が少ないことに加えて、大量保有報告制度に係る課徴金額の水準が低いため、制度の実効性が確保されていないとの指摘がある。 |
| 違反行為への抑止力を高める観点から、大量保有報告制度違反の課徴金額の水準引上げを検討することとしてはどうか。 |
違反行為への抑止力を高める観点から、当局の対応を強化するとともに、大量保有報告制度違反の課徴金額の水準引上げを検討する。 |