2018/07/23 買収防衛策への賛成率が大幅に低下、その背景にあるものは?

買収防衛策については、議決権行使助言会社最大手のISSが日本向けの2018年助言ポリシー(24ページ参照)で「総継続期間が3年以内である」ことを賛成の要件に追加し(2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照)、準大手のグラスルイスは従来「独立した取締役と同監査役が合わせて3分の1」いない場合には買収防衛策に反対するとしていたところ、日本向け2018年版ガイドライン(25ページ)ではこれを「独立取締役のみで過半数」へと基準を厳格化したところだ(2017年12月21日のニュース「グラスルイスが日本向け2018年版ガイドラインを公表」参照。ちなみに、ISSは「独立した取締役が3分の1以上かつ2名」としている)。

総継続期間 : 買収防衛策の導入時点から、今回提案されている買収防衛策の有効期間終了までの合計期間

このように投資家サイドから厳しい視線が注がれている買収防衛策だが、2018年6月の株主総会シーズンにおいて、買収防衛策の導入(継続)議案に対する賛成率が大幅に低下していることが当フォーラムの調査で判明した。

買収防衛策の導入(継続)議案への賛成率が50%台だった事例を、賛成率の低い順に一覧したのが下表だ。・・・

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2018/07/23 買収防衛策への賛成率が大幅に低下、その背景にあるものは?(会員限定)

買収防衛策については、議決権行使助言会社最大手のISSが日本向けの2018年助言ポリシー(24ページ参照)で「総継続期間が3年以内である」ことを賛成の要件に追加し(2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照)、準大手のグラスルイスは従来「独立した取締役と同監査役が合わせて3分の1」いない場合には買収防衛策に反対するとしていたところ、日本向け2018年版ガイドライン(25ページ)ではこれを「独立取締役のみで過半数」へと基準を厳格化したところだ(2017年12月21日のニュース「グラスルイスが日本向け2018年版ガイドラインを公表」参照。ちなみに、ISSは「独立した取締役が3分の1以上かつ2名」としている)。

総継続期間 : 買収防衛策の導入時点から、今回提案されている買収防衛策の有効期間終了までの合計期間

このように投資家サイドから厳しい視線が注がれている買収防衛策だが、2018年6月の株主総会シーズンにおいて、買収防衛策の導入(継続)議案に対する賛成率が大幅に低下していることが当フォーラムの調査で判明した。

買収防衛策の導入(継続)議案への賛成率が50%台だった事例を、賛成率の低い順に一覧したのが下表だ。前回株主総会に諮った際(いずれも3期前の2015年6月)の賛成率を一番右の欄に記載している。

社名 議案 賛成率 前回の賛成率
電気興業 継続 53.10% 70.87%
ヨロズ 継続 54.00% 57.62%
レック 継続 54.62% 58.79%
平和不動産 継続 55.80% 64.60%
トクヤマ 継続 56.70% 65.88%
東武鉄道 継続 57.16% 73.74%
マツモトキヨシHD 継続 57.64% 60.22%
東洋製罐グループHD 継続 57.67% 65.62%
エンプラス 継続 58.17% 70.23%

まず注目したいのは、賛成率が50%台の議案が2桁に迫っている点。そもそも買収防衛策を導入する企業は上場企業全体の1割程度にとどまっているうえ、多くは有効期限(更新期間)に関するサンセット条項によって3年に1度しか株主総会に諮られないため、株主総会に議案として出てくる数自体が限られる。さらに、否決もあり得るほどの低賛成率が予想される中、買収防衛策自体を廃止する企業も続出している。それにもかかわらずこれだけの数の低賛成事例が表に出てくるということは、いかに買収防衛策が投資家の不興を買っているかの証左とも言えよう。

サンセット条項 : 買収防衛策の合理性を確保し、株主や投資家など関係者の理解と納得を得るため、定期的に株主総会の承認を確保する条項のこと。サンセット(Sunset)とは「日没」を意味する。

また、前回と今回の賛成率を比較すると、例外なく、かつ事例によっては大幅に低下していることが目を引く。スチュワードシップ・コードの改訂により議決権行使結果の個別開示(指針5-3)が求められることとなった影響などから(スチュワードシップ・コードの改訂については2017年3月29日のニュース「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」参照)機関投資家の議決権行使スタンスが厳格化、3年前とは比較にならないほど多くの反対票が集まっている。特に低下幅が大きいのが、17.77ポイント低下した電気興業、16.58ポイント低下した東武鉄道、12.06ポイント低下したエンプラスの3社だ。

議決権行使結果の個別開示 : 議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すること。2017年5月に行われたスチュワードシップ・コードの改訂前は、「議案ごと」の集計値を開示すればよかった。

このうち電気興業とエンプラスは、いずれもROEが3期間で悪化している(電気興業:5.29%→1.81%、エンプラス:17.29%→4.04%)。ちなみに、電気興業は4期前に2桁のROEを計上していた。こうしたROEの推移を勘案すると、両社とも前回こそ高ROEが評価されて70%台の比較的高い賛成率を獲得したものの、今回はROEの低下が大きな原因となって他社並みの低賛成率にとどまったと見るのが妥当だろう。

一方、東武鉄道の最近3期間におけるROEは8.29%→8.61%と若干上昇、伊藤レポートが求める8%をクリアしている。同社は買収防衛策の継続にあたり、当然ながら機関投資家に対し積極的なSR活動を実施したものと思われる。同社の買収防衛策の継続議案に対する低賛成率は、もはや買収防衛策の導入(継続)議案が、高ROEも対話も通り越して反対票を投じる対象となりつつあることを示していると言えそうだ。

2018/07/22 総会前に読んでおきたい機関投資家の本音も満載! ウイリス・タワーズワトソンが開催した「投資家が評価する実効的なコーポレートガバナンス」に関するセミナーの講演録を提供します。

ウイリス・タワーズワトソンが昨年(2017年)12月15日に開催したセミナー

コーポレートガバナンスの実践に向けて
~投資家が評価する実効的なコーポレートガバナンスとは~

の講演録を、同社のご厚意により、当フォーラム会員の皆様にご提供します。
講演録には、同社コンサルタントによる経営者報酬の実務や、経営者経営者指名・後継者計画・取締役会評価の実務のトレンド等に関する解説のほか、フィデリティ投信、ブラックロック・ジャパンという大手機関投資家が参加したパネルディスカッション「投資家が評価する実効的なコーポレートガバナンスとは」 で機関投資家が語った本音がそのまま掲載されています。これから定時株主総会を迎える3月決算企業をはじめとする上場企業の皆様は是非ご一読されることをお勧めします。データをご希望の方は当フォーラム事務局までご連絡ください。

2018/07/21 夏季休業のお知らせ

誠に勝手ながら、2018年8月9日(木)~2018年8月15日(水)は事務局の夏季休業となります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い致します。

なお、会員登録は夏季休業期間中もオンラインにて可能です。
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2018/07/20 社外役員選任議案に対する投資家の議決権行使スタンスが厳格化

社外役員(社外取締役、社外監査役)候補者を招聘した企業にとって、株主総会に上程したその選任議案に対する賛成率は大いに気になるところだが、当フォーラムの調査により、2018年6月の株主総会シーズンでは賛成率が50%台という低率にとどまる候補者が続出するとともに、前年と同一の候補者でも賛成率が10ポイント以上低下したケースもあることが判明した。

賛成率が50%台だった候補者(いずれも会社提案による候補者)を、賛成率の低い順に一覧にしたのが下表だ・・・

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2018/07/20 社外役員選任議案に対する投資家の議決権行使スタンスが厳格化(会員限定)

社外役員(社外取締役、社外監査役)候補者を招聘した企業にとって、株主総会に上程したその選任議案に対する賛成率は大いに気になるところだが、当フォーラムの調査により、2018年6月の株主総会シーズンでは賛成率が50%台という低率にとどまる候補者が続出するとともに、前年と同一の候補者でも賛成率が10ポイント以上低下したケースもあることが判明した。

賛成率が50%台だった候補者(いずれも会社提案による候補者)を、賛成率の低い順に一覧にしたのが下表だ(なお、経営権を争った事例(JPホールディングス、アドバネクス、スパンクリートコーポレーション)は特殊事例として除外した)。

社名 候補者 経歴 賛成率
ウシオ電機 社外取締役 フューチャー 代表取締役会長兼社長 51.29%
日神不動産 社外取締役 元・保松電産専務取締役 55.81%
古河電気工業 社外取締役 元・トヨタ自動車主査 57.75%
日本触媒 社外監査役 JXTG HD取締役常務執行役員 57.86%
世紀東急工業 社外監査役 東急建設 58.04%
小糸製作所 補欠監査役 西村あさひ法律事務所パートナー 58.44%
ハマキョウレックス 補欠監査役 元・静岡銀行取締役副会長 59.49%

下位1・2位となったウシオ電機と日神不動産の事例では、いずれも候補者の独立性に問題はないものとみられる。40%を優に超える反対票が投じられる要因となったと思われるのが、取締役会出席率の低さだ。ウシオ電機の候補者は71.4%、日神不動産の候補者は73.3%にとどまっている。議決権行使助言会社や多くの機関投資家は「75%」をハードルとしており、両社の候補者はいずれも反対の対象に該当することになる。特に日神不動産の候補者は昨年の出席率も66.7%であり(2年任期のため、昨年の株主総会では再任議案は上程されず)、社外取締役としての機能を果たしているのか疑問を呈する投資家は少なくないかもしれない。

下位3位以降の5社の候補者については、いずれも社外役員としての独立性が問われたものと考えられる。古河電気工業の候補者は取引先出身、日本触媒と世紀東急工業の候補者は大株主(それぞれ5.3%の第2位株主、22.1%の筆頭株主)の企業に所属、小糸製作所の候補者は業務委託関係のある法律事務所のパートナー、ハマキョウレックスの候補者は筆頭のメインバンク出身者となっている。このうち小糸製作所は、候補者がパートナーを務める法律事務所について、「法律業務を委託する取引関係」はあるものの「顧問契約」等は締結していない旨説明している。本事例は、「顧問契約」の有無にかかわらず、「取引関係」が存在する時点で投資家に反対票を投じられる対象になる得るということを示している。

独立性の問題から多くの反対票を投じられた上記5名の候補者のうち再任者は古河電気工業の候補者のみだったが、注目されるのは、昨年と今年の株主総会における賛成率の差だ。昨年の株主総会での賛成率は69.81%と、やはり多くの反対票が投じられたものの、今年と比較すれば12ポイント以上高い賛成率となっていた。前年と同じ議案、同じ候補者であってもこれだけ賛成率が低下したということは、昨年(2017年)5月29日付で改訂されたスチュワードシップ・コードにより議決権行使結果の個別開示(指針5-3)が求められることとなった影響などから(スチュワードシップ・コードの改訂については2017年3月29日のニュース「企業への影響は?日本版スチュワードシップ・コード改訂案の全容」参照)投資家の議決権行使スタンスが厳格化していることの証左と言えそうだ。

議決権行使結果の個別開示 : 議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すること。2017年5月に行われたスチュワードシップ・コードの改訂前は、「議案ごと」の集計値を開示すればよかった。

2018/07/19 KAMの導入が確定、企業の監査対応はどう変わる?

スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードに続き上場企業と投資家の対話促進のためのツールとして期待されている「KAM」(KAMに関する直近のニュース記事は2018年5月17日掲載の「KAMの記載、株主総会の後ろ倒しや監査役監査報告書に影響も」参照)。KAMとは「Key Audit Matters」の略で(読み方は「カム」)、監査人(公認会計士)が、会計監査において「特に重要と判断した事項」のこと。上場企業の監査報告書にKAMが記載されることで、“ブラックボックス”と評されることの少なくない監査人の判断の過程における情報、具体的には「監査人が、当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項は何か」を知ることができるようになる(監査報告書へのKAMの記載については【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響を参照)。

このように、投資家にとっては投資先企業の会計上、場合によってはガバナンス上のリスクを把握し、投資の判断材料ともなり得るKAMだが、・・・

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2018/07/19 KAMの導入が確定、企業の監査対応はどう変わる?(会員限定)

スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードに続き上場企業と投資家の対話促進のためのツールとして期待されている「KAM」(KAMに関する直近のニュース記事は2018年5月17日掲載の「KAMの記載、株主総会の後ろ倒しや監査役監査報告書に影響も」参照)。KAMとは「Key Audit Matters」の略で(読み方は「カム」)、監査人(公認会計士)が、会計監査において「特に重要と判断した事項」のこと。上場企業の監査報告書にKAMが記載されることで、“ブラックボックス”と評されることの少なくない監査人の判断の過程における情報、具体的には「監査人が、当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項は何か」を知ることができるようになる(監査報告書へのKAMの記載については【特集】長文式監査報告書が企業に与える影響を参照)。

このように、投資家にとっては投資先企業の会計上、場合によってはガバナンス上のリスクを把握し、投資の判断材料ともなり得るKAMだが、金融庁の企業会計審議会(会長 平松 一夫 関西学院大学名誉教授)は(2018年)7月5日に開催された総会で、KAMを導入するための監査基準の改正を決定した(こちらを参照。なお、改訂監査基準上、KAMは「監査上の主要な検討事項」と表現されている)。KAMは、2021年3月決算の財務諸表について監査人(公認会計士)が作成する“金融商品取引法上の(この点については後述)”監査報告書から記載される。KAMの記載は「早期適用」が認められており、金融庁は、特に東証1部上場企業についてはできるだけ2020年3月決算の監査報告書からKAMを記載するよう、東京証券取引所や日本公認会計士協会などに求めるとしている(東証1部上場企業に対するKAMの早期適用要請については2018年5月17日のニュース「KAMの記載、株主総会の後ろ倒しや監査役監査報告書に影響も」を参照)。早期適用を前提とすると、3月決算企業の場合、来期の監査報告書からKAMが記載されることになる。

監査基準 : 監査のルールや監査報告書の体裁を定めた基準のこと。監査人(公認会計士)はこの監査基準に基づき監査を行う。

上場企業としては、KAMの導入に伴って監査への対応がどのように変わるのかが気になるところだが、KAMが導入されることで変わるのは監査報告書の文面であるため、少なくとも建前上は、監査を受ける企業において新たにこれまでと異なる特別な監査対応が必要となるわけではない。これは、KAMの記載に先立ち必要となる「監査におけるリスクの識別」「監査役等との協議」といった監査手続は現行の監査基準においても実施が求められていることからも分かる(監査基準の改訂に先立ち行われたパブリックコメントの募集にあたり寄せられたコメントとそれに対する金融庁の考え方をまとめた「コメントの概要及びコメントに対する考え方」のNo.13を参照)。

とはいえ、実際には企業側でもKAMとして記載する事項や文言のすり合わせのためのスケジュール確保は不可欠となってくるだろう。

また、KAM導入後は、監査人がKAMとして決定すべきものを決定していなかった場合やKAMとして検討したにもかかわらず正当な理由なくこれを監査報告書に記載しなかったようなケースにおいて、KAMとして決定(あるいは記載)すべきであった取引や事実を原因とした不正または誤謬が発覚すれば、監査人は監査基準に準拠していなかったことになり、正当な注意を払って監査を行っていなかったことについて責任を問われる(「コメントの概要及びコメントに対する考え方」のNo.76を参照)。そのため、監査人は監査手続を今まで以上に厳格にすることが予想され、結果として企業側の監査対応負担が重くなる可能性は否定できない。

KAMの記載が求められるのは、上述したとおり、“金融商品取引法上の”監査報告書だけとなる()。パブリックコメントでは、会社法上の監査報告書にもKAMを記載することを求めるコメントが複数寄せられていたが(「コメントの概要及びコメントに対する考え方」のNo.78~81を参照)、「適用当初においては、記載内容についての監査人と企業の調整に一定の時間を要すると想定されることから、現行実務のスケジュールを前提とすれば、会社法上の監査報告書に記載するには課題があるとの指摘があった」ことを踏まえ、当面は金融商品取引法上の監査報告書においてのみKAMの記載を求めることになった。もっとも、企業側(具体的には経営陣や監査役等)とのスケジュールや記載内容の調整さえできれば、会社法上の監査報告書にもKAMを記載することは可能。金融庁も「会社法上の監査報告書においても任意で「監査上の主要な検討事項」を記載することは可能であると考えます」との考え方を示している(上記コメントに対する金融庁の考え方を参照)。投資家との対話を促進するとされる定時株主総会の後ろ倒し開催には踏み切れない上場企業の中には(株主総会の後ろ倒しについては、2017年12月20日のニュース「会社法施行規則改正案が公表、株主総会の後ろ倒しに向けた条件すべて整う」参照)、監査人に対し会社法上の監査報告書にKAMを記載するよう求めることで監査の透明性を高めて投資家との建設的な対話に臨む企業が出てくることも十分に考えられよう。

 上場企業だけでなく、非上場企業であっても金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業(資本金5億円未満または売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除かれる)でも監査報告書にKAMの記載が求められる。

2018/07/18 米国での事業展開に暗雲(会員限定)

多くの日本企業が進出する米国での事業展開の足かせとなりかねない重大な課税問題が生じている。

既に新聞等でも報道されているとおり、トランプ政権は米国の連邦法人税率を35%から21%へと引き下げたところだ。これに伴い、日本企業の米国子会社の実質的な税負担率は、各州の州税を加えても30%未満となるケースが多くなっている。

米国子会社の州税が下がるということは、一見すると日本企業にとって好ましいことのようにも見えるが、そうではない。米国の連邦税率が下がったことで、米国子会社の所得が日本の親会社の所得とみなされ、これが日本の親会社の所得に合算して課税されるリスクが高まっている。

なぜそのようなことになるのか、具体的に説明しよう。

海外に子会社を設立して事業を展開する場合、日本企業(親会社)の経営陣が気にしなければならないのが、「タックスヘイブン対策税制」だ。タックスヘイブン対策税制とは、税率の低い国(タックス・ヘイブン=軽課税国。ヘイブン(Haven)とは「避難所」という意味) に設立した子会社に各種権利の使用料等を支払うことなどにより、日本の親会社の課税所得を圧縮するとともに、(日本の親会社の)利益を軽課税国の子会社に留保するような行為を防ぐため、軽課税国にある子会社の所得を日本の親会社の所得とみなし、これを日本の親会社の所得に合算して課税する仕組み。ただし、海外子会社の税負担割合が20%を超えていれば、基本的にタックスヘイブン税制の対象にはならないことになっている。上述のとおり、今回トランプ政権が設定した米国の連邦法人税率は「21%」であり、各州の州税を加えれば確実に20%を超えるため、米国子会社がタックスヘイブン対策税制の対象外となるケースも多いだろう。

問題は、米国子会社が“ペーパーカンパニー”である場合だ。ペーパーカンパニーは経済実体がなく租税回避に利用されるリスクが高いため、タックスヘイブン対策税制では、同税制の対象外とするハードルを、通常の海外子会社に課している「税負担割合20%超」より10%高い「税負担割合30%超」としている。米国の連邦法人税率引き下げにより、税負担割合は各州の州税を加えても30%未満となるケースが多くなっているため、日本企業が米国に設立したペーパーカンパニーは「税負担割合30%超」というハードルをクリアできず、タックスヘイブン対策税制の対象となる見込みだ。すなわち、ペーパーカンパニーの所得は日本の親会社の所得とみなされ、日本の親会社の所得に合算して課税されることになる。

メーカー、金融、商社、不動産などの業種を問わず、日本企業はビジネス上の理由からかなりの数のペーパーカンパニーを米国に保有している。日本企業が米国で事業を展開するにあたっては、米国企業を含む外国企業と共同でLLCLPSを組成するケースがよく見られるが、この場合、LLCやLPSと日本企業の間に「ペーパーカンパニー」の米国子会社を置くのが一般的となっているからだ。これは、米国では、LLCやLPSが稼いだ所得は通常その出資者に課税が行われる仕組みとなっているため。仮にペーパーカンパニーを置かなければ、日本の親会社が米国で納税手続きを行わなければならなくなってしまう。また、LLCやLPSの債務等に対しては出資者が責任を負うため、ペーパーカンパニーを置かなければ、その責任は日本の親会社が負わなければならないことになる。要するに、ペーパーカンパニーを設置するということは、こうした納税や債務等への責任を遮断する(日本の親会社に及ばないようにする)ことが目的であり、それゆえ、このようなペーパーカンパニーは“ブロッカー・コーポレーション”とも呼ばれる。

LLC : LLCとは「Limited Liability Company」の略であり、直訳すれば「有限責任会社」となる。我が国の会社法における「合同会社」は米国のLLCを模して導入された経緯があることから「日本版LLC」と称されることもあり、逆に本家のLLCを日本語に訳す際には「合同会社」と呼ぶことも多い。LLCへの出資者は出資額の範囲でしか事業上の責任を負わないほか、株式会社と異なり、出資比率に関係なく機関設計や損益配分を行える点が大きなメリット。例えば、特殊技術を有する甲の出資比率10%、資金力のある乙の出資比率が90%であったとしても、甲の方が利益配分を多く受ける(例えば甲70%、乙30%)ことも可能である。一般的には、株式会社に比べやや信用力が落ちる。
LPS : LPSとは「Limited PartnerShip」の略であり、日本語では「投資事業有限責任組合」と呼ばれる。文字通り投資事業を行うための組合であり、「有限責任」というところに特徴がある。投資事業有限責任組合には「無限責任組合員」と「有限責任組合員」の2種類の組合員がおり、前者は組合の債務について無限に責任を負うものの、後者は出資の限度で責任を負えばよいことになっている。

このようなビジネス上の理由でペーパーカンパニーを設立しているにもかかわらず、それがタックスヘイブン対策税制の対象になり、日本の親会社の税負担が増えるというのは企業としては納得できないところだろうが、現行のタックスヘイブン対策税制がそのような仕組みとなっている以上、これを回避するのは困難と言える。このような不合理な状況に配慮して今後制度改正が行われる可能性もなくはないが、当面は米国でのペーパーカンパニー設立には慎重になる必要がありそうだ。