2018/10/24 投資家が考える「強いて買収防衛策を導入する理由」

パッシブ運用を行う運用機関による集団的エンゲージメントを行うためのプラットフォーム「一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム()」の活動が活発化している。

パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。

 投資先企業との対話強化のために企業年金連合会と大手金融機関が連携して昨年(2017年)10月に設立された、信託銀行等のパッシブ運用を行う運用機関による集団的エンゲージメントを行うためのプラットフォーム。機関投資家協働対話フォーラムの詳細は2017年11月8日のニュース『集団的エンゲージメントを支援する「機関投資家協働対話プログラム」が始動』参照。

2018年10月4日のニュース「協働対話フォーラム、トップ選任議案に20%以上の反対票企業にレター」でお伝えしたとおり、今月(2018年10月)1日には、2018年5月・6月株主総会で経営トップの取締役選任議案に対し20%以上の反対票が投じられた上場企業の代表取締役社長等宛に「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」と題するレターの送付を開始したことを明らかにしたが、これに続き、このほど「資本市場の評価を下げるリスクを踏まえた買収防衛策の必要性の開示」と題するレターの送付開始している(同フォーラムのリリースはこちら)。今回のレター送付は、「ビジネスモデルの持続性に関する重要な課題(マテリアリティ)の特定化と開示」(2018年1月)、「不祥事発生企業への情報開示と社外役員との協働対話のお願い」(2018年7月、2018年7月24日のニュース「機関投資家協働対話フォーラムが不祥事発生企業にレターを送付」参照)、そして上記「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」に続く第四弾となる。今回と前回のレター送付の間隔が極端に短くなっているが、これには対象会社の次期定時株主総会までに十分な対話の期間を確保する意図があるものとみられる。

今回のレター送付の対象となったのは、・・・

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2018/10/24 投資家が考える「強いて買収防衛策を導入する理由」(会員限定)

パッシブ運用を行う運用機関による集団的エンゲージメントを行うためのプラットフォーム「一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム()」の活動が活発化している。

パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。

 投資先企業との対話強化のために企業年金連合会と大手金融機関が連携して昨年(2017年)10月に設立された、信託銀行等のパッシブ運用を行う運用機関による集団的エンゲージメントを行うためのプラットフォーム。機関投資家協働対話フォーラムの詳細は2017年11月8日のニュース『集団的エンゲージメントを支援する「機関投資家協働対話プログラム」が始動』参照。

2018年10月4日のニュース「協働対話フォーラム、トップ選任議案に20%以上の反対票企業にレター」でお伝えしたとおり、今月(2018年10月)1日には、2018年5月・6月株主総会で経営トップの取締役選任議案に対し20%以上の反対票が投じられた上場企業の代表取締役社長等宛に「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」と題するレターの送付を開始したことを明らかにしたが、これに続き、このほど「資本市場の評価を下げるリスクを踏まえた買収防衛策の必要性の開示」と題するレターの送付開始している(同フォーラムのリリースはこちら)。今回のレター送付は、「ビジネスモデルの持続性に関する重要な課題(マテリアリティ)の特定化と開示」(2018年1月)、「不祥事発生企業への情報開示と社外役員との協働対話のお願い」(2018年7月、2018年7月24日のニュース「機関投資家協働対話フォーラムが不祥事発生企業にレターを送付」参照)、そして上記「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」に続く第四弾となる。今回と前回のレター送付の間隔が極端に短くなっているが、これには対象会社の次期定時株主総会までに十分な対話の期間を確保する意図があるものとみられる。

今回のレター送付の対象となったのは、現行の買収防衛策の有効期限が2019年に訪れる一定の時価総額以上の企業のうち、同フォーラムがレターの送付が必要と判断した企業。これまで同様、レターを送付した企業名や社数は公表されていない。

今回のレターの内容は、(1)買収防衛策に対する投資家の認識についての説明、(2)資本市場の評価を下げるリスクを踏まえた買収防衛策の必要性に関する情報開示の依頼、の2つに分けられる。それぞれについて見てみよう。

(1)の「買収防衛策に対する投資家の認識についての説明」では、基本的に買収防衛策に対しネガティブな見解が述べられている。例えば重要な機微技術の海外流出を防ぐために買収防衛策を導入することについては、「買収防衛策で防げるのは濫用的買収であり、競合企業などによる正当な目的を持った戦略的買収を防ぐことはできない」としたうえで、「海外流出を理由にして、正当な目的を掲げた海外企業による戦略的買収を防ぎたいという意図であれば、もはや買収防衛策の範囲を逸脱しているといわざるを得ない」との認識を示している。

濫用的買収 : 持続的な成長による中長期の企業価値の向上を犠牲にし、短期的な株主利益を追求する短期投資家による買収行為のこと。

また、企業側に存在する「買収防衛策が買収価格引き上げ交渉の武器になる」という考え方に対しては、「TOB価格が低いか高いかを判断するのは株主であって、TOB価格が低いことを理由に買収防衛策を発動しようとすることは、TOB価格は相当もしくは高いと考える株主の利益創出機会を奪うものである」とし、買収防衛策が株主の権利を制限する性格を持つことの一例として挙げている。

TOB : 「Take-Over Bid」の略で、株式公開買付と訳される。特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めること。

さらに、「(買収防衛策という仕組みは)十分な成果を上げていない経営に変化をもたらすという株主の権利を制限するものなので、経営陣の自己規律性を弱める性格をもち、このため、経営に甘さが出るのではないかという懸念や経営陣に対する不信感を募らせることにつながり、投資家は、ガバナンスの評価をディスカウントして企業価値評価することもある」「買収防衛策の導入・継続は、投資家からの信頼を低下させ、資本市場からの評価を下げる要因となり得る」など、買収防衛策に対する厳しい表現が並ぶ。

その一方で、投資家の立場から「強いて買収防衛策を導入する理由として考え得る」ケースとして、「経営陣が、『現在の経営状況に課題があることを認識し、中長期的な成長に向け、経営改革を実行しはじめたところであり、その成果が発揮され、適正な株価が形成されるまでには時間がかかるので、現在の経営陣に今しばらくの時間的猶予を与えてほしい」と考える場合』を挙げている。ただし、この場合でも、「経営陣が認識している経営課題と経営改革の方針、計画、達成までの時期と目標、目標達成によってもたらされる企業価値の水準を明確にする」ことを求めており、「その内容に納得性があれば期限を定めての買収防衛策の導入・継続の合理的な理由になり得る可能性がある」としている。

買収防衛策に対する厳しいスタンスは、(2)の「資本市場の評価を下げるリスクを踏まえた買収防衛策の必要性に関する情報開示の依頼」にも表れている。ここでは、「今後も買収防衛策の継続を株主総会で諮る場合は、現在の株価の状況や資本市場からの企業価値評価をどう捉えているのか」「買収防衛策によってもたらされる投資家からの信頼性の低下についてどのように考えるのか」「企業価値の評価を下げるようなリスクを高めてまで、導入・継続する理由は何か」など、資本市場の評価を下げるリスクを踏まえた買収防衛策の必要性を、議案に付帯する情報として「招集通知」や「適時開示資料」で開示するよう求めている。

企業にとって、こうした疑問に対し投資家の満足に足る回答を示すのは容易ではないと言えるが、仮に買収防衛策を導入・継続する場合には、上記「強いて買収防衛策を導入する理由として考え得る」ケースを参考に投資家とのエンゲージメントに臨む必要がありそうだ。

2018/10/23 ISSが2019年版ポリシー案公表、時価総額上位10社で3人が新独立性基準に抵触

議決権行使助言会社最大手のISS(Institutional Shareholder Services Inc.)は10月18日、2019年版の議決権行使助言方針(以下、ポリシー)改定案を公表、オープンコメントの募集を開始している。2018年8月6日のニュース「ISS、経営トップの再任反対推奨で、ROEに続く新たな指標導入も」でお伝えしたとおり、ISSは来年(2019年)2月から施行する2019年版ポリシーの改定の方向性を決めるため、機関投資家をはじめとする市場関係者の意見を聞くことを目的としたサーベイを実施していたが、今回公表された改定案は本サーベイの結果を踏まえたものとみられる。なお10月23日現在、英語版のみリリースされており、日本語版はない模様。

改定案では、・・・

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2018/10/23 ISSが2019年版ポリシー案公表、時価総額上位10社で3人が新独立性基準に抵触(会員限定)

議決権行使助言会社最大手のISS(Institutional Shareholder Services Inc.)は10月18日、2019年版の議決権行使助言方針(以下、ポリシー)改定案を公表、オープンコメントの募集を開始している。2018年8月6日のニュース「ISS、経営トップの再任反対推奨で、ROEに続く新たな指標導入も」でお伝えしたとおり、ISSは来年(2019年)2月から施行する2019年版ポリシーの改定の方向性を決めるため、機関投資家をはじめとする市場関係者の意見を聞くことを目的としたサーベイを実施していたが、今回公表された改定案は本サーベイの結果を踏まえたものとみられる。なお10月23日現在、英語版のみリリースされており、日本語版はない模様。

改定案では、社外取締役および社外監査役に関する新たな独立性基準として、「自社が政策保有株式として株式を保有している企業の出身者」を「関係のある外部者」、すなわち「独立性がない」とみなすというものが追加される。新基準の適用対象となるのは、従前どおり(2018年版ポリシーの「3. 取締役選任」「4. 監査役選任」参照)、「指名委員会等設置会社の社外取締役」「監査等委員会設置会社の監査等委員である社外取締役」「親会社や支配株主を持つ監査役設置会社の社外取締役()」「監査役設置会社の社外監査役」とみられる。新基準は1年間の準備期間を経て、2020年2月から適用される予定となっている。

 親会社や支配株主がいる会社ほどガバナンスが効きにくいため。

今回のリリースによると、現行の独立性基準をクリアしている社外取締役のうち7.6%が、新基準によって独立性を失うことになるという。

当フォーラムが10月23日現在の時価総額上位10社のうち新基準が適用される5社の社外取締役について確認したところ、31人中4人が新基準に抵触することが分かった。もっとも、そのうち1人は大株主出身でもあり、現行の独立性基準にも抵触しているため、実際には30人中3人、すなわち10%の社外取締役に影響が出るということになる。社外取締役の人数が多く、多数の企業の政策保有を保有している大規模企業ほど影響が大きいと言えよう。

※大株主出身者のため現基準でも非独立として反対推奨されているとみられる。
時価総額順位 社名 社外取締役の人数 新基準による抵触者数 抵触者の出身企業である政策保有株式の発行元
2位 NTTドコモ 2人 0人  
5位 三菱UFJ FG 8人 2人 トヨタ自動車、JT
7位 KDDI 5人 1人 トヨタ自動車(※)
9位 三井住友FG 7人 1人 JR東海
10位 日本郵政 9人 0人  

なお、上述のサーベイにおいて、経営トップの選任議案に関する新たな基準(満たせなければ「経営トップである取締役」の再任議案に反対推奨)の候補として挙げられていた「ネットキャッシュ+有価証券=時価総額」と「PBR<0.1(5年連続)」はともに見送られた。バランスシートに対する考え方は投資家によって異なることもあり、それぞれが独自の観点で判断すればよいということになったものと思われる。以下、参考までに、類似の議決権行使基準を公表している投資家を挙げておく(下線部分が類似点)。

ネットキャッシュ+有価証券=時価総額 : 要するに、「株式の時価総額」が「ネットキャッシュ(現預金-有利子負債)+有価証券」(会社解散時に確実に現金化可能な財産)と同程度でしかないということであり、投資家が事業の価値を一切評価していない状態を指す。
PBR<0.1(5年連続) : PBRが1倍を大幅に下回る場合とは、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりする状態であり、ここではそれが5年続いているという危機的な状況を指す。

○アセットマネジメントOne
以下のいずれかに該当し、合理的な理由が認められない場合、
① 3 期連続赤字かつ 3 期連続無配
② 資本の額が前期比で 50%未満
③ 債務超過
④ 3 期連続で東証一部上場企業の ROE 下位 1/3 分位未満
⑤ 3 期連続でネットキャッシュ比率が 25%以上、東証一部上場企業の ROE1/2 分位未満、決算期末の PBR が 1 倍未満
○大和証券投資信託委託
以下の(ⅰ)~(ⅲ)のいずれかに該当し、かつ、(ⅳ)にも該当する企業。
(ⅰ)3期連続赤字の企業
(ⅱ)直近3期のROEがすべて、同一業種内下位33%水準を下回っている企業
(ⅲ) ROEが直近2期低下傾向にあり、かつ直近決算期のROEが同一業種内下位33%水準を下回っている企業のうち、問題があると判断した企業
(ⅳ)直近決算期末のPBRが同一業種内下位33%にある企業

2018/10/22 台湾が英文開示や監査委員会設置義務付けへ

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

台湾の資本市場の規模は日本と比較して小さい。その分、海外機関投資家へのアピールの必要性という点では日本(企業)より切実なのかのかもしれない。

台湾の金融監督当局である金融監督管理委員会(Financial Supervisory Commission)は(2018年)10月15日、「第12回台北コーポレートガバナンス・フォーラム」を開催した。同フォーラムは2年に一度行われているイベントだが、今年は台湾が2018年からスタートさせたコーポレートガバナンス改革の「新3カ年ロードマップ」への取り組みに関する話題が多く取り上げられた。

昨年2017年は、台湾が2013年から5カ年計画で進めてきたコーポレートガバナンス改革の最終年であったが、この年にACGAが公表したアジアの国別コーポレートガバナンス改革ランキングでは、台湾は11か国中4位に入っている(ちなみに日本は3位)。 

ACGA : Asia Corporate Governance Association(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)の略で、アジアに投資するグローバルな機関投資家の団体。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

このようにコーポレートガバナンス改革に積極的な台湾は、他分野でも日本に先んじてきた。例えば会計分野では、日本ではいまだ任意適用とされているIFRS(国際会計基準)を、既に2013年には全企業に強制適用している。当時IFRSを強制適用しているのはEU企業ぐらいしかなく、また、IFRSは金融機関に向いていると考えられていた中、台湾企業の約7割を占める製造業がIFRSをいかに適用していくのか注目を集めた。また、その頃から台湾証券取引所は企業に対し、GRI(Global Reporting Initiative=グローバル・レポーティング・イニシアティブ)に準拠したCSR報告書を作成することを奨励していた。2014年に導入された日本のスチュワードシップ・コードに相当するスチュワードシップ・プリンシパルの導入は日本より2年遅い2016年となったが、2017年には議決権行使のe-Voting(電子投票)が導入されている。

GRI : GRIは地球環境問題の深刻化を背景に1997年、国連傘下のNGOとして設立された。当初は環境報告書の国際基準を策定することを目的にしていたが、その後、「経済」「環境」「社会」の3つの側面から企業を評価するトリプルボトムラインの考え方を採用することで、GRIのガイドラインは持続可能性(サステナビリティ)報告書の指針となった。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

こうした動きに続くのが、今回の台北コーポレートガバナンス・フォーラムでもテーマとなったコーポレートガバナンス改革の「新3カ年ロードマップ」だ。筆者は同フォーラムに出席し、その後、台湾証券取引所にこのロードマップについてヒアリングを行ったが、日本企業が参考とすべき点が多く見られた。

新3カ年ロードマップは大きく分けて、(1)CSRの更なる強化、(2)ボード(取締役会)の役割の強化、(3)機関投資家の活性化、(4)企業による情報開示の強化、(5)関連法令の強化、5つの柱から構成される。以下、注目される事項について具体的に見ていこう。・・・

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2018/10/22 台湾が英文開示や監査委員会設置義務付けへ(会員限定)

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

台湾の資本市場の規模は日本と比較して小さい。その分、海外機関投資家へのアピールの必要性という点では日本(企業)より切実なのかのかもしれない。

台湾の金融監督当局である金融監督管理委員会(Financial Supervisory Commission)は(2018年)10月15日、「第12回台北コーポレートガバナンス・フォーラム」を開催した。同フォーラムは2年に一度行われているイベントだが、今年は台湾が2018年からスタートさせたコーポレートガバナンス改革の「新3カ年ロードマップ」への取り組みに関する話題が多く取り上げられた。

昨年2017年は、台湾が2013年から5カ年計画で進めてきたコーポレートガバナンス改革の最終年であったが、この年にACGAが公表したアジアの国別コーポレートガバナンス改革ランキングでは、台湾は11か国中4位に入っている(ちなみに日本は3位)。 

ACGA : Asia Corporate Governance Association(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)の略で、アジアに投資するグローバルな機関投資家の団体。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

このようにコーポレートガバナンス改革に積極的な台湾は、他分野でも日本に先んじてきた。例えば会計分野では、日本ではいまだ任意適用とされているIFRS(国際会計基準)を、既に2013年には全企業に強制適用している。当時IFRSを強制適用しているのはEU企業ぐらいしかなく、また、IFRSは金融機関に向いていると考えられていた中、台湾企業の約7割を占める製造業がIFRSをいかに適用していくのか注目を集めた。また、その頃から台湾証券取引所は企業に対し、GRI(Global Reporting Initiative=グローバル・レポーティング・イニシアティブ)に準拠したCSR報告書を作成することを奨励していた。2014年に導入された日本のスチュワードシップ・コードに相当するスチュワードシップ・プリンシパルの導入は日本より2年遅い2016年となったが、2017年には議決権行使のe-Voting(電子投票)が導入されている。

GRI : GRIは地球環境問題の深刻化を背景に1997年、国連傘下のNGOとして設立された。当初は環境報告書の国際基準を策定することを目的にしていたが、その後、「経済」「環境」「社会」の3つの側面から企業を評価するトリプルボトムラインの考え方を採用することで、GRIのガイドラインは持続可能性(サステナビリティ)報告書の指針となった。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

こうした動きに続くのが、今回の台北コーポレートガバナンス・フォーラムでもテーマとなったコーポレートガバナンス改革の「新3カ年ロードマップ」だ。筆者は同フォーラムに出席し、その後、台湾証券取引所にこのロードマップについてヒアリングを行ったが、日本企業が参考とすべき点が多く見られた。

新3カ年ロードマップは大きく分けて、(1)CSRの更なる強化、(2)ボード(取締役会)の役割の強化、(3)機関投資家の活性化、(4)企業による情報開示の強化、(5)関連法令の強化、5つの柱から構成される。以下、注目される事項について具体的に見ていこう。

(1)の「CSRの更なる強化」の背景には、台湾証券取引所によるCSR関連の株価指数の導入計画がある。昨今、EUなどでも似たような議論が盛んだが、これはあくまで台湾独自の取り組みだという。台湾証券取引所としては、もっと多くの台湾企業が、株価指数を開発している米国のMSCIや英国のFTSEのESG指数のレーティングの対象となり、かつレーティングのスコアを伸ばしてもらいたいという思いがあるようだ。

(2)の「ボード(取締役会)の役割強化」では、2020年までに、全上場企業に対し、監査役ではなく「監査委員会」を設置するよう義務付けることを掲げている。台湾の会社法も日本と似ているところがあり、これまでは監査役設置会社が主流だったという。これを今回見直すとともに、ボードの実効性強化のため必要な知見を持った専門家を雇用することも取引所ルールで求めることになった。

(4)の「企業による情報開示の強化」では、上場企業上位約300社に英文開示を義務付け、さらに日本のEDINET/TDNETに類する台湾証券取引所の開示システムをリニューアルすることが計画されている。また、ベストプラクティスとして、年次報告書を事業年度末から60日以内に公表することを奨励している。これは、海外の機関投資家にも議決権行使までに年次報告書を読むのに十分な時間を与えるためだ。

(5)の「関連法令の強化」では、会社法、証券取引法、取引所のルールを改定する。取引所のルールの改定項目として注目されるのは、企業にガバナンスの専門家であることを証する有資格者である「カンパニー・セクレタリー」の設置を義務付けるという点だ(カンパニー・セクレタリーについては2017年8月7日掲載の「コーポレートガバナンス・コードの導入により増えた役割への処遇」参照)。カンパニー・セクレタリー制度は既に英国等で導入されており、会社法上、企業はカンパニー・セクレタリーの有資格者を置くことが義務付けられている。大企業では数十人からなるチームが構成されている場合もある。カンパニー・セクレタリーの主な仕事は、ボード会議への出席のほか、年次報告書を編纂したり、株主総会を運営したりすることであり、英国等では、取締役、取締役会議長、CEO等と並んで、カンパニー・セクレタリーはコーポレート・ガバナンスの重要な一翼を担っている。台湾の取引所のルールの改定はまだドラフト段階であり、どこまで英国に近い制度が導入されるかは分からないが、もし英国同様のカンパニー・セクレタリー制度が導入されれば、新3カ年ロードマップによるコーポレートガバナンス改革の実効性を大きく高めることになるだろう。

台湾という“隣国”で実施されているこうした取り組みは、海外機関投資家などから見ると、日本と比較しやすいかもしれない。海外機関投資家から見れば、日本企業も台湾企業も同じアジア、しかも地理的にも近い国の企業であり、台湾企業が取り組んでいることに日本企業が対応していなければ、「日本企業のガバナンスは遅れている」といった見方をされる恐れもある。それだけに、日本企業としても、台湾で急速に進むコーポレートガバナンス改革には注目しておく必要がある。

2018/10/19 (新用語・難解用語)行使価額修正条項付新株予約権

新株予約権の行使価格(=株式の購入価格)を、権利行使時の株価の一定割合に修正(減額)する条項が付いた新株予約権のこと。例えば、権利行使時の株価が1,000円だとすると、新株予約権の行使価格をその90%の900円に修正するような新株予約券がこの「行使価額修正条項付新株予約権」である。行使価額修正条項付新株予約権は、その「引受人」に利益をもたらすことを約束する一方、「既存株主」は希薄化により不利益を被ることになる。

希薄化 : 「1株当たりの価値」が下がること。希薄化は発行済株式数の増加により起こる。どれくらい希薄化したかを示す「希薄化率」とは発行済株式数の増加率のことであり、「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存株主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、例えばある大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が10%未満」であることを挙げている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。

新株予約権の行使価格が権利行使時の株価の90%に修正される行使価額修正条項付新株予約権を例に、既存株主がどの程度不利益を被るのかを見てみよう。・・・

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2018/10/19 (新用語・難解用語)行使価額修正条項付新株予約権(会員限定)

新株予約権の行使価格(=株式の購入価格)を、権利行使時の株価の一定割合に修正(減額)する条項が付いた新株予約権のこと。例えば、権利行使時の株価が1,000円だとすると、新株予約権の行使価格をその90%の900円に修正するような新株予約券がこの「行使価額修正条項付新株予約権」である。行使価額修正条項付新株予約権は、その「引受人」に利益をもたらすことを約束する一方、「既存株主」は希薄化により不利益を被ることになる。

希薄化 : 「1株当たりの価値」が下がること。希薄化は発行済株式数の増加により起こる。どれくらい希薄化したかを示す「希薄化率」とは発行済株式数の増加率のことであり、「新規発行株式数 / 既発行株式数」によって計算される。既存株主からすれば、希薄化により一株当たり株主価値が低下するのみならず、議決権比率が低下し、投資先企業への影響力も薄まることになる。そこで、例えばある大手機関投資家は、株式報酬制度の導入に関する議案への賛成の条件として、「希薄化率が10%未満」であることを挙げている。発行済み株式数のみならず、今後実際の株式に転換される可能性のあるストックオプションや転換社債などまで含めた株式数をベースに計算された希薄化を「完全希薄化(Fully Diluted)」という。

新株予約権の行使価格が権利行使時の株価の90%に修正される行使価額修正条項付新株予約権を例に、既存株主がどの程度不利益を被るのかを見てみよう。権利行使時の株価を1,000円とすると、権利行使価格(=株式の購入価格)はその90%となるため、引受人は900円で株式を購入できることになる。そして、当該株式を権利行使後直ちに時価1,000円で売却すれば、引受人は100円の利益を得ることができる。さらに、「空売り」を活用すれば、引受人の利益はさらに拡大する。例えば株価が1,000円の時に空売りを行い、株価が900円に下落したとする。この時点で行使価額修正条項付新株予約権を行使すれば、810円(=900円×90%)で株式が購入できる。この場合、引受人は、空売り時の株価1,000円から権利行使価格の810円を差し引いた190円の利益を得ることになる。その一方で、既存株主は、新株予約権の行使による株式数の増加に伴う希薄化という不利益に加え、株価の大幅下落という不利益も被ることになる。

空売り : 保有していない株式(証券会社などから借りてきたもの)を売って(空売り)株価を下げ、それを見た他の投資家が売りに追随することで株価が下落し切ったところで買い戻し、買い戻した株式を借手に返却するというように(この場合、売却により得た金額よりも買戻しに要する金額の方が低いため、「売却額-返却額」の利益が発生)、株価の下落から利益を獲得すること。

このように既存株主に多大な不利益を与える可能性がある行使価格修正条項付新株予約権は、主として赤字続きで、銀行からの融資が期待できず、また公募増資が困難な企業(例:バイオベンチャー)の資金調達手段として用いられてきた(このため、行使価格修正条項付新株予約権に対してネガティブなイメージを持つ向きも多い)。しかし、2015年6月からコーポレートガバナンス・コードが施行され、「上場会社は資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、資本政策の基本的な方針について説明を行う」ことが求められるようになった(原則1-3【資本政策の基本的な方針】)。したがって、上場企業の経営陣は、単に自社の資金需要を満たすだけではなく、可能な限り株主に不利益を与えず、かつ納得感が得られる資金調達方法を選択する必要がある。

公募増資 : 「公募」という言葉通り、現在の株主や特定の第三者に限定することなく、広く一般から株主を募集し、新株を割り当てる方法による増資のこと。払込金額は時価より多少低めとするのが一般的。

こうした中、ここ数年、企業(株式の発行会社)と引受人(一般的には証券会社)との間で「コミットメント契約(一定の約束事を付した契約)」を結び、既存株主の利益に配慮したタイプの「行使価格修正条項付新株予約権」の第三者割当による資金調達が増加している。よく見受けられるコミットメント契約の内容としては下表のようなものがある。

>コミットメント 内容 効果
(1)新株予約権の行使の要請 発行会社は引受人に対し、株価水準等に応じて、新株予約権の行使を指示することができる。 権利行使の不確実性を排除でき、機動的な資金調達が可能になる。
(2)新株予約権の行使の禁止 発行会社に切迫した資金需要がない状況などにおいて、発行会社は引受人に対し、新株予約権の行使を禁止することができる。 一度に新株予約権が行使されることによる希薄化の防止。
(3)一定の経営成績の達成 例えば、発行会社が決算短信等の業績予測において「営業利益××百万円以上」といった経営成績を掲げることを新株予約権の行使条件とする。 業績悪化により株価が低下した際に新株予約権が行使され、発行済株式数が大幅に増加することによる希薄化の防止。
(4)新株予約権の買取請求 株価が新株予約権の行使価格の下限を下回った場合(上限は設けない)、引受人は発行会社に対し、新株予約権の買取りを請求できる。
逆に、発行会社が資金調達の目的を達成した場合、発行会社から引受人に対し新株予約権の買取りを請求できるとするコミットメント契約も見受けられる。
引受人、発行会社それぞれにとって新株予約権を行使するメリットがない場合、無用な希薄化を防止することができる。
また、行使価格に上限を設けないことで、発行会社にとっては、株価上昇時には調達金額が増大するという効果がある。
(5)新株予約権の譲渡制限 引受人は、発行会社の事前の承認がない限り、新株予約権を発行会社以外の第三者に譲渡することができない。 新株予約権が投機的な投資家に売却されることを防止できる。

下表は、シェアリングテクノロジー㈱のコミットメント契約が付された行使価額修正条項付新株予約権(第三者割当増資)の募集要項である。「(4)当該発行による潜在株式数」に記載されているとおり、新株予約権の行使により発行される株式数の上限が設定され、また、行使価格には下限を設け、既存株主の利益を一定程度保護する設計となっている。そのうえで、「(9)その他」には、新株予約権の行使の要請、新株予約権の行使の禁止など、上表と同様のコミットメント契約の内容を盛り込んでいる。

(1)割当日 平成30年6月11日
(2)発行新株予約権数 916個
(3)発行価額 新株予約権1個当たり 6,118 円(総額 5,604,088 円)
(4)当該発行による潜在株式数 潜在株式数:916,000 株
上限行使価額はありません。
下限行使価額は 1,769 円ですが、下限行使価額においても、潜在株式数は 916,000 株です。
(5)調達資金の額 2,696,972,088 円(差引手取概算額)
(6)行使価額及び行使価額の修正条件 当初行使価額 2,948 円
行使価額は、本新株予約権の各行使請求の効力発生日の直前取引日の株式会社東京証券取引所(以下「東京証券取引所」といいます。)における当社普通株式の普通取引の終値の 92%に相当する金額に修正されますが、その価額が下限行使価額を下回る場合には、下限行使価額が修正後の行使価額となります。
(7)募集又は割当方法 第三者割当ての方法による
(8)割当予定先 大和証券株式会社
(9)その他 当社は、大和証券株式会社(以下「大和証券」といいます。)との間で、金融商品取引法に基づく届出の効力発生後に、本新株予約権に係る買取契約(以下「本新株予約権買取契約」といいます。)及びコミットメント契約を締結する予定です。コミットメント契約においては、以下の内容が定められます。詳細は、「3.資金調達方法の概要及び選択理由 (1)資金調達方法の概要」に記載しております。
・ 当社による本新株予約権の行使の要請
・ 当社による本新株予約権の行使の禁止
・ 当社の経営成績達成に関する本新株予約権の行使条件
・ 大和証券による本新株予約権の取得に係る請求また、本新株予約権買取契約及びコミットメント契約において、大和証券は、当社取締役会の事前の承認がない限り、本新株予約権を当社以外の第三者に譲渡することはできない旨、並びに大和証券が本新株予約権を譲渡する場合には、あらかじめ譲渡先となる者に対して、当社との間で譲渡制限の内容及びコミットメント契約の内容を約束させ、また、譲渡先となる者がさらに第三者に譲渡する場合にも当社に 対して同様の内容を約束させるものとする旨を規定する予定です。なお、大和証券が、本新株予約権の行使により交付された株式を第三者に譲渡することは妨げられません。

以上のように既存株主の利益に配慮することで、通常の行使価額修正条項付新株予約権よりは既存株主に受け入れられやすい「コミットメント契約付き行使価額修正条項付新株予約権」だが、それでもデメリットは存在する。上場企業の経営陣は、下表にまとめたメリット・デメリットと、自社が置かれた状況(株価や業績、資金調達の規模や時期)を総合的に勘案したうえで、自社の資金調達手法として適しているかどうかを判断する必要がある。

メリット デメリット
(1)資金需要や株価動向を総合的に判断したうえで、柔軟な資金調達が可能。
(2)「最大増加株式数の上限の設定」「行使価格の下限の設定」「業績条件の設定」を組み合わせることにより、希薄化をある程度抑えることが可能。
(3)行使価額には上限が設定されていないため、株価上昇時には調達金額が増大。
(1)株価の動向次第で、権利行使完了までには一定の期間が必要。
(2)株価が下落した場合、調達額が当初の予定額を下回る可能性。
(3)株価が行使価額の下限を下回り続けた場合、資金調達できない。
(4) 業績条件をクリアできない場合、資金調達できない。

2018/10/18 スルガ銀行問題は責任追及の局面に 監査役協会会長が異例の声明

不祥事を起こした企業では、不祥事の内容や金額的重要性によっては、第三者委員会を設置して調査を委嘱するケースが目に付く(第三者委員会の設置については【不祥事】子会社で不祥事が発覚した の「初動の対応が調査のカギを握る」を参照)。第三者委員会がとりまとめる調査報告書では、事実認定を行ったうえで、再発防止策と正しい会計処理(不祥事発覚により会計処理の訂正や追加が必要となり、売上高や利益が変動する場合)を提案するのが通常だが、この調査報告書を受けて役員の処分等が公表されることから、調査報告書は再発防止策や正しい会計処理を提案するに留まらず、「役員の法的責任」も追及しているかのように誤解している向きが少なくない。しかし、不祥事を起こした各社の調査報告書を見ると、「法的責任の有無の判断およびその追及を目的とするものではない」と明記しているものが大半となっている(例えば【失敗学第50回】省電舎ホールディングスの事例における第三者委員会の調査報告書7ページ下を参照)。日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、日弁連ガイドライン)にも「第三者委員会は関係者の法的責任追及を直接の目的にする委員会ではない。関係者の法的責任追及を目的とする委員会とは別組織とすべき場合が多いであろう」とあるとおり(日弁連ガイドラインの1ページ下部を参照)、調査報告と責任追及はそれぞれ別組織が行うのが一般的だ。

また、調査報告と責任追及では、組織のみならず「タイミング」も異なる。調査報告は会計処理の訂正や追加の提案を通じて有価証券報告書の訂正や決算短信の訂正などにつながる場合があるため、時間的制約がある中で進められる。一方、責任追及は法的責任の認定に踏み込む以上、会社から役員への損害賠償訴訟や株主の代表訴訟に影響を与えることになる。このため、調査報告を受けてから、より慎重に、かつ時間を費やして行われるのが通常だ。不祥事の代表例として・・・

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2018/10/18 スルガ銀行問題は責任追及の局面に 監査役協会会長が異例の声明(会員名簿)

不祥事を起こした企業では、不祥事の内容や金額的重要性によっては、第三者委員会を設置して調査を委嘱するケースが目に付く(第三者委員会の設置については【不祥事】子会社で不祥事が発覚した の「初動の対応が調査のカギを握る」を参照)。第三者委員会がとりまとめる調査報告書では、事実認定を行ったうえで、再発防止策と正しい会計処理(不祥事発覚により会計処理の訂正や追加が必要となり、売上高や利益が変動する場合)を提案するのが通常だが、この調査報告書を受けて役員の処分等が公表されることから、調査報告書は再発防止策や正しい会計処理を提案するに留まらず、「役員の法的責任」も追及しているかのように誤解している向きが少なくない。しかし、不祥事を起こした各社の調査報告書を見ると、「法的責任の有無の判断およびその追及を目的とするものではない」と明記しているものが大半となっている(例えば【失敗学第50回】省電舎ホールディングスの事例における第三者委員会の調査報告書7ページ下を参照)。日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、日弁連ガイドライン)にも「第三者委員会は関係者の法的責任追及を直接の目的にする委員会ではない。関係者の法的責任追及を目的とする委員会とは別組織とすべき場合が多いであろう」とあるとおり(日弁連ガイドラインの1ページ下部を参照)、調査報告と責任追及はそれぞれ別組織が行うのが一般的だ。

また、調査報告と責任追及では、組織のみならず「タイミング」も異なる。調査報告は会計処理の訂正や追加の提案を通じて有価証券報告書の訂正や決算短信の訂正などにつながる場合があるため、時間的制約がある中で進められる。一方、責任追及は法的責任の認定に踏み込む以上、会社から役員への損害賠償訴訟や株主の代表訴訟に影響を与えることになる。このため、調査報告を受けてから、より慎重に、かつ時間を費やして行われるのが通常だ。不祥事の代表例として東芝とオリンパスの例を取り上げると、第三者委員会調査報告書の公表日と責任調査報告書の公表日の違いは下表のとおりとなっている。

  東芝 オリンパス
調査報告 2015年7月20日公表
第三者委員会調査報告書はこちら
2011年12月6日公表
第三者委員会調査報告書はこちら
責任追及 2015年11月9日公表
役員責任調査委員会の調査報告書はこちら
2012年1月10日公表
取締役責任調査委員会の調査報告書はこちら
2012年1月17日公表
監査役等責任調査委員会の調査報告書はこちら

実は、上表の下段、すなわち第三者による責任追及のための調査にまで至るケースは多くなく、むしろレアケースと言える。通常は社内判断(場合によっては弁護士の意見書入手)に留まり、第三者により責任追及のための調査まで行われるのは、役員に当該不祥事の責任がある可能性が濃厚である場合や世間の耳目を集めた事件など限定的だ。

最近起きた企業不祥事では、スルガ銀行で不正融資問題についての調査報告が終わり、責任追及のための調査のステージに移行したところ。同行は2018年9月7日に「第三者委員会の調査報告書」を公表し、その1週間後の9月14日には「取締役等責任調査委員会」および「監査役責任調査委員会」の設置をリリースしている。ちなみに同行の責任調査委員会は、「取締役等責任調査委員会」の方が「現旧取締役および現旧執行役員から独立した弁護士および同行の社外監査役(2018年6月に新たに選任された2名)」、「監査役責任調査委員会」の方が「同行および現旧監査役から独立した弁護士」により構成されており、「第三者委員会」を謳っているわけではない。

スルガ銀行の不正融資問題を調査した第三者委員会の報告書によると、取締役の責任が指摘されたのは当然のこととして、同行の常勤監査役についても「不祥事の兆候を知りながら適切な調査をしていなかった」ことが監査役の善管注意義務違反に当たる旨指摘されている(第三者委員会の報告書の272ページを参照)。また、第三者委員会の報告書は「常勤監査役には、監査役として職務を遂行する覚悟がなかった」「同じ釜のメシを食った仲でも、厳しく断罪しなければならない」「役員定年までの安らかなひとときにはならない」と、常勤監査役のスタンスについて厳しく批判している(第三者委員会の報告書の320ページを参照)。

スルガ銀行の常勤監査役の責任問題が問われる中、公益社団法人日本監査役協会(以下、監査役協会)の岡田会長は(2018年)10月15日、会長声明「最近の企業不祥事について」を発出した(会長声明上、行名は明記されず)。特定の不祥事を契機として監査役協会の会長声明が公表されるのは極めて異例。会長声明では「今回の事案は、不祥事への経営層の関与が黙認されるなかで、内部統制システムが無効化した典型例」として、「監査役等の最大の責務は「取締役等の職務執行」と「内部統制システムの相当性」に関する監査であり、その責務を果たすためには、不正等の兆候に直面した場合、躊躇せずに経営陣に対して毅然とした態度で臨む覚悟」が求められるとしている。そのうえで、監査役に対して「今回の件を機に、このような不祥事が今後決して起きないよう、今一度自らの責務を謙虚に振り返るとともに引き続き実効性ある監査に努め、監査活動のより一層の充実を図っていただきたい」と呼び掛けている。

ガバナンスの確保に向けて監査役に寄せられる期待は大きい。監査役は、その期待に応えるべく、会長が説くように本件を「自らの責務」を問い直して監査活動を充実させるきっかけにしたいところだ。