2018/09/13 女性採用割合や女性管理職比率などの開示の有無が女性の応募率に影響

日本では、少子高齢化に伴う労働人口の減少から、労働力維持のためにシニアと女性の活用が喫緊の課題となっているのは周知のとおり。これに追い打ちをかけることになりそうなのが現在政府が進める働き方改革だ(働き方改革関連法の施行は2019年4月1日~。同法については2018年6月30日掲載の【2018年6月の課題】働き方改革関連法の施行に向けた準備参照)。働き方改革では残業時間の圧縮が求められているため、企業はこれまで以上にシニアと女性の活用に真剣に取り組む必要に迫られることになろう。

ただ、シニア人材については定年の延長、すなわち雇用済みの人材の就業可能期間を延長するという形での活用が比較的容易であるのに対し、女性場合、結婚や出産により一旦離職し、子育てが一段落したタイミングで再就職を目指すというケースが少なくない。こうした女性の就労状況を、横軸を女性の年齢、縦軸を女性の就業率としてグラフにするとM字型のカーブを描くことから、女性の就業が一旦途切れる現象は“M字カーブ問題”とも言われるが、企業としては、このM字カーブがボトムから右肩上がりとなる局面で優秀な人材を獲得するためには、求職中の女性へのアピールが欠かせない。このことを裏付けるのが、・・・

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2018/09/13 女性採用割合や女性管理職比率などの開示の有無が女性の応募率に影響(会員限定)

日本では、少子高齢化に伴う労働人口の減少から、労働力維持のためにシニアと女性の活用が喫緊の課題となっているのは周知のとおり。これに追い打ちをかけることになりそうなのが現在政府が進める働き方改革だ(働き方改革関連法の施行は2019年4月1日~。同法については2018年6月30日掲載の【2018年6月の課題】働き方改革関連法の施行に向けた準備参照)。働き方改革では残業時間の圧縮が求められているため、企業はこれまで以上にシニアと女性の活用に真剣に取り組む必要に迫られることになろう。

ただ、シニア人材については定年の延長、すなわち雇用済みの人材の就業可能期間を延長するという形での活用が比較的容易であるのに対し、女性場合、結婚や出産により一旦離職し、子育てが一段落したタイミングで再就職を目指すというケースが少なくない。こうした女性の就労状況を、横軸を女性の年齢、縦軸を女性の就業率としてグラフにするとM字型のカーブを描くことから、女性の就業が一旦途切れる現象は“M字カーブ問題”とも言われるが、企業としては、このM字カーブがボトムから右肩上がりとなる局面で優秀な人材を獲得するためには、求職中の女性へのアピールが欠かせない。このことを裏付けるのが、総務省から(2018年)9月5日に公表された『「女性活躍の推進に関する企業の取組と効果」に関するアンケート調査の結果』だ。

2015年8月28日に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、女性活躍推進法)が成立し、常時雇用労働者が300人超の事業者は、平成28年(2016年)4月1日から下記の4指標を必ず把握し課題分析を行うとともに、そのうち1項目以上を任意に選択して実績を開示すること、さらに数値目標等を定めた行動計画を作成して公表することなどが義務付けられているが(常時雇用労働者が300人以下の中小企業においては努力義務)、上記アンケート結果によると、この主要4指標を公表しているかどうかで、女性の応募率(応募者に占める女性の割合)が大きく変わることが分かった。

常時雇用労働者 : 常勤役員のほか、パート、アルバイト、契約社員なども含む。派遣労働者や請負労働者は含まない。

<主要4指標>
・女性採用者の割合
・平均継続勤務年数の男女差
・平均残業時間
・女性管理職比率

下表のとおり、主要4指標を公表している企業では、同指標を公表していない企業に比べて、女性応募比率が相対的に高い値を示している(主要4指標と女性の応募率の関係については同調査結果の8ページ参照)。

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もう一点注目されるのが、平成29年度(2017年度)のデータを見ると、いずれの指標においても、中小企業(常時雇用労働者が101人以上300人以下の企業)の女性応募比率(下図の赤い実線)が大企業(下図の青い実線)を上回っているということだ。一般的に賃金水準や福利厚生の面で大企業に劣る中小企業が、女性応募比率では上場企業に勝っているという点、意外に思う向きもあろう。女性活躍推進法は平成29年度(2017年度)の前年度となる平成28年(2016年)4月1日から施行されているが、上述のとおり主要4指標の実績の開示は中小企業にとっては努力義務に過ぎない。それにもかかわらず実績を公開している中小企業はそれだけ女性活躍推進に積極的だと言える。こうした姿勢が女性の応募率に好影響を与えている可能性は高い。

39043c

内閣府がまとめている男女共同参画白書(2018年版)によると、2017年における女性の非労働力人口2,803万人のうち、262万人が就業を希望しており、その262万人を女性の年齢別の就業人口に振り分けるとM字カーブはほぼ解消すると言われている(男女共同参画白書(2018年版)のI-2-8図(下図)を参照。左図の青字の線がいわゆるM字カーブでピンク部分が就労希望者)。

もちろん、就業希望者が262万人いると言っても、自社の採用基準を満たす人材は限られてくる。したがって、自社の女性採用者の割合や女性管理職比率を高めるためには、まずは採用候補者の母数すなわち「女性の応募率」を高めなければならない。それには、法律が求める「主要4指標のうちの1つ」のみの実績を開示するといった消極的な姿勢ではなく、例えば主要4指標すべての実績はもちろん、他社の取り組み事例を参考に任意の指標に関する実績についても開示する(他社の開示事例は厚生労働省のウェブサイトに掲載された「リーディングカンパニーの取組事例」参照)、厚生労働省が実施する女性活躍推進法に基づく認定制度により「女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な企業」として認定を受けるなど、女性の活躍推進に向けた自社の積極的な取り組みを対外的に発信していく必要があろう。

2018/09/12 (新用語・難解用語)IPランドスケープ

IPランドスケープ(Intellectual Property Landscape )を直訳すれば“知的財産(Intellectual Property)の景観(Landscape)”となるが、一般的には、知的情報を経営戦略に活用することと理解されている。

IPランドスケープという考え方は既に欧米などでは広く共有されてきたが、日本では・・・

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2018/09/12 (新用語・難解用語)IPランドスケープ(会員限定)

IPランドスケープ(Intellectual Property Landscape )を直訳すれば“知的財産(Intellectual Property)の景観(Landscape)”となるが、一般的には、知的情報を経営戦略に活用することと理解されている。

IPランドスケープという考え方は既に欧米などでは広く共有されてきたが、日本では特許庁が2017年4月に公表した「知財人材スキル標準(version 2.0)」で初めてIPランドスケープという言葉が紹介された。それ以来(特に今年に入ってから)、IPランドスケープは知財関係者、さらには企業経営者の間で急速に広まっている。

日本企業が知財情報を経営戦略に活用する場合、しばしば「パテントマップ」と呼ばれるツールが用いられる。これは、公表されている特許出願情報等を基に、特定の技術の特許出願動向や競合他社の技術動向を分析するもの。日本企業はこのパテントマップを活用することで特定技術分野における自社の技術上のポジショニングを明確にしたうえで、今後の研究開発戦略上の意思決定を行ってきた。ただ、上述のとおり、パテントマップで分析対象となるのは専ら出願データ等であるため、日本企業は知財情報を「経営戦略」というよりも「研究開発戦略」「特許戦略」に活用してきたと言える。

これに対して「IPランドスケープ」は、出願データ等の知財情報に限らず企業が直面する市場に関する情報等も幅広く考慮に入れる点に大きな特徴がある。上記特許庁の「知財人材スキル標準(version 2.0)」では、IPランドスケープで考慮する内容の具体的例として以下のようなものを挙げている。

・知財情報と市場情報を統合した自社分析、競合分析、市場分析
・企業、技術ごとの知財マップおよび市場ポジションの把握
・個別技術・特許の動向把握(例:業界に大きく影響を与えうる先端的な技術の動向把握と動向に基づいた自社の研究開発戦略に対する提言等)
・自社及び競合の状況、技術・知財のライフサイクルを勘案した特許、意匠、商標、ノウハウ管理を含めた、特許戦略だけに留まらない知財ミックスパッケージの提案(例:ある製品に対する市場でのポジションの提示、及びポジションを踏まえた出願およびライセンス戦略の提示等)
・知財デューデリジェンス
・潜在顧客の探索を実施し、自社の将来的な市場ポジションを提示する。

上記の具体例をよく見ると、知財情報のみならず、市場における自社のポジションや競合の状況等、企業の外部環境や内部環境に関する情報を幅広く意識したものであることが分かる。つまり、IPランドスケープとは、技術(およびその背景にある特許権等の知財)の優位性だけではなく、これらを製品化した場合に競合他社と比べてどれだけ優位なマーケットポジションを確保できるか、製品化後の事業性をより重視した分析アプローチと言える。その意味でIPランドスケープは、研究開発戦略や特許戦略に留まらず新規の事業開発や商品開発をも意識した「事業戦略」により近いものと位置付けられよう。

ちなみに、「知財人材スキル標準(version 2.0)」に関連した特許庁の調査研究「企業の知財戦略の変化や産業構造変革等に適応した知財人材スキル標準のあり方に関する調査研究報告書」には、海外企業の知財セクション等に対するヒアリング結果も掲載されている。その中にはIPランドスケープに関するコメントも含まれているので代表例をいくつか紹介しよう。

Dyson社(21ページ参照)
IPの専門家としてのインプットの1つに、IPランドスケープの提示がある。これは、市場にどのようなプレイヤー、技術があり、どこが支配的なポジションを有しているのか、という全体像を表す俯瞰図である。技術ごと、会社ごとの動きをこれで把握する。また、新技術について特に注目するものには、3-6ヶ月間程集中して特定の領域をウォッチするようなこともある。
Ratner-Prestia(IP law firm)(31ページ参照)
知財部門の重要な業務にIPランドスケープがある。これは、特許や知財のマップだけではなく、事業化のタイミングやプロセスを同時に含む。

実は今から10年以上前に、事業戦略、研究開発戦略、知的財産戦略を「三位一体」として構築すべきとの議論が経産省や知財関係者の間で盛り上がったことがある。事業戦略に知財の要素を組み入れるという意味において、「IPランドスケープ」のコンセプトはこの「三位一体」の議論と相通ずるものがある。このような考え方が形を変えて現在再び注目を浴びているのは、近年のIoTの進展やAI、RPAといった新たな技術革新の進展と決して無縁ではないだろう。これらの進展により、事業的・技術的にも業界間の垣根が低くなり、企業はこれまでより不確実な事業環境に直面しなければならない状況となっている。このような環境変化に併せ、知財戦略もより「外部環境」を意識したものへの転換を余儀なくされることになりそうだ。

IoT : Internet of Things=モノのインターネット
RPA : Robotic Process Automationの略で、「ロボットによる業務プロセスの自動化」のこと。RPAが実現する「自動化のルール」は「ロボット」と言われることから、つい手や足のある人型ロボットを連想しがちだが、RPAの「ロボット」はハードではなくサーバー上で動くソフトである。

2018/09/12 2018年秋・交流会開催のお知らせ

本交流会はすでに開催済みです。多数の皆様にご参加いただき、盛況のうちに終えることができました。ご参加いただき有難うございました。

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~企業や社外役員同士の情報交換、社外役員候補発掘の場に~
2018年秋・交流会()開催のお知らせ
当フォーラムの会員でない方もご参加いただけます。

日時:2018年11月26日(月) 17時30分~20時

場所:東京海上日動火災保険・本社ビル(本館)最上階
スペシャルゲスト:元ラグビー日本代表 今泉 清 氏

上場会社役員ガバナンスフォーラムでは、2018年11月26日(月)17時30分から、上場企業や上場を目指す企業、社外役員やその候補者の方々の交流会を開催いたします。

本交流会は、企業同士あるいは社外役員同士の“横のつながり”を作っていただいたり、企業に将来の社外役員候補を発掘していただいたりすることを主な目的とするものです。飲食をしながらの交流会というリラックスした場でネットワークを広げていただきつつ、他社におけるコーポレートガバナンスへの対応状況について情報収集したり、社外役員同士ならではの悩みをざっくばらんにお話ししたり、社外役員候補者と直接お話しして相性を確かめたりする機会としても是非ご活用いただければ幸いです。
※なお、本交流会でお知り合いになった方を社外役員に選任した場合でも、人材紹介料等の費用は一切かかりません。また、当フォーラムにご報告いただく必要もございません。

場所は、当フォーラムの活動をご支援いただいている東京海上日動火災保険の本社ビル(本館)最上階のサロンになります。皇居や都心の夜景を一望できるお部屋でお食事、お飲物(アルコールを含む)をご提供させていただくほか、スペシャルゲストとして、今回は早稲田大学やサントリーのラグビー部でもご活躍された元ラグビー日本代表の今泉 清(いまいずみ きよし)様をお招きし、本交流会の冒頭30分程度「ラグビーに学ぶダイバーシティとエンゲージメント」というテーマでご講演いただきます。

2018年秋
交流会
概要
日時:2018年11月26日(月) 17時30分~20時(受付17時~)
場所:東京海上日動火災保険・本社ビル(本館)最上階(受付:24階ロビー)
※赤レンガのビルになります。
定員:80名
スペシャルゲスト:元ラグビー日本代表 今泉 清 氏
※ご講演内容等の詳細は下記をご覧ください。
参加費(飲食代を含みます):
 上場会社役員ガバナンスフォーラム会員の方 お1人様5千円(税込)
 宝印刷のe-Disclosure Club Premium会員様、東京海上日動火災保険・エッジ・インターナショナル等のメールマガジン読者様、IPO実務検定及び財務報告実務検定の会員様 お1人様5千円(税込)
 上記以外の方 お1人様1万2千円(税込

 交流会お申込み前に会員登録いただくと、参加費は5千円(税込)となります。
ご不明な点等がございましたら、ご遠慮なく jimukyoku@govforum.jp までお問い合わせください。

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基調講演 「ラグビーに学ぶダイバーシティとエンゲージメント」
近年、コーポレートガバナンスの文脈でよく耳にするキーワードに「ダイバーシティ」と「エンゲージメント」がありますが、上場企業がこれらに取り組む上で示唆に富んでいるのがラグビーです。

前回のワールドカップ(2015年)では、絶対に勝てないと言われていた最強国の一つ南アフリカに勝利し、五郎丸歩選手などを擁する日本代表チームが大きな注目を浴びましたが、チームのメンバーには外国人も多く、また、日本代表に限らずそもそもラグビーチームには様々な体格の選手がいるのが通常であり、「足が速い」「タックルに強い」など選手としての特徴も様々です。ラグビーチームはまさに「ダイバーシティ」を体現した組織と言えるでしょう。人数も通常は1チーム15人と取締役会に近く、ラグビーチームのマネジメントから取締役会が学べることは少なくありません。

また、機関投資家はエンゲージメント(対話)を通じて日本企業に“気付き”を与え、企業価値を向上させようと努力しますが、自らはプレーせず、チームを強くするために存在するという意味では、ラグビーチームの監督はメンバーにとってエンゲージメント(対話)の相手とも言えます。南アフリカ戦での勝利はエディー・ジョーンズ監督なしには語れませんが、当初、選手と監督の対話は決して上手くいっていなかったそうです。ラグビー日本代表のメンバーがいかにして監督の話を理解し(あるいは監督がメンバーに理解させ)、強いチームへと変化を遂げていったのか、当日はその辺りの裏話もたっぷり語っていただきます。機関投資家との対話のみならず、取締役会内あるいは部下との対話にも応用できるお話が聞けるはずです。

今泉 清 氏

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1967年東京生まれ。6歳でラグビーを始め、大分県立大分舞鶴高校ではフランカーとして高校日本代表に選ばれる。早稲田大学時代は在学4年間で関東大学対抗戦優勝2回、大学選手権優勝2回、日本選手権優勝1回。卒業後はニュージーランド留学を経てサントリーで活躍、日本代表、7人制ラグビー日本代表にも選出された。現役引退後は母校・早稲田大学ラグビー部コーチとして清宮克幸監督の黄金時代を支えつつ、サントリーフーズのプレイイングコーチを同時期に兼任するなど後進の指導育成に尽力。
現在は元日本代表・トップアスリートだった経験を活かして人材育成コンサルタントとして活動。ラグビーを通じて体得した「組織論」への高い評価と、笑いが絶えず飽きさせない語り口で企業セミナーや講演に引っ張りだことなっている。また、CSテレビチャンネルJSPORTSで解説者も務める。
著書に「勝ちグセ。ラグビーに学んだ「最強のチーム」をつくる50の絶対法則」がある。

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2018/09/11 業績連動報酬の導入に拍車も

コーポレートガバナンス・コードが「中長期的な業績と連動する報酬の割合…を適切に設定すべき」(補充原則4-2①)としたことなどを受け、業績連動報酬を導入する上場企業は着実に増加している(ウイリス・タワーズワトソンと三菱UFJ信託銀行による調査結果「株式報酬の導入状況」(2017年8月)によると、2017年6月末時点で業績連動報酬を導入している上場企業は、前年同月に比べ約3割増加し、上場企業の約3社に1社となっている)。また、・・・

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2018/09/11 業績連動報酬の導入に拍車も(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードが「中長期的な業績と連動する報酬の割合…を適切に設定すべき」(補充原則4-2①)としたことなどを受け、業績連動報酬を導入する上場企業は着実に増加している(ウイリス・タワーズワトソンと三菱UFJ 信託銀行による調査結果「株式報酬の導入状況」(2017年8月)によると、2017年6月末時点で業績連動報酬を導入している上場企業は、前年同月に比べ約3割増加し、上場企業の約3社に1社となっている)。また、今年(2018年)6月28日に公表された金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ報告でも、企業価値の向上に向けた経営陣のインセンティブとして、業績連動報酬の重要性が再認識されている(11ページ~の「2.役員報酬に係る情報」参照)。

こうなると、大部分の上場企業が業績連動報酬を導入してもよさそうなものだが、今のところそこまでには至っていない。業績連動報酬の導入に向けたボトルネックの一つとなっているのが、2018年8月8日のニュース「企業が頭を悩ます報酬委員会のメンバー構成」でもお伝えした法人税法上の損金算入要件だ。法人税法では、業績連動報酬(法人税法上の名称は「業績連動給与」だが、説明の便宜上、以下「業績連動報酬」という)の損金算入要件として、報酬委員会のメンバー“全員”が社外取締役などの「非業務執行役員」であることを求めている。この要件は、会社法で設置が義務付けられている指名委員会等設置会社の報酬委員会に限らず、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社が設置する任意の報酬委員会に対しても課されている。

損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。
業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。

一般的に、構成メンバーの過半数を独立社外取締役が占め、委員長も独立社外取締役が務めている報酬委員会は、(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、改訂CGコード)が求める「独立した」委員会であると言えるが、上述のとおり、報酬委員会の中に一人でも業務執行役員がいれば業績連動報酬の損金算入は不可となる。この“高いハードル”が存在するがゆえに、業績連動報酬を導入している上場企業の中でもそれを損金算入できているところは一部にとどまるとともに、そもそも業績連動報酬の導入自体を躊躇している上場企業も少なくないものと思われる。

こうした中、政府がこの要件の見直しを検討していることが当フォーラムの取材により判明した。経済産業省が8月31日に公表した平成31年度税制改正要望には「役員の業績連動給与に係る損金算入手続き見直し」として『我が国企業の「稼ぐ力」向上に向けて、企業経営者に中長期の企業価値向上を引き出すインセンティブを付与することで「攻めの経営」を後押していくため、業績連動給与の損金算入要件について、見直しを行う。』との記述があるが(平成31年度 税制改正に関する経済産業省要望 53ページの一番上参照)、これは上記の報酬委員会のメンバー構成に関する損金算入要件の見直しを指している模様だ。

今年6月1日に施行された改訂コーポレートガバナンスコードの補充原則4-10①では、従来は経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するための一つの手法としての“例示”に過ぎなかった任意の報酬委員会の設置がより強く求められるようになった(設置しなければ「エクスプレイン」が必要)ことにより(2018年4月5日のニュース『任意の諮問委員会、設置しなければ「エクスプレイン」必要に』参照)、“厳しすぎる”業績連動報酬の損金算入要件は今後ますます企業から批判を浴びる可能性がある。この損金算入要件が創られたのは平成18年度(2006年度)税制改正時であり、それから既に約12年の年月が経っている。当時は企業がお手盛りで業績連動報酬を損金算入できないよう厳格な損金算入要件が設定されたという経緯があるが、現在は業績連動報酬がコーポレートガバナンスを実現するうえでのカギの一つと位置付けられる中、平成31年度税制改正で当該要件が緩和される可能性は高いと言える。

役員報酬制度改革を検討する上場企業にあっては、税制適格ストックオプションの要件緩和(2018年9月6日のニュース「税制適格ストックオプションの権利行使上限額、一挙に2倍以上も」参照)と併せ、改正の動向に注目しておく必要がある。当フォーラムでも何か動きがあり次第、続報したい。

税制適格ストックオプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を購入した時点で生じている含み益(株式の購入価格-ストックオプションの発行費用)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入した時点で課税されない)ストックオプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~10年後までの最大8年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「年間1,200万円まで」などがある。


 

 

 

 

 

 

 

 

2018/09/10 ブラックロックが「ガバナンスをテーマ」にした投資信託を開発

世界最大の資産運用会社であるブラックロックの日本法人「ブラックロック・ジャパン」は、優れたコーポレートガバナンスを有する日本企業を厳選して投資する・・・

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2018/09/10 ブラックロックが「ガバナンスをテーマ」にした投資信託を開発(会員限定)

世界最大の資産運用会社であるブラックロックの日本法人「ブラックロック・ジャパン」は、優れたコーポレートガバナンスを有する日本企業を厳選して投資する投資信託「ブラックロック・ガバナンス・フォーカス・ファンド」を開発した(ブラックロック・ジャパンのリリースはこちら)。ファンド設定日は9月18日で、信託期間(投資信託を運用する期間)は2028年2月25日までの10年間弱で、SMBC日興証券を窓口として販売される(販売用資料はこちら)。

本投資信託は、「コーポレートガバナンス」をテーマにしているという点で、ESG投資の一種であるポジティブ・スクリーニング(各業界においてESGが優れた企業を選別して投資する戦略)と呼ばれる手法によるものと言える。ESG投資の大部分はネガティブ・スクリーニング(ESGの観点などから問題のある企業を投資対象から外す投資戦略)やエンゲージメント(対話を通じ、投資先企業にESGに関する問題の解決を求める手法)が占めており、ポジティブ・スクリーニングは小規模にとどまっている。ブラックロックにとっても、コーポレートガバナンスにフォーカスした投資は今回がグローバルを含むグループ初の試みだという。

ESG投資 : ESGに優れた企業を選定して投資すること。

具体的な銘柄選別のプロセスは、以下の3段階となっている。
① スチュワードシップ担当チーム(インベストメント・スチュワードシップ部)による対話を通じた調査により、投資ユニバース(投資対象とする銘柄群)である東証一部上場企業約2,100銘柄の中から、コーポレートガバナンスに優れた220〜250銘柄を抽出する。
② 日本株式アナリストチームによる長期ファンダメンタルズ分析(投下資本に対する現金収益率などを重視)により、①で抽出した220〜250銘柄から約50銘柄まで投資対象を絞り込む。
③ ファンドマネジャーが、独自のツールに基づくリスク管理の観点から、持続的な成長が期待できる15〜30銘柄を厳選し、魅力的なポートフォリオを構築する。

ファンダメンタルズ : 売上高や利益などの業績や、資産・負債などの財務状況等、株式の本質的価値を決める指標

上記の銘柄選別プロセスにおける最大の特徴は何と言っても①、スチュワードシップを担当するインベストメント・スチュワードシップ部による一次スクリーニングであろう。同部は株主総会における議決権行使に向けた対話などを中心にスチュワードシップ活動を担当し、通常は投資の意思決定プロセスに関与することはない。しかし、本投資信託においては銘柄選別に主体的に関わることから、必然的に投資の意思決定およびその結果としての株価形成にも一定の影響を及ぼし得ることになる。今後①のような銘柄選別プロセスが一般化した場合、上場企業にとっては、機関投資家とのエンゲージメントへの対応やコーポレートガバナンスはじめとするESG情報の開示の重要性が格段に高まることが予想される。

ブラックロックとSMBC日興証券による販売用資料には、19銘柄から構成されるモデルポートフォリオが紹介されている。これによると、TOPIX全体と比較してROEは13.5%と4ポイント高く、PBRは1.9倍と0.6ポイント上回っている。ブラックロックが期待する「ガバナンスの向上により、キャッシュを有効活用し、収益性を引き上げること」が、一定程度は実現できている数値と言える。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

さらに販売資料では、モデルポートフォリオ19銘柄のうち10銘柄の社名を開示している。各社のROE、PBRのほか、独立社外取締役の人数/比率を一覧にしたのが下表だ。PBRこそバラツキが見られるものの、いずれも独立社外取締役が3人以上かつ15%以上で、ROEは2桁となっている点、注目されよう。

銘柄コード 企業名 独立取締役
人数/比率
自己資本利益率
(ROE)
株価純資産倍率
(PBR)
2502 アサヒグループホールディングス 3人/30.0% 14.23% 1.98倍
4063 信越化学工業 4人/18.2% 11.87% 1.78倍
4543 テルモ 4人/38.0% 17.53% 3.72倍
6367 ダイキン工業 3人/30.0% 15.70% 3.04倍
6501 日立製作所 8人/66.7% 11.62% 1.01倍
7267 本田技研工業 5人/35.7% 13.91% 0.69倍
7453 良品計画 3人/33.3% 18.65% 4.71倍
8001 伊藤忠商事 3人/37.5% 15.79% 1.11倍
8058 三菱商事 5人/38.5% 10.93% 0.91倍
8308 りそなホールディングス 6人/60.0% 11.77% 0.66倍

2018/09/07 一橋大学・商学研究科の円谷昭一先生が取りまとめた国内全機関投資家の「2018年版議決権行使結果」が公表されました。

当フォーラムでもご講演・ご執筆いただいている一橋大学・商学研究科の円谷昭一先生が取りまとめた国内全機関投資家の「2018年版議決権行使結果」(*)が公表されました。

* 3月末日決算の全上場企業を収録しています。決算日が3月末日以外の上場企業は収録しておりません。機関投資家については、円谷先生が把握している個別開示した国内機関投資家のすべてを収録しています。

2018年版「機関投資家の議決権行使結果」はこちら