多くの日本企業が進出する米国での事業展開の足かせとなりかねない重大な課税問題が生じている。
既に新聞等でも報道されているとおり、トランプ政権は米国の連邦法人税率を35%から21%へと引き下げたところだ。これに伴い、日本企業の米国子会社の実質的な税負担率は、各州の州税を加えても30%未満となるケースが多くなっている。
米国子会社の州税が下がるということは、一見すると日本企業にとって好ましいことのようにも見えるが、そうではない。米国の連邦税率が下がったことで、米国子会社の所得が日本の親会社の所得とみなされ、これが日本の親会社の所得に合算して課税されるリスクが高まっている。
なぜそのようなことになるのか、具体的に説明しよう。
海外に子会社を設立して事業を展開する場合、日本企業(親会社)の経営陣が気にしなければならないのが、「タックスヘイブン対策税制」だ。タックスヘイブン対策税制とは、税率の低い国(タックス・ヘイブン=軽課税国。ヘイブン(Haven)とは「避難所」という意味) に設立した子会社に各種権利の使用料等を支払うことなどにより、日本の親会社の課税所得を圧縮するとともに、(日本の親会社の)利益を軽課税国の子会社に留保するような行為を防ぐため、軽課税国にある子会社の所得を日本の親会社の所得とみなし、これを日本の親会社の所得に合算して課税する仕組み。ただし、海外子会社の税負担割合が20%を超えていれば、基本的にタックスヘイブン税制の対象にはならないことになっている。上述のとおり、今回トランプ政権が設定した米国の連邦法人税率は「21%」であり、各州の州税を加えれば確実に20%を超えるため、米国子会社がタックスヘイブン対策税制の対象外となるケースも多いだろう。
問題は、米国子会社が“ペーパーカンパニー”である場合だ。ペーパーカンパニーは経済実体がなく租税回避に利用されるリスクが高いため、タックスヘイブン対策税制では、同税制の対象外とするハードルを、通常の海外子会社に課している「税負担割合20%超」より10%高い「税負担割合30%超」としている。米国の連邦法人税率引き下げにより、税負担割合は各州の州税を加えても30%未満となるケースが多くなっているため、日本企業が米国に設立したペーパーカンパニーは「税負担割合30%超」というハードルをクリアできず、タックスヘイブン対策税制の対象となる見込みだ。すなわち、ペーパーカンパニーの所得は日本の親会社の所得とみなされ、日本の親会社の所得に合算して課税されることになる。
メーカー、金融、商社、不動産などの業種を問わず、日本企業はビジネス上の理由からかなりの数のペーパーカンパニーを米国に保有している。日本企業が米国で事業を展開するにあたっては、米国企業を含む外国企業と共同でLLCやLPSを組成するケースがよく見られるが、この場合、LLCやLPSと日本企業の間に「ペーパーカンパニー」の米国子会社を置くのが一般的となっているからだ。これは、米国では、LLCやLPSが稼いだ所得は通常その出資者に課税が行われる仕組みとなっているため。仮にペーパーカンパニーを置かなければ、日本の親会社が米国で納税手続きを行わなければならなくなってしまう。また、LLCやLPSの債務等に対しては出資者が責任を負うため、ペーパーカンパニーを置かなければ、その責任は日本の親会社が負わなければならないことになる。要するに、ペーパーカンパニーを設置するということは、こうした納税や債務等への責任を遮断する(日本の親会社に及ばないようにする)ことが目的であり、それゆえ、このようなペーパーカンパニーは“ブロッカー・コーポレーション”とも呼ばれる。
LLC : LLCとは「Limited Liability Company」の略であり、直訳すれば「有限責任会社」となる。我が国の会社法における「合同会社」は米国のLLCを模して導入された経緯があることから「日本版LLC」と称されることもあり、逆に本家のLLCを日本語に訳す際には「合同会社」と呼ぶことも多い。LLCへの出資者は出資額の範囲でしか事業上の責任を負わないほか、株式会社と異なり、出資比率に関係なく機関設計や損益配分を行える点が大きなメリット。例えば、特殊技術を有する甲の出資比率10%、資金力のある乙の出資比率が90%であったとしても、甲の方が利益配分を多く受ける(例えば甲70%、乙30%)ことも可能である。一般的には、株式会社に比べやや信用力が落ちる。
LPS : LPSとは「Limited PartnerShip」の略であり、日本語では「投資事業有限責任組合」と呼ばれる。文字通り投資事業を行うための組合であり、「有限責任」というところに特徴がある。投資事業有限責任組合には「無限責任組合員」と「有限責任組合員」の2種類の組合員がおり、前者は組合の債務について無限に責任を負うものの、後者は出資の限度で責任を負えばよいことになっている。
このようなビジネス上の理由でペーパーカンパニーを設立しているにもかかわらず、それがタックスヘイブン対策税制の対象になり、日本の親会社の税負担が増えるというのは企業としては納得できないところだろうが、現行のタックスヘイブン対策税制がそのような仕組みとなっている以上、これを回避するのは困難と言える。このような不合理な状況に配慮して今後制度改正が行われる可能性もなくはないが、当面は米国でのペーパーカンパニー設立には慎重になる必要がありそうだ。