2018/09/07 株主総会資料、EDINETでの提供は認めず 書面交付をふるい落す措置も

コーポレートガバナンス関係の会社法改正について検討を進めている法務省の会社法制(企業統治等関係)部会では、株主総会招集通知をはじめとする株主総会関係資料の提供を従来の「紙」から原則として「電子データ」に限定する「株主総会資料の電子提供制度の創設」がテーマの一つとなっているが(同制度の概要は2018年3月2日のニュース『ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ』の表の一番上を参照)、このほどその詳細が明らかになった。その内容は、上場会社にとっては明暗が混在するものとなっている。・・・

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2018/09/07 株主総会資料、EDINETでの提供は認めず 書面交付をふるい落す措置も(会員限定)

コーポレートガバナンス関係の会社法改正について検討を進めている法務省の会社法制(企業統治等関係)部会では、株主総会招集通知をはじめとする株主総会関係資料の提供を従来の「紙」から原則として「電子データ」に限定する「株主総会資料の電子提供制度の創設」がテーマの一つとなっているが(同制度の概要は2018年3月2日のニュース『ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ』の表の一番上を参照)、このほどその詳細が明らかになった。上場会社にとっては明暗が混在する内容となっている。

既報のとおり、同部会は2018年2月28日には会社法の改正内容の大枠をまとめた「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下、中間試案)を公表(中間試案全体の内容についても2018年3月2日のニュース『ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ』参照)、現在は中間試案に対して寄せられたパブリックコメントを踏まえ、2018年内の会社法改正法律案要綱の確定と2019年1月頃の会社法改正法案国会提出を目指し議論が進められているが、先月(2018年8月)29日に示された「要綱案たたき台」では、株主への株主総会関係資料の電子提供制度の詳細が明らかになっている。

まず注目されるのが、中間試案でも示されていたとおり、上場会社は電子提供制度の利用が「義務付けられる」ことが明記された点だ。要綱案たたき台の1ページには「振替法第1282条第1項に規定する振替株式を発行している会社は、当該改正法の施行の日を効力発生日とする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなす」とある。この「みなし規定」の存在により、上場会社は株主総会関係資料を電子提供することについての定款変更議案を株主総会に諮る必要はなくなる。逆に言うと、上場会社は選択の余地なく電子提供制度を利用しなければならないことになる。

振替株式 : 「社債、株式等の振替に関する法律」に基づき、株主等の権利の管理(発生、移転及び消滅)をすべて証券保管振替機構および証券会社に開設された口座において電子的に行う制度を利用する株式。上場会社の株式はすべて振替株式である。

このように会社側には選択の余地なく株主総会関係資料の電子提供制度が義務付けられるのとは対照的に、株主側には選択の余地が認められている。すなわち、株主は株主総会資料をインターネットで受け取るか、紙で受け取るか(書面交付)を選択できる。これはデジタル・ディバイドへの配慮であり、インターネット環境にないシニア層などが書面交付を選択することが見込まれる。

デジタル・ディバイド : デジタル・ディバイドとは、ICT(Information and Communication Technologyの略で、情報・通信に関する技術の総称。ITと同義)に関する知識の有無により情報格差や経済格差が広がっていること。デジタル・ディバイドにより生まれたICT弱者に配慮することは政府の政策課題の一つになっている。

ただ、書面交付を選択した株主のために企業が印刷・発送コストを未来永劫負担し続けなければならないのかというとそうではない。要綱案たたき台には企業のコスト負担を将来的に減らすための仕組みも盛り込まれている。具体的には、株主による書面交付請求の日から「3年」を経過した場合、上場会社は当該株主に対し「書面の交付を終了する旨を通知し、かつ、これに異議のある場合には一定の期間(この期間は1か月を下ることができない)内に異議を述べるべき旨を催告することができる」という仕組みを設けることとされた。例えば、一度書面交付を請求してきた株主に対し「書面交付を終了する」旨を通知し、これに対し株主が特段の異議を述べなければ、自動的に書面交付から電子提供に切り替わることになる。逆に言うと、引き続き書面交付を望む株主は、3年ごとに“能動的に”その旨を意思表示しなければならないというわけだ。この仕組みが導入されれば、上場会社は、一度書面交付を請求した後毎年惰性で書面交付を受け続けていた株主を3年ごとに相当数ふるい落とすことができる。この仕組みはあくまで「できる」規定として設けられるため、上場会社は書面交付を終了する旨を必ず通知しなければならないわけではないが、書面交付によるコスト削減策として活用されそうだ。

一方、EDINETを通じて株主総会関係資料を電子提供することを認める案(2017年12月13日のニュース「実現すれば株主総会の後ろ倒し加速も 招集通知提出にEDINET利用案浮上」参照)は廃案となった。本案については「積極的な意見が多数」(会社法制(企業統治等関係)部会資料19の「株主総会に関する規律の見直しについての個別論点の検討」8ページ目を参照)であっただけに意外感もあるが、EDINETが「行政上のサービスとして実施されているにすぎず、法的な裏付けが存在しない」のがその理由。「法的な裏付けが存在しないもの」に依拠することはできないというのが会社法制(企業統治等関係)部会のスタンスだ。

仮にEDINETを通じて有価証券報告書と一体化した株主総会関係資料を電子提供することが認められれば、定時株主総会は必然的に有価証券報告書提出“後”の開催となることから、現状の有価証券報告書提出までの一般的なスケジュール(決算日後2か月半を超えるタイミングで提出)を考慮すると、株主総会の後ろ倒し開催と親和性があり、株主総会を後ろ倒しで開催する上場会社が増えるとの期待もあった。しかし、EDINET活用案が白紙となったことで、株主総会の後ろ倒し開催の普及はまた一歩遠のいたとも言えよう。

2018/09/06 税制適格ストックオプションの権利行使上限額、一挙に2倍以上も

リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)など新しいタイプの株式報酬を導入する上場企業が相次いでいることに伴い、相対的に存在感が薄まりつつあるストックオプションだが、こうした中、・・・

リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬

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2018/09/06 税制適格ストックオプションの権利行使上限額、一挙に2倍以上も(会員限定)

リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)など新しいタイプの株式報酬を導入する上場企業が相次いでいることに伴い、相対的に存在感が薄まりつつあるストックオプションだが、こうした中、経済産業省は2019年度税制改正(2018年12月中旬頃に内容が確定)に向け、税制適格ストックオプションの緩和を求めている(平成31年度 税制改正に関する経済産業省要望 税制改正に関する経済産業省要望 【 概 要 】参照)。

リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬
税制適格ストックオプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を購入した時点で生じている含み益(株式の購入価格-ストックオプションの発行費用)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入した時点で課税されない)ストックオプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~10年後までの最大8年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「年間1,200万円まで」などがある。

具体的には、現行の税制適格ストックオプションでは自社の取締役、執行役、使用人等に限られている付与対象者に「兼業者」や「出向者」などを加える案が浮上しているほか、権利行使価額の上限の引上げも検討されることになりそうだ。現状、税制適格ストックオプションの権利行使価額は「年間1,200万円まで」とされているが、従来から「1,200万円ではインセンティブとしては低すぎる」との指摘がある。そこで経済産業省は、権利行使価額の上限を一挙に2倍(2,400万円)以上の金額に引き上げることを目指す。

このほか、権利行使期間(現状、付与決議後2年~10年)の拡大も検討される。上述のとおり今回付与対者に追加される可能性がある「兼業者」や「出向者」は在籍期間が短いケースがあることなどを考慮し、2年より短い期間での権利行使を可能にする一方、企業の成長をより長期スパンで考える観点から10年超の期間でも権利行使ができるようにすることを検討する。

経済産業省の税制改正要望には「ベンチャー企業の成長を支える国内外の高度・専門人材が、兼業・副業等の多様な働き方を通じ活躍できるよう、・・・」とあることから、本改正は未上場のベンチャー企業等のみが対象になるのではないかとの見方があるが、当フォーラムの取材によると、上場企業も対象になることが確認されている。

取締役等へのインセンティブ報酬としてストックオプションを導入している上場企業は少なくないだけに、権利行使価額の上限引上げを中心に、本改正案は上場企業にとっても魅力的なものと言える。実現すれば、取締役等のインセンティブ報酬としてストックオプションの割合を増やす、あるいは新たにストックオプションを導入する上場企業が増える可能性もありそうだ。

2018/09/05 「日本版司法取引」の活用を検討する際の企業・役員の留意点

「日本版司法取引」を可能にする改正刑事訴訟法が(2018年)6月1日に施行されてから1か月余りで早速初の適用事例が出たことは新聞報道等のとおりだが、企業の受け止め方(深刻度)には温度差があるようだ。その原因の一つとして、・・・

初の適用事例 : 三菱日立パワーシステムズの幹部(3人)がタイにおける火力発電所建設に絡み現地公務員に賄賂を提供していたとして、東京地検特捜部は2018年7月20日付で幹部3人を在宅起訴する一方、同社は東京地検と司法取引に応じ捜査に全面協力した見返りとして、法人としての起訴を免れた事例。

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2018/09/05 「日本版司法取引」の活用を検討する際の企業・役員の留意点(会員限定)

「日本版司法取引」を可能にする改正刑事訴訟法が(2018年)6月1日に施行されてから1か月余りで早速初の適用事例が出たことは新聞報道等のとおりだが、企業の受け止め方(深刻度)には温度差があるようだ。その原因の一つとして、初の適用事例が「外国公務員贈賄罪」に関するものであったということが考えられる。外国公務員贈賄罪のリスクについては当フォーラムでもとり上げてきたところだが(2017年1月30日掲載の【役員会 Good&Bad発言集】「グローバルレベルで強化される外国公務員贈賄罪のリスク」、2014年4月9日のニュース「どこまでOK?外国公務員への利益供与」参照)、1998年の不正競争防止法(施行は1999年2月~)により外国公務員贈賄罪が導入されてから約20年の間に同罪で立件された事例はわずか4件しかない。「ウチには関係ない」と思う企業があったとしても致し方ないところだろう。

初の適用事例 : 三菱日立パワーシステムズの幹部(3人)がタイにおける火力発電所建設に絡み現地公務員に賄賂を提供していたとして、東京地検特捜部は2018年7月20日付で幹部3人を在宅起訴する一方、同社は東京地検と司法取引に応じ捜査に全面協力した見返りとして、法人としての起訴を免れた事例。

しかし、日本版司法取引は外国公務員贈賄罪のような特殊な犯罪のみを対象としているわけではない。日本版司法取引の適用対象となる犯罪は改正刑事訴訟法350条の2第2項に規定されているが、条文を見れば分かるように、その範囲は非常に広い。談合、贈収賄、詐欺、背任、横領などはもちろん、「その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの」(同条同項三号)が対象となるとされており、政令(刑事訴訟法350条の2第2項第三号の罪を定める政令)には、各種の業法のほか、税法、金商法、会社法など、企業にとってお馴染みの法律が並ぶ。つまり、これらの法律に規定されている刑罰は全て司法取引の対象になるということだ。近い将来、二番目の適用事例が出てきたとしても何ら不思議ではない。

その場合、日本版司法取引の仕組みや創設の目的を踏まえれば、日本版司法取引によって“売られる”可能性が高いのは経営トップや取締役などの経営陣だろう。海外ドラマなどを見ていると頻繁に司法取引のシーンが出てくるが、そこで行われている司法取引は一般的には自分の罪を減免するために「自分の罪」を明らかにするものであるのに対し、日本版司法取引は自分の罪を軽くするために「他人の刑事事件」について供述したり証拠を出したりするものであるという点で、両者は大きく異なる。「日本版」という修飾が付いているのもこのためだ。いわば「自分のために他人を売る」のが日本版司法取引の特徴と言えるが、この点について、日本版司法取引の導入議論の際には「日本人の気質に合わない」といった批判も多く聞かれた。こうした批判がある中でも日本版司法取引が導入された背景には、“組織ぐるみ”などとも言われる組織的な犯罪では、事件の解明に向けた有効な供述が得られにくいということがある。裏を返せば、日本版司法取引は、例えば実行犯である一般社員から「罪の減免」というメリットと引き換えに有力な供述や証拠、捜査への協力などを引き出し、通常は組織的犯罪において中心的な役割を果たす経営陣や経営トップの刑事責任を追及するための“ツール”と言える。

日本版司法取引の当事者となるのは被疑者被告人だが、適用第一号となった三菱日立パワーシステムズの事例で幹部が起訴される代わりに同社が起訴を免れたことからも分かるように、日本版司法取引では個人のみならず、企業も当事者となり得る。これは、多くの特別法には「両罰規定」が置かれているため。両罰規定とは、犯罪行為をした個人のみならず、それが業務の中で行われている以上は、企業も処罰するという規定であり、両罰規定により被疑者や被告人となる企業は、日本版司法取引においても当事者となる。三菱日立パワーシステムズの事例では、当事者である同社が、「他人」である役員の犯罪の捜査に協力したことで、役員が起訴される一方、会社が不起訴となるという結果となったわけだ。

被疑者 : 警察や検察などの捜査機関から犯罪の疑いをかけられ捜査の対象となっている者。いまだ起訴されていないという点、被告人とは異なる。
被告人 : 検察官から起訴された者。被疑者が検察官により起訴されると被告人となる。
特別法 : 適用対象がより特定されている法律のこと。特別法と対照的な概念が「一般法」であり、適用対象がより広い法律のことを指す。例えば民法と会社法の関係では、民法が一般法であるのに対し会社法は特別法となる。特別法は一般法に優先するため、一般法と特別法で異なった規定が置かれている場合には、特別法の適用を受ける事象については一般法の規定が排除され、特別法の規定が適用される。

では、以上も踏まえると、日本版司法取引を活用するか否かの判断を迫られる局面が訪れた場合、企業や役員はどのような観点からそれを検討すればよいのだろうか。

まずやるべきなのは、判断に必要な材料集めだ。具体的には、自社に対してどの法律が適用されどのような刑事責任(何罪)が科される可能性があるのか、過去の事例ではどの程度の制裁が科されたのか、さらには刑事責任に付随して国や地方自治体等における入札の指名停止などの行政処分があるのか――等々を総合的に考慮して、司法取引を行うかどうかを検討していく必要がある。

また、日本版司法取引は、自社の経営トップあるいは現経営陣にとって不利になる証拠や情報等を検察官等に提出したり供述したりするものであるだけに、企業側としても難しい判断を迫られることになる。その際に整理しておくべきなのは、「司法取引によって最終的に何を守りたいのか」という点だ。会社自体や会社のレピュテーション・信用力を守るのか、あるいは現経営陣(例えば「オーナー」ということもあろう)を守るのかなど、様々な価値判断があり得よう。これらの点は、司法取引の当事者となっている経営陣等以外の役員が中心になって協議し、判断することになろう。

さらに、司法取引をしたことにより得られる「恩恵」がどの程度のものなのかという点についての検証も必須となる。「不起訴」「求刑を軽くする」など、司法取引による恩恵のメニューには色々なものがあるが、企業にとっては目指すべきは何と言っても「不起訴」ということになる。量刑はさておき、企業にとって「起訴をされた」という事実は非常に重いものがある。取引の制限、入札制限といった目に見える影響が出てくるばかりでなく、世間の捉え方も、起訴されたかどうかでは大きく異なる。求刑を軽くしてもらう(これを「求刑の合意」という)ことを目指して司法取引を行うこともあり得ないではないが、検察側がどれくらい求刑を下げるのか明示的に示してくれるとは限らないうえ、求刑を下げたからと言って、裁判所の判断は求刑の合意には拘束されないため、場合によっては求刑を上回る判決が出てしまう可能性もある。これらの点を考慮すると、求刑の合意は企業にとって使いにくい面があろう。繰り返しになるが、企業が司法取引のメリットを最大限に受けるためには、やはり「不起訴」を獲得するということを最優先に考えるべきと言える。実際、第一号事例でも、三菱日立パワーシステムズは不起訴になっている。

ここまで司法取引を行うかどうかを判断するための要素について解説してきたが、司法取引を行うことを“攻め”とすれば、司法取引に巻き込まれることから自社や自社の経営陣等を防御する“守り”についても検討しておく必要がある。自分の罪を減免するために「他人の刑事事件」について話をしたり証拠を出したりする日本版司法取引においては、自分が助かるため、ありもしない他人の罪をでっちあげることもあり得る(これを「引っ張り込み」という)。この点については日本版司法取引の導入議論の段階でも強い懸念が示されたことを受け、日本版司法取引を規定した改正刑事訴訟法には「虚偽供述等処罰罪」が設けられたものの、それだけで引っ張り込みのリスクが完全に消えるわけではない。企業は、司法取引において“攻め”と “守り”双方の立場になり得るということであり、特に企業の上層部となればなるほど、引っ張り込みのターゲットにされるリスクは高い。

引っ張り込みのリスクを低減するために最も有効なのが、迅速な調査だ。例えば4社(A~D社とする)が絡む談合事件で、A社とB社が、C社とD社あるいはその役職員について虚偽の供述をする可能性がある。これを未然に防ぐためには、いかに重要な証拠等をどれだけ早く捜査当局等に持ち込めるかがカギを握る。刑事手続きは、告発、被害届、報道など捜査の端緒を掴むところから始まり、「任意捜査→強制捜査(逮捕・捜索)→検察捜査(拘留)→起訴(あるいは不起訴)→裁判」と進んでいくが、日本版司法取引はそのどの段階でも行うことができる。重要証拠等をできるだけ早く捜査当局等に持ち込むためにも、迅速な社内調査を実施する必要がある。ここでいう社内調査とは文字通り社内のリソースを使った調査であり、第三者委員会などは想定していない。第三者委員会のメンバーは社外の者により構成されるため、社内事情を把握してもらうだけでも時間を要してしまうからだ。日本版司法取引では“スピード”が重要であるということを強く意識する必要がある。

もっとも、調査はただ早ければいいということではない。不十分な調査のまま捜査当局に情報提供等を行ったところ、後になって事件への関与者が捜査当局の捜査によって出て来てしまうということも考えられる。中途半端な調査により中途半端な司法取引をしたことでより大きなダメージを受けてしまうという最悪のパターンと言える。上述のとおり司法取引は時間との戦いであるため完璧な調査を実施するのは困難とはいえ、企業は「迅速でありながらそれなりに徹底した調査」を心掛けるようにしたい。少なくとも、重要事案を見逃すような調査は避けなければならない。仮に引っ張り込みにあった場合、「捜査当局は捜査が進めばいずれ我々が潔白であることを分かってくれるだろう」と考えるのは、企業のリスクマネジメントとしては甘いと言わざるを得ない。自ら積極的に身の潔白を立証していく姿勢が必要になる。そのためには、社内調査の段階で具体的かつ詳細な供述やそれを裏付ける客観的な証拠や資料をどれだけ収集できるかが重要となろう。

2018/09/04 産業構造の変化を後押しする機関投資家(会員限定)

長年日本経済のエンジンであり続けてきた自動車産業に大きな地殻変動が起きている。

中国では昨年、電気自動車(EV)の販売台数の累計が100万台を超えたが、EV関連の情報サイト「EV-Volumes」によると、中国に続き欧州でもEVの販売台数が累計100万台を突破したという。欧州32か国における2018年上半期のEV販売台数は19万5,000台と、前年同期比で42%も増加している。もはやEV化の波が止まることはないだろう。ちなみに、欧州の国別ランキングで1位となったのは人口わずか約500万人のノルウェーで、2018年上半期の販売台数は3万6,500台に上った。同国政府はEV購入時の税金や有料道路の料金免除などEV購入促進策を推進しており、2017年には世界で初めて全新車販売台数の半数以上をEVが占めるに至っている。ただし、前年同期比の伸び率では、自動車産業における日本のライバルであるドイツの方が大きく、今年中にEV販売台数で欧州トップに躍り出ると予想されている。

EV販売台数の増加に加え、自動車産業を揺るがしているのが異業種からの参入だ。吸引力の強い掃除機や羽根のない扇風機など特色のある商品で日本でも知名度が高い英国の家電大手ダイソンがEV試験場の整備を計画するなど、EV市場への参入を準備していることが欧州で話題を呼んでいる。同社は、米国テスラに対抗できる高級EVの開発を目指しており、2021年までの市場参入を狙っているという。

こうした動きに機関投資家は早速反応しており、ここ最近、EV関連株式ファンドの立ち上げが相次いでいる。サステナビリティ投資に特化するスイスのロベコSAMと米国ニューバーガー・バーマンは8月末、EVのほか、無人自動車、インターネット通信技術を標準搭載した車であるコネクテッド・カーの関連株ファンドを立ち上げた。ロベコSAMは、2030年までに全世界の自動車販売の3分の1はEVが占め、EVの市場規模は1兆4,000億ドルに達すると予想している。また、ニューバーガー・バーマンは、自動車への搭載が必要なセンサーやソフトウェア等のサプライヤーへの投資機会が生み出されている点を強調する。

産業構造の変化の背後には巨大な資金のうねりがあり、その舵取りをしているのが機関投資家である。 当フォーラムでも機関投資家の動きは常にウォッチしていきたい。

2018/09/03 (新用語・難解用語)新・派遣切り

2008年のリーマンショックの際には、メーカー等を中心に大規模な派遣労働者の派遣契約の打ち切りが発生し「派遣切り」という言葉が広く流布されたが、これに似た言葉で最近よく耳にするのが“新・派遣切り”だ。

派遣労働者の派遣期間に制限を設ける改正労働者派遣法が施行されてから今月末(2018年9月30日)で3年が経過する。この「3年」という数字は、派遣労働者を抱える企業(以下、派遣先企業)にとっては大きな意味を持つ。というのも、改正労働者派遣法は、60歳未満の有期雇用派遣労働者について以下のように規定しているからだ。・・・

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2018/09/03 (新用語・難解用語)新・派遣切り(会員限定)

2008年のリーマンショックの際には、メーカー等を中心に大規模な派遣労働者の派遣契約の打ち切りが発生し「派遣切り」という言葉が広く流布されたが、これに似た言葉で最近よく耳にするのが“新・派遣切り”だ。

派遣労働者の派遣期間に制限を設ける改正労働者派遣法が施行されてから今月末(2018年9月30日)で3年が経過する。この「3年」という数字は、派遣労働者を抱える企業(以下、派遣先企業)にとっては大きな意味を持つ。というのも、改正労働者派遣法は、60歳未満の有期雇用派遣労働者について以下のように規定しているからだ。

① 派遣先は、同一の事業所(工場、事務所、店舗など)において「3年」を超えて派遣労働者を受け入れることができない。ただし、過半数労働組合または過半数労働者代表の意見を聴取して派遣可能期間を延長することも可能。
② たとえ過半数労働組合または過半数労働者代表の意見を聴取して「事業所単位」の派遣可能期間を延長した場合(①の「ただし」以降)でも、同じ派遣労働者を、当該事業所の同じ職場(「課」や「グループ」など)で、「3年」を超えて受け入れることはできない。

過半数労働組合 : 事業場に使用されているすべての労働者の過半数で組織する組合のこと。ここでいう労働者には、 正社員のみならず、パートやアルバイトも含まれる。
過半数労働者代表 : 正社員のみならず、パートやアルバイトなど事業場のすべての労働者の過半数を代表する者のこと。投票、挙手などにより選出される必要がある。

すなわち、派遣先企業にとっては、①過半数労働組合または過半数労働者代表の意見を聴取して派遣可能期間を延長しない限り、派遣労働者を受け入れられる期間は最大3年間となる、②たとえ①の方法により派遣可能期間を延長したとしても、同じ派遣労働者に同じ職場(組織単位)」で働いてもらうのは、例外なく最大3年間となるーーーとされている。これら2種類の「3年間」が今月末をもって最初の期限を迎えることになる。

そのため、ここ最近、長年同じ企業に継続的に派遣されていた派遣労働者が派遣先企業の変更を余儀なくされるケースのほか、新たな派遣先が見つからない、あるいは見つかっても条件が合わない等の理由で職を失うケースが少なからず生じている。

“新・派遣切り”という言葉は、こうした状況を問題視したメディアによる造語だが、これまで自社で働いてきた派遣労働者が改正労働者派遣法の規定に基づき職を失ったとしても、もちろん派遣先企業にコンプライアンス上の責任があるわけではない。その意味では、あたかも派遣先企業に責任があるかのようなイメージを与える“新・派遣切り”という言葉は不適切と言えるが、派遣労働者の中には、個人的な事情(例えば出産)で派遣労働者となることを選択したものの、正社員よりも有能な人材もいるというのはよく耳にする話だ。

経営陣としては、改正労働者派遣法に流されるままに派遣労働者を扱うのではなく、これを機に派遣労働者の能力を改めて評価し、能力の高い人材を正社員に登用するといったことも検討に値しよう。